この素晴らしい世界でイチャイチャを!   作:部屋長

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たまにはこんな休息を。

「あ、起きたか」

「んみゅ……おはようございます……」

 

 雪精討伐で軽いトラウマを植え付けられた翌日。珍しく俺より遅く起きたゆんゆんは、まだ眠たさが残っているのか目をくしくしとこすりながら隣に座ってくる。……ついでに着崩れたピンクのパジャマから除く胸元から視線を逸らす。

 いや、普段からゆんゆんの服は露出は多いんだけどパジャマだとまた変に意識しちゃうというか……。というか、この世界の女はみんな色々と緩い気がします。

 

「いつもは俺よりずっと早いのにどうしたんだ?」

「き、昨日のことを思い出すと怖くて眠れなかったんです……」

「あー……」

 

 やっぱゆんゆんはまだ駄目そうだな。正直俺もまだキツいし。

 んー……こればかりはどうしよもないし、何か気を紛らわせることでも言って少しでも楽になってもらうか。

 

「じゃ、あれだ。まだ怖いなら今日の夜は俺と一緒に寝ちゃうか?」

「ふぇ……?」

 

 冗談交じりに俺が言うと、よく理解できていないのかくりんと首を傾げるゆんゆん。また目をくしくししてる。で、また首を傾げた。

 何この可愛い生き物。

 

「……タクミさんと、私が一緒に?」

「そうそう。一緒に寝れば怖くないだろ?」

「寝る……あ……」

 

 そこでようやく理解できたのか、ゆんゆんは顔を真っ赤にしてわちゃわちゃと慌て始める。

 

「はわ、はわわわ……い、いい、一緒に寝るなんて……!」

「あ、いや、ゆんゆんが嫌ならいいんだけどな? 毎日そういうことが続くと今後のクエストにも響くだろ?」

「そ、そうですけど……」

 

 そもそもこれ冗談のつもりで言ったんだし。一緒に寝るとかしたら今度は俺が寝れなくなりそう。

 

「ほ、ほんとに、ですか……?」

「え?」

「その、……ほんとに、一緒に寝てくれるんですか……?」

 

 ゆんゆんは俺の服の袖をきゅっと握り、掠れた声で不安げに聞いてくる。潤んだ瞳からは断らないでと切に伝えてきているようで。

 ……相当トラウマになっちゃってるなこれは。しっかりしてるけどそこはやっぱり俺より年下なんだよな。それに女の子なんだし尚更か。

 

「……ん、いいよ。今日は一緒に寝ような」

「は、はい……っ!」

 

 しかしこれはやっぱり男として見られてないのだろうか。この数ヶ月一緒に生活してるからか、一緒に寝ることまで了承してくれるようになってはいるんだが。

 嬉しいようなちょっとだけ複雑なような……。ま、今はゆんゆんの心のケアのが先だよな。

 

「んじゃ、ついでだ。今日一日はゆんゆんのお願いは何でも聞いてあげよう」

「え、今なんでもって言いました?」

「食いつくの早くない?」

「で、でもどうしてそんなこと……」

「いつもゆんゆんには助けられてるし、そのお礼ってこと。今日はクエストも受けないんだしやることもないしな」

 

 このくらい言わなきゃゆんゆんは遠慮しちゃうって分かってるしな。今日くらいは思いきり甘えてもらうことにしよう。 

 

「あ、あの、じゃあ……さっそくですけど1つあります……」

「おお、マジか。何でもいいぞ」

 

 言うと、もじもじしながら躊躇いがちに、ゆんゆんは俺との距離を縮めてきた。野球ボール1つぶんもないくらいの近い距離に思わず身を引いてしまいそうになる。

 

「……あ、あたま、撫でてください……」

「え、そんなんでいいのか?」

「昨日の夜タクミさんに撫でられたとき、その、すごく落ち着いたので……」

「お、おお。それくらいならいくらでも」

 

 急に近づかれたからめっちゃドキドキしたけど、まさかそんなお願いだったとは……。ちょっとだけ拍子抜けだ。

 ま、いいかと切り替えて、ゆんゆんの頭に手を置いてくしゃくしゃと撫でる。距離が近いこともあって、ほんのりと甘い匂いが鼻腔をくすぐる。それに加えて、ゆんゆんの吐息が微かに震えているのも分かる。

 

「え、えへへ……安心します……」

 

 ゆんゆんは幸せそうに目をとろんとさせながら、撫でられるリズムに合わせて心地よさそうに身体を揺らす。俺と目が合うと、恥ずかしそうにほにゃっと頬を緩ませた。

 

「タ、タクミさんはもう平気なんですか?」

「んー、平気ってわけではないかな。思い出すのはまだちょっと怖いし」

「そうですか……あの、じゃあ」

 

 口元をもにょもにょさせて言い淀んでいたが、すっと手を伸ばしてきて。

 

「わ、私もタクミさんの頭を撫でます!」

「え?」

 

