仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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SAOの世界1-16

「お…終わった…」

 

 瞬間、プレイヤーたちは一人を残して、一斉に地面に座り込んだ。今回ばかりは帰れないかも知れないという考えがすべてのプレイヤーにあったのだから緊張から解き放たれて、脱力感が襲ってきたのだ。思ったよりもはやく終わったことによって全プレイヤーのHPバーはまだ少し余裕があった。と言ってもほぼ全員がイエローゾーン、もしくはレッドゾーンに突入しているのだが。

 

「お兄ちゃん!」

「ス、リーファ…」

 

 その時、リーファが滑空しながら降りてきた。キリトは、周りに人がいる中でリアルの名前を持ち出すのは少しまずいと判断したため、スグと言わず咄嗟にリーファと言葉を変えた。リーファの羽は昨日、モンスターから逃げ回っていたときに滑空制限がきて、羽から光も失われていた。ALOでは、10分間飛行していたら限界がきて、飛べなくなり、その証拠として羽から光が失われるのだ。本来なら、日光及び月光の灯りを浴びることによって回復し、再び飛び立つことができる。が、リーファの羽は昨日外に出る機会があり、日光や月光を何度も浴びていたにも関わらず、回復しなかった。だが、なぜか今日は、この迷宮区に入るまでの日光で回復したのだ。いったいなぜなのだろうか。それはともかく。

 

『士!』

「先生!」

 

 クウガゴウラムが下に降り、そして安全な高さになったころにあやかは飛び降りる。そして、あやかが背中から降りた瞬間、クウガゴウラムは変形し、クウガへと戻った。ディケイドもまた、コンプリートフォームから、普通の形態へと戻り、響鬼も消失した。

 

「やりましたね…先生」

「これで、次の階層に行けるんだな」

「らしい…が、代償はあったようだがな…」

「え?」

 

 その時、クラインが息を整えながらキリトに言った。

 

「…何人、殺られた…」

 

 キリトはすぐさまメニュー画面を出現させ、確認する。マップ上に存在するプレイヤーの数とこの部屋に入った時の数。プレイヤー表示されているリーファとディケイドの分を差し引いたとして、無くなった点の数は…。

 

「9人、死んだ…」

「9人…」

「そんな…」

 

 ユウスケはその言葉に衝撃を受けた。士がいたおかげで早くに終わって、そのために助かった命はあるかもしれない。だが、9人の命が亡くなったという事実は、ユウスケの胸を締め付けていた。

 

「後…25層もあるのかよ…」

「俺たち…テッペンまでたどり着けるのか?」

「お兄ちゃん、大丈夫だよね…死なないよね…」

 

 現実を見せられたリーファは、キリトにそう確認する。だが、キリトは何も答えられなかった。75層でこれなら、後25層に何が待ち受けているのだろう。自分は生き抜けるのか、リーファを、アスナを守り通せるのだろうか。士は、そんなプレイヤー達の姿を見渡していた。そして見つけた。ユウスケ、あやか、リーファ、そして自分以外で立っている唯一の人物。その人物のHPゲージは他のプレイヤーと違ってグリーンゾーンにある。あの時と同じだ。

 

「ゲームセットにはまだ早いぜ」

 

 士は、カードを取り出し、ディケイドライバーに入れる。

 

≪ATTACK RIDE ILLUSION≫

 

 その瞬間、ディケイドからディケイドが2人左右に出現する。何を言っているんだ、と思われるかもしれないが本当の事である。このイリュージョンというカードは、使用することによって実体のある分身を出現させることができるのだ。それぞれの分身に意識が宿っているようで、各々が独自に行動を取ることができるため、波状攻撃を仕掛けることができるという特徴を持っている。しかし、すでにボスは倒し終わっている。何故士は分身を出しのだろうか。

 

「士?」

「一つ…試したいことがある…はぁ!!」

 

 そう言うと、3人のディケイドは、あるプレイヤーの元へと向かう。そのプレイヤーは…。

 

「クッ!」

「昨日の続きだ…ヒースクリフ」

 

 ヒースクリフは、1対3という状況であるのに盾や剣を巧みに使い、上手く士の攻撃を受け流していた。一進一退の攻防、それに周囲のプレイヤーは困惑するばかりであった。それは、アスナとキリトも同じく。

 

「士さん…」

「あの人、何を…ッ!」

 

 その時、キリトは気が付いた。2週間前のヒースクリフとの一対一の対決、その時に味わった違和感。それと自身がこの2年間不思議に思っていたある事。そして、ボス戦におけるあの言葉。全てがバラバラに見えるそれらがしかし、ヒースクリフがその答えに当てはまるとしたら、全てに合点がいく。現在、彼はディケイドへの対応で精一杯の様子だ。チャンスは今しかない。キリトは地面に置いている剣を持つ。

 

「お兄ちゃん!?」

「キリト君!?」

 

 キリトは、思いっきり地面を蹴った。その瞬間、キリトとヒースクリフの距離は剣一閃分にまで縮められる。ヒースクリフは、キリトに気が付いて、盾をキリトへと向ける。が、それに対して、ディケイドはヒースクリフの腕を取り、盾を下げさせる。キリトの剣先が通る道が作られた。

 

「はぁ!!」

 

 キリトの剣は、まっすぐヒースクリフの顔へと向かう。本来なら、キリトの剣はヒースクリフの顔へと突き刺さるはずだ。だが、あるものがそれを阻んだ。キリトはその様子を見て驚愕に顔を染める。ディケイドはそれに対して「やはり」というようにフッと笑い、ライドブッカー切れない部分を撫でた。

