仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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 カーレンジャー時空に飲み込まれた戦士たち。あとは何を言いたいか、いやもはや言葉など不要。頭を空っぽにして見るがよい。


プリキュアの世界chapter78 危険、恐怖の過積載

 野球仮面との対決に勝利した連合チームの前に現れたのは、かつてゴーカイジャー、いやそれまで地球で戦ってきた戦士たち含めて35のスーパー戦隊が自らの命をかけて死闘を繰り広げた宇宙帝国ザンギャックに所属していたジェラシットである。

 

「ん、ありゃ……」

「ジェラシットじゃないか!どうしたんだこんなところで!」

 

 そこに現れたのは海賊戦隊ゴーカイジャー、レッドレーサー、ギンガブルー、レッドファルコン、仮面ライダーWそして二組のトッキュウジャーだ。

 

「あんたたち、知り合い?」

「お知り合いともうしますか……」

「まぁ、元宇宙帝国ザンギャック……つまり俺たちの敵だったんですけどね……」

「ジェラシット!なぜこんなところに……ゴーカイジャーから聞いたぞ、お前はザンギャックから生ごみに出された後、たこ焼き屋のお袋さんと駆け落ちして、その後江戸時代にたこ焼き屋として単身赴任していたんじゃなかったのか!」

「え?」

 

 なんだかよくわからない会話が聞こえてきた。たこ焼き屋のお袋さんと駆け落ちして江戸時代にたこ焼き屋として単身赴任していた。こう文字で起こしてみてもわけのわからない言葉ではあるが、実は単身赴任という言葉以外は事実だ。

 行動隊長ジェラシットは、かつて、このレッドレーサーである陣内恭介に一目ぼれしたある女性幹部の命令で地球に降り立った。だがその後実はジェラシットがその女性幹部に惚れていたために陣内に嫉妬して襲うわ、その結果その女性幹部とジェラシットが戦うわ、女性幹部からなぜか命令されたゴーカイジャーと戦うわと、紆余曲折を経たのちにゴーカイジャーの必殺技を連続で受けたにもかかわらずそのまま宇宙空間に漂っていた戦艦に勢いよく激突してもまだしぶとく生き残った。

 その後ジェラシットは、ザンギャックからそれらの失態を咎められたことによって、地球のゴミ捨て場に粗大ごみとして捨てられた。そして、その近所で出会ったたこ焼き屋さんの店主にペットとして飼われた後弟子入りし、これまた紆余曲折あった結果に宇宙人に偏見を持っていた店主の母と和解、そして駆け落ちした。

 その後田舎にある温泉旅館で二人仲良く暮らしていたのだが、その後なぜか脱獄不可能な魔空監獄に投獄され、さらにその一年後には1772年の江戸時代でたこ焼き屋をしていたというところまでは確認されている。果たしてなぜそのようなことになったのか小一時間話をしたいものだが、どうして一度は江戸時代にいたジェラシットがこんなところにいるのだろうか。

 

「まさか、遠藤止の……」

「遠藤……止?……誰だ……ここは……私は……」

「な、なんか様子がおかしくない?」

 

 なぜだか妙にカタコトである。今まで遠藤止の出した偽物は、ほとんどが無口、それ以外であってもオリジナルに準じたしゃべり方をしていたはずだ。というか、それ以前に先ほどまで普通に野球の審判をしていたではないか。しかし、今目の前にいるジェラシットは、まるでゾンビのようなしゃべり方をする。いったい、このジェラシットは何なのだろか。

 

「とにかく、向かってくるなら倒すわよ!」

「うん!」

 

 そうこうしている間に、周囲にいた敵も集まってきたようだ。戦士たちもまたそれぞれに武器を構えて臨戦態勢を整える。が、その時であった。

 

「ちょっと待って!」

「え?」

「ん?」

 

 現れたのは、その戦場にはあまりにも不相応な年配女性である。元スーパー戦隊というわけでも仮面ライダーというわけでも、もちろんプリキュアというわけもなさそうではあるが、ゴーカイジャーはその女性の正体を知っていた。

 

「あっ!あの人たこ焼き屋の!!」

「え?じゃあまさかあの人がさっき言ってた……」

 

 そう、この女性こそがジェラシットと駆け落ちした女性である。しかし当然ではあるが、ここはゴーカイジャーたちがいた世界ではない。それなのに、どうして別の世界であるこの場所にいるのだろうか。

 

「そんなことより!おばちゃん、どうしてジェラシットはあんな事に……」

「あぁ、私がいけないの……ジェラシットに、ジェラシットに……」

「ジェラシットに?」

 

 おばちゃんは、涙ながらに語った。

 数週間前のこと、江戸時代に行っていたはずのジェラシットが突然帰ってきたのだ。話を聞くと、江戸時代に飛ばされたジェラシットは、その後たこ焼きの修行のためにフランスへと渡った。しかし、その途中に迷ってしまいロシア経由でアラスカにたどり着き、そこで氷山に閉じ込められたそうだ。その後異常気象によって氷が解け、その氷山がたまたま日本近海にまで渡ってきて目覚めたのが偶然その時であったそうだ。

 とにもかくにも、無事再開できた三人は……。

 

「え?三人って……あのたこ焼き屋の息子さんと仲直りしたの?」

「ううん、私と……ジェラシットの間にできた子供、ジェラタロウよ!」

「えッ!?」

「詳しく聞きたい?あれは、駆け落ちした日の夜のこと……」

 

 はっきり言ってしまうと、こんな場面で宇宙人と地球人のおばちゃんとのラブロマンスなどこれ以上聞きたくない。

 

「お、おばちゃん!その話は後でゆっくりと聞くから続き続き」

「あ、そうだったわね……ともかく私たちは……」

 

