仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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 今回、私が一番自分のポリシーを義理を通すために無理やり捻じ曲げてでも出したキャラクターが登場します。はっきり言いますが、もう評価が落ちてもおかしくないと思います。でも、それでも義理人情を通すために身を粉にする思いでこの展開を考えましたので、ぜひご覧になってください。


プリキュアの世界chapter54 想像を創造する仮面ライダー

 車から降り立った人間、それは紛れもなく門矢士であった。本物だ。足もある。幽霊じゃない、生きている門矢士がすぐそばに立っていたのだ。

 

「つ、士……」

「一体、何故生きている……」

 

 海東を含めたほぼ全員が彼の姿が見えたことに驚愕する。だが、遠藤のいう事ももっともだ。確かに彼は胸を撃ち抜かれて海に落ちて死んだはずだった。百歩譲って奇跡的に弾が心臓や肺に当たらなかったとしても、その後落ちた海の水温は今のこの時期、氷点下とまでは行かないまでも、かなり寒かったはず。凍死していたとしてもおかしくはない。一体どのような手段を使って彼は助かったというのだろうか。

 

「その前にだ……ありす」

「何でしょう?」

「モニターしていたお前の会社の商品の感想を言ってやるからよく聞いておけ」

「モニター?」

「……はい」

 

 やはりそうだったと、ありすはその言葉に確信した。実はありすは確信していたのだ。門矢士が生きているであろうという事を。だから警察や海上自衛隊の人間に士の捜索を頼んでいた。最も、それは必要のないことだったようだが。

 ところで、モニターしていたものという言葉だが、それは当然あの手錠の事であろうことは分かる。しかし、その感想を今言って一体何になるというのだろうか。周囲にいた者たちは不思議でしょうがなかった。

 

「まず、手錠だが……どんな攻撃にも傷一つつかないというのは称賛に値するものだ。まぁ、腕を切って逃げる狂人がいる可能性も考えるべきだろうがな」

 

 そんな、腕を切ってでも逃げようとする人間などこのようにいるのだろうかという野暮なツッコミはこの際せず、皆はその士の言葉を待つ。

 

「そして、二つ目だ……」

 

 そう言いながら、士はコートのポケットに手を入れた。しかし二つ目とはどういう事だろうか。確か彼に渡した、というよりもモニターしているという事にした商品は手錠だけだったはずとはるかは記憶している。いや、それは間違いだった。もう一つ、彼女は士に渡していたのだ。そう、それは……。

 

「このバッジだが」

「あっ……」

 

 それは、手錠と一緒に渡した『四葉財閥新商品モニター中』と書かれたバッジだ。外で手錠をしたまま歩くというのはさすがに不自然すぎたため、士と海東にはその大きめのバッジをつけるように頼んでいたのだが、確かに言われてみれば士はあの倉庫に行くときにもそのバッジをつけていたような気がする。だが、彼に渡した時にはなかったはずの黒焦げがそのバッジにはついていた。一体、何だというのだろう。

 

「あの黒焦げ……まさか!」

「あぁ、そのまさかだ。これは、お前の銃から放たれた光弾が当たった跡だ」

 

 こういう話を存じていないだろうか。男性用小便器には『的』が描かれており、それを目掛けて男性が排尿するとオシッコ漏れという事態が激減するという話だ。これは、男性の持つ的があることで狙いたくなるという心理を利用した物らしいのだが、今回はそれがこうをそうした。

 士があの倉庫に向かった際、いつも彼が持っているカメラは四葉の本社に置いていった。そのため、彼の服装であるいつもの黒のコートには目立って的になりやすい物はなかった。そのバッジを除いては。つまり、遠藤は無意識的に黒の中に映えているそのバッジを狙ってしまったがために、光弾がバッジに直撃してしまったという事だ。

 しかし、ここで少し疑問がある。確かによく刑事ドラマで胸ポケットに入れていた何かに当たって刑事が助かるという光景を見るが、それは普通の弾が当たったが故のこと。今回の場合は、仮面ライダーの武器の光弾が当たったのだ。その威力は通常の武器とは比較にならないほどに大きい。そのため、バッジに当たったとしてもそれを突き抜けて士の身体を射抜く可能性は十分にある。何故彼は無事であったのだろうか。

