仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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 アレンジを加えながらの以前にも拝借したある漫画のセリフ丸パクリ状態。信長はいいことを言う(創作上のだけれど)。
 そういえば、以前ハルケギニアの事を『世界』って言ったけど、よく調べればハルケギニアは『大陸』でした。では、この世界の名前は……?修正しておきます。


ゼロの使い魔の世界2-2

「償ってください……皆に……死んで償ってください!!」

「くっ!」

「まずいな……」

 

 シエスタは、その憎しみを込めた包丁で、今にもアンリエッタの事を刺そうとしている。だが、そんなことをさせるわけにはいかなかった。もしも、彼女がアンリエッタを刺したら、今マチルダの背中で寝ているルイズが悲しむ事必至だ。だが、どう止めるというのだ。いま彼女を支配している感情は憎しみと悲しみ、それにどう立ち向かえばいいのだろうか。何より、どんな言葉を投げかけたとしても、それは綺麗事。本当に彼女を止めるには、どうすればいいのだ。その時、二人の間に割って入る者がいた。

 

「ッ!」

「アニエス……」

 

 アニエスだ。彼女は、先ほどの戦いで自分の剣を折られ丸腰の状態。で、あるというのに、彼女はぶれるように動くシエスタの包丁の向かう先に立ち入った。

 

「どいてくださいッ!」

「……今のお前に何を言っても無駄だろう。だから、二つだけ忠告しておこう」

「二つ?」

「一つ目。私は陛下の騎士だ。だから、お前にどんな事情があるにせよ、陛下の命を狙う者をみすみす見逃すことなどできない」

「ッ!」

「そして、二つ目……これは、経験者の言葉だ。復讐をするなら、それなりの覚悟があるのだろうな」

「え?」

「経験者?」

 

 経験者、それはどういうことだろうか。周りにいる全員が、次に彼女の口から出るだろう言葉を待っていた。そして、アニエスは言う。

 

「私は……ダングルテールの村の生き残りだ」

「え……」

「へぇ、あの子が……」

「ダングルテール?」

 

 無論、その村の事を士達は知らない。だが、シエスタやマチルダの顔をみるに、何かしらの出来事があったとうかがえる。アニエスは言う。

 

「今から二十年前、ダングテールという村が疫病の被害を防ぐためという名目で焼き払われた。だが、それはあくまで建前……本当は、村に逃げ込んだロマリアの新教徒を殺すための虐殺だった」

「なっ……」

「私は、その事件で仲間も、友人も……家族も失った。そして、つい先日……そのダングテールを焼き払った者共……その隊長だった男に会った。奴は……トリスイテイン魔法学院で教師をしていた」

「えッ!?」

「……」

 

 その言葉に、タバサは表情を変えなかったが、キュルケは大いに驚いた。まさか、自分が少し前まで通っていた学校にそんな人物がいたなど、寝耳に水だったからだ。そして、それは学院で働いていたマチルダとシエスタも同じこと。

 

「笑ってしまうだろう。何の罪もない人間を殺すような冷徹な人間が、学院で貴族を相手に教鞭を取っているのだからな……」

「……」

「私は、奴を殺した……だが、彼もまたそれを受け入れていた。いつか、自分を殺しに来る人間がいるだろうと、思っていたんだろう……私は、今まで多くの人間を斬り、殺してきた。だが、それもすべて陛下の……そしてトリステインのためだった。私怨で人を殺したのは初めてだった。その時の感覚は……たぶん、二度と忘れない。私は、そいつを殺すことだけを考えて今まで生きてきた。そして、それを成した今、私にあるのは、陛下だけ……。陛下の命を守るという使命だけが残った」

「アニエス……」

「……お前に、残る物はあるのか?」

「ッ……!」

「お前は……多分、人間の命を奪ったことはないのだろう。その腕の振るえを見れば分かる。ここで、私と陛下を殺した後、お前には何が残る?お前には、人を殺したという命の重みがのしかかるだろう。のしかかり、それはお前自身の中にいつまでも残る。その手に二度と拭えることのない赤い罪を塗る覚悟、お前にはあるのか?」

 

 シエスタは、何も答えない。答えられない。アニエスの言う通りだから。

 

「私は……」

 

 自分には、自分の居場所は。

 

「……私にはもう!もとから何もないんです!」

 

 どこにもなかったから。

 

「帰る家も!仕事場も!私の事を迎えてくれる家族の笑顔も!全部!……私に罪がのしかかるというのなら……私はその罪を抱えたままこの場所で死にます!」

「ルイズの事はどうなる?」

「ッ!?」

 

 自分には何もない。そう言った彼女の言葉に、士は間髪入れずにそう言った。

 

「お前の仕事は、ルイズの世話じゃなかったのか?……それは、ルイズがあの屋敷を出ても同じこと。お前の仕事場は……帰る場所は、ルイズの側にあるんじゃないのか?」

「それは……それ、は……」

「俺にルイズの事を見捨てるなと言っておきながら、お前はあいつを見捨てるのか?」

「……」

 

 シエスタは何も言えなくなってしまう。確かにそう言われてしまえば、自分には帰る場所がある。いや、あった。ここで、アンリエッタと刺し違えることは簡単だ。だが、それは主人のルイズが、もはや運命共同体となってしまっているルイズが悲しんでしまう。そして、自分は屋敷で確かに士に言った。ルイズを見捨てないでくれと。自分の言葉すら守れないのであれば、それは……。

