仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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プリキュアの世界chapter91 またいつの日にか

「ふわぁぁぁ、眠い」

「結局夜が明けるまで騒いでたものね」

 

 背伸びをしたり、あくびをしたり、あるいは眠い目をこすって四葉本社の前に立つ戦士たち。昨晩は誰も寝ようとはせず一晩中パーティーを開いていたのだから無理はない。アドレナリンが放出されていたからか、それとも勝てたことの嬉しさなのか眠気が全くと言っていいほどに襲ってこず、それどころか夜が深みを増していくたびにどんどんとテンションが上がっていって、一言で言ってしまえば大変だった。

 

「だが、おかげでいい写真が撮れた」

「それって、昨日の?すこし拝見してもよろしいですか?」

 

 士がありすに渡したのは何百枚にも及ぶ写真。それは全て昨日一日でとった写真だ。何気ない日常を切り取った写真もあれば、プリキュアの姿を映した写真もある。当然ながら昨晩のパーティーの時の写真も多い。

 ゆうこやマーベラスなどの参加した大食い対決。

 端っこでやっていたはずなのにいつの間にかステージに上がって始まった伊達健太と宝条永夢のゲーム対決。

 北条ファミリーwith奏と戦士連合有志による演奏会。

 マナが参加したことによって地獄絵図となったカラオケ大会。

 そしてアイドルユニット『pretty cure』の6人による初歌唱(いつの間にかえりかによってかってにつぼみがメンバーにねじ込まれてしまった)。

 等々いくつかを割愛してもそんな楽しい一夜があっという間に過ぎ去った。

 

「これでもう、お別れだね」

「少し寂しいけどね」

 

 そう、何事にも終わりはつきもの。これでもうこの世界でやり残したことはなくなった。あとは、それぞれの世界に帰るだけとなった。彼女たちプリキュアは、その見送りに来たのだ。

 

「色々とありがとうございました」

「なに、我々はただ当たり前の事をしたまでだ」

「これからも君たちには様々な試練が待っている。だが、君たちの力が、なにより仲間がいれば必ずや乗り越えていけるだろう」

「はい!」

 

 本郷と海城からの激励を受けたほのかとなぎさ。不安がないと言えば嘘になってしまう。自分達がこの二人やベテランとも言える戦隊、ライダーと同じように戦い続けることができるのか。それともくじけてしまうのか。だが、他の誰かができたことなのだ、他の人間ができたことなのだ。だから、同じ人間である自分達ができないわけがない。その覚悟をもって生きていく。戦い続ける。それが、戦う力をもらった者の指名であるのであれば、それを全うするのみである。そしてたくさんの人たちの明日を守る。ただそれだけだ。たった二文字だけの返事、そこには文字数としては足りないほどの覚悟が秘められていた。

 

「別の世界の私たちも、士さんのオーロラを使うの?」

「はい。士さんは行ったことないそうですけど、私たちがその世界の記憶を思いでを持っていれば必ず帰れるだろうって」

「とかなんとか言って、また適当な事言ってるんじゃないか?」

「あぁ、彼ならあり得るね」

 

 と子供のプリキュアに対して翔太郎とフィリップが言った。

 だが、これに関しては士は適当なことを言っているわけじゃない。実際昔の士であればそのような力は持ち合わせていなかったのかもしれない。しかし、比較的自由に世界を行き来できるようになってからはあまり知らない世界にも行けるようになった。さらにいえば、様々な仮面ライダーの世界を巡っていた時も一度だけ自分の知らない世界へと行ったことがある。それもまたある怪人の記憶を使ってその場所までの道標にしたのだ。それと同じ方法を使えば必ず彼女たちを元の世界に戻すことができる。そう考えていた。

 

「ねぇ私。向こうに帰ったら親孝行して、悔いのないようにしてね」

「はい!」

「私も、この世界の私みたいになれるように努力します」

「誰かに憧れるのはいいことです。でも、完全にその人になることなんtね決して不可能なこと。たと、それが別の世界の自分であっても。だから、自分らしく、自分の思った通りの自分になって、私!」

