この素晴らしい世界でイチャイチャを!   作:部屋長

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思った以上に、彼と彼女は仲良しである。

 

「キャベツおいちい……」

「お、お疲れ様です……」

 

 キャベツ狩り終了後のギルドにて。クエストに参加した冒険者達はギルドで出されたキャベツ炒めを食べながら大賑わいのどんちゃん騒ぎ状態だ。

 そんな中で虚無感に苛まれて浮かない表情をしているのは多分俺とカズマだけだろう。命懸けでキャベツと戦うって思った以上に何かこう……上手く言えないけど、うん、嫌だよね。

 しかもただのキャベツ炒めなのに美味しいのが何か悔しい。俺キャベツそんな好きじゃなかったのに……。

 

「ゆんゆんもお疲れ様……。おかげで俺たちがキャベツ収穫の数は二番目だってさ」

「わ、私はちょっと魔法でタクミさんのお手伝いをしただけなので……。そ、それよりタクミさんの体力がなかったらあんなにキャベツを回収できなかったですよ!」

「あー、うん、ありがと」

 

 ……褒めてくれるのは嬉しいけどそれしか取り柄ないですからね俺。何か虚しい。

 俺とゆんゆんはパーティーメンバーなのでもちろん協力してキャベツ狩りをした。

 作戦は至って単純で、ゆんゆんが『フリーズガスト』という冷気を伴った霧を発生させる中級魔法を使いキャベツの動きを鈍らせ、あとは俺の唯一の取り柄(自分で言ってて泣きそう)の体力を活かしてキャベツを取れるだけ回収したってわけだ。

 本来であれば爬虫類系のモンスターが冷気に弱いらしい。ただやはりそこは才能なのか、キャベツくらいなら簡単と言わんばかりにゆんゆんは軽々とキャベツの動きを鈍らせていた。

 ほんとすげぇなぁ……。俺なんてそれでも何回再起したキャベツにタックルされたか分からないのに……。

 まぁ体力だけが取り柄だから全然平気なんだけど。それでも痛いものは痛い。

 だからこそ今食べてるキャベツがより美味しく感じる。うん、キャベツ最高!

 

「ていうか、食っただけでレベル上がるってキャベツ有能すぎない?」

「そうですね。今年のキャベツは特に新鮮で質も良いですからいっぱい食べて損はないですよ」

「キャベツぱねぇ」

 

 美味しくてレベルも上がって健康にも良くてってキャベツお前……。素敵すぎて惚れそう。

 

「じゃあゆんゆんは俺の分も食べていいよ」

「へ? ど、どうしてですか?」

「ゆんゆんには少しでも早く上級魔法を覚えて欲しいからな。それに健康にも良いんだからいっぱい食べればもっと可愛くなれるぞ」

「か、可愛い……。え、えっと……も、もっと可愛くって……、そ、それって今も私のこと……」

 

 ゆんゆんは頬を赤くしながら俯いて小さな声でぽしょぽしょ呟く。

 やだ、ゆんゆんさん変なところで鋭いんだから……。

 

「い、今のはなしでお願いします……」

「は、はい……」

 

 ギルド内はうるさいくらいに騒がしいのに何で俺たちだけこんなに真っ赤になってるんだろうか。

 

「え、えっと、私は自分の分だけで大丈夫なのでタクミさんは気にせず自分の分を食べていいですよ」

「いや、俺は平気だから気にしなくていいぞ」

「で、でも……」

 

 うーん、まぁ確かに俺が逆の立場だとしてもこれは遠慮するだろうな。要は自分だけ経験値貰っちゃうことになるだし。

 ……よし、ならこれしかないな。

 

「ゆんゆん」

「はい?」

「……はい、あーん」

「え……? え、えっと、その、はわ、はわわわ……」

 

 箸でキャベツを摘んでゆんゆんの口元に近づけると、ゆんゆんは顔を真っ赤にしながら硬直してしまう。しかし、口は上手く回らないのかぱくぱくと動いていて可愛いけどちょっとだけ面白い。

 ……無理やりあーんで押し切ろうとしたけどこんな経験ないからちょっと恥ずかしいです。

 

「ほら、遠慮しなくていいから。あーん」

「うぅ……あ、あーん……」

 

 頬を朱に染めながらなぜか上目遣いで俺を見つめながらぱくりと食べた。な、何かエロい……。

 

「美味しい?」

「は、恥ずかしくて味なんて分かりません……。……タクミさんのいじわる」

「うっ……」

 

 むーっと頬を膨らませて恥ずかしそうに見つめてくるゆんゆん。すごく良いと思います。

 しかもいじわるなんて言われたらもっとやりたくなっちゃうのが男の子ってものなわけで。

 

