昔々あるところに、一人の少年がいました。
少年は、大好きな姉と、幼馴染の少女たちと一緒にごくごく普通に、楽しく生きていました。
ある日、少年は大好きな姉や幼馴染と離れ離れにされてしまいました。
それから、少年は長い長い旅の果てに、幼馴染の少女のお姉さんのおかげで元の世界に帰ることが出来ました。
けれど、そこには少年の居場所はありません。少年は絶望しました。
そして、それから少年は命の恩人となった幼馴染の少女と一緒にいろんな世界を回りました。
悪の組織に誘われた命の恩人が道を踏み外さないよう、少年はそばで守ってあげることにもしました。
しかし、少年は知ってしまいました。本当の絶望とは何かを。たくさんの、自分に似た人間を見ている中で、分かってしまいました。自分という人間の愚かさを。
少年の心は、壊れかけてしまいました。
けど、少年は気が付いたのです。
たった一つの希望に。
もう、少年に絶望はありませんでした。あったのは、大切な物を守れるという喜びだけ。
少年に生きる意志はありませんでした。あったのは、死への覚悟だけ。
もう、彼は人間ではありませんでした。
あってはなりません。
何故ならば。
死を望むのは生き物ではない、ただの怪物だからなのですから。
「はぁぁぁ!!!」
「クッ! このぉぉ!!」
「ッ! きゃぁ!!」
海上にて戦う少女たちは、最初の方こそ各々の機体の性能差から戦闘を有利に進めていた。
だが、連合軍側もただ闇雲に戦うだけではない。戦法を変えてきたのだ。
それぞれの機体が複数人でのチームを組んでの波状攻撃。一見してみれば単純な物だが、しかしその効果は絶大だった。
忘れてはおるまいが、箒たちはまだ高校生の子供達。そのため、まだ体力も技術力も判断能力もまだまだ未熟。対して、日本の自衛隊は世界から見ても特筆に値するほどに統制能力の整った部隊であり、その能力もまた厳しい訓練でついた賜物であるため体力に関しては箒たちの二倍、三倍はあろうかという物。
軍隊で鍛えられたラウラ以外の専用機持ちは、その体力差という弱点を突かれ、休む間もない波状攻撃の対応に追われて次第に集中力も切れかけていたのだ。幸いにもエネルギーの方には常に気を使っているため、いざとなれば箒の紅椿の絢爛舞踏を使用してもらえればエネルギーの半永久的な補給は可能と言えば可能だが、果たしてこの絶え間ない攻撃の間を縫ってそのようなことが出来るだろうか。また、不幸なことにエネルギーに気を使ってしまっているために集中力を阻害されてしまっているという弊害も発生している。
箒たちも、互いに互いを援護しあうことによって撃墜を逃れてきていたのだが、しかし徐々にその距離が離されて行ってしまい孤立を極めてしまっている。
特に、第4世代型ISを操る箒と軍隊出身のラウラには他の専用機持ちよりも多くのISが引っ付いている。さらにはいつの間にやらヘリコプターやらオスプレイやらドローンやらと様々な兵器が飛ばされており、もうこれはただの戦争になってしまうのではないかというほどに兵器による密が発生していた。
「ッ、数が多い……このままでは」
ラウラは、多数の敵をさばきながら空中で急停止して空の仲間たちを見る。一番近いのは山田先生か。先生は量産型を少しだけ改良させただけに過ぎないというのに他の専用機持ちと比べても大差のない戦いをしている。山田に対しての認識を改めなければならないだろう。
他の仲間たちもまた何とか戦えて入る物の、武器が損傷したり弾切れを起こしたりして攻撃の回数が減ってきている。特にセシリアに至ってはブルーティアーズを直に持って攻撃するというそもそもの武器のコンセプト度返しで戦闘を行わなければならないほどに疲弊していた。
このままではまずい。そう思った矢先、一つの通信が入った。
『隊長! ミサイル接近中です!』
「なにッ!」
その声に振り向くと、そこには戦艦から発射されたであろうミサイルが自分のすぐそばにまで迫ってきていた。すでに避けれる距離ではないと判断したラウラは慣性停止結界、AICを使用しようとした。
