仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

176 / 265
プリキュアの世界chapter79 ファーストライダー

 彼は、仮面の下で多くの涙を流した。自分が守り切れなかったもの、殺した者、その人たちの分まで泣いていた。

 自らを縛り付けるその仮面という呪縛が、皮肉にも彼の涙を誰にも見せないようにしてくれていた。

 彼は今日も戦い続ける。自分が傷ついてもなお、自分が苦しんでもなお、それでも彼は戦い続けている。たとえその道が……。

 

「フッ!クゥゥ!おりゃあ!」

 

 仮面ライダークウガ、五代雄介は多数のショッカーの改造人間が入り乱れている中で戦い続けていた。蹴り、殴り、投げて、それをひたすらに繰り返して戦っていた。

 こんなこと、あと何回繰り返せばいいのだろうか。どうすれば、もう誰も涙を流さない、みんなが笑顔でいてくれる世界にできるのだろうか。十数年にわたって戦い続けてきた雄介だが、しかしどれだけ戦っても終わりのない戦いに少しだけ疲れを感じていた。

 これまで世界中を旅していた中で、かつてのグロンギたちとの戦いのように人間を襲う怪物と戦う機会が何度も訪れた。そのたびに、彼は戦った。そして、たくさんの笑顔を守ることができた。でも、自分が倒した怪物たちの笑顔は守れなかった。

 彼はとてもやさしい人間だった。だから、たとえ敵であったとしても、敵だと断じていても、やっぱり殴ることが嫌いだった。暴力でしか解決することのできなかった自分が嫌いだった。

 今自分が戦っている改造人間たちも、これは遠藤止が作り出したいわば偽物の怪物たち。でも、そのオリジナルである者たちもまたかつては自分と同じ改造人間だった。望んでショッカーによって改造人間とされた人間たちもいる。だが中には、かの仮面ライダー1号のようにさらわれて無理やり改造人間とされた者もいる。

 できれば、その人たちの笑顔を救いたかった。救ってあげたかった。でも、そんなこと自分にはできなかった。だから、彼は仮面の下で涙を流しながら暴力を振るうことしかできなかった。ごめんなさい、すみません、そう心の中で謝りながら傷つけるための手を振り続ける。彼の心は戦いのたびに傷ついて、それでも彼は戦いをやめれなかった。彼が戦うことをやめたら、大勢の人たちが悲しむことになるから。それだけは嫌だった。だから、彼は殴り続けた。殴り続けた。殴り続けた。殴り続けた。殴り続けた。

 殴りつづけた。

 気が付けば、それが最後の改造人間であった。

 

「……」

 

 彼の身体を爆風が襲い、その場には彼一人しかいなくなった。

 彼は、その場で黙とうを始めた。それが自己満足による行為であることが分かっている。しかし、それをやらなければ、自分の心を守ることもできなかったのかもしれない。

 もともとほとんど一対一での戦いを繰り広げてきた彼にとって、一対多での戦いというのは慣れたものじゃなかった。だから、いつも以上に心労がたたっているのかもしれない。そう感じた瞬間に、彼の中で迷いが生じた。

 この後、遠藤止との最後の戦いが待っているはず。彼は、今自分たちが戦っていた改造人間たちとは違う正真正銘の生身の人間だ。自分の心は、その対決に耐えきれるのだろか。

 確かに彼は数多くの罪を犯した。倫理的にも、人としても許されない罪で、そのために大勢の人たちが悲しむことになった。それは絶対に許されないことだ。でも、だからと言って殺すことはないんじゃないだろうか。

 人間には誰だって罪を償いチャンスがある。自分の罪を悔い改めて、罪と向き合って前に進んで歩き出すという道が必ずある。たくさんの涙を生んでしまった自分が今も、償っているように。きっと、彼も話し合えばわかってくれるはず。そんな希望も少しだけだが持っていた。

 だが、彼は知っている。今までたくさんの国の人々を見てきて知っている。人間の持つ欲望がもたらしてきた悲劇、戦争という手段をとって、多くの命が失われる光景も、そして話し合いでは解決しないという事実も知っている。知ってしまっている。でもそれでも、自分の中の綺麗ごとを守り続けたい。たとえそれが、現実にすることなどできないと、少しでも心の奥底にかすっていても。

