仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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プリキュアの世界chapter70 それは、どうしようもできないこと

 人は本当に絶望したその時、泣くことなどできない。

 人は一人では生きていけない。ならば、一人ぼっちになってしまった人間に生きる資格は与えられないのだろうか。

 死んでしまった人がいるのだから、笑ってはいけない。ならば、自分はもう二度と笑うことが許されないのだろうか。

 泣くことも、笑うことも制限された自分は、果たして人間なのだろうか。

 これは、感情という人間として当たり前の物を突然奪われた少女の物語。親兄妹、住んでいた家をも失って孤独になってしまった少女が出会った、絶望の中に見つけた光という名の奇跡。

 『第三章 忘れちゃいけない大切なこと』開演です。

 

 彼女は陣内恭子という、どこにでもいる普通の小学6年生の女の子。ちょっと前までは、父や母、兄と一緒に暮らしていて、活発な女の子だった。何よりも明るい笑顔がとても素敵で、将来の夢は看護師。たくさんの人の役に立ちたいというのが、彼女の目標だった。

 そんなある日、彼女の家にある事件が起こりました。数か月前の事、彼女の家を含めたいくつかの家が土台から地滑りを起こし、崖下に転落してしまったのです。少女だけは、日課にしていた朝の散歩をしていたおかげで無事でしたが、家族は全員帰らぬ人になってしまいました。

 そして、家族の葬式の日、彼女の顔にいつもの笑顔も、そして悲しみの表情すらもありませんでした。それを見た何人かの大人は、それを彼女の強さであると言いました。しかし、違ったのです。彼女は、泣けなかった。そして、その泣けなかった自分に悔しかったのです。言い表せないアンビバレンスな感情に揺れ動かされた彼女を助けてくれる大人はいません。親も、兄も、それから仲が良かった近所の住人達もみな一気に失った、そんな彼女の心を救ってくれる人など一人もいませんでした。

 それから数か月、家を失った彼女は児童養護施設で暮らしていました。そこでは、たくさんの同年代の子供達が一緒に暮らしていて、何人かの子供たちは、恭子に声をかけてくれていました。しかし、彼女はその声にこたえようとはせず、ただ氷のように冷たい顔をその子たちに向けるのでした。次第に、話しかけていた子供たちは離れて行って、彼女はこう呼ばれるようになりました。

『鉄仮面』

 と。

 その日、運命の日に至っても彼女の顔に笑顔はありませんでした。

 

「……」

 

 バケツをひっくり返したような土砂降りの中、恭子は一つの花束を持ち、傘も差さないである場所に立っていた。

 彼女の目線の先には何もない。空虚な空間だけである。そう、ここは彼女の家があった場所。父や母や兄と一緒に暮らして、一緒にご飯を食べて、テレビを見て、お風呂に入ったり寝たりしていた場所。今はもう何もないがしかし、紛れもなくそこには彼女の思い出があり、今でも目を閉じるとその先に自分の家が見えてくる。

 あの天災からもうちょうど一年の時が経っていた。いや、あれは人災だそうだ。元々この新興住宅街を作った工事関係者が材料費や人件費を安くするために必要な作業を行わなかったから起こった事。そう話を聞いている。

 一応その人災の被害に遭った住宅で唯一生き残った自分は、色々な人達の助言もあって、その工事業者を訴えることになった。無論、そのようなことをしても親しかった人達が帰ってくるわけじゃないのは重々承知だし、裁判のやり方すらも分からなかった。だが、その時の自分、今もそうではあるが、何も考えることができなくなっており、もう訴えるなら訴えるで勝手にしてくれというような趣旨の言葉と共に、児童養護施設の職員に諸々の事をまかせた。

 いまだにその裁判の判決は出てはいないがしかし、裁判に勝ったところでどうなるというのだ。慰謝料を貰ったとしても使い道がない。それに先にも言ったが、親しかった父や母や兄や近所の人達が帰ってくるわけでもない。むしろ裁判を起こすことによってその工事業者に所属している多くの人達、そしてその家族を不幸にしてしまうだけなんじゃないだろうか。そんなふうなことをも考えていた。

 

「貴方は一人じゃない……か」

 

