初めに動き始めたのは鈴音であった。
「ハァァァァ!!」
鈴音は、青龍刀型の武装『双天牙月』を一振り出現させキバーラに向けて突進する。
「ッ!」
キバーラはキバーラサーベルにて攻撃w受け止めようとする。しかし、突進した勢いに加えて全質量が上乗せされた物体を受け止めきることが出来ずにそのまま押し返されてしまう。このまま逃げずにいれば地面にたたきつけられるのは時間の問題だ。
キバーラは、その前に上手く身体を回転させて鈴の後ろに回りこむと、今度は逆にキバーラの方から鈴に向けて突進する。出力が上がっているのか、キバーラの背部にある紫色の翼はさらにその力と光を増していた。
それは、白を主体としているキバーラの身体とはあまりにも色合いが不釣り合いで、まるで悪魔にでも魅入られているのではないかというほどに禍々しく見えた。というのは、見ていた観客の内の一人の言葉だ。
「まだまだ!」
だが、鈴音は負けじともう一振りの双天牙月を出現させる。そう、双天牙月は二刀一対、二つで一つの刀であるのだ。
「ッ!」
先ほどの攻撃もようやく防ぐことが出来たのだ。その二倍の攻撃など受け止めきれるのだろうか。キバーラは、しかし受け止めなければ一方的に負けてしまう事は承知の上で、戦いに臨もうとする。
このISVS仮面ライダーの戦い、実は圧倒的にキバーラが不利なのだ。何故なら多種多様の武器を扱うことが出来るISとは違い、仮面ライダーキバーラの主な武器はキバーラサーベルの一振りのみ。それも、一夏の雪片弐型のように特殊な能力があるわけでもないただの剣だ。このまま一人で戦うにも限界がある。
「夏海ちゃん! ハァツ!!」
そう、一人ではかなわない、しかし仲間となら戦うことが出来る。鈴音がキバーラへと激突する瞬間、トライチェイサーのサドルを足場に飛び上がったクウガ。
「超変身!!」
クウガは、超変身によってマイティフォームからタイタンフォームにフォームチェンジすると、鈴の剣をその身体で受け止める。
「ユウスケ!」
「ハァッ!」
クウガは、鈴音の剣を身体、正確に言うと肩であるが、で受け止めるとすぐにその柄を持つ。そして剣を持つ腕を攻撃し始める。
鈴音は、クウガを振り落とそうとすぐに急上昇し飛び回る。
「ちょっと! 離しなさいよ!!」
「いいや、離れない! このまま……!」
「ッ!」
鈴音は、そこでユウスケの狙いに気が付く。自分から飛ぶことが出来ないのであれば、飛んでいる相手にしがみつけばいいのだ。夏海と戦っていて地面に近いところにいたのがあだとなってしまった形だ。
「鈴!」
そして、鈴音のパートナーであった簪は、空中を無茶苦茶に動いている鈴音を助けるために向かおうとする。だが、そんな彼女に近づく影があった。
「させません!」
「ッ!」
仮面ライダーキバーラである。簪は、薙刀型の武装、『夢現』を出現させる。
両者は激突、つばぜり合いの状態となる。だが、先ほどまでの鈴音とキバーラのつばぜり合いとは違い、今度はかなり力が拮抗している様子だ。
『おおっと! ここで試合は仮面ライダークウガVS鈴音! 仮面ライダーキバーラVS簪という状況になった!』
『夏海さん、赤いISを相手にしていた時はどうにもならなかったけど、簪さん相手だと互角だね』
「そうだな。だが、それも当然だ」
『と、言いますと?』
千冬曰く、先ほどの激突の際、仮面ライダーキバーラが押されていたのは単純にキバーラの方がパワー不足だったから。元々彼女のIS甲龍は近接格闘が得意なパワータイプ。その近接格闘装備の双天牙月もまた、切り裂くことを目的としている武装ではなく重量でもって叩ききることを目的とした武装。
対して仮面ライダーキバーラのキバーラサーベルはどちらかというと斬り合うことを目的としているために細く、キバーラ自体タイプ的には機動性特化。動き回って翻弄するならともかくとして、パワータイプの相手に細身の体と武器で臨むキバーラの方が分が悪いということは明白だったのだ。
そして、現在キバーラと切り合っている簪の使用するIS打鉄弐式は、キバーラと同じく機動性特化。キバーラと全く同じタイプである。パワー重視の相手ならともかく、同じ機動力を重視した相手であれば、経験の少ない夏海であっても互角の勝負に持ちこむことが出来る。恐らく、ユウスケはそう考えて甲龍の相手を引き受けたのだろう。
だが、この千冬の考えには一つ疑問が生じる。
「だが、どうしてユウスケがあのISの能力を知っていた? さっきの襲撃の時にも来ていなかったはずだが?」
