この素晴らしい世界でイチャイチャを!   作:部屋長

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再会、そして新しい出会い。

 

 ジャイアントトードといういかにもデカそうなモンスターは、街のすぐ外の平野に出るらしい。

 ゆんゆんから渡されたこっちの世界の服。その上から金属製の篭手とすねあて、それと短剣。それを装備してから街の外へ向かっている。

 ……うん、笑えない。絶対お金返さなきゃ……。

 

「えへへ……お揃いっぽいよね……」

 

 ……なるほど。確かにゆんゆんの腰に差してある短剣と俺に渡してきた短剣は造形が似ている。

 だからこれを買ったとき何か嬉しそうな顔してたのか。

 初めてのパーティーメンバーがこんなに優しい子とか……。俺もう他の奴とは組めないかもしれん。

 大事にしようっていうか使うのももったいない気がしてきた。

 

「ジャイアントトードって強いのか?」

「あ、えっと、ある程度の冒険者になれば簡単に倒せるモンスターですね」

「それ俺勝てるの? バリバリの初心者だよ?」

「タクミさんのステータスなら大丈夫なはずです。頑張りましょう!」 

「ん、頑張る」

 

 いい笑顔すぎて自然とやる気上がってしまった。男なら当たり前だよね!

 そのまま適当にゆんゆんと話ながら街の外に出ると、既にこのクエストを受けているパーティーがいた。

 ……つーかそれよりも。

 

「ジャイアントトードってあれのこと……?」

「あれのことです」

「俺の知ってるカエルと何かが違うんですがそれは」

 

 俺が知ってるカエルはあれの何百倍も小さいんですけど。あれはカエルじゃなくてただの化物だ。

 先にクエストを受けていたのはさっきの茶髪の男子と紅い目をしたロリっ子……それと何かカエルから足がちょっとだけ出てるから1人は呑み込まれてるのか……。

 平原へ歩を進めるたびに空気の震えが大きくなっていくことに気づく。見ると、何かロリっ子のいる辺りの空気がピリピリしていた。

 そして、その空気が一気に爆発するように──。

 

「『エクスプロージョン』ッ!」

 

 そんな声が遠くから聞こえてくると同時に、平原に一筋の閃光が走り抜けた。

 ──それから先、俺はただ呆然と眺めることしかできなかった。

 ……なにあれ。カエルどこいった……? クレーターできてるんだけど……。

 やだ、魔法こわい……。隣にいるゆんゆんは驚き半分に呆れ半分の表情をしていた。

 

「め、めぐみん……」

「めぐみん?」

「あ、私の友だ……ライバルです」

「あんな子がライバルってゆんゆんも大変……だ、な……?」

 

 ロリっ子ちゃんうつ伏せになってぶっ倒れてるんですけど……。しかもさっきの爆音で下から出てきたカエルが近づいてるんだけど。

 うん、あれは絶対呑み込まれるわ。南無。

 

「わ、わああああ! め、めぐみん!」

「え、ちょ、ゆんゆん!?」

 

 俺が御冥福をお祈りしてると、唐突にゆんゆんが平原を駆け抜けた。遅れて俺も急いでついていく。

 走りながら呪文のようなものを呟くゆんゆんからピリピリとした空気が伝わってくる。

 

「『ファイアーボール』ッ!」

 

 ゆんゆんの声と共に、その名の通り火球がカエルに飛んでいく。火球が当たったカエルは綺麗に焼け焦げになった。

 ゆんゆんもすげぇ……。超カッコいいんだけど。

 そのゆんゆんはすたすたと倒れているロリっ子の元へ歩いて行く。あれ、なるべく会わないようにするんじゃなかったの? 大丈夫?

 

「ひ、久しぶりねめぐみん」

「……なぜまだここにいるのですか。何ですか? 私のことずっと見てたんですか? ストーカーなのですか? ていうか誰ですか?」

「ち、違うわよ! たまたまここを通っただけで! それに分かってるのに誰っておかしくない!?」

 

 どうやら大丈夫じゃなかったようです。そんなこんなでゆんゆんとロリっ子は仁王立ちと倒れた状態でわーわーやり始めた。すごいシュール。

 そうなると必然的に俺と茶髪の男子だけポツリと残ることになる。……カエルから未だに足が出てるけどそれに関してはそっと目を逸らした。

 

「あー、さっきは助かった。ありがとう」

「いや、俺は別に何もしてないから礼はあっちに言ってくれ。……つーか助かってないのもいるんだけど」

「あ、忘れてた。アクアー、生きてるかー?」

 

 カエルに呑み込まれているのを放置されていることよりもアクアという名前の方に意識が持っていかれる。アクア……やっぱあの時の水色の髪はそうだったのか。

 茶髪男子と協力してカエルを倒してから飛び出た足を引き抜く。う、うわ……全身ぬめぬめだ……。

 