 よくこんなセリフを聞いていた。施設の職員や、当時のテレビのニュースキャスターから、自分はそのセリフを何度も聞かされていた。だったら、どうして自分は一人ぼっちなのだろうか。結局は全員他人、自分と血のつながった人間は一人もいない。自分と親しく話してくれる人はいない。それなのに、どうして自分は一人じゃないなどという言葉を平気で吐けるというのだろうか。

 結局は人間は孤独な生き物。その胸にぽっかりと開いてしまった空間を補うためにたくさんの人に出会って、そして胸の空虚を埋めて孤独から脱しようとするが、それらが全部消えてしまえばあとに残るのはさらに大きく開いた孤独という空間のみ。この一年間ずっと考えていた。どれだけ埋めてもいつかはまた大きな空間となって自分の心をおそうというのに、どうしてそれを何度も埋め直さなければならないのだろうか。どうして空しい気持ちを他人という異物で埋めなければならないのだろうか。どうして、他人の空しい気持ちを埋めるために自分がいなければならないのだろうか。そんなことを考えている内に彼女は一つの結論にたどり着いた。

『他人なんてもはいらない。必要ない。自分一人の世界に閉じこもっていればそれでいいんだ』

と。

 なるほど、確かにそれは正論だ。しかし、暴論でもある。一人ボッチであると思っている人間に対して貴方は一人じゃないという言葉は確かに多少は無理があるのかもしれない。しかし、それでも人は一人じゃないのだ。一人じゃ生きていくことができないのだ。何のことはない。今の自分がそのいい例ではないか。彼女はそのことに全く気がついていなかった。

 悲劇のヒロインを気取っているわけじゃない。しかし、もしも悲劇のヒロインのように後ろ向きな発言ばかりするなというのなら、自分は一体どんな顔をすればいいのだ。どんな言葉を発瀬ればいいのだ。

 笑えばいいのか。狂ったように、大口を開けて、空に顔を向けて、笑えばいいのか。

 

「フフ……あはは、あはははははっ!!」

 

 そうこんなふうに。そうすれば、心がすっきりするのだろう。こうすれば、自分は悲劇のヒロインではなく、喜劇のヒロインに生まれ変わることができるのだろう。こうして笑ってさえいれば、笑ってさえいれば、笑えば……。

 

「あはっ!なによ!笑えばいいんでしょ!そうすればみんなが幸せになるんでしょ!!だったらどうして私の心はこんなに悲しいの!苦しいの!!誰か教えてよ!誰か答えなさいよ!!誰かこんな私を笑いなさいよ!ねぇ!!」

 

 笑えば笑うほどに、そんな滑稽な行動をとっている自分がおかしくなって、その内、最初は無意識に笑っていたのが嘘のように笑いが心の底からあふれ出してくる。もう口の中に入る雨粒なんて気にしない。目の中に入る涙と似た水なんて気にしない。笑い続けることをインプットされたロボットのように、彼女はいつまでも笑い続ける。

 狂ってるのは誰だ。自分か、他人か、国か、世界か、それとも今か。どれだけ考えても分かるはずがないこと。そんな簡単な答えを見出すことができるまで、彼女は笑い続けなければならない。例え自分の心が壊れようとも、世界の滅亡がまじかに迫っていたとしても、彼女は笑い続けなければならない。それが、悲劇のヒロインに落ちてしまった自分への罪、そして罰。

 その時、一つの小さなひび割れた心が壊れようとしていた。

 

 うふふ、あははははッ!あははははははは!あははは、フハハハハハハ!!!

 

 アハハハハ!あははははははは!

 

 はははは

 

 はは……

 

「本当に悲しいときは、泣いてもいいんだよ」

「え?」

 

 恭子は、後ろから抱きしめられる。振り向くと、そこには5.6人の大人が経っていた。

 

「誰?」

「初めまして、私は星空みゆき」

「黒川エレンよ」

「俺は、桜田ヒロム」

「そして、岩崎リュウジに」

「宇佐見ヨーコ。よろしくね」

 

 全員知らない名前だ。みゆきと名乗った女性が言う。

 

「貴方の事、施設の人から聞いた。辛い思いをしたんだって」

「同情ならやめて。そんなの、私は欲しくない」

「恭子ちゃん……」

 

 みゆきにはその言葉だけで分かった。今この少女の心は壊れようとしている。今、ここで引き留めなければもう元に戻ることができないであろう。そう感じるほどまでに。

 

