「橋本拓海さん、ようこそ死後の世界へ。あなたはつい先ほど、不幸にも亡くなりました。短い人生でしたが、あなたの生は終わってしまったのです」
目を開くと、俺は真っ白な部屋にいた。そして、目の前にいる水色の髪をした人間離れしている美少女から、唐突にそんなことを言われた。
……そういや俺、死んだんだったな……。
いい感じになった女の子が実は学校の先輩、しかも不良グループのリーダー的な存在で……。そのことに難癖付けてきた不良複数人に絡まれたんだっけな。
元々女運は悪かった俺だが『あんたみたいな男があたしに釣り合うわけないでしょ! バカじゃないの!』と、まるで漫画やドラマでも最近じゃ聞かないようなことを言われた俺はブチ切れてしまった。
その後は人気の少ない場所だったから好き放題暴れていたわけなんだが、慌てた相手の1人が近くにあった鉄パイプを思いっきりぶん回してきて……。
……思い出すと吐き気がしてきた。やるならやるで痛みなんて感じないようにしてくれよマジで。
……まぁ鉄パイプが頭に当たっても意識失わない俺もどうかと思うけど。ゴキブリ並の生命力と言われても全然嬉しくなかった。
はぁ……なんつーか虚しい人生だったな。男友達には普通に恵まれてたけど女は毎回駄目なのばっかで……。
うん、もういいか。どうせ死んじまったんだし今さらどうこう言ってもな……。
「それで、俺は天国へ行けるんですか? 最後かなり暴れたと思うんですけど」
「本当に大暴れでしたね。6人相手にあそこまでやるのも中々だと思うんですけど」
「いやほら、俺って女運なくて毎回こんななんすよ。で、今回は相手が不良でさすがにヤバいと思ったので暴れました」
「結局死んでますけどね、ぷふっ」
「…………」
何か笑われた気がするんだけど気のせいだろうか。ついさっきまで暴れてたからまだ気が立ってるんですけど。
「で、天国へ行けるかどうかの話でしたね。私の名はアクア。日本において、若くして死んだ人間を導く女神よ。そこで、あなたには二つの選択肢があります」
「というと?」
「一つはあなたの言ったとおり天国へ行くこと。もう一つは生まれ変わって新たな人生を歩むこと。あ、天国に行くとお爺ちゃんみたいな暮らしになるわよ」
「ほー、なるほど」
記憶が飛んで新しい人生か天国へ行って隠居暮らしか……。何かどっちも複雑だな。
俺の微妙な顔を見て、女神さんは待ってましたと言わんばかりに表情を明るくさせる。
「さっそくだけどあなた、異世界へ行きたいとは思わない?」
「は? 異世界?」
「そう、異世界よ」
その後、楽しそうに説明をした女神さんの話を簡単にまとめると、今の記憶を引き継いで異世界へ飛んで魔王をぶっ倒してこいって話だ。
ということは冒険者になって毎日仲間とモンスターと戦ったりするってことだろ? なにそれ超楽しそうなんですけど!
それにその異世界で魔王を倒せば今度こそ女にモテモテになれるのでは……?
「よし、その話乗った」
「お、決断が早くて助かるわ。じゃあそんなあなたにはあっちの世界へ好きなものを持っていく権利を与えましょう」
「え、マジで? 何でもいいんですか?」
「ええ、もちろんよ。じゃあこのカタログを参考にして」
女神さんから受け取って中身を確認する。
……え、なにこれ全部チートっぽいんだけど。こんな武器持った日本人送りまくってもまだ魔王に勝ててないの?
ていうことは魔王軍ちょっと強すぎない……?
え、えぇ……ただの不良相手に喧嘩で負けて死んだ俺が勝てるとは思えないんだけど。でも天国で隠居暮らしも嫌だしなぁ……。
うんうん悩んでいると、唐突に立ち上がった女神さんがお腹を抱えて笑い出した。
「あはははっ! 超ウケるんですけど!」
「はい?」
「ついさっき死んだ佐藤和真って子の死因が超面白いの!」
……え。この女神さんは人の死因で腹抱えて笑ってるの?
