本当は今頃資料が集まっていたはずなのに、資料集めるために彼女たちをこの世界に呼んだのに、これじゃ本末転倒である。
結果ファントムというのを出すことができず……あれ?これってかなりヤバイんじゃ。
ーぴかりが丘 河川敷前 00:43 p.m.ー
『私……ゆうこだったら、ゆうこと誠司が不倫しててもいいかもって思った』
いいってなにが?そんなの、ダメに決まっている。
『だって、二人とも、私の友達だし……』
だから何だって言う。何を妥協しようとしている。彼は公僕じゃないか。そんなの、ダメに決まっている。
『めぐみちゃん……そんなの、』
ダメに……決まっているのに……待ってるのに、疲れちゃったの?自分でも、分かっていたのに、ついカッとなって、自分はその手に台所から落ちた包丁を拾い上げて、もしもひめたちが来るのが遅かったら、いなかったら今頃自分は彼女の事を刺していた。それから、冷静になってから、多分自殺していただろうと思う。そして、誠司に迷惑をかけていたことだろう。
あれは、今から2年前のクリスマスイブの日、彼からプロポーズを受けた。幼馴染で、そしてあの戦いでも必死になって彼の事を愛して、選んで、勝ち取ったのだから、それは必然だったに過ぎない。大学に入ったあたりから花嫁修業もして、料理も上手にできるようになって、毎日の弁当も自分で作れるようになった。彼からは、自分の好きなことをやったらどうかと言われたけど、でも自分は、誠司の近くにいるだけで十分だった。
専業主婦というのも悪くはないし、おおもりご飯でパートもして、順風満帆だったのは確かだ。ここ一か月は病院に通ったりして休んではいたが、それでも楽しい毎日だった。
だが、それが変わったのは一週間前だ。あの日、朝早くに彼が出勤した。その時いつも自分が作っていたお弁当がテーブルの上にあることに気がついて、それで自分は大急ぎで、彼に届けに行った。でも、彼はいつもの駅にはいる様子はなく、ホームをいくら探しても見つけられなかった。どうしたのだろうと思っていた自分は、ふとおおもりご飯をこっそりと、勝手口から忍び込んでキッチンを覗いた。今となってはどうしてそんなことをしたのかよくわからないが、もしかしたら虫の知らせでも感じていたのかもしれない。ともかく、彼女が見た物それは、仲睦まじい様子で弁当のおかずを作っている誠司と、その誠司と至近距離で、時に手を取りながら料理をしているゆうこの姿だった。頭を釘バッドで殴られたような鈍い感覚が彼女を襲い、冷や汗が流れているのだろう水滴が下に落ちていった。倒れそうだったがしかし、ここで倒れたら見つかってしまうだろう。彼女は、自分で自分の身体を支えるように家に帰った。道順はよく覚えていない。気がついたらベッドの中で泣いていた。
まだそうと決まったわけじゃないはずなのに、それなのに無性に泣きたくて、枕に顔をうずめてその声が外に漏れないようにして半日は泣いていただろう。そして彼は、いつも通りの時間に何事もなかったかのように帰ってきた。自分もまた、その時の事なんて知らないという風にふるまって、
『おかえりなさい。お弁当忘れたけどどうしたの?』
と聞くと彼は……。
『あぁ、コンビニでおにぎり買って食べた』
と答えた。嘘だ。きっとおおもりご飯で食べたのだ。そして、晩御飯もほとんど残していた。そのことについて聞くと。
『仕事上のストレスとかがあって喉に食べ物が通って行かない』
と言われた。嘘だ、今までちゃんと食べれてたじゃないか。なのに、どうして今更ストレスだどうのというのだ。きっと、晩御飯もおおもりご飯で食べてきたのだろう。あそこの食事量は常人では考えられないほどあるから、彼だったらニ、三回はおかわりできることだろう。わざわざ仕事を休んでまでおおもりご飯に行くなんて、考えられない。
もしかしたら、なにも大丈夫なことなんてないが一日限りの関係だったのかもしれない。そう思って、彼女は次の日の朝彼の後を追った。結局本当に仕事に出ていった。ただ、それだけなのになんだかうれしかった。だが、そういえばその数日前からよるに帰るのが遅くなっていることを思い出し、もしかするとそう言うことなのかもしれない、そう思っておおもりご飯を夜も見張った。
いつもこの時間に帰ってくるはずだ。彼女は、祈った。お願いだから立ち寄らないで。やっぱり思い違いで、帰ったら『どこ行ってたの?晩御飯は?』というようなことを言って貰いたい。そんな淡い期待があった。だが、その時、彼女の目に飛び込んできたのは……。おおもりご飯の勝手口がある裏道に入って行く彼と、それから彼を出迎える女の姿だった。違う、ゆうこの姿だ。ゆうこ、ゆうこ、ゆうこの、姿だ。友達の姿だ。違う、違う。断じて、違う。そんなこと思いたくない。友達を、女だなんて、雌猫だなんて、少しでも思っちゃうなんて……。
「こんなの、嫌だよぉ……」
めぐみは、腹を押さえながら蹲る。そんな彼女を見ている男の姿が……。
崖の上、一人立つめぐみ。
「……」
「待つんだめぐみ!」
そこに王子様の恰好をした誠司が現れる。
「誠司……」
「俺が悪かった!だから馬鹿な真似はよせ!!」
だが、めぐみはさらに歩を進めて靴を並べる。
「御免なさい。私はあなたを信じられなくなっちゃった……」
「めぐみ!!
