仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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IS〈インフィニット・ストラトス〉の世界2-12

「そんなことが……」

「どういうことなの、迷いが答えって……」

「……」

 

 迷いが答え、何故クラリッサがそう答えたのか少女たちにはわからないでいた。

 だが、どうやらラウラはすでにその理由が分かったらしい。分かった上でこの場にいるのだ。

 なら、どうしてラウラは山田のように戦いに向かおうとしないのか。箒の心に一抹の不安がよぎる。だが、それがラウラの決めた事であるのであれば考えを強制的に変えさせるなんてことはしたくない。第一、そのようなメリットよりもデメリットの大きな事を即決できる人間なんて限られているのだ。だから……。その時、屋上へと続く扉が開かれた。

 

「来たか……」

「え?」

「ラウラちゃん! 整備終わったわよ!」

「かんちゃんの山嵐もね~」

「お前たち……」

 

 現れたのは、ラウラの専用機であるシュヴァルツェア・レーゲンの待機状態であるレッグバンドを持った黛を先頭としたIS学園の整備科の面々、そして1年1組の面々である。

 ラウラは、ありがとうと黛に向けて感謝の言葉を放ってからその手にある自らの剣を受け取る。

 

「昨日の一件で私のISが一番ダメージを受けていたため、彼女たちに徹夜で整備してもらっていた」

「それじゃ、皆が途中で席を外していたのって……」

 

 そういう事だったのか。シャルロットは何か合点が行ったというような表情をした。

 実は昨晩、楯無によって作られた話し合いの場。そこには彼女たち1年1組のクラスメイトがいたのだが、途中で代わる代わる席を外していたのだ。その理由が、大きなダメージを負ったラウラの専用機の修繕と整備、またその他のISの武装の整備のためであった。代わる代わる席を外していたというのは、何も知らないで残されるシャルロットを独りぼっちにしないための彼女たちの配慮である。

 

「流石に100%直せたわけじゃないけれどね」

「いや助かる。これで、嫁を助けに行くことが出来る」

「ラウラ……」

 

 ラウラは、箒の自分のことを心配するような声に対し、笑みを浮かべながらいう。

 

「元々私は織斑教官、そして一夏がいなかったらここにはいなかった人間だ。三人のために使うのも、悪くはない」

「……」

 

 箒は思う。彼女はなんと強い少女であるのだろうかと。

 確かに彼女の人生は織斑姉弟ありきの人生、もしも二人がいなければ彼女が今頃どうなっていたのかわからない。

 あぁ、そうか。そういう事だったのか。

 箒はすべてが合点がいった。何故、自分が迷っていたのか。何故、自分がここにいるのか。何故、自分たちがここに集まってきたのか。ラウラの言葉を聞いて、箒の中ですべてのピースが繋がったような感覚。それと同時に、それまで胸の奥でつっかえていた楔が外れたようなすがすがしいほどの感覚が彼女の身体中を駆け巡る。身体が軽くなる。今なら、どこにでも飛んでいけそうだ。そう、今戦っている先生のもとにまで。

 

「はぁ……あぁ、もう! うじうじ考えるのは飽きた!」

「鈴……」

「私も行くわよ! ラウラ!」

「私も……一夏さんたちを助けに!」

「そうだよ……いつもそうだった! いつも、私たちは……」

「一夏と一緒に、戦ってきた……一夏といっしょに守ってきた! 一夏に守られてきた!」

「あぁそうだ……今度は、私たちが一夏『たち』を守る番だ!」

 

 全員、同じ思いのようだ。それは、なにも専用機持ちだけじゃない。その場に現れた数多の生徒たちもまた同じ思い。一夏のことを助けたい。それが、例え怪物であったとして。その本心には変わりはない。

 これを怪物の一夏に同情したと取るか、それとも懐柔されたかと取るのは勝手。けど、それは彼女たちの誠の心。誰かに揶揄されたわけでも、誰かにそそのかされたわけでも、ましてや洗脳されたわけでもない。本当に怪物の一夏を助けたいと願ったからこそ以心伝心したその思いたち。

 

「皆、私たちも全力でサポートするから!」

「こんなこともあろうかと、整備室から予備のパーツや武器はたくさん持ってきたわよ!」

「ありがとう、皆……」

 

 この戦いが終わった後どうなることか全くわからない。よくて退学、悪くて逮捕されるか。しかし、そんな先の事なんて今はどうだっていい。今は今、この場面で自分たちがどうするのかだ。

 それに、もし退学になったとしてもいいじゃないか。だって、こんなに中の良い、志を同じにした仲間たちと一緒に人生のレールという大多数に決められている呪縛からはずされた、自分たちの人生を始められるのだから。そう考えると、逆に退学になることが楽しみでしょうがない。もはや、彼女たちを縛るものは何もなかった。

