今回、一つ思いつきで投稿直前にある漫画のセリフ入れ込みました。さて何でしょう?
運、それは天が定めた絶対的なもの。
命、期限ある二度とは与えられない物。
運命、それは天が定めた命の期限。
人の命が天から与えられた物であるのならば、それを奪うのも身勝手な天の役目。
人は、定められた死から逃れることはできない。例え、どれだけ自分を大事にしても、どれだけ誰かに気遣われても、どれだけの医療の進歩があっても。
最終的に待っているのは、死。その先にある無。
突如奪われる命も、産まれる命にも、未来に絶望しかない命にも、過去を生き延びた命も、どの命にもそれぞれの物語があり、それぞれに悲しんでくれる人がおり、そして、どの命も儚い。
ほら、儚く散る命が、ここにまた一つ。二つ。三つ。
「う、う~ん……」
少女は夢の中にいた。とても楽しく、そしていつまでもいつまでも見ていたい。そんなふうに思えるほどの夢。
けど、楽しい夢のはずなのに、どこか悲しく、どこか憂鬱になる。そんな汚泥の中にあるかのような真っ暗な世界も広がっている。
夢の中にいたのは、自分のよく知っている人間たち。
でも、半分は悲しい顔をしている。その半分の中には怒っている人間もいる。でも、何故なんだろう。自分にはよく分からなかった。
この夢はなんなのだろう。なんでこんな夢を見るんだろう。何故、こんなにも心が苦しくなるのだろう。
「桜子、桜子」
「あと5分……」
何故、夢は覚めてしまうのだろう。
現実なんて醜い世界を見るために、どうして夢の世界を諦めないといけないのだろう。
見たくない。聴きたくない。そんな現実逃避の世界にずっといたい。
でも、どれだけ見ても夢は夢。絶対に目を開けなければならない。前を向かなければならない。歩き出さなければならない。それが、残酷な夢という物の正体。
「桜子!」
「うわぁ!」
桜子は、女の子の幾度にも渡る声掛けによりようやくその目を覚ました。
「もう、やっと起きた……一体どうしたの?」
「離陸してすぐに寝るなんて」
「あ、うん。なんでかな……え? 離陸って?」
目覚めた桜子に対し少女、柿崎美砂と釘宮円の二人は声をかけた。桜子はふと、その言葉に疑問を覚える。
そういえばここはどこなのだろう。あまり見覚えのない光景だ。桜子は、ゆっくりと周りを見渡す。自分はどうやら何かの乗り物に乗っている様だ。
三人掛けの椅子、通路側から見ると、柿崎、円、そして自分。流線形の天井が特徴的で、前にはビジネスマンや家族連れ、それに海外の人間が多く乗っている。そして、通路には制服を着た乗務員の姿。
そういえば、さっき円は離陸と言っていた。まさか、そう思った桜子は、左側にある窓の外を見る。
そこにあったのは白い雲、そして地上と海との境界線。それにこの聴力を奪い耳の奥が重くなる様な感覚。もしかしなくても、自分は飛行機に乗っているのか。けど、何故。
「寝ぼけてんの? 私たち、卒業式が終わったから記念旅行にネギ君の故郷に行こうって事になったじゃん」
「卒、業……あっ」
卒業式。その言葉が彼女から漏れた瞬間、彼女の頭の中に情報がインストロールされたかの様に頭の中でこれまでのことが走馬灯の様に流れていった。
「うん、思い出した」
「そっ、良かった」
そうだ、自分達は昨日卒業したのだ。あの、様々な出会いや学びを多くの仲間と共有した麻帆良学園女子中等部を。かけがえのない仲間に出会い、かけがえのない3年以上もの日々を共に過ごしてきた仲間達。
その、別れの儀式が一部の仲間を除いて執り行われた。今は
、その次の日のこと。兼ねてより計画していた、中学校生活で最も仲の良かった二人と一緒に行く卒業旅行だ。行き先は、担任のネギ=スプリングフィールドの故郷であるイギリスのウェールズ。だが、実のところウェールズ事態に行くのは今回が初めてではない。今から約半年前、夏休みの折に一度彼女たちは他の友達と一緒に訪れているのだ。だが、今回の旅の目的地は、ネギの故郷であるウェールズ、ではない。その半年前の旅行の際に仲間たちが行った世界なのだ。
「
「うんうん! 前に言った時にはパーティーした後すぐ帰ったから楽しむ時間なんてなかったし」