 士に自分が確かに言った言葉を逆に言われてしまうと、彼女の復讐心は、少し下火になってしまう。だが、止まることなどできなかった。止まれなかった。一度火がついてしまったその灯台の炎を消すことは並大抵の事じゃない。もう、自分自身で消すこともできなくなっていた。第一、ここで包丁を降ろしたとしても、王族のアンリエッタに歯向かった自分に待っているのは処刑台。もう、彼女に後戻りするという選択肢は残っていなかった。シエスタは、どうすることもできない現状に目が眩み、女の子座りで座り込んでしまう。包丁をアンリエッタに向けたまま。

 

「アニエス、退きなさい」

「陛下?」

 

 アニエスは、アンリエッタのその言葉にすぐに横に退いた。そして、アンリエッタはシエスタの前に立つと、座り、そして包丁の柄を持って、ある場所にそれを持っていく。それは、自身の心臓の上であった。

 

「え?」

「陛下!」

「アニエス、もしこのままシエスタの剣が、私の心臓を貫いたとしても、決してシエスタを罰してはなりません」

「なッ……」

「姫、様……」

「シエスタ、あなたが私を殺したいというのならこのまま私を刺し殺しなさい。貴方のその罪を罰する人間はいません」

 

 アンリエッタのその行動、そしてその言動に、シエスタは頭が混乱してよくわからなくなってしまう。そもそも、自分が持っているのはただの包丁。それを剣と呼ぶのだろうか。いや、確かに剣だ。今自分がその包丁が少しでも前に進めば、彼女の命なんてすぐに奪うことができる。命を奪う刃物、それを剣と言わずになんというだろうか。アンリエッタは言う。

 

「シエスタ、私もアニエスの村を焼いた者と同じ気持ちなのかもしれません……」

「え?」

「陛下……」

「私は、許しを乞うつもりも、許してもらえるとも思っていません。だから、いつかこの戦争で亡くなった方の遺族に殺されるかもしれないということを、ずっと考えていました。当然です……もしも、私がゲルマニアの方と結婚していれば、ここまで国民が嘆き苦しむことはなかったのですから……」

「……」

「……私も、タルブの村で最後まで戦って、そして死のうと思っていました」

「え?」

「でも、できなかった。タルブの村の村長に言われたんです。『貴族として最後まで戦うというのは、立派なことだ。だが、貴方は総大将だ。総大将は、逃げねばならない。ただの一貴族として武勇を誇り、華々しく散ることは許されない。死ぬよりも過酷な敗戦の恥辱を一身に受け、自らの命により死した者たちの骸を踏みつけてなお、逃げねばならない』……と」

「……だから、逃げたんですか?」

「はい」

 

 アンリエッタは、その質問に即答する。自分は逃げたのだと。はっきりと言った。

 

「……」

「私は、とっくの昔に死ぬ覚悟……いえ、本来ならばもう死んでたはずの人間です。この戦争の犠牲者への弔いに、そしてあなたの心を救うことになるのでしたら、喜んでこの命を貴方達に差し上げます」

「ッ!」

 

 アンリエッタは、その言葉を笑顔で言った。

 

「さぁ、殺しなさいシエスタ」

 

 そして彼女は目をつぶった。

 

「あ……あぁ……」

 

 あと少し、この剣をあともう少しだけ動かせば、彼女を殺すことができる。もう少し、もう少しだけ。

 

「ッ!」

 

 極わずかだが、包丁が進んだ。その瞬間、アンリエッタは唇をかみしめ、痛みに耐える表情をする。アニエスは、動こうとしなかった。あともうちょっとで、仇を取ることができる。あともうちょっとで、償わせることができる。それは、罪に苦しんでいるアンリエッタを救うことにもなるのではないだろうか。だが、ここまで潔いアンリエッタを殺すこと、それが本当に正しいのだろうか。

 少しだけ刺した部分から出た血が、ドレスに小さなシミを付ける。このままの状態は、アンリエッタの苦痛が長引くだけ、それはアンリエッタにとっても酷なことだろう。このまま楽にして挙げたほうがいいのかもしれない。だが……シエスタは、生涯において最も残酷な勇気を出してみることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 見逃す、という勇気を。シエスタは、包丁から手を離す。すると、先端だけが刺さった包丁はアンリエッタの身体から抜け、簡単に地面に落ちてしまう。そして、彼女はひたすらに泣いた。泣いて、全てを洗い流したかった。復讐ができなかったという事実を、そして、こんな選択しかできなかった自分の度胸を……。そんなシエスタを、アンリエッタは優しく抱擁する。周囲の人間に、シエスタを慰めるなんてこと、まだできなかった。




 当初の予定では、シエスタにアンリエッタを殺させるor士たちに止められ、シエスタが包丁で喉の突き自殺する。ということを考えてました。自分には、復讐を止める権利も方法もあまり浮かばないから。だから、あえてアニエスに復讐させて、復讐を完遂させた者として、彼女に、そして復讐の対象になったアンリエッタに止めてもらいました。
 綺麗事だ、復讐させてやれ、そんな言葉が私の耳の中に反響して聞こえます。けど、命が一つでも多く助かるのなら、(私の思う)正しい笑顔が溢れるためなら、私は甘んじて全ての批判を受け入れます。

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