「あんたも不幸ね、こんな私の使い魔なんかに呼ばれて……」
「ネガティブ発言については無視しておくが、まず状況を詳しく説明しろ」
先ほどから窓の外を見てたそがれているルイズに、士はさっさと説明の要求をする。正直これ以上彼女のネガティブな発言を聞いていたら、こっちまでおかしくなりそうだ。
「そうね、まず……ッ!」
「ん?なんだ?」
その時、ドアの向こうから足音が聞こえる。かなりリズミカルに、そして早足でこの部屋に向かっているようだ。
「エレオノール姉さまだわ、あんたはあのベッドの下に行きなさい!」
「おい、説明」
「いいから!あなたは何があっても動かない事!いいわね!!」
士の言葉を聞いてか聞かずかのタイミングで、ルイズは士を強制的にベッドの下まで持っていく。足元側の足が折れて、斜めになっているベッドは、頭側の下にスペースができており、隠れるのにはいい場所ができていた。
そして次の瞬間、木製のドアが勢いよく開かれた。
「ルイズ!ちびルイズ!!」
「え、エレオノール姉さま……」
入ってきたのは金髪で長身の女性だ。エレオノールとルイズが呼んだその女性は、周囲を見渡した後、ルイズのすぐ目の前まで来て言う。
「ちびルイズ、今度は何をしようとしたの?」
「つ、使い魔を召喚しようと……ッ!」
瞬間エレオノールは、手に持った馬の調教等に使用するムチのようなものでルイズを引っ叩いた。
「ちびルイズ、あなたはこの家を破壊する気?」
「そ、そんなこと……ッ!」
エレオノールは、ルイズの言葉を最後まで聞かないで、またもムチで何度も何度もルイズを叩く。先ほどの爆発は、やはり外まで聞こえていたようだ。ルイズも、それは分かってはいた。しかし、それでも挑戦をやめることは、ルイズにはできなかったのだ。
「だったら!余計なことはしない!」
「よ、余計なことって」
「ろくに魔法も使えないゼロのルイズのくせに、これ以上家の恥をさらさないで!」
「痛ッ!やめて、姉さま!!」
エレオノールのムチが止まることはない。ルイズは、それに対して本能的に手を出して防ぐものの、しかしそれでどうなるわけでもない。むしろ手も傷ついて、さらにムチがあたった頬からは血まで見える。
士は、その光景に対して先ほどルイズに言われたことも無視して飛び出そうとした。しかし、それはある声によって遮られる。
「姉さま、もうその辺でよろしいのでは?」
ドアから聞こえてきたその声。その方を見ると、そこにはルイズと同じ桃色の髪を持った女性の姿。ルイズよりも身長の高い女性がそこには立っていた。
「カトレア、あなたは優しすぎるのよ!そんなことだからルイズは!」
「だったら、後は私が叱っておきますから」
カトレアと呼ばれた女性は、憤怒するエレオノールをその優しい笑顔という武器で抑えつける。そして、数秒ほどして折れたのはエレオノールの方であった。
「ッ!勝手にしなさい!」
エレオノールはそう言うと、ドアの外へと帰っていく。それを見届けたカトレアは、ポケットからハンカチを出し、座っているルイズの前へとしゃがむと、その頬を拭う。
「痛かったでしょ、小さなルイズ」
「ちい姉さま……」
「姉さまは、また婚約が破棄されていらだってるのよ」
「……」
「あなた、いつごろからお風呂に入ってないの?」
「……2週間」
「もう、後でメイドを一人呼んでくるから、その子に体を拭いてもらいなさい……ほら顔はきれいになった」
そう言うと、カトレアは立ち上がりハンカチをしまう。そして、外へと出て行こうとする。
「ちい姉さま!」
「?」
「なんで……私なんかにこんなに優しくするのですか?」
出て行こうとするカトレアに、ルイズはそう聞いた。カトレアは、先ほどエレオノールにも向けた優しい笑顔で言った。
「貴方は、私のたった一人の妹だもの……魔法が上手に扱えなくたって、可愛い妹をいじめる事なんてできないわ」