 

「そのバッジは……」

 

 その疑問に答えるのは、四葉財閥次期社長筆頭候補であり、手錠とバッジの開発責任者であった四葉ありすである。

 

「士さんと海東さんを繋いでいた手錠と同じ素材を使用しています。ディエンドライバーの銃弾をも跳ね返したあの素材と……今回は、おそらく表面にあった記録用のカメラに当たったようですけれど、それでもその後ろにあったその金属に当たって士さんにはダメージがなかったようです」

「手錠はともかくだ、何故バッジにも同じ素材を使った?」

「はるかさんもおっしゃっていたでしょう?備えあれば患いなしと」

 

 そうあの時、士の事を最後まで捉えていたあの映像は、バッジに付けられていたカメラから通してみた映像であったのだ。実は、ありすが士の生存を信じた理由はそれでもあった。確かにあの倉庫にて、彼は凶弾倒れた。しかし、よくよく思い出してみると、あの時はカメラの映像が切れた後に士が海に落ちる音が聞こえた。ありすはそれにより、銃弾がカメラのついているバッジに直撃した、そのため士はまだ生きているかもしれないといった考えるに至ったのだ。

 

「クッ!だが、状況は同じ、人質がいる以上手を出すことはできまい!」

 

 遠藤止の言う通り、状況が好転したわけじゃないのは士も分かり切っていたことだ。しかし、遠藤止が士しか見えていなかったことはそれもまた好機である一因である。そう、彼は一人でやってきたわけじゃない。この状況を打開できるであろう人間と一緒に来たのだ。

 だがどうするのだろうか。日向みのりはジョーカーに憑依されている状況だ。午前中のような方法はプリキュアではない彼女に使えないだろう。しかも何か行動を起こしたところでクロノスの時間停止能力を使用されれば無駄なことだ。自分達の中に悪霊を何とかできる能力を持った人間がいないことが悔やまれる。しかし、彼は大丈夫だと言った。彼女たちの前で心配するな、俺が何とかすると言ってのけた。この状況で一発逆転する手段を彼は持っているというのだろうか。果たして……。

 

「我が軍門に下れ、ディケイド」

「……いやだと言ったら?」

「無論、日向みのりを殺すだけだ」

「ナンセンスな答えだな」

 

 その時、一つの銃弾がクロノスの横を通って日向みのりの身体を貫いた。その瞬間、みのりの身体はその衝撃によって跳び、元いた場所のやや後ろにひどい音を立てて倒れる。

 

「自分がピンチになったら人質を取ることしか思いつかない。まったくもって想像力も創造力にも欠けた男だ」

「……え?」

「いや、ちょ……みのり!?」

 

 突然の出来事に周りの人間は唖然となった。驚きすぎて驚けなかったというよりも、あまりにも一瞬の出来事すぎて驚く暇さえなかったと言った方がいい。そんな騒然となる現場の中で、なぜか冷静である男は言った。

 

「まぁ安心してくれ。人体に何の害もない銃弾を使っている」

「でも頭になんか銃創みたいのあるじゃない!!」

「それに倒れるとき変な音したで!?」

 

 りん、そしてあかねのツッコミももっともである。明らかに彼女の額には銃で撃ち貫かれた後が残っているし、倒れる時には『グシャッ』という無事では済まないような音まで聞こえた。百歩譲って銃弾が安全なものであると仮定しても、その後の落ちる音を無視することはできない。だが、車内にいた男は、外に出てきて言う。

 

「にしても、面白い物をソウゾウしたものだな」

「はっ?」

「……PC細胞」

「ッ!」

 

 その言葉にマナは驚いた。何故この男はそれを知っているというのだろうか。PC細胞を知っているのは自分を含めた極僅かなはずだ。マナの心に一抹の不安がよぎった。だが、そのわずかな表情の違いに気がついたのだろうか。男は言った。

 

「情報漏洩だとかそんなんじゃない。自分で気がついただけだ」

「え?」

「なんで、あの男が……」

 

 遠藤止は、男の顔を見て驚愕した。どうして彼がこの世界にいるのだろうか。仮面ライダーとも、プリキュアともましてやスーパー戦隊とも関係のないその男が、何故……。

 