だが、AICは発動しない。そう、虎の子のAICは昨日の戦闘にて破壊されたのだ。IS学園の整備の学生たちでは、通常のISには組み込まれていないAICを直す技術は持ち合わせていなかったのだ。
シールドエネルギーの残量から行って、通常兵器とはいえどもミサイルの直撃を喰らえば戦線の離脱を余儀なくされる。しかし、防ぐ方法など他には存在しない。せっかく自分に通信を送ってきた人間がいたというのに、その人物の行為を無下にしてしまうのか。
いや、まてそもそもいったい誰が通信を送ってきたのだ。見た通り他の専用機持ち達は皆それぞれの戦いに集中しているため自分に助言している暇なんてない。それに、通信相手は自分の事をなんて言っていた。そう、≪隊長≫だ。この世界で自分のことを隊長なんて呼称する人間はごく限られている。それに、あの声色は、まさか。
その刹那、ラウラとミサイルの間に一人の女性が割り込み、ミサイルを停止させる。その力は、まぎれもなくAIC。しかし、自分のシュヴァルツェア・レーゲン以外にAICがつけられているIS等、あったのだろうか。それに、もしあったとしてもそれを扱えるほどの技能を持った人間など。
「このISは……」
「シュヴァルツェア・ツヴァイク……隊長のシュヴァルツェア・レーゲンの姉妹機として開発していた物が、ようやく完成しました……」
「ッ!」
自分の、姉妹機。いや、驚くのはそこではない。その声に自分は聞き覚えがある。先ほどの通信の声であるのはそうなのであるが、しかしそれよりずっと前から、自分がこの学園に来る前から知っていた人間の声。昨晩も自分の悩みを聞き、答えを出してくれていた女性。
しかし彼女は、いや彼女たちは確か今ドイツにいるはずだ。どうしてここにいるのだろうか。
決まっている。答えを見届けに来たのだ。自分たちが隊長と呼ぶ人間が最後に出した答えを、面と向かって知るために。
彼女は、ラウラの方に振り向くという。
「こうして、顔を合わせるのはお久しぶりです。ラウラ・ボーデヴィッヒ隊長」
「クラリッサ……」
黒ウサギ隊副隊長の、クラリッサ・ハルフォーフ。いや、彼女だけじゃない。ネーナ、マチルダ、ファルケにイヨ、黒ウサギ隊のEOS四天王も一緒に連れている。EOSは国連の開発したパワードスーツで、最大作戦行動時間十数分、三十キロという重さのバッテリー内臓のISよりも劣った兵器だ。正直それで飛べているのが奇跡なような気もする。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ隊長。差し出がましいことをするようですがこの私闘……」
瞬間、クラリッサが停止させていたミサイルが爆発する。その炎と風は、シールドのおかげでラウラには届かなかった。当然クラリッサにも。
爆風の中から現れたクラリッサ、展開しているEOS四天王。この状況で何故この場所に来たのかと聞くのは野暮なのであろう。恐らく、彼女たちが来たのは、来てくれたのは。
「我々も参戦します!」
≪BGM開始≫
そういうと、クラリッサはまるで号砲を鳴らすがごとくに右手に備え付けられている大型カノン、ナハト・ナハトを放った。
やはりそれを合図にしたのか、ネーナ、マチルダ、ファルケ、イヨもそれぞれの手持ち武器を放っていく。EOSは重火器を使用するとその反動に耐え切れずに後退りすることはま逃れないのであるが、彼女たちは持ち前のテクニックのおかげでその反動を最小限に抑えているのだ。
「あれって!」
「噂の、黒ウサギ隊!」
「来てくれたんだ!!」
黒ウサギ隊の姿は専用機持ち全員にも当然見えている。まさか、ここにきて援軍が登場するとはこいつは重畳。しかし、援軍は彼女たちだけではなかった。
「かんちゃ~ん!」
「え?」
IS学園の方向から多数の武器を抱えてやってきたのは彼女たちが見たことのないISだった。そして、それを操縦しているのもまた意外な人物である。
