仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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 今回の話、このインフィニット・ストラトスの世界最大の種明かし回です。
 皆さんは、この真実に気が付いていましたか?


IS〈インフィニット・ストラトス〉の世界2-18

 オルフェノクの寿命は短い。

 急激な進化に人間の細胞が追い付かず、また人間の細胞とオルフェノクの細胞の間での拒絶反応もあってのことだ。

 彼は、それに抗おうとした。一番頼りになる人の力を使って。人間に戻る方法を探した。

 けど、結局は無駄だった。それどころか、人間に戻るための実験を繰り返すことによって彼の寿命はさらにすり減らされてしまった。

 もう、彼には明日など残されていないのかもしれない。もしかしたら、それもまたこの愚かな道を選んだ理由なのかもしれない。

 自分には残されていない明日を、未来を、友に、姉に、そしてもう一人の自分に歩いてもらいたいから。自分の代わりに、名もなき怪物の代わりに。

 後悔がないと言えば大嘘になる。後悔なんて、山のように浮かんでくる。今もそうだ。

 けど、死ぬときに後悔のない人間なんていない。だから、後悔があっていいんだ。

 そう、もういいんだ。

 死ぬのは怖い、とても、すごく、悲しい。辛いよ、嫌だよ。でも、もういいんだ。

 みんなの明日を守れたんだから。みんなの未来を守れたんだから、だから、それでいいんだよ。

 もういいんだよ。

 だから―――。

 

「その手を離してくれよ……織斑一夏」

 

 落ちようとしていたオルフェノクの手を、ワームから人間の姿に戻った織斑一夏は、本能のままにその身を投げ出してまで掴んだ。だが、掴んだまではよかったが、右手でもう一人の一夏を、利き手ではない左手で建造物の、それも坂道になっているためつかみにくい場所をこうして掴んでいるだけで体力を奪われていく。一夏の握力が無くなってしまうのも時間の問題、そうなれば二人まとめて真っ逆さまだ。

 

「このままじゃ二人とも死んじまう。だから、その手を離せよ……」

「ッ……!」

 

 そして、そんな二人の事を遠くから見ている一つの影があった。

 

「一夏……」

 

 織斑一夏の姉だ。

 学校の影から落ちようとしている二人の事を見ている彼女。だが、そのすぐそばに打鉄があり、当人もまたISに乗る際の格好をしていることから、いざという時に一夏を助けに行く準備は整えている様子だ。

 だが、今がそのいざという時なのではないだろうか。

 ただでさえ戦闘の後で体力を失っている二人が、いつまでも長くその状態のままいられるとは思えない。だから、普通であればすでに彼女が助け舟を出していてもおかしくはない。

 何故、彼女はただ見ているだけで身動き一つとることは無いのだろう。

 それに何だろう、一夏とはまた別の方角にも目を時折向けている。まるで、そこから誰かが来ることを待っているかのようだ。けど、一体誰を待っている。

 誰を。

 

「この学園にいたのが本物じゃなかったこと……知っていたんじゃないのか? 織斑千冬先生」

「……」

「知っていた?」

 

 そんな彼女の背後から士がそのような言葉をかけ乍ら現れる。士と共にいたユウスケは、その言葉に対して若干の驚きを含んだ声で士の言葉を反復する。

 戦いの中で本物の織斑一夏の真の目的に気が付いていたユウスケではあったが、織斑千冬が一夏のことを元から偽物であると見破っていたことに関しては考えが及ばなかった、というか、思いもしなかったことだ。

 

「どういうことだよ、士?」

「織斑千冬は一夏が記憶を取り戻すことを危惧していた。俺は最初、それが誘拐された時のことを思い出して、トラウマに苦しめられることを恐れていた物だと思っていた。だが、今になってみれば、お前が思い出してもらいたくない記憶というのは、ワームとしてのアイツの記憶だったんじゃないのか?」

 

 確かに、千冬は士に対して記憶喪失が回復したときどう考えたのか、どういう感情が沸いたのかという話を聞いていた。

 

『湧いてきたのは怒りか、憎しみか、悲しみか、驚きか』

 

 というものだ。

 考えてみればただトラウマを思い出しただけで怒りや憎しみといった感情が沸いてくるだろうか。また、何故湧いてくると考えたのだろうか。それは、千冬が一夏の正体を知っていたから。ワームとしての記憶を思い出したら、本来のワームとしての凶暴性を発揮して仲間たちに危害を加えることを懸念したからじゃないか。そう、士は考えたのだ。

