仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

165 / 265
 書いている途中に思った。これ、今回の小説のテーマに全く合っていないそれどころか、一歩間違えればテーマぶち壊しの物だ。
 後半のラストがかなり唐突なのは、答えが見当たらないためです。


プリキュアの世界chapter69 なかったら作るまでが奇跡である

 それは、時が戻る少し前に遡る。

 時の列車デンライナー、その中にはみのりを送り届けた二人の姿があった。

 

「クッ!オーナー!まだつかないのか!」

「確かにあなたは言ったはずだ!あの子を送り届けてもまだ十分時間があると……」

 

 二人は、デンライナーのオーナーである壮年の男性に詰め寄る。だが、オーナーと呼ばれた男性はその二人の喧騒もよそに、チャーハンにスプーンを付けながら言った。

 

「どうやら思っていたよりも彼の体力が危険域に達していたようです。残念ですが、間に合わないでしょう」

「ッ!そんな……」

 

 二人もまた、仮面ライダーとして士を支援しに来た者たちであった。

 彼ら二人の事を、みのりは双子であると思っていたが、それは間違いで、二人は平行世界の同一人物であるのだ。

 みのりをデンライナーに乗せ病院へと向かった二人は、その道中である情報を知らされる。

 それが、ミラーワールドという普通の世界とも隔離された世界にプリキュアの仲間が捉えられているという話だ。

 実は、二人の変身する仮面ライダーの能力には、そのような隔離された世界へと介入し、道を作ることのできる物があるのだ。

 すぐさまそのプリキュアの仲間である人間を助けに行こうとしたが、オーナーからはみのりを病院に送り届けてすぐに駆け付けてもまだ十分に間に合うと聞かされていた。

 しかし、事はオーナーが予想していたよりもはるかに急を要する物だった。

 本来の彼の体力、そしてPC細胞の力からすれば確かにデンライナーが到着するまで持ちこたえることができるはずだった。だが、熊本はオーナーが予想していた以上に傷を負っていた上に、PC細胞はミラーワールドという世界に彼を存在させるためにその力を際限なく使用するために効果が半減していたのだ。このままでは、二人が到着したところで意味は何もなくなってしまう。

 ならば、何のために自分たちはこの世界に来たのか。きっと、その男を救うためだったはずだ。なのに、それができないなんて悔しいなんて言葉じゃ言い表せない。

 黒いジャンパーを着た男は言う。

 

「オーナー!この列車は時を遡ることができるのだろう!ならば……」

「それはいけません」

「どうして!」

「確かにデンライナーで過去に行きさえすれば、彼を助けることは可能でしょう。しかし、その際発生するバタフライエフェクトが、一体どれだけ世界に影響を及ぼすことになるのか、想像もつきません」

「ッ……」

 

 デンライナーは、過去や未来を行き来できる。それはこの列車の最大の特徴であり、メリットであり、デメリットである。たった一枚のメダルを過去に残すだけでも、世界が想像もつかないほどに代わってしまい、多くの血や涙がこぼれ落ちたことがあった。

 また他にも、当時現役で戦っていた仮面ライダーと、その少し前に戦いを終えた仮面ライダーがそろって過去に行ってしまっただけで、倒した怪人たちが全員生き返ってしまったことだってあるのだ。どうして仮面ライダーが過去に行っただけでそのような恐ろしい事態になったのかは不明ではあるがともかく、時を渡るという物が一体どれだけの物に影響を与えてしまうのかは想像がつかないのだ。

 オーナーは、そのような時間の逆行の危険性を知っているからこそ、むやみやあらに過去を改変することを制止しているのだ。

 二人には、オーナーの言っていることが分かる。もしも、自由に時を行き来して、過去を変えることができていたのなら、今ここにいる自分たちが本当に存在していたのかも怪しい。いや、もしかするとすでに人知れず歴史から抹消された人間や、改造人間がいるのかもしれない。自分が良かれと思って、人助けになると思って人を助けたところで、本当にその先に良い結果が待っているかどうかは分からないのだ。

 

「それに、この世界は元々デンライナーが走っていた世界でもありません。現在この世界の時は不安定にねじ曲がっているため、細かな時間移動には制約が付いてきます」

 

