仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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とんでも理論というタグでもつけたほうがいいだろうか。それともお前誰だというタグをつけるか。


SAOの世界1-12

 リーファは、夜になった森を走る。真っ暗ではある物の、空には月が浮かび上り、移動できる分の光量は確保されていた。しばらく走って、おそらく写真館からかなり離れたであろう場所でリーファは立ち止まる。疲れは、あまりない。やり場のない怒りと悲しみがリーファを襲っていた。思わず、写真館からずっと握っていた手を近くにある木に叩きつける。瞬間、目の前にメッセージが浮かび上がった。〈Immortal Object〉、つまり『システム的不死』である。ゲーム内にはモンスターや花束、食べ物と言った一部の破壊可能なアイテム類と、壁や建築物、NPC等の壊すことのできない部類がある。この22層にある樹木は、壊すことのできない部類であるため、かなりの強さで殴ったリーファに対してそのようなメッセージが出たようだ。リーファは、その言葉を見た後、目線を下に向けながら地面に座る。

 

「分かっていたのに…命がけで戦っているって分かってたのに…」

 

 この2年間、ずっと考えていた。兄は、ゲームの中でどうしているのだろうと。できれば、命の危険がない場所で、誰かがゲームをクリアするのを待っていてほしいと、だがそれはきっと自分の身勝手な願いだった。兄以外の誰かが死ねばいいなんて思ったことはない。でも、それでも兄には危険なことをしてもらいたくなかった。結局のところ、兄は人一倍危険な位置にいた。つい最近までたった一人で行動し、前線組として、そしてβテスターとして、全てのプレイヤーの矢面に立って、時にほかのプレイヤーを助け、そして殺しもして、まるで兄が異国の人間のようなそんな感じがして胸が詰まる思いとなった。

 

「スグ…」

 

 その時、後ろから声がかけられる。そこにいたのはキリト、そして椎名桜子だ。

 

「お兄ちゃん…リーファだって言ってるのに…」

 

 因みに、キリトが彼女を見つけることができたのはキリトの持つ索敵スキルによるものが大きい。フレンドであればフレンド追跡でもっと簡単に彼女を見つけることができたのだが、あいにくリーファとはフレンド登録していなかったため、それを使用することはできなかった。索敵スキルは、プレイヤーだけでなくモンスターにも反応するのであるが、幸か不幸か、夜の22層は今まで通りモンスターがポップしていないためすぐに見つけることができたのだ。

 

「いや、お前はスグだ…桐ケ谷直葉だよ。ネットマナーとか、そんなの関係ない」

「…明日、行かないで…私の側にいて…」

「スグ…それはできない」

「どうして!?」

 

 リーファは、その言葉に即座に振り向いて言った。

 

「死んじゃうかもしれないんだよ!母さんにも会えないかもしれないんだよ!それなのに、なんで…」

「…だからさ」

「え?」

「あの現実に戻りたかったから…母さんや父さん…スグに会いたかったから」

「お兄ちゃん…」

 

 そして、今現在彼の中に、ゲームをクリアしなければならない理由ができていた。

 

「それに、アスナと…スグを早く現実に戻さないといけない…」

「…」

 

 沈黙が流れる。愛するものと、愛すべきもの、それを守るのに理由があるだろうか。夫、否彼として、そして兄としてできる事がそれしかできないというのなら。彼にゲームクリアしか、可能性がないのであれば。今日一日、リーファの意識が消失したというような報告はずっと一緒にいた士からはなかった。ということはいまだに直葉の身体は家の直葉のベッドの上にあるということだ。かつて、『大切断事件』という物があった。SAO開始から数週間がたった時に発生した全プレイヤーが意識を突然失ったあの事件。直葉の証言により、あれはすべてのプレイヤーを停電による電力喪失から守るために茅場昌彦が設定した病院への移送のための時間であったということが分かっている。また、その中には何人か間に合わずに、移送中に死んでしまったものもいたらしい。リーファの意識喪失が発生しなかったということは、いまだにリーファの身体は家にあるということの証明である。

 

「分かってたよ…」

「スグ…」

「分かってた…何言っても無駄だって…分かってたのに……どうして知っちゃったんだろう」

 

 リーファは、手を顔にかぶせて泣き伏せる。彼女とて、兄の性格を知っている。何を言っても、彼の信念を変えることなどできないと分かっている。だが、ここまで意固地だとは思わなかった。ここまで、自分の意見を押し通すなど思わなかった。こんな事なら…。

 

「こんな事なら、知らない方がよかった…」

「リーファさん…」

「こんな事なら、何も知らないで暮らしてた方がよかった…」

 

