仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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 忘れてた。スーパー戦隊シリーズには二人転生経験のある奴らがいるという事を。と、いう事であのスーパー戦隊が参戦。……おいこのパートにでる戦隊たちはギンガの森にいたほうがよかったのばかりじゃないか?


プリキュアの世界chapter61 最後まで死にあらがう勇気

「フフフ……そうだそのまま絶望し、強力なファントムを産むのだ。『あの女』のように」

 

 ファントムにとって、仲間であるファントムを生み出すという行為自体は本能や刷り込みのように生まれた直後から強制されたものというわけではない。そのため、必ずしもすべてのファントムが人間を絶望させようと最初から動いているわけではないのだ。しかし、このケツァルコアトルは違う。彼は個人的な趣味でゲートを絶望させているのだ。ただ、自らの欲求を解消するために。ただ絶望するゲートが見たいという個人的な趣味のために、彼は動いているのだ。

 

「い……嫌……シニタクナイ……」

「その声だ、その絶望した声、顔、それこそが俺の心を満たしてくるる」

 

 彼を言い表すとしたらまさに人間の本性その者。人の不幸を喜び、人の善意に罵倒を浴びせる悪意の塊。自分以外の者が幸せになろうとするのを努力を惜しまずに食い止め、誰かが不幸になろうとするならば笑っていい気味であると言う。多くの善ある行動を偽善と良い、売名だという、そんな人間の中にある歪んだ心の塊、それがそのファントムであり、人間なのである。

 

≪バインド!プリーズ!≫

「チッ!」

 

 否、それはほんの一握りの人間の悪意だ。本当に人間を形作っている物は善である。それすらも綺麗事であると罵るのは、本当に心の荒んだ砂漠の砂一粒ほどの人間。我々は知っている。例えそれが偽善的行為と言われても、その先に待っているのは多くの人間の笑顔であるという事を。我々は知っている。確かにそれは最初は小さなことだったのかもしれない。そんなことをしても何も変わらない、誰の涙もぬぐえないと言われるのかもしれない。だが、それが何年もたって、もう一度振り返ってみると、やっぱりあの時のあの行動は 間違いじゃなかったと誰もかれもが自信を持ってうなづくことができる。信じて行った行為は無駄じゃなかったのだと胸を張って言えることができる。それが、本当の人間の心なのである。

 

「フッ!」

「この魔法……なるほど指輪の魔法使いか……」

 

 突然現れた魔法陣、その中から出現する多数の鎖を避け切り、後方へと跳んだファントムと、跪くなのはとの間に一人の青年が降り立った。その指に大きな指輪をはめた青年。なのはの相棒であるレイジングハートは、その指輪から魔力を感じ取る。そしてまた、ファントムの言葉尻から察するに、恐らくこの青年も自分のマスターたちと同じように魔導師、いや魔法使いなのであろうと感じた。

 

「あなたは……誰?」

「俺の名前は操真晴人、ちょっとおせっかいな魔法使いさ」

「そうま……ハルト?」

 

 操真晴人、もう一つの名前は仮面ライダーウィザード。大量のファントムを産む儀式サバトに巻き込まれ、その際心の中のファントムを抑え込んだ結果、魔法使いになった青年である。それ以来、彼は指輪の魔法使いとしてたくさんのファントムと戦い、そして今のなのはと同じ、多くのゲートたちを救ってきた。ゲートの希望を救ってきた仮面ライダーである。

 

「指輪の魔法使い。お前の噂は別世界の俺の耳にも聞こえているぞ、ゲートを守りファントムを駆逐する魔法使いだとな」

 

 ケツァルコアトルは、晴人がいた世界とはまた別の世界からやってきたファントムである。だが、彼の耳にすら聞こえていた。多くのファントムを倒し、たくさんのゲートを救った魔法使いがいるという噂を。

 

「悪いが、俺の目の前でゲートの希望は消させない……」

「フン希望か……それは無理な話だ」

「なに?」

 

 そう、彼には勝算があったのだ。ファントムはほくそ笑みながら言う。

 