 オーナーは、二人にダメ押しをするかのようにそう言葉を紡いだ。だからと言って諦めていいのか。人一人を助けて、どれだけ未来が変わるのか分からない。本当に、変えることができるのかも分からない。それでも、人が人を助けるのに大きな理由がなくてもいいはずじゃないか。

 

「どうすればいい……どうすれば!」

 

 未来を変える覚悟はある。しかし、実際に過去に戻ることすらもできないという事実があるのだから、二人にはもうどうすることもできなかった。

 もちろん、諦めているわけじゃない。しかし、彼ら二人の持っている能力では過去に干渉することはできても、過去の世界に行くことはできない。

 救いたい命があって、その方法もある。だが、時間という大きな壁が目の前にある限り、二人の力は宝の持ち腐れと言っても過言ではなかった。

 

「仮に」

「え?」

 

 オーナーは、スプーンを置くと立ち上がり、ゆっくりと歩を進めながら言った。

 

「もしも不可抗力で時間が遡り、さらに現在にそのレールが続いていないというのであれば、話は別ですが」

「なに?どういうことだ?」

「つまり、こういうことです」

≪TIMEVENT≫

「!」

 

 その瞬間であった。二人は白い光に包まれた感覚を味わう。そして、二人が気がついたのは……。

 

「うぅ……ここ、どこ?」

「目が覚めましたか?」

「え?」

 

 日向みのりは、おもむろに目を開け、周囲を見渡した。ここは、一体どこなのだろう。椅子が置いてあり、まるでカフェのような場所、それにこの小刻みな揺れは、もしかして列車の中なのだろうか。しかし、どうしてそのような場所にいるのだろう。自分は確か学校からの帰り道の途中で、いつものように病院に立ち寄ろうとしていて、ふとどこからか聞こえた声に気を取られた瞬間に、目の前が真っ黒になって、そして……。

 それ以上、みのりは何も思い出すことができなかった。だが、なにか嫌な気持ちになったこと、そして暖かい気持ちになったことは覚えている。まるで、心が洗濯されたような、そんな気が……。

 それより、自分に声をかけて来た、この目の前にいる壮年の男性は何者なのだろうか。スーツに身を包んだ老紳士、というのだろうか。そのたたずまいを見ているだけでは分からないが、しかし悪い人間ではない事だろう。

 

「あの、私は……」

「時は必ずしも未来に進むとは限りません」

「え?」

 

 男性、オーナーはそう言いながら手元にあるチャーハンにスプーンを入れ、そして一口食べてから言う。

 

「過去を変えることができない、それはよくご存知ですかね?」

「え?あ、はい……」

「しかし、それでも今を変えたいとあらがう人間がいました。そして、その正しき欲望がかなえられた結果、完全に時を遡り、新たな時間をこの世界は刻みだしました。今回の所は致し方ありませんでしょう」

「あの……」

「ご心配には及びません。今、あなたのお知り合いのいる場所まで電車を走らせているところです」

「え?それってもしかして……」

「参りましょう。思いを時とした者たちの所へと」

 

 デンライナーは速度を上げてあの場所へと走り出す。そうこうしている内にも、あの運命の時間は刻一刻と訪れようとしていた。しかし、なんの心配もないだろう。何故ならそこには、あの二人が向かっているのだから。

 どれだけの策を講じても、どれだけ罠にはめ、卑劣な手段を用いようとも、倒そうとも、絶対に死なない。絶対に悪を打倒す最強の二人。その名も……。

 

「この窓の向こうにミラーワールドがあるのか!」

「え?あなたたちは……?」

 

 簡単に言えば、シンジは大変驚いていた。先ほどのカードを使うまでの時間にはいなかった二人がそこにはいたからだ。

 彼ら二人の存在にシンジが気がついたのは、先ほど自分がミラーワールドに飛び込んだ窓のすぐ目の前だった。それまでは、あまりにも焦っていて周りが見えていなかったので全く気がつかなかったが、黒い服を着た男にミラーワールドの事を聞かれてようやく二人に気がついたのだ。

 

「答えてくれ!この先に……助けを待っている者がいるんだな!」

「!は、はい……」

「そうか……」

 

 シンジは威圧的で迫力のあるその声に押されて簡単に二文字で答えた。そして、それを聞いた二人は、窓に向かい合う。

 一人は顔の右で握りこぶしを作るポーズをし、一人は、腕を天高く上げてゆっくりと下した。

 

