あと、クロスオーバー物描く人はプリキュアオールスターズ物の映画とか参考にした方がいいとも言ってました。
塩辛い風が頬に突き当たる。海が近いのだろう、カモメの鳴き声もひっきりなしに聞こえてきている。
街を行きかう人たちにこれと言っておかしなところは見受けられない。ここ最近、あやかたちと出会った世界以降から考えると普通と言って差支えのない町である。
まさしく平凡な街。しかしそんな街の中で確かに人は生き、成長している。平凡である物の、そんな生活を守ろうと努力をする。それが普通の生活だ。
自分たちは普通とはあまりにも距離を置きすぎたのだろう。ただの普通が、こんなにも懐かしくなるなんて。
だが、自分たちはもう戻ることはできない。普通という暮らしに、普通という毎日に。自分たちは戦いから逃れることが出来ない。いつか来る死に抗うことしかできない。
だが、自分で決めたことだ。自分で足を踏み入れたことだ。だから、仕方がない。いや違う。後悔はない。後悔はないのだが、それでも思うことがある。戦いのない、死の恐怖のない世界、生活、それがいったいどれだけ尊いものであるのかを。
なんてこと、彼が考えているわけもなく、ただただトイカメラでその町並みを取っていくだけ。しかし、これまでの世界と比べれば被写体にあまりインパクトがなさすぎる。ある意味これまでの世界が異常すぎたのも原因であるのかもしれないが、それを考慮したとしても物足りない。
「まぁ、普通の街だな」
「それは見たら分かります」
「あの背景ロールだったんだから、魔法が関係する世界だと思ったけど……」
「私たちの世界のように、魔法が秘匿されている……という可能性も無きにしも非ずですわね」
そう、あの背景ロールに描かれていた物。あれは、どう考えても魔法陣だ。ということは、なにか魔法が関係した世界であるということは間違いない。しかし、何度も言うが今自分たちがいる街は何の変哲もないただの街並みが広がるのみ。あまり魔法が関係してくるとは考えられない。
ここはやはりあやかの言う通り魔法が秘匿されて表向きになっていないと考えるべきだろうか。
「そういえば士君」
「なんだ?」
「千冬さんから何を貰ったんですか?」
「あぁ、これか?」
といって士が取り出したもの。それはあの時織斑千冬からもらった小包の中に入っていた物だ。
「あれ? それって確か……」
「士さんがパワーアップする時に使っていた奴だよね?」
「あぁ、ケータッチによく似ているな」
確かに、士が今持っている物はディケイドがコンプリートフォームに変身するために使用しているケータッチとよく似ていた。いや、違うところと言ったら色にマゼンタの配色が多く使われていること、それから21という数字が見えるところくらいで、それ以外は全く同じだ。
「恐らく、これはネオディケイドライバーに対応して作られた物なんだろう」
「え?」
「篠ノ之束は、ショッカーと行動を共にしていたらしいからな。そこで、俺がさらなるパワーアップをしたと聞いて、コレを作っておいたんだろう」
「でも、随分用意が良いんですね束さんって……」
確かに桜子の言う通りだ。そもそも自分たちは結局束に会ってすらいないし、あの世界に訪れるかどうかも運次第だった。それに、ショッカーに所属していた束は士たちの敵も同然で、わざわざ士のための強化アイテムを製作する理由なんてあるのだろうか。
「まぁ、恐らく作れるから作った……といったところだろうな。別に俺に渡すことなんて考えていなかったんだろう」
「そういう物かな?」
と、疑問符を並べるユウスケであるが、実はこれが正解だ。
束自身、別にディケイドを強化させようと思ってこのケータッチ21を製作したわけじゃない。ディケイドが変身できる仮面ライダーが増えたことによって強化フォームであるコンプリートフォームに変身する時に押さなければならないライダーズクレストの数が比例して多くなっている。そのことに気が付き、それならもう少しコンパクトにまとめられないかという好奇心で研究の合間に作っていた物、それがケータッチ21であった。ただそれだけ。別に士のためを思って作ったわけじゃないのだ。そして、士自身もそれを理解していた。ただ、それだけだ。
「それにしても、弱りましたね」
「え? 何が?」
「いえ、魔法が秘匿された世界であるのなら、一体何処に行けばいいのかと……」
「あぁ、確かに……」
