仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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 ブラック七匠発生中。ブラック七匠発生中。
 今回の話は、例えるなら『高町なのはと言う少女に関する考察in七匠』。私が、彼女のことを知って思った印象はこんな感じです。


魔法少女リリカルなのはの世界1-8

 高町なのはの個室。そこは人でごった返していた。

 その部屋には入院中のなのははともかく、それ以外にも多くの人間が集まっていたのだから、当然といえば当然だ。高町士郎、恭也、美由希、アリサ、すずか。フェイトや、はやて、ユーノ。門矢士以下光写真館組七人。そして。

 

「ってなわけで、私の家族のヴォルケンリッターのみんなや」

「主の騎士、烈火の将シグナムだ」

「シャマルよ。よろしく」

「……ヴィータ」

≪盾の守護獣、ザフィーラだ……ムッ≫

 

 ザフィーラが挨拶を述べたのち、少し困惑した念話を送る。

 その理由はただ一つ。

 

「か、可愛いですぅ」

「モフモフして気持ちいい~」

「こんな可愛い犬君も守護騎士なの?」

「せやで、仲良くしてやってな」

≪私は狼です。主、何故わたしは元の姿に戻ってはならないのですか?≫

「ええやん、三人とも楽しそうなんやし」

 

 と、言う事だ。現在ここでは子犬のような姿になっているザフィーラであるが、本来はもっと大きな体格で、しかも種類は狼。それに、実は彼にはもう一つの姿である人間形態がある。

 筋骨隆々で逞しく、さらにイケメンと悪いところがない姿はちゃんとある。悪いところなんてない、悪いところはないのだが、いかんせん獣状態の姿の方があまりにも可愛すぎるというか子供受けするので生活の殆どが獣状態となっているのだ。

 

「?」

「どうした、ユウスケ?」

「いや、なんか仲間がいるような気がして……」

「?」

 

 因みに魔法の使えない士やユウスケ達には、あやかの方から通訳をしてもらっている。

 この三人と一匹が、夜天の書が作り出したという守護騎士、プログラム。無機物な生命体。

 だが、傍目にはそうは見えない。普通の人間だ。喜怒哀楽もあり、それぞれの感情は人間のそれよりもあるのかもしれない。そんな存在が、無機物な存在であるとは信じられなかった。

 

「そろそろいいかしら」

「あ、すみません」

 

 と、一人の若い女性が突然声を挟んだ。

 リンディ・ハラオウン。フェイト・T・ハラオウンの義母なのだとか。

 2年前の二つの事件の際にはアースラという戦艦の艦長としてその手腕を奮っていたそうだが、現在は艦長を息子に継がせて自身は前線を離れて時空管理局の内勤となり、今はこの海鳴の街に住んでいるのだと言う。

 

「まずは、なのはさんを助けていただいたことを感謝します」

「ふん……」

「おい士……」

 

 自分は、一体何度感謝されれば良いのだろうか。

 高町なのはの事を救ってからと言う物、会う人間会う人間全員になのはを助けてくれてありがとう、ありがとう、ありがとうと言われる。

 なのはがそれだけ慕われているから、と言えばそれまでだが、しかしここまで言われ続けるともはや反応に困る。

 

「あの、今日はなんでフェイトちゃんだけじゃなくてはやてちゃんやヴィータちゃんたちが?」

 

 と、なのははその場にいた者たちに聞く。

 フェイトは、自分がこの病院に転院した後から週に二回から三回の間で見舞いに来ており、今日も事前に見舞いに行くと言うことを聞いていたのでいるのはまだ分かる。

 しかし、他の面々はそれぞれに時空管理局の仕事で忙しくて、お見舞いもほどほどに来ているくらい。強いて言うのなら、所属が同じで、なのはが大怪我をした時の第一発見者であったヴィータと、リハビリで頻繁にこの病院に来ているはやてがフェイトの次によく来るくらいだった。なのに、どうして今日に限って、自分に親しい人間の殆どが集まったのだろう。

 そんななのはの疑問に顔をそれぞれに見合わせる面々。言いづらい話、なのだろうか。いや、この場合はどちらかと言うと誰がその話をするのか見合わせていると言う感じだ。それだけ、このメンバーには周知の事実であると言うことなのだろうか。

 そんな状態が数分間続き、ついにはやてが口を開いた。

 

「実はな、私達はこれを追って来たんや」

 