「指輪の魔法使い。お前は、ゲートの中のファントムを倒し魔力を消し去ることでゲートを守っているそうだな」

「あぁ、それがどうした?」

「ならば教えておこう!その少女の希望、それは魔法だ!」

「なに?」

「それもただの憧れでもなんでもない!その少女は魔法少女……お前とはまた別の力を持った魔法使いだ!」

「マジかよ……」

 

 晴人は、自分の世界で多くの魔法使いたちと出会ってきた。しかし、そのどれもが本質的に見れば自分と同じような物ばかりだった。しかし、今目の前にいる少女の魔法は、またそれらの力とは別個のものであるとファントムは言うのだ。それが、嘘か本当か、ハッタリなのか真実なのか、それを考える間でもなく、ある一つの声が彼に語り掛ける。

 

≪His words are true. Haruto(彼の言葉は本当です。晴人)≫

「誰だ?」

≪I am now a master…… Takamachi Nanoha is like a magic wand in his bosom(私は今、マスターの……高町なのはの懐にいる魔法の杖のようなものです)≫

「魔法の杖か……」

≪Yes. I have fought with her. For her, magic has given me irreplaceable treasures…… Hope(はい。私は彼女と共に戦ってきました。彼女にとって魔法は、かけがえのない宝物を与えてくれたもの……希望です)≫

「……」

 

 ここにきて、晴人は迷ってしまった。以前に彼は魔法に憧れる一人の青年を助けたことがあった。しかし、それは叶わぬ夢を追い求めていた青年であり、絶対にとはいえなかった物の、その夢が叶う確率が低いと言わざる青年であり、その夢以外の希望を見つけることができた青年だった。だが、今目の前にいる少女は違う。魔法使いとして自分と同じように戦う少女、そんな少女が魔法に希望を持ってしまっているのならば、晴人がいつも行っている行為は諸刃の剣となってしまうのだ。晴人がゲートを救うために行ってきた行動とは、ゲートの中にいるファントムを倒すという事だった。正確に言えば、アンダーワールドという精神世界の中にいる巨大なファントムを倒すことによって、ゲートが死ぬ運命を変えているのだ。だが、ゲートの中にいるファントムを倒すとどうなるかという事が、この場合の問題点である。それは、アンダーワールド内のファントムを撃破してしまうと、ゲートから魔力が失われてしまうという事なのだ。そのため、魔力を持った人間であるゲートからファントムを産みだそうとするファントムから同じゲートが再度狙われる恐れという物はないのだが、この場合問題になるのが ゲートが狙われるか狙われないかではなく、彼女の希望を摘み取ってしまうという事なのだ。人間は希望無くしては生きてくことができない、そのことは晴人も重々承知である。例えゲートに狙われなくなったとしても、希望を無くした彼女が生きていくことができるだろうか。もっと彼女のことをよく知っていれば、魔法以外の希望を見つけることができるだろうが、しかしあいにく自分は偶然この世界に来たばかりの人間だ。彼女の事をよく知らない。そのため、安易な言葉などをかけてあげられない。だが、このまま何もしないままに放って置いたら、すぐに絶望しきってファントムを産んでしまう。決断を急がなければならない。しかし、どう判断しようとも、目の前でそうやすやすとさせてくれるような敵ではない。

 

「だが、どちらにしても邪魔はさせないがな!」

 

 そう言いながらファントムは、複数個の石をばらまいた。瞬間、石はグールという怪物となって晴人の前に立ちふさがった。

 

「どっちにしても今はファントムからか……」

 

 ファントムが邪魔をしてくるのであれば、まずはそちらから片づけるだけだ。晴人は、右手中指にはめている手の形の装飾がなされた指輪を見せながらそう言った。その瞬間である。

 

「うわぁぁぁぁ!!!」

「ん?」

 

 上から叫び声が聞こえる。それも一つや二つなんてものじゃない。もっと多くの声だ。晴人が上を向いた先にいた者たち。それは……。

 

「あれは……」

 

