仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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魔法少女リリカルなのはの世界2-10

 仲間たちがなのはを見送った後のリンディの家。今、なのははリンディが用意した布団の上で眠っている。その顔はまるで、おとぎ話に出てくる眠り姫のようにきれいで、もう二度と起きないのではないかという恐怖心すらも抱かせる。

 彼女が、ナーヴギアとロストロギアを併用して平行世界へと旅立ったと思われてから既に1時間の時が経っていた。いまだになのはは目覚めない。

 管理局の面々は、いつまでもなのはのそばにいてもできることは無いと言うことでドーパントや簪美茄冬、アリサたちを探すために街中へと出ており、今この部屋にはなのはともう一人の女の子しかいなかった。

 

「なのは……」

 

 フェイト、である。彼女はなのはがナーヴギアを使用してからずっと彼女の横でその寝顔を見守っていた。

 勿論、こんなところにいたところで何もできないと言うことはわかっている。しかし、それでもなのはを置き別の場所へと行こうと言う気は起きないのだ。

 心配だから、違う。もしかしたら予感しているのかもしれない。もう彼女と会えなくなると。

 簪、という女性に出会ってから、なのははずっと思い詰めたような顔をしていた。そして、呟いていた。私が魔法少女に、魔導師にならなかったら、アリサちゃんやすずかちゃんをドーパントに変身させずに済んだのかなと。

 まるで、壊れたオルゴールの様に繰り返すその姿は、とても非哀に満ちていた。

 そんな事はない。なんて言えるわけがない。何故なら事実だったから。もしなのはが魔導師になる道を選ばなかったら、きっと二人はドーパントなんかとは無縁の人生を送っていたはず。フェイトもそれをわかっていた。

 もしかしたら、なのははこの事件が終わったら時空管理局を辞めるんじゃないだろうか。そんな、恐れを感じていた。

 リンディ義母さんも、なのはが戻ってきたら家族も交えて話をしたいと言っていたし、もしかしたら彼女も同じようなことを考えているのかもしれない。

 なのはは、きっと時空管理局を辞めてしまう。そしたら、きっと自分と会う機会もほとんどなくなってしまうのではないだろうか。

 そうなる前に、できるだけ長くなのはのことを見ていよう。フェイトは、そんなふうなことを考えていたのかもしれない。

 未練がましい事この上ないが、しかし今の彼女にできることはたったこれだけ、自分で自分を責めるしか方法はない。あまりに醜い感情を持った自分には相応しいのかもしれないが。

 

「フェイトちゃん、そんな付きっ切りやと疲れるで。もうソロソロ休まな」

 

 そんなフェイトのもとに現れたのははやてだ。彼女は,足の件もあって動き回るのに支障があるので、エイミィと共に各メンバーとの連絡の橋渡しとなっていた。

 けど今は、なのはにつきっきりとなっているフェイトを心配して一旦戻って来たのだ。

 

「でも……」

「なのはちゃんが心配なんわ分かるけど、根詰めすぎると壊れてまうわ」

 

 彼女もまたなのはのことが心配だ。けど、フェイトのことも心配なのだ。特に、とても思い詰めたような表情を見ていると、むしろなのはのそばにいればいるほど彼女がダメになってしまう。そんな気がして。

 

「……うん」

 

 そんなはやての優しさに甘えることにしたフェイトは、ただ一言だけそう言うと、後ろ髪引かれる思いはするもののゆっくりと部屋の外へと出て行く。

 フェイトはそこでフッ、と笑った。確かに自分が彼女のすぐそばにいても何にもならない。そのことはわかっていたはずなのに、必要以上に彼女のそばにいて結局もう一人の親友にも心配をかけた。

 未練というものはいくらでもある。でも、その全てを解消することなんて決してできることはない。特に、ただ一人でじっと親友の顔を見つめているだけでは。

 

「あ、フェイト……」

「ユーノ……」

 

 と、その時ユーノがフェイトのもとに現れた。確か彼もまた簪のことを探しに外に出ていたはずなのだがなぜここにいるのだろう。

 

「休憩かい?」

「うん……はやてに、流石に休めって言われて……」

「そっか……」

「ユーノはなんで?」

「……なのはのことが、気になっちゃって」

 

 そう、なのはのことが心配なのは自分だけではない。なのはの仲間、友達みんなが心配しているのだ。なのに、自分一人だけが特別扱いを受けて彼女のすぐそばにいる許可をもらっている。

 自分の心が、あまりにも弱すぎるから。もろすぎるから。自分自身が弱いから。自分が、友や義母に心配をかけさせているから。

 その時、フェイトはフッと笑った。何だ、自分もなのはと同じじゃないか、と。

 自分もなのはと同じ、心が弱い人間だった。それなのに、あたかも自分は強いと言い張るかのような行動を取って、結果的にいざ精神的に辛い出来事を目の前にして落ち込み、仲間たちを心配させる。

 今なら分かる。なのはの気持ちが、なのはを笑顔で送り出すしか方法がなかったアリサたちの気持ちが。

 でも、今更そんなことを知っても後の祭りなのかもしれない。

 

「最低だね、僕って……」

「え?」

 

 ユーノは、ふとそうつぶやいた。

 もしかしたら、ユーノは誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。自分の心の弱さを。自分の罪を。誰かに聞いてもらって、そして罰してもらいたかったのかもしれない。だから、彼は帰ってきたのかもしれない。

 

「彼女は、僕に敵意を向けてた。その理由、わかったかもしれないんだ」

「どういう事?」

「きっと、彼女の世界にもいたんだよ。僕みたいな存在が、僕が、なのはにしたみたいに、あの人の友達を魔法少女にした、そんな存在が……」

 

