仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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IS〈インフィニット・ストラトス〉の世界1-8

 一人その場に佇む彼は、この自分の想定していない状況にやや混乱していた。

 情報によると、このIS学園の地下に自分がお宝と睨んでいるあるものがあるはずだった。しかし、それがどこを探しても見当たらない。動かした形跡もない。

 ダミーの情報だったか。ならば、お宝は一体どこに行ったというのか。

 木を隠すなら森の中ということで、量産型のISが置いてある保管庫にも入ったが、やはりあるのは打鉄と呼ばれる量産機ばかり。大したお宝ではない。それに加えて、外の騒ぎを聞きつけてISを取りに来たこの学園の上級生まで現れる始末。

 さて、この後どうするか。あの世界のお宝を使えば、自分の目の前にソレを持ってくることなんて簡単なこと。しかし、簡単すぎてやりごたえがない。

 怪盗とはスリルを求める生き物だ。厳重なセキュリティに挑み、お宝の場所へのメッセージを解き明かし、そしてどこかの誰かが大切にしている物を略奪する。その時生まれる幸福感の前には、何物にも変えがたいものがある。

 とはいえ、お宝自体が今どこにあるのか。いや、本当にこの世界にあるのかすらも分かっていないのだ。ここは自分のポリシーをまげてもなお、アレを使用するか。と、外で戦っている自分が出した仮面ライダーたちに対処するために量産型のISを取りに来た学生たちを気絶させながら海東は考えていた。

 確かにこの量産機ですらもこの世界ではお宝に値するらしい。だが、お宝と言っても量産型。自分が手に入れるにはあまりにもざっぱすぎる。せめて自分が手に入れるには専用機と呼ばれるものではなければならない。

 

「ッ! これって……」

 

 そう、彼女のもつISのような。

 

「海東!」

「やぁ、小野寺君。心配しなくても、彼女たちは気絶しているだけさ。それより、よくお宝を持ってきてくれたね更識楯無」

 

 海東は、ユウスケの隣にいる楯無にそう声をかけた。

 わざわざ名指しされた楯無は思考する。自分が宝を持っている。つまり、彼の狙いは自分の持っている専用機なのか。いや、それは不自然だ。だったら先ほどの戦場に自らも出陣してのISを取りに来るはずだ。仮に外の専用機持ちや士たちを警戒し、自分一人がこの場所に来ることを想定したとしても同じく不自然。もし士たちから彼のことを知らされなければわざわざこの場所に来るということは無かったのだから。

 よくお宝を持ってきてくれた。つまり、お宝はここにはなかったということなのか。となれば考えられることとしては自分の専用機や量産機ではないまた別のお宝を狙って侵入したが、何らかの理由でそれを入手することが出来なかった。そのため、たまたまこの場所にきた自分の専用機を狙った、ということなのだろうか。

 

「お宝?」

「私も専用機を持っているのよ。これでも一応ロシア代表候補生兼IS学園生徒会長なのよ」

「え、生徒会長!?」

 

 初耳だ。しかし納得ができた。なるほど、生徒会長だから自分の受けるはずの授業を受けずに自分たちの監視という任務に就くことが出来たのか。

 

「そっ……それで、泥棒さんの狙いは『最初から』私のISだったわけ?」

「それを聞いてどうするんだい? いや、そうだね……」

 

 楯無は、カマをかけるつもりで『最初から』という言葉を付けた。だが、海東はそれをやんわりと躱そうとする。しかし、一瞬だけ笑った後に肯定する言葉を発した。どういうことだ。楯無は海東に対する警戒を強める。

 

「生徒会長の君なら知っているかい? 織斑千冬の専用機、『暮桜』を」

「暮桜……って、あの?」

「くれざくら?」

「……織斑先生の現役時代の専用機。二度あったモンド・グロッソでも織斑先生の愛機として共に戦ったISよ」

 

 そんな暮桜がこのIS学園に存在していたとは、生徒会長である自分も知らないことだ。

 

「その通りさ。けど、この地下に置かれていた物はダミーだった」

「ダミー?」

「あぁ、生徒会長の君なら、その行方を知っていると思ってんじゃないか思ってね」

「……お生憎様。暮桜がこの学園にあるってこと自体知ったのもついさっきなのよね」

「そう、残念だ……」

 