 彼女たちが気がついた場所、それは空高くの雲の上だった。突然の状況変化に、彼女たちは驚き……。

 

「ってまた!?」

「どうしてこうも空の上から落ちてばっかりなのかしら……」

「でも、楽しいからいいんじゃない?」

「ちっとも良くない!私達魔法使えないんだから危ないんだって!!」

 

 空から落ちてくるのは過去から来た魔法使いプリキュアの三人(本日二回目)。いつもなら確かに楽しい物なのではあるが、今現在使える魔法が別物になった影響で魔法の杖も箒も使えないため当たり前ではあるがかなり危険な状況である。だが、そんな三人を追い越した三つの影があった。

 

「大丈夫!行くよ、二人とも!」

「えぇ!」

「うん!!」

 

 大人のみらいたちだ。彼女達もまた過去の三人と共にこちらの世界に来ていたのである。他の戦隊や仮面ライダーがいないものの、彼女達がいれば何とかなる。箒に乗った三人は、落ちて行く三人に速度を合わせながらその手を掴もうとする。だが、その時である。

 

「ショッカァァァァァ!!!!」

「!」

 

 その声とともに大量のメダルが降ってきた。いや、正確に言えばまるで弾丸のように襲ってきたと言った方がいいだろうか。とにかく、明らかに大人のみらいたちを狙った攻撃だった。

 

「なに!?」

「上モフ!!」

「上!?」

 

 モフルンの言葉に反応した三人が上を向いた瞬間、三つの影が太陽を背にして落ちてくる。それぞれに羽を持ち、滑空してくる影、一見してみると大きな鳥のようにも見えるが、しかしその正体はもちろん遠藤止の呼び出した怪人、クロウロード、コウモリフランケンそしてショッカーグリードであった。

 

「こんな時に!!」

「怪人たちは私たちに任せて!はーちゃんは過去の私達をお願い!」

「分かった!」

「行くわよみらい!」

「うん、リコ!!」

「ショッカァァァァァ!!!」

 

 怪人たちに向かって行ったみらいとリコは、三体の怪人が地上に向かわないように戦いを始める。一方地上に向かったことはは、そこで異形の怪物と向かい合っている青年を見た。

 

「あなた!もしかして!」

「そうか、渡の言っていた……俺は操真晴人、魔法使いだ」

「私も魔法使いなの!それよりも!」

「大体の状況は把握した。任せてくれ」

 

 そう言うと晴人は一つの指輪を取り出すと指にはめて、ベルトにタッチする。

 

≪コネクト!プリーズ!≫

「ハァッ」

 

 晴人は目の前に出現した赤い魔法陣の中に両手を入れる。

 

「ッ!なに!?」

「これって、手?」

 

 それとほぼ同じタイミングで、はるか上空にいる子供のリコとことはの目の前に同じ魔法陣が出現し、そこから右手と左手が伸びてくる。

 

「二人は任せてくれ!君はもう一人を!」

「分かった!」

 

 これは、ウィザードの魔法の一つであり、魔法陣を通すことによって遠くの物を近くに引き寄せることができる。これによってバイクや武器、果てはプレーンドーナッツの袋等いろいろな物を魔法陣から出しているのだ。これによってリコとことはの手を掴むことはできた物の、晴人の手は右手と左手の二つしかないため、もう一人みらいの手を掴むことができない。そのため、ことはにみらいの事を頼んだのだが、無視して通ることのできない問題も一つある。

 

「させるか!いけグールども!」

 

 ファントム、そしてグールである。現在晴人は手を魔法陣の中に突っ込んでいる状態のため身動きが取れない。第一、元々この魔法は片手で使用する物である。両手を魔法陣の中に突っ込むなどという事は経験がないことだろう。要するに、もう一方の手も入れている分だけ、普段の使用時よりも負担が大きいのだ。その状態で身動きを取れるわけがない。まだ魔法陣の向こう側から二人を引き寄せられていない現状、今晴人が倒されたら向こう側にいる二人も危険だ。そのため、晴人からみらいの事を任されたことはもまた、動くことができない。どうするか、考えている時間はない。そのようなことをしている間にも空中にいる少女たちが落ちてくる。だが、グールたちも迫ってきている。どうすればいい。