 そう言って、はやてがなのはに見せたのはUSBメモリである。勿論、ただのUSBではない。

 

「それって!」

「ガイアメモリ!?」

「ドーパントに変身するアイテムですか!?」

 

 と、夏海たち写真館組も反応する。そう、はやてが見せたのはガイアメモリ。先程、シグナムたちが対峙し打ち倒したドーパントの変身者から押収した物だ。メモリブレイクなどと言う手段を持ち合わせていないために必要以上に攻撃する必要があったため、相手を重傷に追い込んでしまったらしいが。

 

「せや。このガイアメモリが、ミッドチルダで製造された後、この世界に持ち込まれたことが分かったんや」

「それで、私達アースラのスタッフや、独自にガイアメモリを追っていた私達が来たの」

「それだけじゃないわ」

「「え?」」

 

 その言葉に驚いているのはなのはだけじゃない。フェイトもである。この様子からすると、そのもう一つの目的という物は教えられなかったようだが、一体なんなのだろうか。

 リンディは、一拍置き言葉を発した。

 

「高町さんの首には懸賞金がかけられているわ」

『え!?』

「なに!?」

「「……」」

「私に、懸賞金が?」

 

 青天の霹靂である。リンディの言葉に、なのは本人は勿論としてフェイト、そして地球組の面々は愕然とした。

 驚いていなかったのは、事前に知っていたフェイト以外の時空管理局の面々、そしてそう言う事態も起こりうることを想定していた士と士郎ぐらいであった。

 

「御免、フェイト。フェイトに知らせると、心配してずっとそばにいるって言うと思ったし、執務官試験もあったし……」

「……」

 

 執務官とは、事件捜査、法執行の権利、そして現場人員への指揮権を持つ地球の日本で言うところの検察官のような物だろうか。

 その多大な実権を所有することのできる役職であるからか、その試験は半年に一度の上に難しく、筆記も実技もそれぞれ合格率15%以下という狭き門なのだ。

 フェイトは、義兄と同じく執務官となるために一月ほど前に執務官試験を受けた。だが、なのはが怪我をし、その見舞いのために何度も海鳴に足を運んだりと言った心労がたたった結果、執務官試験に落ちてしまった。

 なのはは、それもこれも自分が怪我をして入院してしまったからだと落ち込み、なのはを精神的に疲労させる要因となってしまったのは皮肉以外の何者でもない。

 

「で、でもなんで!? なんでなのはに懸賞金がかけられなくちゃ何ないのよ!」

 

 なのはの一番の親友たるアリサは、大声をあげてそうリンディに抗議する。

 

「まぁ、大体想像はできるがな」

「え……」

 

 それに答えるのはリンディではなく、士だ。

 

「今日なのはを襲った奴のように、管理局の指示でなのはが潰した組織の人間が復讐をするために懸賞金をかけた。そう言うところだろ?」

 

 ジュエル・ドーパントの変身者であった男は、たしかに個人的な復讐も兼ねて、金のためであると言っていた。あの金というのは、なのはにかけられた懸賞金の為だったのか。

 

「……そう言うことね」

「酷い……そんなの、逆恨みじゃないですか!」

「はい! 勝手にテロを考えて、勝手にそれを阻止したなのはちゃんを恨むなんて、筋違いです!」

「……」

 

 確かに、逆恨み自体は筋違いで、鳴滝姉妹の言い分もわかる。だが、忘れてはいけない。自分が正しいと思った行動は、誰かにとっては正しい行動とは言えないと言うことを。

 その正しいを憎む人間がいると言うことを。なのはの入った組織は、そんな正しいをする為の組織であり、そんな集団の正しいをよしとしない物達が必ずいる。だから、逆恨みされても当然であるのだ。なのはも、それを覚悟して入っているのだから文句を言う資格なんてないだろう。

 

「今回あたしたちが来たのは、ガイアメモリってやつの捜査だけじゃない。なのはの護衛も兼ねてんだ」

 

 と、ヴィータは言った。つまり、これだけなのはを慕うメンバーが集まったのは、単なる偶然ではないと言うことだ。

 多分、この光景こそ士郎が望んでいた、いや望むしか娘を守る方法がなかったと言うある意味での敗北感のような物か。とにかく、エース級の面子がこれだけ集まった理由は分かった。しかし、である。

 

「来てるのは、これだけか?」

「え?」

「これだけって、話を聞いてると結構すごい人たちだと思うんだけど……」

 