「「変!……身!」」

 

 二人がそれぞれにポーズを決めながらその言葉を言い放った瞬間、眩いばかりの光が辺りを襲う。それは、まるでタイムベントのカードを使った時、いやそれ以上の光のようにも見えた。

 次第に、二人の身体は異形の物に代わっていき、黒い服を着た男は黒い仮面ライダーに、白い服を着た男は緑の混じった鎧を着た仮面ライダーへと変貌した。

 

「仮面ライダーBLACK!!」

「俺は太陽の子!!仮面ライダーBLACK!!アァァルッ!!エックスッッ!!」

「仮面ライダー?二人の……ブラック?」

 

 仮面ライダーBLACK、そしてRX、二人は今ここにいる状態でこそ変身者、南光太郎の平行世界の同一人物であるのだが、ある別の歴史を探ってみると、本来は仮面ライダーBLACKが戦い抜いたのちに新たに手に入れた力が仮面ライダーBLACKRXなのである。

 仮面ライダーBLACK南光太郎は、元はただの大学生であった。ある日、親友の秋月信彦とともに悪の秘密組織ゴルゴムに拉致され、改造手術を施された。しかし、脳まで改造される直前、何とか脱出を果たし、それ以来ゴルゴムに残してきた信彦を助けるため、そして人間を守るために仮面ライダーBLACKとなってゴルゴムと戦ったのだ。

 その結果改造され、シャドームーンとなった親友を倒すなどの悲劇に見舞われるものの、光太郎は見事に戦い抜き、ついにゴルゴムを壊滅させた。

 だがそれで彼の戦いは終わらなかった。新たなる敵、クライシス帝国によって仮面ライダーBLACKとしての変身機能を壊され、宇宙に生身で放り出されてしまったのだ。普通の人間であればその時点でなすすべもない。しかし、彼は違った。宇宙に放り出された南光太郎であったが、その時不思議な事が起こり、太陽の力によって仮面ライダーBLACK RXとしてパワーアップしたのだ。その後、光太郎は多くの犠牲を払ってクライシス帝国を滅ぼし、ついに彼の戦いに終止符が打たれた。

 以上が原典と呼ばれている南光太郎の世界。ならば、どうして仮面ライダーBLACKに変身できる南光太郎と、仮面ライダーBLACK RXに変身できる南光太郎がいるのか。答えは簡単で、二人もまた辰巳シンジと同じリ・イマジネーションライダーであり、門矢士と共に戦ったことのあるライダーであるのだ。

 今回渡はタイムパラドックスの影響も考えた末でこの二人を、そしてミラーワールドに閉じ込められた熊本を助けるという意味でもこの史上最も強い仮面ライダーであると噂される二人を連れてきたのだ。

 そう、二人にはミラーワールドと、この現実の世界を繋ぐことのできる力がある。とはいえ、実際にはそのようなことをやったことがないので、これは一か八かのかけであるともいえるのだが、やるだけやってみようということなのだ。その方法こそ……。

 

「行くぞRX!」

「あぁ!BLACK!」

「「キングストーンフラッシュ!!」」

「うッ!これは……」

「眩しいッ!なんだ一体……」

 

 シンジを追いかけて来たいつきたちもまた、その光に視界を奪われる。

 

その時、不思議な事が起こった。二人のBLACKが放った聖なる光、キングストーンフラッシュが、ミラーワールドとの境界線に干渉し、開くことのなかった扉を無理やりこじ開けてしまうのだ。

 

 二人のベルトから発せられたのは、果てしなく強大なエネルギーだ。それが、ミラーワールドへと続いている窓に照射されている。

 まるで太陽の光のよう。見たことはない、しかしそれはまるでビッグバンの光。人類が産まれて最初に目撃するような神秘的な光。神々しく、そして力強く光り続けるその輝きは、命の叫びにも似ているように感じられる。どこまでも、数十キロ先にいる人間にも、どうしようもなく立ち止まってしまっている人間にも届きそうなほどに伸び続ける光。暗闇も、幻想をも突き抜けてその眼に真実を映し出すかのような光の奔流が、その窓を襲っていた。

