ようやく大学の授業の方が一段落ついて、また小説のほうに取り掛かれると思ったのですが、実は授業での疲れが出て心理描写が上手く書けなくなりました。しかし、この小説を楽しみにしている読者をおろそかにすることなんてできない。そのため、文章量をやや減らして投稿することにしました。結果、やや描写が雑になったかなとおもってますが、なんとかこれから調子を取り戻していきたいなと思います。
「転生者?」
遠藤止の語った言葉は、本社にいるプリキュアたちにも届いていた。しかし、その言葉の意味を理解する者は数少なかった。
「なるほど、彼も……」
「ほのかさん?」
それを理解した一人であるほのかが言う。
「皆は、輪廻転生って言葉を知っているかしら?」
「リンネ?」
「テンセイ?」
「死んだら、その魂が巡り巡ってまた現世に降りてきて、生まれ変わるっていう……あれですか?」
「そうよ」
転生は、インドを由来とするものや西洋を由来とするものなどがあるそうだ。人の魂は死んだらどうなるのか、それにはいくつかの説があるがその一つに魂は再び現世に舞い戻りまた別の肉体を得るという物があるのだとか。もちろん、前の自分の記憶、つまり前世の記憶なんてものは完全に消失しているはずなのだ。しかし、とほのかは言う。
「稀に、ごくまれにだけれど前世の記憶を持ったまま生まれ変わる人間もいると聞いたことがあるわ。一九八〇年代のオカルト雑誌には、自分は前世の記憶を持っていると語る手紙や、前世の仲間を探しているという手紙が殺到したり、一九八〇年代には、死の直前まで行けば前世を覗き見ることができると考えて計画的な自殺未遂事件を起こしたり、日本で一時は前世ブームを巻き起こしたそうよ。世界中にもそんな都市伝説のような噂が残っているわ。ピアノを見たこともなかった子供が急に難しい曲を弾いて、自分は前世で音楽家だったと言ったり、自分はこの人に殺されたと、生まれ変わった子供が本当にあった殺人事件の犯人を指名したこともあったらしいわ……そして」
「そして?」
ほのかは一度目をつぶると、意を決したように目を開いて言う。
「今から十年前、つまり私たちがまだプリキュアをしていたころに、転生者が主人公の小説が一時ブームになったのよ。前世で報われない人生を送った人間が、異世界で自分の欲望に任せたままの人生を送って、前世の自分と似てもない外見や特異な能力を得てその世界を蹂躙し、女の子のハーレムを作ったり、自分の気に入らない物を破壊したり、殺戮したり……。己の欲望を満たす為ならば、どれだけ多くの人間に被害が及ぼうとも関係ない。魂が不完全にかつ中途半端に成長したまま別の魂を取り込んだ結果、人間の心や人が守らなければいけない倫理を忘れた愚かで滑稽な怪物。そして願望と、欲望とそして現実逃避の象徴の言葉、それが現代における転生そして転生者という言葉よ」
そこまで聞き、周囲の人間は皆唖然とした。そんな種類の小説があったなんて知らなかった。と、言うのもそれにはれっきとした理由があるのだろう。当時の彼女たちは、仲間に出会い、恋をして、そしてプリキュアとして時に傷つき、倒れたとしても最後には勝利して、そんな順風満帆な人生を送ってきた。そんな少女たちに、願望の寄せ集めであった転生ものの小説など目には入ってこなかったのだろう。転生ものの小説、それに限らず女性たちを搾取するハーレムものの小説という物がブームとなっているのは、それに共感したいから、自分がその主人公になってみたいと考えているからだ。だから、彼女たちのように面白おかしい人生を送ってきた人間には、そんな欲望の塊は響かないのだろう。
「そして、それらの小説では大体が二つのパターンで転生されていたわ。一つが何の説明もなく転生させられるパターン、そしてもう一つが、神様と名乗る人物に転生させられるパターン。でも、恐らく彼は後者よ」
「え?どうしてですか?」
「多分、聞いていれば分かるはずよ……」
「?」