 残念。だが、だからと言ってこのまま引き下がる相手であるとは思えない。目的のお宝である暮桜に匹敵するお宝は数少ない。あるとすれば、ISという存在を始めて世界中に認識させることとなった白騎士事件で使用されたIS、白騎士であるが、これもまた現在どこにあるのか行方知れず。いや、それどころかその操縦者ですらもいまだに特定されていないもの。こちらを狙うということもとうてい難しい。となれば、残るは……。

 

「それじゃ、この世界二番目のお宝を狙わせていただくよ」

「二番目?」

「当然、専用機……よね」

「その通り。代表候補生の専用機は、暮桜には及ばなくても、十分なお宝だからね」

 

 そういうと、海東は銃を取り出した。ユウスケは、海東が取り出した銃を見て気が付く。それが、つい先日まで彼が使っていた物ではないということを。

 

「海東、それディエンドライバーだよな?」

「そうさ。けど、これはただのディエンドライバーじゃない。士のネオディケイドライバーと同じ、進化したディエンドライバー、ネオディエンドライバーさ」

「ネオディエンドライバー……」

 

 海東は、シアン色のディエンドライバー、ネオディエンドライバーにカードを装填する。

 

《KAMENRIDE》

「変身!」

《DIEND》

 

 瞬間、ネオディエンドライバーの銃口から複数の仮面ライダーディエンドのマークが飛び出し、それが複数の青色のカードの形に変わる。それと同時に出現した三つの様々な色に変化するディエンドの影が海東大樹に重なった瞬間、上に飛び出した13枚の青色のカードがその頭に突き刺さり、モノクロだったその身体に色がついていく。

 

「君のお宝、貰うよ」

「楯無さん下がって。ここが俺が!」

「いえ、彼とは私が戦う。あなたは気絶している子たちをお願い」

「え、でも……」

「彼の狙いは私のISよ。どっちみち戦うより仕方がないわ」

 

 確かにそうだ。だが、この狭い部屋の中でISは不利なのではないかとユウスケは思う。

 先ほどまでの模擬戦で、ISの一番のメリットはその機動力であるとユウスケは考えていた。だが、屋内で、しかも天井も低くて高く飛ぶことが不可能なこの場所でその機動力が発揮できるとは到底思えない。加えて相手はあの海東大樹だ。いくら代表候補生であると言ってもここまで不利な状況で存分に力を発揮するなんてできるのだろうか。

 

「心配しないで、狭い部屋で戦うのだって今回が初めてじゃないんだから」

「……」

 

 この時、ユウスケは彼女のことを止めることもできた。しかし、できなかった。

 彼女の笑顔を見てしまったからだ。その何の不安もない笑顔が、彼女の自信が決して驕りなのではないということを表し、そして彼女が実力者であるという事実を表していた。

 そんな笑顔を向けられてしまったならば、断ることなんて、ユウスケには到底無理な話であった。

 

「分かった、気を付けて」

「もちろん」

 

 そういうとユウスケは、近くに倒れていた生徒に声をかけ肩を貸し、一人ずつ部屋の外へ連れて行く。

 

「さて、それじゃ私たちも……」

 

 瞬間、楯無の身体を光が包んだ。しかしその速さは箒や一夏たちの比ではないほどに素早く、そして簡潔に済まされる。一瞬ののち、現れた彼女はその手に槍をそして、その身体に青色を基調とした装甲を纏っていた。

 

「やりますか」

「それが、君の専用機?」

「えぇ、ミステリアス・レイディよ」

「美しいね。本当にお宝にふさわしいか、試させてもらうよ! ハァッ!」

 

 ディエンドが楯無に向けた銃口から青色の光弾が放たれた。

 楯無にとって、その牽制に近い攻撃を避けることは簡単であった。しかし、その攻撃を避けるということは背後にいる同級生たちやユウスケに当たる危険性がある。

 瞬時に判断した楯無は、避けるという選択肢は選びなかった。しかし、当たるという選択肢も選ばなかった。

 彼女がディエンドに向けた鎗状の武装、蒼流旋。そこから大量の水が出現し、彼女の彼女の身体を隠すほどに展開する。

 実は彼女のISは、他の専用機に比べてやや露出が多い。これは、機動力を上げるために無駄な装甲を切り崩していった結果なのだが、機動力を手にいれる代わりに防御力が弱くなってしまったのだ。絶対防御があるもののそのシールドは露出の大きさに比例して浮くなっているため重い一撃を加えられれば、他のISで耐えられる攻撃でも致命傷になりかねない。