 そう、先の二つの大事件。その中心人物であり解決に導いた者たちがほぼ全員いるのだ。士の言うこれだけ、にしてはあまりにも戦力としては盤石であると思われる。だが、士はそんな桜子の言葉に対して言う。

 

「確かに一人一人の力は凄まじいのかもしれない。だが、いつどんな敵が現れるか分からない中で、必要なのは個じゃなく集、つまり人員じゃないのか?」

 

 そう、ガイアメモリは普通の一般人に見える人間であっても怪物にしてしまう恐ろしいアイテムだ。今この病院に勤務している人間。街にいる人間。日本という国にいる人間。誰がいきなり変身して襲ってくるのかわからない。そんな状況下で必要なものは、多くの敵を倒しにいける個ではなく、多くの敵が来ても守り切ることができる集である。士はそう説明した。

 これに対し、はやては苦笑いを浮かべていう。

 

「さすが、仮面ライダーは全部お見通しや。じつは私もそう考えて、本局にリンディさんと連名で増員の届出をだしたんや。けど……」

「受け取ってもらえなかったのよ。危険な代物であるとはいえ、ロストロギアではないものが出回っている。ただそんな理由で管理外の地球に増員を送ることはできないってね」

 

 曰く、確かにガイアメモリの危険性は本局でも認知している。だが、現在のところそれ自体が次元世界に脅威をもたらすものとは考えられない。よって、第九七管理外世界地球でのガイアメモリ流通に関して時空管理局は最低限の介入しかしない。というものだそうだ。

 これには、ユウスケも憤慨して言う。

 

「そんな理由って、もしかしたらなのはちゃんだけじゃなく地球だって危ないかも知れないのに!」

「仕方ないわ。高町さんは士官候補生とはいえ一管理局員。地球は管理外の世界。もしガイアメモリが次元世界にも危機をもたらすものであれば別だけれど、本局としては積極的に介入する理由はない、ということよ」

「そんなのって……」

 

 事ここに至り、あやかにも士が憤慨した時空管理局の体制の不満点がわかってきた。

 時空管理局とは、ただ管理している世界を守るための組織。それ以外に関してはある特例を除いて介入しないのだ。それが、管理外世界に次元世界、つまり管理世界を危機に陥れる存在が現れた場合にのみ介入すると言うもの。

 ようは管理外世界での事件は管理外世界で片付けろということだ。民事不介入を字で行くお役所仕事だ。

 そもそも、本来なら管理外世界に介入すること事態おかしな話である為間違っていないといえば間違っていない。しかし、やれロストロギアが関わっていないなど、次元世界に影響がないだのと理由をつけられると、自分たちに危険が迫っている時はそれを取り除くために全力を尽くすが、自分たちが危機に遠ければ例えその世界が滅びの危機に瀕していても関係ないと、自分たちの保身のことばかりを考えているように思えてしまう。

 というより、時空管理局はガイアメモリを過小評価している節がある。ガイアメモリ、ドーパントは確かに次元世界に影響を及ぼす可能性は低いかも知れない。しかし、ドーパントの危険性とは話は別。種類によってはその力で何人もの人間を殺したドーパントだっている。次元世界が崩壊するしないに関わらず、危険極まりないのは確実なのだ。

 本来ミッドチルダで製造され、流通されるというのは耐え難い屈辱があるはず。それすらもないというのだろうか。ただエース級の人間数人のみで解決できる事件だと高を括っているというのだろうか。

 

「私も、引き続き増員を送ってもらうように本局にかけあってみます。せめて、拠点となるアースラ……は無理かも知れないけど」

「アースラ?」

 

 アースラ、というのは2年前の事件の時にリンディが艦長を務めていた戦艦の名称だ。現在は、息子のクロノにその座を譲っており、次元世界を行き来してその手腕を振るっているそうだ。

 そんなアースラには様々な機材が積まれており、中にはガイアメモリのような危険物を探索することのできる物がある。そのため、今回の事件に関してもそのアースラを借りれないか本局にかけ合おうと思っているのだが、どうやら望み薄であるようだ。

 現在、アースラは別件の任務のためにアルカンシェルという魔導砲を取り付けている。このアルカンシェルがかなり危険な代物であり、着弾すると周囲百数十キロを空間歪曲と反応消滅によって対称殲滅を図れるという物なのだ。2年前は、闇の書に対抗する手段としてアルカンシェルの取り付け、並びに取り付けられたアースラの派遣に許可が出ることになった。だが、今回のガイアメモリはその闇の書にに遠く及ばない物であると判断されて派遣されない可能性がある。