 意味を聞く間もなく俺の頭にゆんゆんの手のひらの感触が伝わってくる。え、何この状況。

 

「ど、どうですか?」

「いや、なんつーか恥ずかしいなこれ……」

 

 年下にこんなことされてるって恥ずかしいにも程があるだろ。めっちゃ顔熱いんだけど……。

 

「ふふ、可愛いです……」

「っ……年上をからかうんじゃありません」

 

 お返しと言わんばかりにわしゃわしゃと撫でてやると、ゆんゆんは更に嬉しそうに目を細めた。

 たまに攻めに回ったときの破壊力が凄すぎて辛いです、はい。

 

××××××

 

 午前中はお互いの頭をわしゃわしゃするだけで終わってしまったので、昼食を食べにギルドへ向かった。いや、頭撫でてるだけとか何してんだろほんと……。楽しかったからいいけど。

 何だかご機嫌な様子のゆんゆんを連れて、いつも座る席ではなく受け付けへ向かった。不思議そうに首を傾げながらも俺の後ろをてくてく付いてくるのがとても可愛いと思いました。

 その前に、なぜ俺が受け付けへ向かったのかと言うと。

 

「バイト、ですか?」

「やっぱり難しいですかね……」

「いえ、難しいかどうか以前に、冒険者の方でそのようなことを言ってきた人は初めてですので……」

「ですよねぇ……」

 

 お姉さんと一緒にあははーと苦笑いを浮かべる。突然変なこと聞いてすみませんほんと……。

 

「確かに男性スタッフの人手は少ないので助かりますが、タクミさんはデュラハン討伐の報酬もあるのですしお金に困ってはないんじゃないですか?」

「お姉さん」

「はい?」

「お金は人を駄目にしちゃうんですよ……」

「分かります……」

 

 分かられちゃったよ。とりあえず絶対無理ってことはなさそうだからよかった。

 ……なぜ俺がバイト云々について聞いているのか。簡単に言ってしまえば、駄目人間にだけはなりたくないって理由からだ。

 こっちの世界の生活にも馴染めてきたが、やはり何もしないでいるのはすごくムズムズするのだ。金だけは無駄に持ってるけど、学生でも社会人でもない今の状況を客観的に考えてしまったらもう耐えられませんでしたね。

 つまりあれです。倫理観には勝てなかったよ……。

 

「じゃあ大丈夫そうですかね?」

「ええ、こちらもタクミさんのことは信頼していますし大歓迎ですよ。クエストも合わせて今後はよろしくお願いしますね」

「はい、こちらこそよろしくお願いします!」

 

 よろしくの挨拶なのか、明るい笑みを浮かべるお姉さんにぎゅっと手を握られる。お、おお、近い……というかこの人胸元が無防備すぎてどこ見りゃいいか分からないから困るわ……。

 ──その時。ぞっと寒気のするほどの違和感を後ろから感じた。え、なに? 殺気?

 

「……タクミさん?」

「ひっ……」

「なに、してるんですか?」

 

 聞いてくるゆんゆんの視線には未だに握られている俺とお姉さんの手。午前中までとは全く違うハイライトが行方不明の淀んだ瞳に、俺とお姉さんは同時にバッと手を離した。

 

「ゆ、ゆんゆん……?」

「なに、してるんですか?」

「え、えと、よろしくお願いしますの挨拶、みたいな?」

「だめです」

 

 えっと、駄目ってなんのことだろうか。何かマズいこと……あ。

 

「あ、もしかしてバイトするの嫌だったか……? 黙っててごめんな。ちょっと驚かせようと思ってて」

「そっちじゃないです」

 

 普段と全く違うぞっとするほど冷たい声で、俺の瞳をじっと見つめてくるゆんゆん。思わず固まってしまうと、先ほどお姉さんに握られた手をぎゅっと握られて。

 

「タ、タクミさんは私以外の女の人に触ったらだめなんです……」

「お、おお……」

 

 何これ新手のプロポーズ? とりあえず落ち着いて話すしかないなこれは……。

 

「じゃ、じゃあお姉さん。詳しい話はまた今度お願いします」

「は、はい」

 

 握られた手をそのまま繋ぐように絡めて、人が少なめの奥の方までゆんゆんを連れていき隣同士で座る。繋いだ手を見てようやくゆんゆんは普段の恥ずかしがる表情に戻っていた。

 しかし、すぐにむすっとした表情になってしまった。おお、珍しい……というか初めてだな。

 

「そ、そんなに嫌だったか?」

「い、嫌でした……」

「……そっか。じゃあこれからは気をつけるよ」

 

 初めて見せるゆんゆんの感情に少し戸惑いつつ。……これが独占欲ってやつだろうか。

 めっちゃ可愛かったけど本当に怖かった……。

 

××××××

 

 昼のちょっとした事件を除けば、比較的に穏やかな一日だったと思う。帰ってからはゆんゆんの希望でボードゲームやトランプの類で遊んでいたらあっという間に夜になっていた。