 

「グッ!!うぅ……」

「!本郷さん!」

 

 己の手を見つめていたクウガの前に、仮面ライダー1号、本郷猛が地面を転がりながら現れた。

 あの世界最初の仮面ライダーにして、半世紀近くを戦い続けている本郷猛をそこまで痛めつけることができるものなどそうはいないだろう。いったい、彼は誰と戦っていたのか。

 

「立て!立ってこの俺と戦え本郷!!」

 

 その声とともに現れたのはまるで古代エジプトの王様、ツタンカーメンのような被り物を被った壮年の男。いったい何者なのか。いや、その姿は耳に聞いたことがあった改造人間の姿と全く同じだった。

 

「地獄大使……」

 

 かつて、ショッカーが世界征服に乗り出して仮面ライダー1号、2号と戦いを繰り広げていた時、ショッカーから大幹部と言われている者たちが三人、日本へ来ていたと聞く。

 元ドイツ国防軍所属、アウシュヴィッツ収容所の管理人であったゾル大佐。

 怪人づくりの天才にしてマッドサイエンティストの死神博士。

 そして最後の一人、地獄大使。それが目の前にいる男だ。しかし、何か様子がおかしい。そうクウガは感じていた。

 先ほどまで自分が戦っていた敵は、全員が改造人間としての姿であった。しかし、目の前にいる地獄大使は改造人間としての姿ではなく、地獄大使そのままの格好で現れていたのだ。

 ただ人間態の仮の姿を現しているだけで改造人間としての姿になっていないだけとも思えるが、しかしこのどこから何が飛んでくるのかわからない戦場において、人間態に戻るメリットなどほとんどないはず。それに、どことなくなにか違和感を感じるのはなぜか。いったいあの地獄大使は何だというのか。

 

「どうした本郷!立つのだ!!」

「危ない!ぐあッ!」

 

 1号に向けて大きく鞭を振った地獄大使の攻撃に対して、クウガは前にでてその攻撃を受け止めようとする。しかし、鞭の動きは自分の予想よりもはるかに早く、そして重くその体にのしかかり、4mほど後ろに飛ばされたクウガはその衝撃によって変身が解け、五代雄介の身体に戻ってしまった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

「邪魔をするではない!これは俺と本郷……仮面ライダーとの対決なのだ!!」

「くっ」

 

 なんという気迫、そして執念であろうか。年老いた身であるというのにその体からはオーラにも似た何かが発せられている。ゆっくりと立ち上がった雄介は再び変身しようとする。だが、同じく立ち上がった1号が雄介の事を制すると言った。

 

「やめろ五代。この男とは、この俺が決着をつける」

「え?」

「いや、つけなければならないのだ」

 

 それは、地獄大使に勝るとも言えないほど、まさに気迫のぶつかり合いの様相を呈していた。

 なんだ、二人のこのオーラは。まるでとりつく隙もない。これなら起こるその戦いは、いうなれば達人同士の死闘であるともいえなくないものだ。雄介はまるで因縁のライバルの最後の決戦の場に、今まさに居合わせている、そう心の底から感じていた。

 

「地獄大使。お前はあの時、俺とともに戦った地獄大使本人だな」

 

 それは、ショッカー首領が本郷猛、一文字隼人によって倒されてからおよそ半世紀近い歳月がたったのちのこと。かつての師であり、すでに亡くなった立花藤兵衛の孫娘、立花麻由がショッカーの残党に狙われていると知った本郷猛が帰国し、当時日本で戦っていた仮面ライダーゴースト、仮面ライダースペクターとともに戦った時のことである。その事件のさなかで文字通り地獄からよみがえった地獄大使は、世界を征服するのはショッカーであるということを証明するためにショッカーから派生した組織、ノバショッカーと戦うために仮面ライダーと共闘する。しかし、致命傷を受けた地獄大使の身体は限界に近づき、髪は白髪、その顔からはもはや生気が抜け落ち、老人のような姿になってしまった。だが、今本郷猛の目の前にいる地獄大使はその時の地獄大使とはまるで違う。あの40数年前に戦っていた時のような風体となっていた。しかし、それでもなお本郷猛がその時自分とともに戦った地獄大使だと結論付けたのは、何者にも目もくれずに、自分をめがけて現れたその気迫からだった。まさしく、本郷猛の思った通り彼はその時の地獄大使であった。

