今回はエトが大活躍すると思います。
では第16話どうぞ!
「ドナドナドーナードーナー...」
「...お、おいアクア、もう街中なんだからその歌は止めてくれ。ボロボロのオリに入って膝抱えた女を運んでる時点で、ただでさえ街の住人に注目されてるんだからな?というか、もう安全な街の中なんだから、いい加減出てこいよ」
「嫌よ。この中こそが私の聖域よ。怖いからしばらく出たくないわ」
馬でアクアの入ってるオリを引きずりながら俺達はギルドに向かっていた。
すると突然
「め、女神様っ!?女神様じゃないですかっ!何をしているのですか、そんなところで!」
オリに引きこもっているアクアに駆け寄り、鉄格子を掴む男。
そいつはあろう事か、ブルータルアリゲーターが齧り付いても破壊できなかったオリの鉄格子を、いとも容易くグニャリと捻じ曲げ、中のアクアに手を差し伸べた。
唖然としている俺達を尻目に、その中の見知らぬ男は、同じく唖然としているアクアの手を...、
「...おい、私の仲間に馴れ馴れしく触るな。貴様、何者だ?知り合いにしては、アクアがお前に反応していないのだが」
男はダクネスを一瞥すると、ため息を吐きながら首を振る。
その態度にエトは面白くなさそうに二人を見ている。
何だか一触即発な感じなので、俺はアクアに駆け寄り、そっと耳打ちをする。
「...おい、あれお前の知り合いなんだろ?女神様とか言ってたし。お前があの男を何とかしろよ」
そんな俺の囁きに、アクアは一瞬だけ、なに言ってんの?という表情を浮かべ...。
「...ああっ!女神!そう、そうよ、女神よ私は。それで?女神のこの私にこの状況をどうにかして欲しいわけね?しょうがないわね!」
もぞもぞとオリから出てきたアクアは、その男に対して首を傾げる。
「...あんた誰?」
知り合いじゃないのかよ。
...いや、知り合いの様だ。
男が驚き目を見開いているからだ。
「何言ってるんですか女神様!僕です、御剣響夜ですよ!あなたに魔剣グラムを頂いた!!」
ああ、こいつ俺より先に来た日本人か。
そのミツルギなんちゃらの後ろにいる、槍を持った戦士風の美少女と、革鎧を着て、腰にダガーをぶら下げている美少女はそいつの仲間だろう。
「ああっ!いたわね、そんな人も!ごめんね、すっかり忘れてたわ。だって結構な数の人を送ったし、忘れてたってしょうがないわよね!」
アクアの言葉に若干表情を引きつらせながらも、ミツルギはアクアに笑いかけた。
「ええっと、お久しぶりですアクア様。あなたに選ばれた勇者として、日々頑張ってますよ。職業はソードマスター。レベルは37まで上がりました。...ところで、アクア様はどうしてここに?というか、なぜオリの中に?」
めんどくさいが仕方なく俺は、自分と一緒にアクアがこの世界に来ることになった経緯や、今までの出来事をミツルギに説明した。
「...バカな。ありえないそんな事!君は一体何を考えているんですか!?女神様をこの世界に引き込んで!?しかも、今回のクエストではオリに閉じ込めて湖に浸けた!?」
俺はいきり立ったミツルギに、胸ぐらを掴まれていた。
それを有馬さんが止める。
「...いい加減にしろ」
その一言には殺気が込められていたような気がした。
しかし、ミツルギはかろうじて俺の胸ぐらを放さないでいた。
「ア、アクア様、今はどこで寝泊りを?」
「み、みんなと一緒に、馬小屋よ」
アクアも有馬さんの殺気の余波にビビっていた。
「は!?」
ミツルギの、俺の胸ぐらを掴む手に力が込められた。
「...いい加減にしろ」
今度は有馬さんがミツルギの腕を掴みながらさっきより殺気を込めてミツルギに言った。
これには流石にビビったのか、ようやく俺の胸ぐらから手を放した。
ミツルギは手を放すと、俺のパーティーメンバーを観察した。
「クルセイダーにアークウィザード?そちらの二人はわからないが君は随分とパーティーメンバーに恵まれているんだね。それなら尚更だよ。君は、アクア様やこんな優秀そうな人達を馬小屋で寝泊りさせて、恥ずかしいとは思わないのか?さっきの話じゃ、就いてる職業も、最弱職の冒険者らしいじゃないか」
こいつの話を聞いていると、自分が凄く恵まれた環境にいるかのように聞こえる。
はたから見たらそう見えるのだろうか。
「君達、今まで苦労したんだね。これからは僕と一緒に来るといい。というか、パーティーの構成的にもバランスが取れてていいじゃないか。ソードマスターの僕に、僕の仲間の戦士と、そしてクルセイダーのあなた。僕の仲間の盗賊と、アークウィザードのその子にアクア様。まるであつらえたようにぴったりなパーティー構成じゃないか!」