 

「けど……それって無理がないか?」

 

 そう、士の考えは単なる憶測にすぎない。また、ユウスケの言う通り話のつながりが無理やりすぎる。第一もし千冬がその考えを導き出そうとするのならかけている情報が一つだけあるのが大問題だ。

 

「そもそも、それって千冬先生がワームのことを知ってなければダメだよな」

「まぁ、その通りだな。いくら偽物だと分かったとしてもワームの凶暴性を知っていなければ起こりえない考えだ」

 

 偽物と言ってもいくらかの候補はある。影武者だったりクローンだったり。けど、その中でも凶暴性のある怪物であるワームという存在に行きつくためには、ワームという存在そのものを知っていなければならない。あまりにもお粗末な推理であると言える。

 

「だが、一つだけ可能性がある」

「可能性?」

「あぁ……それは」

 

 士のはなった言葉、それはユウスケの顔を驚愕の表情で埋めるには余りある物だった。

 

 一方、一夏の手を取った一夏はだが、いつまで続くか分からない重さに耐えるのに必死であった。

 

「どうせ、俺の寿命は短いんだ。今生き残っても、長くはない……だから、このまま……」

「そんなこと、理由にはならねぇッ!」

「ッ!」

 

 しゃべるのも辛い、だがそれでも言わなければならない。言わなくてはいけない。

 この誰かのためを思っているつもりでも、しかし自己中であるこの男に。

 

「例え寿命が短くても、望んでいる明日が来なくても、今は今じゃないのか! 例え今がどれだけ苦しくても、どんだけ見たくない未来があったとしても、今の自分の人生が一番大切なんじゃないのかよ!」

 

 例え、別の自分の人生が悲惨であったとしても、別の自分が仲間も守れない程弱かったとしても。それはただの他人だ。自分だけど、他人だ。他人の人生だ、自分のものじゃない。だったら、いくらでも変えることが出来たはずだ。自分の志一つで変えることが出来たはずだ。それに―――。

 

「お前は気が付いていたはずだ! 例え、自分が怪物だったとしても、織斑千冬なら笑顔で受け入れてくれるってことを! 化け物でも人間のように生きることが出来るってことを! 俺のように!!」

 

 織斑一夏は、篠ノ之束と共にショッカーに入った。それは、織斑一夏を元の人間に戻す方法を見つけるためだったので、結局それは叶わなかったわけなのだが。

 しかし、そこで彼は知った。自分のように化け物の身体を持っていながら、人間のために、人類のために戦える者たちがいるということを。

 例え、自分の命がすり減ろうとも人間のために戦ったオルフェノクがいるということを。

 そう織斑一夏は知っていたのだ。化け物であってもいい、人間に危害を加えるかもしれない。それでもなお、人間のふりをして、人間社会に溶け込んで、そして普通の人生を人間たちと共に過ごす、そんな人生もあるのだと知っていた。

 それを知った織斑一夏は、少し遅すぎたかもしれないが、織斑千冬の元に帰ろうと思った。だが、変えれなかった。そこに、彼がいたから。

 

「お前は怖かったんだ。誰かの人生を奪うことが、誰かが不幸になることが。例え、それが自分自身をコピーした、偽物だったとしても!! その偽物の人生を奪って幸福になんてなりたくないって、ただの自己犠牲が大好きな大バカ者だよお前は!!」

 

 そこにいたのは、もう一人の自分。記憶喪失によって一度リセットされてはいるがしかし、織斑一夏としての人生を生きている自分の姿。

 もし、自分があの場所に戻ったら。彼はどうなるのだろ。よくても悪くても、彼に待っているのは地獄。自分が居場所だと信じていた場所から追放され、自分のように、いや自分以上に孤独な生活を送ればまだいい方。悪ければ、研究施設に送られて実験台とされる。そんな人生しか待っていない。

 そんな地獄を強いていいのか。いや、よくない。自分が幸せになるために誰かの犠牲があってはダメなのだ。だから、一夏は彼の居場所を奪おうとはしなかった。奪いたくはなかった。

 自分自身が傷ついても、彼の人生を《守り》たかった。それは、織斑一夏の最初の願いと同じこと。仲間を姉を守りたい。その願いの一部。

 ワームの織斑一夏にとっては、そんな物余計なお世話だ。 

 

