仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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 回収は先になりますし偶然ですが、ゼロの使い魔のopのひとつがが図らずも伏線のひとつになっていたことに、驚きと共に運命を感じました。(ワンフレーズ被ってるだけで伏線言うな)
 実はさっさと回収したい。のだが、回収したら燃え尽きる可能性も…。


ゼロの使い魔の世界1-9

 屋敷のとある暗い場所、そこにはヴァリエール家の長女エレオノールと、次女カトレア、そしてルイズの母親でありラ・ヴァリエール公爵夫人のカリーヌ・デジレ・ド・マイヤールがいた。三人は、その部屋の中央に存在する球形の機械を中心に座っている。初めに、カリーヌは言う。

 

「それで、あの子の様子は?」

「いつもと同じ、今日も使い魔を召喚しようとして失敗させたみたいよ」

「ご苦労なことね、使い魔を召喚するのは無理なことなのに」

 

 エレオノールの報告に対してカリーヌは一笑してそう言った。その顔はどう見繕ったとしても母親の顔に見えるはずもなかった。エレオノールは言う。

 

「ねぇ、もうそろそろいいんじゃないかしら?」

「そうね、これ以上あの子を苦しめるのも可愛そうだし、楽にしてあげたほうがいいかもしれないわね」

 

 これは、親子の会話なのだろうか。いや違う。断じて違う。自分の娘を殺すか殺さないかの会議をするなど、そんなの親兄弟のするものではない。カトレアは言った。

 

「待ってください!それは、いくらなんでも……」

「カトレア、貴方がいくらカトレアであっても、もうそろそろ理解してあげたら?」

「理解……?」

「えぇ、本当ならあの日殺すはずだったあの子を、命を奪うのはかわいそうだからと言って、わざわざ家にまで連れてきて飼い殺しにしている。それ自体があの子にとってかわいそうなことだと理解できないの?」

「それは……」

「今のルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールにとって、貴族としての誇りを失っている今、死よりも重い苦しみを味わっていると言えるわ」

「……」

「あの子をこのままずっと飼い殺しにする事、それが無慈悲なことだと、貴方も気が付きなさい」

「……」

 

 気づいていた。毎日、ルイズに会うたびに気づかされてはいた。死んだようにうつろな目、ご飯もあまり進んで食べようとはせず、今にも衰弱死するかのようにゆらゆらと立ち上がり、いじめられ、それで夜中にひっそりとすすり泣く声も聞いている。これ以上、あの少女を生きらせて、本当にいいのだろうか。カトレアは、思う。カトレアだったらどうしただろうと。いや、考えるまでもないルイズを、自分のたった一人の妹を助けたい。

 

「だったらカトレア、貴方が息の根を止めてあげたら?」

「え?」

「そうね、私たちの中で唯一心を許しているあなたに殺されるなら、フフッ……始祖様の元に安心して行けるかもしれないわよ」

 

 カリーヌは、『始祖』という言葉を嘲け笑う様に言う。まるで、始祖という言葉を馬鹿にしているかのようだ。

 

「でも……けど……」

「ついでにそうね、待女も必要だから、シエスタって子も殺してあげたら?どうせあの子には帰る場所なんてないのだし」

「それにあの人も今頃帰路についている、あなたが躊躇ったとしても無駄なことなのよ。腹を括りなさい、カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌ」

「……」

 

 カトレアは、その言葉に手を握りしめた。それは、手の平に指の後が残るほどだった。そこに込められたのは、怒りだったか、悲しみだったか、これまでは分からなかったが、今は分かった。

 

 

 

「皆さん、ご飯ですよ」

 

 シエスタのその声で物の影にいた犬やネコ、ヤギ等の小型の動物がそこに現れた。この部屋は台所のすぐ隣にある部屋であり、人が来ることはまずない倉庫のような場所だ。彼らは、シエスタの出したドックフードのような食べ物へと食いつく。

 

「いっぱい食べてくださいね」

「この家は、こんなにたくさんの動物を飼っているのか?」

「元々はカトレアお嬢様が飼っていたんですけれどね、ここ最近は私とルイズお嬢様以外には懐かなくなって、わたしがお世話してるんです」

「ほぅ……」

 

 最近懐かなくなったと言っても、このような倉庫のような部屋に動物たちを置いているのはどうなのか、まるで隔離でもしているようだ。カトレアは、アニマルセラピーのために動物と一緒に住んでいるようなものであるならば、それと隔離して暮らして、それで平気なのだろうか。

 

「シエスタ、カトレアに変わりはないのか?」

「ありません……むしろこの子たちと離れてから元気になったというか……」

「……そうか」

 

 アレルギーでもあったというのだろうか。いや、その前は体調が悪かったのが、動物と一緒に暮らしてかなり良くなったというのなら、やはりアニマルセラピーが効いていたはずだ。ならば、今は何だ。まるで……。

 

「士さん」

「ん?」

 

 考えがまとまる前に、シエスタが士に話しかける。

 

「ルイズお嬢様の事を、見捨てたりするのはだめですからね」

「何故、俺が見捨てると思う?」

「いつもそうでしたから」

「いつも?」

「はい……ルイズお嬢様は、学院にいるときも、家に帰ってからも、誰からも期待されず、いつかはできると励ましてくれていた人たちも離れていって……あの方には、もう私しかいないんです」

「……」

 

 シエスタの言い分は、若干外れていたりするのだがそれにしても貴族というのも案外世知辛い世界観なのだと思う。一つのことができないだけで切り捨てて、いや、もしかすると期待値が大きすぎるためにそうなっていたのかもしれない。だが、流石にここまで村八分にされては、ルイズがかわいそうである。そういえば。

 