 シンジは、目を守りながらも窓の方を見る。さらにまどに反射した光が目を襲い、焼けてしまうかのようだ。しかし、シンジは確かに見た。あの男、そしてミラーモンスターの姿を。それも、窓の向こうのミラーワールドにいる二人じゃない。すぐ目の前に、鏡という幻想の前に、二人の姿があった。

 夢か幻か、こんな事あってはならない事。いや、あってはおかしなこと。ライダーバトルのルールを、ミラーワールドのルールを全てぶっ壊してその二人はついに成し遂げたのだ。それをシンジに暗示するかのように、窓ガラスは鏡が割れる音を奏でながら地面に破片が落ちて行く。

 次第に光が収まっていき、目を守らなくても目の前にいる一体の怪人、そして一人の男の姿が見えた。怪人の方は、光の攻撃によって狼狽えているのか、蹲っているようにも見える。

 

「あ……」

 

 ありていに言えば、いつきは何も言葉が出なかった。もう二度と会えないかもしれない。二度と振れることができないかもしれない。話せないかもしれない。そう思っていた思い人がすぐ目の前にいるのだから。

 血だらけではあるがしかし、まだ息はある様子だ。いつきはゆっくりと、ゆっくりとその男の側に近づいていく。

 だが何を話せばいい。どう接すればいいのか。声掛けの言葉なんて用意していなかった。こんな時が来るなんて想像にもしていなかった。諦めていたわけじゃない。願っていなかったわけじゃない。ただ、全てを忘れてしまうほどに嬉しかったのだ。

 今、自分は彼に右手を伸ばそうとしている。もしもこれが、自分が心から望んでしまったことによって生まれた幻想であるとしたのならば、その行動は周りから見れば滑稽であろう。しかしもしもそうじゃなかったら。確かに今、彼に触れることが可能であったとするならば、自分は……。

 いつきは一瞬だけ触れる事を戸惑う。触れることが怖いのか。いや違う。伸ばすのはこの手ではない事に気がついたのだ。いつきは、彼に触れかけた右手を下すと、左手を彼に差し出した。その薬指には……。

 

「熊本……」

「フッ……まっこと運命の神様というやつは意地悪じゃ。おんしを幸せにするまで格好よお死なせてもくれんとは」

「あぁ……お帰り、熊本」

「ただいま、いつき……」

 

 そして熊本はいつきの左手を握る。その手についていた愛のカタチは硬く、絶対に壊れない大きな物であった。

 だが、熊本の受けたダメージは底知れない物で、その状態を保持することができずまるで腕が取れてしまったかのように腕を下げる。

 

「熊本さん、大丈夫!?」

「あぁ、心配のうでもこれくらい……とゆうたち、流石にこれ以上は戦えんか……」

「なら、後は僕ちんたちに任せて、君は早く病院に向かいたまえ」

「おまんは……」

「士さんの仲間よ、熊本さん……他にもたくさん来てくれたわ」

「そうか、なら安心じゃの……」

 

 あの士の仲間たちであるのであれば、自分一人がいなくても心配はない。そう思った熊本は、取りあえず生きて帰れたことに心の中で喜んだ。

 

「ッ、流石に無理をしすぎたか……」

 

 そう、RXつぶやいた瞬間、二人の変身は解け、元の人間の姿に戻ってしまった。どうやら、キングストーンの力を使いすぎた反動が来てしまったらしい。

 

「あなたたちは一体……」

「あぁ、俺は南光太郎」

「そして、俺も南光太郎だ」

「え?」

「双子……いえ、平行世界の同一人物なのかしら?」

「理解が早くて助かる」

 

 理解力のあるゆりは、同じ名前、同じ顔、そして同じような仮面ライダーという事から彼らが同じ世界の出身者ではなく、別々の世界の、同じ人間であるとすぐさま推測した。

 場が、ハッピーエンド一直線になごんでいる中、シンジは一つ気になることがあった。だが、それを二人に聞いていい者なのかどうなのか。しかし、この謎を、真実を明らかにしなければきっと前に進めない。そう考えて、シンジは勇気を出して聞いた。

 

「あの、二人は……どうしてここに?さっきは、いなかったはずなのに……」

「さっき?」

「はい。俺がカードを……時を遡るカードを使う前には……」

「!」

 

 その言葉を受けたBLACKは、驚いたような声を上げた後、RXと顔を合わせ、何かを確認したかのように頷き、シンジを見て言った。

 

