仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

210 / 265
IS〈インフィニット・ストラトス〉の世界2-5

 IS学園の生徒たちが混乱の渦に包まれている。その中で、ある意味でこのような混乱ごとになれ始めている者たちは、いつもの場所でいつものようにコーヒーを飲んでいた。

 

「大変なことになってしまいましたね」

「まさか、ワームの織斑一夏君が、IS学園に通っていたなんて……」

 

 光写真館。光夏海を始めいつもの麻帆良組の少女たちの姿。緑一点小野寺ユウスケ、そして。

 

「私は、いったいどうしたらいいのでしょう?」

「山田先生……」

 

 山田先生だ。

 彼女もまた、生徒たちと同じように悩んでいた。自分もまた織斑一夏を苦しめた原因の一つなのだと言われれば、そうなって当たり前なのだろう。だが、山田は他の生徒たちのように一人で悩むということは無い。

 分かっているのだ。この問題はたった一人で悩んでいたとしても決して答えの出る物ではないということを。何故なら、彼女はおどおどしてどこか頼りなさそうに見えていたとしても、大人であったのだから。

 お酒で気を紛らわせる、ストレスを解消させる、嫌なことを忘れる。それらは全部大人の特権だ。けど、そんな物使っても無意味なのは重々承知。その程度のことで嫌なことから目をそらすくらいなら、そらすことができると思い込んでいるのであれば、自分は先生なんてものを辞めてやる。

 彼女は本気で悩みたかったのだ。織斑一夏の事、織斑千冬の事、そして自分自身の教師としての資格の事を。

 だから、彼女はここに来た。ここなら織斑一夏の変貌したオルフェノク、ワームという怪物について知ることができる。ここなら自分よりも人生経験豊富であると思われる仮面ライダーの意見も聞くことが出来る。彼女がこの光写真館に赴いたのは、それが理由だった。

 彼女の中では一番頼りになりそうなのは士だったのだが、あいにくその場にいる仮面ライダーはユウスケと夏海の二人だけで、士の姿は何処にもなかった。

 

「にしても、こんな時に士は何処に行ったんだ?」

「確か、やることがあるって言ってましたけど……」

 

 門矢士は現在この光写真館にはいない。山田が来る少し前に光写真館から出てそれから行方知らずなのである。理由は、夏海の言う通りやることがあるかららしい。だが、そのやることというのが一体何のことなのか、彼女たちには皆目見当もつかなかった。

 とはいえ、彼の独断専行という物は完全にいつもの事であるのでそれほど彼女たちは心配していないのだが。

 

「士先生のことはともかく、今はこの状況をどうするかですね」

「うん。オルフェノクの織斑一夏君の境遇には同情するけど、だからって友達にあんなひどいこと言うなんて信じられない……」

「それに、ワームの織斑一夏君だって……」

「自分が織斑一夏だと信じていたから……ううん、織斑一夏だからこそ、織斑一夏として動いてたのに……」

 

 山田は、その言葉に心の内で驚きを隠せないでいた。

 IS学園の生徒たちは、皆が皆本物の織斑一夏に対して同情的だった。当然と言えば当然の話だ。しかし、ここにいる麻帆良女子の生徒たちは違う。どちらかと言えば彼女たちはワームの織斑一夏に対して同情的であった。いや、どちらかと言えば本物の一夏のことが許せなかったのだ。

 彼女たちにとってみれば、オルフェノクの織斑一夏は辛い境遇があったにせよ、それを隠れ蓑として友達に対して暴言を吐く酷い男。それに対して偽物だったかもしれないがそれでも織斑一夏としてこのIS学園で笑顔で生活していたワームの織斑一夏、どちらが彼女たちにとって本物に近かったのかを考えた時、いや本物とか偽物の問題じゃない。どちらの方が応援しやすいのかを考えた時に後者であると、そう彼女たちは考えたのだ。