「うん、そうだね……」
科学技術が発達した自分たちの現実世界とは対となる魔法が発達した世界だと聞いた。
話を聞くだけだととても楽しい世界なのだろう。半年前に行った時も、ほとんど戦勝パーティーでの参加が主だったもので、その後すぐに連れて帰られたために
「にしても、ひどいよね明日菜も……」
「卒業式の前の日に急に引っ越しするなんて……」
「うん、それに引っ越し先も教えてくれないなんて……」
彼女たちが口々にしているのは、クラスメイトの一人であった神楽坂明日菜の事だ。明日菜は、担任のネギのルームメイトでもあり、一番彼と近くにいた人間。そして、クラスのムード―メーカーの一つであり、象徴とも言うべき存在だった。
そんな彼女は、卒業式に出席することは無かった。式の後にネギから聞いた話によると、どうやら式を待たずして家の都合でどこかに引っ越しをしたというのだ。
まさしく寝耳に水の話だった。おまけに、手紙を書きたいから住所を教えてもらいたいと話しても、引っ越し先の住所は分からないと言われる始末で、結局彼女の行く先を知っている人間はクラスメイトの中にもいなかった。
三年間、否桜子にとっては初等部の時からの友達である明日菜。そんな彼女が、自分たちに何も言わないで離れてしまうなんて、信じられなかった。なんだか、裏切られた気分である。
それに―――。
「なんだか、雰囲気最悪だったよね」
「うん……」
そう、実は卒業式の後に卒業する学年全員が集まっての、いわゆるお別れパーティーのような物が催されたのだ。
その時、クラスの大半のメンバーの様子がおかしかった。なんだか、パーティーを楽しめていない、楽しむ余裕がない、そんな感じで、中には途中退席する者、そもそもパーティーに出席しないものまで出る始末で、なんだかパーティーを楽しむことすらもできかった。
そのメンバーの共通点は分かっている。いわゆる、《白き翼》の面々である。白き翼とは、行方不明のネギの父親探しに協力するために件の明日菜らを中心としたメンバーによって結成された団体の事だ。
パーティーの中で様子がおかしかった面々は、ほとんどがその白き翼のメンバーだった。きっと何かあったのか。自分たちの知らないようなことが、友達がとても悲しむような出来事が。
けど、何があったのかを彼女たちは知らない。知ることもできない。誰も教えてくれないでいた。
「また、私たち仲間外れになってるんだろうな……」
「そうかもしれない、ね……」
実は《白き翼》の面々は、クラスの中枢部でもあり、そしてネギと一緒に魔法世界を冒険したメンバーでもある。自分たちは、そこでどんなことがあったのかを知らない。教えてもらってない。それだけじゃない。魔法世界に行く前に怒った様々な出来事を、自分たちは全く教えてもらっていない。
知らなくてもいいことがある。そう、ある人物に諭された。知らない方が幸せなこともある。そう、ある人物に優しく肩を叩かれた。
とても、哀しかった。
「……私たち、これからも置いて行かれるのかな?」
「え?」
「クラスの皆、まだ私たちに話していないことが多い気がする。きっと、明日菜の引っ越しも何かあると思う……」
「……」
「卒業して、あのクラスの皆とも会う機会が少なくなって、もっともっと私たちが知らないことが増えていく気がする……」
「……かもね」
「円は、怖いの?」
「うん……」
これは、円だけじゃない、他の二人もまた思っていたことだった。きっと、明日菜が引っ越したという話にも何か嘘が隠されているはずだ。でも、その嘘が何なのか彼女たちには分からない。
教えてもらえないから。教える義務がなかったから。
きっと、自分たちと白き翼の面々の間では飛び越えることのできないような深い深い崖が存在しているのだろう。
魔法世界の冒険で成長した彼女たちと、何も知らなかった自分たちの間には、決して埋まらないなら奈落が存在している。
信頼されていないのだろう。魔法世界を冒険したメンバーとは違い、自分たちには何の力も持っていない。例え今、目の前に敵が現れたとしても何もできずに殺されるだけだろう。
そんな自分たちを危険な目に逢わせたくなかったのだろう。
