仮面ライダーディケイド エクストラ   作:牢吏川波実

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プリキュアの世界chapter16 過去と未来と私達

ーぴかりが丘河川敷 00:57 p.m.ー

 

「んで?こいつらがお前たちの過去の姿だってのは本当か?」

「うん、そうみたい。ところで、みんなの名前は覚えたの?」

「あぁ左から、めぐみ、ひめ、ゆうこ、いおな、はるか、みなみ、きらら、トワ、みらい、リコ、ことは、そしてあゆみだろ」

 

 士は、レジーナからの質問にそう答える。

 

「正解よ。よく覚えられたわね」

「まぁ、仮面ライダーも相当数いるから。これぐらい朝飯前さ」

 

 海東はそう答えた。因みに彼らはまだ昼飯を食べていない。それはともかくとして現在過去の少女たちは、それぞれに未来の自分達、または、自分たちのチームメイトと話をしていた。あゆみのみ個人で、未来の本人もいないため、マナが相手をしている。

 まずは、その二人から見て行こう。

 

「それじゃ、未来の私は四葉財閥で?」

「うん、今は海外の支社で働いているんだって」

「そうなんですか……」

 

 坂上あゆみ。キュアエコーとして戦っている少女である。未来では、マナの言う通りある国の四葉財閥系列の会社で仕事をしている。坂上あゆみは、プリキュアの中でも特殊な立ち位置にいる人間だ。と、言うのも彼女はどのプリキュアのチームに所属していない少女なのだ。これには彼女のプリキュアとしての成り立ちに理由がある。

 彼女はプリキュアになるまで、目立った特徴がなく、それほど変わった趣味なんて持たない普通の少女だった。それが変わったのは、ある友達との出会いだった。友達の名前はフーちゃん。見た感じ動物の形すらもしていなかった謎の生物は、自分に乗った葉っぱ一枚を除けるのにも苦労するほど小さく、そして弱い生き物だった。そんなフーちゃんを歩みが拾った。そこから、彼女の人生は大きく変わっていった。謎の生物、フーちゃんとの毎日、それは楽しいものであった。色々なところに行って、色々な遊びをして、フーちゃんの正体も知らずに、ただ楽しいひと時を過ごしていた。

 フーちゃんの正体、それはフュージョンという生命体のかけらだったのだ。フュージョンは、今まで二回横浜に現れた悪意の塊である。生きとし生けるすべての生き物の個性や違いを下らないと断言し、全てを自らに取り込もうとした怪物。それは一度は、当時のプリキュアメンバーによって倒され、解決した。しかしそれから数か月後、またフュージョンが横浜に現れ、そしてまたプリキュアに倒された。しかし、フュージョンはそれで消滅することはなかった。倒されたフュージョンは、小さな欠片へと姿を変え、あゆみはフーという鳴き声を発するそれを、フーチャンと名付け、仲良くなった。だが、仲良くなったが故の事件が起こる。あゆみを怖がらせ、悲しませるものを片っ端から消していき、対には横浜の街自体を『リセット』しようと暴走したのだ。そんなフーちゃんを助けるため、あゆみはプリキュアたちの力を借り、そしてフーちゃんを思う気持ちが、彼女をプリキュアにした。結果として横浜は救われたもののフーちゃんも消滅してしまった。しかし、彼女はその後もプリキュアとして、事件を通して知り合ったプリキュアの友達と一緒に戦ってきた。時には諸事情で大きな集まりに不参加になることもあったが、それでも彼女がプリキュアであることは変わらない。

 

「あゆみちゃん、何があったの?」

「私にもわからないんです……ただ……」

「ただ?」

「彼女たちを、助けてって聞こえてきて……私、それに答えたて、光に包まれて気がついたら……」

「誰の声だったの?」

「分からないです。ただ、女の人の声だったのは確か……です」

「そう……」

 

 あゆみの聞いた声、それは一体誰の声だったのだろうか。あゆみは思い出す。しかし、思い出そうとしてもなんだか、ぼやけてしまっているように、頭に靄がかかってしまったようにぼんやりにしか思い出すことができない。ただ、優しい声だったということは覚えている。

 マナは考える。おそらく、彼女の話を聞く限り時間軸としたらあの魔法使いプリキュアの面々と出会ったあの花見のすぐ後だろう。だが、あゆみ自身から未来に行ったことがあるといったような話は聞いたことがない。他の面々も同じく。ただ、黙っていただけなのか、それとも過去に戻った時に記憶が失われたのか。どちらにしても今の子の事たちは守らなければならない。ほのかの推測によると彼女たちは自分たちと違ってプリキュアに変身していない時は普通の女の子だ。ならば、未来のあゆみたちを守るためにも、過去のこの子たちを守るためにも、自分たちが支えなければならない。