「お前は織斑一夏だ! それ以外になることなんてできない! なのに、お前はその織斑一夏の人生を、他人に渡そうとする。そんなことしても、お前が織斑一夏であるということは絶対に消えてなくなることのない事実だ!」

 

 元々織斑一夏の人生は織斑一夏の人生じゃないか。偽物である自分が歩んでいいものじゃなかったはずだ。だから、追放されたとしても、研究目的で解剖に出されたとしても、それは自分の人生だと諦めがついたはず。実際にはその時にならなければ分からないのだが。

 だが、彼は感謝しているのだ。元々空っぽだった、ただ怪物としての人生を歩むはずだった自分に、織斑一夏という人格と、人生と、一夏が手にいれるはずだった仲間や姉、そして自分自身が生きる目的を与えてくれた。そんな織斑一夏に感謝している。

 だからこそだ。

 

「織斑一夏! お前の人生はお前だけのものだ! お前が……織斑一夏を諦めるんじゃねぇ!!」

 

 誰かに、代わりに歩いてもらう人生なんてものは存在しない。いや、存在してはならないのだ。

 人生とは、その人だけが歩むことのできるかけがえのない宝物。

 一人一人が持つ原石を、輝かしい宝石にするための道程。

 時に、人は自分の人生を諦める。そして、自分が歩むはずだった人生を、自分が作り出すはずだった宝石を、誰かに代わりに作ってもらおうとする。

 だが、その誰かが望む、望まざる関係なく、他人から与えられた人生を歩んでも、出来上がるのはただの粗悪品、よどんだ輝きしか出すことのできない宝石しか作れない。

 自分で決めた人生こそ、値打ちがある。

 自分で作った宝石こそ、きれいに輝く。それが人生。

 けど、輝かしい宝石の中にも、少し足りないものがあると思うようになる。

 どれだけ努力を重ねても、どれだけ勝ちを重ねても、最高の宝石を作れない。

 何故。何故。何故。

 それは、たった一人で作ったからだ。

 確かに人生は一人一人が持ち、また一人一人が歩いていくもの。

 だが、時には道しるべが必要になるのだ。

 家族か、先生か、あるいは友達か。

 いったい誰が道しるべになるのか分かったものではない。時には、それが劣悪な道へといざなう悪魔になるのかもわからない。その結果、出来上がった宝石が粗悪品になるのかもしれない。

 けど、粗悪品でもそれを綺麗だと言ってくれる人が必ずいる。別の人間の感性と全く違う人間がいる。

 一人一人が持つから、いろんな形が出来上がるから、人生は楽しいものであると言えるのだ。

 そんな楽しい人生を諦めてどうする。

 どれだけ辛くても。

 どれだけ悲しくても。

 立ち直れそうのないほどに苦しくても。

 その人生を誰かがほめてくれる。よくやったってねぎらってくれる。そのはずだと信じて生きる。それが、辛くて苦しい人生を生きる意味。

 怖くても、真っ暗闇でも、その先にある宝石を手にいれるために、仲間たちとともに歩む道。

 過ちを繰り返し、悩み、怯え、それでも手を引いてくれる誰かのために生きる自分の人生。

 価値が出るか分からない。

 でも、価値のある人生。

 意味のある人生。

 見つけた。彼のおかげで。

 出逢えた。間違えていない道しるべ。

 織斑一夏の人生は、もう織斑一夏一人が決めていい人生では無くなっていた。

 織斑一夏を支えるたくさんの人たちが一緒に作り上げる宝石となっていたのだ。

 

「なら、聞く……俺が、織斑一夏だとしたら……お前は一体、何なんだ?」

「……」

 

 その質問に、ワームは考える。

 俺は、いったい何なのだろう。

 織斑一夏。いや、違う。自分は、俺は。

 

「通りすがりの……ただの化け物(ワーム)だよ……」

 

 そう、元々そうだった。元々ただの化け物でしかなかったのだ。

 そんな自分に意味を与えてくれた織斑一夏を、絶対に殺させたりはしない。

 寿命が短くてもいい。化け物だったとしてもいい。ただ、味わってもらいたいのだ。

 本来の織斑一夏が歩くはずだった人生を。

 仲間に囲まれる幸せを。

 そして―――。

 

「ISに乗る、楽しさ……をッ!」

 