 レッドレーサーによって、なんとかラブロマンスの回想から脱出できたところで本題に戻る。

 三人は、ジェラシットが帰ってきたことを祝してあるお好み焼き屋さんに行った。それは、彼女たちの年収から考えると破格の値段といっても過言ではないほどの高級店ではあったが、しかしその日はお祝いということで三人はそのお店に入っていったらしい。そして……。

 

「ジェラシットはそのお店で一番高級なお好み焼きを食べて……」

「ふ~ん……で?」

「……」

「……?」

「ま、まさかそれだけ?」

「えぇ……感動のあまり暴走して……」

「……」

 

 つまり、高級お好み焼きを食べたらおかしくなってしまった。そういうことである。

 

「って!なんでや!!なんでお好み焼き食べたくらいでそないなことになるんや!!」

「そうか、高級お好み焼きのあまりの美味しさに、ジェラシットの脳細胞がおかしくなってしまったのか!」

「そしてなんであんたはそれで納得してんのよ!!」

「宇宙人って、そんなのばっかりなの?」

 

 前回の野球仮面との野球対決の時から大活躍中の突っ込み三人衆、さすがにお好み焼き一つで人格がおかしくなるという状況には理解ができなかった。だが、レッドレーサーにとってはこんなこと別段珍しくない。なぜならば、彼は家出した車を帰らせるために童謡の『ふるさと』を歌ったり、2億4000年にいちどしか地球にやってこない宇宙妖精に宇宙に高速道路を作るよう願おうとした敵に出くわしたり、はたまた彼自身もその妖精にカツ丼を出すように願ったりとなにかがおかしいとしか言えないような出来事に何度もあっているのである。

 ほかピザに料理されて食べられかける、ダイエットに失敗したピンクが勘違いで怪人を倒す、誤って北海道に発送した必殺武器に乗った赤ちゃんの前で漫才、おやじギャグで笑う赤ちゃん、イモ羊羹、キムチ、コーヒー牛乳etcetc……。

 それを考えたら、むしろ高級お好み焼きで暴走する宇宙人などまだありえることなのである。

 

「っで、どうするんだ?」

「そうだ!こういうパターンの時は、おばさんの作ったたこ焼きを食べさせれば」

「もうそれはやったわ!でも、高級お好み焼きには歯が立たなかった……」

「そんな……」

「いったい、どうすればいいの……」

「なんやシリアスっぽい感じやけど……」

「原因が原因なだけにシリアスになり切れない……」

 

 これがまだ改造手術によって敵になってしまったであるのならばまだ少しはシリアスになることができる。敵に自分の大切な人を人質に取られてしまったというのもまだ同情ができる。しかしお好み焼きを食べたというわけのわからない理由で敵になられては、シリアスになりようがない。というか、なぜお好み焼きでそのようなことになってしまったのかの説明すらもついていないというのに。

 

「ジェラシットォォ!!」

「あぁもううるさい!」

「いっそのこと倒すか?」

「賛成!」

「って、それでええんかおばさん?」

「うぅ、これ以上ジェラシットが皆さんに迷惑をかけるぐらいだったら……」

「あきらめるなおばさん!宇宙人とチーキュの人間との間にできた深い愛情を……俺たちは守って見せる!!」

 

 シリアスとギャグの板挟み。カオスの極みともいえるような状況に、戦士たちは一同困り果ててしまっていた。そして、その中でもシリアスを演じることができているレッドレーサーと一部プリキュアに対して、突っ込み三人衆は頭を抱えるしかなかった。

 ゴーカイジャーはジェラシットを倒すということには一応賛成したものの、しかし以前から知っていたためにジェラシットの力を知っていたためそもそも倒せるのかすらも疑問であった。というか、以前から知っていたにもかかわらずすぐに倒そうと提案する当たりどれだけジェラシットに迷惑をかけられていたのかがわかるものである。

 こうして攻めあぐねている中、思いもよらぬ提案が彼女たちを襲った。

 

「どろ焼きだ」

「は?」

「え?」

 

 突拍子もなくフィリップの発した言葉。それに対応できるのはこの場では二人だけ、翔太郎とキュアサニーだけであった。

 

「どろ焼きって……あのどろ焼きのことか?」

「確かこの世界に来る前にお前が調べてたのも……」

 

 そう、『どろ焼き』である。

 

「どろ焼き、兵庫県姫路市発祥され、お好み焼きやたこ焼きと同じ粉ものに分類される鉄板料理さ。もともと、『喃風』というお好み焼きのお店で平成11年に客からたこ焼きを作れないかと言われた一言が原因で、お好み焼きのネタに卵とダシ、タコを入れて鉄板の上で焼いた『鉄板たこ焼き』が原点とされている食べ物さ」

「お好み焼きのお店で作られたたこ焼き……あっ!」

「そうか!その手があったか!」

 

 フィリップのどろ焼きの説明を受けて、何人かがいいアイディアを思い出したかのような表情になる。だが、大多数にとっては全く意味不明なことであった。

 

「え?なんや?なんか解決の糸口なんてもんあったか?」

「……聞かなくても想像できるけど一応聞いとくけど……何するの?」

 

 突っ込み組にとって、これから何をするのかをうっすらと頭の中に連想させてはいたものの、できればそんな信じがたいこと、こんな戦場でしたくなかった。だが、無情にも彼女たちの考えは当たっていた。

 

「どろ焼きを作って食べさせる!」

「やっぱり!?」

「だと思った……」

 

 こうして、この戦場における戦いにおいて先ほどの野球対決よりも奇怪な作戦が開始されようと……

 

「ちょい待ち!どろ焼き作るって言ってもここには鉄板も材料も……」

 

 至極まっとうな意見である。が、無駄。

 

「材料は買ってきた」

「速ッ!?ってか誰や!」

 