「恭子ちゃん。これはただの同情なんかじゃない、俺は……いや俺やリュウジさん、それにヨーコは君と似たような経験をしたんだ」

「え?」

 

 そのヒロムの言葉にリュウジは一瞬だけ「えっ?」というような反応を示した。だが、それに気がつかないヒロムはさらに言葉を繋げる。

 

「今から19年も前に、ある事件によって、俺は両親を、リュウジさんは憧れていた先輩、そしてヨーコは母親を……3歳の時に……」

 

 19年前のクリスマス、特命戦隊ゴーバスターズの三人は転送研究センターという場所で働いていた家族や、憧れの人間たちを急に失った。特に幼くして母親を失ったヨーコにとって、その時心におった傷はかなり深い物だったであろうことは、想像するのに難くない。しかし、それでも彼らは歩き続けることができた。大事な約束を守るために、戦場へと向かうこともできた。だが、そんなこと彼女の知ったことじゃない。

 

「だから何ですか?私も、あなたたちのようになれるって、家族を奪った人たちを恨まずに生きろって、そう言うんですか!」

「それは……」

「ヒロムたちはそんなことを言いに来たんじゃねぇ!」

「!」

 

 その声とともに現れたのは、スーツにリーゼント姿という少々不釣り合いというか時代錯誤というか、ともかく少々時代に合っていないような恰好をしている男性。その男の姿を見たヒロムは男に向かい、

 

「弦太朗!」

 

 と言った。

 

「久しぶりだな、ヒロム」

 

 弦太朗と呼ばれた男性は、胸を拳で叩くと、今度はその拳でヒロムを指さす。

 彼、如月弦太朗は高校生の時に仮面ライダーフォーゼとしてそして、仮面ライダー部として天ノ川学園高校を中心としてゾディアーツと戦っていた男だ。現在は母校天ノ川学園高校で教師として働く傍らで、後輩の仮面ライダーと一緒に戦ったり、学園の平和を守るために日夜戦っている。

 

「あなたは……」

「俺は如月弦太朗。この世界に住むすべての人と友達になる男だ!」

「ダチ……」

 

 ダチ、つまり友達。だが、そんなこと本当にできると思っているのだろうかこの男は。いや、それ以前にいい年をしてそんな夢のようなことを言っていて、恥ずかしくないのだろうかとも少女は思ってしまう。

 

「なんで、そんな恥ずかしいこと言えるんですか?」

「ん?」

「結局、それってただの綺麗事……地球上にいる全員と友達になるなんてできないってこと、本当は分かっているんじゃないですか?」

「……」

 

 少女はあまりも残酷なまでに現実を直視していた。幼いころから看護師という現実的な夢を見ていたのはそのためだったのもそのためだったのかもしれない。

 もちろん、看護師という夢が悪いと言っているわけじゃない。だが、幼いころから見るにはあまりにも現実的だったと思う。そのころの年齢であるならば、例えばやお姫様といった夢物語のような夢を見たがるものなのじゃないだろうか。だが、彼女は知っていたのだ。あまりにも大きな夢を見るなんて、無駄なのだと。けしてかなうはずのない物を思い描いても、所詮はただの戯言であるのだと。彼女は知っていたのだ。

 

「いや、俺はぜってぇ諦めねぇ」

 

 だが、弦太朗は息を吐く様に笑ってからそう言った。

 

「諦めるとか、諦めないとかの問題じゃない、物理的に無理なんですよ?」

「無理じゃねぇ。友達の友達はまた友達。誰かと友達になれば、またどこかでその誰かの友達と友達になることができる。そうやって友達を増やしていけば、いつかは世界中の人間全員と友達になることができるだろ?」

「……馬鹿みたい。結局は誰かに頼らないと生きていけない、一人じゃ生きられない弱い人間だって言っているような物じゃない。その誰かがいなくなった時のあなたが見ものだわ」

 

 いずれ彼の友達というのも死んだり、いなくなってしまう。そうなった時、自分と同じ状況になったその時の弦太朗の顔が見ものだ。そう、彼女は笑いながら言った。

 弦太朗は、まるでその言葉を待っていたと言わんばかりに彼女の頭を撫でて言った。

 

「そりゃ、人間だからな……いつかは俺の友達も、死んじまったり、仕事で遠くに行ったりしちまうかもしれねぇ。だが、少なくとも俺の友達が一人もいなくなるなんてことは絶対にねぇ」