 そんな薄い防御力を補うために彼女が使用しているのが、ナノマシンで構成された水のヴェールである。そして、彼女の武装のほとんどがそのナノマシンで構成された水を使用しているため、瞬時にそのフィールドを展開さらに分厚く展開することが可能なのである。

 

「水のバリア……」

「フフッ、ハァァァァ!!」

 

 ディエンドの攻撃が一瞬だけやんだ。その隙を逃さない。ネオディエンドライバーに変わり、今度は蒼流旋に取り付けられている四門のガトリングガンが火を噴いた。

 

「ッ!」

 

 ディエンドの単発式とは異なる連発式のガトリングガン。真正面から受けるのはマズイと感じたディエンドは、すぐさまその攻撃を避けながら無数の量産型ISの影に隠れる。

 量産型とはいえISであることには変わりはない。楯無は、ISを守るために攻撃を止める。ソレを見たディエンドは、天井の複数の照明めがけて弾を放った。瞬間、部屋の明かりのほとんどが落ちてしまう。常夜灯があるために完全に暗闇に支配されていないのだが、それでも先ほどと比べれば街灯のない月明りだけの夜道とそう大差はない。

 

「このまま逃げるつもり? ……な、わけないわよね」

 

 この暗闇に乗じて逃げる。そんな選択肢もあると楯無は考えた。だが、ここまで好戦的な相手がそんな道を選ぶだろうか。少なくとも、自分はそんなものノーセンキューだ。

 逃げるのではない。必ずディエンドは向かってくるはずだ。そう直感にも似た考えが浮かんだ瞬間である。

 

《ATTACK RIDE BLAST》

 

 うっすら闇の中から蛍のような無数の弾丸が楯無の方へと向かてきた。それもまるでミサイルかのような軌道を描いて。

 

「ッ!」

 

 楯無は、回避行動に移る。しかし、飛びのいた直後に、光弾は地面に当たることなく自らの方へと向きを変えてきた。

 

「追尾性のある弾丸って事ね!」

 

 楯無は同じ場所に止まるのは危険と判断し、ディエンドと同じように量産型ISが等間隔に置かれたスペースへと向かっていく。

 本当なら、この学校の生徒のための備品であるISを破壊する恐れのある行動などとりたくなかった。が、この広大な部屋の9割を占めるその場所を使わずに戦うことなど不可能であることは覚悟していた。

 せめて壊れても直すことが出来る範囲で傷ついて。そう願いながら彼女は量産型IS同士の間を飛ぶ。

 それから1分程立っただろか。あたりは不気味なほどに静かになった。光弾の音も、ミステリアス・レイディのスラスターの音も聞こえてこない。

 まさか、あの程度の攻撃で倒せるとは思ってもいない。だからこそ、その沈黙が余計な不気味さを表していた。

 

「一体、どこに……ッ!」

 

 後ろから殺気。それを感じたディエンドは、本能であったのか、ただ無意識に前転。刹那、彼がいた場所に向けて振り下ろされたのは槍であった。

 

「外した! ハァッ!!」

「くッ! フッ!」

 

 楯無は、攻撃が外れたことを認識すると即、ディエンドの身体を突きにかかる。ディエンドは、ネオディエンドライバーでその攻撃を防ぐこと、とっさに銃を傾けて彼女の攻撃を横に逸らす。そしてがら空きの横っ腹に向けて前蹴りを繰り出した。

 

「させない!」

 

 しかし、バランスを崩したしたもののすぐに立て直した楯無は、空中で回転して回避し、逆さになりながらガトリングガンを放った。咄嗟の事だったためほとんど単発式とは大差のないほどにしか弾は出なかった物の、この勝負中において始めてディエンドの身体に傷がついた瞬間であった。

 