 もう、悲しみながらISになんて乗ってもらいたくはない。

 だが、時として運命という物は残酷に回る。

 ギリギリであるとは言え、まだ彼の握力には十分の余裕があった。もう少し力を入れればそのまま彼を助けられるくらいの余裕があったはずなのだ。

 しかし、誰も予想だにしていなかった。

 二人の一夏の戦いによる余波で建造物にまで及んでいたダメージ。そのために、一夏が身体を預けていた場所にあったヒビが二人の重みに耐えきれず破片となって建造物から落ちていったのだ。

 

「ッ!」

「やべッ!」

 

 無論、その破片の上にいた一夏の身体は、ほぼ自動的にがれきと化したものと一緒に地面に落ちていくしかない。

 二人の身体は、ついに空に投げ出されてしまった。

 

「一夏!」

「まずい、早く助けなくちゃ!!」

 

 二人の姿を見ていた海上のIS乗りの少女たちは、落下していく二人を助けなければならない。そう思い行動に移した。だが、問題はその距離だ。

 今彼女たちがいる場所から二人のいる場所まで、いや二人が落ちようとしている場所まではやや遠いのだ。いくら彼女たちのISが専用機であり量産機とは性能が違うとは言っても、追いつけるのかどうか微妙な距離。さらに、先ほどまでの戦闘によって負ったダメージもある。二人を助けられるのか、確証は持てない。

 だが、それでも行かなければならない。ここでただ見ているだけだったら、確実に二人の命はないから。

 

「ダメ! 間に合わない!!」

 

 現実は無常である。それを知っていても、諦めるという選択肢を選べない彼女たち。

 当たり前だ。今目の前にあるのは人間の命。それも、二人の人間の命だ。

 助けられるものなら助けたい。何かを犠牲にしてでも救えるものなら救ってやりたい。そう考えるのが普通であり、優しい人間だけが持つ信念であろう。だが、いくら信念があろうとも、いくら思いがあろうとも、届かない物はいくらでもある。助けられない命なんて山ほどある。

 もしも最初から全力のスピードで、初速から全力を出すことができていたのなら間に合ったのかもしれない。だが、それはいくら考えてもあったかもしれないIFの話。今とは何ら関係のないおとぎ話。もしもをいくら考えても決して繋がることのない。

 現実はあまりにも無常である。

 それであり、小説よりも奇なりである。

 

「ッ!」

「何!?」

 

 少女たちのすぐそばを突き抜けた一つの影があった。

 少女たちよりも早く、少女たちよりも力強く。なによりも、少女たちよりも凛々しい表情をした女性。

 箒たちは信じられなかった。何故、彼女がこの場所にいるのかと。何故彼女があのISに乗っているのかと。

 困惑はさらなる困惑を産み、一つの答えを曇らせる。一体、彼女は何者なのかと。

 

 落下していく一夏たちは、二人同時に同じことを考えていた。

 目の前にいる一夏を助けたいと。

 そしてこうも考えていた。

 例え、自分自身を犠牲にしてでも。

 元からこの場所には死ぬために帰ってきたオルフェノクの一夏。ワームの一夏を助けられるなら、自分の命なんて惜しくとも何ともない。

 一方、偽物であるワームの一夏もまた、目の前にある本物の一夏の命を助けられるのならば、自分の命を代償に支払ってもよかった。

 一夏は落ちる。

 一夏は落ちる。

 ワームに変身すれば助かるか。

 オルフェノクに変身すれば助かるか。

 無理か。

 無駄だ。

 そもそも自分は飛べないワーム。羽もない、翼もないワームだ。

 そもそも自分はここに死にに来た。だから、今生き残る必要はない。

 けど、今目の前にいる一夏は、助けたい。

 だが、今目の前にいる一夏は助けなければならない。

 二人の思いは一致しているようで、ずれていた。

 だが、いくら二人が考えようとも身動きのできない空中では何もすることが出来ない。どれだけの思いがあったとしても、二人は動くことが出来ない。

 思いだけでは何も救うことが出来ないのか。

 また目の前にある命を救うことが出来ないのか。

 あの時もそうだった。

 まだ織斑一夏に擬態する前の自分は、ヴァリエール家の屋敷から逃げようとしていた海東大樹を追ってあの倉庫に迷い込んだ。

 そして、いたのは一人の男性の暴行を受けている男の子。

 ワームは、無意識に一人の男の子を、織斑一夏を助けるために動いた。

 凶暴性のかけらもないというワームにとっては突然変異の一種だったのか。はたまた大ショッカーがワームを自分たちの配下にするためにワームに何かの改造を施していたのか。定かではない。しかし、そのワームは明らかに別のワームとは違っていた。