「なんで、そう言い切るんです?」

「分からない?」

「え?」

 

 みゆきは、恭子の身体を抱きしめながら言った。

 

「貴方がいるから」

「え?」

「貴方はもう弦太朗君の……ううん、私たちみんなの友達だよ」

「……また、綺麗事」

「そうだよ。でもね、綺麗事でもなんでも、人は一人じゃ生きられないっていうのは本当の事だから。だから、みんな、他人っていう誰かを望むんだよ」

「……」

「恭子ちゃん。君は、それを知っていたはずだ。だから、この場所に来た……本当にひとりで生きることができると思っているのなら、家族の思い出にすがろうとも思わない……だろ?」

「……」

「恭子ちゃんは、笑顔を誰から教わったの?」

「誰からって……自然に……楽しいことがあったら笑ってたから」

「だったら、無理に笑おうとしなくていいんだと思うな」

「辛いからこそ、笑顔で頑張るのも大切だけれど……でも本当に大切なのは、自然な笑顔を見せる事じゃないのかな?」

「自然な笑顔?」

「そう。その時が一番きれいな笑顔になれるから。今は苦しくても、辛くても、明日は、未来は、きっと明るくなるから。私達がそうしてみせるから」

「私たちって……貴方、誰なの?」

「私?私はね……」

 

 その時、幕が下りるブザーが鳴った。

 

 

≪本日の講演は以上となります。次の講演の予定は劇団のホームページを……≫

 

 みゆきたちは、幕が下りた舞台から舞台袖へと帰還した。先ほどまでは劇が上映されていた関係でかなり暗かった物の、今は終わって幕が下りている状態であるために照明が付けられているために転ぶ心配はない。

 

「お疲れさまでした」

「お疲れ!」

「上手くできたかな?」

「ちょっとぎこちなかった気もしなくはないけどね……」

「けど、こういうのもいい経験じゃないかな?」

 

 ほぼほぼ乱入に近いであろう劇の緊張感から解放されたみゆきたちは、軽い口調で自分たちの演技についての評価を行ったり、協力してくれた子役の子供や照明などのスタッフへの感謝を口にする。

 

「みんなお疲れ!はい、差し入れのコーヒー牛乳」

「あ、恭介さん!ありがとうございます!」

 

 スタッフ用の通路の奥から、赤いジャケットを着た男性、陣内恭介が牛乳箱に入った大量のコーヒー牛乳を抱えて現れ、みゆきにコーヒー牛乳を手渡した。

 彼、陣内恭介は20番目のスーパー戦隊、激走戦隊カーレンジャーでレッドレーサーとして、地球を花火にして爆発させてしまおうとした宇宙暴走族ボーゾックと戦った一般市民である。彼は、自動車会社ペガサスでテストドライバーとして働いている傍らで、戦いが終わってからボランティアで劇団員をしながら交通安全の大切さを広めるために日夜戦っているのだ。

 

「で、どうだった?感想は」

「やっぱり、練習無しのぶっつけ本番はきつかったわ」

「まぁ、全編にわたってのアドリブでしたから」

「けど、結構楽しかったっす!」

「そうか!どうだ弦太朗?わが劇団にもっとたくさん若い人が入ってくれたら心強いんだけどなぁ」

「それは遠慮します!まだまだ先生として半人前ですから!」

「あぁ、そう……」

「でも、私は入ってもいいかも?」

「みゆき、忘れてないでしょうね。ここが私たちの世界とは……」

「あぁうん。言ってみただけだって……」

「けど大丈夫なんですか?他の劇団員の人達が全員感染症にかかるなんて……」

「まぁ、風疹がここ最近流行ってるらしいから……」

 

 彼女たちがこの世界に着た直後、運悪く陣内恭介に遭遇してしまい、その後有無を言わさずにこの部隊小屋にまで連れてこられた。どうやら、彼以外のほとんどの劇団員が風疹によってダウンしてしまい、必要な人数の劇団員を集めることができなかったそうだ。そのため、有無を言わさずに恭介によって舞台に上がるように申し出があり、台本を覚えている時間もないだろうからとほぼすべてをアドリブで通すこととなった。

 

「それにしても、悔しいな……もっとあの子に話せることがあったはずなのに……」

「それ以前に、確か恭介さんは交通安全の劇を中心にしていたんじゃないんですか?どうして今回に限って……」

 