「ッ……なるほど、さすがは生徒会長……だね」

「ユウスケから聞いたわ。あなた、たくさんのライダーを召喚して戦うそうね」

「あぁ、そうさ」

「そしてこうも聞いたわ。あなたが出せる仮面ライダーは最高三人まで……ってね」

「……」

 

 そう。これまで海東がディエンドライバーで出してきた仮面ライダーは最高三人まで。それは、何も出し惜しみをしていたわけじゃない。ネオディエンドライバーの仕様上それ以上を出すことが出来なかったのだ。

 そして、現在外で士たちが戦っている仮面ライダーの数は三体。これがどういう事を指し示すのかお分かりであろう。

 彼、仮面ライダーディエンドは自らの利点である複数のライダーを召喚して戦うという戦闘方法を自分で封じてしまっているのだ。

 一方楯無の方もまた空を素早く駆け抜けることが出来るというISの利点を、室内ということで失っている。つまりこの勝負は、互いのメリットを消し去った上での双方ともに苦しい戦いであったのだ。

 

「なるほど、君はこういいたいんだね。ライダーを召喚しない僕なんて敵じゃないって」

「別に、そこまでは言ってないわ。でも」

「でも……自分自身を召喚することはできる」

「?」

《ATTACK RIDE ILUSION》

 

 ディエンドが、カードを装填し引き金を引いた瞬間。その銃口から複数の影が出現し、それがディエンドの左右に固まった瞬間、シアン色の二体の仮面ライダーが姿を現した。むろん、ディエンドである。

 これは、門矢士も持っているカード、ネオイリュージョンによる技、ディエンドイリュージョンである。そのカードを使用することによって最大5人にまで自分の身体を増やすことができ、さらにその5人はそれぞれ独立して動くことが出来るというまさに一対一の場面においては優れもののカードなのである。

 士と剣の世界で再会した直後は、海東はこのカードを持っていなかった。しかし、アマゾンの世界に行った際に手に入れ、以来ここぞとばかりに使用しているのだ。

 

「へぇ、そんなことが出来るんだ……私と似ているわね……」

「なに?」

 

 分身を見てほほ笑んだ楯無。瞬間今度は彼女の左右に水の柱が出現し、それが人間の姿を形作っていく。その姿は楯無と瓜二つであった。

 

「ミステリアス・レイディにはこういう技もあるのよ」

 

 これもまたミステリアス・レイディの、アクア・ナノマシンの使い方の一つである。精巧にできた水の分身の姿は、まるで霧の中に浮かび上がったドッペルゲンガーのようにオリジナルとの違いなど全く存在しなかった。

 

「ハァッ!」

「はッ!」

 

 五人の楯無は飛び出す。それと同時に五人のディエンドはそれぞれに光弾を発射した。

 だが、それでは楯無は止まらず、ディエンドに接敵し、接近戦を挑んだ。

 楯無は気が付いたのだ。ディエンドがほとんど接近戦を挑んでいないということを。これまでの戦い方は全てが遠距離のみの攻撃で、剣や槍といった武器は一切使用していない。恐らくディエンドの武器はその手に持つ銃ただ一つのみ。ならば、楯無が遠距離戦にこだわる必要などなかった。

 蒼流旋は一体、また一体とディエンドを倒していき、その姿が消えうせていく。そして、残ったのはただ一人。本物の仮面ライダーディエンドだけであった。

 

「クッ……」

「勝負あったわね」

 

 五人の楯無は、それぞれに蒼流旋を構えてディエンドを囲むかのように立った。

 遠距離戦もできず、ライダーの召喚もできず、そして分身攻撃も通用しない。本当にこの少女は子供なのかと、海東大樹はマスクの下でほくそえんでいた。

 いくらハンデを背負って戦っているとはいえ、まさか自分がここまでやられることになるとは。

 だが、若い女性の力の可能性という物がどれほど大きい物なのかを知っていた彼にとっては、この状況もまた予想内の物に過ぎない。

 彼にもプライドという物があった。だから本当は、この力だけは使いたくなかった。しかし、この状況を打開する方法を考察した結果、行きついたのはあの力を使うことだけだ。全く嫌になる。そう思いながら海東は両手を挙げた。

 

