「つ、強い……」
「えへへ、私こういうのけっこう自信あるんですよ」
あれから俺は、可愛らしくお願いをしてきたゆんゆんと一緒にトランプゲームをしていた。一緒に遊ぶって言葉に別の意味でちょっと期待してたとか言えません。
ちなみにトランプの結果は見事に敗北。まさか3連続で負けるとは思わなかった。
「つーかよくトランプなんて持ってたな」
「こういうのって暇な時に一人でやると時間潰せますからね。あ、他にはボードゲームとかもありますよ?」
な、何か今日1日一緒にいて思ったけど、ゆんゆんって少しだけぼっち気質があるような気が……。
俺の予想だが、ゆんゆんの13歳という若さが原因で他の冒険者はパーティーを組むのを躊躇った。だからパーティーメンバーが中々できずに一人でいる時間が増えてしまったのだろう。
うん、これからは俺がめいっぱい一緒に遊ぶことにしよう。そしたらゆんゆんの楽しそうな顔が見れるし。
「ボードゲームか。それなら俺も得意だぞ。オセロとかか?」
「おせろ?」
ほぇ? と言わんばかりにくりんと首を傾げるゆんゆん。その反応からしてこの世界にはオセロはないってことか。
「いや、今のは気にしないでくれ。んで、どんなのなんだ?」
「これです」
いやちょっと待って。今どっからボードゲーム出したのこの子。
……ふむ、これは将棋とかチェス系の物なのか? どっちかというとチェス寄りかな。
「やり方分からないけど大丈夫か?」
「あ、それなら私が教えますので最初はゆっくりやってみましょう。ルールは簡単なので大丈夫です」
「分かった。今度は負けないからな?」
「ふふっ、私も負けませんからね」
──意気込んだものの5回やって見事に全部負けてしまいました。悲しいくらいの2コマ落ちである。
「……ゆんゆんが強すぎる件について」
「これは初めてだと難しいですからね。私はもう極めちゃってますから」
「極めちゃったのか」
「極めちゃいました」
ゆんゆんはてへっと可愛らしく笑いながらちょっぴりドヤ顔をする。普通に可愛くて惚れそう。
「ふぅ……今日はもうやめましょうか。また今度やりましょうね!」
「おう、もちろん。次こそは負けないかんな」
「えへへ、私も負けないです」
ゆんゆんもだいぶ慣れてきたのか、俺に対して笑顔を見せる回数が増えてきた。こちらとしてもパーティーメンバーとの仲が深められて嬉しいものだ。
「んじゃこれからどうする? そろそろ11時だけどもう眠いか?」
「い、いえ、むしろ楽しすぎて全然眠くなくて……。も、もっと、お話したいです……」
そう言い、恥ずかしそうに頬を朱に染めて上目遣いで見つめてくる。その可愛らしい表情に自分の頬が熱くなるのを感じる。
「おう、分かった。どんな話がいい?」
「えっと、あの……恋バ、ナ……とか」
まさかのそういう話来ちゃいますか……。まぁ13歳ならそういう話も気になる年頃ってことなのか。
「それって男として楽しいもんなのか?」
「わ、分かんないです。私も一度しかしたことないので……」
「んー、俺もそういうのはあんまりなぁ……」
というか、そっち方面の話だといい思い出がないからな。情けないことに死んだ元凶がそれだし思い出すだけで頭痛くなるレベル。
「じゃ、じゃあどんな人がタイプなんだ? み、みたいな?」
うん、我ながらどもり方が気持ち悪いな……。
「あ、え、えっと、……わ、私は物静かで大人しい感じで、私がその日あった出来事を話すのを、傍でうんうんって聞いてくれる、優しい人が……」
わぁ、慣れてないからしょうがないんだろうけどかかなり具体的だ……。つーかゆんゆんの好みの男って意外といそうなタイプだな。
「うぅっ……は、恥ずかしい……。わ、私は言ったので次はタクミさんの番です!」
「……秘密」
「そ、それはずるいです!」
