仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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ゼロの使い魔の世界2-3

 彼女は夢を見ていた。

 

『ここ……どこ?』

 

 後ろには城のように建てられた一つの建物。周りにはマントを羽織って、そして様々な動物に話しかけている見たことのあるような子供達。それに今、キュルケが呼び出したのは、サラマンダーだ。間違いない、ここは……。

 

『あの日……使い魔召喚の日だわ……』

 

 そして、彼女は周囲からひときわ目線を受けている一人の少女を見つけた。自分だ。

 

「宇宙の果てのどこかにいる。私の僕よ!!」

 

 そう、このセリフ。覚えている。普通の呪文をかなり変えた、自分なりの呪文。独自性があるとかないとか言われていた、私のオリジナルの呪文。

 

『神聖で、美しく』

「神聖で!美しく!」

『そして強力な使い魔よ』

「そして強力な使い魔よ!!」

 

 士を呼び出した時と同じ呪文を、彼女もまたそこにいる自分の言葉を輪唱するように口ずさむ。だが、この時の結果なんてとうの昔に知っている。

 

『私は心より求め訴えるわ』

「私は心より求め!訴えるわ!」

「『我が導きに答えなさい』!!」

 

 あぁ、そして大爆発が起こった。周囲の人間が吹き飛んで、しかし何人かは地面にしがみついて爆風に飛ばされないようにしている。なんでこんな夢を見てしまったのだろうか。こんな、史上最悪の日の記憶を……なんで。

 

『え?』

 

 その時、彼女は見た。「自分」の目の前に倒れているナニカを。

 

『嘘でしょ、なんで?』

 

 どうして、確かあの時は何も出てこなかったはず。だから、自分はあんな目にあったのだから。だが、確実に何かいる。服装は、どう見ても学院の制服ではない。青い服が見える。ということは、あれは……ヒト?いや、自分は知っている。彼の事を。彼の名前を。だが、どうしても思い出すことなんてできなかった。彼の名前、名前、名前は……。

 

『あなた……誰?』

 

 その瞬間、光が彼女を包み込んだ。

 

「ッ!!……夢?」

 

 あれは、何だったのだろう。夢なんかよりももっとリアリティがあった。第一、もし夢であったのなら、自分の呼び出した使い魔は、あんなヒトなどでなく、竜等のもっと強そうなものにする。大体ヒトを使い魔にするなんて、聞いたことも見たこともない。

 だが、とりあえず今はそのことについておいておこう。問題は、ここがどこなのかだ。ルイズは周りを見てみる。木工造りの平民の家らしき場所。そこにあるベッドの上で寝かされていたようだ。周囲に置いてある家具は、質素ながらもしかし、デザイン的にその場の雰囲気に合っている物が置かれている。ここは一体どこなのだろう。少なくとも、実家の屋敷の中というわけではないのは確かだ。もしもあれが、現実だったらの話だが。その時、ドアが開かれた。現れたのは、一人の金髪の女性、そしてその後ろからもう一人女性が入ってくる。その手に桶らしきものを持っていた。後から入ってきた女性は言う。

 

「よかった……目が覚めたんだ」

「ここは?」

「ここは、光写真館と申します。ルイズ嬢」

「ヒカリシャシンカン?」

 

 長髪の女性の言葉、無論これにはルイズの聞き覚えのない言葉である。無理もない。この世界観に写真なんてものが存在するはずがないからだ。写真がなければ写真館などという物必要ない。だから、ルイズの疑問はさらに深まってしまった。長髪の女性は言う。

 

「えぇ、士先生があなたをここまで連れてきたのです」

「士が……そう」

「申し遅れました。私は雪広あやかと申します」

「私は椎名桜子、よろしくね!」

「そう……でも悪いわね。あなたたちに払うお金はないわ」

「お金なんて、私たちはそんなものもらおうと思って、こんなことをしているわけではありません」

「そう……そうよね、憐みよね。じゃなかったら私なんかに……」

 