 

「その通りだ本郷猛」

「だが、その恰好は何だ?あの時お前の身体に戦う力など残っていなかったはず」

「確かにそうだ。あの身体ではお前と戦うということは不可能だった」

「あの身体……そうか、眼魂か!」

「その通り、あの時破壊した眼魂を調べ、そして私自身を眼魂に変換させる技術を手に入れた!」

 

 あの戦いのとき、地獄大使は本郷猛の目の前で、マケドニア第26代元首であるアレクサンドロス大王の意思を宿した眼魂を破壊している。

 猛やタケルたちがいなくなったのち一人きりとなった地獄大使は自らが破壊した眼魂をかき集めて解析した。そして新たな眼魂を作り上げ、自らの意思をその中に落とし込んだのである。そのため、今の地獄大使は改造人間ではなく、タケルたちが戦った眼魔であるといってもいいのかもしれない。

 その後、アレクサンダー眼魔が立花藤兵衛の孫娘にとりついていたように依り代となる身体、本郷猛と存分に戦うことのできる体を探してさまよっていた。そして、彼は見つけた。自分自身の身体に。

 なお、眼魂とは、仮面ライダーゴーストが変身やフォームチェンジの際に使用していたアイテムで、その中には織田信長や宮本武蔵など偉人の魂が宿っており、それを使うことによってそれぞれの偉人に対応した能力を発揮することができていた。だが、そういった偉人の眼魂とは違い、ゴーストと敵として戦っていた眼魔と呼ばれる者たちの魂を宿した眼魔眼魂というものもあり、その二つを合わせた偉人眼魔眼魂というものも存在する。今回の地獄大使は、そちらの方に該当する可能性があるため、この状態は地獄大使眼魔と呼称するべきなのかもしれない。

 

「遠藤止が出した地獄大使の偽物。それにとりついたというのか!」

「その通り。もはやショッカーも関係ない!本郷猛!今こそ、雌雄を決する時が来た!!フン!」

 

 地獄大使の腕が顔の前を通過すると、その顔にトカゲのような顔が出現した。それは、地獄大使の怪人態であるガラガランダの顔そのものだ。

 

「来い!地獄大使!!」

 

 ついに、二人の改造人間の対決が開始される。

 最初は、穏やかな始まりだった。

 ゆっくりと二人とも歩きながらその距離を詰めていく。一号ライダーの背中が徐々に遠ざかっていく。しかし、それでも彼の背中は大きなものだった。

 雄介は、その背中に父親の面影を感じる。それは、懐かしさ、そして頼もしさという二つの感情が合わさった結果の幻想だったのかもしれないが、彼に任せておけば間違いはないと、そう信じることができるほどに、その背中には一つの仮面ライダーという名の魂が宿っていた。

 

「フン!」

「はぁっ!!」

 

 走り始めた汽車の如くゆっくりと歩いていた二人が、揺れるマントを見た猛牛のように走り出したのはほぼ同時だった。それはまるで、前もってそう行動すると両方がわかっていたかのようだ。

 

「はぁっ!!」

 

 最初に殴りかかったのは1号だった。しかし、地獄大使はその鉄をも砕く鉄拳を軽々と防いでみせる。そして、その代わりと言わんばかりに1号の腹部を蹴った。

 

「くっ!」

「ふん!はぁっ!!」

 

 それによってひるんだ1号に対して地獄大使はさらに鞭で追撃する。しなることによって強さの増した鞭が1号の体に当たるたびにその鋼の肉体から火花が何度も散る。

 その早さに反比例した重さの攻撃だ。雄介もその軌跡をたどろうと目をこらしてみる。しかし、うまくいかない。まるで透明な鞭を使っているかのように、その先端が見えなくなってしまった。どの方向からやってくるのかわからない。これでは見切ることもよけることも難しいだろう

 

「グッ!」

「どうした本郷!それでおしまいか!」

 

