仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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 おいまたやったぞ。また賛否両論ありそうな展開になったぞ。しかも今回も前の世界に引き続き……


IS〈インフィニット・ストラトス〉の世界1-15

 世界は、意味不明な物であふれている。

 駅のホームによく落ちている手袋や、カップヌードルの中に入っている肉なんて一般人からしてみればどうでもいいような、しかしある層からすればどうしてそんなものがあるのかと不思議で不思議でたまらないものもその最たる例だろう。

 この世界に意味がある物の方が少ないのかもしれない。

 例えば、生きる意味。

 人は、それを一生を賭けて考えていかなければならない。

 例えば、相手を好きになる意味。

 人は、それを考えるのをあきらめるのかもしれない。

 例えば、自分が何者であるのか。

 人は、簡単に答える。

 人間である。と。

 それじゃ、人間じゃない者はどう答えるべきなのか。

 人間じゃない。それじゃ、どうしてこの問に答えることが出来るのか。

 この問に答えることが出来る生き物は、人と同じ知性を持っている者しかいない。故に、この世界に生きる者の中でこの問に答えることが出来るのは人間しかいない。

 もしそうじゃなかったら人間はその存在をこう呼ぶのだろう。

 人ならざる者、と。

 

『俺は、オルフェノクだ』

『俺は……ワームだ』

「え?」

「どういう事?」

「そんな……」

「う、嘘でしょ?」

 

 スタジアムから避難していた生徒たちは騒然とし、混乱に包まれていた。突然試合に乱入してきたISの操縦者が織斑一夏で怪物になり、また自分たちが織斑一夏として接してきた者が怪物となった。

 本当は避難しなければならない生徒たちだが、数多の中での混乱が続き、その場にほとんど全員が足を止め天井付近の壁に写されている織斑一夏だった者たちの様子を見ている。

 そして、混乱は専用機持ちが集まっていたモニタールームでも起こっていた。

 

「お、オルフェノクとワーム?」

「一夏が、怪物になっちゃった……」

 

 目の前で、自分の見知った人間の姿が人ならざる者に変わる現象。どう判断すればよいのかわからず、誰もが口を紡いでいた。

 そして、その中でもこの現象の真に恐ろしい事実に気が付いている麻帆良ガールズの顔は、絶望的ともいえる物だった。

 

「まさか、そのようなことが……」

「こっちにいた一夏君がワームで、向こうの一夏君がオルフェノクなら……つまり……」

「つまり、何なのだ?」

 

 混乱の中桜子から漏れた言葉。それを聞いた箒が、その言葉の続きを求める。

 彼女も欲しいのだ。この混乱を取り除くための答えが。それがなかったら、自分の心が壊れそうだったから。

 

「頼む、教えてくれ。オルフェノクや、ワームとは何なのだ!」

 

 答えるべきか。しかし、この事実を知った時彼女たちはどうなるのだろか。こんな残酷な真実を知って、どうすればよいのだろか。

 かつて、自分たちも経験がある。戦っていた怪物の正体が、実は別の世界の知り合いだったと。そう知った時の悲しみは、あの時は戦いの中で知ったことだったから悲しむ時間はなかった。だが、後々落ち着いてきたときに自分たちに襲った悲しみと後悔と、そして苦しみは今思い出してもつい昨日の事のように胸が痛くなる。

 だが、いずれは分かることだ。今知らなかったとしてもいつかは知ることになる。ならば。

 あやかは目を固くつむり、そして硬い口を開く。

 

「ワームとは、目の前にいる第三者の姿に擬態する怪人の事。その擬態能力は親しい人間でも判別するのが難しい程なのです」

「擬態……それじゃ、あの一夏は……」

「そ、それではオルフェノクというのは?」

「オルフェノクは、士先生が言うには……死んだ人間がごくまれに蘇って覚醒する怪人だって……」

「死んだ……人間が……」

「待ってください! それじゃ、それじゃもしかして……もしか……して……」

 

