「……」
「……」
「……」
士の笑みが映されたのを最後に、ミラクルライトの光は消えた。なんだか、長い間夢から覚めてしまったかのようだ。誰もが、そんな不思議な感覚に陥った。
誰も、口を開こうとはしなかった。空気が重苦しいからか、いや違う。誰も言葉を発することができないのだ。自分たちはたくさんの冒険をして、多くの経験をしてきた。だから、そう簡単に驚くということは無いだろうと、そう考えていた。だからこそ、この衝撃を受け止めるのに時間がかかったのだ。
「なんだか、すごい戦いだったな……」
最初に口を開けたのはユウスケだった。そんな素朴すぎる感想を聞いて、ようやく金縛りが解けたかのように各々が話を始める。
「うん、とんでもない強敵……でも、それ以上にスーパー戦隊の人とか、士さんたち仮面ライダー、それにプリキュアが、こんな力持ってたなんて……」
「まるで何時間もある映画を見た時みたいですね……」
桜子とあやかはそう感想を述べた。強大な力を持つもの同士の戦い、その迫力に押されてしまったために、頭にはフワフワとした感想しか浮かばなかったのだ。
「この戦いの後、士君はすぐに私たちのところに戻ってきたんですか?」
「いや、この後オーロラを使って移動したら全く別の場所に出た」
「それってどういうこと?」
「おそらく、遠藤止が使った世界の行き来を封じるなんらかの手段のせいだと思うよ」
海東がそう言った。そういえば、遠藤止はいったいどうやって世界の行き来を封じたのだろう。そういった力を持った仮面ライダーがいたのだろか。
「とにかく、スーパー戦隊とほかの仮面ライダーたちは元の世界に戻すことができた。だが、俺達はそれぞれ別の世界に飛ばされた」
「あ、もしかしてそこであの人たちと?」
「そういうことだ」
あの人たちというのは、ミラクルライトを振る際に現れた数多くの見知らぬ人間たちのこと。その後ろには巨大なロボットがいたようにも見えたが、いったいどんな世界に行っていたというのだろか。
ふと、ここで才人が聞いた。
「けど、なんで他の仮面ライダーたちが自分たちの世界に帰ったってわかるんだ?」
「そういえばそうね?」
「その後も色々な戦いがあった。そこで顔を合わせたからだ」
「ある時は1年間かけて日本中、いや世界中である魔化魍とすべてのヒーローが戦っていた……いや、もしかすると今も戦っていると言ってもいいのかもしれないね」
その話も少し聞いてみたい気がするが、今はもう色々とありすぎて疲れたため次の機会にしようと考える面々であった。そして、この話に疑問を持ったのは今度はマナである。
「あれ?それじゃ、みらいちゃんやめぐみちゃんたちは?」
「ん?……さぁな」
「いや、さぁって!」
「分かるわけないだろ、あの後プリキュアと共闘したのは今回が初めてだったんだからな……いや、ある意味では……」
「ある意味では?」
「……なんでもない」
つまり、あの戦いからこの世界でマナと共に戦うまでということだ。なんだか一つ話すごとに一つ謎が増えている感があるのだが、いったい何を隠しているというのだろうか。
「とにかく、別世界のプリキュアの皆が無事に帰れたのかわからないって事か……」
「あぁ、そういうことだ」
あの少女たちであるのならば、心配は杞憂であるのかもしれないがやはり不安にはなる。果たして今頃どうしているのだろか。
「帰ると言えば、どうしてあやかさんたちはネギ君たちと帰らなかったんですか?」
「へ?」
そう、あの場所にはネギたちがいたのだから帰ろうと思えば彼らと一緒に帰れたのではないか。そんな夏海の疑問に対してしかし、桜子は首を振る。
「おそらく、あそこにいたのは私たちの意識だけだったみたいで……」
「帰ろうにも帰れなかったです」
「でも、別れ際に明日菜さんたちと約束しました。いつか必ず、生きて帰ると」
「今は、その約束だけで十分です」
「そうですか……」
考えてみれば、士があのオーロラで自由に世界を行き来できるというのならば彼女たちがSAOの世界にまでついてきてしまったその時にそのオーロラで戻しておくこともできたはずなのだ。何故それをしなかったのか、それはそのオーロラ自体がおかしくなっていたからだったのだ。夏海は、ようやく合点がいった。
「さて、やることも済んだ……あとは……」
「はい」
「だな!」
「行くのか、次の旅に」
「そういうことだ」
士たちは後片付けをすると学園長室から出て、学園の外にでる。そして、光写真館の前に来ると言ったん振り返って才人たちと向き合った。
「じゃあな、ディケイド」
「あぁ……もう会うことは無いだろうがな」
「どうだろうな。あの世界みたいに突然呼ばれることもあるかもしれないだろ?」
「……」
「その時は、俺も戦う」
「私たちも……ね」
そういうと、士は才人、そしてルイズと硬い握手を交わした。確かに彼の言う通り。この先この二人の力を借りる時が来るかもしれない。遠い未来、あるいは近い将来。
「相田さま、あなたはどうなさるんですか?」
シエスタにそう聞かれたマナは少しだけ考える。何であればこのまま士たちの旅に同行するという手も考えられる。というか、それ以外に元の世界に帰る方法なんて限られてくる。
「考えたんだけど、士さん」
「なんだ?」
「あの、オーロラを出してくれますか?」
「なに?」
この言葉には周りの物全員が驚いた。先ほどまでの話を聞いていたのだろうか。確かにあれを使えば光写真館を使わなくても世界を渡ることができる。しかし、今のオーロラは何処に飛ばされるのかわからない。仮面ライダーたちのように自分たちの世界に戻ることができるかもしれないが、士や海東のように別の世界に飛ばされてしまうということも考えられるのだ。