「そうか……君が時を戻してくれたのか……」

「……はい」

「……ありがとう。君が時を戻してくれたおかげで、俺たちは間に合ったんだ」

「え?」

 

 自分が、時を戻したから間に合った。それは一体どういうことなのか。

 

「俺たち二人は、元々彼を助けるためにこの場所に向かっていた」

「だが、このままだと彼が消える前にたどり着くことができないと分かった……」

「どうしようもなくなったその時、光に包まれ……気がついたら士君たちの所にいたんだ」

「え?」

 

 シンジは思い返す。そういえば時を戻した時確かに二人最初の時と比べて人数が増えていたような気がする。あの時は、考え事をしていたために眼中になかったが、今考えて見るとあの時点でおかしかったのだ。だが、ならばおかしいことが一つある。

 

「でも、どうして二人は記憶を持って……」

 

 そう、時間を巻き戻したのであるのなら、二人にもその記憶が無くなっていなければおかしい。しかし実際には二人はちゃんと前の時間のことを覚えており、そしてこの事象に間に合った。一体どういうことなのか。

 

「フッ、俺たちは改造人間だ。時間の逆行や操作は効かない」

「それに元々キングストーンには時に干渉することのできる力が備わっている。きっとその力のおかげで、俺たちも時を遡ることができたんだろう」

 

南光太郎は改造人間である。改造人間は、普通の人間とは違う時間の流れを生きている。故に、常人では認識できず、止まってしまう事しかできないような、高速の時の流れでも認識し、行動することができるのだ。そして、キングストーンの力が時に干渉することによって、タイムスリップもまた可能にしているのだ。

 

 以前、原典世界、RXとなった後の南光太郎が危機に陥ったことがある。敵の策略によって、一年前のBLACKの姿に戻されてしまったことがあったのだ。それまでRXで戦っていた南光太郎は、BLACKとしての戦いの勘が鈍っており、絶体絶命のピンチに陥ってしまう。

 もうだめか。そう思ったその時、不思議なことが起こった。なんと、仮面ライダーBLACK RXがタイムスリップし、過去の仮面ライダーBLACKを助けに来たのだ。それだけではなく、仮面ライダーBLAKC RXの変形体であるロボライダー、バイオライダーまで助けにくる始末で、要するにいざとなったらキングストーンフラッシュが時をも操作してくれるという事なのだ。

 

「そうか、だからタイムベントのカードであなたたちも……」

「あぁ、おかげであの男を……いや」

「あの二人を助けることができた」

「……はい」

 

 そう。辰巳シンジのあがきは間違いじゃなかった。彼が無我夢中で出したタイムベントのカード、そのおかげで確かに熊本を、そしていつきの心を救うことができたのだ。それは、紛れもなく辰巳シンジ、仮面ライダー龍騎である彼が起こした奇跡なのだ。

 奇跡はなかなか起こらない。何故ならば、誰もがそれを偶然と片付けてしまうからだ。努力をする人に奇跡は起こらない。何故ならば、努力をした結果行きついた場所に待っているのは奇跡ではなく、努力の結晶という紛れもなく実在する物だからだ。奇跡という物はどの世界にも、どんな場所にも転がっている。宇宙が産まれたのも奇跡、地球という惑星が産まれたのも奇跡、そこで人が産まれるのも、人が生きているのも奇跡。すべてが奇跡で形作られた世界。しかし、人は生きている内にそれら全ての事象に理由をつけ、奇跡の価値を落としてしまう。だが紛れもなく奇跡という物は全ての人間の心の中にある物なのだ。それを引き出せる人間はごく限られた人間。それを実行できるのは周りにいる多くの人達。あがいて、努力して、どうしようもなくなっても諦めないで希望を見出して、もうだめだと、諦めろと言われてもそれでも歩むことを止めなかった人間たちの思い。それを人は奇跡と呼ぶ。偶然の産物、棚から牡丹餅、まぐれ当たりとでもなんとでも言うがいい。しかしそれでもそれが人々が諦めるという事を諦めた結果から産まれた物。あがいた人間たちにしか与えられない絶好の喜び、快楽。当たり前じゃないからこそ、自分を信じたからこそ手に入れることのできた栄誉。人間は、生まれてから死んでいくまで、奇跡という見えない力と共に歩いていくのだ。信じなくても、蔑んでも、それは人々の背中を押してくれる希望の歌姫。努力は、希望は、奇跡は、絶対に裏切ったりはしない努力という熱意と共に、いつもそこで浮かんでいるのだから。