 山田は、それ以上の言葉が出なかった。

 この二つの事実を聞いた瞬間。今目の前で起こっていることがどれほど深刻なことなのかを誰もが理解した。だが、その真実を口にする者は誰もいなかった。

 怖かったのだ。自分が何を言おうとしているのか。恐れていたのだ。その真実を口にしてしまうことが。もしも言ってしまえば、それが真実となって、もう二度と彼の顔を見ることが出来なくなってしまうだろうから。

 しかし、その時はついに訪れてしまう。

 

『つまり、このIS学園に通っていた織斑一夏は偽物で、襲撃してきた方の織斑一夏が本物って事だ』

 

 重い沈黙その流れを破ったのはスタジアムにいる門矢士であった。

 

「あ、あぁ……」

「そんな、一夏が……」

 

 この言葉に鈴音も簪も驚愕に顔をゆがめる。心なしか、一夏から離れているようだ。本人たちは違うというだろうがしかし、自分の身体を守るための防衛反応、それが無意識のうちに出てしまっているのであれば、否定することはできない事実だ。

 その中で、オルフェノクは一度元の織斑一夏の姿へと戻る。そして、そこに浮かんでいたのはまるで悪戯を仕掛けた子供のような、しかし悪魔のように怖い笑みを浮かべる一夏だった。

 

「でも、いつだ。いつ二人が入れ替わったんだ?」

「四年前……か?」

「え?」

 

 ユウスケの問いに答えた士はさらに続ける。

 

「四年前の織斑一夏が誘拐された事件。あそこで一度一夏の記憶が途絶えている。その時にワームとしての記憶も一緒に消えたとすれば、この一夏の反応も理解できる」

 

 そんなワームの一夏は、いまだにワームの姿を取ったままうずくまっていた。

 この反応からして、ワームの織斑一夏が一夏となり替わったという確信犯的な存在というわけでなく、自分自身もワームということを知らずに生活していたのだろう。

 自らの本当の姿を知らず、言い換えれば本当の姿を忘れるような出来事と言えば、四年前に織斑一夏が誘拐されたというあの時しかない。

 

「そうだ。あの時、俺の全てを奪われた……」

 

 気が付いたのは痛みからだった。

 目を覚ますと、そこは木箱が山積みにされたどこかの倉庫の中で、自分は縛られていた。

 身動きなんて取ることが出来ず、俺はただただ目の前にいる顔に大きな傷がついた男に殴られ、蹴られていた。

 そして、そこで俺は知らされたんだ。姉をモンド・グロッソの決勝で棄権させるために俺を攫ったのだと。

 愛する弟が人質になれば、織斑千冬も素直に従うしかない。そうかんがえたのだ。

 しかし、彼らの思惑は一夏にとって最悪な方向で裏切られた。

 男によって見せられたTVの映像。そこには、モンド・グロッソ決勝、その舞台で輝いている織斑千冬の姿があった。多少予定の時刻よりは遅れた物の、決勝戦は何事もなかったかのように始まったのだ。

 わけがわからなかった。いや、分かりたかったのかもしれない。姉が、自分の弟の命よりも自らの名誉を選んだのだということを。

 裏切られた絶望と悲しみが胸に去来して、でも 暴行を受けている今そんなことを考えている余裕なんてものはなくて、姉の助けがない今、自分はただのサンドバッグに過ぎないんだと思い知らされた。

 それがどれだけ続いたのかもう思い出せないが、それは急に現れた。

 灰色のオーロラ。突如として出現したそれは、目の前にいる男もまた驚愕の表情を浮かべて見つめるしかなかった。当たり前だろう。こんな薄暗い倉庫の中でそんな不可思議現象が起これば誰だってそんな顔になる。

 だが、不思議な現象はそれだけでは終わらなかった。

 灰色のオーロラが揺らぐと、そこから緑色の怪物が現れたのだ。

 誘拐犯の男は、その怪物に拳銃を向け、引き金を何度も引く。しかし、怪物は倒れなかった。それどころか次の瞬間には姿を変えて、拳銃にひるむことなく男の身体を吹き飛ばした。