「残念ながらゆんゆんが強くなるためなら俺はいくらでも意地悪になっちゃうな。だからほら、どんどん食べていっぱい強くなってくれ」

「もう……タクミさんは優しすぎです……」

 

 ……俺が惚れそう。

 

××××××

 

「ふぅ……もう私お腹いっぱいです……」

「わ、悪い……美味しそうに食べるからつい」

 

 あーんをしているうちに気づいたら可愛い小動物を餌付けしてる気分になってた。恥ずかしそうにしながらも美味しそうにパクパク食べるゆんゆんが可愛いすぎてなぁ……。

 

「で、でも全部あーんで食べさせる必要は……あ」

「ん? ……あ」

 

 ゆんゆんの視線の先を見たらすぐに何が言いたいか理解できた。俺の方のキャベツ炒めはもうないのだが、ゆんゆんが食べていた方のキャベツ炒めはまだかなり残っていた。

 あーんするのに夢中でゆんゆんのキャベツ炒めを忘れてました……。気づけなかったことに反省して、頭をこっつん作戦。そして、今度は適当なことを言って煙に巻くもくもく作戦です! 日本にいる間にもっかいくらい見たかったなぁ……。

 

「あー、いや、うん、ど、どうする?」

「私、もう食べられないです……」

「だよな……」

 

 残すのはもったいないし俺が食べるか……。これあーんした意味全くないんじゃ……って頭に浮かんだところでもう考えるのを放棄した。

 俺が自分のアホさにげんなりしていると、ゆんゆんは小さな声でぽしょりと。

 

「……お返しです」

「え?」

「た、タクミさん……っ」

「え、あ、はい」

 

 ゆんゆんの緊張したような震える声に俺まで困惑してしまう。ゆんゆんは顔を真っ赤にしながら口元をもにゅもにゅさせ、そして──。

 

「あ、あーん……っ」

 

 うるうると目を潤ませ、手を少しぷるぷるさせながら俺の口元にキャベツを差し出してくる。えぇ……お返しってそういう感じですか……。

 

「や、それはちょっと……」

「嫌、……ですか?」

「いえ、そんなことは全然。食べます。むしろ食べさせてください」

 

 そんな悲しそうな顔されたら断れるわけないじゃないですか……。

 

「ふふっ、変なタクミさんです。じゃ、じゃあ、……あーん」

「……あーん」

「どうですか?」

「……ただのキャベツ炒めだな」

 

 まぁ味なんて分からないんだけど。なのに、どうして味もよく分からないのにこうも甘く感じてしまうのか。

 

「えへへ……お返し、成功です」

「はい……もうばっちりやり返されちゃいました……」

 

 ……ほんと、可愛すぎるお返しだな。

 

××××××

 

 あれからゆんゆんのお返しという名目上、ひたすらあーんをされ続けました。思った以上に恥ずかしくてしんどかったな……。

 まぁ、嬉しそうにニコニコしながらあーんをしてくるゆんゆんが可愛かったからいいんだけど。

 ギルド内はまだまだ賑やかで、落ち着いた雰囲気で会話をしているのは俺とゆんゆんだけだと思う。この人らキャベツでどんだけ盛り上がってんだ。いや、ほとんど酒の力だろうけど。

 

「タクミさんってお酒はよく飲むんですか?」

「いや、今日初めて飲んでみた」

「ど、どうですか?」

「んー、よく分からん。俺に酒はまだ早いかな」

 

 この世界では酒に関しては年齢制限がないらしい。要は自己責任ってことだろう。他にも日本じゃ駄目でもここでならいいこととかあるのだろうか。

 ちびちびと飲み続ける俺をゆんゆんがじーっと見てくる。目がキラキラしててあからさまに興味津々なのがよく分かる。

 

「……飲む?」

「で、でも、あんまり若いうちから飲むとバカになるって聞いたことが……」

「いや、一口くらいなら大丈夫じゃねーかな。俺がもう飲んだやつだけどそれでもいいなら飲むか?」

「は、はいっ。で、では……」

 

 不安半分期待半分の表情で、こくりと一口飲む。苦かったのかゆんゆんは眉をくにゃっと歪めた。

 

「どうだ?」

「う、うーん……? 何だか不思議な味ですね」

「だよな。俺もあんまし美味しいとは思えないな」

「でも意外とクセになるかも……。も、もう一口だけ……」

 

 おお、チャレンジャーだな。俺はちびちび飲むだけでも割とキツかったのに。

 もう一口飲んだゆんゆんは、ほぁっと吐息を漏らしてから再びジョッキを傾けてこくこくと飲み続ける。こくりと飲むたびに動く喉元や少しずつ紅潮していく肌を見ると……い、いかん、気にしちゃ駄目だ。

 ていうかちょっと飲みすぎじゃない? 大丈夫?