「おやおや少年、私や貴将、カズマが入っていないじゃないか。どういうことだい?」
この質問をされて、ミツルギは黙ってしまった。
「何も言い返さないのか。カズマ、もうギルドへ向かおう。時間の無駄だ」
正直腹が立つが、ここはエトの言う通り立ち去るか。
「という訳で、俺達はギルドへの報告があるんで、そこどいてもらえますか?」
俺の前に立ち塞がるミツルギに、イライラしつつ告げる。
「悪いが、僕に魔剣という力を与えてくれたアクア様を、こんな境遇の中に放っておく訳にはいかない。君にはこの世界は救えない。魔王を倒すのはこの僕だ。アクア様は、僕と一緒に来た方が絶対にいい。...君は、この世界に持ってこられるモノとしてアクア様を選んだという事だよね?」
「...そーだよ」
はあ、展開が読めてきた。
「なら、この僕と勝負しないかい?アクア様を、持ってこられるモノとして指定したんだろ?僕が勝ったらアクア様を譲ってくれ。君が勝ったら、なんでも一つ、言う事を聞こうじゃないか」
...やはりか。しかし、レベル差的に勝てるとは思わない。そんなことを考えていると。
「キミ。恥ずかしくないのかい?高レベルのしかもソードマスターが低レベル、それも冒険者に喧嘩を売るなんて」
エトが庇ってくれた。
そして続ける。
「そこでだ。私と勝負しようじゃないか。ちょうどいいいい機会だしカズマ達にも私の力を見せておいてあげよう」
「僕は構いませんが、あなたレベルは?」
「1だが?」
...1?流石に無理だろ。俺でもわかる。
「ふざけているのですか?レベル1で僕に勝てるとでも?」
「やってみなきゃわからないじゃないか?それじゃあ街の外に出ようか。ここじゃあ目立つ」
「いいでしょう」
...エト、大丈夫なのか?
「ここでいいかな?」
「ああ、いいとも」
俺達は街の外の人気のない場所に来ていた。
「それじゃあルールの確認をしようか」
エトが言う。
「相手がギブアップするか死ぬかまで勝負は続く。そして、勝った方は一つだけ相手に言う事を聞かせることができる。これでいいね?」
「構わないよ」
ミツルギが言う。既に勝っているかのような余裕だ。
「...エト、殺すなよ」
有馬さんが言った。
...え?ミツルギの心配をするの?
「わかってるよ」
エトが言う。
「舐めてるのか?」
ミツルギもご立腹だ。
...本当に大丈夫なんだよな。
「それじゃあ始めようか」
「ああ」
そう言うとミツルギは魔剣グラムを抜いた。
対するエトは...丸腰!?
「...あなた、丸腰とは随分なハンデですね」
ミツルギは完全にキレてる。
「キョウヤーそんな女倒しちゃってー」
「キョウヤー頑張ってー」
黄色い声が飛び交う。
しかし、その声は直ぐに消えた。
エトが
「...赫者」
と呟くとエトの体がみるみると変化して、化け物のようになっていた。
「なんなんだ...それは」
俺達は言葉を失った。
今までフランクだった彼女が化け物に変化したらそれはびっくりするだろう。
「ケヒャ」
エト?はそう言うと腕らしきものを薙ぎ払った。
しかし、流石は高レベル冒険者。それを魔剣で守ったが、威力が大きすぎたのか、魔剣はミツルギの手から離れた。
「クソっ剣が...」
「ケタケタケタ」
とエトが笑うともう一撃入れようとした。
が、それは有馬さんによって防がれた。
「...やりすぎだ」
「悪かったよ」
と、エトは舌を出して謝った。
ミツルギはというと小便を漏らしていた。
「さて、私の勝ちでいいかな?」
エトが言うとミツルギはコクんと首を縦に振った。
「じゃあ言う事を聞いてもらおう。そうだね、その魔剣を貰おうかな?」
エトは転がっている魔剣を指差して言った。
「そ、それはダメだ。その剣は...都合がいいのはわかってる。しかし、頼む。この街で一番良い剣を買うからそれで勘弁してくれないか?」
ミツルギは声を震わせながら言った。
「そ、そうよ。その剣はキョウヤ以外には使いこなせないわよ」
と外野からも声が上がる。
「それでも構わないさ。じゃあこの剣は貰っていくよ」
そう言ってエトは俺達を置いて街へと戻っていった。
第16話どうでしたか?
ミツルギは原作と違い魔剣を失いました。これから苦労するんでしょうね。
今回はエトの力を見せつけました。レベル差が36もある中で、ミツルギを圧倒しましたね。まあ当然か。
次回は特別編を書きたいなと思ってます。
ではまた次回お会いしましょう!