「お、おはよう」
「お、おはようございます……」
俺とゆんゆんが出会ってから色々あって迎えた翌日の昼。一階の広間で顔を合わせると、昨夜のことを思い出してしまったのかゆんゆんは頬を真っ赤に染めた。多分俺も真っ赤だと思う。
もちろん原因は昨夜のお姫様抱っこ事件である。何であんな恥ずかしいことしちゃったんだろほんと……。
結局あの後お姫様抱っこ中に起きちゃったゆんゆんは、俺が下ろした途端顔を真っ赤にしながらすぐに部屋に行ってしまった。つまり昨日のお姫様抱っこ以降会話をしてないから非常に気まずい状況です。
「あ、あのっ」
「お、おう、どうした?」
「え、えっと……昨日は、その、私だけ先に寝ちゃってごめんなさい。そのせいでタクミさんに迷惑かけちゃって……」
「いやいや、別に謝ることじゃないから気にしなくていいぞ。むしろそのおかげでお姫様抱っこなんてさせてもらっちゃったし。今度広間で寝ちゃったらまたお姫様抱っこしちゃうからな?」
こうなったらいっそ笑い話にでもしてやろうと思って冗談っぽく言うと、ゆんゆんはこれでもかというくらい顔を真っ赤にして俯いてしまう。
「ま、またお姫様抱っこ……」
「あ、今のは冗談だからそんな気にしなくていいからな」
「うぅ……お姫様抱っこ……」
「あ、あのー、ゆんゆんさん?」
「ここで寝たら、ま、またお姫様抱っこで……はわわ……」
やだ、まったく聞いてないよこの子。ずっとほっぺた真っ赤にしてるし(可愛い)。
そんな反応されたら今すぐお姫様抱っこしたくなっちゃうわ。しないけど。
「あー、まぁこの件に関してはあれだ。もしまたゆんゆんが寝ちゃったときに考えよう」
「そ、そうですね……」
「んじゃ、ちょっと遅めだけど昼飯食いに行くか」
「は、はい!」
ゆんゆんは未だに頬を赤らめてはいるが、それでも嬉しそうにこくこくと頷く。
誘われただけで喜んじゃうゆんゆんマジチョロイン。その嬉しそうなゆんゆんを見て嬉しくなっちゃう俺も以下略。
××××××
昨日と同様、冒険者ギルドへゆんゆんと俺は話しながら向かっている。ゆんゆんはもうお姫様抱っこ事件の恥ずかしさはなくなったようで、可愛らしい笑顔で楽しそうに色んなことを喋っている。ものすごく癒されます。
「そういやゆんゆんは何時に起きたんだ?」
「タクミさんが一階に来る2時間くらい前にはもう起きてましたね」
「あー……それじゃ悪いことしたな。腹も減るだろうから先行っててもよかったのに……」
「えっと、その、私はタクミさんと一緒に食べたかったので……えへへ」
「……何かもう本当にありがとうございます」
まだ彼女と出会ってから二日しか経ってないのに本当に攻略されちゃいそう。この子絶対落とし神的な感じの異名持ってるでしょ。
「タクミさん? ほっぺた赤いですけど大丈夫ですか?」
「……だいじょぶ」
「ほんとですか?」
「ほんとほんと」
その後も、頬が赤くなっていることを心配されながらもギルドへ歩いて行く。少しだけ気恥ずかしさもあるが、ゆんゆんと一緒に話すだけのこの穏やかな時間が心底楽しいと思えた。
当たり前のことだが、楽しい時間というものは本当にあっという間で。気づいたらもうギルドの近くまで来ていた。
「ん……?」
「どうした?」
「いえ、あそこに人がいたので」
「どこ?」
「あそこです」
ゆんゆんが指を指したのはギルドの裏手の広場。そこには昨日知り合ったばかりのカズマと、金髪と銀髪のタイプは違うが二人の美少女がいた。
ただ、そこにいるメンバーは普通だと思ったのだが……。
「ヒャッハー! 当たりも当たり! 大当たりだあああああああああ!」
「いやああああああああ! ぱ、ぱんつ返してえええええええええええええええええっ!」
その場から聞こえてきたのは奇声と悲鳴でした……。ちょっとカズマ君何してるのほんと。
精神衛生上よろしくないので、俺はそっとゆんゆんの目を手で覆った。
「ひゃわっ……タ、タクミさん?」
「あれは見ちゃいけないからな……」
「は、はい」
うん、これはもちろんスルーです。関わったらパンツ泥棒の共犯者として警察に捕まりそうだし。
カズマに呆れつつギルドの中へ入ると、次に視界に入ったのは女神もどきさんだった。
「うおおおお! アクア様すげええええ!」
「も、もう一度! どうかもう一度だけ! お金は払いますから!」
「はぁ……いい? 芸ってのはね? 請われたからって何度でもするものじゃ──」
うん、これ以上聞く必要はないだろう。もちろんこれもスルーで。
見つかったら絡まれそうで怖いので、バレないようにゆんゆんを連れてなるべく奥に方へ向かう。すると、今度はカズマのパーティーの魔法使いの子がもきゅもきゅと昼飯を食べていた。