 

「ぷはっ……私、意外といけるかもしれません」

「おお、マジか。でも今日初めて飲むんだしそれくらいにしとこうぜ」

 

 年齢制限がなくても俺よりも若い子が目の前で酒を飲んでると思うと何か不安でムズムズするし。

 

「も、もう一杯だけだめですか?」

「う、うーん……まぁ、うん、あと一杯だけなら」

「やった、ありがとうございます!」

 

 う、うーん……? これ本当に大丈夫か……?

 

××××××

 

 他の冒険者達より早くギルドを後にし自宅へ向かう帰り道、俺はさっそく後悔していた。いやほんと何で俺はさっきあんな簡単に了承しちゃったんでしょうか。

 

「あははっ、タクミさんの手ちゅめたい〜」

「え、ちょ、ゆんゆんさんマジでそれはヤバいっすから……」

 

 ゆんゆんは楽しげな口調で笑いながら、俺の手に頬をすりすりさせてくる。やだ、ほっぺたぷにぷに幸せ……。

 いや、そうじゃなくて。……まさかゆんゆんがここまで酒に弱いとは。

 

「あはっ、タクミさんビクビクしちゃってて可愛いですぅ」

「うっ……ゆんゆんさんキャラ変わりすぎじゃないですか……」

「んふふー、えへへぇ……楽しいです……」

 

 まさかのガン無視で頬ずり続行です。お、俺は楽しいというよりはドキドキでヤバいんだけど……。

 

「ふぅ……何だか暑くなってきちゃいました……」

「ちょ、そのネクタイパタパタされると色々ですね……」

 

 周りに人がいなくて本当に良かった……。この子酔った女の子のテンプレを駆け抜けてるんですけど……。

 つーか俺より三つも年下なのに発育良すぎじゃないですかね……。眼福すぎるんだけど。

 それよりもさっきから足取りがふらふらしてて危なっかしいな。

 

「歩くの辛いか?」

「んふふー、全然大丈夫ですよー」

「ん、そうか」

 

 ……まぁ、楽しそうだしいいか。

 

「おんぶ……」

「はい?」

「おんぶしてください……」

「やっぱ駄目なのか……」

 

 限界くるの早すぎでしょこの子……。酒はもうちょっと先になりそうだな。お互い飲めるようになるまでのお楽しみってことで。

 

「ほら、いいぞ」

「んしょっ……わぁ……っ!」

 

 俺の背中に乗ったゆんゆんが嬉しそうな声を漏らす。おんぶなんて久しぶりだろうしな。楽しそうで何よりだ。

 ……まぁ、うん、俺はちょっとというかかなりマズいんだけど。背中に当たる柔らかいマシュマロの感触が予想の何十倍もヤバい。

 

「あははっ、高いですね」

「……今度は肩車なんてどうでしょうか、お嬢様」

「ふふ、やってみたいです。お嬢様の命令は絶対なのです」

「ん、承知しましたっと」

 

 こうやって話してみると、やっぱり年下の女の子なんだなぁと思う。普段は下手したら俺よりもしっかりしてるからな。だからこそこんな感じで話せるのも嬉しい限りだ。

 ……ま、楽しい時間は短いんだけどな。いつか酒の力もない状態でこれだけ話せるようになりたいもんだ。

 

「すぅ……すぅ……」

「……お疲れ様」

 

 可愛らしい吐息を漏らしながら、ぐっすりと眠るパートナーに頬を緩ませつつ。穏やかな気持ちで俺は夜道を歩いていった。

 

 

 

 

「き、昨日のは、その……」

「お酒って怖いな」

「そ、そうですね……うぅっ……」

「……肩車、するか?」

「……します」

 

 翌日、ゆんゆんが今までで一番顔を真っ赤にして恥ずかしがるのは、また別の話。

 




お久しぶりです。今回も穏やかのんびりのイチャイチャでした。この感じが好きという方がいたら嬉しい限りです。

このすば10巻出ましたね。私は電子書籍版で買ってるので本屋に行って書籍を見つけた時は「か、買いたい……!で、でも10巻だけ普通に買うのもなぁ……」と苦悶しました。電子書籍だと発売が普通の書籍版の一ヶ月遅れなのは辛いものです……。

というわけで、小話はここまでで。ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!感想評価お気に入り等々してくれたら嬉しいです!

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