「はい!」

「リコたちとも、これで一旦お別れだね」

「はい、でも全然寂しくありません」

「またいつか会える。それを私たちは知ってるから」

「離れていてもみんな一緒モフ!」

「心はいつも一緒にいるから。だから……また未来で会いましょう」

「みらい……」

「うん。いつか、未来で」

「向こうに帰ったらなのはちゃんやどれみさんに急に帰ること謝ってくれるかな?」

「うん。また一緒にお菓子をつくろうね、私!」

「うん!」

「友達、たくさん作って……今の自分の気持ち、忘れないでね」

「はい、絶対に……私も、フーちゃんとの思い出を忘れないで」

「うん……」

 

 別れることはとても悲しくて、とても寂しい物で、それは例え過去の自分たちであっても、未来の自分たちであっても同じこと。けど彼女たちは知ってる。同じ空の下にいなくても自分たちの心はどこかで繋がっているのだと。だから悲しいけど涙はこぼさないようにして、彼女たちはたった一日だけの冒険だったけど、そのたった一日で大きく成長することができた。

 そして、もう一人の別れ。

 

「れいか、また冒険に行くの?」

「はい。家には無事を報告しました。今度は一人で、海底探索なんていいかもしれません」

「そっか……」

「れいかちゃん……」

「みゆきさんの絵本とやよいさんの漫画。今度帰った時の楽しみにしてます」

「うん、私たち頑張るから。世界を超えるくらい面白い漫画を描くから」

「なんも心配してへん。だからな……」

「……またね、れいかちゃん!」

「はい」

 

 みゆきは泣かなかった。泣きたかったけど泣かなかった。子供のプリキュアが泣くのを我慢しているというのに大人の自分が泣いたらしめしがつかないからか。いや違う。これは今生の別れではないからだ。あかねの言う通り、なにも心配なんてしていない。彼女ならどこに行っても、どんな試練に阻まれようとも必ずそれを乗りこえてくれる。それを彼女たちは知っている。だから、サヨナラは絶対に言わない。また会えると信じて、またこうして笑い合えると信じて。またねと言う言葉を何度でも使う。何度でも、何度でも。

 

「よっしゃ、それじゃみんな帰ろうぜ!」

「あぁ、あまり長居をしていると、別れるのが辛くなる」

「かもしれないな」

「士、そっちのクウガ……小野寺くんにも伝えてくれないかな?」

「ん?なんだ?」

「俺ができないことを君が、俺が笑顔にできない人たちを笑顔にしてくれって……君の力で、君のクウガで、君のその笑顔で」

「……気が向いたらな」

 

 ついに別れの時が来た。士は複数のオーロラを出現させる。このオーロラを潜ればそこはもう元の世界。次にこの世界に訪れることができるのは、彼女たちと再会できるのは、果たしていつの頃か。いや、それがまだ遊びに来たとかそんな軽い理由であるのならばいい。だが、再び世界の危機が訪ずれようとするのならば……。いや、だからこそであるのか。

 例えそれがどのような世界であっても構わない。そこに住む人々を、自然を、夢を、笑顔を、そして当たり前であるはずの明日を守るためならどこであろうと飛んでくる。それが、なにかを守る力を授かり、受け継ぎ、守り、そしてもたらされた者の宿命なのだから。

 

「お待ち下さい」

「ん?」

 

 オーロラに向かって歩き出そうとしたその時、士の写真を持ったありすが声をかけた。ありすは、士に写真を手渡すと微笑みながら言った。

 

「まだ、大事なことが残っていました」

「大事な事?」

「はい」

 

 ありすの言う大事な事、それは……。

 

「右側もうちょっと詰めて下さい」

「小太郎君、顔が見えてないよ!」

「妖精のみんなは一番前でいいわよね?」

 

 それは士の写真。ひいては、全員が集まって写った集合写真。カメラマンであった士の写真が一枚もないのは当たり前であったとして、これだけの人数の写真をあのパーティーの中で撮るのは困難だった。だからその写真だけはなかったのだ。