 

「キリト君何を…え?」

 

 突然のキリトの起こした行動に少し戸惑ったアスナとリーファは、即座にキリトに追いつき、声をかけようとした。だが、その言葉は途中で途切れてしまう。それはヒースクリフの頭の上に現れた文字、そしてキリトの剣先に現れたものを見たからだ。キリトの剣先に現れたのは、ヒースクリフを守るように配置された紫色の蜂の巣のようなシールド、そして現れた文字は〈Immortal Object〉、つまり…。

 

「システム的…不死って…」

 

 アスナ、そしてリーファにはその文字に見覚えがあった。アスナは6日前に、リーファは昨日に見たものである。システム的不死が与えられるのは破壊不可能なオブジェクト、NPC、それとSAOのプログラムのみ、プレイヤーには絶対に与えられないものである。その文字は、周囲にいるすべてのプレイヤーに目撃され、やはりみな動揺しているようだった。

 

「どういうことですか、団長…」

「見ての通りだ、こいつはどんな攻撃を受けても死なないようになっている」

「あぁ…おそらくイエローゾーンに突入するほどの攻撃を受けると、システムが作動するようになってるんだろう…」

 

 アスナの質問に一人に戻ったディケイド、そしてキリトが自身の推理を披露する。その一つ一つの言葉にプレイヤーは耳を澄ませていた。

 

「最初におやっ?っと思ったのは、昨日の対決の時だ」

 

 ディケイドとヒースクリフ、その最初の対決の時である。確実に決められたであろう攻撃が避けられ、さらに瞬時に反撃も受けてしまった。

 

「あの時、通ったであろう攻撃をお前は避けた。あれがお前の能力だと思ったが、それは違う。あの瞬間、このゲームで出せる最大のスピード以上を出していたんだろ?だから処理落ちして、分身したように見えた。そして、その直後息切れしていたのは、疲れていたからじゃない。焦っていたからだ。あの時周りには血盟騎士団の団員がいたからな。お前は、どうしても団員にシステム的不死の文字を見せるわけにはいかなかった」

「俺の時もそうだ。あの時も周囲にはたくさんのプレイヤーが集められていた。自信過剰なあんたは、まさか自分が追い詰められるとは知らずにシステムを解除していなかったために、同じくシステムの対応が追い付かないほど自分のスピードを上げたんだ。まさか、その後に同じ失敗するなんて、うかつだったな」

 

 ヒースクリフは、二人のその言葉を薄っすらと笑みをこぼしながら聞いていた。キリトは続けて言う。

 

「そして、さっきの戦闘の途中、おまえはうっかり口を滑らした…」

 

 それは、キリトがスターバースト・ストリームを放って後、後ろに下がった時の事。

 

『いくらリーファ君のことを気にしてても焦っても仕方がない、ここは確実にいこう』

「どうして、スグと俺が関係者だって知ってたんだ?」

 

 あの時、ボス戦の激しさの中でそれほど気にも留めていなかった。だが、冷静になって考えてみるとあの言葉はおかしい。何故リーファとキリトが関係者であると知っていたのだろうか。二人が一緒に外に出たのは昨夜のみ、あの時近くに士達以外のプレイヤーがいなかったということは確認している。となれば、リーファと士の関係を知ることができるのはただ一人、神としてその世界を客観的に、プログラムから知ることのできる者…。士は、続けて言う。

 

「そして、さらにヒントになったのは家に居候している中学生だ」

「中学生…あっ」

 

 あやかは、その言葉を聞いて、昨夜の会話を思い出した。

 

『ねぇ、茅場昌彦は観賞するためにするためにSAOをデスゲームにしたって言ってたんだよね?』

『ん?あぁ、キリト君から聞いた話だと…』

『どうしたのですか?』

『いや、だってさ…それって面白いのかな?』

『え?』

『自分の作ったすんごいゲームをただ見るだけだなんて、そんなの面白くないよね?』

『はい、ゲームが好きなら、むしろ自分もプレイしたいって思うはずです』

『誰かのしているゲームを見るよりも、自分でゲームをする方が楽しいに決まってるよね』

 

 今日を、明日を必死で生きなければならないプレイヤー達にとって、それを考えている暇などなかった。死が近くにあるこの状況の中にわざわざ入ってくる者等いないという、盲点であった。しかし、もしも自分が絶対に死なない、そんな自信があったのだったら。話は違ってくる。そして、語るのはベータテスターだったキリトだ。

 

「ベータテストの時、本当に楽しかった。だから、この場所に帰ってきたいって、本気でそう思った…。もしあの時のままのSAOなら…ゲームの時のSAOなら、死なないってわかっていたらしないという選択肢はないよな」

 

 それは、死からもっともと遠い場所にいたからこそ分かった事。ベータテスターだから分かった事。そして、彼と同じ自信過剰だからこそ分かった事。

 

「そうだろ?SAO最強のプレイヤーヒースクリフ…いや」

 

 彼の正体、それは…。

 

「「茅場昌彦」」

 

 その世界の神たる存在である。




 作中にも言及されていますが、本来14人死んでいるところ、士達がいたため、9人に減っております。
 基本、僕は映画を見に行かないタイプなので、SAOの映画も、レンタルが出て、旧作になったぐらいで借りに行きます。いづれ公開されるスーパーヒーロー大戦も無論見る予定はありません。そのため、それら関係のネタが出ることはまずないということで。

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