土佐弁、ムズイぜよ。
「ガガァア!」
「え?」
その悲鳴を上げたのは、もちろんめぐみではない。見ると、遠藤の右手から血が噴き出していた。何があったというのだろうか。考える間もなく、その腕から力なくソウルジェムが落ちていく。叩きつけられるよりはましではあろうがしかし、壊れる恐れは多分にある。ソウルジェムは二階の通路は避けたものの、しかしそのまま一階のコンクリートの地面に落ちようとしている。マナ、そして士&海東も走り出そうとした。その時だ。
「うおぉぉぉぉ!!!!」
一人の警察官が目の前を横切り、落ちる寸前であったソウルジェムを掴んだ。ビーチフラッグを取るように、また野球のヘッドスライディングのように滑り込んだ彼は、そのまま滑っていき側にあった木箱にぶつかって止まった。
「痛てて……ギリギリセーフ……」
めぐみは、力なく女の子座りでその場に座り込む。よかった、なんとか死なずに済んだようだと。それにしても、先ほどの警官の声には聞き覚えがある。少し低くなっているような気もするがしかし、紛れもなく彼の声に違いない。それを指し示すように彼女が、大人のめぐみが言った。
「誠司!」
「ただいま、めぐみ」
相楽誠司。紛れもなく彼であった。そして、さらにもう一人の警官が彼女たちの後ろから現れた。
「よかった、どうやら間に合ったみたいだね」
「いつき!」
明堂院いつき。かつてキュアサンシャインとして戦っていた少女。かつてボーイッシュとまで言われたその短髪の髪は今や長髪となり、こちらもはるかと同じく大和撫子という言葉が似あうまでの少女となっている。彼女のその手には、まだ煙がその銃口から出ている拳銃が握られている。さきほどの銃撃は彼女だったのだろう。そうだとしたら、なんという精度であることか。
誠司は、立ち上がって体についたホコリをはらいながらめぐみの方に向かい、大人のめぐみにソウルジェムを渡した。
「あとで、ゆっくり話そう……」
「うん……」
そして大人のめぐみが、子供のめぐみの方に駆け寄り、誠司は今も腕を押さえて痛がる遠藤の方に向き直る。
「遠藤止!誘拐並びに殺人未遂の現行犯で逮捕する!!」
「行方不明になっているプリキュアの子たちについても教えてもらいましょうか」
「グゥッ貴様ら……」
遠藤は、傷を追っていない左手でベルトを取り出す。
「まずいぞ!」
「えぇ、また変身されたら……」
士達は先ほどの光景を思い出す。あの時はめぐみを誘拐することを目的としていたようだが、今度は確実に自分たちの命を狙いに来るだろう。だが、ここまで遠いと変身するのを止めることはできない。彼女達にはどうすることもできなかった。
「そんなことはさせんぜよ!!」
その時だ。通路の上に一人の男の姿が現れる。男は、遠藤の手を取ると、足を払い転ばせ、地面に這いつくばらせて、後ろ手にして拘束した。
「は、放せ!!」
「こいつは没収ぜよ」
赤髪の警官は、そう言うとガシャコンバグヴァイザーを取り上げる。マナが、その彼に向かって声をかけた。
「熊本さん!」
「おまんら、久しぶりじゃのう。元気しとったか?」
「熊本?まさかあいつも……」
士は、まさかあの男もプリキュアだというのだろうかと思った。いや、多分そんなことはないだろうが、しかしもしかするとと言うこともある。しかし、そんな彼の言葉にいつきは苦笑しながら言う。
「流石にプリキュアじゃないよ。あの人は熊本。私たちの仕事の同僚だよ」
「でも、三人がどうしてここに?」
「私が呼んだの」
「え?」
めぐみの聞いた声、それは紛れもなく自分の親友の声。先ほどまで喧嘩をしていた彼女の声だった。めぐみは、思わずその名前を言ってしまう。
「ゆうゆう……」
もう、使うことがないだろうと思っていた彼女の愛称を。
「あれが……私?」