エンカウント率が高いのはここがギルドだからって納得するしかないな、うん。とりあえずフレンドリーに話しかけてみるか。
「よっ、昨日ぶりだな。確かゆんゆんの友達兼ライバルのめぐみんちゃんだっけ」
「あなたは……えっと、どちら様でしょうか?」
「あー、そういや会話はしてなかったもんな。じゃあゆんゆんと一緒にいた男って言えば分かるか?」
「あぁ、あなたがあの子を誑かした人ですか」
「それはちょっと聞こえ悪いな……。……あれ? そういえばゆんゆんは?」
気づいたら隣にいなくなってたのでギルド内を見渡して見ると、ゆんゆんは柱の後ろからひょこっと顔を出しながらこっちの様子を伺っていた。何あれ可愛い。
……やっぱりまだめぐみんと顔を合わせるのは気まずいのだろうか。上級魔法を覚えたらまた会いに来るって約束を俺の勝手な理由で破っちゃったようなもんだし……。
……うん、ならここはやっぱりフォローしかないよな。
「ゆんゆんの友達同士ここは仲良くしないか? 別に俺はあの子に何かするつもりはないし」
「は、はぁ、別に私は彼女に何かあっても気にはしませんが……」
「辛辣だな……。てっきり俺は私のゆんゆんを取らないでっ! みたいなこと言われると思ってた」
「言いませんよそんなこと……」
うーん……ゆんゆんから聞いてた話だと何だかんだでめぐみんも彼女のことが大好きだと思ってたんだけどな。やっぱり素直になるのが恥ずかしい年頃なんだろうか。
もちろんゆんゆんは言わずもがなだが。基本的に話してくることがめぐみんの話ばっかだったからなぁ……。
「ん、ならいいんだけど。まぁ俺個人としてもあんなすげぇ魔法使えるような子とは仲良くなりたいしな。なんならあの魔法教わりたいくらいだ」
「ほんとですか!?」
「お、おお」
魔法って言った途端一気に食いついてきたなこの子。……それにしても紅い目をした女の子はみんな男に対して無防備なのだろうか。
だ、だって顔がものすごく近いんだもん……。むふーって感じで熱い吐息が顔にかかるのが色々とヤバいんだけど。
「まさかこんなところで爆裂魔法の魅力が分かる人がいるとは……。今までそんなに素直に褒めてくるような人に巡り会えたことなんて一度もなかったんですよ……」
「そりゃ大変なことで」
「爆裂魔法をぶっぱなすといつも門の守衛さんやギルドの職員さんに怒られて……」
「……そりゃ大変なことで」
もちろん今のは守衛さんや職員さんに対しての言葉である。あの爆音でしかもクレーターができるような魔法だしそりゃ怒られてしまうのも分かる。
しばらくめぐみんと爆裂魔法について話していると、ギルドの入り口辺りが騒がしくなるのが聞こえてくる。振り向かなくても声だけでカズマ達が戻ってきたのが分かった。
「カズマ戻ってきたな。行ってやればいいんじゃないか?」
「そうですね。カズマがどんなスキルを覚えてきたかも気になりますし」
「え、スキル? 外でパンツぶん回してたようにしか見えなかったけど」
「……行ってきます」
めぐみんはうわぁと言いそうなくらい呆れ顔をしながら、ぱたぱたと走って行った。な、何か色々と頑張って……。
……さて、あの子はいつまであそこにいるんだろうか。とりあえずくいくいと手招きをすると恥ずかしそうにとてとてと近づいてくる。
「悪いゆんゆん、長い時間話しすぎてたな。暇じゃなかったか?」
「い、いえ。楽しそうに話すめぐみんとタクミさんを見れたのはそれはそれで……」
「そっか、それならいいんだけど。でもちょっとくらいならめぐみんと話しても大丈夫なんじゃないか?」
「な、何となく恥ずかしかったので……」
恥ずかしそうに頬をほんのりと赤らめるゆんゆん。その可愛らしい表情を見ると、ちくりと胸に痛みが走る。
「……早く上級魔法を覚えて堂々と話せるようにならないとな」
「はい、頑張ります!」
……彼女が大好きな友達と素直に話せないのはもちろん恥ずかしさからもあるのだろう。でもやはり、それができないのは上級魔法を習得してないのに再会してしまったのが一番の原因なはずだ。
もちろんゆんゆんはそんなことを口にしないし俺のせいなんて思ってもいないんだろう。それでも、俺の悪ふざけのせいで二人の少女の大切な約束を壊してしまった。
だからこそ、俺は彼女が上級魔法を習得するために全力で協力をする。彼女が大好きな友達とわだかまりなく話せるようにするために。
──それだけは俺が絶対にしなくてはいけないけじめだ。
「……俺も頑張るからな」
「へ? 何をですか?」
「んー、秘密」
「そう言われると気になっちゃいますね」