 天道総司。クロックアップの無駄遣いである。というか、先ほどの野球対決の時には影も形もなかったこの男、いったいどこで聞き耳を立てていたのだろう。

 

「で、でも鉄板は!?」

「それなら、私に任せて!」

「え?」

 

 マジピンクはそういうと、マージフォンに呪文を入力する。

 

「マージ・マジーロ!」

『マージ!マジーロ!!』

 

 瞬間、マジピンクの身体はピンク色の鉄板へと姿を変えた。

 

「やった!鉄板料理はサニーができるし、炎はルージュが出せるし!これで準備OKだね!」

「ほ、ほんまにやるんか?」

 

 その場にいる常識人全員が唖然とし、茫然とした。あれよあれよという間に、この戦場で料理を作るという話が現実味を帯びてきてしまったのだ。まさか、本当にこの作戦を決行するつもりなのか。確かに材料やら機材やらは用意できたが、どろ焼きなるものでジェラシットが元に戻るとは限らない。というかそんなもので元に戻ってしまったらギャグマンガだ。果たして、そんな作戦をする意味などあるのだろか。

 

「おもしれぇ、だめだったらその時は倒すだけだ」

「あぁ、だが最後まであがいて見せろ……それが、ジェラシットの魂に報いる唯一の方法、なんじゃないのか?」

「マーベラス、ジョー……」

「ジェラシットには、江戸時代で幻のレンジャーキーを見つけてもらった恩もありますし」

「凱くん!」

 

 ジェラシットを倒す一辺倒であったゴーカイジャーのまさかの寝返りである。とはいえ、確かに方法があるのであれば試してみなければならないのは間違いない。それがどれだけ成功率の低い作戦であっても、改心したジェラシットの魂だけでも救ってやらなければならない。このゴーカイジャーの言葉を受けたほかの戦士たちもまた、若干あきれながらも賛同した。

 

「まぁ、やってみるだけやればいいんじゃない?」

「ジェラシットにも待ってくれる人がいる……だったら、私は助けたい!」

「あぁもう、しょうがないわね!サニー!行くわよ!」

「……しゃあない。野球対決なんて変なもんした後やし、うちの店の新しいメニューにもなるかもしれへんしな」

「ふふっ、一度何も考えずに馬鹿になってみるのもいいかもしれないわね」

「よぅし、みんなでジェラシットを助けるぞぉぉ!!」

「オォォォ!!!」

 

 こうして、その場にいる全員の意見が一致し、この戦場における最高におかしな作戦の幕が開いた。

 鉄板ではキュアサニーに並び仮面ライダーカブトが同時に料理を作り始め、出来上がるまでの時間稼ぎにと戦士たちが戦闘を開始する。

 周囲の敵は特に問題のあるほどに強い者はいなかった。しかし、最大の敵はジェラシットであった。かなりふざけた敵であることは誰の目にも明らかではあるのだが、その実力の中でも秀でたものがあったジェラシットと戦うことはかなり厳しいものなのだ。

 

「クッ!」

「ちぃ!!」

「ジェラシットォォォォ!!!」

 

 ジェラシットは、その身を炎に包んでゴーカイジャーの六人に激突する。そして後ろに回ったところで反転し、またゴーカイジャーに向かって突撃。ゴーカイジャーの六人は地面に倒れこんだ。

 

「こいつ、前よりも強くなってない!?」

 

 これは、時間稼ぎだとかそんなことを言っている暇などない。油断などしていたらこっちがやられてしまう。

 

「どうすんのさマーベラス!」

「だったら、コレを使うまでだ……」

 

 本気を出さなければならない。そう考えて立ち上がったゴーカイレッドが取り出したもの。それは……。

 

「ゴーカイチェンジ!」

『ボ~ケンジャー!!』

 

 30番目のスーパー戦隊轟轟戦隊ボウケンジャー、その赤の戦士でありリーダーの明石暁の変身するボウケンレッド。マーベラスは、そのボウケンレッドのレンジャーキーを取り出し、モバイレーツに差し込み回す。すると、ボウケンレッドのスーツがその身体にまとわり、熱き冒険者そのものが今、この戦場に現れた。

 

「ボウケンジャベリン!ハァッ!!」

 

 ゴーカイレッドは、ボウケンレッドの専用武器であるボウケンボーの槍形態であるボウケンジャベリンを取り出してジェラシットへと切りかかった。

 そんな様子を、ゴーカイシルバー以外の四人は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして地面に這いつくばっていた。

 

「レンジャーキーだと!?」

「どうして?レンジャーキーはあの時……」

 

 レンジャーキーは、自分たちが地球を離れる時にもとの持ち主へと返したはず。その後も時々地球に帰ってくるたびに凱が借りに行っていたものの、今回はそんな時間はなかったはず。どうしてマーベラスはボウケンレッドのレンジャーキーを所持していたのだろ。

 

「あれは、遠藤止が出したレンジャーキーです」

「え?」

 

 四人の疑問に対して、シルバーは立ち上がりながら答えを告げる。

 

「遠藤止が出した偽物のスーパー戦隊は、倒したらレンジャーキーへと姿を変えました。それで、気が付いたんです。そのレンジャーキー、俺たちも使うことができるんじゃないかって。遊園地でそれをマーベラスさんに提案したんです」

 

 同じ遊園地にいたはずのゴーカイイエローではあるが、その話は初耳だ。おそらく、戦闘途中に自分の知らないところで話されたことなのだろう。

 

「なるほどね……だったら私たちも!」

 

 シルバーに続いて、ほかの四人もまたそれに納得して立ち上がる。そして、以前のように自分たちが変身したいスーパー戦隊を思い浮かべながらバックルのボタンを押した。その瞬間、からくり屋敷の壁のようにバックルの一部が回転し、その中からレンジャーキーが表れる。

 

「行くぞ、凱!」

「あっ、はい!」

 