「そうよ。初めましてゆうこ。私は大森ゆうこ、めぐみちゃんの親友よ」
「ゆう……ゆう」
めぐみは、今度ははっきりと、自分の意思でその名前をよんだ。こんな自分を、あと少しで彼女を殺しかけた自分を親友と呼んでくれるなんて、うれしかったし、それに……いや、うれしい以上の感情は生まれなかった。何故なら、まだ自分は彼女との友情が続いている。それを知れたのだから。こんなに嬉しいことはなかった。
「めぐみちゃん、落ち着いたら三人で話しましょう……その時、本当の事話すから」
「ゆうゆう……うん……」
その時、確実に彼女たちは昔の自分たちに戻っていたということは、言うまでもない。その時だ。
「クックックッ……」
「何をわらっちょる!!」
取り押さえられた遠藤は、急に笑い出す。気でも狂ったか。いや、最初から狂っていると言ってしまえばそれまでだ。しかし彼は続けて言う。
「これが可笑しくないわけないだろ!!お前らは、いつか後悔する!魔法少女を助けたことを!!ここで死んでおけば!ここで殺しておけばよかったと!!」
「何それ、どういうことよ!!」
「教えてやろう。ソウルジェムは、魂の入れ物であると同時に卵……そこに絶望が溜まればソウルジェムは割れ、そして中から魔女が孵る!」
「魔女?さっきから言ってるけど、それって何なのよ!」
「魔女は魔法少女とは正反対の存在。希望と欲望を手に入れた代償に、絶望によってソウルジェムはグリーフシードへと変換され、魔女という醜い怪物が生まれる!」
「え……」
「そして魔女となった魔法少女は二度と戻ることはなく。ただ絶望をまき散らし、人間を殺し!憎しみと悲しみだけで生きる存在となる!」
「そ……そんな……」
「それじゃ、私たちもいずれ……」
その言葉にめぐみも含めて、彼女と同じような指輪をその手に持つ八人の少女も動揺した。よく見ると、めぐみのソウルジェムがさっきよりも濁っているように薄黒くなっているような印象を受ける。遠藤は続けて言う。
「そうだ、絶望しろ!絶望がソウルジェムを濁らす要因になり、それが極限まで高まったその時、魔法少女は魔女となる!」
「わたくしたちが、魔女に……」
「この世界に濁りを取り除くグリーフシードはない!魔女もいない!この僕が手を下さずとも!いずれあんた達がッ!自分の仲間にも死をもたらす!!」
「まるで、砂漠の使途……いや、砂漠の使途よりも……」
砂漠の使途、こころの大樹を枯らせ、世界を砂漠にするのが目的であった組織である。彼らはすでに、ハートキャッチプリキュアによって壊滅した。その砂漠の使途は、デザトリアンという怪物を使って暴れていたのだが、デザトリアンは元は心の花という人間が一人一人心の中に持っている花が枯れた人間から作られていたのだ。しかし、デザトリアンであっても、人間の心は持っていたし、プリキュアという存在がいたおかげで、何とか助けることができた。しかし、魔女はそれとはまったく違う。心を完全に閉ざし、そして最後には元同胞であった魔法少女の手によって知らず知らずのうちに殺されてしまう。そんな残酷なやり方、プリキュアという光の世界で生きてきた彼女達には理解できなかった。
「そ、そんな……」
「嫌……嫌、嫌ぁ、嫌だよぉ……」
遠藤は思う。思った通りだ。たとえ彼女たちがプリキュアであったとしても、所詮ただの少女。まだ心の出来上がっていない少女たちにこの衝撃の事実は、彼女たちを蝕むことだろう。特に友達という言葉を出されてしまえばもっと絶望する。あぁ、いい眺めだ。絶望する少女の顔は、目が虚ろになり、唇をかみしめ、絶望をその顔に刻んでいるその表情。やはり人間は、死を意識した時が一番人として面白いと彼は思った。その時だ。
「でも……」
いつきは言う。
「絶望するのは、今じゃない……」