「んー……じゃあ俺がゆんゆんみたいな女の子がタイプって言ったら?」
つい勢いでからかうように言ってみると、ゆんゆんは顔を真っ赤にして目をまんまるとさせる。すぐにあわあわと慌てるが、次第に恥ずかしそうにもじもじしながらうつむいてしまった。
「はわ、はわわ……え、えっと、その……」
「あ、いや、その反応はちょっと……」
……うん、あれだ。俺とゆんゆんでこの類の話はNGだ。チョロイン同士が恋バナなんて物をしたらそのまま勢いで大変なことになる未来が見えた瞬間である。
「ほ、ほんと、ですか……?」
「……ま、まぁ嘘ではないぞ」
「そ、そうですか……は、初めて男の人にそんなこと言われました……」
少し困惑の色も見えるが、それでもゆんゆんは頬を少し緩ませて照れたように笑顔を見せた。その表情に俺は心臓が痛いくらいに高鳴る。
「……とりあえずこの話はおしまいな」
「は、はい……」
もうこれからは冗談で変なこと言うのやめよう……。初めてこんなタイプの女子と関わるせいで全く対応できないし……。
ゆんゆんも同じなような感じで、ちらちらと俺のことを見てはぷいっと逸らすのを繰り返していた。恥ずかしいなら見なきゃいいだろうに……。
「あー、変なこと言ってごめんな? 今日会ったばっかのやつに」
「い、いえ、そんなことは……。わ、私はすごい嬉しかったですし……」
……この子の発言は計算してるとかそういうのがないから尚更タチが悪い。もう俺の心が簡単にコロッと持ってかれそう。
「…………」
「…………」
まぁ、やっぱりこうなるよな……。お互い恥ずかしさの限界で無言になってしまった。
……つーかまず今いるこの場所が異世界の時点でなぁ。冒険だってあるようなこの世界で、そういう恋愛やらそんな話が日常的な物なのかも分からないし……。
でもさっきゆんゆんは俺の言葉に嬉しいって言ってくれたんだよな……。つーかそれだけなのに顔真っ赤にしてる俺ってほんとなんなの……。
「……ん?」
そんな感じでかなりの時間を悶々としていると、隣から一定のリズムで整った呼吸音が聞こえてくることに気づく。
「すぅ……すぅ……」
……やっぱり心は元気でも身体は疲れてたのか。クエストだって大半はゆんゆんの活躍だったし疲れているのは当たり前か。
「しかしどうすっかこれ……」
空いてる寝室まで運ぶのはできるけど割と大変だよな……。かといって起こすのもあれだし。
……まぁ、しょうがないか。決してやましい気持ちなんてありません。
「よいしょっ……」
軽い掛け声と共にゆんゆんの身体を抱き上げる。所謂お姫様抱っこというやつだ。
うーん、驚くくらい軽いな。ちゃんと飯食ってるのか心配になるレベル。とりあえず行くか。
「ん……っ」
起こさないようにゆっくりと歩き出すと、それに合わせてゆんゆんが眉をくにゃっと曲げながら悩まし気な吐息を漏らす。あかん、死ぬ。
それでも何とか頑張って階段を上がり終え、ひとまずゆんゆんの顔を確認すると、ぱちっと彼女のくりくりとした目で見られてることに気づく。
……あ、あれ、今って目が合ったらいけない状況なのでは……?
「タ、タクミさん……っ」
ゆんゆんは顔を真っ赤にしながら少しだけ震える声で俺の名前を呼ぶ。しかし、それ以上の言葉は思いつかないのか口をぱくぱくさせながら上目遣いで見つめてきた。
な、何か言ってこの空気は変えなきゃ……!
「お、おはよう……」
「あ、お、おはようございます……」
……一番駄目やつやっちゃったわこれ。テンパりすぎて普通に挨拶しちゃったよ……。
うん、マジでこの状況どうすりゃいいんだよ……。
原作スピンオフでもそうですけど恋愛面の話に興味津々なゆんゆん可愛いですよね……。年頃の女の子って感じです。
ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!