あやかの言葉を聞くまでユウスケも忘れていた。そうだ。こんな普通の街中で、しかも魔法が秘匿されている可能性がある中で自分たちはいったいどこに行けばいいのだろうか。
いや、もしかすると今までがあまりにも簡単すぎたのかもしれない。麻帆良では子供先生というあまりにも異様な光景があったし、IS学園の時はそのものずばりで学校の中に光写真館が出現したからその場所で何らかの事件が発生することが分かった。ソードアート・オンラインやハルケギニアの時に至っては転移してすぐに事件に巻き込まれたりして何処に行けばいいのか考える時間すらもなかった。ハルケギニアの場合士のみ当てはまるのだが。
今のところ、この街に転移してきたということは、ここで何らかの事件が起こる。ということであるはずなのだがいまだにそのような気配はかけらもない。だが、何か意味があるはずなのだ。自分たちがこの街に飛ばされてきた意味がどこかに。ふと、ここで桜子が思い出す。
「あ、そうだ! 今回の士先生の衣装を見ればいいんだよ!」
「あ、そうです! なにかのヒントになるかも!」
「ん?」
確かにそうだ。麻帆良の時は先生、ソードアート・オンラインの時はプレイヤー、ハルケギニアの時はルイズの使い魔(仮)、そしてIS学園の時にはジャーナリスト。士は別の世界に転移するたびに関係のある場所に何の違和感もなく潜り込める役割をいつも与えられていたのだ。だから今回もその恰好がヒントになるのかもしれない。そう考えたのである。
と、いうことで今回の士の格好である。
「これって、白衣ですよね?」
「それじゃドクターって事?」
「何かの研究者、ということもあるぞ?」
一体どちらなのか。夏海は少しの間考える。
それにしても、この街中でただ一人白衣を着ている人間というのはかなり異質である。特に、マゼンタ色という特異なカラーのトイカメラを首から下げているため、その衣装とのミスマッチ具合が半端ではない。
だが、そんなこと構わずに士は白衣のポケットをまさぐってみる。そして、何かを見つけた。どうやら、IDカードのようだ。
「海鳴大学病院……小児科医」
「海鳴……それがここの地名なのかな?」
海鳴り、文字通り海が音を立てて鳴るということ。沿岸から遠く離れた沖で波が崩れる際に放たれる音が反響して聞こえる轟音のこと。時には10キロ離れたところから放たれる音も聞こえるそうだ。
古来より、天候悪化の兆候ともよばれているソレは、海鳴りの後は風が強くなる、波浪が来ると言われているそうだ。
地名にもなっているということは、この街でも海鳴りが聞こえてくるのだろうか。今は特に天候が荒れている様子もないために気配すらもうかがえないが、もし聞こえてきたらそれは迫力のある物であるのだろう。
とにかく、これで自分たちが行く場所の特定ができたわけだ。病院、それも大学病院という大きな物で有れば、地元でも有名なはずだ。
その辺を歩いている人間に話を聞いたら一発で分かった。それも意外と近かったらしく、このまま歩いていても十分もかからないだろう。
ということで件の海鳴大学病院に向かう士たち一行。ふと、ユウスケが言った。
「けど、なんで病院なんだろうな?」
「さぁ、分からん」
「もしかしたら、この世界にとって大事な人が入院しているのかも」
「あ、でも病院に勤めている人が、という可能性もありますよ」
「確かに、仮面ライダーにもお医者さんや看護師さんがいたわけですしね」
鳴滝姉妹が言うのは、仮面ライダーエグゼイドこと北宝永夢と、その同僚であるポッピーピポパポのことだ。確かにあの世界の人間のように病院勤めの人間がこの世界にとってのキーパーソンということもあるのかもしれない。
それに、考えてみればソードアート・オンラインの世界ではキーパーソンたるキリトやアスナの意識はゲームの中にあったが、現実の世界では病院のベッドの上で眠っていた。ソレと同じようにこの世界のキーパーソンも昏睡状態にある可能性もある。
「なんにせよ、まずは病院にたどり着く事だな……」
その時であった。
「!」
「悲鳴!?」
自分たちが今から行こうとしていた方向から聞こえてきた悲鳴。そう、事件はすでに始まっていたのである。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
遠くへ、もっと遠くへ。病院着に身を包んだ小学生の女の子は、ただそのことだけを考えて走る。