 だから、彼が少年の一夏を助けようとしたのは、奇跡に近い物であったとも言える。

 けど、その奇跡のおかげで、少年の命は一時ではあったが助かったのだ。

 おびえる少年。彼に対して、ワームは少年と同じ姿になることによってその恐怖を抑えようとした。

 少年は、最初は戸惑った物の、しかし少年は、目の前にいた自分に対して手を伸ばした。

 そして、少年が起き上がろうとしたその瞬間である。

 ワームが突き飛ばした男が銃を発砲したのは。

 ワームに対してだったのか、それとも無我夢中で発砲したのかは分からない。だが、弾は立ち上がろうとしていた一夏の頭に当たってしまったのは、本当に偶然だった。

 ワームは激怒した。一夏にコピーしたワームは、彼からもらった感情で怒りに震えていた。

 結果的に、それが決め手となったのか、サナギ体だったワームは脱皮し、デルマプテラワームへと成長した。

 だが、彼が手を下すまでもなかった。

 一夏が監禁されていた場所、それは火薬庫だったのだ。そんな場所で拳銃なんてものを使えばどうなることか。

 発砲された弾が火薬に当たり引火。そして、爆発。そんなこと、容易に想像できる。

 果たして、結果は予想したとおりになった。この爆発により一夏誘拐犯である男性は死亡。そして一夏も当然―――。

 一方ワームは擬態を解除することによってその爆発に耐えることが出来たが、吹き飛ばされ壁に激突。そして、最後の力を振り絞って一夏に擬態して、記憶と意識を失った。

 燃える、織斑一夏の亡骸を前にして。

 

「また、俺は……お前を……」

 

 また自分は織斑一夏を助けることが出来ない。また、目の前にある命を失う。

 嫌だ。嫌だ。嫌だ。

 

「くっそぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……大切な物を守る。そのために必要な物はなんだと思う?」

「決まってる……他人だ」

「他人……」

「一人では守れなくても、仲間と一緒なら守ることが出来る。人間は、仲間という強さを持っている」

「……だから、織斑一夏は怪物の一夏を求めた。人間じゃできなくても、怪物であればできるであろうと信じて」

「だが、例え人間であっても、怪物であっても、一人でできることに限りがあることには変わりはない」

「そうだな。だから、『彼女』も『怪物である私』を求めた」

「それが、間違いだと分かっていたのか?」

「何?」

「自分自身も守れない人間が、誰かを守ることなんてできない。自分の人生を犠牲にして、命を粗末にして誰かを守っても、結局は誰かが傷つく」

「……貴様に、彼女の気持ちが分かっているのか?」

「自分の命を使って色々としでかした俺が言うことじゃないのは重々承知……だがだからこそ、その代償として傷ついた人間たちを知っている。夏海や、仲間たちを傷つけた。それが、俺の限界だったって事だ」

「門矢士……」

「士……」

「守るという言葉には必ず他人という物が付きまとう。当然だ。誰かがいなければ守ることなんてできないんだからな。誰かを守りたい人間には、必ず自分以外の誰かが必要になる。それを拒んでも、突き放しても、絶対にその誰かは守り人と共にいる。それが、弱い人間が誰かを守るために生み出した生存方法みたいなものだ」

「って、士! そんなこと言っている間に一夏君たちが!」

「あぁ、心配はない」

「え?」

「この千冬が動かない時点で……いるんだろ? アイツが、お前じゃない他人が」

「あっ……」

「……門矢士、最後に聞きたい」

「ん?」

「お前は、一体何を守りたいんだ?」

「……特にないな。俺はただ、通りすがりの仮面ライダーってだけだからな。覚えておけ」

「……分かった、覚えておこう……そして」

 

 織斑千冬の姿をした者は、手に持った通信機を口元に寄せると。≪ワームの姿≫になって言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今度は間に合ったな……織斑千冬」

 

 その言葉を耳につけたイヤホンから聞いた暮桜を纏った織斑千冬は、微笑み、親友から預かった注射器を一夏に刺しながら言った。

 

「あぁ、今度こそ間に合ったぞ、一夏」




 次回、織斑一夏の誘拐事件の裏で発生していたある出来事。そして、その次には昨晩にあった篠ノ之束と織斑千冬との邂逅の続きがあります(予定)。

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