 

「クソ!」

「晴人!」

「そのようなこと、俺たちがさせん!!」

「なにっ!?」

 

 その瞬間であった。二人の壮年の男性が走りこんできて、その手に持った剣でグールたちを切り刻んでいく。その太刀筋を見た晴人は、その二人がただの人間ではない、剣の達人であることを察した。

 

「とうっ!ハァッ!」

「ハァッ!ハァァ!!」

 

 力強く流れるその剣裁き、幾年月も戦いを続けてきた者のみが達するであろう剣の極み、剣を振ったその風圧だけで幾体ものグールが吹き飛んでいく。グールの槍を何本も受け止め、押し返し、できた隙を狙って切っていく。なんとも一切の無駄がない。それはすなわち、一切の遊びもなく、一切手を抜いていないのも同じ事。ともすれば恐ろしさも感じてしまうほどの攻撃の数々。一体、何者なのか。それは、ファントムももった当然の疑問であった

 

「クッ!貴様たち、何者だ!」

「太陽戦隊サンバルカン、バルイーグル。飛羽高之」

「超獣戦隊ライブマンのレッドファルコン。天宮勇介だ」

「あなたたちも!?」

「スーパー戦隊だったのか……」

 

 太陽戦隊サンバルカン、機械帝国ブラックマグマから地球を守り切った史上五番目のスーパー戦隊である。サンバルカンの特徴、それは現在であれば5人いることが普通であるスーパー戦隊にあって、初めて三人だけで組まれた戦隊であることだ。彼らの後にも、何人も最初のメンバーが三人というスーパー戦隊は生まれて行ったのだが、彼らは唯一、女性メンバーが含まれることがなかったという特徴もまた持っている。バルイーグル、飛羽高之は地球平和守備隊の元空軍将校で、彼もまた一つの特徴を持った人間であった。それが、二代目を襲名したメンバーであるということ。彼の前にもまた大鷲龍介という男がバルイーグルとして戦っていた。だが、彼がNASAからスペースシャトルのパイロットとしてのスカウトがあったことをきっかけにバルイーグルの役目を飛羽に託したのだった。そして彼は、太陽戦隊サンバルカンのリーダーとして戦い抜き、それから30数年の時が経った今、地球平和守備隊の中でもかなり上のポジションになってい入るが、後輩がピンチの時にはこうして自ら出動しているのだ。

 超獣戦隊ライブマンは武装頭脳軍ボルトを相手に戦った12番目のスーパー戦隊である。世界中の天才が集まる科学者育成学校科学アカデミア、そこに所属していた学生から結成されたライブマンのリーダー天宮勇介、レッドファルコン。この二人は、双方ともに剣を用いた戦士であり、特に天宮は、かつて百獣戦隊ガオレンジャーのガオイエロー、鷲尾岳に剣の戦士、そして赤き戦士の代表としてかつてのスーパー戦隊たちの戦い、剣の戦士の魂、そして死の恐怖を超える覚悟を説いた者でもある。

 

「俺たちもいるぜ!!」

「なにッ!」

 

 その瞬間 一人の人間がバイクに乗って颯爽と現れ、晴人の前に止まった。その若者は、晴人も知っている人間だった。はずなのだが、なにかが違う気がするのは気のせいではあるまい。

 

「お前ゴーバスターズの……ヒロムだよな?」

 

 そう、以前スーパー戦隊と共闘した時に出会った特命戦隊ゴーバスターズの桜田ヒロムであるはず。なのだが、なにか雰囲気が違う気がする。どちらかというと、野性的というか、前に会った時よりも一般人に近いような……。

 

「そうだ。けど、晴人の知っているヒロムじゃねぇ」

「なに?」

「ニックの言う通りだ。俺はゴーバスターズはゴーバスターズでも、動物戦隊ゴーバスターズのレッドチーター、桜田ヒロムだ」

「動物戦隊?」

「その通りだ」

 