本当に気になるのかうんうんと悩む可愛らしい彼女を見て、より一層やる気を出しつつ。
……何か俺、ものすごく重い気がするな。男でヤンデレ的な感じの素質があるってほんと誰得だよ。
うん、ここは誠実ってことにしといてください、はい……。
××××××
あれからすぐに注文をしてから、俺とゆんゆんは遅めの昼食を食べ始めていた。ゆんゆんは朝から俺を待っていて腹が減っていたのか、美味しそうにもきゅもきゅと食べている。美味しくご飯を食べる女の子が俺的に一番可愛いと思います。
ちなみに俺とゆんゆんが座っている後ろの方はめっちゃ騒がしいことになってる。何かまたパンツ取ったってのが聞こえてきた時点で察した。
「やっぱりカエルなのに美味しい……」
「はむっ……ほうれふね、おいふぃいです……」
か、可愛い……。口元にちょっとだけつけてるのと凄く良いと思います。
「口元ついてるぞ」
「へ? あ……っ」
「あー、ほら、ちょっと動くなよ」
「んぅ……っ」
ゆんゆんの口元にハンカチを当てて拭くと、男からしたら何とも言えないような声を漏らす。
……何ていうか、すごくエロいです、はい。
「あ、ありがとうございます……」
「……どういたしまして」
な、何かまたお姫様抱っこの時みたいな気まずい雰囲気に……。そもそも何で俺が拭いちゃったんだろ……。
「……あー、つーか今日はクエスト無理そうだな。俺が起きるの遅すぎたし」
「えっと、基本的にはクエストは毎日受けるものじゃないですから大丈夫ですよ。また明日から頑張りましょう」
「ん、分かった」
俺としては積極的にクエストを受けてゆんゆんのレベル上げも手伝いたいんだけどな。第一俺がいつまでも弱いままじゃいけないし。
──と、その時。
『緊急クエスト! 緊急クエスト! 街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください! 繰り返します。街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!』
街中に大音量のアナウンスが鳴り響く。し、心臓に悪いんだけど……。
「……えっと、どういうこと?」
「聞いた通りで緊急クエストです。んー……多分この時期だとアレですかね」
「アレですか」
「はい、アレです」
いや、俺は地元民じゃないからアレって言われても分からないんだけど……。年に一回化物がくるよ! 的なアレなのだろうか。何それ怖い。
すぐにギルドには多くの冒険者が集まってきて、ある程度集まるとギルド職員の人が急ぎ気味で説明を始める。
……。
…………。
……………………は?
「キャベツに逆襲されて怪我……?」
「タックルの威力がかなり強烈らしいですね」
「タックル」
え、えぇ……ちょっと何言ってるのかよく分かんない。
「ぐ、具体的にはどうやってキャベツがタックルしてくるんでしょうか……?」
「? それはもちろん空から飛んできながらそのままドーンってですね」
「空から飛んできながらそのままドーン」
や、やだ……俺そんなキャベツ知らない……。うん、異世界だもんねここ。もうそう割り切るしかないわ。
──それよりも、だ。
「ゆんゆん」
「はい?」
「本気でいこう」
「へ?」
「だって一玉一万エリスだぞ! 上手く行けば一気に小金持ちだ!」
もしも日本円でキャベツが一玉一万円だとしたらそれもう農家さん歓喜イベントじゃん。田舎のおばあちゃんに今俺が住んでるとこではキャベツが一万円で売れるって教えてあげたい……。
「は、はぁ、今までで一番元気ですね……」
「だって家賃払う日近くなってるんだもん……」
「……頑張りましょう」
二人してうへぇ……とため息を漏らす。だが、ここは家賃のためにやる気を落とさず頑張るしかない。
他の冒険者達さん達も嬉しそうに奇声を上げながら(失礼)騒がしくギルドから飛び出て行く。遅れてゆんゆんもぱたぱたと走って行った。
ギルドに残ってるのは俺とカズマの日本人だけ。頭で無理やり納得しても衝撃的すぎてやっぱり身体が動きません。
「なぁカズマ。飛ぶキャベツについてどう思う?」
「信じたくないし日本に帰りたい……」
「分かる……分かるけど頑張れば一気に金持ちだ。頑張ろうぜ……」
「……うん」
──死闘を繰り広げました。以上。
Webで公開中の爆焔シリーズ続のめぐみんとゆんゆんが可愛すぎました。本当にゆんゆんが尊すぎます……。
このssは毎回こんな感じでまったりやっていこうと思います。次回はイチャイチャも多めの予定です。可愛く書けるよう頑張ります!
ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!