士の言う通り、この状況はユウスケが甲龍と打鉄弐式の能力を知っていなければ成立しない物。だが二人のISを見たのはこの戦いが初めてで、甲龍の動きを見れたのは夏海と衝突する時だけ。打鉄弐式に至っては仮面ライダーのデータを取るためなのかほとんど動いてすらいなかった。それなのに、どうしてユウスケは二つのISの特性を知ることが出来たのだろうか。
そんな士の疑問に対して、フィールドから目を離すことなく千冬がいった。
「知っていて当然だろう。私が教えたんだからな」
『『えぇ!?』』
「……」
「あれは、このエキシビションマッチが始まる10分程前だったな」
それは、食堂からこのスタジアムに向かうまでの道の途中の事。突然ユウスケが千冬に駆け寄ってきて頭を下げながら行った。
「お願いします! 俺と夏海ちゃんが戦うことになるISのことを教えてください!」
と。
千冬はその申し出に対して表情を変えることなく、黛たち新聞部が製作した学園新聞の記事を手渡した。そこには各専用機たちの詳しい情報が載っており、当然今回の対戦相手である甲龍と打鉄弐式の情報も記載されていた。
ユウスケは、その新聞によって2つのISの特性を知ることが出来たのだ。
「で、でもそれってずるくないですか!?」
「う、うん! だって、試合の前に相手の弱点を知るなんて、そんなの不公平です!」
「鳴滝姉妹のいうことも一理ある。だが、お前たちは忘れていないか?」
「忘れてる?」
忘れていないか。一体何を忘れていると言いうのだろか。まさか、勝負は勝てばいい、そこに卑怯も何もないとでもいうのだろうか。しかし、それは教育者としていかがなものかと周囲の者たちは思う。だから、もちろん彼女の口からでた声は違った。千冬からでた答え、それは。
「これは、殺し合いじゃない、試合だということだ。戦いの前に、相手の情報を仕入れ、どう対策を立てるか。それもまた、試合の一部なんじゃないか?」
「あ……」
「確かに、一理あるかもしれませんね」
そう。試合の前には必ず相手の情報を知る必要がある。何も知らないままに戦いに行くことすなわち、何の装備も持たずに化け物と戦いに行くことも同意の事であるのだ。
スポーツ選手でも、強い選手であればあるほど、相手のことをよく研究し、試合の直前までどう戦うか、どう攻めればいいのかを研究してから戦いに臨む。今回のユウスケの行動はそれと同じであるのだ。
本来、ISにおける試合でも相手ISの情報を先に入手して傾向と対策を立てるのが一般的だ。しかし事今回の試合相手が仮面ライダーという未知の者たちであるためにデータが何もなかった。だから、鈴音と簪は試合の中でデータを取ろうとしていたのだ。だが、例え難しかったとしても、敵に聞くのは恥であると承知の上であったとしても今回のユウスケのようによく彼らのことを知っている士や麻帆良の生徒たちに聞けばよかったのだ。そうじゃなかったとしても、と千冬は懐から紙を一枚取り出して見せる。
「ユウスケからは不公平だからと、馬鹿正直に自分たちのことを記した紙を凰と更識に渡してくれと言われた。だから、あの二人がもしも相手の仮面ライダーのことを教えてくれと言ってきたら、渡すつもりだったんだがな」
とはいう者の、そもそも千冬が二人のデータを持っていると知らないのだから聞くことは無かっただろうなと士は思う。
しかし、あのユウスケがエキシビションマッチとはいえ公平性を欠く行為をするとは思わなかった。しかし、自分たちを有利にする方法を取るということはまず間違っていないこと。やはり、ユウスケもこの旅の中で何か思うことがあったのだろう。
事実、ユウスケには思うところがあった。この戦いは、ただのエキシビションにしないという覚悟を前述したと思う。この試合は、ただの試合ではなく、本気の戦いを前提としたもの。と自分に言い聞かせて臨んでいるのだ。本気の戦いではずるいも汚いもない。敗北は死にもつながってしまう取り返しのつかないものだ。だから、勝つためには少しでも相手の情報を頭に入れておいて損することはまずない。
「確かにルールを守るということ、正々堂々と戦うということは大事なことだ。だが、そのために自らの勝つ確率を落としてしまう物は半人前だ。IS乗りとしても、人間としても」
千冬は思う。恐らく、ユウスケはそのことを生徒たちに伝えようとしているのだと。
あの二人は、最後までやれることがあったというのにそれを怠った。ユウスケは、自らが勝つ確率を上げるために最後まで抗った。敵である自分に頭を下げるという屈辱まで犯して。
果たして、この戦いはこれからどう変わっていくのか、千冬は空高くにいるであろうユウスケと鈴音を見上げる。