 怒りのような、嘆きのような、そんな感情のこもった叫びとともに、地獄大使は大きく腕をあげた。

 地獄大使が見せる一瞬の隙。漢はそれを待っていた。

 

「ッ!ライダーパンチ!!」

「ぐぉ!」

 

 ガードが上がりがら空きとなったその腹に、1号ライダーの渾身の拳がめり込んだ。1号はそれで殴ることを止めず、さらに何度も何度も地獄大使の体に攻撃を加えていく。

 あまりにも一つ一つが重い攻撃。相手が地獄大使ではなくほかの改造人間であればその攻撃ですぐに倒されていたであろう。そんな威力を含んだただの必殺パンチが次々と地獄大使の身体を捉える。

 

「……」

 

 雄介は、その光景を呆然と見ているしかなかった。これが、初代仮面ライダー本郷猛の戦い。そしてその宿敵地獄大使との決戦。いつ、どの攻撃で決着がついてもおかしくはない緊迫した状態が続いている。

 しかし、それを見ていた雄介は一つおかしなことに気がついた。1号の、本郷猛の拳が少し震えている。小刻みに震えていた。実際にはそんなことはなかったのかもしれない。しかし、クウガとして長年戦ってきた彼の目には、直接的な視覚情報だけでなく、ある種直感的な能力がそなわっていたのか。ともかく、まるで本郷猛が悲しみながら戦っているかのように、彼の目には映っていたのだ。それはまるで自分がグロンギや改造人間たちと戦っていたときのように。

 

「本郷さん……」

「ぐっ!ぬぅぅ……」

「……」

 

 1号の蹴りが、地獄大使の脇腹を襲い、蹴りが繰り出され、その身体は中を舞い、大きく吹き飛ばされた。

 空中で姿勢を立て直し、地面に降り立った地獄大使だったが、並の攻撃ではない1号ライダーの攻撃を受けたそのダメージが回復することはなく、地面に手をついてしまった。

 

「もうよせ地獄大使。おまえの魂は確かにおまえ自身、しかしその身体は元は偽物の肉体に過ぎん。もはや限界を超えているはずだ」

 

 苦悶の表情を浮かべる地獄大使は、何も言い返すことはできなかった。

 確かに、地獄大使としての魂は本物であるかもしれない。しかしその肉体は遠藤止が作り出した偽りの改造人間としての身体。彼が呼び出したライダーや戦隊が、経験や成長が一切ない状態であったのならば、怪人たちもまた同じように肉体的な経験や成長といった者から離された状態となっている。つまり、地獄大使としての肉体は、あの約半世紀前の状態そのままと言うこと。その状態で1号ライダーの強力な攻撃を何度も食らって耐えきれるはずがない。

 

「その肉体でもいい。もう休め、地獄大使。身体を労るんだな」

 

 そうして、本郷猛は地獄大使に背中を向けた。トドメをささないのか。これまで数多の改造人間を葬ってきた本郷猛が、なぜそのようなことをするのか。雄介には理解できなかった。いや、一つだけ、想像ではあるがもしかしてという理由なら存在する。しかし、もしもそうだとすると彼もまた……。

 

「待て!本郷!!」

「!」

 

 そのとき、1号ライダーの腕に鞭が巻き付いた。1号が振り返った先に立っていたのは、怪人の面をかぶった地獄大使ではない。素顔の地獄大使がその場にいた。

 

「地獄……おまえ、そこまで……」

 

 もはや、怪人としての顔をみせることができないほどに消耗しているのだ。地獄大使を突き動かしているのは、消えそうだがしかし遙か天空にまで舞い上る炎のような執念だけ。本郷猛を倒す、戦うというその思いだけが彼の身体を動かしていた。

 

「あのときもおまえはそう言った!そして戦わなかった!」

「……」

「なぜだ!あのとき、そして今の俺は戦うに値しない存在であるというのか!!」

「……」

「数多の改造人間を葬っておきながら!なぜだ!本郷!!」

「俺は……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人間の自由のために戦う……仮面ライダーだ」

「ッ!!」

「ライダァァァァ!キィィック!!」

 