 

「おまんのおかげで助かったのか……名前は?」

「はい。辰巳シンジ、仮面ライダー龍騎をしています」

「そうか、ありがとう」

「私からも礼を言うよ、ありがとうシンジ」

「いえ、本当に無我夢中でやったことです。でも……本当によかった」

「それよりも、早く彼を病院に連れて行かないと……この辺りの病院は?」

 

 PC細胞の治癒力があるとはいえ、流石に多少の治療が必要だ。なるべく早く病院に連れて行かなければならないが、どこにあるのかも、移動手段もあまり把握できていない。だが、黒い服を着た南光太郎は、そのショウの言葉に対して言った。

 

「問題ない。直にどびっきり早い移動手段が来てくれる」

「あぁ、多分もうすぐそこに……来たな」

「え?」

 

 白い服の南光太郎の言葉と時を同じくして、一つのレールが道の上にひかれた。この光景、以前にも見たことがある物だ。そう、ちょっと前に、この場所に飛ばされる前に見た光景と同じもの。確かその時は……。そう彼女たちが考えていたその時である。軽快な音楽と共に一輌の電車が現れたのは。

 電車、デンライナーは彼女たちの前まで到着すると止まって、入口らしきものが開かれた。そこから降りてきたのは、一人の女の子である。

 

「お姉ちゃん……」

「みのり……そっか、そういえばこの電車に……」

 

 そう。日向みのりは先ほどの場所であの男に助けられた後に気絶したままでデンライナーに乗せられていた。その後のことはよくわからないが、てっきりどこか遠くで降ろしてもらっているのかと思っていた。

 みのりは、急いでデンライナーの階段を折り切ると、つかさず咲の前に到着する。

 

「あ、あの……えっと」

「みのり、どうしたの?」

 

 なにかみのりの様子が変だ。咲は率直にそう感じた。ちょっと前まであった、あのとげとげとした感じが無くなって、まるで一昔前のみのりに戻ってしまったかのよう。

 

「あの……お姉ちゃんに聞きたいことがあるの」

「なに?」

「……」

 

 みのりは、これはもう最初で最後のチャンスじゃないかと思っていた。心の奥底でずっと聞きたくて、でも聞くのが怖くて喉の奥から先に出なかった言葉。それで姉の口から出た答えによっては、自分はもう姉の事を姉とは思いたくなくなってしまう。だから、聞くのが怖かった。

 どういうわけか、気絶から目覚めてからかなり頭がすっきりとして、そして清々しい思いでいっぱいだ。今だったら、何の気兼ねもなく姉と話すことができる気がする。

 姉の真意、姉の本当の気持ちを知るために、彼女は重たい口をゆっくりと開いた。

 

「お姉ちゃんは、舞さんと付き合ってるけど……舞さんのお兄さんとも付き合ってるの?」

「え?」

「それとも、舞さんとの関係は遊びで、本当は……ううん、本当に好きなのはどっちなの?」

「……」

 

 咲は、その言葉で全てを悟った。

 経緯は不明ではあるが、みのりは自分と舞のお兄さんとの関係を知っている。

 自分は舞と付き合っている。それは多くの人間が知っていて、みのり自身も知っていること。それこそ、もしも舞が異性であったのならばすでに結婚して、子供ができていると言われるぐらいの付き合い方だ。

 だというのに、自分と舞の兄との関係をどこかで知ってしまった。そして困惑したのだろう。舞との関係は、同性との恋愛というただの遊びだったのか、それとも自分は二人の人間と同時に付き合う浮気者なのか、どちらにしてもそれはみのりにとっては最低な人間であるという評価がなされることだろう。

 だからみのりは、自分の事を嫌っていた。いや違う。本当の事を言うのを恐れていた自分や舞の事が怖かったのだろうと思う。

 

「よかった……」

「え?」

「みのりは、やっぱりいい子のままだった……」

「お姉ちゃん……」

 

 咲は、みのりの事を抱きしめた。それは、みのりにとってはとても痛い物だったがしかし、どこか懐かしさや温かみを感じる物で、その痛みすらもまた心地よかった。

 