今じゃない。今であっていいはずがない。何故なら……。
「彼女たちには友達がいる。たとえ絶望して、ひざまずいても両手を持って一緒に立ち上がってくれる友達がいる!」
「だからその友達が殺すって言ってんだよ!!」
「その時は、その子が自分たちの分まで生きてくれる……自分の生きれなかった時間、生きるはずだった人生、一緒にいるはずだった時間、それを全部一身に背負って生きて、そして言ってくれる!自分は、友達が生きるはずだった人生も背負って生きれてよかったって!」
「ッ!」
いつきの言葉、それは絶望に沈みかけた彼女たちを掬い、そして救い出すのには最も簡単で、心強い言葉だった。そして、子供のめぐみが言う。
「私は……まだ、少しだけ怖い……」
「めぐみ……」
「こんな小さな宝石が私の魂だとか、これが濁ったら魔女になって、死んじゃうとか言われても……ピンとこないし、もしそうだとしたら……ひめたちに迷惑がかかっちゃう……」
「めぐみちゃん……」
「めぐみ……」
「でも、私はまだ絶望したくない!だって、だって……」
めぐみは、少しの時間だけ間を置き、そして言う。
「大人の私と誠司が仲直りするのを見てないから!」
「ん?」
「……は?」
「フフ……」
その突然出た突拍子もないような言葉に海東、士は少しだけ唖然とした表情を浮かべる。何故ここでその言葉が出てくるというのだろう。もっと別の、違う言葉が来るのだろうと思っていた二人は開いた口が塞がらないようだが、しかし、それを聞いたマナ達は口々に笑みをこぼしながら言う。
「そうだね。二人が仲直りするの見ないと、死んでも死にきれないよね」
「えぇ、早くお帰りになって、よりを戻さなければなりませんね、めぐみさま、誠司さま」
「……うん」
「フッ……あぁ」
そして、子供の方のはるかたちも言う。
「うん、私たちも気になることがあるし……」
「未来の自分たちが……何をしているのか」
「そして、幸せに暮らしているのか……」
「だったら、私たちは絶対にくじけたりしない。皆一緒に生きて……」
「そして、過去に帰るの……家族が待っているあの世界に!」
人は、生きる目的があれば絶望しない。人は、信じるものがあれば絶望しない。人は、未来に希望を抱き続ける限り絶望しない。彼女たちの心が折れることはない。生きることをあきらめるわけにはいかない。人生は双六のように波乱万丈なだけではない。だが、時には自分が投げたサイコロ、他人が投げたサイコロによって思いもよらない人生をたどることがある。時にはそれに一喜一憂しながら生きていく。だが、それでも。生きることをあきらめてはいけない。前に進むことを諦めてはいけない、早々に夢をあきらめ、放棄して、誰かをあこがれ続けてはいけない。サイコロを振らなくとも、時間は進む。その流れに乗って、そして生きていく。それしかできないのであれば、笑って生きていくことを選択するだろう。
士は、そんな彼女たちの背中が大きく見えた。これが、自分と同じように戦って時を過ごした者たち。そして、これから生きていく者たち。これが、プリキュア。
「気にくわねぇ……」
「なに?」
「そうやってどんな言葉にも綺麗事で返すお前らが気にくわねぇ!!」
遠藤は、怪我をしていながらも動く右腕で、ポケットからコインを取り出し、そしてそれを半分に割って上空へ放り投げた。瞬間、半分に割られたコインはそれぞれ怪物へと姿を変えた。
「あれって!?」
「あれは、屑ヤミー……オーズの世界の敵だ」
包帯を雑に巻かれたような模様を持ち、ゾンビのように動くその怪物。屑ヤミーはオーズの世界の、いわゆるショッカー戦闘員のような敵だ。セルメダルを半分に割ることによって、一度に二体出現させることができるという効率の良さから、戦闘能力は低いものの、時には大量に出して足止めさせることや、物量作戦に使うことができるのが特徴と言える。