しかし、マナは笑みを浮かべながら言う。
「大丈夫、いざとなったらこのミラクルライトを使うから」
「どういうことシャル?」
「ほら、このライトあの時別の世界にいる人たちを呼んでたでしょ……もしかしたらこのライト、士さんのオーロラみたいに世界を渡る力を持っているのかも」
「可能性はある。キリトたちはともかく、ネギたちやその前に行っていた世界にはこのライトを渡していなかった」
「だが、それは推論に過ぎない。それにもしライトにそんな力があったとしても、今は光を失っている」
一か八かの賭けにもほどがある。もしかしたら二度と自分の世界に帰ることもなく、友達と再会することもなく一生を終えてしまう可能性もあるのだから。だが、マナはライトを取り出すと言った。
「それでも……私は帰らないといけない。救わないといけない、友達がいるの」
「マナ……」
「……」
「覚悟はある。だから、お願い士さん」
マナにはどうしても救わなければならない孤独な友達がいた。マナはその子のために奔走していた最中だったのだ。だが、その途中にこの事件に巻き込まれてしまい、そのことも離れ離れになってしまった。今にも心が壊れそうな少女。孤独の闇に負けてしまいそうな少女。他の友達を信頼していないわけじゃない、しかしあの子のすぐそばにいてあげなければその子が身を滅ぼしかねない、そうマナは直感していたのだ。
士は何を言っても無駄だと直感した。彼女は何事にも猪突猛進なのだ。愛を振りまく代わりに自分が傷ついてもかまわない。彼女はあまりにも危ういのだ。だからあの世界の未来の相田マナは心が侵され、PC細胞を自らの欲求のために使ってしまった。シャルルが付いているとはいえ、彼女を一人で行かせるのはあまりにも危険だ。だが、士は知っている。彼女には何事にも動じず、何者にも負けない強さも合わせ持っているのだと。あまりにも矛盾しているのかもしれない。しかし、彼女であればどんな危機も必ず乗り切ってくれる。おそらくミラクルライトもそう考えたのだろう。彼女の手の中にあるミラクルライトを一瞥した士はため息をつくと言った。
「分かった」
「!」
「だが、俺がやるまでもなさそうだ」
「え?」
その瞬間だった。マナの持つミラクルライトが再び光出したのだ。まぶしい、しかし手でさえぎらなければならないほどまぶしくはない。むしろこれは神々しと言ったほうがいいのか。ともかく、光はそのうち一つのオーロラを作り出して彼女の前に現れた。
「これって……」
「ミラクルライトにマナちゃんの覚悟が届いたってことですか?」
「かもしれん……だが、この先がマナの世界だとは……」
「それでも行く。ミラクルライトがあればこのオーロラを作れるってわかったんだから、なおさら」
「そうか」
止めても無駄。そんなことは分かっている。だから、士はそれしか言わなかった。マナはシャルルを抱いてオーロラに向けて歩き出す。
「シャルル、怖い?」
「ちょっとだけシャル。でも、マナが一緒ならなにも怖くないシャル」
「ありがとう……あっ、そうだ!」
オーロラを目の前にしたマナは、何か思い出したように翻して海東に言った。
「海東さん、あの世界で盗んだもの、返してもらえますか?」
「え?」
「なに?」
「……」
このマナの言葉に夏海たちどころかあの世界でずっと一緒にいた士もまた驚いた。海東が何かを盗んだ、しかしいったい何を。海東は知らぬ存ぜぬといった顔をしてしらをきるつもりである。
「何のことだい?」
「隠さないでください。私、ちゃんと見ていたんだから」
「僕は知らないね」
長年の付き合いのある士は分かった。マナの言い分が正しいのだと。この表情は何かを隠している顔だ。士は若干あきれながら言った。
「海東、往生際はよせ。何を盗んでいたにしても、おそらくそれはマナの世界にあって初めて意味を成すものだ」
「厳密にいえば彼女の世界じゃない」
「でも、私の友達の物です」
「……仕方がない」
二人の言葉に観念したのか、海東は懐からスマホ程の大きさのものを取り出した。というか、ずっとそこにしまっていたのだろうか。マナは、投げられたそれを難なくキャッチして言う。
「ありがとうございます」
「ってあれは確か……」
「えっと、確かPC計画の人たちが使ってた……」
「人工コミューンツヴァイだ!」
「海東、あの時四葉の地下に行った時に盗んでいたな」
「気が付かないほうが悪いんじゃないか士」
盗人猛々しいとはこのことである。表面にS・Hの文字が書かれている人工コミューンツヴァイは確かにあの時海東が手に取っていた物だ。その時に元の場所に戻していると思っていたが、まさかそのまま持って帰ってきていたとは思わなかった。あの四葉のセキリュティシステムであれば無くなっていれば気が付くであろうが、あの時ほかのコミューンが全て持ち出されていたのでそれと一緒に持っていかれたと思われたのか、あるいは遠藤止襲撃の混乱で見過ごされてしまったのか。ともかく、四葉のセキリュティ部門の関係者の首が若干心配になるが、マナは最後にそこにいた者たちを見渡すと言った。
「それじゃ、また会おうねみんな!」
「バイバイシャル!」
「あぁ、ありがとうマナ!」
「またねシャルル!!」
「行ってらっしゃい!」
「マナ、お前ならどこの世界に行っても友達がつくれそうだな」
「もちろん!……それじゃ……」
マナは、オーロラの方に向き直ると一度深呼吸する。怖くないと言ってしまえば嘘になる。だが己を信じて歩き出せば、超えられな山等存在しない。だから……。
「行ってきます」
ただいまを言うための、そしておかえりを言ってもらうための旅が、今始まった。