 どこまでもネガティブに物事を考えてしまうルイズは、彼女たちの優しさすらも自分に対する憐みであるととらえてしまう。あやか、桜子の二人は彼女にどう接すればいいのか分からなかった。麻帆良3-Aのクラスには、ここまでネガティブキャラの人間はいなかったというのもあるし、自分達にはそのようなフォロースキルなんてないと知っていた。どうすれば、彼女の元気が戻るだろうか。いや、自分たちは元々の彼女の事をよく知らない。だから、元に戻すと言っても……その時、もう一人その部屋に入ってきた。

 

「は~い、ルイズ」

「キュルケ……」

 

 明るく登場したのは、学院時代の悪友のキュルケだ。彼女に会うのも、久しぶりとなる。いや、先ほど気絶する前に一度会っていただろうか。こんがらがってしまい、よく思い出せない。

 

「何よ……あんたも私を蔑みに来たの?」

「そうよ」

「えッ!?」

 

 キュルケのそのあんまりにもあんまりな言葉に、あやかと桜子の二人は驚く。そしてキュルケは続ける。

 

「久しぶりに会ったってのに身長も、胸の大きさも変わらないあなたを笑いに来たのよ」

「なっ!」

 

 その言葉に驚いた、というかむかついたのはルイズである。確かに、自分はグラマーであるキュルケに比べればスマートな体型だ、だがそれを今言わなくてもいいではないか。

 

「ほんとあなたは才能ゼロ、胸もゼロ、努力家なのは認めるけど他がそのままだなんてね」

「む、胸は余計でしょ!才能は……ともかく」

「あらなに?私の胸を見て羨ましいの?」

「なっ!誰が羨ましいものですか!大体、そんなのただの脂肪の固まりじゃないの!!」

「それでも、ほらこの谷間を見せれば大抵の男はいちころよ……まぁ貴方のその胸なしペッタンコな体型を好むゲテモノ食いもいるかもしれないけどね」

「なっ……わ、私だってその気になれば大きくなるわ!!」

「ふ~ん、だったら今すぐなって見なさいよ。私よりも大きくなったなら土下座してやってもいいわよ」

「や、い、いつかはなってやるわよ!!あんたを絶対見返してやるわ!!!!」

 

 今、自分たちは何を見せられているのだろうかと一歩引いていた二人は思っていた。だが、何故だかその様子が少し懐かしく見えてくる。なんだか、極々身近でこの様子を見ていたような。聞くところによると、二人は学院時代からの悪友で、ことあるごとに喧嘩していたらしい。と、ここで桜子があることに気が付いた。

 

「あっ、そっか……」

「え?」

「この光景、どこかで見たことあるなと思ったら……いいんちょとアスナだ」

「私と……アスナさん?」

「うん、ほら八年前も……」

 

 あれは今から八年前の事、麻帆良学園都市にある小学校に一人の女の子が転校してきた。それが、神楽坂アスナだ。アスナと、当時も委員長をしていたあやかは、転校初日から喧嘩して、それからも事あるごとにお互いの趣味をけなし合ったり、テストや運動会で妨害し合ったりと、犬猿の仲にあった。いや、それはお互いがお互いの事を好きだからと、今のあやかは思っていた。同じクラスにいた桜子は、そのことに当時から気が付いていたが。

 ある日の事、あやかの母親が、あやかの弟になるはずだった子供を流産してしまった。性別を確認することができるのは早くても妊娠十六週ごろ、確認がしやすいのは妊娠二十四週前後だと言われているため、妊娠四ヶ月以降の事だったのは間違いない。弟ができる事を楽しみにしていたあやかは、ひどく落ち込み、弟のために作られた子供部屋で、一緒に遊ぶはずだったおもちゃに囲まれて、泣き明かしていた。あの時のあやかは、今のルイズであったと言える。そんなあやかの心を救ったのは、やはり悪友のアスナだった。アスナの飛び蹴りから始まった追いかけっこ、そして言い争いをしている間にいつの間にか弟を失った悲しみはどこかに吹き飛んでいた。今考えれば、あれはアスナなりに自分を励ましてくれていたのだろう。それからも弟の命日には、彼女は自分に色々なことをしてくれた。あの事があったからこそ、彼女とあやかは一生の親友となることができた。