 今の時間、きっと自分は母や父と一緒に晩御飯を食べているころであろう。兄の事をそして、明日の休日どうしていようか、何時病院に面会に行こうか、それを考えている時間であろう。自分が剣道をしている時、自分が友達と一緒にいるとき、寝て、起きて、笑って、泣いて、どんなときでも、兄は戦っていた。自分のために、そして今も、自分のせいで死地に向かおうとしている。分かっていた現実を目の当たりにして、リーファは、どうしていいのか分からなくなっていた。その時、リーファはその体を抱きしめられた。

 

「え…」

「羨ましいな、自分のために戦ってくれる人がいるなんて…」

「桜子…ちゃん…」

 

 抱きしめたのは桜子である。蛇足だが桜子は中学三年生、直葉は高校一年生である。

 

「私ね…元の世界で、私の知り合いが、命を賭けて戦っていたのを知らなかったの…」

「元の…世界?」

「うん…それを知って、最初はすごく戸惑った…なんで知らせてくれなかったのって、私たちは思った…」

「それって…」

 

 おおむね、リーファの逆であろう。

 

「でも、知ってよかったなって思っている…」

「…」

「知ることができたから、私たちはみんな一つになることができた…目標を一つにすることができた」

「みんな、ひとつに…」

 

 あの世界で、もしあのまま知ることがなかったら。もしあのまま、ネギたちが危険な冒険に行こうと思っていたら。ぶっちゃけるとあまり変わらない。桜子含む数名が物語に係わることはないのだから。だが、知らなかったことによる弊害として、桜子の強運が関連して何も知らなかった5名が、危険な魔法世界に紛れ込むこととなってしまう。結果的に被害者は出ることはなかったが、それはもはや奇跡のようなものだ。もし、その5名が死んでいたら、いや死ぬことはなくとも、女性としての尊厳を失っていたら、それを知らないままだったら。自分だけ何も知らないで当事者の前で幸せな顔をしていたら、そんなこと考えたくない。

 

「知っちゃったことで泣かないで、むしろ…自分のために、お兄さんが戦ってくれているって…キリトさんを誇りに思って」

「…」

「知ることは悪いことじゃない。知って、考えて、何をするべきなのかどうしたいのか…本当は分かっているはずだよ」

 

 支離滅裂だと罵るがいい。理にかなっていないと鼻で笑うがいい。だが彼女が言っているのだ。椎名桜子が言っているのだ。誰よりも物語に近い位置にいて、誰よりも物語から遠い場所にいた彼女が言っているのだ。誰よりも幸せに恵まれ、それゆえに不幸を振りまいてしまうことがある。そんな彼女が言っているのだ。それでいい。桜子は、腕をほどいてリーファは圧から解放される。そして、すぐにキリトが話しかける。

 

「スグ…いや、リーファか…」

「お兄ちゃん…」

「明日…絶対に帰ってくる。そして、いつかお前の…名前を取り戻す」

「名前?」

 

 どういうことなのか、リーファにも、桜子にも分からなかった。

 

「あぁ…だから心配しないでくれ…俺たちは絶対に負けない」

「…絶対だよ、絶対にアスナさんと…エギルさんと…いっしょに帰ってきて」

「あぁっ…!」

 

 キリトは決意する。自分は、アスナ達と一緒に帰ってくる。それは、約束であり、覚悟であり、そして願いであった。それにしても、名前を取り戻すとはどういうことなのだろうか。それの意味が分かるのは今のところ2人しかいない。一人はもちろんキリト本人、そして、木の陰で写真を撮る男のみ。

 

「ふっ、俺の出る幕じゃなかったな」

「というか、こんなに暗いのに写真を撮ってどうするですか」

 

 いつの間にか、全員が集まっていた。集まってはいたのだが、出るタイミングがまったくと言ってないため、こうして遠くから見守るしかなかったのだが、取りあえず何とかなったようでよかった。ともかく、これ以上ここにいる必要はない為、撤収することとなった。が、そこでエギルが一言。

 

「悪い、俺はもうそろそろ店に帰らせてもらう」

「店?…そういえば、エギルさんはお店をしてるって…」

「あぁ、武器屋をな。明日の準備もしなければならないしな」

「明日の準備?」

「あぁ…商人なんて職種やってると、キリトやアスナたちには及ばないが、前線組並みのレベリングをしているんだ」

 

 エギルが店で売っている物は、大体がほかのプレイヤーから売られたもの、またはそれをまた売って買いそろえた武器である。それだけでなく、前線まで行って商品を調達したり、それを使って交渉したりと、彼なりに修羅場を潜り抜けている。そのため、エギルのレベルは前線組にひけを取らないものとなっていた。

 

「本来なら、こういったボス戦には参加しないのが常なんだが…」

 

 そう言いながら彼はキリトたちの方を見る。いや、実際に見ていたのはその後の言葉から察するにリーファであろうか。

 

「あの子のためにも、一肌脱いでやるさ…あいつは放っておくとどれだけ無茶するのか分かったもんじゃないしな」

「確かに」

 