 何でもお願い聞くって言ったんだしもうちょっとワガママ言ってくれてもよかったんだけどな。まぁそこがゆんゆんらしいんだけど。

 そんなことを考えていると、風呂上がりのほかほかのゆんゆんが戻ってきて俺の隣に座る。毎日見てはいるが、風呂上がりだけは妙に色っぽいから未だにドキドキしてしまう。

 

「今日は楽しかったです」

「それならよかった。いい休憩になったな」

「はいっ」

「んじゃ、いっぱい遊んだことだし今日は寝るか?」

「ね、る……っ」

 

 想像でもしたのだろうか。ゆんゆんは頬を真っ赤に染めて、恥ずかしそうに俯いてしまう。

 ううむ、昼はちょっと驚かされたしこっちからもちょっと仕掛けてみるか……。お返しってことで。

 

「ゆんゆんが他の女の人に触って欲しくないって言ったんだし、今日はゆんゆんの身体をいっぱい触らせてもらうからな?」

 

 やべ、どう考えても完全にセクハラだこれ。日本だったら捕まってましたね。

 しかしゆんゆんは真に受けてしまったのか、口をぱくぱくさせてあわわとかはわわとか言いながらもじもじし始めてしまう。少しして、俺が全く意識していなかったことをぽしょりと一言。

 

「や、優しく、してください……っ」

 

 甘ったるい雰囲気を纏わせながら涙で潤んだ瞳で、震える声でそう伝えてきた。

 

「そ、それは反則……」

「え? は、はんそく?」

 

 何てことを言ってくるんだこの子は。それだけは考えないようにしてたのに頭の中一瞬でピンクになっちまったじゃねーか……。

 

「……んじゃ、行こっか。部屋はどっちの部屋にする?」

「えっと、タクミさんの部屋を見てみたいです」

「ん、分かった」

 

 煩悩退散とひたすら頭の中で素数を数えながら、二階の自分の部屋へ行く。中へ入って手招きするとゆんゆんは「お、おじゃまします……っ」と律儀に言いながら緊張の面持ちで入ってくる。

 

「わぁ……っ」

「ああ、入るのは初めてだっけ。何もない部屋ですがどうぞどうぞ」

「は、はい……っ」

 

 まぁ言っての通り寝るとき以外使わないから本当に何もないのだが。ちょっと俺も色々と危ないしさっさと寝るのが一番だな……。

 先にベットへ行って寝転がり、こっちへ来ることを促すように隣をぽんぽんと軽く叩く。やべ、めっちゃ緊張してきた。

 

「……ん、いいよ」

「お、おじゃまします……」

 

 ベットへ上がり四つん這いになってこちらに近づいてくるゆんゆんに心臓が痛いくらいに高鳴ってしまう。恥ずかしいからか、ゆんゆんは俺の顔より少し下に横になった。

 

「……眠れそうか?」

「は、恥ずかしすぎて……あぅ……」

「でも1人だと怖いんだろ?」

「うぅ……タクミさんはいじわるです」

 

 いや、ごめんね? 冗談でも言ってないともう耐えられそうにないんですよね色々と……。

 

「……お昼はごめんなさい」

「え? あー、あれか」

「はい……タクミさんが受け付けの人と仲良くしてるのを見たら何だか取り乱しちゃって……」

 

 ぽしょぽしょと言葉を紡ぐゆんゆん。首筋にかかる吐息もくすぐったいが、ゆんゆんが言ってくることはもっとくすぐったいものだった。

 

「んー……ちょっと嬉しかったかな」

「え? 嫌じゃないんですか?」

「まぁちょっと驚いたけど……多分独占欲ってやつだろ? ゆんゆんは普段控えめなんだし可愛いくらいだよ」

 

 こんなことを簡単に言ってしまう辺り相当テンパってるなと自分に呆れていると、声にならないような唸り声を上げながらゆんゆんがぎゅーっと抱きついてきた。

 ……え? ちょ、え、マジ?

 

「じゃ、じゃあ、いいですよね? もうちょっとだけわがまま言ってもいいですよね……?」

「お、おおう……い、いいけど……」

 

 年上としての余裕を今まで何とか見せようと頑張ってきたけどそろそろ限界かもしれません。いやほんと何なのこの甘ったるい空気は……。

 ……怖いって言ってたのはどうしたんだか。赤らんだ頬をぷにぷにと押すと、眉をくにゃりと曲げて不思議そうな顔をしながら胸元に顔を埋めてきた。

 可愛いな、そう思うと自然と笑みが零れてしまう。まぁ今日は絶対寝れなそうだけど、それは役得ってことで。

 




お久しぶりです。2期が終わってからしばらく抜け殻でしたが復活しました。もう一つのこのすばss含めてこれから更新頻度上げていけるよう頑張ります。

ではでは今回もお読みいただきありがとうございました!

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