この素晴らしい世界でイチャイチャを!   作:部屋長

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今回から2巻の内容に入っていきます。よろしくお願いします。


女の子をして、冒険者をして、女の子をして。

 俺がこの世界に来て数ヶ月が経ち、本格的な冬も近づいてきたある日。こっちの世界に来てから何をしたかと言われれば……、えっと、特に何もないな、うん。

 

 大きなことと言えば、たった一人で魔王軍の幹部を倒してしまったことくらいだろう。まぁ正攻法だったとはとても言えない内容だったのだが。

 それでも、だ。あの魔王軍の幹部を方法はどうあれ初めて倒してしまったのだ。ほんと奇跡としか言いようがない。

 

 デュラハン討伐の報酬はあまりに大金だったので屋敷のローンを払うのに使い、余った金は全て貯金することにした。宝くじの1等でもそこまで貰えるもんだっけ……と最初は錯乱してたな。

 それに加えて、ゆんゆんはあの時の戦闘は見ていただけ。つまり俺一人で討伐したってことになったわけで……その、経験値がすごいことになりましてね……。

 まだ一桁だった俺のレベルは、一気に並の冒険者クラスまで上がってしまったのだ。多分しあわせタマゴ持っててもこんなに上がらないと思う。

 

 んで、職業チェンジもできるようになったので、俺はあっさり冒険者からクルセイダーに転職。上がったレベルで増えたスキルポイントはクルセイダー専門の防御特化のスキルに全振りすることにした。

 こうしたのはもちろんあの戦いで学んだからだ。これでピンチの時はゆんゆんをしっかり守ることができるはずだ。

 ……まぁ今でもクエストはゆんゆん頼りのことが多いのだが。まだまだ経験は積まなきゃいけないようだ。

 

 はい、とりあえず色々あった俺の話はこれでおしまい。デュラハンを倒したことで色々と良いことあったぜってことだけ分かってくれれば問題ない。誰に伝えてんだこれ。

 

 で、だ。俺の話はここでおしまいなのだが、問題はゆんゆんのことだ。

 別に何か悪いことがあったわけではないのだ。ただ、何というかちょっと色々と変化がありましてね……。

 

「タ、タクミさん」

 

 隣に座ったゆんゆんは、俺の服の袖をぎゅっと握って恥ずかしそうに少しだけ身を寄せてくる。それだけなのに心臓がめっちゃ痛いです。

 デュラハン討伐のあの日から……その、何ていうか、距離が近いのだ。別にべったりというわけではないのだが、男としては反応に困ってしまう程度には近い。

 いや、俺からは何もしてない言ってないからね? ほんとだよ?

 ……多分だが、俺があの時本当に死んでしまうんじゃないかと不安だったんだろう。その反動から距離感が近くなったというか、俺からあまり離れなくなったというか……。

 だから今も近い距離にいるゆんゆんにドギマギしながら、朝っぱらからここ数ヶ月を振り返るという意味の分からん現実逃避をしていたのだ。説明が長い。

 

「ん? どうした?」

「きょ、今日はどんなことをしましょうか?」

「んー、どんなことって言われても昨日クエスト行ったばっかだしなー。今日もまた行くのはちょっとな」

「そ、そうですよね」

 

 少しだけ落ち着きのない様子で、ゆんゆんは残念そうに肩を落とした。ううむ、分かりやすいな……。

 本来なら大金も手に入れたんだしクエストを受ける必要なんてもうないのだ。ただ、俺が原因で彼女がめぐみんとの約束を果たせなかったこともある。

 だから今でもゆんゆんのレベル上げのためにクエストによく行っているのだ。それだけは忘れちゃいけない俺のけじめだしな。

 で、ゆんゆんがさっきからそわそわしているのはおそらくだが、念願の上級魔法をもう少しで覚えることが可能だからだろう。最近はクエストに誘ってくる頻度も増えてるし。

 そういうところは素直に可愛いと思います、はい。

 

「……クエスト行くか?」

「い、行きます!」

 

××××××

 

「本当に良かったのか? 報酬全額こっちにくれるって話」

「いいのいいの。こっちは金よりレベル上げ優先だからな」

 

 ギルドへ行ったらクエストを受けようとしていたカズマのパーティーに偶然会ったので、せっかくだし協力がてら混ぜてもらうことにした。人数が多い方が効率が良いだろうし、俺からしたら今日は休憩みたいなものだ。

 だって昨日は一撃熊とかいう人間じゃ勝ち目なさそうなのとやり合ったばっかだしな……。軽いトラウマだぞあれ。

 