「うわあああああ! カズマさあああああん!」

「わっ、ちょ、近寄るなバカ! だいたい何でそんな学習能力ないんだよ! お前昨日も呑み込まれたばっかじゃねーか!」

「だって! だってええええ!」

 

 ……語彙力貧困な女神もどきさんはそれはそれは哀れでした。

 

「よう。俺の言った通りほんとに天から堕ちてきたんだな」

「……誰?」

「ほんとに学習能力ねーじゃねーか」

「ん……? あ、思い出したわ! あの時私のことバカにしてきたやつね! えっと、確か名前はカズミ!」

「誰だよカズミって。タクミだよ」

 

 茶番にもほどがあるでしょほんと……。絶対こいつの冒険者カード知力低めになってるわ。

 すると、俺と女神もどきの話を聞いていた茶髪男子が話しかけてくる。

 

「えーっと、もしかしてタクミも日本から?」

「おお、ていうことは君がサトウカズマ君か。死因がひどすぎたって噂の」

「……それは言わないでくれ」

「お、おう」

 

 どうやらカズマにその事はタブーらしい。それにしても死人同士で話すってのは何か新鮮で不思議な気持ちだ。

 

「あ、そういえばタクミ。願いであなたにあげた家は? 家はどこなの? 住ませなさいよ」

「何でそれだけ覚えてんだよ」

「……駄目だアクア。それはタクミの願いで手に入れた家なんだし」

 

 言いながら、カズマは俺にしか見えない角度でグッと親指を立てていた。

 

 こ、こいつは分かってる……!

 

 多分カズマはゆんゆんと俺がひとつ屋根の下で暮らしてると思ったんだろう。それをアクアやカズマも一緒に住んだらフラグなんて立ちやしなくなっちゃうし。

 何て良識のある素晴らしい漢なんだ……。まぁ俺とゆんゆんは一緒に暮らしてないけどここはカズマの気遣いに乗っておこう。

 

「カズマ、お前とは仲良くなれそうだ。困ったときはお互い助け合おうな」

「おう、もちろんだ。これから仲良くしていこうな」

「な、何でよカズマさん! 馬小屋暮らしから脱出できるかもしれないのよ!?」

「はいはい、分かったからクエストは終わったんだしめぐみんも連れて帰るぞ」

「全然分かってないわよ! ね、ねぇ、カズマさん! あ、私が悪かったから置いていかないで!」

 

 めぐみんをおぶって歩き出すカズマに女神もどきは慌てて付いていった。最後まで騒がしかったけど元気そうだし何よりです。

 ……ただ何であいつはこの世界にいるのだろうか。本当に天から堕ちたとかそういうわけじゃなさそうだし。今度聞いておくか。

 これで残ったのは俺とゆんゆんだけだ。……んん?

 

「……何で泣いてるの?」

「うぅっ……め、めぐみんが『パーティー組んでもらっただけでそんな笑顔だなんてどんだけチョロインなんですか、バカなんですか』って言ってきて……そ、そんなことないですよね?」

「……それはめぐみんって子が正しいと思う」

「!?」

 

 うん、話変えた方がいいなこれは……。とりあえずゆんゆんがチョロインなのは全世界共通の認識ってのは理解した。

 

「で、あのカエルを何匹ぶっ倒すクエストなの?」

「えっと、……5匹ですね。さっき1匹は倒したのであと4匹です」

「うん、よく分かった」

 

 つまりカズマ達は5匹討伐し終えてないのにクエスト終わったと思って帰っちゃったのか。

 ……変に責任持っちゃいそうだしゆんゆんには言わないであげよう。

 

「じゃあまず私が弱らせるのでその後タクミさんが剣でスパッとやっちゃってください」

「お、おう」

「では……『ライトニング』ッ!」

 

 ゆんゆんは呪文を唱え、控えめな、それでいて強い電流がカエルを襲う。

 うわ、巨大カエルが死にかけでピクピクしてる。一発で逝かせてあげることもできたでしょうに……。

 

「そっちの趣味にだけは目覚めちゃ駄目だからな……」

「へ? 何のことですか?」

「いや、何でもない……。じゃあ行ってくる」

 

 ごめんねカエル。南無。

 

「じゃあこの調子でどんどんいきましょう!」

「おう」

 

 この後もカエルが現れたらゆんゆんが瀕死にさせて俺が討伐するを繰り返した。何度も悲しい気持ちになりました……。

 結局、カズマ達と出会ったこと以外は特に何が起こるわけでなく、俺とゆんゆんの初クエストは問題なく終了した。

 




予告としては次回、家に帰ります。ということでイチャイチャ回になるかも……?ゆんゆんの可愛さをいっぱい書ければいいなと思います!

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!

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