「みのり、よく聞いて。私はね、舞も、舞のお兄さんの事も好きだよ」

「……そんな心の事を、likeの意味を聞いてるんじゃない……本当に」

「本当に愛しているのはどっちか……でしょ」

「……」

 

 咲は、みのりを抱きしめていたその手をゆっくりとほどくと、みのりの肩に手を置いてその眼をじっと見つめて言った。

 

「みのり、私は今……舞のお兄さんと、和也さんと付き合ってるの……」

「じゃあ……」

「そして、舞とも同じくらい付き合ってる……」

「やっぱり……」

「そして、それを二人とも知っている」

「え?」

 

 二人とも知っているとはどういうことか。表面通りに受け止めると、それは舞は、咲と自分の兄が付き合っているという事を、舞の兄も、咲と自分の妹が付き合っているという事を知っているという事になる。けど……。

 

「訳が分からない。どういうことなのそれ?」

 

 脳では理解できても心で理解することができない。いや、脳でようやく理解が追いつきそうになったという段階であるというのに、そのようなことを心で理解するには到底頭の回転が恐るべきほどに速い人間でなければならないであろう。

 

「私ね、舞の事がずっと好きだった。中学校の時からずっと……ううん、きっともっと前から。でもね、それと同じように、和也さんの事も隙になっちゃった。それで……そのまま大人になって、どちらかへの思いを捨てなくちゃならなくなって……でも、捨てきれなかった」

「だから、咲は考えた末に、相談しに来たの。私達に」

「私……達」

 

 その言葉が示す意味。考えるまでもなく、舞と舞の兄であるだろう。

 

「最初に身を引こうとしてくれたのは舞だった。異性の人を好きになるのは、人として当たり前なんだからって……でもね、それに納得したらもう……舞と一緒に戦うことができないって、そう思った」

「戦う?」

「そう。だから私は、和也さんにダメ元で言ったの。もしも、貴方と付き合うことになったら、舞とも付き合ってもいいですか?って」

「……」

「すっごく自分勝手な人間って思うよね」

「本当、今考えても咲は欲張りだと思うわ。美翔家の兄妹を同時に手に入れようとするなんて」

「もう舞……それあの時も言ったでしょ?」

 

 舞自身も最初は、その事について兄はどう返事を返すのか分からなかった。ふざけるなと怒られてもおかしくないような咲の言葉だ。しかし、それでも彼女は二人の事を愛してしまった。愛してしまったから、どちらかを選ぶことができなかったのだ。

 結論から言って、咲は舞、そして和也双方と付き合うことになった。元々和也自身も妹が先の事を好きであるのには薄々気がついていたし、それに自分の心の中にも咲の事を好きだという気持ちがひそかにあったことに気がついていたから。

 

「でも、それって……」

「分かってる。それがどれだけ人の道に外れているかって……だって」

「ううん違う!そうじゃない!」

「え?」

「どうして教えてくれなかったの……?」

「みのり……」

「怖かったから?私にこれ以上嫌われるのが……人は一人だけを好きになることができるっていうのが当然だから、自分たちはその人の道を外れているって思ったから?」

「……」

 

 実際そう。自分たちは人間の道を大きく外れている。舞が男性、もしくは和也が女性だったと仮定して考えれば、それがどれだけおかしなことなのかが分かる。自分のやっているソレは、兄妹をまとめて攫う山賊の行動そのもの。それに……。

 

「それと……あいつの事を知ってよくわかった……私が、最低な人間なんだって……」

「え?」

 

 今回の事件を通し、あの男の存在を知ったことによって改めて実感する。自分は、あの遠藤止と同じ穴の狢なのであるという事を。

 自分のやっていることはあの男と何ら変わりはしない。自分の欲望を満たすために響の事を襲い、さらには現役のプリキュアの女の子たちをも手籠めにしたあの男の行動と何ら変わらない。

 改めて提示される、自分の異常な行動。それを客観的に見た時思ってしまったのだ。なんて、非人道的な人間なのであろうかと。

 

「ゴメンネみのり、こんなお姉ちゃんで……こんなお姉ちゃんになって……」

「それでも……好きなんでしょ?」

「……うん」

「だったら、どうしてそれが悪いことなの?お姉ちゃんはなにも悪いことはしていないのに……」

「え?」

 