 そう、恭介が通常行っているのは交通安全についての劇だったはず。しかし、今回行ったのは見てもらって分かる通り一つの人災によって不幸になってしまった少女の物語。何故恭介はそのような話をすることになったのだろうか。

 

「あぁ、いや……本当はだな」

「?」

 

 恭介は頭をかきながらある一つの台本をどこからか持ってきた。

 

「実は、色々と今回の話は迷ってだな……震災直後ってのも考えてたんだが……」

「いや、だから交通安全はどこに?」

「あぁ、それはきっとこれが防災フェスタの出し物だからだと思うぜ」

「防災フェスタ?」

 

 そうなのである。今回の劇は恭介の地元の防災フェスタの出し物の一つであるのだ。実は弦太朗も元々はこの防災フェスタでボランティアをするために来ていたのだが、今回の恭介の劇団のピンチを聞いて飛んで来たのだ。そのため、防災とはあまり関係のないいつもの交通安全の劇をするよりも、防災に関係のある劇をやるという事になったのだが……。

 

「台本を書いてて、なんかこう……俺には想像ができないっていうかだな……元救急戦隊だったダイモンにも監修をしてもらったんだが……実際に震災にあった直後の誰かを励ます言葉なんて、見当たらないというかだな……」

「それ、少しわかります。私も絵本を書いてるから……実際に体験したことのないことを書いてて本当にいいのかなって……」

「目の前で大切な人を失って、励ましの言葉なんて……本当はないのかもしれないわね」

 

 人は想像する生き物だ。想像がなければ、人はすぐに衰退してしまう。しかし、もしもその想像に限りがあったとすれば。もしもその想像が間違っている者であるとするならばどうだろう。もしも、自分の中にある想像が全ての人たちに当てはまるものではないと感じてしまったら、人は右往左往して先へと進むことができなくなってしまう。何よりも難しいのは、自分にとって大事な人を失って直の人を励ます言葉の想像と創造。そこには、いつにも増して綺麗事という残酷な光が映えてしまう。そして、その言葉が綺麗事だと分かっているからこそ、その言葉を出すのを戸惑ってしまう。きっと今この言葉を言ったとしても、相手の人生が変わるわけじゃない。その言葉が、逆に相手を反発させるものとなってしまうかもしれない。そう思った時、言葉は喉の奥から上がらずに、口の奥川で停滞してしまう。その言葉がだれも幸せにすることができないと知っているが故に。

 

「けど、だからこそ励ましの言葉じゃない。ふとした言葉が人を立ち上がらせることができるんじゃないか?」

「あぁ、例え今否定されても、いつか心の整理がついたその時にならきっと分かってくれるはずだってな」

「そうね……きっと……気持ちをひとつにして……1歩ずつでも進めばきっとね」

「どれだけ辛くても、苦しくても笑顔でいれば、きっとキラキラした未来が待っている……そう信じて、本当にそうだったから……」

「……そろそろ行くか?」

「えぇ、今実際に心を傷つけている人達を助けるために」

「私たちは何度だって変身する」

「行こう。私達の力は……皆を笑顔にする力だから。何度だって変身して、戦う、そして……いつか、きっと……」

 

 陣内恭介はアクセルチェンジャーを、桜田ヒロム、岩崎リュウジ、宇佐見ヨーコはモーフィンブレスを、如月弦太朗はフォーゼドライバーを、黒川エレンはキュアモジューレを、星空みゆきはスマイルパクトを持って並び立つ。そして……。

 

「恭介さん、芋長さんから芋ようかんが差し入れに来てるんですけど?」

「あっ、すみませんそこに置いといてください」

「はい、あとこれは舞台に上げた諸々の機材の運搬費用の領収書です」

「それもそこに……」

「はい、今回はちゃんと払ってくださいね」

「いつもいつもありがとうございます」

「……」

「では、気を取り直して……激走!アクセルッ!チェンジャー!!」

「よくそんな何事もなかったかのように……いや、それはともかく……」

≪≪≪It's morphin' time!≫≫≫

≪3……2……1……≫

≪ララ♪≫

≪Ready?≫

「「「レッツモーフィン!」」」

「変身!!」

「レッツプレイ!プリキュア・モジュレーション!!」

「プリキュア!スマイルチャージ!!」

≪go!go go! let’s go HAPPY!≫




次回→未来が消える

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