 その背中は、悲しみに包まれていた。

 1号ライダー、本郷猛は変身を解くと、ちぎれた鞭のそばに横たわっている地獄大使を抱きかかえた。その改造人間の象徴でもあったかぶり物も破壊され、その下にあった白髪が白日の下にさらされ、もはやただの老人であるかのようだ。

 

「地獄……」

「人間の自由のため……なるほど、俺はおまえと戦うに値しなかったというわけだな、あのときも、今も……」

「……」

 

 あの戦いの時点で、地獄大使の部下たちはほとんどが倒され、ショッカーも壊滅したも同然。地獄大使自身も致命傷ともいえる深い傷を負って存分に戦える状態ではなかった。言うなれば、人類の脅威とまでいえる存在にはなっていなかったのだ。だから、本郷猛は地獄大使とは戦わなかった。彼が戦うのは改造人間を抹殺するためではない。人間の自由を奪おうとする者たちから人類を守るためだったからだ。

 

「しかしかつてはショッカーの大幹部であったこの俺がこうもあっさりと倒されてしまうとはな。本郷、人間は確かに成長する、進化する生き物。そしてそれは生きていれば自然とそうなる者だ。しかし、俺たち改造人間は違う、自らの身体を改造しなければ成長も、進化もない」

「そうだ。そして、かつてのショッカーの科学技術に、俺たちは並んだ。いや、追い越した。その結果がこの俺の姿だ」

「その結果の先が、無様に倒れた俺の姿というわけだ……フフフ、全くなんとも……」

「地獄……」

「なぁ、本郷。お前があのとき、緑川博士によって脱走していなければ、脳改造を受けてショッカーの一員となっていれば、こんなことにはなっていなかったのかもしれないな」

「そんなことはない。もしも、俺が自分自身のことを忘れて、ショッカーの手先となっていたとしても、俺以外の別の者がショッカーに徒なす者となっていたはずだ」

「フッ馬鹿を言うな、お前ほど優しく、力を自分のために使わないで人間の自由などという者のために使う人間などいる者か」

「いや、いる……俺の、目の前にな」

「……」

 

 本郷は、目の前にいる五代雄介のことを見た。

 

「仮面ライダークウガ……か」

 

 雄介はようやく気がついた。なぜ本郷猛が地獄大使との戦いに自分を巻き込まなかったのか。本郷猛は知っていたのだ。自分が戦いを好きではないと言うことを。自分と同じ、優しくて純粋な人間であると言うことを。人間の自由と笑顔、その違いはあるがしかし、似たもの同士であると言うことを知っていたからこそ、ほかの偽物の改造人間と違い魂の宿る地獄大使との戦いを望まなかったのだ。きっともう、自分以外のほかの人間に傷ついてもらいたくない。いや、傷つくのは改造人間である自分だけで十分だ。そう思っていたのかもしれない。

 

「そして今の俺の役割は、そんな若者たちを陰ながら支えること……老兵はただ去るべきなのだ地獄」

「フフフ、生涯現役であるお前がよくそんなことを言う……『仮面』ライダー本郷猛、その仮面の下でお前は何を隠している?改造手術の跡か?それとも、涙か?」

「そんなこと、決まっている……怒りだ」

「なるほど……フン!」

「何!?」

「本郷さん!!」

 

 最後の力を振り絞ったか、地獄大使は本郷猛の身体を押しのけてその手の中から脱す。雄介はすぐに本郷猛のそばに寄った。だが、本郷猛は地獄大使のほうを見るだけだ。

 雄介もまた、地獄大使を見る。すると、地獄大使の身体から光の粒子が少しずつ放出され天に昇っていく。地獄大使の偽りの肉体に本当の限界が来たのだ。

 

「五代雄介ェ!」

「!」

「よく見ておけ、これが……人間を脅かした改造人間の最後の姿だ。だが私は地獄から来た男地獄大使!またいつの日にか再びこの世に舞い戻ろう!たとえその姿がどれだけ変わろうとも!!」

「ダモン……」

「フフフ……仮面ライダー!!大万ざ~い!!!」

 