「ほ、本音!?」
♪眩しい風のなかで♪
「来たよ~」
布仏本音、謎のISを操りいつものようにのほほんとした言葉遣いでの登場である。
♪描くよ 君の笑顔♪
「そのISは一体なんですの!?」
♪素直になれる瞬間 小さなことでゆれる♪
「≪九尾ノ魂≫で~す! 私の専用機として開発中だったんだ。と言ってもまだ未完成だったからこうして飛ぶことと、武器や弾薬を渡すぐらいしかできないけど」
九尾ノ魂。それは、本音が設計、デザインに係わった彼女の専用機として開発中だった機体だ。最近は忙しなく動き回っていたためいまだに完成に至っておらず武装等一つもついていない。しかし、それでもIS学園にいるためにデータは集まりやすかったため空を自由に飛ぶことはできるし、多少は重い物体も軽々と持ち上げることが出来るので、地上で用意していた武器弾薬を空に運ぶための宅急便の役割としてなら成すことが出来ると考えて未完成のまま出てきたのだ。
♪弱い自分が悔しい♪
「いや、助かる! 武器弾薬だけでも補給できれば後は……」
そう、例え戦うことが出来なかったとしても、戦うための武器を持ってきてくれるただそれだけでも扱るのだ。そう、箒が言おうとしたその時、本音はのほほんとした笑顔を崩さずに言う。
♪泣きたいときだって♪
「これだけじゃないよ~」
「え?」
♪上を向いて 私だけにできる♪
これだけではない。それは一体どういうことなのか。そう彼女たちが尋ねる直前、その答えともいうべき者たちがIS学園の方向から現れた。
打鉄である。先ほどまで一夏が纏っていたはずの打鉄が現れた。それも一機や二機ではない。十、二十はいる。これは、まさか。
♪ことがあるの あきらめないよ 君を守り続ける♪
「まさか、IS学園で保管していた打鉄が全部出てきたのか!?」
「で、でも一体誰が……」
「それはもちろん……」
『あなたの、先輩たちよ』
「え?」
その通信と共に現れたのは彼女たちのよく知る人物達だった。
♪とまらないスピードで 思いがあふれていく♪
「やほー」
「皆さん、お待たせしました!」
「お姉ちゃん、夏海さん!」
その声と共に現れたのはISを身に纏った楯無、そして仮面ライダーキバーラに変身した夏海である。
確か彼女たちは先ほどまで国会議事堂にいたはずだが、あまりに合流が早すぎないだろうか。いや、渋滞も交通量も関係ない空を飛んできたとするのならば考えられないことは無いか。現に、空を飛ぶことのできない麻帆良ガールズ四人の姿は見えないのだから。
そう、彼女たち二人は諸々の後処理を楯無が持つ暗部部隊に任せて超高速で駆け付けてきたのだ。飛べない麻帆良ガールズに関しては後々ヘリコプターでこの場所まで送ってもらう手はずとなっているらしい。
♪負けたくはない♪
「先輩たちが何で……」
いや、今重要なのはそちらではない。何故ついさっきまで全く動きのなかったIS学園の先輩たちが今になって出てきているのか。別段出てくるのが遅いと怒っているわけじゃない。何故出てきてくれたのかと疑問に思っているのだ。
この戦い、一夏とかかわりのある自分たち一年生が飛び出すのはまだ分かる。しかし、先輩たちはというと生徒会長の楯無を除いてさほど関わり合いがなかったはず。それなのに、どうして彼女たちもまたこうして戦場に足を踏み入れてくれたというのだろうか。
♪誰よりも輝いていたい♪
「箒ちゃんたちの姿を見て、自分たちも戦いたくなったんだって」
「私たちの……?」
♪星がみえない日も光はある きっと♪
「後輩がここまで頑張っているのに、自分たちが何もしないのはおかしいって……そう言ってたわよ」
箒たちは別にIS学園という大きな物を守るために戦っているわけじゃない。織斑一夏というただ個人のために戦っている。単純で、あまりにも大雑把にひどい言葉で行ってしまうと自己満足のために戦っているにすぎないのだ。ただ、自己満足のために国の軍隊を相手に戦っているのだ。やっていることの意味が分からないと困惑する生徒は確かに多数いた。