 これには、アスナも同意した。エギルが一人森の奥へと消えていったのを見たのち、士達は写真館へと帰っていった。数分ほどして、キリトと桜子、そしてリーファは戻ってきた。迷惑をかけたことについて謝罪し、話し合った後、キリトとアスナは自分たちのロッジに帰り、リーファは写真館の方で預かることとなった。そして、数時間後。

 

「なんだか、今日は賑やかだったな」

「あぁ、ガキがあんなにいるからな、当然だろう」

「女三人寄れば姦しい、とはよく言ったものですね」

「いや、三人じゃなくて五人でしょ」

「夏ミカンはいつもうるさいがな」

「…」

 

 で、当然のごとく夏海に笑いのツボを押される士であった。よく考えてみれば、今までの倍の人数がこの写真館に泊まっているのだ。どこにそんなものがあったのか分からないが、栄次郎が人数分のベッドを引っ張り出してくるし、さらに子供用の着替え…は写真館だから当然あるか。ともかく、用意がよかったのはもはや驚かない。

 

「はぁ、さっぱりした」

「夏海さん、一番風呂いただきました」

 

 と言いながら廊下の奥から現れたのは麻帆良4人娘であった。全員制服からパジャマに着替えており、頭からは湯気が噴き出ている。

 

「なんだ?お前ら一緒に入ったのか?」

「はい、すごく大きなお風呂でした!」

 

 と言ったのは鳴滝…鳴滝…どっちだ?髪を降ろしていない時でさえ分からないのに、ほどけているとますますよくわからない。…まぁどっちでもいいか。それはともかくとして、鳴滝の言葉に疑問を持ったのはユウスケである。

 

「?お風呂ってそんなに大きなものだったけ?」

 

 彼の記憶では、この写真館のお風呂は普通の一般家庭にあるものとさほど大差のないものであったはず。と、その時奥から声が聞こえる。

 

「いやぁ、突貫工事はさすがに苦労したよ。はいホットミルク」

「おじいちゃん…」

 

 まさかの栄次郎である。いやいやいや、確か今日一日ほとんど一緒にいたではないか。いったいいつ作ったというのだ。と、夏海は突っ込みかけたが、士がその前に言った。

 

「流石、爺さんはやることが早い」

「いや、それ以前に突貫工事って日曜大工じゃないんだから」

「ユウスケ、よく考えてみろ。爺さんだぞ、できない事あるわけないだろ」

 

 いやその理屈はおかしい。とユウスケは言いかけたが、なんとなく栄次郎だったらやりかねないと思ってしまった自分は負けだなと思い、その言葉はのどの奥にしまい込んだ。

 

「あれ、リーファさんは?」

「あぁ、あの子は先に寝ちゃってるよ」

「よっぽど疲れていたんでしょうね…」

 

 無理もない。今日一日で喜怒哀楽が一気に押し寄せるほどの出来事があったのだ。疲れるのは当たり前である。そして、麻帆良4人組は栄次郎からホットミルクを受け取り、それぞれ椅子に座る。そして夏海は風呂に向かう。先ほどきまった取り決めとして、女性陣が先に入って、男性陣はその後と決まったのである。それほど男の後は嫌なのだろうか。

 

「はぁ、ホットしますね」

「ホットミルクだけにな」

 

 それはともかく。

 

「それにしても、まだ信じられないよここがゲームの中だなんて…」

「うん、心が分かっていても脳がそれを拒否しているっていうか…」

「まぁ、外のクオリティが高いからな」

 

 今日一日見ただけでも空、木、湖、色々なものがまるで現実のようにきれいで美しかった。茅場昌彦という男はどれだけこだわりを持ってこの世界を作ったのだろうか。

 

「ねぇ、茅場昌彦は観賞するためにするためにSAOをデスゲームにしたって言ってたんだよね?」

「ん?あぁ、キリト君から聞いた話だと…」

 

 桜子の質問にユウスケは答える。そして桜子は鳴滝姉妹と顔を合わせる。それに対して、あやかはどうしたのかと思い3人に聞く。

 

「どうしたのですか?」

「いや、だってさ…」

 

 そして3人はあやかに自分たちが考えていたことについて語る。そしてそれを横で聞いていた士は、その言葉を聞いて言った。

 

「なるほど、大体わかった」




 改めて考えてみると、麻帆良4人組は真夜中のネギま世界から昼間のSAO世界に跳んできたんだから時差の関係で眠気が襲っているはず…。
 ところで、実のところ私もここ1年ぐらい睡眠パターンがおかしくなっていて休日は朝11時ぐらいまで寝てしまっているため…ニチアサはあまり見れてなかったりする。ジュウオウジャーなんてゴーカイジャーの出ていた回ぐらいしか…。

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