 

「あの……」

「え?」

「みゆきちゃんや、響ちゃんたちはどうしているんですか?」

「あぁ、そっか……あゆみちゃん、二人と特に仲良かったものね」

「はい……」

 

 そう。実はあゆみがフーちゃんの一件の際に初めて出会ったプリキュアがみゆきと響の二人だった。そして、フーちゃんを助けるのにも彼女達を中心としたスマイルプリキュアとスイートプリキュアのメンバーが手を貸して、それ以来プリキュアの中でも特にみゆきと響と仲が良かったのだ。マナはその言葉にどうしようかと悩みだす。過去の出来事を教えていいものか。もしも、自分の考えの一つ。彼女たちは過去に戻った時に未来の記憶を忘れているとしたらいいのだが、もし違ったら未来を変えてしまう要因になる。果たしてどうした者か、とマナは考えていた。

 

「マナさん?」

「あっ、ごめん……実は、未来の事を教えて、それが過去に影響を与えたらどうしようって思って……」

「……二人は、そんな悪い状況なんですか?」

「いや、みゆきちゃんはそんなことは……」

「みゆきちゃん……『は』?」

「うっ……えっと……」

 

 マナは、自分のうっかりミスを悔いる。悪い状況であるか、そうでないかと言われればみゆきはまだ絵本作家として大成はしていないものの、日向咲の店でやよいやラブ、それと舞などと一緒にバイトをしていて楽しく過ごしているのは間違いない。しかし、問題は響の方だ。士やほのかから響は今日本にいるということは確認しているものの、それまで数年間所在不明で、ピアニストの夢をかなえているかどうかも分からない。それどころか今彼女は親友の奏と喧嘩して、仲直りはするだろうが、それがいつ頃になるのかもはっきりしていない。このことをすべて伝えるべきなのだろうか。あゆみだったら、口軽く話したりはしないだろうがしかし、それは逆にあゆみの心に負担をかける結果になりかねない。どうしようか……。決めた。マナは、一つ溜息をつくと言う。

 

「分かった。あなたに全部話す。でも、その前にあなたに一つ伝える」

「はい……」

「確かに二人にはいろいろあったし、思ったように仕事をしているとは言えないけれど、それでも元気だよ」

「……はい」

「それじゃ、まずみゆきちゃんから。みゆきちゃんはね……」

 

 そして、あゆみはマナからの話をしばらく聞く。それは、驚くこともあったり、感心したりもしたが、マナの言う通りみんな元気そうで安心することのできる話であった。

 

「それじゃ、トワやカナタと離れてから全く会えてないんだ……」

「そうですわ。残念ですけれど……でも、きっと二人とも元気にしていると思います」

 

 一方、はるか達プリンセスプリキュアも自分達の未来について聞いていた。未来のはるかによると、二人がホープキングダムに帰り、こちらの世界との行き来ができなくなった後、再開することもなく十年という時が経ってしまったらしい。それ自体は過去のはるかたちも覚悟していたことであるし、それにはるか(未来)の言う通り、きっと元気でやっているはずなのだ。そう確信する。何故かと言うと……。

 

「えぇ、きっとそうですわね」

 

 そのトワ自身がここにいるのだから。過去のであるが。

 

「でも、どうしてトワがここにいるの?」

「そうよ。ホープキングダムに帰って、キーも全部返したっていうのに……」

 

 彼女たちの言っているキーというのは、彼女たちの変身アイテムの一つであるドレスアップキーのことだ。

 かつて、この世界とホープキングダムは、キーの力で存在していた扉で繋がっていた。しかし、最後の戦いが終わった直後、ドレスアップキーを始めとした変身アイテムがすべてその役目を終えて眠りについた。結果、扉は消えてしまい、それに伴ってホープキングダム出身のトワや妖精、そしてプリキュアとしての自分達との永遠ともいえる別れを意味していた。

 そして、ついに彼女たちは再びの再会を誓って、離ればなれになりそれぞれの夢を目指して歩き始めた。というのはつい3、4日前の事だったか。まさかこんなに早く再会できるとは思わなかった。

 