しかし、それでも空を自由に飛んでいる箒たちを見て思ったのだ。あぁ、自分たちもアレくらい自由に飛びたいなと。誰も邪魔をしない、誰も止めることのない、国境も何もないこの大空をあれぐらい自分たちも自由に飛んでみたいなと、楽しく飛んでみたいなと思ったのだ。
それは、箒たちの勇気が見せた幻想なのかもしれない。あとから考えると、なんと馬鹿なことを考えていたのかと後悔するのかもしれない。しかし、時には馬鹿になっていいのかもしれない。
何も考えず、何物にもとらわれることなく、この大空をかけていきたい。彼女たちのように戦いたい。ただ一個人のために戦ってみたいと願った。この後のことがどうなるのか分かったものじゃないが、しかし、彼女たちもまた立ち上がったのだ。織斑一夏という人間のために、その織斑一夏のために戦う後輩たちのために。
今、地上にある建物のあちこちの窓から空中にいる少女たちの姿を捉えている二対一つの目がある。そして、その数は空中にいる生徒も含めると、そして先生も含めるとIS学園全生徒職員の数とほとんど比例していた。
そう、もう織斑一夏という怪物の陰に恐れている人間などIS学園にはいないのだ。本物の一夏の語った平行世界の自分たちの罪に押しつぶされる者はいない。確かに、少しはまだ罪悪感に悩まされている者がいることだろう。しかし、それは平行世界の自分たちの事。今、ここにいる自分は関係ない。いや、関係なくしてやる。ここで未来を変える。強くなる。負けないように努力する。
今この瞬間、IS学園全体の心は一つとなっていたのだ。
♪信じること…♪
「さぁ……行くわよ皆!」
♪願い♪
「はい!」
♪未来へ♪
「えぇ!」
♪あの空で逢えるから♪
「例え相手が戦闘のプロでも、これだけの仲間がいれば!」
『私たちは、負けはしない!!』
このIS学園防衛戦最後にして、最も頼りになる援軍たちと共に、彼女たちは飛翔する。
その自由な翼を持って、その大きな翼で、このどこまでも続く青空で。
彼女たちは、彼女たちの意志で飛び始めたのだ。
「やっぱすげぇな、皆……」
それを遠くから見ていた偽物の織斑一夏。
元から彼女たちの強さは知っていた事だ。だからこそ改めて思う。これほどまで一致団結して、一つのことに集中している彼女たちがこれほどまで強かったのかと。」
彼女たちがどこかの軍隊、恐らく自分を狙ってこの学園に来たであろう者たちと戦っていたことを知ったのはついさっき。あのスタジアムから外に出た時であった。
何故彼女たちが戦っているのか。何故自分の知っている仲間たちだけではなく、先輩たちまで戦っているのか。その理由は分からない。しかし、今は彼女たちの力強さを遠目からではあったものの見ることが出来てよかったと思うことにしている。
「アイツらなら、俺がいなくなっても……」
彼女たちなら、きっと大丈夫。あんなに強い女性達であるのなら、自分一人がいなくなったとしても、最初はまた別の日常がやってくることに戸惑うこともあるのかもしれない。しかし、それでも彼女たちなら彼女たちなりのいつも通りに戻ってくれることだろう。いや、もしかしたらたった一人の怪物がいなくなっただけでそう大きくは変わらないのかもしれない。
けど、それならそれでなおさらいい。何の遺恨も残さない方がいいのだ。そう思う。
「俺なんかがいなくても何にも変わらない……か? ふざけんな!!」
「ッ!」
そんなワーム、偽物の一夏に対して、オルフェノク、つまり本物である一夏が怒りを露にしながら襲い掛かる。
右の拳。先ほどまでの量産機の打鉄の装甲があっさりと削られたことから考えても、あれに掠ることすらも許されないだろう。
本物の一夏の拳は偽物の一夏を捕らえることなく、一夏は改めて雪片弐型を構えて改めて相対する。そうだ、別のことに意識を向けている場合じゃない。
