この素晴らしい世界でイチャイチャを!   作:部屋長

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紅魔族随一の恥ずかしがり屋で健気な女の子。

 

 何かとりあえずインパクト抜群の自己紹介をしてきたゆんゆんと言う少女は、未だに頬を真っ赤にしながら恥ずかしそうにうつむいている。

 ほ、本名だよな? まぁここは異世界だしってことで割り切るしかないか。

 

「うぅっ……は、恥ずかしい……」

「いや、カッコいいと思ったぞ? 中々センスのある自己紹介だった」

「ほ、本当ですか?」

「ほんとほんと」

「な、ならよかったです……」

 

 ……うん、ごめん。あれは完全に厨二病の類ですわ。

 でも何で自分で言ったのに恥ずかしがってるのかはよく分からないんだけど。この世界の自己紹介はそうしなきゃダメなのだろうか。

 

「あ、忘れてた。俺の名前は橋本拓海。よろしくなゆんゆん」

「よ、よろしくお願いします。……え、えっと、タクミ……さんはどうして女の子を呼ぼうとしたんですか?」

「そりゃもちろんイチャイチャした……いや、助けを求めていたからだ」

「えっ、な、何か困ってるんですか? わ、私で大丈夫かな……」

 

 ヤバい、眩しすぎて見えない。こんなに優しい女の子がいるなんて……。

 ……不純な理由だってことはもう一生言える気がしないです。

 でも困っているのは事実だ。このままだとあと一週間もせずに餓死して人生終了のお知らせがくることになるし。

 

「えっと、ゆんゆんは冒険者なんだよな? さっき中級魔法とか言ってたし」

「は、はい、そうですよ」

「じゃあ話は早い。その、俺も冒険者になりたいんだけどどうすればいいんだ?」

「あ、それなら今から冒険者ギルドに行きませんか? 私も早くレベルを上げて上級魔法を覚えたいので」

 

 迷惑そうな顔を一つもせずに笑顔を見せるゆんゆん。自分も用事があるように言ってさり気ない気遣いもしてくれるしこの子ほんとにいい子すぎない?

 ──俺、冒険者になって魔王を倒したらゆんゆんと結婚するんだ。

 そう決意した瞬間である。やだ、俺ってチョロインすぎ?

 

「ゆんゆんは本当にいいのか? 急に呼び出してこんなこと頼んじゃって迷惑じゃないか?」

「い、いえ! 全然迷惑なんかじゃないですよ! 私なんて誰かと会話するのも久しぶりなので……」

 

 ゆんゆんは恥ずかしそうにぽしょぽしょと呟く。何か最後に聞いてはいけないことを聞いた気が……。

 

「じゃ、じゃあよろしく頼むわ。案内してくれると助かる」

「は、はい!」

 

 

××××××

 

 

 俺とゆんゆんは適当に話しながら冒険者ギルドへ向かっていく。

 ゆんゆんは本当に誰かと話すのが久しぶりなのかさっきからずっと楽しそうに話している。

 何か見てるだけでこっちが幸せになってくる、そんな感じだ。超和む……。

 

「へー、ゆんゆんは一人で旅してるのか」

「ほんとは友だ……ライバルと一緒だったんですけどね。私が上級魔法を覚えたらその時決着をつけようってことで旅に出たんです」

「おお、何か面白い展開だな」

「お、面白いんですかね……。あ、ここが冒険者ギルドです」

 

 銭湯行くときにたまに見てたけどここがギルドだったのか。てっきりただの酒場だと思ってた。

 ギルドをまじまじと眺めていたその時、中から人が出てきた。

 出てきたのは俺と同年代くらいの茶髪の男子に、ゆんゆんと同じ紅い目をしたロリっ子、それと水色の髪をした……へ、水色……?

 あれってもしかして……と思っていると、俺の後ろにゆんゆんが隠れていることに気づく。

 

「どうした?」

「あ、あの子が私のライバルです」

「……ああ、そういやバレたくないんだっけ」

「多分今見つかったら何言われるか分からないですし……」

 

 うん、まぁ事情も分かってるし隠れるのはいいんだけど、俺の服をぎゅっと握るのは勘弁して欲しい。何か恥ずかしいです。

 

「行きました……?」

「ん、もう行ったぞ」

「はぁ……気づかれなくてよかったぁ……。じゃ、じゃあ入りましょうか」

「おう」

 

 横に並んできたゆんゆんと一緒に中に入る。

 

「いらっしゃいませー。お仕事案内なら奥のカウンターへ。お食事なら空いてるお席へどうぞー!」

 

 ウエイトレスのお姉さんが出迎えてくれる。なるほど、つまり酒場兼冒険者ギルドってことか。

 つーかゆんゆんの服装もそうだけど、この世界の女性はみんな服装が大胆な気がします。

 

