仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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今回の小説の裏テーマは、先生はどうあるべきか、先生とは何なのかというのがある気がします。今回、あの泥棒が推参します。


ネギまの世界2-3

「…」

 

ここは麻帆良から30キロほど離れた病院である。なぜそんなに離れた病院に彼がいるのかというと、突き詰めてしまえば彼を麻帆良からできるだけ離すという策略であろう。先ほど麻帆良からしずなが来て明日本国へ送還する旨を説明された。彼自身わかっていた一般人の前で魔法を使う事がどんな意味を持つのかを…

 

「じゃまするよ」

 

ネギが考え事をしていると、いつの間にか彼の目の前に男性が立っていた。両手をポケットの中に入れて、その顔には笑みが見て取れる。

 

「あなたは?」

「僕は海東大樹。泥棒さ」

「泥棒…ですか」

 

彼は士たち同様様々な世界を渡り歩いており、行く先行く先でその世界のお宝をハントすることが目的である。そのためたまに士と反発したりする。そんな彼は意外に友情を大事にしているのだ。この前も士が自分をだましていたことに腹を立てて、ロボットを使いライダーと戦隊を倒し、その頂点に立とうとしたがライダーと戦隊の間にある絆に倒された。因みにその世界で士と別れる際にディケイドのカードをくすね、なんやかんやがあって仲直りし、士にカードを返却したのだが、その話はまた別の話である。無論今回彼がネギの前に現れたのはあるお宝を盗むためである。

 

「君の持っている、サウザントマスターの杖をいただきたくてね」

 

英雄の杖、これこそがこの世界のお宝である。ネギが6歳のころ故郷で悪魔たちに襲われた際、死んだと思われていたナギが現れ悪魔を蹴散らし、ネギに自分の杖を渡したのだ。

 

「…持っていってください」

「なに?」

「もう僕には必要ありませんから…」

 

彼にとっては意外なことだった。抵抗されるよりも簡単に持ちされるのだったら苦労はしないのだが

 

「なるほどじゃあ頂いていくよ…でも」

「え?」

「やすやすとお宝を手放す事ができるという事は…これ以上のお宝が君にはあるんだね」

「…」

 

そういうと大樹はドアの方に消えていった。彼には到底盗めないであろう。ネギの宝はネギ自身、意識すらしていないものなのだから。

 

「…ネギ」

 

明日菜が見ていたのは、ネギが入院している病院がある方向である。彼女達は日が暮れたために解散しそれぞれ別行動となったのだ。彼女は自分が悔しかった。ネギを助けなかった自分を。自分が動かなかったせいでネギが、いやネギが動かなくとも委員長たちが大けがをしていたはずだ。全部自分に勇気がないから、自分もまた掟を盾に動かなかった、いや動けなかった魔法先生と同じだ。そんな事実はないが今の明日菜にはそう考えるしかなかったのだ。そんな彼女に気づかれないように横から写真を撮るものがいた。

 

「朝の元気な神楽坂はどこ行った」

「士先生…」

 

門矢士であった。彼女には彼がまぶしく見えた。制限がないとはいえ、あんな化け物たちにためらいなく向かっていた彼のことが…。

 

「あいつが…」

「ん?」

「あいつが初めてこの街に来た時、あいつ本屋ちゃんが階段から落ちそうになって、何のためらいもなく魔法を使ったんです」

 

彼女は士にネギがこの街に来た最初の日のことを話した。本屋とは、出席番号27番宮崎のどかのことで、本が好きだからそう呼ばれているそうだ。彼女がどうしてそんなことをしたかは分からないがだが話さなければならない、そう彼女は思った。

 

「…」

「それだけじゃない、あいつはことあるごとに人前で魔法を使ったりして、でもほとんど私利私欲のためじゃないんです。…私達を守るために、みんなのために魔法を使っていたんです。だからあいつ魔法は秘密って言ってたけど、本当はばれてもいいんじゃないかって私…」

「大体わかった」

「え?」

 

話の中で彼が何かを見つけたようだった。何がわかったのか明日菜にはわからなかった。そして士は写真館の方に歩き出しながらこう言った。

 

「心配するな、あいつはここにまた戻ってくる」

「どうして、わかるんですか?」

 

そして立ち止まって振り向きざまこう断言した。

 

「先生だからだ。俺も…あいつも」

「…」

 

彼は彼でわかることがあるようだ。だが明日菜にはいったいどこで納得したのかわからなかった。空は日が落ち暗くなっていた。明日はほぼ終業式だけである。…ネギのいない終業式だけである。

 

夜も更けた頃、麻帆良にただ一軒だけあるバーのカウンターに高畑の姿があった

 

「…」

 

先ほどまで緊急の集会が行われた後にここにやって来た。その集会の内容は主にネギの強制送還のことと、明日の終業式が終わったのちに自分たち魔法先生も本国へ出向かなければいけないことであった。だが彼はそのことに落ち込んでいるのではない。その時バーの扉が開き中年の男性が入って来た。

 

「横、いいでしょうか」

「あぁ新田先生」

 

彼は通称鬼の新田、麻帆良学園内の魔法を知らなかった一般教諭である。

 

「いやぁ、まさか魔法なんてものがあるとは教師生活が長いと不思議なことに巡り合うものです」

 

一般教諭にあの事件の後魔法についてもう隠せないと踏んで何人かには魔法のことを伝えられた。彼もその一人であった。詳しいことは教えてもらえないが端々に伝え聞いた。そんな彼が高畑のその暗い表情を見て何かあるなと長年の直観がさえ、彼がよく来るバーに来たのだった。

 

「…僕は」

「はい?」

「僕は自分を軽蔑するよ」

 

そういうとグラスの中の酒を一気に飲みをした。そして静かに思いのたけを語りだした。

 

「自分の教え子たちが危険な目にあったのに、掟のことが頭から離れなかった。…ネギ君がいなかったら彼女たちは…」

 

思っていた以上に自分は掟に縛られていたものだなと彼は思った。彼は街の不良たちを押さえる際、時には居合拳を使っている。だがそれはめったにないことで通常はそれを使わないまま取り押さえていた。掟のことがあったので、魔法に準ずるものを使う事は彼はしていなかった。しかし彼は今回のことで思っていた以上に自分が掟に縛られていたものだと着く思い知らされた。そしてこんな自分が生徒に教えていたことに腹立たしかった。

 

「…先生は」

「?」

「過ちを子供たちにさせないように教え導いていくのです。教えれることが一つ増えたじゃないですか」

「…確かにそうですね。しかし…」

 

確かに彼の言っていることに一理はあるかもしれないが、もう自分は先生をすることなどできないであろうことは感じていた。そこに新田先生はもう一言。

 

「過ぎたことを悔やんでいてもしょうがないです。今は未来を見ましょう、ネギ君が助けた彼女達の繋いでいく未来を、あなたは魔法使いである前に先生なのだから…」

「…はい」

 

そうだったまだ自分は先生だった。自分にはまだできることがあった。先生をやっていた時間は楽しい物であった。生徒が成績が上がったことを報告してきたときにはまるでその子の親のように喜んだものだ。悩み事を報告してきた生徒と何時間も話して、そして希望を見つけ出した生徒を見たときは、安心して微笑んだものだ。そうだ自分は先生なのだ。ただの先生として今自分が何をすることができるか。あの笑顔のために自分に何ができるのか。彼は決心がついた。そんな彼の目を見て新田は少し微笑んだ。

 


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