 並び立った四人は、それぞれのレンジャーキーをカギの形に変形させ、そこにシルバーが合流した。

 

「「「「「ゴーカイチェンジ!!」」」」」

 

 そして、ブルー、イエロー、グリーン、ピンクはモバイレーツにキーを差し込み回転させ、シルバーはゴーカイセルラーにセットしてキーをスキャンする。すると、それぞれの機械から音声が流れだした。

 

『ハ~リケンジャー!!』

『マ~ジレンジャー!!』

『ア~バレンジャー!!』

『デ~カレンジャー!!』

『マ~ジレンジャー!!』

 

 ジョーがハリケンブルーに、ルカがマジイエローに、ハカセがアバレブラックに、アイムがデカブレイクに、そして凱がマジシャインにそれぞれ姿を変えた。この一見してバラバラでまとまりのないように見える五名であるが、実はそこに共通点があった。それを知っているのは凱、そして本物のハリケンブルーとマジイエローである。

 

「あれって!」

「ボウケンジャーと一緒に戦った時のか!」

 

 以前、ボウケンジャーが敵であるゴードム文明との戦いにおいて異空間へと転送されるという大きなピンチに陥ったことがある。その時、唯一難を逃れたボウケンシルバー、高丘映士によって集められたのが、異空間に足を踏み入れていたマジシャインを除く四人だった。なおこの時が、後にゴーカイレッド、マーベラスとともに宇宙に散らばったレンジャーキーを集めたアカレッドが最初に現れた時であった。

 五人は、ジェラシットとつばぜり合いをしていたマーベラスに合流する。それを見計らってマーベラスはジェラシットの腹部を蹴り距離を取った。

 

「ファイヤーインフェルノ!」

「電撃拳!エレクトロフィスト!!」

 

 瞬間、最初にアバレブラックによる攻撃によって生まれた火柱とデカブレイクの攻撃によって生まれた電撃がジェラシットに当たった。それに続くようにマジイエロー、ハリケンブルーが前に出る。

 

「超忍法!水流破!!」

「イエローサンダー!!」

「マジランプバスター!!」

 

 ハリケンブルーの手から放たれる水の激流、マジイエローのマジスティックから放たれる電撃、そしてマジシャインの使用する武器マジランプによる連続攻撃を受け、ジェラシットは怯み一瞬のスキができた。それを見計らったボウケンレッドは駆け寄る。そして、放たれたのはボウケンレッドの必殺技。

 

「レッドゾーンクラッシュ!」

 

 すれ違いざまに放たれたその攻撃によって、さすがのジェラシットの身体は悲鳴を上げる。

 

「どうだ!」

 

 さすがにこれでもう動けないだろう。と誰もが思ったが、しかしジェラシットは何事もなかったかのように立ち上がる。

 

「ジェラシットォォォォ!!!!」

「まだ立ち上がるの!?」

「思った通りだったな」

「あぁ、もう一度行くぞ!」

 

 そのゴーカイレッドの言葉で元の姿に戻ったゴーカイジャーは、続いてまた別のレンジャーキーを取り出す。

 

「「「「「「ゴーカイチェンジ!!」」」」」」

『ラ~イブマン!』

『ギ~ンガマン!』

『ゴ~ゴーファイブ!』

『ジ~ャッカ~!』

『メ~ガレンジャ!』

『ガ~オレンジャ!』

 

 レッドがレッドファルコンに、ブルーがギンガブルーに、イエローがゴーイエローに、グリーンがビッグワンに、ピンクがメガピンクに、そしてシルバーがガオシルバーにそれぞれ変身する。これまた何の脈略もない面子ではあるが、ガオシルバー以外の五人には共通点がある。

 

「今度はラクシャーサと戦った時のですね!」

「あぁ……まるであの時の俺たちを見ているようだな」

 

 以前、百獣戦隊ガオレンジャーが戦ったオルグの一人、はぐれハイネスのラクシャーサ。その力はあまりにも強く、一時ガオレンジャー五人のうち三人が戦士の魂を喰われて戦えなくなり、レッドが幻想世界に閉じ込められたりと危うく壊滅の危機に陥ってしまった。

 そんな時この五人の戦士が、そしてタイムレンジャーまでのスーパー戦隊のレッドが集まりガオレンジャーと共に戦い、スーパー戦隊の魂をガオレンジャーに教えることによってラクシャーサに勝利したのだ。

 因みに、ガオシルバーである大神月麿はその事件の後にガオレンジャーの仲間になったためその戦いには参加していなかったが、それを知っていた凱によって、ついにその五人と並び立つことができた。

 

「ハァッ!」

「フッ!」

「ハァッ!」

「ヤァッ!」

「ハッ!」

「ハァァァァ!!!」

 

 走りだした6人に対し、ジェラシットはまたも炎を纏って突撃する。しかし、今度は先ほどとは違い対抗手段がある。

 

「キャプチャースナイパー!」

 

 メガピンクの装備であるキャプチャースナイパー。強力な電波を発する技で、それによりジェラシットの動きが鈍くなる。

 そして、畳みかけるようにギンガブルー、レッドファルコンの二人による斬撃が当たる。

 

「激流一刀!」

「ファルコンブレイク!!」

 

 それによって、ジェラシットの動きが完全に止まった。だが、彼らの攻撃はまだ終わらない。

 

「ブイスラッシュ!」

「ビッグワンフィニッシュ!!」

 

 ゴーイエローとビッグワンの技、そして……。

 

「レーザープール!!ハァッ!」

 

 ガオシルバーの武器、ガオハスラーロッドが振るわれると、そこから緑色のオーラのようなものが扇状に広がり、ジェラシットの身体を拘束する。そのオーラの色から、ビリヤード場のようなものを連想させる。そして、ガオシルバーの手には三つの玉、ガオの宝珠が握られていた。ガオの宝珠とは、心を通い合わせたパワーアニマルから授かれる絆の証で、ガオシルバーはガオウルフ、ガオハンマーヘッド、ガオリゲーターの三つを所持していた。