 その瞬間である。晴人の頭を飛び越えてきた三人の人間と、一体のロボット。

 

「俺たちは「俺たちは特命戦隊ゴーバスターズとは別の世界から来た、パラレルワールドのゴーバスターズだ」かぶんな!」

「というか、お前は俺と向こうの世界から来たんだろJ」

「どういうことだ?」

「簡単に言うと、俺たちはニックの願いが産んだスーパー戦隊だ」

「願い?」

「あぁ、俺は岩崎リュウジだ」

「私は宇佐見ヨーコ。動物戦隊ゴーバスターズのイエローラビットよ」

「俺は「俺はビート・J・スタッグだ」かぶんなって!俺は、陣マサトだ。よろしく」

「なるほど、んでパラレルワールドってのは?」

「悪いが、説明している時間はない、行くぞJ!」

「了解!」

 

 その陣の言葉と同時に、ニックを除いた面々がグールを足止めに向かう。まだ分からない事はあるが、しかし味方であろうことには変わらない。ゴーバスターズ、そして二人の鳥の戦士たちが戦ってくれている間に、上にいるみらいたちを何とかしなければならない。しかし、どうするか。

 

「心配するな晴人!上の少女達は俺たちの後輩に任せてくれ」

「え?」

「後輩、まだスーパー戦隊がいるのか」

「そうだ。この青くて美しい空を守ってきた二人の鳥の戦士、そして魔法使いだ」

「まだ魔法使いがいるの!?」

「そういえば聞いたことがある。スーパー戦隊にも、魔法使いがいるってな」

 

 そう、晴人は会ったことがないが、スーパー戦隊には魔法を使用する戦隊がいるのだ。仮面ライダーの魔法使い、スーパー戦隊の魔法使い、そしてプリキュアの魔法使い、これらそれぞれの魔法使いが存在するのだ。きっと、自分の後ろにいる少女を助けることができる。そう彼は信じていた。だが、その場にいる誰もが予想だにもしていなかった。さらにもう一人、魔法少女がいや、魔女の見習いがこの場所に向かっているという事を。

 

「なんで私だけぇぇ!!」

 

 一方、他二人は助けられたというのに一人だけまだ落ち続けている子供の朝日奈みらいは、間近に迫る地上を前にして叫ぶしかなった。というか、このような状況は今日一度経験したことではあるが、これを何度も行うというのは何とも言い心地がしない。命の危機に瀕しているのだから当たり前であるが。本来であれば、彼女自身が持っていた魔法の杖を使用して何とか助かることができたであろう。しかし、魔法の杖は、自分がプリキュアでなくなってしまった時にプリキュアの力と一緒に失くしてしまった。冷静に考えてみると、魔法の杖や箒はプリキュアとは何ら関係のない魔法界に普通にある備品であるため、消えたほうがおかしい気がするのだが、そのことに気がついたのはかなり後の事となってしまった。

 急転直下で落ちて行くみらい。普通に考えても地面に落ちた瞬間に死んでしまうだろうが、それを黙って見ている敵でもなかった。

 

「ショッカァァァァァ!!!」

「うわぁ来た!?」

 

 ショッカーの化学力が産んだグリード、ショッカーグリードである。みらいは、なんとかしようとソウルジェムを取り出そうと手を前に出した。だが、忘れてはいけないのが、彼女が突発的に魔法少女となったという事実だ。魔法少女のなり方を教えてもらったと言っても、それからたった一度しか変身したことがない彼女にとって、魔法少女に変身するには集中力が必須なのだ。正直、この現在の状況でそれができるほどに図太い精神を、まだ彼女は持ち合わせていない。通常の魔法少女であれば、本能から魔法少女のなり方という物が分かって簡単に魔法少女となるらしいのだが、普通の方法で魔法少女となってない彼女にとって、それができないであろうという事は明白だ。

 

「させない!!キュアップ・ラパパ!風よ!渦を巻きなさい!!」

 