「参った。君は強いね」

「おほめの言葉どうもありがとう」

「でも、いくら強くても動きを止められたらどうかな?」

「え?」

 

 瞬間、ディエンドはその手の平を目の前にいた楯無に向ける。

 刹那にも満たないほどの時間が経ったその瞬間、時計の秒針が止まるような音がした。そして、5人の楯無は、ところどころにノイズを発生させ、その場で停止する。

 

「楯無さん!」

 

 少女たちを介抱していたユウスケは、突如として動きを止めた楯無の名を呼ぶ。しかし、答えは何もない。いや、聞こえてもいない。何故なら今、彼女の時は文字通り止まってしまっているのだから。

 

「海東! お前、何をしたんだ!」

「彼女の時を止めたのさ。士から聞かなかったのかい? これが、僕の新しい力さ」

「時を止める、だって!」

 

 それはプリキュアの世界を救った後のこと。さまざまな世界を回りながらユウスケや夏海の元に戻ろうとしていた士と、その士とたまたま一緒の世界に赴いていた海東がある世界に立ち寄った時のこと。

 その世界では、仮面ライダージオウと言う戦士が戦っていた。最高最善の王となるべく、平成ライダーの力を、記憶をウォッチというアイテムにして集めていた。その敵がタイムジャッカー、時間犯罪者であり、彼らこそが海東大樹に時間を停止させる能力を与えた張本人が所属する謎の組織である。

 海東はその力を使い、一度士の力を盗むことを手伝ったという事がある。

 最終的にはタイムジャッカーは駆逐され、海東に時間停止能力を授けた張本人もジオウによって滅ぼされることになった。しかしその際に、授けられた時間停止能力は、組織崩壊後もなお海東の中に残り続けることとなったのだ。

 だが、まさかプリキュアの世界で自らを追い詰めた時間停止能力を手にいれることになるとは、なんたる皮肉か。

 

「そう、この力を使えば一部の特殊な人間を除いて、その人間の全ての時間が停止する。もちろんッ!」

「ッ!」

「アマダムの石を持つ君もね」

 

 変身しようとしたユウスケはしかし、手を挙げた体勢のままその時間を停止する。これで、海東が能力を解除しなければ二人の全てが止まったままだ。

 

「これで、君のお宝は簡単に盗むことができる。でも、それじゃ面白くない」

 

 この力を最初から使えば、楯無のISを簡単に盗むことができたし、今だってそうである。だが、海東は止まっている楯無に興味がなくなったように踵を返すと、タブレットのノート型デバイスを取り出した。

 

「暮桜がここにないのなら、場所を知っている人間を連れてくればいい」

 

 海東が取り出したデバイスもまた、仮面ライダージオウの世界で手に入れた物だ。その世界の人物から未来ノートのようなものと評されたように、そのノートに言葉を書き入れると記述された事象を現実に引き起こすことができるのだ。ただしその可能性すらないものは作り出すことができず、あくまでも導くことしかできないのだが、それは大した欠点にはならない。

 海東は、そのノートにこう書き記した。

 

『織斑千冬、生徒を助けるために参上する』

 

 その瞬間であった。

 

「ッ!」

 

 激しい轟音に振り返った彼の目には、天井の一箇所が崩れ何か質量のある物質が、自身と楯無の間を挟むように地面に着地して煙が舞う様子が映った。

 天井から崩れた細かい破片が落ち、天井の穴から降り注ぐ明かりがその女性の姿を露わにさせる。

 群青色の機体配色。口元だけを見せるヘルメット。聞いていた暮桜の要素を兼ね備えた機体だ。顔は見えないが、先程自分が記述した通りであるのならば、彼女が織斑千冬であることは間違いないだろう。

 

「ありがたいね。まさかお宝も一緒に持ってきてくれるなんて」

「黙れ」

 

 気がついた時、目の前に彼はおらず、ただただ呆然と立ち尽くす楯無と、いつ開いたのか分からない穴がただ天井にあるだけであった。




 今回話の展開上海東大樹が若干かわいそうなことになりましたが、結局彼のやろうとしているのは犯罪行為のためこれぐらいかわいそうなことをしないと世間のお子様たちがマネしちゃうので(出来るか!)。

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