 今、彼らは四葉のビルを背にして何重にも重ねられた机の上に立ち、あるいは座っている。もちろん安全面には十分配慮し、念のために妊婦である響等は小さな妖精たちを除けば一番前だ。

 

「それで、どうして俺は一番前のセンターなんだ?」

「いいじゃん一番目立ってさ!」

「あなたは、この戦いの一番の功労者なんだから」

「功労者……か」

 

 士は後ろにいる、横にいる、そして前で写真を撮る準備をしているキラキラプリキュアアラモード以外の現役プリキュアの姿を順番に見る。余談だが、この写真撮影には遠藤止と戦った戦士たちは勿論現役プリキュアの救出作戦に参加していた戦士たちもいる。ただ、ZECTや特状課の面々のようなサポート役は撮影に関しては辞退していた。被写体の人数が多ければ多いほど一人一人の顔が小さく写ってしまうし、なにより今回の戦いは仮面ライダー、スーパー戦隊、実際に戦った戦士たちがいたからこそ勝てたのだから。そう言って何人も辞退していった結果残った面々が、この集合写真の面子である。

 それはともかく、周囲を見渡した士は一言呟いた。

 

「もしかしたら、俺たちがこの世界に来た意味はなかったのかもしれないな」

「え?」

「遠藤止もハーメルン確かに強敵だった。だが、この世界のプリキュアの力なら、きっと倒すことができていた」

 

 それは、謙遜でもなんでもない本音だった。

 たとえ相手が遠藤止であってもハーメルンであったとしても、ここにいる数十名の女の子たちであればきっと世界を守ることができていただろう。本当は、自分も、海東も、他の仮面ライダーもスーパー戦隊も必要のない存在だったのかもしれない。それだけの力を、そしてどんなことでも乗り越えられる希望と、仲間たちを持っていた彼女たちならば、きっと……。

 

「確かにそうかもしれないわね」

「え?」

「けど……」

 

 けど。ほのかのその後の言葉、それを聞いた士は……。

 

「皆さんいきますよ!はいチ~ズ!!」

 

 映された写真。そこにいた彼、その顔は笑っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 今度こその別れ。士によって出されたオーロラの中に一人、また一人と戦士たちが消えていく。ある者は一度振り替えって、ある者は笑顔を見せて、ある者は少女たちに向けて拳を突き上げて、ある者は手を振って、ある者は親指をたてて、またある者は振り返りもせずに消えていく。

 そして、別世界のプリキュアがオーロラの中に消えていったのを見送った。これで、残ったのは士のみ。士は、振り替える。その顔は、プリキュアの誰かをみていたのか。いや、違う。士はその向こう、この世界をみていたのだ。自分が守ったこの世界を、自分が訪れたこの世界を。そして、大事な仲間たちとであったこの世界を。きっとまた彼女たちと出会える。先程の写真が印刷される時間を待たなかったのはそのためだ。この先、数多くの強敵と出会い、多くの危機が待ち受けている。だが、それは生きていれば自然とそうなるもの。大事なのは、それを乗り越えることのできる精神力、そして、それをともに乗り越えてくれる仲間。自分一人ではどうにもならないことでも、どんな強敵でも仲間がいれば必ず乗り越えることができる。彼は、この世界でそれを教えてもらった。自分が守ったこの世界に教えてもらった。そして士は消えていった。自分が守った世界と言う誇りを胸にして。また、次の世界に行くために。次の世界の景色を写真に残すために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしも、私たちがこの世界にいなかったら?」

「なに?」

「私たちが遠藤止と戦ったのは、戦えたのは、この世界にたまたま私たちがいたから。もしも、私たちプリキュアがいなかったら、この世界は遠藤止の物になっていた」

「……」

「それに、士が最後にハーメルンにいった言葉……それに鳴滝って言う人にいった言葉、あれがあったから私たちもまた立ち上がる勇気をもらったんだもん。やっぱり、士はこの世界を、私たちを救ってくれたヒーローだよ」

「なぎさの言う通りよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ありがとう。通りすがりの仮面ライダーさん」」

「……あぁ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ありがとう、プリキュア」


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