キリトたちの前に現れた仮面ライダーディケイド、彼は空中を浮く何かの上に立っていた。どうやってここまで来たのか、また何故トビラが開いたのか。答えは、この数分前に遡る。
「次の角を右です!!」
『分かった!』
「キャッ!!」
ディケイドは、クワガタ型の乗り物に乗って、迷宮区の中を進んでいた。途中何体かモンスターがポップしてきたのだがしかし、それらは全て彼らが通り過ぎた瞬間に吹き飛んでいく。余談だが、仮面ライダーの使う乗り物には、どういうことか敵を吹き飛ばす機能がついていたり、敵を回転させて倒す機能が大抵付いており、轢き殺すということはないという交通事故とバイクの多い国にもってこいなハイテクな安全性を持っているのだ。それはともかくとして、現在ディケイドが乗っているマシンはバイクなどではもちろんない。その正体は、ユウスケなのだ。前回ネギまの世界でネギを変化させたディケイドのファイナルフォームライドは、もともと仮面ライダーを変形させて武器や乗り物にするものなのである。そう変形である。ネギは姿を変えるだけであったのに対して、仮面ライダーに至っては文字通り姿形が変わってしまうのだ。因みに、現在のユウスケは≪クウガゴウラム≫というクワガタ型の乗り物になっており、最高時速は500km。この数字は、リニアモーターカーが出せる速さであると言えばそのすごさが分かるだろうか。それほどの速さで小回りよく動いている。これが、前回士が言っていた問題点1の解決方法だ。これであれば、早めにボス部屋にたどりつくことができるはずだ。
「振り落とされるなよ!」
「わ、分かっています!」
「さ、流石にジェット機に乗っているのとはわけが違いますわね…」
そして、乗っているのはディケイドだけではない。立っているディケイドの足元には、クウガゴウラムから振り落とされないように掴まっているリーファとあやかの姿があった。二人は、好奇心や、興味本位でついてきたわけではない。リーファは、問題点2のマップ把握のために必要な存在。あやかは、問題点3を突破するのに必要な人材なのだ。この話は後にするとしよう。
「そこの階段を上ってください!その先にボス部屋はあります!!」
『よし、間に合うか…!』
「間に合わせる」
今は、迷宮区に登り始めて30分。そんなにあっさりと負けるわけではないだろうがしかし、早いに越したことはない。そして、クウガゴウラムが、階段を上った先に巨大な扉が出現した。
「この扉の向こうだな…」
『やっぱり開きそうにもないか…』
「では、ここは私が…」
そう言うと、あやかは立ち上がって一つのカードを取り出す。
「
その言葉と同時に、あやかの周りに大きな風と光が舞い起こる。リーファは、それに対して思わず目をつぶった。そして、次に目を開いたその時、あやかの衣装は変化しており、その背中には薔薇の花束が浮かんでいるようであった。前回のネギまの世界、その最終決戦において、ネギクラスは31人全員が一枚はパクティオカードを所持する状態となった。雪広あやかのカードは、アーティファクト不明で『花盛のブルジョワ』という称号がつけられたものである。アーティファクトが分からないというのは、理由は分からない。背中にあるソレがアーティファクトであると思われるのだが、効果においてよくわからないことが多いのだ。攻撃方法など特に、薔薇をムチにしたり、ダーツの矢を飛ばすように使うということもあるのかもしれないが、使ってみて戦いに使えないということもあり得るため、攻撃のためには使わない。ではなぜ彼女がそれを出したのかと言うと、そのカードの能力に用事があったのである。
『大丈夫かな?どんな人物にでもアポなしで面会できる能力って…ボスは人間じゃないし…』
「それに、面会できると扉が開くかは違う気もするし…」
「発想の転換ですわ…必ず何とかして見せます」
そう、彼女の名称不明のアーティファクトは攻撃には使えないが、『どんな人物にでもアポなしで面会することができる』という使い方によっては要人の暗殺を簡単に成し遂げてしまうのではないかと言うほどの恐ろしい能力を持っているのだ。彼女は、その力を使って扉を開こうとしているのだが、ユウスケとリーファは、その作戦がうまくいくのか少し疑問であった。そもそもその能力を使うのが今回初めてであるため、実際に効果があるのか分からない。効果があるとしても相手はゲームである。それにアポなしで面会できると開かずの扉が開くということはイコールにならないのではないだろうか。そういう危惧があった。そんな中、あやかの後ろから薔薇の花びらが扉に当たる。そして…。
「開いた!」
重苦しい音と共に扉が開いていく。作戦は成功したのだった。中を見ると、まだボスとの戦いは続いていた。皆の考えていることは一致した。間に合った。
「ふっ…扉が開かないと会うこともできないからな…行くぞ」
『リーファちゃん、あやかちゃん、俺の背中から離れないで』
「は、はい!」
「分かりました」
リーファとあやかをここに置いていくという手もあるが、もしここにモンスターが出現した時、二人に危険が及ぶことになる。リーファは戦うことができるのだが、レベルがALO以上に重きを置かれているSAOにおいて、リーファのレベルでは、存分に戦うことはできないと思われた。そのため、いっそのこと二人とも中に入って、ディケイドがボスと戦う間は、クウガゴウラムの上でやり過ごした方がいいということになったのだ。その時、扉が完全に開かれた。そして、扉のすぐ前には、ヒースクリフ、アスナ、そしてキリトの姿があった。