たった今、さっきまで女神だと思ってた彼女が女神もどきに成り下がった瞬間である。女神って何だっけ……。
あの世の女も駄目なのばっかなのかよ……。異世界は大丈夫なんだろうな……。
「ほらほら、拓海さんもはやく持ってくもの決めちゃって! 私はこの人と話すの楽しみになっちゃったから!」
「おい、本当にいいのかそれで……」
女神もどきさんがゲラゲラ笑っているのを横目に、チート武器一覧に再び目を通す。
今まで似たような武器を持って行った日本人がいても未だに魔王に勝てていないのは事実なのだろう。しかも俺には秘めた力なんてあるわけないだろうし当然勝てるはずもない。
俺としては魔王を倒して女の子にモテモテになるより、最初から1人の女の子と一緒の家で過ごして少しずつ関係を深めていきたい。
ならやっぱり女神もどきさんへのお願いは一つだけだ。
「なぁ女神もどきさんよ」
「もどきじゃないしアクア様と呼びなさい。で、なに?」
「他に死んだ子で可愛い女の子とかいないの? いるなら俺その子と一緒に異世界行きたいんだけど」
「いや、無理に決まってるじゃない。基本的に死んであっちの世界に行こうとするのなんて男しかいないんだし。できるとしてもあっちの世界にあなたを飛ばしてからあっちの世界の女の子をあなたの目の前にテレポートさせるくらいしか無理よ」
ほう。良いことを聞いてしまった。
「じゃあそれでいいわ。よろしくー」
「え、ほんとにいいの? どの女の子かもランダムよ? それに、急に別の場所に飛ばされたあげく目の前に知らない人がいたらパニックになるだけじゃないかしら」
「そこは口説き落とすから任せとけ」
「鏡あるけど見る?」
「うるせぇ!」
「あ、女神に対してうるさいなんて失礼ね! 罰が当たるわよ!」
どうやら俺とこの女神もどきさんは仲良くできないらしい。つーか口調といい態度といいほんとに女神なのだろうか。
最初はもっと柔和な感じだと思ってたのに今じゃただの子どもにしか見えないぞ……。
「はぁ……もういいわ。じゃあそれで決まりね。言っておくけどお願いはお願いなんだからもう神器は持っていけないわよ?」
「了解。あ、あともう一つだけ簡単なお願いがあるんだけど」
「何かしら?」
「家が欲しい。宿じゃやることやれないだろうし」
ドン引きする女神もどきさんが、真面目な顔で聞いてくる。
「……あなた、本当に魔王を倒すつもりはあるの?」
「…………」
何も言えない俺に女神もどきさんはうわぁと呆れる表情をした。
ヤバい、このままだと断られる──!
「アクア様って本当に綺麗ですよね。ここであなたのような素敵な女神様に会えたので、今では自分の死も案外無駄ではなかったとさえ思えてしまいます」
「あらそう? やー、そこまで褒められても何も出せないわよ? あ、お菓子あるけど食べる?」
何も出せないとか言いつつお菓子出してんじゃねーか。つーか今どっからスナック菓子出した。
「なので、ここは敬愛なるあなたの信者の私にどうか家を授けてはくれないでしょうか。魔王を討伐するためには英気を養う場所も必要なのです」
「ま、まぁそこまで言われたらしょうがないわね! あなたには特別に2つの願いを叶えてあげるわ! 家もちょっとだけ豪華にしてあげる!」
チョロい。
「じゃ、可愛い女の子が目の前に現れるのとそれなりに豪華な家の2つでよろしくな。ありがとう女神もどき!」
「あっ、あなたまたもどきって言ったわね!? さっきの態度は何だったのかしら!」
「媚を売りましたありがとうございます! あ、女神様だし今さら取り消しとかするわけないですよね! だって女神様ですものね!」
「ああもう騙されたわ! あなた罰が当たるわよ!? ……もういいわ。じゃあ行ってらっしゃい」
「え、もう?」
女神もどきさんが言うと、青く光る魔法陣が足元に現れた。え、なにこれ怖いんだけだ。
「だって魔王倒すつもりもなさそうだしお決まりのセリフ言う必要もないかなーって」
「うわ、セリフって言いやがった。ほんとに女神かよ……」
「なっ、失礼ねほんと。あなたくらいよ私にそんなうだうだ文句言ってくるのは!」
いや、確かにさっきのはやりすぎたと思ったけど。まだちょっとだけ気が立ってから反省はしている。