 しかし、ショッカーグリードが再びメダルを放とうとした瞬間、リコが魔法の杖を構えてそう命じた。すると、一陣の風が草木を巻き上げて吹き荒れて、ショッカーグリードの身体を中心として渦を生み出し、グリードの動きを封じる。

 

「はぁッ!!」

 

 そして身動きのできないグリードに向かってリコは猛スピードで突撃すると、グリードは渦の中心から解放されてリコとともにみらいから離れて行く。

 

「リコ、凄い……って感心してる場合じゃない!」

 

 過去の、つまり今のリコの姿を知っているみらいが、その一連の動きを感慨深げに見るのは当然だろう。大人の自分から知らされていたが、魔法が上手に使えなかったリコが、ここまで魔法を巧みに利用することができるようになるなんて、いつかはリコも上手になると信じていたみらいにとってその光景は嬉しい物であった。だが、今の状況がまずいと言う事実に変わりはない。上空から猛スピードでクロウロードが迫ってきたのだ。

 

「うわぁぁまた来た!?」

「させない!!ハァッ!」

 

 だが、クロウロードはさらに現れたもう一つの影に激突され、遠くへといざなわれる。

 

「私!」

「心配しないで!こいつは、私が何とかするから!!」

「モフ!頑張るモフみらい!」

「モフルン!しっかり捕まってて!」

「モフ!」

 

 突進することによって子供のみらいを助けた大人の未来は、そのままクロウロードを子供の頃の自分から離すよ

うに飛んで行く。スペック上から見ると、クロウロードの速さは新幹線並みであるはずだが、みらいも小回りを利かせたり、クロウロードの動きを目で追いながら紙一重で躱し、そして蹴りを入れることによって何とか戦うことができていた。

 問題は、怪人がもう一体いるということである。

 

「ギェーッ!!」

「もう一体きたよ!はーちゃん!」

「任せて!」

 

 だがもう一人自分には頼れる仲間がいるという事をみらいは知っていた。みらいが、地上の近くにいた大人のことはに向かってそう言うと、ことはもまた魔法の杖を取り出した。だが、その時である。

 

「ギェーッ!」

 

 GOD悪人軍団の一人、コウモリフランケンの背中にある大砲が火を噴き、地上近くにいたことはを襲ったのだ。ことははなんとか避けることができたが、次々と大砲から放たれた砲撃が、地上を襲う。

 

「クッ!」

「ダメ、これ以上近づいたら晴人たちに……」

 

 近づいていくという事は、コウモリフランケンの狙いが自分に定まるという事、つまり砲撃が自分の方向に来るという事だ。彼女とってそのような攻撃、避けることなど容易い物なのではあるが、その場合先ほどのように地上に砲撃が当たり晴人や。今蹲っている少女に危険が及ぶことは想像するのが難しくない。だが、一番危険であるのがコウモリフランケンの近くにいるみらいであるのは間違いなかった。

 

「はーちゃん!ッ!」

「ギェーッ!」

「もうだめ……ううん、諦めない……絶対に!」

 

 一瞬だけ自分の死を覚悟したみらい。だが、自分がいなくなれば、ことはも自由に動けて、空から地上を見た時にいた何人かの人間を助けることができる。だったら、自分の死も無駄ではないと、そう考えた。だが、違う。そんなもの、何の助けにもならない。今自分が死んでしまえばリコやことは、仲間達だけではない。地上で今も戦ってくれている人達を傷つけることになってしまう。それに、もう家族や多くの友人たちにも会えなくなってしまう。皆も、自分に会えなくなってしまう。記憶の、思い出の中にしかいなくなってしまう。そんなことは嫌だった。