「シエスタ、お前はどうしてそこまでルイズを信頼する?ただルイズに雇われたからというだけじゃないだろ?」

「…あれは、もう一年も前の事です」

 

 当時、シエスタはルイズの通っていた魔法学院に平民のメイドとして働いていた。その時は、ルイズとシエスタには何ら関係性もなかった。あったとすれば、春の使い魔召喚の次の日のことだ。授業に出ていると思いシーツを回収するために部屋に入ると、まだルイズがいた。机に向かってペンを持っていたのでたぶん勉強中、いやノートを広げていないところを見ると勉強を始める前だったのだろう。シエスタは背筋が凍るほどだった。ノックもせずに部屋に入るなどという不敬に当たる行為、普通の貴族だったらよくて自分はクビに、悪ければその場で打ち首にされてもおかしくないからだ。どちらにしてもクビが関連しているな、などと変なこと考える余裕なんてなかった。ともかく、自分が悪いのだからどうなってもしょうがないと諦め、故郷の家族を思いながら次の言葉を待った。すると、ルイズから出たのは。

 

『何か用?』

 

 という言葉だった。シエスタは、シーツを取りに来たとしどろもどろに言うと。

 

『そう、ありがとう。ちょっと濡れているけどごめんなさいね』

 

 そして、シエスタはシーツを取ると、すぐさまそそくさと逃げるようにルイズの部屋を出た。これが、ルイズとシエスタの最初の出会いだった。

 そして、次に二人が関係を持ったのはそれから間もなくのことだった。シエスタが、ジュール・ド・モット伯の屋敷で雇われることになった。シエスタは、それにまるで人生が終わったかのように落ち込んだ。モット伯は王宮の勅使としてトリステイン魔法学院を訪れては、平民の若くて美しい女の子に目を付けると、即座に自分の屋敷へと買い入れて、夜の相手をさせているらしい。正直に言えば、嫌だ。だが、平民である自分に拒否権などあるわけなかった。それに、その時になれば、嫌な顔一つすることなんてできない。もし相手の機嫌を損ねてしまったら、故郷にいる家族に迷惑がかかる。シエスタは、無情な決意をするしかなかった。

 だが、そんなシエスタに救世主が現れた。ルイズだ。ルイズが、モット伯の何倍ものお金を提示してシエスタを買ったのだ。同じ貴族でもヴァリエール家の力はすさまじく、強引なそのルイズの手段にもモット伯は退くしかなかった。以後、シエスタはルイズの専属メイドとして、ルイズが学院を追い出されて家に帰った後も、自分の帰る場所が無くなったこともあってこのヴァリエール家の屋敷に勤めているのだ。実は、シエスタがルイズからは皆離れていったと言ったが、この時点において、そして今に至っても学院のメイドやコックといった平民は、ルイズに感謝し、そしてルイズの事を本当の貴族として認めているということをシエスタはうっかり忘れている。

 

「なるほど、良い主人じゃないかルイズは」

「はい、ルイズお嬢様に出会えて、本当によかったです」

「だが、なんであいつはただ一回しかあったことのないお前を助けたんだ?」

「分かりません、もしかしたら使い魔を呼ぶことができなくて自暴自棄になっていたのかもしれませんね」

 

 だが、それでもルイズが自分を助けてくれたことに変わりはない。だからシエスタは決めた。ルイズに一生ついていくのだと。その時、ドアが開かれた。

 

 

 

 

「カドヤツカサ……か」

 

 ルイズはゆっくりと立ち上がると窓から外の景色を見る。窓の外は、きれいなものだ。山は、緑が生い茂って、池の水面は空の色を映して真っ青に見える。兵士の姿も何人か見える。ここから今すぐにでも抜け出したい。だけど、鉄格子がはめられているから、どうやったとしてもそれは不可能だろう。

 あぁ、鳥はいいな。あんなに自由に飛んでいる。だがそれも今の内。いつかもっと大きな鳥が来て、あっという間に襲われ、食われてしまう。だから、好きなだけ飛びなさい。今は、自由を楽しみなさい。せめて、自由である内に……。

 この言葉今日何回目なのだろうか。だが実際問題、ルイズにやれることなど外の景色を見るぐらいしかない。そういえば、今日で何日目だっただろう。この屋敷に幽閉されてから。気の遠くなるような時間ここにいるような気がするし、まるで一週間かそこらしか経っていないようにも感じる。悪友のキュルケは今頃何しているのか、戦争に行った同級生たちはどうなっただろう。モンモンランシーが戦場から届いた手紙で恋人の死を知って泣いていたのは見た。あの頃に戻りたい。いや、戻るなら姫様と一緒に遊んでいた、あの頃に戻りたい。姫様……。もう、この世にはいない大事な大事な親友の姫様。

 

「ルイズ」

「ちい姉さま……」

 

 カトレアだ。カトレアは、部屋に入るとすかさずルイズの前へと立つ。何だろう、さっきと様子が違うような気がする。まるで、なにかを悲しんでいるようだ。カトレアは、ルイズを瞬時に抱く。

 

「ちい姉さま?」

「ルイズ……小さなルイズ……」

 

 少し涙声が混じっているように、彼女はルイズの名前を何度も呼ぶ。

 

「辛くない?」

「少し…‥でも、大丈夫です」

 

 本当はかなり辛いのだが、ルイズは心配をかけさせまいとそう誤魔化した。

 

「そう……でも、もう心配することはないわ」

「え?」

 

 カトレアは、ルイズをより一層強く抱く。

 

「大丈夫心配しないでいいから、すぐに済むわ。痛いのは一瞬だけよ」

「ちい、姉さま……?」

「ルイズ……小さなルイズ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「短かったけれど、貴方の姉になれて、本当によかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「妹になってくれて、ありがとう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さようなら、小さなルイズ」


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