「えっと、あそこで冒険者になる手続きができますよ」

「分かった」

 

 用は終わったからここで解散とはならず、俺の数歩後ろ分の距離でゆんゆんもついてくる。

 本当に健気で真面目な子だと思う。俺が冒険者になるまで見守ってくれるのだろうか。

 とりあえず、行列だが一番美人さんのところへ迷わず並ぶことにした。

 

「あ、あの、何で一番並んでるところに行くんですか?」

「身体が勝手に動いた」

「は、はぁ、そうですか」

 

 ちょっとだけ呆れるような顔をするゆんゆんに俺は目を逸らした。こればかしは男ならしょうがないことだ。

 その後はギルドへ来るまでと同様にゆんゆんと適当に話し続けた。ここでも本当に楽しそうに話すのでまた和んだ。

 やがて、自分たちの番が回ってくる。

 

「はい、今日はどうされましたか?」

 

 ……ハ、ハレンチだ! 何だこの金髪巨乳美人は! こんな年上のお姉さんが受付だなんて!

 異世界に来て本当に良かったです。

 

「えっと、冒険者になるにはどうすればいいですか? 最近遠くから来たばかりで何も分からなくて」

「はい、分かりました。では登録手数料が掛かりますが大丈夫ですか?」

「……いくらですか?」

「千エリスです」

 

 うわ、俺の最後の風呂代と夕食代が飛んだ。やっぱり今日から働くしかないか……。

 

「はい、確かに受取りました。では、最初に冒険者について簡単な説明をします」

 

 それからお姉さんから冒険者の説明を受ける。一瞬冒険者になるのを止めようかと思ったが何とかとどまった。

 

「ではこちらの書類に身長、体重、年齢、身体的特徴等の記入を願いします」

 

 身長172センチ、64キロ、年は16、黒髪、黒目の超絶イケメンっと……。

 ゆんゆんがこそっと覗いてきてるのは気づいてないことにしといた。別に見られても困るものじゃないしな。

 

「あ、あの、ちゃんと書いてください」

 

 超絶イケメンの部分は消して、チンピラみたいな風貌のそれなりの二枚目顔と書いておいた。

 

「は、はい。ハシモトタクミさんですね。では、こちらのカードに触れてください。それであなたのステータスが分かりますので」

 

 ほう、この世界はこんな感じで発展してるのか。触るだけで分かるって文明すげぇな。

 隣に来たゆんゆんがわくわくした目でカードを見つめている。……頼むから雑魚いステータスだけはやめてくれよ。

 そう思いながら俺はカードに触れた。

 

「……はい、ありがとうございます。……生命力がゴキブリ並に高いですね」

「ゴキブリはやめてください。つーかこの世界もゴキブリいんのかよ……」

「それと筋力もそこそこ高いですね。それ以外はほぼ普通ですが十分な高ステータスだと思いますよ?」

「おお、マジですか」

 

 何か知らんけど結構良さげな感じらしい。ゆんゆんもキラキラした目で見てるし。

 ……ふむ、生命力と攻撃力か。異世界に来たんだし魔法とか使おうと思ってたけど日本にいた頃とやることは同じになりそうだな。

 

「タクミさんのこのゴキブ……素晴らしい生命力と高い攻撃力ならクルセイダーなどはどうでしょうか?」

「クルセイダー?」

「最高の防御力を誇る聖騎士のことです。これから防御系のスキルを優先して上げればゴキ……素晴らしい生命力も相まって優秀な壁になれると思います。しかもタクミさんは攻撃力も高いので守りも良し、攻撃も良しの素晴らしいクルセイダーになれると思いますよ!」

「さっきからちょくちょくゴキブリ言いかけるのやめてくれませんかね。……クルセイダーか。ゆんゆんはどう思う?」

 

 ずっと横で見ていたゆんゆんに話しかけると、びくんっと身体を跳ねさせてわちゃわちゃと慌て始める。

 

「え、えっと、わ、私はいいと思いますよ! でもモンスターから仲間を守ることになるので痛いかもしれませんけど」

「じゃあやだ」

「え!?」

「だって痛いんだろ?」

「そ、そうですけど……」

 

 ゆんゆんも受け付けのお姉さんも驚いた顔をしている。そんなにクルセイダーって職業は珍しいのだろうか。

 いや、確かに珍しそうだけど。だってその職業絶対ドMくらいにしか需要ないでしょ……。

 

「……他になれる職業ってありませんか?」

「え、ええと……タクミさんは生命力と筋力以外はほとんど普通なのでそれ以外は冒険者くらいしか……」

「じゃあそれで」

「え、いいんですか? 基本職で万能職ではありますけど最弱職ですよ? せっかくクルセイダーになれる才能があるのに……」

「いえ、冒険者で大丈夫です」

 