「そんな事より、面白いことが始まるぞ」

「面白いこと?」

 

 その時だった。沈黙していたみのりの身体が吊られているかのように浮き始め、神々しい光が発生し、周囲を照らし始めたのだ。太陽のように力強く光り輝くみのりの姿を、姉の咲も仲間達もただ茫然と見ているしかなかった。その時、叫び声が聞こえた。

 

≪こ、これはあの時と同じ!?ちぃ!!≫

 

 その瞬間、光の中から墨汁のように黒い煙が逃げ出すかのように飛び出していった。その瞬間、光は収まり始め、みのりの身体は地面にゆっくりと降りていった。それとほぼ同時だった。

 

「フッ!」

「ハァッ!!」

「海東さんこっち!」

 

 何人もの目がまだ眩んでいる中、人影がみのり、海東大樹目掛けて飛び込んでいったのだ。遠藤止は気配でそれに気がつき、時間を止めようとする。

 

「そうはさせないっての!!」

「ぐあ!!」

 

 しかし、何者かの攻撃を受けた遠藤止の手は、ベルトに触れる直前で止まってしまい、結局時間が停止することはなかった。その隙に、何者かは遠藤止と海東大樹を繋いでいた手錠を外した。

 そして、目のくらみが収まったころ、大人のみらいや、プリキュアの恰好をした子供のはるか、めぐみたちと共にいるみのりと海東大樹の姿がようやく見えた。紛れもなく、自分たちの間近にいるその少女たちが。

 

「うっ……」

「みのり!」

 

 その姿を見た咲、並びにはるかがみのりに駆け寄り脈を取った。その鼓動は正確に血液を送っており、彼女の身体に問題はないという事を知らしめていた。しかし妙である。確かに額を撃ち抜かれたように見えた。弾痕も見えた気がした。しかし、みのりの頭にはそれらしきものは見当たらない。どういう事だろうか。

 それに、確か魔法少女という物になってしまったために変身能力を失ってしまった過去のめぐみたちが何故変身することができたのだろう。一連の動きと時間経過から、恐らくプリキュアの時と同等の力で動いていたのは明らかであるため、コスプレをしているというわけではないことは確かだ。彼女たちが疑問に思っていたその時、みのりに銃弾を撃ち込んだ本人が言った。

 

「ある世界に人に撃っても跡が残らないような弾があるんだ。……まぁ、場合によるが、今回はその弾の効果と、この世界にあるPC細胞の聖なる力を取り込んだいわゆる『PC弾』をクラフトして撃ち込んだのさ」

「PC弾……」

「クラフト?」

 

 高校生だろうか。容姿から年齢を判断するしかないが、しかしそれ以上の年齢にも見える。それにしても何故だろうか。こんなにも妙な気持ちになってしまうのは。別にこの男に変わったところなどはない。いや、そういえば服の下に何か入れ墨のようなものがある。少しだけ服がはだけている場所にしか描かれていないが、一体何なのだろうか。

 

「あっ……」

 

 その時、この感覚に似たものを感じたことのある人間である響が言った。

 

「そうだ……この感覚って……」

「何?」

「……遠藤止に撫でられた時と同じ……」

「え?」

「それって……」

「ニコポとかナデポ……のこと?」

 

 転生者が標準で装備しているという悪しき能力の事である。という事は彼もまたそうなのだろうか。

 

「これはニコポでもナデポでもない」

「え?」

「うん、それにこの人は悪い人じゃないよ」

 

 そう言ったのは大人のみらいである。続けて子供のみらいも言った。

 

「この人が、海に転落した士さんを助けてくれた人なんだって」

「え?」

「それだけじゃなく、私たちに魔法少女のなり方も教えてくれた。それに、分かるでしょ?遠藤止とは違うってことが」

「うん、あの時みたいに吐き気はしない……でもなんだか変な……」

 

 子供のはるかのその言葉に、響は同意した。確かにあの遠藤止に撫でられたときは、あまりの気持ち悪さに吐き気を催した。しかし、確かに似たような感じなのだが、まるで心地のいいような、温室の中にいる植物たちのような気持ちも感じてしまう。何故だろうか。

 