「ということは、あなたたちはわたくしたちと同じようにプリキュアになることができないのですね」

「うん、そういうこと。……ところで、一つよろしいでしょうか?」

「よくってよ」

 

 はるかは、ついつい未来の自分に対して敬語で話してしまいながら言う。

 

「私は……どうしてそんなしゃべり方になったんですか?」

「確かに、はるはるがこんな感じになるなんて、頭でも打ったとしか……」

「いえ、もしかしたらなにか変な薬でも飲まされたのかも……」

「わかりませんわ。就職できなくて自分を見失ってしまったのかも」

「トワちゃん?」

「冗談ですわ」

「いい質問ですこと……一つ言っておきますが、わたくしは頭をお打ちになったわけでも、お薬を飲まされたわけでもありません。ご就職も四葉財閥経営の病院に自力で就職しました」

「へぇ……」

「そうですね……お教えします。あれは私がまだ学生であったころ……」

 

 それは、大学の頃の事であった。当時彼女は獣医を目指すみなみや、モデルとして海外で頑張るきらら、そしてある一人のはるかの友達とも離れて一人でとある大学に通っていた。一人っきりでの学生生活というのは、少しだけ辛かったが、彼女達と会えないわけじゃなかったので、月に何回か会って話をすることができた。しかし、彼女はあることで悩んでいた。それが、自分の夢。はるかの夢である自分だけのプリンセス。それが何なのだろうかと悩み、模索して、そのまま高校生活が終わって大学生活が始まってしまったと言っても過言ではなかった。そんなこんなで、平凡な日常を謳歌していた彼女はある日、大学のゼミでとある女性に出会った。その女性は、昔の言葉について研究を重ねていて、それに関する本を出版するような人だった。女性は自分に興味があるようだった。が、それに関しては若干飽き飽きしていた。彼女、春野はるかがプリキュアだということは、風の噂によって、知る人ぞ知る存在になっていたからだ。

 因みに、現在の所一般人に正体が認知されているプリキュアはかなり少ない。いや、個人個人ということを鑑みれば、ハピネスチャージプリキュアが、当時今のめぐみの夫の相良誠司に速攻で見破られたり、マスコミの増子美代にばらしたりしているぐらい。余談だが、その増子美代は現在レポーターとなった親戚と一緒に四葉テレビで10年目に突入する番組で現在も頑張っていたりする。ともかく話を戻すが、かなり多くの人間に正体がばれているのは、フレッシュプリキュア、ドキドキプリキュア、そしてプリンセスプリキュアの三組だ。のだが、その中でも特にドキドキプリキュアのメンバーの印象が強すぎて他がかすんでいたりする。フレッシュプリキュアと、プリンセスプリキュアが隣人や同級生等にばれたのに対して、ドキドキプリキュアに至っては世界中に知られた。しかも知られた経緯が驚くべきことで、生中継されているカメラの目の前でキュアハートの恰好をした相田マナが。

 

『大貝第二中学生徒会長!相田マナよ!!』

 

 とばらしたのだ。最終決戦の場で、カメラがあることは分からなかったのではないか、と言うまでは擁護できるが、大声で自分で正体をばらし、そして結果としてそれが世界中の人間に勇気を与えたことから考えると、英断に思える。

 ともかくだ。ドキドキプリキュアが特に正体ばれが濃すぎたために、局地的にばれたほかのメンバーが薄く感じられ、それほど騒がれなかった。とはいえ、知っている人は知っているので、サインを求められたり、あこがれの対象にされたりと、正直特別扱いは疲れ果ててしまったのだ。ただ、その特別扱いを上手く使って、親の七光りから脱出した天ノ川きららという存在もいるのだが、一般人であるはるかには関係ない話だ。そういえばあの当時、先輩でバラドルの女の子もなぜか奮起して、今やバラエティの女王なんて言われている人もいたような気もするが、それもまた関係ない話。だから、はるかはその講師から声を賭けられてきたときも、なんとも思うことはなかった。ただ、話をしていくうちで、その先生の人柄を知って、その丁寧な言葉遣いにあこがれたというのは確かだ。その先生ははるかに言った。

 昔と違って、今は女性が男性と同じくらい社会進出している。それでも、『女は女らしく家にいろ』と考えている頭の固い人たちはたくさんいる。女らしくなんて、誰がどう決めたものなのかもわからないというのに、そんなのに従うなんてそれこそ、女として許せない。だからこそ、女としての自分を磨いて、そして社会で活躍して見返してやりたい。

