仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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 不眠で正常な判断ができないっす。


ゼロの使い魔の世界2-9

「嘘……」

 

 ルイズは、目を疑った。目の前のオーロラから現れた人間たちに。それは、すでに失われたはずの物だったはず。なのに、どうして彼は、彼女たちはそこにいるのだろうか。もしかして、まだ夢の中にでもいるのだろうか。いや、そのはずはない。その前にオーロラから出てきたこの優男の事なんて知らないし。イルククゥの事も知らなかった。もしかして、それも全部夢なのだろうか。だが、夢でもなんでもいい。なぜなら……。

 

「お父様……お母さま…‥エレオノール姉さま……ちい姉さま……」

 

 もう、二度と会うことのないだろうと思っていた家族と再開することができたのだから。

 

「ルイズ!小さなルイズ!」

「ち、ちい姉さま……」

 

 カトレアは、即座に放心状態のルイズに抱き着いた。あぁ、本物だ。気持ちが暖かくされるにおい、人肌、全部本物だ。間違いない、彼女は間違いなくカトレアだ。姉だ。幻でもなんでもない、彼女はここにいる。

 

「ここは……」

「トリステイン魔法学院……では、ないようだが……」

「さぁ、僕はオーロラを開いただけだから。けど、ルイズという少女のもとに送り届けることができたんだからいいじゃないか」

「とはいえ、あの亜人がいるのは何故?」

「かいつまんで説明するとだな」

 

 エレオノールの言う通り、周りはすでにワームに囲まれている。士は、おそらく彼女たちがワームに襲われた直後から来たものと推測し、簡単に説明する。なお、ワームがその間全く動かなかったことについては突っ込んではならない。

 

「そんなことが……」

「そうか、では君がルイズの……」

「お、お父様……」

 

 怒られる。ルイズはそう思った。確かに使い魔を召喚することができた。しかし、それが動物でも幻獣でもなんでもなく平民の男。普通の男というわけではないのだが、簡単に見ればソレが失敗であるということは明らかだ。だから、ルイズは身構えた。そして……。

 

「ルイズ……」

「は、はい!」

 

 彼の口から出た言葉は……。

 

「よく、頑張ったな」

「え……?」

 

 ルイズが今まで父の口から聞いたことのないねぎらいの、そして自分を褒める言葉だった。

 

「お父様……」

「それより、早くお宝を渡してくれないか?」

「え?」

「君が持っているんだろう?この世界のお宝を」

「お宝って……」

 

 海東と呼ばれた男はそう言った。しかし、自分はお宝どころか何も持っていない。あるとすれば杖ぐらいだが、これをお宝と呼ぶかどうかと言われたら、違うと断言できる。それに、逃げ出すように屋敷から脱出した自分が何かを持ち去るなんて、不可能だったはず。なのに、何故……。自分の目の前にいる父が海東に言った。

 

「いや、お宝はすでに、君の目の前にいる」

「何?」

 

 そうして、公爵は目をつぶり、そして思いのすべてをハッキリとさせるために、目を開き言う。

 

「まず、プライドが高く、負けず嫌いで怒りっぽく、男勝りの所もあるが、いつも私の帰りを待っていてくれる優しき妻、カリーヌ・デジレ・ド・マイヤール」

「……」

「勤勉で、妹を思う気持ちを人一倍持ち、それでいて臆病な一面も持っている長女、エレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロウ・ド・ラ・ヴァリエール」

「お父様……」

「病弱で家の外に出ることがあまりできないが、その代わり誰にでも心優しく、いつも笑顔を絶やさずに接し、誰よりも優しい気持ちを持ち家を和ましてくれる次女、カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌ」

「……」

「そして……」

「え?」

 

 公爵は、ルイズの頭に手を置いた。

 

「魔法は使えないが、誰よりも負けず嫌いで、勤勉で、優しい心を内に持ち、夢のために誰よりも努力をして、誰よりも貴族であろうとする三女、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール」

「お父様……」

「これが、私の宝物だ。……これを、君にやることはできん」

「……」

 

 海東は、その答えに残念そうに顔を背けた。そして言う。

 

「いいセリフだ。感動的だな……だが、悪くない」

 

 その顔には、うっすらと笑みが見えているような気がした。一方のルイズは、混乱していた。父が、ヴァリエール公爵が自分の事を褒めたのだ。自分の事を宝物と言ってくれたのだ。だが、ありえない事だ。あんなに厳しい父が、いつも失敗ばかりして、怒られ続けてきた自分を褒めるだなんてこと、ありえない事だった。夢だ。こんなの、やはり夢以外の何物でもない。でも、夢でもなんでもよかった。夢なら、せめて夢なら……。

 

「夢なら……覚めないで……」

 

 彼女にとって不運だったのは、その言葉をある人物に聞かれていたことである。感慨に慕っていた彼女はしかし、突如頬の痛みに襲われる。

 

「い、痛ッ!」

「夢じゃないわよ!」

「へ、へれほのーるへえはま!!」

 

 頬を引っ張られているため、上手くしゃべることができないが、一応エレオノール姉さまと言っているつもりである。

 

「どう?これでもまだ夢だとか言うつもり?」

「い、いいはへん!いいはへんから!」

 