「……何か俺、あっち行ったらお前に会える気がしてきたわ。そのうち天から堕ちてきそう」
「ふん、それは無理な話ね。ここでお菓子食べながら働くのが一番楽だもの。でもあなたのせいで疲れたから今から佐藤和真って子の死因をいじくりまくってストレス解消でもすることにするわ」
「お前……」
死因は分からないけど不憫すぎるよ佐藤くん……。異世界で会えたなら日本人同士で仲良くしよう……。
「それじゃあ拓海さん。行ってらっしゃーい」
「おう。あ、あとさっきは悪かった。ちょっと言いすぎたけど女神さんのおかげでそれなりにやっていけそうだわ」
言うと、女神もどきさんは目をまん丸とさせるが、すぐに表情を柔らかくして。
「ふふ、最初からそう言えばいいのよ」
笑みを浮かべる女神さんを見て、やっぱりまたどこかで会えそうだと思いつつ、俺は白い光に包まれた──。
××××××
──異世界に来てもう2週間くらい経ちました。……うん、どうしてこうなった。
異世界に飛ばされた時は『馬車! 馬車が走ってる! レンガの家って中世ヨーロッパかよ! 電柱も電波塔もない! つーかあれ獣耳!? やっべー!』と大はしゃぎだったんだ。
まぁそこまではよかったのだ。だが、すぐに女神もどきさんへのお願いの女の子が現れると思ったら現れず、俺のポケットには一つのボタンのある謎のスイッチみたいなものと、地図だけが入っていた。
とりあえず地図が示す場所に行ってみたらまさかの不動産屋だった。そこで自分の名前を伝えたら『あなたがハシモトタクミさんですか! ではではさっそく案内しますよ!』と言われて家は大丈夫そうだなと思いながら連れてかれた場所は街の郊外にあるデカい屋敷だった。
おお、女神もどきさんも活きがいいじゃないですかーとも思ったが最後の不動産屋さんの言葉に絶句した。
『ローンは35年契約となっておりますのでこれからよろしくお願いしますね。……というかこんな屋敷アクセルにあったっけ。私もついにボケが……』
多分それはボケではないと思うよ不動産屋さん。女神もどきさんが職権乱用しただけだと思うの。
それよりローンってなんだよ。俺金なんて持ってねーぞ。
この世界の金の基準は分からないけど屋敷の大きさからして働かなきゃ大変なことになりそうなのは確定だ。
こんなことなら女神さんに頼まずに普通に宿での生活にすればよかった……。欲ばりはやはりよくなかった。
まぁあの女神もどきさんを煽てたかいはあったようで、ある程度の生活費と食料は屋敷の中にあった。……それももう底がつきそうなのだけれど。
手元に残ってるのは夜入るための銭湯代と最初にポケットに入ってた謎のボタンのスイッチだけだ。
家の風呂はなぜか動かなかったから銭湯通いだ。異世界なりのやり方があるんだろうけど、この2週間銭湯へ行く以外は基本引き篭もってたからやり方が未だに分からない。
謎のスイッチはもってのほかだ。あの女神もどきさんに貰った物なんて信用できるわけがない。
金は尽きるしローンは払うしかないし未だに人と会話もろくにしてないしやることないから昼寝ばかりで……何か日本にいる頃より酷い生活になりかけてるんだけど。やっぱ学校へ行かないぶん働くしかないのか……。
俺は日本にいる友達より一足先に俺は社畜の仲間入りになるようです……。16歳でこんなことになるなんて……!
ブラック企業だけは絶対に嫌だな……。まぁ色がついてるだけいいほうか。俺なんて色もない無職だしな……ははっ。
自分で言ってて辛くなってきた。職探しは明日からにしてそろそろこの謎のスイッチでも押すことにしてみるか……。
××××××
謎のスイッチだけを持って屋敷の庭に来た。屋敷を改めて見て思うがやはり普通の一軒家の数倍は大きい。
……ほんとに月のローン代いくらになるんだろうか。
いや、今はそのことは気にしちゃいけない。気にしなきゃ駄目だけど今はこのスイッチだ。
「ふぅ……」
俺は意を決して押してみる。
ぽちっ。
「……女神もどきさんのイタズラですかこれは」
何も起きないことに諦めて屋敷に戻ろうとしたその時──頭上からボンっと変な音が聞こえた。
音に釣られて上を向くと、上から何かが落っこちてきたああああ!?