ハッキリ言って、ヒドイ自己満足だ。そのせいで何も知らなかった自分たちがこんなにも傷ついているというのに、なんでそんな人間たちのことを放っておいているのか。
けど、それも―――。
「私も……とっても怖い……でも、仕方がないんじゃないかな」
「え?」
桜子は、窓の外に見える淡い景色を見ながらつぶやく。
「私たちは、友達が危険な目に逢っているのに気が付かず、冒険をしている合間にのんびりと過ごしてて……きっと、罰なんだよ。それが、何も知らなかった私たちの……」
「……」
「……」
黙り込む柿崎と円。
そう、魔法世界の事はともかくとして、それ以前の出来事、ネギがあの学校にやってきてからの諸々の出来事で、自分たちは気が付かなければならなかったのだ。何かがおかしいと。
そんなこともせずに、ただただ日常が平凡な物だと信じて生活して、友達が裏で危険なことをしているのだということを知らずにいた。それが、自分たちの罰。
おかしいに気付くことが出来たのが白き翼の人間たちであり、気づくことが出来ず、罰を受けなければならなくなったのは、あのクラスで仲間外れにされた自分たち《7人》なのだ。
いや、一人に関しては冒険が終わった直後に直接ネギからそれまでにあったすべての出来事について説明を受けている。つまり、危険だからとか、守りたいからとかそんなのはただの方便。きっと、自分たちは信頼されていないんだ。信頼に値しないと思われているのだ。だから、何も知らされない。誰も、何も、話してくれない。
卒業し、クラスメイトという関わりが無くなった今、自分たちと彼女たちを繋ぐ接点は無くなろうとしている。そうすれば、もう彼女たちの友達としてさえも存在できなくなるのかもしれない。
そんなのは、嫌だ。これ以上、仲間外れになるなんて、嫌だ。
この卒業旅行は、そんな《嫌だ》の発想から生まれた物。
誰にも相談せず、ネギやクラスメイトの大半が冒険したという世界に赴くことで、少しでも縮めたかったのかもしれない。彼女たちとの距離を。彼女たちが、その世界で何をしたのかを知れば、少しくらいは変われるかもしれない。彼女たちとの関係を。
そんな願いにも近い物だった。
「……あれ?」
ふと、桜子は窓の外に点のようなものを見つけた。
鳥、なのだろうか。しかし飛行機はすでに高高度にまで達しており、こんなところを飛んでいる鳥なんているはずがない。
では、一体何なのか。
その点は、徐々に徐々に大きくなっていく。そして、次第にその形が鮮明になっていき、ついにソレが人間であるという事に気が付けるほどになっていた。
人間が空を飛ぶなんてありえない。いや、そんなありえないが起こることを、彼女たちはつい半年ほど前に知らされた。
ついに、その姿がはっきりと見える位置に来た。そして彼女たちは気が付く。その人間が、自分たちのよく知っている人物であるということを。
「え?」
「ネギ、君?」
そう、先ほどから自分たちが頻繁に名前に出している担任であったネギ・スプリングフィールドだ。
もしかして見送りにでも来てくれたのだろうか。いや、しかし。秘匿されているはずの魔法を使用して《自分たち以外》の一般人に姿を見られるリスクを度返しでただの旅行の見送りになんて来るだろうか。
なにかがおかしい。桜子が、そう頭の中でつぶやいた瞬間だった。
「え?」
においをかぐ、ただそれだけで大きく羽ばたけると、そう思っていたのだろうか。
その日、東京発、ロンドン行の国際便が空中で突如爆発した。
乗員乗客延べ523人全員死亡。椎名桜子、柿崎美砂、釘宮円の三人の名前は、その犠牲者の名簿の欄に別々に分かれて書かれていた。小さく、何事でもないように。
だが、死んでしまった彼女たちはやっぱり知ることもできなかった。
ソレが、ネギの近しい者を狙ったテロだったという事を。
ソレが、ネギの近しい物の中で一番弱かった者たちを狙ったテロだったという事を。
ソレが、麻帆良学園元3-Aの全員を大いに悲しませることになるという事を。
そして、ソレがこれから起こる3-Aの悲劇の序章であり、なおかつ、その悲劇を見ることがないという≪幸運≫の一つだったという皮肉を。
彼女たちは《知ることなく》死んでいったのだった。