 何物にも縛られることのない、生物が持つことが出来る不変の理。人はそれを、『自由』という。

 仲間たちの声を背に、箒は手首の鈴が付いた赤い紐を、セシリアは左耳にある青色のイヤーカフスを、鈴音は手の黒いブレスレットを、シャルロットは首にかかるオレンジのネックレスを、ラウラはレッグバンドを、簪は右手中指にあるクリスタルの指輪に触れる。そして……。

 

「来い……紅椿!!」

「ブルー・ティアーズ!」

「甲龍!」

「ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ!!」

「シュヴァルツェア・レーゲン!」

「打鉄弐式!!」

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 一方上空で戦っている山田は苦戦を強いられていた。

 当然である。彼女の使っているISは、かつて彼女が使っていたISと似た装備にしているとはいえ全くの別物で、量産型のISを少しばかり改造しただけに他ならない。それに加えて相手はプロの自衛隊員20人にプラスして海上にいる戦艦からの機銃の散射が休むことなく続いており、それもISのシールドエネルギーを徐々にではあるが削っていた。

 だが、自分が不利であるということは重々承知の上で自分は出てきたのだ。なにも、最初から楽に勝てるなんて考えてもいない。勝てるとは言わなくとも何機かのISを行動不能に、最悪足止めくらいはしなければ、そんな思いの元この場所に来ているのだ。

 

「くッ!」

 

 そんな山田に向けて複数のISによる十字砲火。やはり相手は戦闘のプロ、それもチームワークがいい。こんな美しい弾の機動、戦場ではなくて試合会場で見たいものだった。

 ともかく、これ以上の攻撃を受け続けていればシールドエネルギーが枯渇する。山田は、攻撃から逃れるために上昇する。だが、その時に気が付くべきだった。自分が、易々とその砲火から逃れられたという、その理由に。

 

「ッ!」

 

 上空で待っていたのは、隊員に対して指揮を執っていた人物の操るIS。恐らく、この部隊の隊長なのだろう。その人物が、近接用ブレードを持ち待っていた。

 誘いこまれたのだ。自分が十字砲火から逃れるために、散射を続ける戦艦の方向ではなく上空へと逃げるであろうことを読んでいたのだろう。まったくもって指揮官としても、いちIS乗りとしても優秀である。

 さてどうする。今からスラスターを作動させても止まり切ることはできない。ならこのまま突っ込んで隊長機と相打ちになるか。いや、というよりも現状の自分が出来ることは後者しかない。奇跡的にブレードから逃れられても、待っているのは止まった自分に浴びせられるであろう銃弾の雨あられだ。

 ならば、やはり答えは一つ。ここまでの考えを瞬時に頭に浮かべた山田は、目を細めてや隊長機を睨みつけながら、目の前のISと同じ近接系ブレードを出現させる。

 恐らく、これが自分のIS人生最後の一太刀となることだろう。結局、自分は一夏のために何かできたのだろうか。千冬のために尽くせたのだろうか。できた事と言えば、ISのエネルギーと、戦艦の弾を消費させることぐらい。たったそれぐらいしかできなかった。

 だが、それでも山田は満足だった。何もしない、何もできない、気弱で臆病な自分の人生の意味を知ることが出来たから。自分が教師になったその意味を知ることが出来たから。彼女には何も恐れる物はない。けど、しいて言うのならば。

 自分の教え子たちの成長をもう少し近くで見てあげたかった。

 敵が目と鼻の先に来た山田の脳内に、ほんの小さな後悔が出来た瞬間であった。

 その時だ。青い閃光が彼女の目の前に現れた。

 

「ッ!」

 

 そして、その閃光から放たれた青白い光を受けて、隊長機は後退。山田の一撃は、隊長機をとらえることなくからぶった。だが、ここで大事なのは攻撃が当たるか当たらないかではない。相手が退いたことによって、山田が九死に一生を得たということだ。

 

「い、今のは確か、セシリアさんの……」

 

 あの青い閃光、間違いなく教え子の一人であるセシリア・オルコットのブルー・ティアーズだ。しかし、何故それが今ここに現れたのか。答えはすぐに彼女の目の前に現れる。

 

「無事ですか、山田先生?」

「セシリアさん! それに、皆さんも……」

 

 現れたのは。箒以下6人の専用機持ちである。そして、その中から代表して、箒が言った。

 

「先生、我々も力を貸します。一夏のために……昨日まで当たり前にあったこのIS学園の日常のために」

「皆さん……」

 