現れた屑ヤミー二体は、遠藤の上にのる熊本を蹴る。一体目の攻撃は防げたものの、二体目の攻撃は、遠藤の腕を取ることを優先させていたために防ぐこともできず、顔に直撃し後ろに跳ばされる。
「くっ……」
「熊本!」
すこし頬が切れたようだが大事には至っていないようだ。熊本は頬から流れる血を拭うと遠藤を睨みつける。
「ベルトは返してもらった。だが、まぁ手負いの状態で戦うのは得策ではないな。お前らの相手はこいつらだ!」
そう言うと、遠藤はさらにセルメダルを数枚折って屑ヤミーを出現させる。
「イーッ!」
また、さらに倉庫の外から壁を突き破って短剣を持った緑色のタイツを着たような集団が大量に出現する。
「あれは?」
「クウガの世界のグロンギの一種、ベ・ジミン・バだね。僕も生で見るのは初めてだ」
グロンギの一種類、ベ集団にほぼ唯一所属しているベ・ジミン・バは、グロンギの中でも最下級に位置する雑魚敵だ。力なき者達とも呼ばれるそれは、クウガの前に現れたことはほぼないに等しく、いつの間にか殲滅されていた者たちだ。
「どうだ驚いたか?俺はな、全部の仮面ライダーの敵を使役する能力を持っているんだよ」
「なに?」
「本当は今ここで殺してやってもいいが、逃げさせてもらう!」
「待つじゃき!」
熊本の生死も聞かず、遠藤は通路から跳び下り、下にいたベ・ジミン・バ数体をクッション代わりに下敷きにし、そのまま外へと逃げていった。
「まずい、追わないと!」
「その前に、こいつらを何とかしないと……」
いつの間にか、あふれるように現れたベ・ジミン・バと屑ヤミーの集団。それを前にして、遠藤を追うことは、物理的に不可能であった。
「仕方ないか……熊本!」
「おうよ、やってやるけんの!!」
「よし、皆……行くよ!」
そのいつきの言葉に大人のマナ、レジーナ、六花、はるか、ひめ、ゆうこ、みらい、そして士、海東、誠司が反応した。子供のめぐみたちは、プリキュアになることはできず、魔法少女という物のなり方も分からないため、戦力外。戦闘は、ひめ、ゆうこ、そしていおなとあゆみに任せ、彼女たちも変身しようとする。
「よし、私たちも……」
「ひめ、あなたたちは私とここで待機して」
「え?」
「今ここを離れたら、変身できない子たちが無防備になってしまう。だから、私たちはここで彼女たちを守りましょう」
「……うん、分かっためぐみ」
ということで、大人のめぐみにプラスして、過去のプリキュア組は魔法少女となってしまった過去のめぐみ達を守ることに専念することになった。と、ここで海東が聞く。
「銃はまずいかい?」
「ここ狭いから……多分危ないかな?」
「なら、僕も変身するのは止めておこう」
「それと、マナとレジーナも戦闘禁止!」
六花は、二人にそう言った。
「え?」
「なんで?」
二人は理由も分からないためそう聞き返す。それに対して六花はため息を付けながら言う。
「さっき、健康診断の結果を病院に送ったのそしたら……数値を見た時にもしかしてって思ったけど、陽性だったわよ」
「陽性……ってことはっ」
「そうよ。だから、急激な運動はだめ!いいわね!!」
「……うん、分かった」
「それじゃ、私たちはめぐみたちを守るわ」
「えぇ、それじゃ」
そう言って六花もまた、戦線に向かう。そんな六花を見ながらマナはうっすらと笑みを浮かべた。それは、今までに見たことのない表情だったと、そう子供のめぐみたちは証言している。
コピー&ペーストワロタ。
あれ?こういう場合でも引用元を乗せたほうがいいのだろうか……。でもこれ自分の……。
ていうか、本当に士達が空気だな。いつも士がやっている説教の役目が全部プリキュア組に持っていかれているからしょうがないとはいえ……。