 今も言い争いをしているキュルケとルイズの関係もそれと同じなのかもしれない。キュルケが言うには、ルイズの家とキュルケの家はかなり昔から事あるごとに争っていて、国境を挟んでいるとはいえ実家が近くにあったこともあって、幼い頃から面識があって、よく喧嘩していたとか。だから、キュルケは知っていたのかもしれない。ルイズの、誰も知らないような心の内までも、努力家であるという一面も。

 

「そう……そうですわね。確かに、一緒かもしれません」

「うん、きっとそうだよ」

 

 しみじみと思う二人だが、段々とエスカレートし、双方頬の引っ張り合いをしている二人の喧嘩をもうそろそろ止めないといけないということに気が付き、取りあえず落ち着くように促した。そして、ようやく止まったルイズは、少々乱れた服を整えてから言う。

 

「で、士はどうしたの?」

「あぁ、士先生は……」

「ん?」

 

 一方そのころ一階にいる士はというと……。

 

「……」

「……」

 

 なぜか正座させられていた。夏海の目の前で。

 

「やきもちを焼くな焼きミカン」

「夏ミカン、じゃない夏海です。私は、キスしたことについては、問題にしてないんです。それが、使い魔の契約のためだったんなら仕方ありませんし」

「でも、どうしてこういう契約はキス何でしょうかね?」

「うん、僕達の世界でも契約するときはキスが一般的だったらしいし」

 

 彼女たちの言う通り、麻帆良組の元々の世界での魔法使いとミニステル・マギとの契約の際は、口づけをしなければならない、とあやかが持ってきていた本に書いてあった。彼女達の場合その過程を士によってすっ飛ばされたのだが、いったいなぜそのような時にはキスがステータスとなっているのだろうか。

 

「大方、モテないエロオヤジの妄想だろ」

「士君、話を脱線させようとしないでください」

「で?お前は何を怒っているんだ?」

「……士君、さっきなんて言いましたか?」

「さっき?」

「ルイズちゃんとの契約の時のことを話していたときです」

「……」

 

 そして、士は思い出す。確かあの時は……。

 

『あいつ、突然俺に契約のためだとかでキスしてきやがった。あいつは、ファーストキスだとか言っていたがな』

『それで口づけでキスしたんですか!?』

『先生先生、女の子のファーストキスを奪ってどういう気持ち?ねぇどういう気持ち?』

『ん?……別に?』

 

 と、言うのが先ほどまでの会話だ。因みに、キスについて聞いてきたのは鳴滝姉妹である。別段問題のあるセリフはないようだが……。

 

「これの何がダメだと言うんだ?」

「士君!女の子にとってファーストキスは特別な物なんです!それを『別に?』って何ですか!」

「なんでその程度の事で怒られなくちゃならないんだ……」

「……風香ちゃん、史伽ちゃん」

「「はい!」」

 

 我慢しきれなくなった夏海に呼ばれた二人は椅子から立ち上がり、親指を立てながら士に近づく。士は、この後どんなことになるのかに思い当たってしまった。

 

「お、おいまさか……」

『光家秘伝!』

『『夏海姉直伝!!』』

「やめろ!」

「「「笑いのツボ!!!」」」

「ぐっ!……アッハハハハハハ!!!わ、笑い殺すつもりか!アハハハ!!!」

 

 首筋に刺された三本の指。どういう理屈なのかはいまだに不明であるが、それによって士の笑いは何倍にもなって大きくなり、窒息してしまうのではないかと思うほどの笑いが士を襲う。

 

「フン!女の敵は死んだほうがいいです!」

「です!」

「ハハハハ!!!!」

 

 その様子は、傍目から見たら奇妙な光景に思える。実際、ティファニアはそれを楽しそうに見ているが、隣にいるマチルダは若干引いている。因みに、今の所一階にいるのは士達四人とティファニアとマチルダの他には台所にいる栄次郎ぐらいだった。二階にはあやかと桜子、そしてルイズ、キュルケの四人。では、他のアンリエッタ、ユウスケといった面々はどこにいるのだろうか。




 別に私は士とルイズのキスに対して制裁をしようとは思っていませんでしたが、感想欄にてそれを楽しみにしている人がいらっしゃったので、こうなりました。

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