 

「破邪聖獣球!邪鬼玉砕!ハァッ!」

 

 ガオシルバーは、ガオハスラーロッドを使用して三つのガオの宝珠を打ち出す。その様子は、まさにビリヤードそのもの。

 打ち出されたガオの宝珠は、それぞれに当たりながらジェラシットに向かう。そして当たっている間に蓄えられた力がすべてジェラシットに当たる。

 瞬間、大きな爆発とともに、爆炎の中から三つのガオの宝珠が戻ってきた。

 

「これだけやったんだから、さすがに……」

 

 さすがに動きを止めているだろう。そう考えたのもつかの間。

 

「ジェラシットォォォォ!!!」

「嘘ッ!?」

「化け物かあいつ」

 

 普通の怪人であれば10体はすでに倒されているはずの攻撃を受けてまだ立ち上がるジェラシット。6人は思う。あの時ジェラシットが本気になって自分たちに向かっていなくてよかったと。いやあの時もあの時で本気だったし、今のジェラシットとあの時のジェラシットを比べるのはなにか違う気がするが、しかしそれを無しとしてもあまりにも強すぎる。

 このままじゃ、こっちがスタミナ切れでアウトとなってしまう。ジェラシット相手にここまで苦戦を強いられることになるとは思いもよらなかった。

 果たして、その男は唐突に現れる。

 

「もう止めるんだ!ジェラシット!!」

 

 そう叫びながら飛び込んできたのはレッドレーサーだ。レッドレーサーは、飛び上がってジェラシットに向かい、ドライビングアタックを放つ。

 

「ジェラシットォォォ!!」

「ぐあっ!!」

 

 しかし、暴走状態のジェラシットにとってはそのような攻撃はもはや無意味といってもよい者。まるで近くに来た虫を払うかのように腕を振るった瞬間、レッドレーサーは吹き飛ばされ岸壁に当たり、そのまま崩れた岩とともに地面に落ちた。

 

「恭介さん!」

 

 別の世界に飛ばされたときに出会ったキュアハッピーの声が土煙の中に消えていく。レッドレーサーの姿はいまだ見えず、しかしジェラシットの身体からは灼熱の炎が吹きあがり、その暑さによって周囲の空気が熱せられ屈曲し、ジェラシットの身体も歪んで見えるほどだ。

 

「ッ!ジェラシットの身体がさらに燃えてやがる!」

「これじゃうかつに近づくこともできないよ!」

「いったいどうすれば……」

 

 戦闘が長引けば長引くほどに、ジェラシットの体温が上がり続けていく。はやくジェラシットの暴走を抑えなければ、ジェラシット自身の身体が燃え尽きる。いや、下手をすればその暑さで大爆発を起こし、この戦場にいるすべての人間を燃やし尽くすかもしれない。こうなればもう、ジェラシットを倒すしかないのか。

 

「まだだ!」

「ッ!」

 

 しかし、あの男は、猿顔の一般人はあきらめていなかった。変身が解け、しかしそれでも立ち上がった陣内恭介。

 

「う、うぅ……」

「え?ジェラシットの様子が……」

 

 土煙の中からゆっくりと現れた陣内恭介の姿をみたジェラシットが明らかな動揺を示している。これは、どういうことなのか。

 

「ジェラシット、思い出したか?そうだ、私だ。あの時、ザンギャックの幹部のインサーンをめぐる死闘をした……陣内恭介だ!」

「イン……サーン……」

「そうか、ジェラシットと出会った時の陣内恭介さんは、スーパー戦隊としての力を失っていたから変身できなかったから……」

 

 凱は、陣内恭介がジェラシットと出会った時にはまだ仲間になってはいなかったが、仲間たちからその時の状況について聞いていた。そして、それはジェラシットにとってターニングポイントであると言ってもいいもの。ザンギャックとの別離、そのきっかけとなった戦闘。その中心にいたのは、レッドレーサーになれなくなった素顔の陣内恭介だった。いうなれば、ジェラシットにとっては恋のライバルであった陣内恭介との再会だ。

 

「ジェラシット。あの時、お前は確かにインサーンに恋をしていた。だから、必死で私とも戦ったんだ。だが、今は違う!お前には今、別の大切な人が……守らなければならない人たちがいるんだろう!」

「守るべき……人……」

 

 ジェラシットがゆっくりと眼を向けた場所。そこには、あのたこ焼き屋のお袋さんが、今の己の最愛の人がいた。その人は、こちらには目もむけずにただうつむき、手を合わせて祈っている。いったい何に対して、誰に対して、どうして、そんなこと決まっている。自分に対してだ。ジェラシットの胸に、嫉妬以外の新しい感情が、もともと持っていたが忘れていた感情がガスコンロの火のように小さな物ではあるもののじわりじわりとジェラシットの心を焦がしていた。

 なんだ、これは、この感情というものは。しらない。知らないはずだ。しかし、どこか懐かしい。なぜだ。自分はいったい、どこでその感情を知った。どこで、その感情に勝るものを見つけた。どこにその対象を見つけた。いや、そうだ。あの女性だ。今目の前にいる、あの……。

 

「ぐっ、あぁぁあぁあぁああああああ!!!!」

 

 瞬間、ジェラシットの頭が痛み始める。苦しい、辛い、そして怖い。思い出したいのに、思い出したくない。帰りたいのに帰りたくない。自分は、長い間あの人のことを放っていた。帰れなかった。今更どの面を下げてあの人のもとに行けるのか。本来のジェラシットが確かにそこにはいた。