「きゃああああああっ!?」
「うおっ……ってぇ……」
上から来た何かを地面に落とさないように身体全体を使って抱き寄せる。が、さすがに落下速度もあるので俺が下になって地面に倒れる形になる。
──頭上から降ってきたのは紅い目をした女の子だった。それもかなりの美少女の。年は俺の一つか二つくらい下だろうか。
今はその女の子が俺の腹の上に馬乗りになっている。きょろきょろと周りを見渡していた。
うん、女神さんはもどきではなかったようです反省します。ありがたや……!
「あ、あれ? え、な、何で私またアクセルに戻ってきてるの……?」
彼女はしばらくきょろきょろと周りを見回すと、下にいる俺に気づいてぱちりと目が合う。
「え、あ、ちょ、だ、だれ……え、その前に、な、何で私がこの人の上に……!?」
てっきりきゃーきゃー騒がれてボコボコにされると思ったが、うつむいてもじもじしてしまった。
うつむくと俺とまた目が合うので彼女は頬を赤く染めてしまう。今まで関わってきた女がろくでもなかったから、こういう反応をされるとドキがムネムネしてしまう。
これがちゃんとした女の子の反応……!
いかん。ちょっと興奮してしまった。とりあえず状況を説明してあげよう。
「俺がお前をここに呼び起こした!」
「えぇっ!?」
ドン引き発言だが彼女は驚いた表情をして慌てふためく。しかしすぐに紅い目をキラキラと目を輝かせて。
「そ、そんなことができるんですか!? そんな凄い魔法を使えるなんて……!」
彼女は目を輝かせながら尊敬の眼差しで見つめてくる。この子は危機感が欠如でもしてるんだろうか。見ず知らずの男が呼び起こしたんだぞ?
とりあえずスイッチはポケットに入れて隠しとこう。
「ごめん、今の冗談です」
「!?」
「あー、簡単に言っちゃうと、女神もどき……ある人に何でもお願いを叶えてくれるって言われたから『可愛い女の子を目の前に呼んで欲しい!』って頼んだら君が上から落ちてきた」
「か、可愛い女の子で私が……?」
頬を赤らめてもじもじとする。いや、だから論点が違うだろ。この世界の女の子はみんなこうなのだろうか。
「と、とりあえずあれだ。俺の上から降りてくれないか?」
はたから見たら俺が彼女に押し倒されてる図にしか見えないと思う。俺的には大歓迎だが今までこんな経験がないので色んな意味で辛くなってきた。
「あ、そ、そうですね」
言いながら、彼女は慌てて立ち上がる。……パンツ見えちゃってるのは内緒にしておこう。
「あー、とりあえず何かごめんな? 俺の変な願いのせいで呼んじゃって。家まで帰れるか?」
「え、えっと、ここってアクセルで合ってますよね?」
「ん、多分そうだと思う」
「た、多分ですか」
「いや、何かほんと悪い……」
あの時の変なテンションで適当に言った発言のせいで、完全に女の子に迷惑をかけてしまっている。
「……あの子には上級魔法を覚えてからまた来るって言ったのにどうしよ……」
「それは申し訳ないことを……」
「で、でもここで修行しても同じようなものですよね! 影が薄いってあの子にも言われてたからバレないはずだし……でも近くにいるのに会えないのはちょっと寂し……いかも」
最後はボソボソ言ってて聞こえなかったけどこの子めっちゃ良い子じゃん……。でも途中で聞いてはいけないようなことが聞こえた気も。どうしよう、ほんとにやらかしてしまった。
俺の明日からの生活も不安だけどこの子は宿とか大丈夫なのか? でもいきなり屋敷に泊めるってのもなぁ……。
結局ここでヘタレるってことは女の子呼んだのも屋敷手に入れたのも無意味じゃん……。
「はぁ……あ、そういえば聞いてなかったけど君の名前は?」
言うと、彼女は頬を朱に染めてちらりと上目遣いで見つめてくる。超可愛いんですが。
「笑わないって約束してくれますか……?」
「もちろん」
即答した。
「うぅっ……わ、我が名はゆんゆん! アークウィザードにして、中級魔法を操る物。やがては紅魔族の長となる者……!」
「……はい?」
……絶句した。
次回からは原作を少しずつなぞりつつゆんゆんとオリ主がイチャイチャしていく予定です。初めてのジャンルなので矛盾点も出ちゃうかもですがその時はこっそり指摘してくれたら幸いです。
もしよろしければ感想などくれたら嬉しいです!
ではでは、お読みいただきありがとうございました!