「さようなら、ゆうことお幸せに……」
「めぐみぃぃぃ!!!!」
そして、がけ下に消えていくめぐみ。残ったのは膝をついて泣き叫ぶ誠司と、それを慰めるゆうこだけ。そして……。
「すまない、お前を一人になんてしない」
「私も……めぐみちゃんにちゃんと謝らないと、それでまた昔みたいに……」
残ったのは、悲しみの涙にぬれる三組の靴だけであった……。
「ってなことになっちゃうよまずいよ!!」
「なんだ?この辺りにはそんな崖があるのか?」
「いや、ないはずだよ?」
と、崖の上の件から始まったひめの妄想は終わった。というか、何故誠司が王子様の恰好をしていたのかが完全に謎である。ひめには、いわゆる妄想癖という物があるのだが、これは流石に飛躍しすぎだ。
「そんなことになったら、あたしも死ぬから!!」
「日本が他国から非難されるからやめなさい」
ともかく、現在士達はめぐみの姿を探して町中を走り回っていた。学校、めぐみの実家や家、色々探し回って、そして河川敷にある橋まで来る。そこには……。
「いた!」
そこには、めぐみの姿。橋の上からぼんやりと橋の下を見つめているようだ。ひめは、それを見た瞬間に思った。まさか、崖がこの近くにないからここから川に飛び込むつもりなのではないかと。
「めぐみ!早まっちゃダメ!!」
ひめはめぐみのもとに遠くから飛び込んだ。めぐみは、ひめの姿も見ずに急にしゃがみこんだ。
「えッ」
そのため、当然のことながらひめは空ぶり、めぐみの上空を跳んでいく。
「ぐあっ!」
ひめは、思いっきりの強さで橋の欄干から落ちそうになる。それはともかくだ。
「見つけたよ、めぐみ」
「みんな……」
めぐみは、彼女たちの顔を見ると目をこすって涙を拭う。まず、みらいが聞く……前に。
「ねぇみんな助けて!!このままじゃ落ちちゃう!!ヘルプミー!!」
悲鳴を上げているひめを救出してから、改めて話し始める。
「ねぇ、何があったか話してもらえない?」
「……」
そして、めぐみは大体自分の知る限りのことを喋った。誠司が不倫しているかもしれない。それをゆうこに聞きに行ったということ、それら全てを彼女たちにしゃべった。
「そう、そんなことがあったのですか……」
「私、もう少しでとり返しのつかないことをしそうだった……もう、どうすればいいのか分からない……」
「そっか、辛いよね……」
「ひめ……」
ひめは、めぐみの手を取ってそう言った。慰めの言葉でしかないものの、しかしそう言葉をかけなければ、めぐみの心が浮かび上がらないと思ったからか。
「でもさ、勘違いかもしれないでしょ。もしかしたら……お弁当の作り方を教わっていたのかもしれないし」
「お弁当は、私が毎日作る物だからそれはないよ。それに、ゆうこは何も言ってくれないし……」
「ゆうこ……か」
ひめは、さきほどの弁当屋にいた少女の名前をつぶやいた。その名前にいったい何があるというのだろうか。
「ねぇ、めぐみ……昔のように戻ってみない?」
「え?」
「昔のように、ゆうこをゆうゆうって呼んでいた時にだよ」
士と海東は、彼女たちの会話を聞きながらマナから解説を受ける。めぐみとゆうこ、そしてめぐみの旦那の誠司は幼馴染で、十年前のプリキュアをしていたときは、最初にめぐみたちがプリキュアだと知った者なのだとか。そして、その時にはめぐみは、ゆうこのことをゆうゆうという愛称で呼んでいたのだとか。だが、大人になり何となくだがめぐみはゆうこ、と名前で呼ぶようになったのだとか。何故なのかはマナにも、めぐみ自身も分かっていないが、ただそうなったのだ。それもいいかもしれない。ここにはみらいもいることだし、魔法で子供に戻ってみてもいいかもしれない。だが、彼女にはそれができない理由があった。
「昔のように……か。ごめんひめ、私は戻ることができないの」
「え?」
「実は、ひめにも黙っていたけど私……」
その時だ。空高くから声が聞こえてきたのは。
「え?」
「もしや……」
「あれって、まさか……」
『離れたくない』
『嫌だ。もっとみんなと一緒にいたい』
『まだ、していない事、やりたいこともたくさんあるのに』
『みんなといろんなところに行って、みんなと一緒にたくさん遊んで』
『お母さんと一緒に色々なところに行って、お母さんに大きくなって相談事もしたいのに』
『お願い』
『お願い』
『お願い』
『『『別れたくない!』』』
『それが……』
『え?あなたは……』
『え?なに、これ……私が……』
『私が助ける。助けないと。皆を、助けないと』
『だって、私は……』
『プリキュアだから』