 彼は自分を殺していた。愛する人のために。もうこれ以上愛する人を苦しないために。自分が苦しんでいた。それが、自分の報いであると信じて。

 

「ジェラシットッ!!クッ!うおぉぉぉ!!!」

 

 恭介は、そんなジェラシットに向かって走り出す。ジェラシットの放つ暑さは、もう近づくだけで皮膚が焦げそうなほどにきついものとなっている。だが、そんなものお構いなしに恭介はジェラシットのもとに向かった。すべては、彼の心を救うために。

 

「恭介さん……」

「あいつ……」

 

 ふざけたやつだと思っていた。敵の幹部と戦いの合間に戯れていたり、余裕なのか何なのかコーヒー牛乳を自分たちに進めてきたり、子供たちに交通安全を教えるための役者にされたり、挙句の果てにはあまり役立ちそうにもない大いなる力をもらった。

 だが、その時の子供たちの顔は今でも覚えている。あの時が、真の意味で初めて地球に住む子供たちと仲良くなった瞬間ではないだろうか。あの時が、自分たちもまたあの地球という星に来たと感じた瞬間だったのではないだろうか。子供たちと接し、温かい笑い声に包まれて、今思えばあの時が初めて、あの地球に住む人たちを守りたいと心の隅にでも思い浮かんだ瞬間だったのではないか。あの笑顔を本気で守りたいと思った瞬間だったのではないだろうか。あの男は、確かにふざけた男。しかし、その心には熱い心を持った男。あの男は……。

 

「くっ!ジェラシット目を覚ませ!!」

 

 恭介は、ジェラシットに組み付いた。熱せられた鉄板に身体を押し付けたような激痛が彼の身体を襲うが、しかしそれでも恭介はその手を放そうとはしなかった。

 

「がんばれ……」

 

 それは、無意識のうちの言葉。

 

「がんばれ……っ」

 

 次第に、どんどんと大きくなってくるエール。

 

「がんばれ!!」

 

 その応援の声は、男の耳に聞こえる。その男の名は、戦士の名は……。

 

「がんばれ!カーレッド!!」

 

 そう、激走戦隊カーレンジャーのカーレッド……ん?

 

「がんばれ!カーレッド!」

「負けたらしょうちせぇへんで!カーレッド!」

「いけぇ!カーレッド!」

「ふっ、そういうことだ!カーレッド!!」

 

 広がる応援の輪。最初は、キュアハッピーのつぶやきから始まった激励は、ついにその場にいたすべての戦士たちの口から発せられる言葉へと変換された。どんどんおおきくなるその声援は、男の耳に届く。

 

「カーレッド!」「カーレッド!!」「カーレッド!!」

「え?あの?皆さん?」

 

 当然至極、その様子に凱は困惑していた。二つの意味で。一つはもちろんカーレッドという名前になっていること。そしてもう一つはあの男の名前を知っているはずの仲間たちですらもカーレッドと応援しているということ。

 

「いいじゃねぇか、なぁ!カーレッド!!」

 

 あっ、この人達楽しんでいる。凱は指摘する瞬間にそう察した。

 

「カー……レッド……」

 

 しまいにはジェラシットですらも間違い始めていた。もう場の流れに任せてカーレッドという名前でいいのではないだろうか。

 

「違う!!私は……いや俺は!!」

 

 と思ってきた凱の悪い考えを打ち砕いたのは、当然陣内恭介である。

 

「激走戦隊カ~レンジャーのリーダー!!!」

「ッ!!」

 

 叫びながら変身した恭介は、両手をクロスさせながらジェラシットの腹部に一発、さらに振り上げてもう一発右手のボディーブローを食らわせた。そのポーズはまさに、彼の名乗りポーズそのまま、そう彼の本当の名前、それは……。

 

「レッド!!レーサーだッ!」

 

 その瞬間、彼の背後で大きな赤い爆発が起こり、さらにどこからともなくくす玉が飛んできて開き、中から『これが正解』という誰が書いたのかわからないような垂れ幕が落ちてきた。

 

「フッ、やるじゃねぇか」

「うおぉぉ!さすがですレッドレーサーさん!」

 

 それまでどれだけの攻撃を受けても立ち上がってきたジェラシット。しかし、そのジェラシットがよろめき、片膝をついた。その様子を見て周りが色めきだつのは当然である。

 

「もしかしたら、ジェラシットを倒せるかも!」

「うん!」

 

 もう周囲の敵はすべて倒し切っている。あとは人数に任せた力押しで行けばジェラシットを倒せるかもしれない。倒せるかもしれない。倒せる?

 

「ん?なにか忘れているような……」

 

 マーチは、頭の片隅に行ってしまっている記憶を呼び起こした。なぜならば、自分が倒すという言葉を使った瞬間に何か違和感を感じたからだ。なんだろうか。なにかとっても大事なことというか、忘れてたらいけないようなことを忘れているような気がする。というか、どうして自分たちはジェラシットと戦っていたのだろうか。

 

「みんな!キュアサニー特性のどろ焼き、出来上がりやで!」

「あっ……」

「あっ!」

「ん?」

「?」

 

 近づいてきたキュアサニー、そして仮面ライダーカブトの姿を見た戦士たち。その瞬間、海底の底から沈没船を引き上げた時のような勢いである記憶が思い出される。そしてその瞬間誰もが言った。

 

『忘れてた……』

「忘れとったんかい!!」

 

 キュアサニー渾身の突っ込みがさく裂した。そうだった。元々ジェラシットを元に戻すことを目的とし、その動きを封じるためにジェラシットと戦っていたのだった。

 というか思い返してみるとジェラシットを元に戻す作戦で、別に倒すことが目的でもないのにあれほど攻撃を加えてよかったのだろうか。

 

「と、とにかく!これでジェラシットを元に……戻せるのかな?」

「知らんわ!」

 