なぜ彼女が走っているのか。それは、数分ほど前に突如として襲ってきたあの不審人物が理由。いや、不審人物じゃない。あれは、まぎれもなく怪物の類。一体あれはなんなのか。
個室に入院していた自分は、とある事件に遭遇したことによって負った傷を回復するのに専念していた。本当は、早くリハビリがしたいと主治医に頼み込んでいたのだが、今はまだその時期ではないと断られて意気消沈していた。そんな時の出来事だった。病院に、突如として怪物が侵入してきたとの放送。
自分が入院しているタイミングでの襲撃からいって、狙いは自分高町なのはなのではないかと考えた少女は、個室から脱出すると一目散に逃げる。そして彼女の考えは当たっていた。その時初めて目視した怪物は、自分の姿を見るや否や他の患者や病院に来ていた人間など無視して自分の方に向かってきたのだ。なぜ自分をおそってきているのか。その理由については考えはあった、しかしそれを考察している余裕なんてものはない。とりあえず、これ以上被害が増えることのないように人気がないところに逃げるしかなかった。
けど、どこへ、どこへ逃げればいいのか。仲間のいる場所は遠く、友達や家族を巻き込むわけにはいかない。それはまさしく、孤独の逃走劇。誰も頼れない状況で逃げる場所などほとんどと言っていいほどに存在しない。
その中で彼女が選んだのは、海鳴の山の中にある神社であった。ここは自分にとって思い出の場所の一つ。数々の戦いの中でも二回目に訪れた場所であり、自分がソレのことを認識してから初めてちゃんとした戦いを行った場所だった。
ここならば、ほとんど人が来ないため誰かをまきこむ心配はない。けど、それまでだった。彼女にできることは。
「ッ!」
気がつけば、怪物が目の前にいた。一体いつ追い越したと言うのか。それとも、ここで待ち伏せしていたと言うのだろうか。いや、だがどちらにしてもおかしい。
自分に追いつく、もしくは先回りする力があるので有れば、事件で体力の落ちている自分ならすでに捕まっていてもおかしくはないはず。それなのに自分は終ぞおいつかれることもなくこの場所に辿り着くことができた。
遊ばれているのか。自分に追いつく力はあるものの、いつでもそのタイミングはあるのだから少しくらい野放しにしていたとしても問題はない。そう思われたと言うのだろうか。
甘く見られた物である。しかし、事実今の彼女はいつ殺されてもおかしくはない状況にあったのは確かだ。この絶体絶命のピンチを切り抜ける方法は一つしかないだろう。
「行くよ……レイジングハート!」
少女は懐に忍ばせておいた相棒である赤い宝石を取り出すとソレに向けて話しかける。この一見すれば気でもおかしくなったのかとも思える行動ではあるが、この行動が意味しているものがなんであるのか、読者はすでに分かっていることであろう。
少女の言葉に応えるように、赤い宝石は点滅しながら彼女に一言言った。
《NO、master(ダメです。マスター)》
赤い宝石の答えは拒否。いっそ清々しいと言ってもいいほどの拒絶である。
「どうして!?」
《The damaged master's linker core cannot withstand the magical power of the current master even if it can use magic(傷ついたマスターのリンカーコアでは、仮に魔法を使えたとしても今のマスターの魔力に耐えきれません)》
彼女、高町なのははこの世界においてもとある任務中の事故により魔力を貯蔵する器官であるリンカーコアにダメージを負っていた。
今の彼女はその時に負った傷の影響で魔法を使用することは困難だった。もし使用できたとしてもその先に待っているのは代償は生半可な物ではないだろう。そんなこと百も承知だ。だが、それでもなおなのはは戦おうとした。自分が戦わなければ、自分が立ち向かわなければ、自分だけじゃない。自分の大切な人たちの命にも危険が及ぶ可能性があるからだ。
「だけど……だけど、このままじゃ」
≪Caution(警告)≫
「!」
その時、怪物の一体が拳を振り上げた。いつの間にここまで近くに来ていたのだろか。ダメだ、ついこの間までの自分であればともかく、今の自分ではこの攻撃を避けることが出来ない。