その時のほのかの顔、それはなぎさもひかりもあまり見たことがなかったほどに険しかったそうだ。
一方、倉庫内の遠藤止は、語り始めていた。
「前世の記憶が戻ってきたのは今から二年前の事だった」
「二年前?……そうか、お前が大学に入ったころ」
「なるほど、周りとの接点を絶ったのは心境の変化だったってこと……いや、まるで別人になったと言った方がいい」
「僕の情報を集めていたようだな。流石は財団Y、いや四葉ファウンデーションと呼んだ方がいいかい?」
「なんだそれは?」
どちらも聞いたことがない言葉だ。しかし、話の流れからするとどちらも、彼の事を調査した会社、つまり四葉財閥を指しているという事が分かる。だが、なぜ彼は四葉財閥の事をそんな言葉で呼ぶのか、その場にいた者たちには分からなかった。いや、海東だけはその言葉の意味を半分理解していた。『財団』『ファウンデーション』、このどちらも、ある世界にある言葉、『財団X』と『鴻上ファウンデーション』、それを引用した言葉なのは間違いない。確かに、どちらも大きな組織であり、事件の裏側に潜む組織である。そしてそれは四葉財閥と同じ。もしもそれらと彼が同一視していたとするのならば、そう呼ぶのも分かる。だが、どうして彼はあの世界の事を知っているのか。海東は分からないでいた。
「話を戻そう。前世の俺は極々普通の男でな。まぁ平凡な人生を送って、平凡なブラック企業に入っていたのさ。そんなある日の事……」
その日も、激務に耐えた彼はフラフラになりながら家路を急いでいた。早く帰って寝なければ睡眠時間が取れないからだ。正直言えば、彼は疲れ果てていた。毎日毎日上司からのパワハラ、女性からの冷たい目線、動悸が次々と出世していく中で取り残されていくみじめな自分に耐えながらも、彼は働いていた。明日も、またその次の日も同じことが続くのだろうと、さも当然の事であるかのように思っていた彼にとって、青天の霹靂の事が起こった。横断歩道を渡ろうとしたその時、遠くからトラックが突如現れたのだ。
『え?』
その驚きの言葉が遠藤に聞こえるはずはなかった。遠藤止の前世の人間だった男は逃げ出そうとした。しかし、それは無駄なことだった。連日の夜勤の疲れからか、精神的なものなのか、それとも反射神経が悪くなるほどに年を取ったのか。彼の足は動くことなく、ほどなくしてその身体はトラックへと吸い込まれた。フロントガラスの向こう、無人の運転席。それが、前世の地球における彼が最期にみた光景であった。
それから間もなくの事だった。彼の意識が覚醒したのは、どこか知らない光に包まれた部屋であった。そこで、彼は自称神様と名乗る物から三つの特典と、転生者の標準装備を貰った。
「三つの特典と、標準装備?」
「そう、三つの特典というのは、神から与えられる力の事だ。俺の場合は前にも言ったよな、あらゆる仮面ライダーに変身する能力、仮面ライダーの敵を使役する能力、おっと言い忘れてた。正確には、仮面ライダーとスーパー戦隊の敵を使役する能力だ」
「スーパー戦隊までもか……」
海東はそうつぶやいた。これは厄介だ。ただでさえ仮面ライダーの敵は厄介な怪人たちが多い。それに加えて、スーパー戦隊の敵ともなると、その数は仮面ライダーのそれを簡単に上回ってくる。だが、なんとなくプリキュアと協力すれば全部倒せそうな気もするのは恐ろしい。
「そして、標準装備という物は、転生者が最初から持っている能力。ニコポ、ナデポ、ラッキースケベ……その他、ハーレムを作るのに欠かすことのできない能力……なんだが、何故だかこの世界じゃそれは上手くいかなくてね、使ってもみんな吐き気を催すんだよ」
『吐き気……あっ』
その時、子供のめぐみが思い出した。自分が遠藤に誘拐された時、彼は自分に気持ちの悪い笑顔を向け、頭を撫でてきた。あの時は、虫唾が走るような感覚と共に、確かに吐き気もしたことをはっきりと覚えている。まさか、あれがそうだったというのだろうか。