 人はたくさんの出会いと別れを糧として成長する生き物だ。たくさんの人や経験との出会いを得て、自分に今何ができるのか、自分が将来何をしたいのか、それを感じ、考え、そして成長する。多くの人との別れや死別、そして二度と戻ることのない過去と決別し、あの時こうしてたらよかった、あの時こうしたから何とかなることができた、そう考えることによって大きな成長を得ることができる。だが、一番大事なことはそのバランスだ。出会いと別れのバランス、それが少しでも崩れてしまうと人は成長できないどころか、本当の自分を見失ってしまう。それが一番顕著に表れている物は恋愛であろう。一目会っただけの人間に恋をして、その人を手に入れるために試行錯誤をして、それが届かないという事を信じようともせずに頑張り続けて、身を滅ぼしていくヒトがいる。心の底から愛した人間を相手に失恋して、自暴自棄となって欲求で身体を満たそうとして、人間として大事な理性を失うヒトもいる。出会いと別れは、成長と破滅の表裏一体。だがその実は破滅となる可能性の方が多いのだ。特に、出会った相手にもよるだろう。もしも、出会った相手が遠藤止のような自分の事しか考えていない、ハーレムを作るなどとしか考えていないような人間で会ったら、もうそれだけで破滅一直線になる。人が出会いと別れを繰り返すのは、自分を成長させるためだけじゃない。自分を成長させるという事は相手も成長させることができるという事。

 みらいは思う。自分は確かにあの時、リコやことはと別れようとしていた。そしてそれが、未来の自分を成長させる糧になっていたのは間違いないだろう。だが、その別れとこの別れは違う。生きて別れるということと、死んで別れるということは絶対に違う、否違わなければならないのだ。でなければ、生きている意味はないのだ。生きて別れれば、いつか出会うチャンスがある。大人の自分たちがそうであったように、いつかどこかでまた出会って、一緒に笑い合うことができる。だが、死による別れ、それはただの悲劇だ。もう二度と会うことができない。もう二度と、一緒に笑い合うことができない。もう二度と、手を取って歩くことができない。それは自分も、相手も、悲しすぎる。だから生きるのだ。生きて別れるからこそ、再び巡り合うことができるのだ。また出会いたいから、人は生きたいと願うのだ。その時の気持ちは、何よりも、どんな感情よりも大きなものとなるのだ。その時だ。みらいの手に小さな小枝が収まった。それは、何の変哲もないただの小枝。魔法の杖でもなければ、今の自分の状況を変えてくれるような物でもない。だがみらいは叫ぶ。

 

「キュアップ・ラパパ!怪人よ、あっちに行きなさい!」

 

 あの時と同じように。

 

「キュアップ・ラパパ!怪人よ、あっちに行きなさい!」

 

 リコと一緒に叫んで、リコと一緒にプリキュアになったあの時のように。

 

「「みらい……!」」

「みらい!」

「分かってる!でも……」

「ッ!みらい!」

「ギェーッ!!」

「みらい!!」

「キュアップ・ラパパ!怪人よ、あっちに行きなさい!」

 

 恐れなどはない。それを言って何かが変わるはずもない。だが、その言葉は、確かに一つの事を生み出していた。

 

「ッ!おい、あんたらの仲間ってのはまだなのか!」

「すぐ近くにまで来ているはずだ」

「そんなこといっても、このままじゃ……」

「キュアップ・ラパパ!怪人よ、あっちに行きなさい!」

 

 それは、無謀でも、無茶でも、慢心などでもなかった。そうそれは、きっと……。

 

「ギェーッ!!」

「キュアップ・ラパパァァァ!!!!」

 

 砲撃は、みらいのすぐ目の前にまで迫っていた。

 

「「「ジンガ・マジュナ!マジカルカーテン!!」」」

「え?」

「ギェーッ!」

 

 が、それはみらいの目の前に現れた赤、桃、白の三色のカーテンによって阻まれた上に、砲撃を跳ね返してコウモリフランケンへと直撃し、地面へと真っ逆さまに落ちていく。

 

「これって……」

「掴まりなさい、早く!」

「あ、はい!」

 

 黒いフードを身に纏った、おそらく女性が伸ばした手を掴んだみらいは、徐々に落ちるスピードが弱まってきたのを感じながら、徐々に地面へと降り立った。どうやら、自分が思っていたよりも地上は近かったようだ。そして、それと同時にフードをきた三人もまた地面に降り立った。乗っている乗り物を見る限り、バイクのようにも見えるが、しかし何故だか魔法の箒のようにも見えなくもなかった。