 そもそもキュアサニーはこの作戦に懐疑的なメンバーの一人だった。それに対して、本当にどろ焼きで元に戻せるのかと疑問符を浮かべられても知ったこっちゃない。

 さて、とにもかくにも後はどろ焼きをジェラシットに食べさせればいいだけ。なのだが、問題はどうやって食べさせるかである。

 

「ジェ、ラ、シ、ットォォォォ!」

「うわ!なんかさっきよりも燃えてる!?」

「こ、これじゃ本当に近づけない……」

「ジェラシットのやつ……まさか、太陽になろうとしているのか!?」

「そんなのあるわけないでしょ!……って言いきれないのが怖いというか……」

 

 先ほどのレッドレーサーの一件で一時的に収束していたジェラシットの炎が、今度はまるで火山のマグマのようにジェラシットの周りの地面を溶かして始めていた。今度こそまったく近づける様には思えない。どうすればいいのか。

 

「だったら俺たちに任せてよ!」

「え?」

「ん?」

 

 そういったのは二人のトッキュウ1号、二人のライト。なにやら考えがある様子だが、果たして何をするのだろうか。

 キュアサニー、カブトの二人はそれぞれに自分が作ったどろ焼きを手渡した。もちろん皿に載せている。

 

「よぅし!みんな!あれをやるぞ!」

「「おぉ!!」」

 

 二人のトッキュウ1号のその言葉を合図として、8人の仲間たちはそれぞれの専用武器、ホームトリガー、シンゴウハンマー、トンネルアックス、テッキュウクローを空中へと投げられたレッド専用の武器レールスラッシャーに投げる。すると、それぞれの武器が一つに合わさり、トッキュジャーの必殺武器レンケツバズーカへと姿を変えた。

 

「「「「「「「「「「レンケツバズーカ!」」」」」」」」」」

「食べ物を運ぶんなら!」

「これしかないでしょ!!ハァツ!」

『『列車が発射いたしま~す!』』

 

 二人のトッキュウ1号は、レンケツバズーカのレールの上に使用者のイマジネーションに合わせて姿を変えて敵を攻撃するエナジーレッシャーを置いた。そして、二人は同時に言った。

 

「「レインボーラッシュ!車内販売!!」」

『『出ぱ~つ進こ~う!』』

 

 ゆっくりと動き出したエナジーレッシャーは、レンケツバズーカから延びたレールの上を伝い一直線にジェラシットへと向かう。そして、途中で突如その姿が変化した。その姿は……。

 

「いやぁーん!激しく~私、参上!!」

「コーヒーもいかがですか?」

 

 二人の奇抜な格好をした女性へと変わった。いや、一方は確かに女性だと簡単に判別できるが、もう一方はロボットといってもよいのかもしれない。そこにいる大多数の面々は

その二人とは初対面のため、あまりよく知らない。

 

「あれは、ナオミやないか」

「え?キンタロス知ってるの?」

「もちろんや、ナオミはデンライナーの乗務員やからな」

 

 生身の女性の名前はナオミ。彼女はキンタロスが言う通りデンライナーの食堂車担当のアルバイト乗務員だ。大体の時間はデンライナーの中で過ごしいるため、こうして外にいる姿というのもかなり珍しいそう。では、もう一人のロボットのような女性は誰か。

 

「あの人は、ワゴンさん。レッドレッシャーの元車内販売員で、今は車掌をしているの」

「へぇ……」

 

 といったのはトッキュウ5号である。つまり、それぞれ仮面ライダー、スーパー戦隊の乗る電車の乗務員であった女性のコンビということだ。なお、ナオミは先も言った通り食堂車のアルバイトということなのだが、それも車内販売員ということになるのかというまっとうな疑問については答えないでおきたい。

 

「は~いどうぞ!特注のどろ焼きよ~」

「コーヒーもいかがですか?」

「ジェラ、シ、ット」

「あ、ジェラシットの周りの炎が……」

 

 二人の車内販売員が近づくと、ジェラシットの周囲を囲っていた嫉妬の炎が急速に冷え切っているかのように小さくなっていった。

 

「なんで?」

「もう突っ込む気力もないわ」

 

 おそらく、きれいな女性を前にしてジェラシットの心の底にある嫉妬の心が薄らいだのだと思われるが、原理などその他一切が不明のためここは完全に無視しておくしかない。

 そしてついにその時が訪れた。

 

「「どうぞ!」」

「!」

 

 二人の車内販売員は、ジェラシットの顔に向けて二つのどろ焼きをぶつけた。

 

「ってえげつなッ!」

「いや、まぁあれぐらいしないと食べてもらえなさそうだし……」

「まぁ、そうやろうけど……」

「う、うぅ……」

「ん?なんか様子が……」

 

 ジェラシットの顔にどろ焼きをぶつけたワゴンとナオミは消える。そして、それが合図であったかのようにジェラシットはうめき声を上げ始めた。やはりだめだったのか。誰もがそう思ったその時、ジェラシットが大声を上げた。

 

「う~ま~い~ぞ~!!!!!!!」

「うわぁ!口から光が!!」

 

 突如としてジェラシットの口からレーザービームのような光が天高くまで伸びる。それは、雲を突き抜け、成層圏を抜け、そして星の一つが破壊されるほどに大きく、強い物だった。

 

「いやいやいや!そんなんありえへんやろ!!」

「宇宙人って本当に何でもありなんだね……」

「俺たちを見ながら言うな」

 

 と、地球人からみたら宇宙人であるゴーカイジャーの5人を見ながらあきれるようにキュアハッピーが言ったところで、光の流出は止まった。その後、ジェラシットはうつむいたまましばらく動かなかった。数分後、顔を上げたジェラシットは首を振りながら言った。

 

「うぅ……こ、ここは?」

 