「つーか何でカズマらはクエスト受けてんだ? 冬が近くなるとモンスターが強くなるから冒険者は引き篭るって聞いたんだけど」

「こっちはまとまった金がまだ全然集まってないからな。貯金ってもんがないせいで継続的に宿に泊まれそうもないし」

「ならウチ来るか? 無駄に広いから部屋なら何個も余ってるし」

「タクミとゆんゆんの仲を邪魔したら悪いし好意だけ受け取っとくよ。それに自分で決めてこの世界に来たんだからちゃんと自給自足しなきゃな。本当に駄目になったらその時はよろしくな」

「おう、任せろ」

 

 はー、俺より年下なのにしっかりしてんのなぁ……。俺もいざという時はカズマの役に立てるくらいには成長しとかなきゃな。

 ……ゆんゆんはちょっと冷やかされただけで顔赤くしないでください。こっちまで恥ずかしくなるから。

 目的の場所へ着くまでカズマと駄弁っていると、女神もどきさんが近づいてきた。

 

「ねぇ、あんたまだその剣持ってたの? 何度も言ってるんだからいい加減それ捨てなさいよ」

「何度も言ってるけどこれは俺の愛剣なの。それにこれは今は亡きデュラハンの形見なんだから捨てられません」

「だってその大剣ものっすごく臭いのよ! 神聖なる女神のこの私がいるのに、近くにあるだけで吐きそうになるくらいの悪魔臭がするものをほっとけるわけないわ!」

 

 クルセイダーになったこともあって、デュラハン戦で勝手に持ち帰った大剣を使う機会が増えていた。もちろんゆんゆんから貰った短剣は今でも大事にしているが。

 で、大剣を愛用しているのだが、女神もどきさんはこれがどうしても気に食わないらしい。つーかその言い方はちょっと俺まで嫌になるからやめて欲しいんだけど……。俺からはそんな匂いはしないしやっぱり腐っても女神様ということなのだろうか。

 

「……んじゃ、この剣までは浄化しないで、悪魔の匂いだけ消すことはできないのか?」

「無理ね。私の力はそんなヤワじゃないわ」

「じゃあ浄化は勘弁してくれ。俺武器これと短剣しかないし」

「はぁ? あんた自分が何億持ってるか言ってごらんなさいよ! そんなにお金があるのに剣の一つも買ってないとかどんな嫌味なの!? 私にお酒の一杯でも奢ってくれたっていいじゃない!」

「こっちは甘やかしちゃ駄目ってカズマに言われてんだよ。保護者の言うことをちゃんと聞いときなさい……お?」

 

 もうやだこの女神もどき……と呆れていると、気づけば目的の場所に着いていたようだ。

 

「おお、あれが雪精か」

「らしいな。じゃ、後はパーティー別の行動でいいな。カズマ達の邪魔しないように少し離れたところ行っとくわ」

「おう、よろしく頼む」

 

 カズマと挨拶を交わして別れてゆんゆんの元へ近づくと、いつも通りの涙目になっていた。まためぐみんに何か言われてたのか……。

 

「い、行こうぜ、ゆんゆん」

「ぐすっ……は、はい……」

 

 本当に泣きかけているゆんゆんの手を引いて、カズマ達と少し離れた方向へ歩いて行く。お互い手袋付けてるから恥ずかしくないしセーフ。

 

「タ、タクミさん……っ」

「ん、どうした?」

 

 振り向くと、顔を真っ赤にしたゆんゆんがもじもじしながらぽしょりと呟く。

 

「手……その、は、恥ずかしいです……」

「あ、お、おう。わ、悪い」

 

 慌てて俺が手を離すと、ゆんゆんは少しだけ残念そうな表情をしたような気がした。ど、どうすれば良かったの俺は……。

 

「じゃ、始めるか。ゆんゆんがいつも通り討伐してくれ。俺はそれをサポートするから」

「は、はいっ!」

 

××××××

 

 こうして俺とゆんゆん、そしてカズマのパーティーの合同クエストが始まった。

 何があったのかと言えば、めぐみんが爆裂魔法をぶっぱなしたり女神もどきさんが虫あみをぶり回してるのが印象的だった。

 このクエスト難易度低くて楽すぎないか? と疑問にも思ったが、楽しそうに雪精討伐をするカズマ達を見て気にしないことにした。こっちはゆんゆんが途中から可哀想って言い出して大変だったりもしたが。

 雪精討伐を続けて数十分経っただろうか。ひと休憩入れようと思ったその時。

 

「ん、出たな!」

 

 ダクネスの大きな声に驚き、慌ててそっちを見るとにわかには信じられない奴がいた。

 やべ、詰んだ──瞬時にそう思った俺は、ゆんゆんを押し倒して死んだフリをすることにした。

 

「タ、タクミさん……み、みんながいるところで、こ、こここ、こんなこと……」

「ち、違うから。ちょっとあっち見てみろ……」

「え?」

 