 ともすれば、非情であるともいえる。しかし、彼女たちは一番現実的だったのかもしれない。少なくとも、罪悪感に蝕まれて右往左往するよりもずっとずっとましだったのかもしれない。

 生徒のこと第一である先生の山田にとっては考えもしないこと、それと同時に考えなければいけなかったことだと気が付かされた山田は俯き加減に言った。

 

「強いんですね、皆さんは……それに比べて私は……同情してあげることしかできない……」

 

 山田真耶、一夏たちのクラスの副担任である。

 温和な性格、押しが弱い、天然、ドジが多い、だけれど誰よりも生徒のことを気にかけ、生徒の悪いところは指摘し、叱ることが出来る強い先生。

 けど、転生者にとってこれほどまでに手ごまにしやすい単純な人間はいなかったと言える。

 だからこそ、彼女は転生者やその他のオリ主といった存在によって簡単に墜とされていたともいえる。

 

『山田先生……優しいアンタが転生者に親身に寄り添っている姿は最高に滑稽だったぜ』

 

 けど、自分はあまりにも親身になりすぎた。そのせいで、自分だけじゃない、大事な生徒の人生までゆがめてしまった。彼の心はもう元には戻らない。

 

「私、もう……先生を続けていく自信がありません……」

 

 自分がこれ以上先生を続けていると、いづれまた誰かの人生を不幸に染め上げてしまう。誰かが泣いて、苦しんで、でもそれを表面的な同情で解決しようとして結局誰かの人生をゆがめてしまう。その前に、自分は先生なんて職業から退いたほうがいいのではないだろか。自分は、これ以上誰かに迷惑をかける前に生徒たちの前から去ったほうがいいのではないだろうか。

 少なくとも、自分の生徒である織斑一夏のことを考えていなかった自分が、この学園にいてはいけない。IS学園の生徒を指導し、育てる立場にはない。こんな未熟な自分が、ここにいるだけ場違いなのかもしれない。そうやって考えれば考えるほどに渦巻く負の感情、山田は正しく追い詰められていた。

 

「なら、行動すればいいんじゃないかな?」

「え?」

 

 そんな山田に対して、ユウスケはふとつぶやいた。

 

「確かに、同情だけじゃ誰も救えないし、何も解決しない。大事なのは、その人の心を救うためにどう行動すればいいのか……俺は、そう思う」

「行動すること……心を、救うために」

 

 同情するなら金をくれ。そんな言葉がこの日本には存在する。それは、ただ同情しているだけじゃ何も解決しないから、同情だけではただの傍観者と同じだから。本当に大切なのは、その人を救うためにどう行動に移すかなのだ。

 人の心は簡単に移り変わる。それは、人の心があまりにも単純であるからに他ならない。だから許せないことがあれば憤慨し、悲しい物を見れば哀れみ、かわいそうな人間を見ると同情する。けど、それは人間として当たり前のことである。そう、感情が揺れ動くのは誰だって同じであるのだ。大事なのはその後、その怒りや悲しみ、そして同情心をどうその人を救うために使うのか。

 傍観しているなんてもってのほか、支えるだけじゃダメ、そばに寄り添うだけじゃダメ、ましてや、ただただ励ますなんて逆効果にしかならない。本当にその人を救いたいと願うのであれば、行動に移せ。例え、それが無駄だと誰かに言われたとしても、表面的にしか解決できないよりもましだ。

 

「でも、どうすれば……」

「それは、山田先生が決めることです」

「私が……」

 

 夏海に言われた山田は、自分にいったい何ができるのかを考える。けど、自分に何ができるのだ。弱くて、今までずっと傍観者であったはずの自分が、一体。

 

「山田先生……少しだけ……私たちの話をしてもいいですか?」

「あやかさんたちの……話?」

「はい……」

 

 悩む山田に対し、あやかは意を決したように言う。

 

「その前に、教えてください」

「何を……」

「山田先生は、怪物となった織斑一夏君を殺す覚悟……ありますか?」

「そ、そんな……ッ!」

 