今は、この目の前にいる自分と戦わなければならない。そう、自分と瓜二つの強敵。少し違うのはその人生経験。
自分が、このIS学園でぬるま湯のような生活を送っていた中で、本物の一夏は、それこそ地獄のような生活を送っていた。そんな相手を前にして、少しでも集中力をきらすということは すなわち自殺行為に他ならないだろう。
「お前がそんな気持ちでいるから、みんなの人生は壊されたんじゃないか?」
「え?」
本物の一夏は、偽物の一夏とぶつかり合いながらそう言った。
「お前があいつらといることが当たり前で、あいつらの気持ちなんて一つも理解しないからあんなことになったんじゃないか!!」
あいつら、箒たちと一緒にいることが当たり前だと思っていたから、奪われるなんてことを考えていなかったから、箒たちの気持ちを何も考えていなかったから転生者の意のままになっていたんじゃないのか。確かにそうなのかもしれない。けど。
「お前が、お前が、お前が……お前が全ての元凶なんじゃないのかよ!!」
「全ての元凶だって? 俺のせいで皆の人生を壊されたって? だったら、それは全部お前のせいなんじゃないのかよ!!」
偽物の一夏は叫ぶ。思いのたけを。今自分の心にフツフツと沸いてきた言葉を、何の考えもなしに、ぶつかり合いながら叫び続ける。
「俺が歩んでいる人生は、もともと本物だったお前が歩むはずの人生だ! それだけじゃない! 別の世界の俺たちも、全部全部俺の並行同位体じゃない! お前の、織斑一夏の並行同位体だ!」
俺の人生はお前の人生、俺の考えはお前の考え、俺の弱さはお前の弱さ、お前の人間関係はお前の人間関係。
俺たちは表裏一体だ。だから、本来歩むべきはずだった本物の織斑一夏の人生を奪ったところで、箒たち周囲の人間たちの対応はほとんど変わることがなかったのだから。
「だから、お前が怒るべきなのは! 箒達の人生をめちゃくちゃにしたのが俺だっていうんなら全ての元凶は……」
そうだ。俺が箒たちの人生を壊したというのなら、俺が箒たちを守れないというのであれば。いや、違う。俺はただ織斑一夏をコピーしただけの偽物じゃないか。本当だったらこの織斑一夏という男の人生に係わることなんてなかったじゃないか。
元凶? ふざけるな。誰が元凶だ。俺が来なかったとしても、俺がお前であったとしても何も変わらなかったじゃないか。そうだ。友達の人生を破壊され、未来を壊され、それをただただ指をくわえて見ているだけだったのは―――すべての、元凶は―――。
え?
そのことに気が付いた瞬間。偽物の織斑一夏は見た。フルフェイスマスクの向こう側で。
本物の織斑一夏が泣いているのを。
その刹那、偽物の織斑一夏の脳裏にそれまで本物の織斑一夏の発したセリフが打ち寄せる波が如くにリフレインされる。
『守り切れるかよ、あんたにもな!!』
『けどさぁ、それもいいかなって思ってんだよ』
『腹立たしかったぜ……狂いそうなほどにな!』
『洗脳されたらすぐに堕ちていく姿を見るのは胸が詰まるほどだった』
『この世界を……そして再生する! 俺の思った通りの世界にな!』
『俺には、その権利があるんだ。だったらそれを使わない手はないだろ?』
『一番許せねぇのはお前だ……お前がいたから……人生を奪われたんだ……。俺は……あんたを絶対に許さねぇ……絶対にだッ!!』
点と点で結ばれた線が、ある一つの、残酷な真実の結び目となって現れる。
何気ない言葉だと思っていたそれが、ある一つの答えを見つけたとたんに意味を持ち、動き始める。信じたくはない。しかし、信じなければならない残酷な答え。
「ま、まさか……お前……」
彼が恨みを抱いていたのは箒たちでも、千冬姉でも、IS学園でも、ましてやワームの織斑一夏でもない。彼が、本当に、殺してやりたいほどに憎んでいたのは―――。
「あぁ、そうだよ……全部俺のせいだ……この俺、織斑一夏のせいなんだよ……」
何も守り切れない、自分自身だったのだ。