 箒の言葉に力強く頷く少女たち。

 不思議なことに、この時山田は涙を流していた。撃墜されなかったという安堵感からくるものなのか、いや違う。嬉しいのだ。こんなに頼もしい教え子たちを見ることが出来て、そして教え子たちと一緒に飛ぶことが出来て、例えそれが戦場であったとしても、この教師生活で、いや人生でこれほどまでにうれしかったことは無いという出来事を前にして、感動しない教師がいる物か。

 当初はあまりの絶望に押しつぶされそうになっていた少女たちだった。しかしなんてことはない。これもまた彼女たちの成長の糧、その一つであるのだ。彼女たちが乗り越えるべき壁だっただけだ。

 そして、彼女たちは今その壁を乗り越えた。今の彼女たちに怖い物なんて何もなかった。

 

「あれは、学園の専用機持ちか……」

『どうしますか、隊長?』

 

 連合軍はたちまち混乱の渦に陥れられる。無理もない、本来であれば 敵は織斑一夏ただ一人のはずだった。それなのに、今自分たちの目の前には教師の山田に、IS学園に存在するほとんどの専用機持ち、困惑してしかるべきなのだ。

 しかし、この状況において高揚が隠せない人物が一人いた。連合軍、IS部隊の隊長である。

 

「各国の代表候補生、それに第4世代専用機と戦えるなんてめったにないことだ。総員、気合を入れろ!!」

『りょ、了解!!』

 

 なんだか、この状況を楽しんでいるかのようだ。しかし、各国の開発した専用機、さらに篠ノ之博士の製作のため世界に5体もないはずの第4世代のISと戦える機会なんてもうないかもしれない。そんな極々稀で幸運だといえるような状況で、興奮しない人間などいる物か。と、隊長はまるで自分のその抑えきることのできないワクワクの妥当性を自分で作り出すために言い聞かせながら隊員たちに言った。

 

「皆、来る!」

「ここから先は……一夏の元にはいかせない!」

「さぁ……来い!!」

 

 こうして、1年専用機持ちも加わり、この本来ではなかったはずの戦争は第2ラウンドに突入した。

 

「頑張れ箒ちゃん!」

「いっけぇ!」

 

 一方、屋上にいるIS学園の生徒たち。ここでふと、ある女生徒がつぶやいた。

 

「あれ、そういえば生徒会長はいかないんですか?」

「あれ?」

 

 そう。彼女たちの目の前には現生徒会長で、今のIS学園の学生の中では一番の実力者であるはずの更岸楯無がいるのだ。後輩たちが戦場に飛び立った中で、何故彼女一人残ったというのだろうか。と、少女たちが疑問に思うのだ。

 その視線に対して楯無は扇子を広げながら言う。

 

「フフッ、ごめんね。私、ほかにやることがあってね」

「やること?」

「そっ、だからここにいる私は……」

 

 と、いいながら彼女の身体は徐々に透明になっていき、最後には液体となって消滅した。

 

「えぇ!?」

「これって、もしかしてミステリアス・レイディの……」

『そ、分身よん』

 

 楯無の声、それが水となった楯無とは全く別の方向から聞こえてきた。一体、どこから。少女たちがあたりを見渡すが、どこにも彼女の姿が見えない。

 その時、また声が発せられる。

 

『上よ上』

「上?」

 

 楯無の声に導かれるように少女たちは上を向く。そこには、空中に浮かぶ三つの場面。

 三つ?

 

「え? 一つ増えている!?」

 

 左側に現在スタジアムで戦闘中の一夏たちの姿。右側には上空で戦っている先生や箒たち専用機持ちの姿があらゆるアングルで投影されていた。それは先ほどまでとは変わっていない。変わっているのは、モニターがさらに一つ増えたということだ。というより、先ほどの声から察すると、その画面の先にいるのは。

 

『はぁーい、実は私これからすることがあってもうIS学園にはいないのよね』

「することって、いったい何ですか!」

 

 一人の女子生徒が画面の先にいる楯無にも聞こえるような大声を放つ。別にそのようなことをせずとも聞こえているという事実はさておき、いい質問ねと言わんばかりに扇子を広げた楯無は言う。

 

『まぁしいて言うなら……』

 

「男尊女卑世代の最期の砦を崩しに……ね」

 

 そう言った彼女の後ろには、見覚えのる建物の姿。果たして、彼女はそこで何をしようというのだろうか。なにかとてつもなく嫌な予感しかしない。

 

「さてと、行くわよあやかちゃん」

「はい、楯無さん」

 

 少女たちはその背後から現れた少女たちにまた驚いた。何故なら、そこにいたのはあの光写真館で門矢士たちと一緒に旅をしているという麻帆良ガールズの四人と、そして四人よりももっと前から士の仲間の一人だった光夏海の姿もあるからだ。

 その彼女たちが、先ほど背景に映っていた建物へと向かっていく。改めてもう一度言おう。なにやらとてつもなく嫌な予感しかしない。


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