 それは、はっきりとした口調。先ほどまでのような心のこもっていない発言ではないもの。もしかすると、起こったのか奇跡が。

 

「じぇ、ジェラシット……」

「お、お袋さん……!」

 

 女性は、ジェラシットのもとに駆け寄った。ジェラシットもまた、自分の腕の中に飛び込んできたその女性の身体を抱く。ことここにおいて彼女たちの疑念が確信へと変わった。

 

「元に戻ったんだ、ジェラシットさん」

「まぁ、なんの感動も覚えんけどな……」

「というか、さっきの光は何だったのよ!」

 

 感動したというよりももはやあきれてしまう。本当にどろ焼きで治ってしまったジェラシットと、そして今更ながらその作戦を実行した自分たちに対して。

 

「皆さん、ご迷惑をおかけしました」

「いやいいんだジェラシット、俺たち激走戦隊カーレンジャーは何も気にしていない」

「勝手に私たちも激走戦隊カーレンジャーにしないの」

「絶対に忘れません、激走戦隊カーレンジャーのことを!」

「だから!激走戦隊カーレンジャーはこの人だけだから!」

「さようなら、激走戦隊カーレンジャー!」

「……あんた、わざとやってるでしょ」

 

 というやり取りをしたのちかなりあっさりと元に戻ったジェラシットはお袋さんと共に驚くほどにあっさりと去っていった。というか、本当に迷惑をかけたと思うのであれば、あれだけの強さを持っているのだから一緒に戦ってもらいたいものだ。

 

「なんか、今日一番疲れた気がするわ……」

「確かに……」

「でも休んでいる暇はないわよ。まだたたかいは 続いているんだから」

「ようし!なら景気づけにあれをやっておくか!」

「……」

 

 突っ込み三人衆は何も言わなかった。そう、なぜならばそれを言ったのがレッドレーサーであるからだ。もう嫌な予感では済まされない。絶対に何かよからぬ提案をしてくるであろうということは間違いなかった。果たして、彼の口から出たのは……。

 

「と、いうわけで行くぞ!」

「おぉ!!」

「おぉ……」

「……」

「戦う交通安全!激走戦隊!!カ~レンジャー!!」

「か、か~レンジャー」

 

 これである。だからその場にいる全員がカーレンジャーではないと何度も、というか戦隊の先輩や後輩を巻き込んでしまっているのだが、彼らは何も文句を言わないのだろうかと聞いてみると帰ってきた答えが。

 

「前に一回やった」

「一度でいいから本人と一緒にやってみたかったんです!!」

「息抜きにはいいんじゃないか?」

 

 等々、ちょっとまともな回答が得られなかった。毒されている、この十数分の間で完全にこのカーレンジャー時空に飲み込まれてしまっている。

 

「はぁ、まぁ確かに息抜きも大事かもしれへんな」

「確かに、大人になってからそういうの全然できてなかったかも」

「ほら!そこもっとまじめにする!それじゃもう一回!」

「もう、こうなったらとことんやるわよ!!」

 

 なんか、ぶっ壊れた面々の心が一致した。だが、確かに大人になってからというもの子供の時のように息抜きというものをするのが下手になっている気がしていたのは事実。息抜きをしようと自分の趣味に没頭してみるが、なんだかそんな時間ですらももったいないような気がしてついつい時間を無駄に浪費してしまうということが多々あった。子供のころに大人たちからくちずっぱく聞かされてきた大人になると時が経つのが早くなるというあの言葉が何度も頭の中をリフレインして、そのたびに時間を無駄にしたという罪悪感が駆け巡る。したいこと、やりたいこと、見たいもの、行きたいところ、たくさんするべきことがあるはずなのにそれをしたくないと身体が拒否反応を起こして動けなくなる。大人になるということは何とも窮屈であるものか。だが、だからこそ息抜きをするべきなのだ。動けなくなる、考えられなくなる、希望を持てなくなる、そして世の中にSOSを出したくなる、そうならないためにも無理やりでも息抜きをするべきだ。もちろん、趣味だけが息抜きというわけではない。だから、趣味をやらなければならないという使命感に押しつぶされるのであれば、それは趣味ではない。やりたいことをやらなければならないと頭から命令されるのであればそれをシャットダウンして本当に体がやりたいことをすればいい。いっそ、本当に何もしない息抜きを試してみるのもいい。何もせず、ベッドの上で目をつぶって、歌詞も何もない音楽を聴きながら深呼吸をすればいい。そんな時間も惜しい、そんな無駄なことしたくないとその時の自分が考えても、それが時間がたってから役にたったと思える時が来るのだから。焦ってもしょうがない、急いでもしょうがない、やすむときはやすむ。それが人間が生きるのに大切な一つの時間なのではないだろうか。

 

「せ~の!」

『戦う交通安全!!激走戦隊!!!カ~~~~レンジャァァァァ!!!』

 

 なので、これが本当に息抜きとなっているのかははなはだ疑問ではあるが、それは置いとくとして、確かにこの一連の流れに参加しているプリキュア陣の顔は楽しそうに見えたとだけは、記しておこう。




 この一件は実はこのプリキュアの世界の初期構想からすでに存在していましたが、どっからどう見てもギャグだしどろ焼きで元通りになる原理が一切わからないので没になる予定でした。が、なんか最後の登場人物全員に激走戦隊カーレンジャーの名乗りをさせたいという欲求が沸いたためにこうなりました。結果本編であったネタだけじゃなく打ち上げネタや挙句の果てにヒーローショーネタまでぶっこまれました。なお、前回の野球回にいた面々が半分以上登場していませんが、一人の脱落者もなくこの場にとどまっていたことを一応伝えときます。
※フィリップのどろ焼きの説明が少し間違っていたため修正しました。『お好み焼きを作れないか→たこ焼きを作れないか』

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