 他の同系艦も全て本局から貸し出されているため、現状探索能力は落ちるがこの街に現地拠点を置き、そこから探索していくしかないのだ。幸いにもエイミィ・リミエッタという敏腕オペレーターは確保することができたので、今後はその女の子を中心としてガイアメモリの探索をしていくそうだ。

 

「心配あらへん。私がなのはちゃんも、この世界も守る。辛いことや悲しいこともあったけど、ここは私たちの故郷なんやからな」

 

 こんな、絶望とまでは言わないものの危機的状況の中でも、八神はやては前向きになろうとしている。確かに、難しいかも知れない。だが、それでもこの街は守りたい。この世界を守りたい。良いことばかりじゃなかったけど、それでも力を持っている限り自分たちにできる事をしたい。そんな願い。

 一方、前向きになるはやてとは違い、なのはの顔は暗いままだ。

 自分が懸賞金をかけられ、ミッドチルダや他の世界から自分のことを殺そうとする刺客が襲ってくるかも知れない。

 自分の命はどうでもいい。でも、もしそんなことになって周りの人間に、家族やアリサやすずかにそしてこの街の人々に危険が及ぶのは嫌だ。せめて魔法を使えれば自分で対処することなんて容易いことであるのだが、今はまだリハビリの最中のため魔法は使えない。

 ならどうする。どうすれば家族を、友達を助けることができる。

 そうだ。いい事を考えた。この方法なら、家族をこの街を守ることができるし、はやて達もガイアメモリの捜索に全力を尽くすことができる。今は何もできない自分でも、大切な人や物を守ることができる。

 

「あの、リンディさん」

「何かしら?」

 

 そうと決まれば話は早い。なのはは、この中で一番の上司にあたるリンディに対して言う。

 

「私、ミッドチルダに帰ろうと思います」

「え?」

「ッ!」

 

 なのはは気がつかない、その瞬間にアリサの表情が変化したのを。そのままなのはは続けた。

 

「ミッドチルダの病院ならここよりもセキリュティがしっかりしてるし、それに私が街にいなければはやてちゃんやフェイトちゃんがガイアメモリの捜索に全力を尽くせるでしょ? だから……」

 

 自分の命を狙う人間が来るというのならば、自分がこの街を離れればいいのではないか。守る物が減れば、それだけ友達が自由に動くことができるのではないか。そんな、なのはからの提案であった。

 

「だがなのは、本当にいいのか?」

 

 とは恭也の弁である。なのはは、それに対して悲しげな笑みで言った。

 

「うん、みんなが私のせいで危険な目に遭ったら嫌だから。きっと、そのほうがいいんだと思う」

 

 違う。そんな事を聞きたいんじゃない。恭也のソレは、なのはの事を心配しての言葉だけではない。

 なのはの友達であるアリサやすずかは、時空管理局員のフェイト達とは違いそう簡単にミッドチルダに行くことができない。だから、今後ミッドチルダに、拠点となる場所を移すなのはと話すことができるのは今だけなのかも知れない。なのは自身は中学までは通う、とアリサやすずかに約束しているらしい。しかし、恭也の目から見てもワーカーホリックであるなのはが、プライベートと仕事とを分けることができるだろうか。

 いつ死ぬかわからない仕事に就いている事がわからないのか。もしかしたら、その選択がアリサやすずか、そして自分達との今生の別れになる可能性は考えているのだろうか。それなのに、何故誰かのことを考えようとする。

 そして……

 

「なによ、それ……」

「アリサ」

 

 何故友達のことを傷つけていることに気がつけない。

 

「私たちのため? 誰かのことを守るため? ふざけないでよ!」

「ッ!」

「いつもいつも誰かのため誰かのため誰かのためって、はっきりいえばいいでしょ! 自分が嫌だからって! 本当は、誰かが傷ついて自分が傷つくのが嫌だからって、自分の事を守りたいからっていえばいいでしょ!」

「そんなことっ」

「違うわけないじゃない! だって、私……なのはが、なのはが、自分のことを大切にしているところを見たことがない!」

「ッ!」

「いつも自分から傷ついて、いつも全部背負い込んで、私たちに伝えるのは全部終わった後……私たちはなのはにとってなんなの? なのはのお荷物でしかないの? 私たちは、なのはの自殺の道具にしかなれないの? 私たちは、なのはの居場所になることもできないの?」