 そして、怪物は俺に手を伸ばした。

 

『殺さないで……お願い殺さないで……』

 

 不思議と、そんな言葉がふいに口から出て行った。

 怪物の伸びた手は止まった。まるで、その言葉を聞いていたかのように。

 そして次の瞬間、一夏は自分の目を疑う。怪物が、自分の姿になったのだ。

 まるで鏡でも置いたかのように全く瓜二つのその姿は、それまでのでき事で混乱した彼の脳を揺さぶるには十分すぎるほどだった。

 それからのことは、あまりよく覚えていない。ただ頭に強い衝撃があったということだけは覚えている。

 

「その後、目が覚めたら倉庫なんてもんどこにもなかった。ただただだだっ広い荒野が広がっているだけで、自分がどこにいるのかもわからなかった。そしてその時だ。俺が、オルフェノクってのになったのはな」

 

 一夏の口から出た言葉に、絶句するしかなかった。まさか、一夏誘拐事件の真実がそれほどまで衝撃的な物だったとは。しかし、不可解な点がいくつかある。

 

「目が覚めたら倉庫がなかったってのは……」

「あのオーロラはその場に漂うだけならいざ知らず、動いたりもするからな。それに巻き込まれたんだろう」

 

 ユウスケの疑問に士が答える。

 士や海東が出現させるさせる灰色のオーロラ。その中に入ることによって他世界観を移動したり遠距離を瞬時に移動することが可能になる便利な代物であるためたびたび使ってきたのだが、実はそのオーロラが時折移動することがあるのだ。恐らく、一夏の前に現れたオーロラは、その動く種類のもの。それによって偶発的に別世界に飛ばされてしまったのだろう。

 

「ちょっと待ってよ一夏! 千冬さんは一夏が誘拐されたことを知らなかったのよ!」

 

 そう、先ほど食堂で千冬は言っていた。自分はあの時日本政府から一夏が誘拐されたという情報を聞かされてなかった。自分が一夏が誘拐されたことを聞いたのは試合が終わった後だったと。だから、一夏を助けに行かなかったわけじゃない。そう鈴音は言った。

 だが、一夏は苦虫をかみつぶしたかのような表情を浮かべて言う。

 

「違うんだよ、鈴」

「え?」

「知ってたんだよあの人は……束さんが連絡していたんだよ。俺が誘拐されたって! あの女は知ってて大会に出たんだよ!!」

「な、んですって……」

 

 青天の霹靂だった。千冬が、一夏が誘拐された事実を知っていた。それを、自分の世界大会2連覇という名誉のために無視した。

 あの、弟のため、この学園に通う生徒のためを唱っていたあの千冬が。士は、人に裏切られる。人を裏切るということが多々ある。だからこそそう言った人間の特徴はよくわかている。どんな性格の人間が嘘を吐くのか、騙すのかを熟知している士だったが、千冬はそんな嘘をつくような人間ではないはずだ。だったのに、どうして彼女は嘘を……。

 

「信じられません。あの千冬さんが……」

「だが、事実だ」

「!」

 

 夏海もまた千冬の事を信じていた。信じたかった。しかし、後ろからから聞こえてきたその声は、まぎれもなく彼女の物だった。

 振り返ると、そこには千冬だけではなく、モニタールームにいた黛以外の面々の姿があった。

 

「千冬、さん……」

「確かに、四年前あの決勝戦に私は出場した。織斑一夏が誘拐された事も知っていた。何も弁解はしない」

「そんな……」

「久しぶりだな。織斑千冬」

「その話を知っているということは、お前は束に会ったのか?」

「あぁ、三か月くらい荒野をさまよった後にな……」

「……そうか」

 

 千冬は、何か考えながらにそう答えた。一体何を考えていたというのか。束が、異世界を渡る技術を持っていたということか、それとも三か月にわたって孤独な旅路をした一夏を想っての事か。

 