 その内容は、山田にとってあまりにも衝撃的なこと、生徒のことが命よりも大事であると思っている彼女にとって、信じられない物だった。

 生徒を殺す。そんなこと、考えもしなかったことだ。でも、確かにその時になったら決断しなければならないことであるのもまた事実。山田は、その問いに即答することが出来なかった。

 

「もしも目の前で身も心も怪物となった織斑一夏さんが生徒を殺そうとして、先生はそれを止めるために殺すことが出来ますか?」

「そ、そんなこと……」

「その迷い一つで、誰かの運命が変わります。山田先生、もしかしたらその時は明日になるのかもしれないのです。決断する時は一瞬になるんです」

「そんな……そんなこと……」

 

 山田は、雪広の言葉を黙って聞いていた。だが、いざというときに自分の生徒を殺すことが出来るのか、そんなことを言われて、それが正論であったとしても、彼女には反論することでしかこの場所でできることがなかった。

 

「そんなこと……あなたたちが、別世界の人間だから言えるんです! 何か月も、一緒に過ごした生徒を殺せなんて……そんなことッ!」

「けど、かつて実際に行動に移した人間がいます」

「え?」

 

 行動に移した。一体、それはどういう意味なのか、山田には理解が追い付かなかった。いや、追いつくことを拒否していたのかもしれない。もしもその意味を考えると、恐ろしい結論を導き出さなければならないから。

 しばらくの沈黙、後彼女はうっすらと笑みを浮かべる。それは、まるで慈愛の女神のように柔らかで、そしてその目ははるか遠くにいる誰かのことを見ているかのように優しかった。

 他の三人の麻帆良の女子生徒もまた、まるで苦い記憶を思い出したかのように悲しげな笑みを浮かべている。だが、うつむくことは無かった。彼女たちは向き合っているのだ。決して忘れることはできない。忘れられない。忘れてはならない。そんな……

 

「私たちの先生は……いえ私たち3-Aは……クラスメイトを殺しました」

 

 自らの罪を……。

 

 

「ここにいたか、探すのに苦労したぞ」

「お前は……」

 

 IS学園の対岸にある港。織斑一夏はそこから自分が通うはずだったIS学園を見ていた。誰にも見つからないような暗闇の中、そこで彼のことを見つけることが出来た士は、ある意味幸運であったと言える。

 

「ジャーナリスト、門矢士だ」

「フン、破壊者だろ?」

「知ってたのか?」

「あぁ、あのプリキュアの世界だったか? そこに、俺と束さんもいたんだよ。ちょっとした用事でな」

 

 初耳である。あの混沌としたプリキュアの世界に、この一夏もいたとは。だが、士が知らなくて当然である。一夏と束は、士たち仮面ライダーやプリキュアに見つからないように人知れず行動しており、移動の際にも世界を移動することのできるオーロラを使用していたのだから。

 士は、一夏の顔を首から下げているカメラで撮ろうとする。だが、光量が少なくてうまく顔が映らない。それは、まさしく今の織斑一夏の状態を表していると感じる。

 

「それで、どうしてここに来た? 俺を殺しにでも来たのか?」

「いや……ただ、一つだけ提案がある」

「提案?」

「あぁ……少なくとも、お前の目的のためにはうってつけだと思うぞ?」

「……気が付いていたのか……」

「昼間、お前の話を聞いた時に大体分かっている」

「……そうか、それで提案っていうのは何だ?」

「あぁ、それは……」

 

 門矢士の提案。それは海から聞こえてくる船の汽笛にかき消された。数分後、その場から二人の孤独の戦士の姿は消えうせていた。

最近、自分としては文字数が少ないとおもうのですが……

  • 最低でも5000文字欲しい
  • 最低でも6000文字欲しい
  • もう少し心理描写を描いて欲しい
  • もう少し会話を増やして欲しい
  • このままの文字数でもいい

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。