 あの時、この地球に散らばったジュエルシードを集めるために降り立った自分が、なのはに出会い、そして魔法を授けたように。

 フェイトの保護観察官であり現在は隠居生活を送っている元時空管理局の局員であったギル・グレアムがそうであったように。

 きっと彼女の友達に魔法を授けた存在がいたはずなのだ。もしそうなら、彼女が自分に向けて憎しみを込めた冷たい目をしていた理由も分かるという物。

 つまるところ同じなのだ。彼女の友達に魔法を授けた存在と、自分は、同じ存在。ごく普通に日常を謳歌していた女の子を二度と戻ることのできない戦いの世界に招き入れた悪魔。それが、自分たちであったのだ。

 

「僕は愚かだ。僕が、ただ自分の欲求を満たしたいために、ジュエルシードを掘り出して……なのはを、危険に巻き込んだ……」

 

 あの時、もしジュエルシードを追わなかったとしたら地球にもたらされた被害は膨大な物になっていたかもしれない。少なくとも、彼が率先して動いたおかげでいくつものジュエルシードを封印することができた。もしも彼がいなかったら、フェイトがジュエルシード集めに入るその前に、想像もできないほどの被害が出ていたであろう。

 ソレを考えれば、彼の取った行動は英断だったと言える。しかし、それは彼がたった一人ですべての事をなしていた場合の事。ユーノは力不足だった。だからこそ、最初のジュエルシードの封印の時点で力尽き、倒れてしまった。そして、たまたま海鳴にいた高町なのはというごく普通の女の子が魔導師の素質を持っていたという偶然が重なり、彼女に魔法を授けてしまった。

 いや、そもそもジュエルシードの発見者はユーノだった。探究心がもたらしたその発見が、後に大事件へと発展するなんて、見つけた時には想像もしなかった事だ。

 けど、今でも思う。もし自分がジュエルシードを発見しなかったら。という可能性を。

 ユーノの取った行動は、確かに大勢の人々の命を救うことに繋がった。けど、その代わりに一人の女の子の人生を大きく狂わせることになった。

 ユーノには、その選択が正しかったと自信を持って言うことはできなかった。もし自分がいなかったら。もし、自分じゃないもっと強い人間が、例えばリンディやクロノが最初にこの地球にやってきてジュエルシードを封印する作業に回っていたとするのならば、なのはを、あんな辛い目に会わせずに済んだ。

 なのはは、自分の尻拭いのために辛い世界へと足を踏み入れた。二度と戻れぬ、死という悪魔の待ち受ける、狂気の世界へと。

 

「ゴメン……なのは、ゴメン……」

 

 ユーノは、膝を抱えて泣くことしかできない。果たして、その涙はいったい誰のための涙だったのだろうか。なのはのためか、それともなのはの家族のためか、それともなのはの友達のためか。

 

「アリサ、すずか……ゴメン……」

 

 それとも、自分自身のためか。

 けど、これだけは分かる。涙は誰も救うことが出来ない。救えるとするのならば、それは自分自身だけだと。涙を流して嫌なことを忘れた気になっている。自己満足で傲慢なナルシストの行う行為であるのだと。

 だから、自分は涙は嫌いだ。そうやって救っても貰いたくない自分自身の事を救おうとする自分の身勝手な心が嫌いだ。

 涙を流すことで、反省している感を出そうとしている自分が嫌いだ。

 自分は、自分は嫌いだ。

 

「ユーノ……」

「フェイトちゃん大変や!」

「え……」

 

 物語は、ついに終幕へと動き始める。

 扉を勢いよく開けて廊下に現れたはやては、フェイトに告げた。

 

「今連絡があって……時空管理局が、壊滅状態になったんや!」

「そんなッ……」

 

「……」

 

 一方、ここは喫茶店翠屋の裏、高町家に隣接して建てられている武道場。内部は広く、十数人が稽古しても十分すぎるほどの広さを持っていた。

 その中心部にて、道着に身を包み正座をしている男性がいた。高町士郎である。

 そしてもう一人、武道場に足を踏み入れる者。

 

「父さん……」

 

 高町恭也だ。

 恭也が士郎に近づくと、まるでそれを合図としていたかのように士郎もまたゆっくりとしかし重々しい動きで立ち上がって言った。

 

「来い」

 

 と。

 そこには、先ほどまでの温和な父親の雰囲気は一切ない。あったのは、心の内側に獰猛な寅を飼っているかのような熱く、厳しく、そして力強い漢だけだ。

 

「ハァァァァッ!!」

 

 恭也は士郎に向けて木刀を向けると一直線に走る。

 父と子、何故この二人が戦うことになったのか。いや、理由などとうに分かり切っているだろう。彼らがここに至るまで熱意を込めている理由なんて、たった一つしか存在しない。

 そう、その理由とは―――。

 

「なのは……」

 

 そして、美由紀は一人庭先で木刀を振るっていた。一心不乱に、しかし鋭く、そして決意の籠った表情で。

 桃子は、そんな彼女の事を軒先で見るしかできなかった。でも、その顔はとても母親らしいやわらっかう、そして天使のような笑顔を浮かべていた。

 例え、血の繋がっていない娘であったとしても、彼女は娘に違いない。例え、血の繋がっていない息子であったとしても、自分の息子に違いない。

 心配するのは当たり前だ。けど、それが二人の子供が決めた事であるのならば。

 桃子は見守る。自分たちの子供の行く先を、未来を。そして祈る。子供たちが、無事にまたこの家に集まることを。

 いや、なのはの友達や仲間も含めて、自分のお店に、集まってくれることを、願わざるを得なかった。

 それしか、自分にはできない。でも、だからこそ、最大限に自分の仕事を全うする。

 それが、彼女の戦いであった。


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