「多分、それはPC細胞がこの大気中に舞っているからだろうな」

「え?」

「君たちは十年前から戦い続けているって聞いたが、恐らく何度も戦うたびにPC細胞という物が体内から放出されて大気中にに充満したんだろうな。だから、外部から他人の心を変化させるような効果が押さえられているんだろう」

「?」

「なるほど、かつてのわたしたちの戦いは今の私達を守り、今を生きている人たちの心を守っている……無駄じゃなかったってことね」

「そう言うことだな」

「??」

 

 この説明に分かっている人間と分かっていない人間がいるようであった。簡単に言えば、機械から発生される水蒸気などによって加湿を行い湿度を上げる加湿器がプリキュア、水蒸気はPC細胞、地球を窓の開けていない部屋であると表現したほうがいいだろうか。

 

「その紋様は一体……」

「これか?これは……」

 

 ほのかは、彼と目線を合していない。そのため、ニコポという物ではないと考えられる。しかし、響と同じ感覚そして他のプリキュアたちと同じ感覚を彼女は感じていた。そのため、おそらくその効果を発している物をその首の下に少しだけ見えているウロコのような紋様であると推測した彼女は、直球で彼にその紋様の事を聞いた。しかし、その説明をする時間は与えられなかった。

 

「どうして……何故お前が現れた!!」

 

 その間にも遠藤止のフラストレーションは溜りに溜まっていたらしく、叫ぶように彼は言った。

 

「仮面ライダーとは、プリキュアとは……ニチアサとは何の関係もないはずのお前が、なんでこの世界にいる!藤井蓮!!」

「ニチアサ?」

「藤井……蓮」

 

 ニチアサという物の意味は分からないが、藤井蓮というのはおそらく彼の名前なのであろう。だが、その言葉を聞いた男はフッと笑い言った。

 

「藤井蓮?……もしかしたらどこかではそうかもしれない、だが……今の俺は違う」

「何?」

「俺は……ここにいるこの姿の僕は……」

 

 男はその手に突如として銃を出現させる。いや、男か?女か?分からない。先ほどまで確かに男と認識していたはずだ。しかし、そんな男に複数の男の影、複数の女の影が集まっているかのように感じ取れる。それにその容姿も変わっていく。少年、成人、老人、複数の姿になっているようにも、そうじゃないようにも見える。周囲にいる人間は、その姿を認識することができなくなってきた。まるで、そんな人間最初からいなかったかのように、霧のように、靄のように、朝露の雫のように、どこかに消えてしまうかのような感覚。手を伸ばせば届くはずの人間、しかしどうあっても届きそうにもないヒト。夢か幻か、幻想か蜃気楼か、その答えを知っている者は誰もいない。彼自身も分かっていない己の事。しかし、今の自身に与えられた役割は知っている。そう、その人間に与えられた役割とは、名前とは……。

 

「神崎朧……ただ自由に世界を旅する男さ……変身!!」

≪KAMENRIDE CLIMB≫

「クライム、だって?」

 

 つぶやいたのは海東だった。今彼が取り出した銃、それは紛れもなくディエンドライバーだった。違う点と言えば、自分のはシアンという青色に近い物だった。しかし彼の取り出したそれは、紛れもなく灰色のまるで何物にも染まってしまうかのような色だった。だが、自分はそんなもの知らない。ショッカーのアジトからディエンドライバーを盗み出した時も、そんなものデータにすら存在しなかった。一体、何なのだこれは、誰なのだこの男は。

 そう、海東大樹が思案しているなか、男は変身を完了させた。その姿は、まさしく灰色の仮面ライダーディエンドその物である。

 

「さぁ……自分の終わりを想像しろ……創造するのは俺の役目だ」




 という事で、今回の切り札として登場したのは、このハーメルンにて小説を投稿している『SOUR』様の≪仮面ライダークライム≫でした。このコラボの経緯については、活動報告、『仮面ライダーディケイド エクストラ最新話について』という物を書きますのでそちらをご覧になってください。
 今回と次の話で何度もメールのやり取りをしての登場シーンの調整を行っていただき、またコラボを持ちかけてくださったSOUR様には本当に感謝しております。今後も、仮面ライダーディケイドエクストラ、他七匠の投稿小説、それから読者の皆様に関してましては、SOUR様の仮面ライダークライムもまた同じようによろしくお願いいたします。

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