「全くまいったよ。おかげで、プリキュアの子供たちを誘拐するしかなかった。まぁ、その子たちも彼女達の代わりなのだけれどね」
「彼女達……いつきたちの事か?」
「あぁ……子供の頃の彼女達ならともかく、大人になった彼女達には興味はない」
「なるほど、ロリコンという物か」
「俺の愛は、そんな安っぽい物じゃない。もっと大きく、もっと偉大な物。そうそれこそ、この世界中の愛を集めても足らないほどにな」
いかれている。この男は何を言ったとしても自分の非を認めようとしない。自分自身の考えこそが正しいと考え、それ以外の人間の意志を無視するとんでもない男だ。だが、もしも男が子供時代のプリキュアに好意を抱いていたとするならば二つの疑問が生まれる。
「なら、何故北条響を襲った。お前の考えからすると、大人になった彼女はすでに対象外のはずだ」
「何故?あぁ、彼女は昔っから大人っぽかったからね。大人になっても印象は変わっていなかった」
「たった……たったそれだけの理由で……」
まさに理不尽な理由。たったそれだけの身勝手な理由でこの男に響の人生を壊されたのだ。この時、本社にいる人間は、響の、そしてスイートプリキュア各名の顔を見ることができなかった。どう考えても、怒りのオーラが漂っていたからだ。
「……もう一つ。何故響がプリキュアであったと知っていた……」
「……ッ!そういえば、確かあの頃世間一般に正体が知られていたプリキュアはドキドキプリキュア、プリンセスプリキュア、そしてフレッシュプリキュア……スイートプリキュアの響は知られていなかったはず」
「じゃというのに、こいつは響が元プリキュアっちゅうことを知っとった……」
「しかも、彼が前世の記憶を取り戻したのは二年前……すでにプリキュアは大体が大人になっていたころ……どうしても子供の時の彼女たちを知ることはできなかったはずだ」
この疑問はもっともだ。北条響に好意を抱くためには、彼女がプリキュアであったという事を知っておかなければならない。しかし、彼女達スイートプリキュアは最後まで正体がばれなかったプリキュアチームの一つだ。そんな彼女たちの正体など、どうしたとしても知ることができないはず。だが、彼は知っていた。そして今までの行動から見ても、他のプリキュアの正体も知っていたはず。いったいなぜ彼はプリキュアの正体を知ることができたというのだろうか。
「どうして……どうしてか……フフッ、ハハハハ……ハハハハハハッ!!」
その疑問に対し、遠藤は大きく笑った。まるで、この世界全てをあざけ笑っているかのように、そしてまるで滑稽な生き物でも見たかのように笑いは止まらず。そして、急に笑うのを止めた男は言った。
「何故俺が彼女達プリキュアを知っていたかだって?……そんなの当り前さ……なぜなら、君達プリキュアは……いや、プリキュアだけじゃない。仮面ライダーもスーパー戦隊も、全て……TVの中だけの存在……架空の人物、虚像の物体なんだからな」
「え?」
「何?」
遠藤は、そう言葉を発すると、また笑い出す。それは、まるで壊れたレコードのように、同じ行動しかとれない壊れたロボットのように、止まることはなく。まるで、永遠に動いているかと錯覚するかの如く、笑っていた。言葉の意味を理解しようとする、ヒーローたちを置き去りにして。諸悪の根源はただただ、思考を停止するのであった。
因みに、響が大人っぽかったっというのは、最初に北条響のイラストを見た私の対一印象です。キャラデザインがそれ以前のプリキュアとなんか違ってて、大人っぽく見えたのだろうか。
あと、ほのかのセリフで一時ブームになったという言葉がありますが、これは、転生ものの小説が流行らなかった世界というわけではありません。私の見解から言って、今の転生もの小説が乱立する状態というのは、そう長くは続かないだろうなと思ったからです。多分、来年の今頃には、沈静化しているのではないでしょうか。と思ったからです。