 はるかは、毎日のようにその先生と議論を交わした。だからと言って、お嬢様言葉に固執するのは、それこそラジオタイプ(ステレオタイプといいたい)というもので、間違っているのではないか、と。先生は言う。確かにそうかもしれないけれど、でも人間は初めにあった人の、主に表面でしか判断しないから、まず女性らしく取り繕うことから始めたほうが相手を感心させられるし、丁寧な言葉遣いが時に威圧感を与える事にもなるから、社会的に考えれば必要なことだと思う、と。

 そして、その付き合いは、はるかが三回生になるまで続いた。この頃になるとはるかも今のようにお嬢様言葉を身に付けてきて、それと同時に仕草やファッションも段々と変わっていき、まさにプリンセスと言ってもおかしくないほどに変化していった。だが、彼女と先生との付き合いは、それまでだった。ある日の事、二人が買い物に出かけた時、事故が起こった。突然どこからともなくトラックが出現し、横断歩道を歩いていたはるかに向かって、まるで狙いすましたかのように一直線に向かってきた。もちろん、横断歩道は青色を示していたというのに。はるかは急いで逃げないと行けなかったがしかし、足が動かなかった。恐怖だったのか、金縛りだったのか、今となってはよくわからないが、プリキュアとして戦っていたとき以上のピンチが訪れたのだ。もうだめだ。はるかは覚悟を決めて目をつぶった。そして、衝撃が彼女を襲った。

 しかし、その衝撃はトラックの方からではなく、真横からだった。はるかは、地面に接触するような感覚を感じて、目を開けた。するとそこには、血だらけになった先生の姿があった。トラックはすでに影も形もなくなっていた。はるかはすぐに救急車を呼んで救命処置をとった。だが、先生は正直見るも無残な姿になっていて、看護学生でまだ実習に出たばかりであった彼女にはどうすることもできなかった。はるかは、大きく開いた傷口を押さえて、血が出ないようにと祈るしかなかった。だが、血は止まらない。その内、脈はどんどんと弱くなった。はるかは、無我夢中で先生の名前を呼んだ。だが、当然無駄なことだった。先生は、自分に応える気力もなくしていた。はるかは、泣くしかなかった。過去に、自分はプリキュアとしてたくさんの人達を救ってきた。それなのに、自分は、目の前にいる大切な人一人を救うことができないなんて、彼女は自分の無力さを恨んだ。だが、そんな彼女を救ったのも先生だった。先生は、最後の力を振り絞って言った。

 

『無理をしたら……だめよ。今は泣きなさい。泣いて……泣き終えたら……立ち、上がって……女性になって……』

 

 そして、先生は亡くなった。先生を轢いたトラックはまだ見つかっておらず、犯人も捕まっていない。恨んでいないと言えば嘘になる。だが、いつまでもねちねちと恨み続けるのは淑女の、プリンセスのすることではない。はるかは先生のお嬢様言葉について記している本や、先生が日常でメモ帳にしていた手帳を形見に、それからお嬢様言葉の勉強も、看護師としての勉強もした。

 そして、何気なしに出たコンテストで優勝。決め手は、そのプリンセスのような礼儀正しさと気品、そして言葉遣い。先生の残してくれたものが、彼女を女性としてレベルアップさせ、淑女としての彼女を作り上げ、そしてはるかは今のはるかとなった。

 

「そんなことが……」

「今でも、先生はわたくしの心の中に生きていますわ。時には失敗することもあります。それでも、わたくしは今の自分が好きですわ」

「そうなんですか……」

「とはいえ、先生が無理をするなとおっしゃるので、時たまゲームセンターに行ったりカラオケに行ったりして、言葉遣いを昔に戻してはっちゃけたりしてますの」

「へ、へぇ~……」

「でも、そのほうがはるはるらしい」

「そうですわね」

 

 ちなみに最後のセリフはトワの言葉である。確かに、先生との別れは辛かったが、その別れが今の自分を自分にした。それは、紛れもない事実であった。過去のはるかは言う。

 

「その先生、私も会えるのかな……」

「さぁ、分かりません。未来は変わるかもしれませんから」

「でも、うん……私も頑張ってみる。今のあなたのように……」

「えぇ……」

 

 この出会いが、過去のはるかたちにどのような影響を与えるのかはまだわからない。しかし、これだけは言える。彼女たちの世界とこの世界は、平行世界なのだろうと。彼女たちはまだ気がついていないが、その指についている者が何よりの証拠であった。


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