高町なのはの背筋が凍った。自分に近づいてくる脅威に対して、何もできない自分が恨めしかった。避けれない、逃げれない。しゃがんでも意味がない。そもそも身体が動かない。
迫りくる剛腕を前にして、彼女にできることは何一つとして存在おらず、ショックのためなのだろうか。すべての映像がスローモーションのように映る。
嫌だ、死ぬのは、嫌だ。そう願う時間ですらも無意味で残酷な時間。この時が終わるとき、自分の命がどうなるのか、想像するのは難しくもない。
残酷な拳は、ついに無防備な少女に振り下ろされようとしていた。
「
「ッ!!」
「え?」
その時、怪物の側面に光線のような物が当たった。
「今のって魔法?」
≪But it's like another line of magic that is neither MID-LHILDA System nor Ancient BELKA System(ですが、ミッド式でもベルカ式でもない別の系統の魔法のようです)≫
経験則から分かる。今の攻撃は魔法だった。だが、相棒の言うには自分の知っている魔法の系統とは違っていらしい。ということは、自分の友達が助けに来たわけではないのか。なら、一体誰がそのような魔法を使ったというのか。
「そこのあなた! 今のうちに!」
「え?」
と、声をかけてきたのは長い金色の髪を持った綺麗な女性。雪広あやか、そして士たちであった。
間一髪の状況だった。病院で何か事件が起こったらしいことを察知した彼らは、すぐさま駆け付けた。が、すでにその時には怪物たちはおらず、話を聞くと女の子を追って神社の方に向かったと言うので急いで向かうと、ちょうど見覚えのある怪物たちが同じく見覚えのある女の子を襲おうとしていた、というわけだ。
「あれは、もしかしてドーパント!?」
「というか……」
「あの襲われている女の子って……」
「えっと、確か……高町なのはちゃん!?」
襲われていた少女の姿を見た麻帆良ガールズは、驚きを隠せない。
それもそうだろう。あの転生者、そして転生神との激しい戦いが繰り広げられたプリキュアの世界。そこに門矢士が赴いている最中で発生した一つの小さな事件。その当事者たる少女が今目の前にいるのだから。
「ってことは、この世界にもプリキュアが?」
「あるいは、別の並行世界か……とりあえず、今はあのドーパントを叩くぞ……変身!」
≪KAMENRIDE DECADE≫
「あぁ! 変身!」
あのなのはが自分たちが勝手に知っている高町なのはと同じ人物であるのかはさておき、今は彼女を救い出すことが先決だ。士とユウスケは、もはや慣れた手つきでそれぞれディケイドとクウガに変身する。
「……フッ!」
「ハァァ!!」
ディケイドはライドブッカーをソードモードに変形させて撫でるとクウガと共にドーパントへと向かう。
「私たちはなのはちゃんを……」
「はい!」
「敵は私と桜子さんにお任せを」
「つゆ払いは任せて!」
「お願いします!」
一方麻帆良ガールズと夏海はその隙になのはを安全な場所に誘導するために動く。
「ハァァァァ! ハァッ! ハァ!」
「フッ……ハァ!」
ディケイドは、マスカレードドーパントたちを切り裂いていき、クウガはなのはの目の前にいたドーパントに飛び掛かり少女に実害のない距離まで離す。
この、突然の状況変化になのはは当惑する。一体、先ほどの攻撃は。それにこのピンクと赤の鎧を来た人たちは一体何なのかと。どうやら自分を助けてくれているようだが、一体何の目的でそのようなことを。
「なのはちゃん! こっちです!」
「です!」
「え?」
「「
そうこうしている間にも、最初に怪物に攻撃を加えた少女を含めた数名の女性が自分の手を引っ張る。恐らく、こちらも自分を安全な場所に連れて行こうとしているのだと思うが、何故彼女たちは自分の名前を知っているのだろう。前に会ったことがあっただろうか。失礼ながら、自分には覚えがない。一度会ったことのある人物であったのならば、記憶に残っているはずなのだが。
「一体、何なの?」
高町なのはのつぶやきは、士たちの戦いの轟音にかき消されてしまいむなしく消える。
≪……≫
一方、なのはの相棒であるレイジングハートはこの状況の全てをある場所に送信し続ける。
これが、全ての始まり。魔導師高町なのは最期に向かう物語の始まりであった。
今回の世界は私が高町なのはの人物像、設定、それからアニメのストーリーを聞いた瞬間に浮かんできた物語です。