 言いません。言いませんから。とルイズは言っている。そして、エレオノールはルイズの頬から手を離す。確かに、これは夢じゃないようだ。痛みもそうだが、この理不尽な性格はまさしく姉のものだ。

 

「エレオノール姉さま、もう厳しく接する必要はないのでは?」

「え?」

「そうかもしれないけど、これはもう癖のようになってるから反射的に……ね」

「ちい姉さま……エレオノール姉さま……それってどういう‥…」

 

 もう厳しく接する必要はない、とはどういうことだろう。ルイズは、やはり頭が混乱してならなかった。その答えを教えてくれたのは、ほかならぬ公爵だった。

 

「ルイズ、私とカリーヌ、それとエレオノールがお前に厳しく接していたのは、実は演技だったのだ」

「それって、どういう……」

「分からないか?」

「え?」

 

 そう言ったのは士である。

 

「おそらくお前の家族は、発破をかけるためにわざときつく接していたんだろう。お前が反骨心を持っているということ、そして努力家だっていうことを利用するために」

「そんな……それじゃ、今までの全部……」

「あぁ、全て嘘だ」

「いえ、私は半分本気でしたが?」

「同じく。少しきつく当たりすぎたと思うときはありましたけれど」

「むっ……」

 

 公爵は、二人のその意見に少し顔をしかめた。

 

「でも、少なくとも完全に嫌っているわけじゃないわ。ルイズ……」

「母様……」

 

 ルイズは安心した。自分は完全に嫌われていたわけじゃなかった。自分は、カトレア以外の家族に嫌われていると思っていた。だがそうではなかった。家族は、自分の事を見捨てたわけじゃなかった。むしろ、自分に期待していた。いつの日にか、自分が魔法を使えるようになるその日がくる。その日が来ることをあきらめていなかったのは、自分だけじゃなかったのだ。よかった、今まで、頑張ってきてよかった。だが、ここにきて一つの疑問が生まれた。

 

「でも、だったらどうしてワームは……」

 

 そう、ワームは記憶も体の構造も、性格も全てコピーすると聞いた。では、カトレアはともかくとして、他の三人の心の内までコピーしていたというのなら、どうして彼らは屋敷で自分にきつく当たっていたというのだろう。その答えは、士が知っていた。

 

「簡単なことだ」

「え?」

「カレーと同じだ」

「カレー?」

「あぁ、昨日のカレー普通のカレーだと思ったら激辛カレーだった。お前びっくりしたと言ったな。普通の辛さと思ったら、激辛だったと……」

「え、えぇそうよ」

「それと同じだ。もしも、突然性格が変わってしまったら驚かれ、不審がられてしまう。もしかしたらいずれは自分たちが入れ替わっているということに気が付かれてしまうかもしれない。それを避けるために、本当の自分を隠した状態の性格でお前に接していたんだろう」

「あっ……」

 

 もしも、厳しかったはずの両親や姉が突然優しくなったらどう思うだろうか。きっと動揺し、混乱し、何が何だか分からなくなるだろう。先ほどのように。

 

「いくら他人の事を知っているつもりだったとしても、他人の事を正確に知ることには限界がある。たとえ、それが家族だったとしてもな。だからこそよく話、そして理解し合うことが大切であり、そこから全てが始まる」

「士……」

 

 友達とて他人である。親友とて他人である。家族とて他人である。自分の考えを他人が知っているとは思わない方がいい。誰かの気持ちを勝手に想像して、その人物の人物像を作らない方がいい。痛いしっぺ返しをくらうこともある。だからこそ、話さなければ理解することができないのだ。それが、不完全な人間という生き物だから。人間はどこまで進化しようとも不完全な動物だ。だからこそ、話し合い、理解しようとする心が大切なのだ。だから我々は、人間であり続けることができるのだ。

 

「俺と海東も、すれ違って喧嘩したことがある」

「あぁ、あの時は本当に酷い物だった」

「だが、俺たちはあいつらに教えられた……理解することは、面と向き合って話し合うことから始まるってな……」

「あいつら?」

「そうだ。そいつの……ミラクルライトを手に入れた世界での話だ」

「ミラクル……ライト……」

 

 ルイズは、ポケットの中で光り輝いているソレを、ミラクルライトを取り出す。眩く光るソレを見ていると、何だか心が満たされるようだ。そして……え?

 

「さて、お宝を手に入れられないのは残念だけれど、彼女達がお宝だというのならそれを守らないとね」

「だな」

 

 士、海東、そしてユウスケは並び立つ。

 

「私たちも彼らには借りがある」

「この国に……そして陛下に手を出させるわけにはいかない」

「行くわよ、ルイズ」

 

 カリーヌとアニエス、そしてキュルケがそう言った。そして夏海とシエスタ、テファ以外のメンバーも並び立った。これで、役者はそろった。この世界最後の戦いが、今……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「待って……」

「なに?」

「違う……何かが、違う……」

 

 役者はそろった?本当に?いや、今ルイズの頭に誰かが映った。誰だ?あの男は、誰だ?あいつは、あの男は……。

 

「あいつが……いない」




 次回、どうなる?何がって、おそらく次と次の回はこのゼロの使い魔の世界一番の見せ場が続きます。その衝撃をどう皆様にお届けできるか。それが問題だ。

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