「世界の破壊者…ディケイド…」
「ボス戦に現れる援軍ってのはゲームでたまにあるらしい…」
士がそう言うと、クウガゴウラムは、ボス部屋へと入る。そして、ディケイドは飛び降り、クウガゴウラムは天井近くまで上がっていく。
「悪いが、ここに入るために少し裏技を使わせてもらった」
ディケイドは、ヒースクリフに向かってそう言った。
「…何故、それを私に言うかね」
「さあな?」
「ディケイド…」
「話は後だキリト、今は…」
ディケイドは、腰からライドブッカーを取り出し、ガンモードに変化させ撃つ。彼がそれを撃った方向にはボスの姿があった。
「あいつを倒すぞ」
「…あぁ」
開かないと思われていた扉の開門。剣や斧のみの、飛び道具が最低限の物しかない近接戦闘99%のこの世界において、使われた銃。そして、クエストの討伐対象であったディケイド。それがボスに攻撃を仕掛けている。一般のプレイヤーはその会いえない状況の一つ一つに自分の目を疑っていた。風林火山のリーダークラインもその一人であった。
「なっ、いったい何が…」
その時、クラインはエギルに肩を叩かれる。
「突っ立っている場合じゃない、油断していると仕留められるぞ」
「ッ、あぁ!」
ともかく、プレイヤーはボスに向かうことを止めたら自身の身が危ないので、向かって行く。ディケイドも同じく。
「す、すごい…」
「これが、この世界で2年間戦い続けてきたプレイヤーなのですか…」
あやかとリーファは、上空からプレイヤー達の戦いを見つめていた。青や赤色の綺麗なエフェクトが眼に映り、さらにゲームの仕様上、真っ暗となることはない為、上空でもよく見えた。そこから見ると、どのプレイヤーも無駄な動き一つすることなく、勇気をもってボスへと向かって行く。リーファには、この世界で生きてきたプレイヤーたちの動きは、まるで軍隊のようにも見えた。死と隣り合わせ、その世界を生きるための試行錯誤の結果が彼らである。
(お兄ちゃん…こんな世界で2年間も…)
「…敵わないな」
「リーファさん?」
そして、終わりの時がやってきた。
「一気に行くぜ!」
ディケイドという遠距離での攻撃とけん制役が出現したことで、先ほどまでよりも攻撃の機会が増え、スカル・リーパーのHPはどんどんと減り続けていった。そして、一本のHPゲージがなくなり、残りあと一本となった。そのタイミングで、ディケイドはダメ押し的にケータッチを取り出すと、いつも通り仮面ライダーの紋章に触れていく。
≪KUUGA AGITO RYUKI φs BLADE HIBIKI KABUTO DEN-O KIVA W OOO FOURZE WIZARD GAIM DRIVE GHOST FINALKAMENRIDE DECADE≫
ディケイドは、コンプリートフォームへと変化し、紋章の一つをタッチし、Fの文字を押す。
≪HIBIKI KAMENRIDE ARMED≫
その瞬間、ディケイドの胸のカードが同一のものになり、隣にネギまの世界にも召喚された響鬼が現れる。ネギまの世界でディエンドが召喚した時には、紫色を主体とした恰好であったのに対し、今度の響鬼は赤と胸に輝く金色の装飾が嫌にでも目に付くほど派手な姿となっている。その姿の名前は『装甲響鬼』、仮面ライダー響鬼が音撃増幅剣『装甲声刃』の力によって武装強化した姿である。
「士さん!危ない!」
キリトの声が響く。ディケイドの目の前にスカル・リーパーの二本の鎌が迫っていたのだ。だが、ディケイドは冷静に腰にあるライドブッカーを引き抜くと、ソードモードにして鎌を受け止める。響鬼と動きがシンクロしているため、横にいる響鬼もまた、自身の剣を取り出して、スカル・リーパーの鎌を受け止めていた。
「ハァッ!」
ディケイドと響鬼はその掛け声とともに、スカル・リーパーの鎌を押し返した。キリトは改めてディケイドの恐ろしさに驚愕する。あの鎌は自身も一度受け止めた。だが、その時はあまりの重さにアスナに助けてもらっていたのだ。それを彼らは一人で受け止め、一人ではじき返した。これは、全てのプレイヤーにとっても驚くべきことだった。ディケイドは、そんな彼らを尻目に、一枚のカードをバックルに入れる。
≪FINAL ATTACK RIDE HI-HI-HI-HIBIKI≫
そして、剣を構えると同時に、ディケイド、響鬼双方の剣に炎が纏わりつく。これが『装甲響鬼』の必殺技、『音撃刃 鬼神覚声』である。本来の響鬼のソレは、声を増幅させ、音撃波を敵にぶつけて敵を斬るという技なのであるが、ディケイドが出現させたソレの技はどういうわけなのか少し違っているらしい。それはともかく。ディケイド、そしてディケイドにシンクロして、響鬼もまた剣を構える。
「ハァァ!!」
一閃、その瞬間炎が伸び、敵を斜めに切り裂いた。スカル・リーパーには、斜めの二本の切り裂いた跡が残り、HPはどんどんと減っていく。そして…。
「グゲェア…グジャァァァァァァァ!!!!!!」
まばゆい光が放たれ、スカル・リーパーはポリゴン状のエフェクトを残して、消滅した。その後に出てきたのは≪Congratulations!!≫の文字。し烈を極めた75層ボス戦はディケイドという乱入者が現れたことによってあっさりとその幕を閉じたのだった。
雪広あやかのアーティファクトについては色々なところから情報を引き出しましたが、どこを探してもアーティファクトの名称も攻撃方法すらあるのかも分からなかったです。