 

 本心だ。これまで、なのはが魔法の世界で危険な目に合っていると聞いてからの本心だ。

 よく、誰かのために戦える。誰かのために命を賭けられる人間は強いという話を聞く。

 それは違う。

 その本質はただの自分勝手だ。

 誰かのために戦って。死んでしまったら、その誰かはその十字架を一生背負っていかなければならない。

 命を失ってしまったら、その誰か以上に大勢の人たちが悲しんでしまう。それを知らずに戦う人間は、ただの自分勝手の自殺志願者の大バカ者だ。

 なのはの心は、おもちゃ箱と同じだ。

 友達や、他人が中身を持っていて、なのははそれを笑って見送って。本当は自分も遊びたいのに、誰かが喜ぶのならそれでいいと、誰かの心が癒されるのであればそれでいいと分け与え、あげて、次々と遊び道具が無くなっていく。

 温かさという名のぬいぐるみ。

 未来という名のボール。

 別の道という名のゲームソフト。

 次々となのはは手放していった。それが、苦しいことであると気が付かない。いや、気が付かないふりをして自分の心を守っていた。

 そうしてどんどんとなのはのおもちゃ箱からは遊び道具が消えていく。消えて、消えて、消えて。

 残ったのは、ガラクタのみ。

 絶望。

 哀しみ。

 苦しみ。

 痛み。

 閉ざされた未来。

 それでもなのはは笑うだけ。私の代わりにみんなが笑顔になれてよかったと笑うだけ。

 悲しむこともない。

 なのはは笑顔を届けるだけ。自分の身を代償に、誰かの笑顔を守るだけ。

 なのはは限界を知らなかった。自分一人でできる限界を知らなかった。だから無茶をするしか仕方がなかった。

 なのはの事を天才であるという人間たちがいる。

 違う。

 普通の人間は己の限界を知っている。どれだけやれば自分が傷ついてしまうのかを知っている。だから力をセーブしている。

 だけど、なのはは違う。

 己の限界がどこであるのかを知らない。いや、知ったとしてもそれ以上の力を出す。守りたいものを守るために。

 なのはは仲間を頼りにしているという。

 なら、なんでなのはは限界まで力を出す。

 答えは明白だ。

 なのはは、本当は≪仲間を信じていない≫のだ。きっと、本人も気が付いていないだろうが。

 フェイトも、はやても、ユーノも、家族も、ヴォルケンリッターも、彼女にとっては守る対象であって、信じる仲間であるとは思っていないのだ。信じていないから、自分がするのだ。自分がしなくちゃ何も守れないから。だから、なのはは一人で二人分にでも三人分でも力を出す。

 なのはは他人が傷つくのを恐れている。

 だから他人を頼ろうとしない。

 なのに、自分が傷つくのが嫌い。

 だからなのだ。

 

「もういい……ミッドチルダにでもどこにでも……いけばいいじゃない!」

 

 自分の言葉が、刃であることを知らないのは。

 

「私たちは、友達でも何でもないんだから!!」

「あ……」

「ッ!」

「アリサちゃん!」

「アリサ!」

 

 アリサは、そう言うと病室から飛び出していった。すずかもまた、そのアリサを追って病室から飛び出していった。そして、フェイトもまた二人の事を追おうとした。

 しかし、あやかがフェイトの前に立ち言う。

 

「二人の事は、私たちに任せてください」

「あの二人の気持ち、私たちにも分かるから」

「「はい!」」

 

 麻帆良ガールズ四人はそう言うと、病室を出ようとする。が、その直前あやかはドアの前で言った。

 

「なのはさん」

「え?」

「私たちには、私たちのことを待っていてくれる人たちがいます。そんな人たちのことを、私たちは誇りに思います」

「……」

 

 そして、四人の姿は消えていった。

 病室内には、重苦しい空気感だけが残る。なのはは、いったい自分の何が彼女の逆鱗に触れたのか、自問自答する。だが、答えが出るはずもなかった。

 なのはは、『この世界の』なのはは、自分にとって本当の希望とは何なのかを、忘れてしまっていたから。




 アリサが激怒した理由。アリサが心の内をさらけ出さなければならないほど怒った理由。貴方は、分かりますか?
 というか、今のところなのは組の戦闘シーンが皆無なんですが……。

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