「実はさ、俺一度この世界に帰ってきたことがあったんだよな。その時に」

「え?」

「なに?」

「ほら、俺だって人の子だろ? 少しは寂しくなったりしたんだよなぁ~。例え、姉に裏切られたとしても、箒や鈴にも会いたかったしな……」

「一夏……」

 

 それは、当たり前の思いだったのかもしれない。一人で孤独な三か月に耐え抜いた自分に褒美を上げたかったのかもしれない。

 だが、待っていたのは残酷な現実だった。

 自分がいた場所には別の織斑一夏がいたのだ。

 それは、まぎれもなくあの倉庫に現れた怪物が変化した一夏だった。

 

「あの時は驚くこともできなかったな。我が物顔で、誰にも疑われることなくそいつは俺がもといた場所にスッキリそのまま収まってたんだからよ。あぁそうだ。そこは本当は俺がいるべき場所。俺がいる場所だったんだ! それを、おれは奪われたんだ……本物は、ここにいるのに……ここにいたのに! まるっきり俺と同じ人間がそこにいたんだよ!!」

 

 その時の一夏の味わった絶望は想像を絶するものだろう。

 自分を待っていてくれる人間も、迎えてくれる人間もいない。いや、それどころか自分の名前を言ってくれる人間もいない。もし後から本物が行ったとしても、既に本物と思われている人間がいるのだからきっと信じてもらえない。自分とそっくりな怪物だなんていっても、もしかしたら精神に異常ををきたした人間だと言われて精神科の病院への入院を勧められるかもしれない。

 自分の本当の居場所が、帰る場所が、人生が、全てが奪われた人間の悲しみは決して誰もが共感できるものではない。

 だから、誰も、何も、いうことはできなかった。

 

「……けどさぁ、それもいいかなって思ってんだよな……」

「え?」

「ハッ! ……だってそうだろ? あんな世界を見てきた後ならさ……なぁ、尻軽女ども」

「なっ……」

 

 一夏は、そういいながら箒を、セシリアを、シャルロットを、ラウラを、山田を、簪を鈴音をそして千冬を見た。それは、まるで彼女たちを軽蔑するかのように。

 

「ちょ、ちょっとそれひどくない!!?」

「そうです! いくらヒドイ目にあったからって、友達をそんな!」

 

 友情に熱い麻帆良組にとって、一夏の言葉は激怒するのに値するものだ。

 確かに、彼の味わった悲劇は想像できないほどの物だ。だが、だからと言って彼女たちを、女性をそのような言葉で罵っていいはずがない。だが、そんな彼女たちの言葉を聞いてもなお、一夏は笑いながら言う。

 

「友達!? あぁ、懐かしい響きだな……そうだな、俺もあいつらの本性を知るまでは……そう思ってたさ!」

「ど、どういう事?」

「俺は見てきたんだよ……たくさんの世界を……元々その世界にいなかった奴、どこからともなく何の前触れもなく表れた奴、そして一度死んだ奴によって弄ばれた世界をな!」

「一度死んだ? ……まさかとは思うが」

 

 士はその言葉にどこか聞き覚えがあった。一度死んだ人間によって弄ばれた。それではまるであの男と……。

 

「そうさ、ディケイド……お前たちは知ってるはずだ。俺が見てきたのは……」

 

 だが、もしそうだったとしたら、この世界もまた二次創作の世界であり、原典の世界があり、そしてその原典の世界の主人公が彼であったとするのならば。そして、あの種族によって崩壊させられ、そして仲間たちがあの世界のプリキュアたちのような目にあっていたとするのならばきっと……。

 

「転生者に蹂躙された世界だ!!」

 

 彼も、そして彼女たちもまた被害者だ。




 今回からオルフェノク一夏をある人の脚本風に書こうと努力をしました(ほら、555のメインライターで食事シーンが多いヤの付く人に間違えられたあの人ですよ)。
 次回で前編は終了予定、その後の後編の展開は最初と終わりは出来上がっているけど、後は中間がなぁ……。

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