 地獄大使は大きく両手を挙げた。その瞬間を待っていたかのようにさらに光の粒子が身体からあふれる。

 ゆっくりと手を下げた地獄大使は徐々にうっすらとしか見えなくなっていく。その顔には少しだけの笑みが浮かんでいた。どうして、そんな顔ができるのだろう。これが初めての死ではなかったからか、それとも本当にまた復活すると信じているからか、いや違う。もしかしたら満足したのかもしれない。自分の想像する、自分が望んだ最善、最高の最後を迎えることができたというその事実に。己の宿敵との因縁に決着をつけることができたという高揚感に慕っていたのかもしれない。

 地獄大使の姿が完全に消滅した。その体から現れ落ちて行った眼魂もまた、地面に落ちると同時に光の粒子となって消滅する。

 ようやく一つの戦いが終わった。今回の多数の場所で起きている戦闘と比べればかなり小規模であるといえる。しかし、あまりにも重い戦いだったとも言える。そして、あまりにも悲しい戦いだったと言える。

 

「五代」

「あっ……」

 

 今だに座り込んでいる本郷猛が、つぶやくように言った。

 

「改造人間の中には、自らの意思でそうなったものもいる。おそらく、地獄大使もその一人だ。そして、今まで奴らのために多くの人間が死んだ。多くの涙が流された。それでも君は……」

「……」

 

 返事は、なかった。しかし、その拳だけで十分だった。

 

「五代、君はもう……」

「俺、後悔していません」

「何?」

「一条さんや桜子さん……映司君やれいかさん……クウガになれたからたくさんの人との笑顔と出会えたから」

「五代……」

「辛いことも、悲しいこともたくさんあったけど俺。みんなの笑顔が好きですから」

 

 本郷猛は、一人で戦い続けるつもりだった。一人で、孤独な戦いを続けるつもりだった。それが変わったのは仮面ライダー二号、一文字隼人を助けた時から。それから風見志郎、結城丈二、神敬介、山本大介、城茂、岬ユリ子、筑波洋、沖一也、村雨良。その後も多くの、五代雄介も含め、老若男女問わずたくさんの人々を戦いに巻き込んでしまった。多くのものはもう日常というものに戻れなくなって、それぞれの戦う理由のために戦いを続けなくてはならなくなってしまった。

 辛く苦しい思いをするのは自分だけで充分。自分で最後にする。自由を奪われるのは自分で最後にすると、そう決めていたはずなのに、自分は孤独に負けて、命を懸けた戦いの規模を大きく広げてしまった。その結果死ぬはずじゃなかった、不幸になるはずじゃなかった者たちまでも巻き込むことになってしまった。だから、彼は贖罪のために自らの身体を改造し、世界中を回って戦いによって傷ついた人々を救って回っている。

 彼の戦いは決して終わることのない、その身が風化し、砕けちり、亡びるまで続く戦い。しかし、それでも彼は戦い続けなければならなかった。たとえ、それが……。

 

「地獄へ続いていても……か」

「え?」

「いや……来るぞ、五代」

「……」

 

 二人の前に、多くの怪人たちの姿。数えるのも嫌になるほどの量の怪人たちが二人の前に立ちふさがっている。普通であれば、かなり苦しい状況であると言える。だが……。

 

「敵は多いな。いや、大したことはないか……俺とお前、ダブル1号だからな」

「本郷さん……」

 

 平成になって初めて生まれた仮面ライダーというくくりでいれば、ほかにも何人かのライダーが該当する。しかし、しばらく途絶えていた人類の敵と平成に入り1年近くの間戦い続けた初めての仮面ライダーは彼、仮面ライダークウガ。彼を別の言葉で例えるのならばこういうべきだと彼は考えていた。平成仮面ライダー1号、五代雄介。自分と同じく優しい心を持つ男。

 たとえ自分が傷つこうとも、それでも誰かの笑顔のために戦ってくれる男。

 同じ改造人間を殺すことになろうとも人間の自由のために戦う男。

 どこか共通点のある二人の男が、今初めての共同戦線を張る。

 

「行くぞ!五代!」

「はいッ!」

 

 昭和の熱い男の魂が平成ライダーに、そして平成ライダーの個性があふれる魂を新たな時代につなぐために。

 

「ライダァァァァ………変身ッ!」

「変身ッ!!」

 

 昭和と平成を駆け抜けたダブルファーストライダーが、悲しみあふれる戦場へと復帰した。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。