 

「みらい!大丈夫!?」

「リコ、はーちゃん……うん、大丈夫」

「よかった……」

 

 子供のほうのリコとことはもまた、魔法陣を通って晴人と共にみらいと合流した。当たり前のことだが、二人とも自分の事を大変心配していたようだ。みらいは思う。心配してくれる人間が一人でもいるから、自分はここにいるのだろうと。彼女は改めてそう思った。

 

「何にしても、間に合ってよかったな母さん、芳香姉ちゃん」

「そうね」

「うん!」

 

 降りてきたフードの三人がそう言い合っている。母さん、それに姉ちゃん、という事はこの三人は家族であるのだろうか。リコが聞く。

 

「あなたたちは?」

「俺たちは、29番目のスーパー戦隊……」

 

 三人はそれぞれ羽織っていた黒いフードを勢いよく脱ぐと言う。

 

「魔法戦隊マジレンジャー……俺はマジレッド、小津魁だ」

「私は、マジピンクの小津芳香」

「そしてマジマザーの小津深雪」 

「小津……やっぱりあんたたちは」

「あぁ、魔法家族……家族全員でマジレンジャーだ」

 

 29番目のスーパー戦隊、魔法戦隊マジレンジャー。ゴーカイレッド達の方に救援に現れたマジイエローの仲間、いや家族である。小津魁は末っ子の三男、芳香は長女、そしてそれら兄妹を巣建て上げたのがマジマザーである深雪である。

 

「あとある意味で私もマジマザーね」

「え?お子さんがいるんですか?」

「そう!今幼稚園に通ってるの」

「でも、マジマザーの名前はまだ渡さないわよ。私が現役の内わね」

「と、言うわけでまだマジピンクでやっています」

 

 そう、実は芳香は結婚し、幼稚園ぐらいの子供がいるのだ。そのため、実は小津というのも旧姓ではあるのだが、家族としての絆を大事にしたいとのことで、戦隊活動をするときには小津と名乗っているのだとか。後、魁もまた結婚して子供がいるのではないかという疑惑があるのだが、それはまた別の話。

 

「って!そんなことやってる場合じゃない!」

「え?あっ!そうだ大人の私達が!」

「そっちもそうだが、もっと大変なのは……」

「え?あっ、そういえば……」

 

 みらいは晴人の目線を追いながら思い出す。上空から見た時にうずくまっている女の子がいたことを。改めて地上に降り立ち冷静にその子を見た瞬間、みらいは驚いた。体中にひびが入り、いくつか皮膚が剥がれ落ちて行ってしまっている。だが、血は見えない。なにか紫色の光が見えるだけだ。

 

「なに、どうなってるの?」

「あれは……」

「なのはちゃん!」

「ん?」

「あれ?あの人達って……」

「みらいさん、リコさんそれにことはさん?でも……なんだか小さいような……」

「あなたたちは?」

 

 また新たな登場人物の登壇である。彼女たちの目の前に現れたのはいささか奇妙なグループであった。だが、彼女たちは知る由もない。そのいささか奇妙なグループがいるということが、どのような意味をもたらすのか。彼女達はまだ知らない。その中心にいる、一人だけ見知らぬ少女がどれほどの偉業を持っているのかを。彼女達は知らない。

 そして彼女たちは知らなかった。紅い二つの目だまを持った生物がその様子を見ているという事実など……。




 次回、この魔法関連パートが終わり。そして……。
 実はこの魔法関連パートの次で手こずっているため投稿スピードが落ち気味という感じになっています。というより、国家試験の勉強、卒論、他小説も並行して書いているという状況もあるためだろうか?正直どの小説でも言えますが、首を長くして待ってください。
 余談ですが、診断メーカーのあなたの純白と闇で本名真っ白、前のアカウント名真っ黒。精神年齢本名0歳、前のアカウント名111歳だったが、ここ最近二重人格じゃないかと思い始めている。

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