 男は女性と付き合わなければならない。しかし、男と付き合ってもよい。

 女性は男と付き合わなければならない。されど、女性を好きになっても良い。

 二人の男女を好きになってはならない。けれど、二人の男女を愛しても良い。

 この世は全く持って不条理なもの。人間は進化を重ねていくうちに最初に人間にもたらされた恋愛観を超えた、新たなる恋愛観を作り上げることができた。咲は自分たちの行いが人間のそれを外れた物であると認識している。遠藤止と同じものであると認識している。しかしその本質は違う。遠藤止と彼女たちは全く違うのだ。

 

「咲。遠藤止と君は全く違うよ」

「いつき……」

「えぇ、あの男は自らの欲望に従うだけ、そこには愛がないわ。でも、貴方のそれは、紛れもない愛……あいつとは全然違うわ」

「ゆりさん……でも」

「結果的に君と遠藤止が行きついてしまった先は同じかもしれない。しかし、俺は確かに聞いた、そして感じた……あの男の行動と君達とでは……決定的に違う物があるのだと」

「光太郎さん、それって……」

「それは……ムッ!」

「え?」

 

 光太郎は突然後ろを振り返った。その瞬間である。マンティストロフィの鎌が飛んできたのは。光太郎は、それを弾き落とし彼女たちに言う。

 

「みのりちゃん、それから熊本君。君たちは下がっていてくれ」

「来るぞ!」

 

 キングストーンフラッシュによって負ったダメージから回復したマンティストロフィだけじゃない。ミラーモンスターハイドラグーンが次々とミラーワールドから現れる。空を覆い隠してしまうほどの数に圧倒される彼女たち。しかし、それでもその顔からはあきらめという物は感じ取れない。

 

「みのり、ここは私に任せて。熊本さんと一緒に逃げて」

「あぁ、デンライナーに乗りさえすれば、後は大丈夫だ」

「でも、お姉ちゃんたちは?」

「私たちは大丈夫……うん、大丈夫だから。みのり、そこでちょっと見てて」

「え?」

「行くよ、舞!」

「……えぇ、咲!」

「この世に光がある限り……俺たちは何度でも戦いを続ける!」

「プリキュアもこの世界も!この俺、仮面ライダーBLACK RXが守る!」

「今日は私も、いつもと違ってシリアスに行かせてもらうからね!」

「熊本、私は……ボクは行く。もう一度、そして今度はボクが……お前の所に帰る」

「もういつきは心配ないわね……あとは、私たちの愛で、遠藤止を倒す!」

「もう誰も死なせはしない。殺させはしない!絶対に!俺はそう決めたんだ!」

「見ててね、みのり。これが……」

「これが、私たちのもう一つの姿!」

「よお見とけよ。これがあいつらの友情を愛情に変えた物の正体だ」

「友情を、愛情に……」

 

 ショウはリュウツエーダーとリュウキュータマを、シンジはカードデッキを、咲と舞はクリスタル・コミューンを、いつきはシャイニーパフュームを、ゆりはココロポットを手に取って並び立つ。そして……。

 

≪リュウキュータマ!≫

≪セイ・ザ・チェンジ!≫

「ガリョウテンセイ!」

「変!……身!」

「変!……身!」

「変身!」

「「デュアル・スピリチュアル・パワー!!」」

「「プリキュア!オープンマイハート!!」」




 なんで咲と舞がそんな設定になったかって?中の人に聞いてください。以前どこかで事実は小説より奇なりという言葉を用いましたが、これがその正体。咲と舞の中の人のエピソードを聞き、それに加えてこの小説の読者さんから咲は舞のお兄さんが好きという情報を貰ったため、この展開になりました。というか、元々そう言った展開にできるようにあの1年以上前の24時間連続投稿の時点で多量の伏線を張って置いたんです。つまり、この展開はこのプリキュアの世界が始まった時からの、引いては、この仮面ライダーディケイドエクストラの投稿を開始した時点から考えていた物だったんです。まあ、現実はこの展開を考えている最中に結構変わってしまったんですけどね。
 アンチ転生者、アンチハーレムを謳ってきたこの小説においては、最も問題になる場面ではありますが、しかし必ず答えを見つけてまいりますので、待っていてください。
※修正:数行に渡る弱気発言を消去。

 次回→しあわせ運べるように

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。