 本当はせっかくの異世界だし魔法使いにでもなりたかったけど魔力は普通らしいし……。でも冒険者なら一応万能職らしいし多少の魔法は使えそうだしな。

 それに最弱職にして最強みたいな方が憧れるのが男の子というものだ。

 ということで、俺は冒険者で最強を目指すことにした。

 

「は、はぁ、それでは冒険者ギルドへようこそタクミ様。……クルセイダーに転職したくなったら言ってくださいね」

 

 どうやら上級職は本当に珍しいそうだ。受け付けのお姉さんとのフラグはここでへし折れたそうです。南無。

 

「……な、何だかタクミさんはもったいない気がします」

「……転職できるようになったら考えるわ」

 

 やっぱりクルセイダーで最強を目指そうかな……。ゆんゆんからの残念そうな物を見る視線が辛すぎた。

 受け付けのお姉さんに礼を言ってから、とりあえず俺とゆんゆんは空いていた席に座った。

 

「さて、これからどうするか。冒険者としてはパーティーとか組んだほうがいいのかね」

「……あっ、あっ、……あの」

 

 ゆんゆんは何か言いたそうに、それでも恥ずかしくて言えないのか口元をもにゅもにゅとさせている。

 ……俺から言った方がいいのかなこれ。

 

「ぱ、ぱぱぱ、パーティーなら、その、……わ、私と──」

「ゆんゆんはソロなのか?」

 

 ヤバい、間違って被せるように言っちゃった……。ゆんゆんがあんなに頑張ってたのに何してんの俺……。

 顔を真っ赤にしてちょっと涙目のゆんゆんがこくこくと頷く。

 

「じゃあ最弱職の俺だけどよければパーティー組んでくれないか?」

「……今なんて?」

「俺とパーティー組んでくれないか?」

 

 もう一度言うと、ゆんゆんは不安と嬉しさが入り混じったようなちょっとだけおかしな表情をする。

 

「そ、その、私でいいんですか? 今まで募集してもほとんど誰も来なかったし来たのはおじさんばかりで……」

「いや、ちょっと待って。おじさん? え、何もされてないよな? 大丈夫だよな?」

「あっ、だ、大丈夫です。お気遣いありがとうございます……」

 

 顔を赤らめて少しだけ頬を緩ませるゆんゆん。俺も人のことは大して言えないけどこの子もチョロインなんじゃないだろうか。

 

「じゃあ改めてもう一回聞くな。……もしよければ俺とパーティーを組んでくれたら嬉しいです」

「はっ、はいっ! よ、よよよ、よろしくお願いします!」

 

 嬉しそうに言いながらぺこぺこと頭を下げてくる。周りからの視線が凄い生暖かい気がする。

 ……もう恥ずかしいから早くお家に帰りたい。

 

「じゃ、じゃあさっそくクエストに行きませんか!?」

「お、おう」

 

 ゆんゆんはちょっとだけ興奮気味な様子でクエストが貼られた掲示板のような所にパタパタと走って行く。

 パーティー組めたのが本当に嬉しいんだな……。何だか誘ったこっちまで嬉しくなってしまう。

 冒険者の登録の時とは逆で今度は俺がゆんゆんの後をついていく。

 

「な、何にしようかな。タクミさんは初めてのクエストだし簡単なのを……」

「何かいいのあったか?」

「んー……あ、ジャイアントトードなんてどうでしょうか? 私がいれば討伐は大丈夫だと思いますし。それにタクミさんも丸呑みにされない限りは大丈夫ですので」

「え、ちょっと待って。今めっちゃ不穏な単語聞こえたんだけど。大丈夫? 俺死なない?」

 

 にこにこ笑顔で丸呑みなんて言うもんじゃないと思うんだけど……。

 

「だ、大丈夫です! 私が守りますから!」

「ありがとうございます……」

 

 年下の女の子に守られるって情けないな……。うん、俺は初心者だしね、しょうがないよねってことで割り切ろう。

 

「あ、じゃあ装備も必要ですよね……。最低限の武器は私が揃えますので」

「ぜ、絶対にお金返すから……」

「い、いえ、気にしないでください! パ、パーティーメンバーなんですし助け合うのは当たり前ですから!」

 

 パーティーと言う単語を自分で言って恥ずかしがるゆんゆん。すごく良いと思いました。

 ……とりあえず、俺とゆんゆんパーティーの初クエストのスタートだ。

 




はやくイチャイチャさせたい衝動を抑えつつ。次回はタクミの実力がちょっとだけ分かるかも?

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!

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