彼女たちが気がついた場所、それは空高くの雲の上だった。突然の状況変化に、彼女たちは驚き、中には久々に出会った者もいるはずなのだがしかし、再開の喜びを分かち合うこともなく自由落下で落ちていく。
「きゃぁぁぁ!!!」
「どこここ!?」
「何故、こんな事になっているのでしょう……?」
「モフ!楽しいモフ!」
「うん!ワクワクもんだぁ!!」
「はー!」
「ちょっと!楽しんでいる場合じゃないでしょ!みらい、はーちゃん、魔法で何とかするわよ!!」
「うん……ってあれ?魔法の杖は?」
「え、無いの?……あっ、私のもない!?」
「はー、私の杖も無くなってる」
まさに頼みの綱が途切れた。
「えっと……と、言うことはどうなるの?」
「このまま落下していくしかないってことね」
「えぇ!?」
「短い人生だったわね……」
「勝手に諦めないでよ!!」
「でも、どうにもすることはできませんわ!!」
「なんとか助かりますように!!」
もはや絶望的な状況になってしまい、神頼みするしかなくなってしまった。というよりも、ここまでの距離を自由落下しているため、かなりの速さになっているはずなのだ。そのため、普通の人間ならば、気絶してもおかしくないはずなのだ。だが、彼女たちは気絶しなかった。そのため、恐怖という物もひとしおに、地面がすぐそばにまで迫っていた。もうだめだ。彼女たちは目をつぶった。そして……。
「キュアップ・ラパパ!浮きなさい!」
その声が彼女たちに届いた瞬間、浮遊感が体を襲う。瞬間、目を開いた彼女達は、自分たちのまじかに迫っていた地面を見る。僅か数センチだろうか。あともう少しで自分たちは今頃ペチャンコになっていたことだろう。それにしても先ほどの声は確か……。リコは、声の主に向かって言う。
「ちょっとみらい!杖あるじゃない!!」
「え?ううん私じゃないよ?」
「え?」
そう言う彼女の手には確かに杖は握られていなかった。それを直す時間も意味もないため、たぶん彼女が魔法を使ったということはないだろう。では、先ほどの声は一体何だったのだろうか。その時、魔法が解けてゆっくりと地面に降りた彼女たちに、声をかける者がいた。
「大丈夫!?」
「この声……」
たしかに、みらいの声だ。みらい自身も驚いている。そして声をのした方向を見る。そこにいたのは……。
「み、みらい!?」
「私!?」
「はー、でも……なんか違う気が……」
「モフ!大人のみらいモフ!」
そこにいたのは、モフルンの言った通り、みらいをそのまま大人にしたような人物だ。その後ろからまた何人か女性が走ってくる。その中には……。
「もしかして……」
「うわっ!めぐみと私そっくりな人!?なんで?」
「はるかそっくり……だけど」
「うん。はるかじゃない。はるかよりも気品があふれているわね」
「二人ともひどい!」
めぐみやひめにそっくりな女性と、はるかと顔だけが似ている女性がそこにはいた。他にも何人か見覚えのある顔がある。手錠で繋がれている男二人は知らないが。
「うわぁ、小さい……こんな時もあったんだ私って」
「うん、これだよ。これがはるかだよ~」
「え?と、え?」
ひめ(大人)は、その場にいた小さなはるか(子供)に抱き着いた。なんだか泣いているように見える。
「ねぇはるか!大人のはるかを何とかして!!」
「え?大人のって……え?それじゃやっぱり……」
はるか(子供)は、はるか(大人)を見る。確かに、自分で言うのもしゃくだが、気品にあふれている女性だ。髪は今の自分よりも少し伸びたくらい。化粧もしていて、醸し出されているそのオーラは、まさにプリンセスといった風に感じる。まさか、この女性が、でもそこにいたのは確かに自分が憧れて、目指しているような女性だ。女性は自分たちの姿を見ながら
「過去の……わたくしたち?」
「それじゃ、本当にあなたたちは……」
「未来の私達!?」
「えぇ……」
そこにいる全員が唖然となってしまう。いったいどうして、何故彼女たちが、もはや分からなかった。そのなか、未来のはるかが微笑んで、スカートの裾を持ち上げて言う。
「ごきげんよう。過去のわたくしたち」
「え?ご、ごきげんようでございますわ」
「だ、だめだわ……このはるかがこうなるなんて思い浮かばない……」
「頭が痛くなってきたわ……」
「ふ、二人とも本当にさっきからひどいよ」
頭を抱えるきららとみなみの二人。そんな彼女たちの指には、四人を除いて指輪がキラメキを放ってはまっていた。
また後付けで一人にとんでもない設定付けちまった(他も同じような物だろ)。
実は、今回の一連の話のなかでとんでもないネタバレをする予定です。ご期待ください。