「……ちい姉さま」
カトレアは、その言葉を最後にドアから外へと出て、ドアを閉める。それから少しの間沈黙がその場を支配し、そして何も言われずにいた士がベッドの下から出て言う。
「さっきの、お前の姉さんたちか?」
「えぇ、エレオノール姉さまとち……カトレア姉さま……」
「対応が二人で真逆だな」
「……エレオノール姉さまはスパルタ気質で、ちい姉さまは病弱で、家でたくさんの動物と触れ合うことが多いから……かしら」
「ほう……」
いわゆるアニマルセラピーという物だろうか。動物と触れ合うことでその人の中にあるストレスを軽減させたり、または自信を持たせたりすることによって精神的な健康を回復させることができると考えられている物だ。主に犬や猫といった小動物がそれに使用されているらしい。
「あと、もう少しそこで隠れていなさい。すぐにメイドの子が来るわ」
「メイド?」
「えぇ、私がまだ学院にいたときに雇った子。今は、この屋敷に勤めているわ」
と、言うことは時間がないということである。ならば、最低限一つは聞いておきたいことが士にはあった。
「じゃあ、それまでに教えてもらいたいことがある」
「なによ」
「この世界に、仮面ライダーはいるか?」
今のところ連続で仮面ライダーのいない世界を回り続けているので、もはやこれは聞いておいて損はしないという物となっている。そしてその答えは。
「仮面ライダー?何それ?」
「もういい、大体わかった」
やはりドンピシャである。もはや仮面ライダーの世界を回っていないということについてはつっこむ気力はない。
その時、ドアを叩く音が聞こえ、その向こうから声が聞こえる。
「ルイズお嬢様、清拭と洗髪の用意を持ってきました。それから、お着換えも」
「来たわね。ほら、ベッドの下に隠れてなさい」
「たく、俺は犬か何かか?」
そして、士がベッドの下へと入ると、何かがきしむ音がした。気のせいだろうか。
「入りなさい」
「失礼します」
士が入ったところを見計らって、ルイズはドアの前に立っているであろうメイドに声をかける。すると、ドアを開けてメイドが一人入ってくる。その手には桶や石鹸、それと服を所持していた。メイドは、周囲を見渡して言う。
「……また、失敗してしまったんですか」
「そうよ……あなたも不運ね。私なんかがあなたを雇っちゃって」
「そんなことは……ルイズ様のお世話をさせていただくのは、結構楽しいですよ」
「楽しい……そうよね、こんな醜い私を見て裏でほくそ笑んでるんでしょうね」
「もう、どうしてそこまで卑屈になっているんですか?今日はいつにも増してひどいですよ」
メイドはいつにも増してと言っている。ということは、彼女のこの後ろ向き発言はいつもの事なのだろうか。ルイズは彼女の事を専属メイドと言っていた。ルイズと彼女との間で何か親しくなるような出来事でもあったのだろうか。
本当に何なのだ。先ほどから木がきしむような音がやまない。この音は後ろから、鳴っているようだ。自分は現在ルイズの方を向いているので後ろと言うとベッドの……。
「ん?」
ベッドの折れていない方の足の所だ。そこから音が鳴っている。よく見ると、どんどんと足が斜めになっているような。
「まずい!」
次の瞬間、ベッドの足は木片をあたりに飛び散らせながら完全に折れてしまい、ベッドの本体がそのまま下へと落ちる。
「爆発で脆くなっていたのか?」
士は間一髪外に出てなんとか逃れることができた、のだが。
「ディケイド……」
「え?」
「ん?」
結果、ルイズの髪を洗うための用意をしているメイドに目撃されてしまった。後、今気が付いたがルイズはディケイドというのが士の名前だと思っているようだった。
久々に3000文字前後で1話を書いている自分に不安を感じたりする。