 顔を真っ赤にしていたゆんゆんだったが、その表情はみるみるうちに青ざめていった。

 敵を目の前にしているのにカズマに楽しそうに解説する女神もどきさんのおかげで、奴が冬将軍だと言うことが分かった。どっかで見たことあると思ったらそういうことだったのか。

 

「ど、どどど、どうしましょう……! このままじゃめぐみん達が……」

「……と、とりあえず様子見な。絶対あれはヤバいって……」

 

 デュラハンと対峙した時と感覚が似てる。あれは正攻法じゃまず勝てない部類だ。

 という訳で、死んだフリを続行しながら流れに身を任せることにした。

 俺らより先に死んだフリをしためぐみんは多分大丈夫だろう。カズマと女神もどきさんは動けないでいるからちょっとマズいか。

 あ、ダクネスの剣が簡単にへし折れた。

 ……うん。やっぱあれは勝てない。絶対無理だわこれ。

 

「マジでどうするか……」

 

 人を選ぶわけではないのだが、俺からしたらやっぱりゆんゆんが第一だ。でも、カズマとは友達だし女神もどきさんとも何だかんだで関わりが深い。めぐみんやダクネスも知った顔だ。

 う、うん、動かなきゃ駄目だよなやっぱ……。

 

「……よし、いく……ぞ」

 

 立ち上がる時に下を向いた一瞬のうちに、見てはいけない光景を見てしまった気がして瞬時に目を閉じてしまった。だが、本能的に目を開いてしまい、そこで目にしてしまったのは──。

 

「マ、マジかよ……」

「うそ……」

 

 冬将軍はカズマ達の前からいなくなった。それなのに安心なんて出来るわけもなく、思うように動かない身体を無理やり引きずってカズマの元へ走っていた。

 

「お、おい! カズマ!」

「焦らないの! 大丈夫よ、私なら生き返らせることができるわ」

「え、お前ザオリクできんの?」

「当たり前じゃない。私を誰だと思っているの? あとここではリザレクションね」

「な、ならよかった……本当によかった……」

 

 うん、このクエストは色々と反則だろ……。

 

××××××

 

 あれから生き返ったカズマに安心して泣きそうになったり、ギルドへ戻って一緒に飯を食って解散してから自宅へ戻った。

 はぁ……まさかこんなことになるなんて思わなかった……。冒険者は死と隣り合わせという考えを今まで舐めてたな。

 ……ゆんゆんの命だけじゃなくて、自分の命も大事にしなきゃな。デュラハン戦のときは全く考えてもいなかったし。

 今では俺よりトラウマになってしまったゆんゆんが、ソファに座る俺にずっとくっついたまま離れなくなってしまった。

 

「こ、怖かったです……」

「だな……あれは俺も頭真っ白になっちまったわ」

「私もです……これからも強い敵と戦うとこういうことばかり起こるんですよね……」

「ないとは言えないだろうなぁ……。まぁ今回みたいのはそうそうないだろうけど。まさか首チョンパを見る日が来るとは思わなかった……」

 

 思い出すだけでかなりキツいし話題変えるか……。ゆんゆんまた泣きそうだし。

 

「今日はレベル上がったか?」

「あ、はい、1だけですけど上がりましたよ」

「おお、そりゃよかった。また上級魔法習得に一歩近づいたな」

「そうですね」

 

 くすりと笑みを浮かべるゆんゆん。少しは気が楽になってくれたようで良かった。

 

「その、明日は休憩にしませんか?」

「え、いいのか?」

 

 聞くと、ゆんゆんはこくこくと頷く。

 

「タクミさんが私のために付き合ってくれてるのは分かりますからね。たまには休憩してリフレッシュしてもらいたいので……」

「そっか、気遣いありがとな。でも俺は別に好きでやってるわけだし、そんな気にしなくていいんだからな?」

「はい、でも毎回手伝ってくれるタクミさんには感謝しかありませんので……その、いつもありがとうございます」

 

 恥ずかしそうにぽしょりと呟き、ゆんゆんはぽっと頬を朱に染めて俯いてしまった。可愛いなぁと思っていたら、自然とゆんゆんの頭を撫でてしまっていた。

 

「え、えと、はぅ……タ、タクミさん……?」

「あ、悪い。つい撫でたくなってしまった」

「そ、そうですか……。じゃ、じゃあ日頃のお礼ということで、ど、どうぞ……」

「じゃ、じゃあ遠慮なく……」

「あぅ……え、えへへへ……」

 

 この後、めちゃくちゃわしゃわしゃした。

 




お久しぶりです。今回から2巻の話に入っていきます。2巻の時間軸でも原作の内容に関わったり関わらなかったりします。

久々の投稿なのでよろしければ以前投稿した話なども読んでくれたら幸いです。更新頻度は上げていこうと思います。

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!よろしければ感想評価お気に入り等々よろしくお願いします!

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