2ヶ月埋まっていたスケジュールも2人はこなして行き、ユニットデビュー後の忙しさは徐々になくなり、逆に安定した周期で仕事が来るようになった。
まぁ、後半の1ヶ月は年末年始のスペシャルばっかりだったし………この辺はアイドルとしての運か。
窓からグランドを見てみると下校中の学生の吐く息は白くなっている。
なんだかんだで12月かぁ………仕事上季節には敏感なんだけどあっという間だったからな。
学校の方は修学旅行や文化祭などの行事も終わり、残るは後期テストのみになった。
事務所の方は相変わらずプロデューサー達がアイドルをスカウトしまくってなんか色々大変なことになってきた………もう80人は超えたよ。
流石にこの人数はやばいと専務に報告したが「来年の春まで待ってくれ」ということ。
まぁ、中途採用の時期もアレだし。
「どこを見ている我が盟友よ」
そのまま背を逸らして後ろを見ると予想通りの人物がいる。
………それにしても顔小さいよな、そのくせ目はぱっちりしていて、まつげも長い。
スッとした通った小さな鼻に、かぶりつきたくなりそうな白い肌。
視線を下ろすと女性特有の豊かな丸みと折れてしまいそうな細くて長い手足。
本当に中学生のスタイルではないと改めて感心する。
「ほ、本当にどこを見ているっ!!」
後頭部を掴まれ元の位置に戻される。
「いやいや分かるよ和也くん、蘭子ちゃんの素晴らしいスタイルを凝視してしまうのもっ!!」
「なっ!!」
藤井さんの発言で両手で身体を抑えながらこちらを睨め付けるが相変わらず怖さを感じない。
「そんな目で見てたかな?」
隣にいる藤井さんに聞いてみると首を横に振る。
「まぁ男子特有の視線ってよりも単純な観察な視線だったよ、不気味なくらいに」
「不気味なくらいは余計だよ」
「そうかなー、ウチの男子は体育の時間とかあからさまに視線感じるし」
「それと比べればないけどさ」
このクラスの男子の視線と比べれば俺の視線なんてゴミみたいなものだと思う。
「他者の意志?」
首を傾げる神崎は何処か理解出来ていないみたいだ。
「神崎はもう視線自体に慣れてるからな」
アイドルになってから神崎は他人の視線に鈍感になった気がする。
「あー、夏休み明けから蘭子ちゃんのガードが甘くなってる感じもそれが原因か………まぁガード甘いのは和也くん限定だけど」
「後半何言ったか知らんけど、色々頼みます」
「はいはい」
俺と藤井さんのやり取りをみて頭にハテナを浮かび続ける神崎。
女子というのは常日頃から身の回りを注意している。
汗をかけば透けるし、ちょっとした段差を登る時もスカートを抑え、覗き込む時は首回りを抑えて………などなど女子の気をつけなきゃいけないことが多々ある。
しかしこの子は最近そういうことを気にしてない節がある。
階段なのに目が合えば走って近寄ってくるせいかスカートがもう少しで完全にめくれるかと思ったし、体育が終わった後も汗を拭かずにこっちにくるから目のやり場に困るし、ワイシャツが少し大き目のせいか話しかける時首元から中が見えそうになるし。
………律するこっちの身になれっつうの。
「さて、お喋りはここまでにしといてそろそろテスト勉強しよっか」
「うぐっ、今度の幾何学の試練はマズイ」
「ザ・文系だからな神崎」
「我が盟友は全ての試練を突破出来るのかっ!!」
「少なくともわざわざ放課後に残って一緒に勉強を見てやる必要はないくらいには出来てるよ」
「むぅぅぅぅ」
「ほらほら、痴話喧嘩しないで勉強しよ?」
「くっ………この二つの願いの証明だが」
「二等辺三角形の証明?これはな………」
「………あり?(蘭子ちゃんなら痴話喧嘩辺りで可愛い反応してくれると思ったのにな)」
黙々と勉強………とはいかなかったが神崎の勉強は捗ったのは確かだ。
「蘭子ちゃんって寒いの苦手?」
「何故そう思う?」
「だって………この防寒具の量は」
藤井さんが机の上に置いてある防寒具の量を見て苦笑いをする。
無理もない、マフラーに耳あてにコートに手袋………肌寒さは感じるがここまで防寒具が必要なわけでもない。
「我が前世ではここまでシヴァの吐息が強くなかったのでな………」
「あー熊本は暖かいからねー」
「それにしても多すぎだろ………」
「ほらでも一応風邪予防にはなるからね」
「あー、風邪予防で思い出したけど神崎明日インフルエンザの予防接種だから」
「うぐっ」
露骨に嫌そうな顔をするなぁ………
「それと予防接種してから身体動かせないからな、レッスンは休みな」
「むー………分かってるもん」
頰を膨らませて、上目遣いでこっちを見る姿はあざといとか可愛いを通り越して別の何かの感情が生まれそうになる。
「ゴッフ」
ほら隣の藤井さんなんて血を吐いたフリをして机に突っ伏したじゃん。
………気持ちは分かるが。
「ほら藤井さん、そろそろ帰るから支度しな」
「………ここ最近、和也くんがコレを見てノーリアクションなのかを知りたい」
「………何やっても可愛いからな、こいつは」
「何コレ、彼女自慢?」
「アイドル自慢と言え」
他愛のない話をしつつもしっかりと身支度はする。
神崎も無駄に多い防寒具を着込んで、こちらも帰る支度も終わる。
「うんじゃ帰りますか」
「うむ、我が城に帰還だ」
三人で歩いて帰るときは基本的に神崎が真ん中で俺が道路側、藤井さんはその反対側という順になる。
まぁ、三人で帰ると行っても基本的には藤井さんと神崎2人で会話して、二人に話を振られたら答えるから実質2人プラス1人だな………うん言ってて悲しくなったな。
「そう言えば2人とも冬休みの予定ってどうなってる?」
「神崎はクリスマスに最後のライブをやって終わりかな?」
「………我が盟友はいつになったら休みだ?」
「うーん、ちひろさんの仕事が終われば終わりかな?」
全アイドルの給料計算はいつものことだけど年末調整があるからな。
………年始に休みがあればいいかな?
「そうなの?じゃあ仕事が終わったらまた三人で遊ぼうよ!」
「うむっ!!我も終焉の刻を我が盟友達と過ごしたい」
「あー、そうだなぁ」
今更「いや、仕事があって………」なんて言えない空気なんだが。
「それじゃあ私こっちだから、2人ともじゃーね」
途中で藤井さんが帰ると神崎がジト目でこっちを見てくる。
「………真実はどうなっている?」
「まぁ、仕事の進捗具合だけど、多分大丈夫」
「大丈夫ならいい………だけど」
少し言いづらそうに視線を泳がし、潤んだ目でこっちをチラチラ伺うように見てから、普段の神崎から考えられない、か細い声で
「………今年最後に一緒に居たいのは本当だから」
そう言うと俯きながら俺の制服の裾をギュッと掴む。
………少なくとも正しい感性を持つ男ならばコレを見て何も感じないという奴が居るのなら精神科をオススメする。
「努力します」
「ダメ、絶対一緒」
「さっき藤井さんがいた時は願望だったんですが?」
「願いは定めになり、運命になり、そして確定する」
「………もはや強制なんですね」
「当然だ、何故なら貴殿は我が盟友なんだから……だから、その………」
顔を下を向けて、少し緊張した様子が服の裾から伝わる。
「お仕事………頑張って」
「………おう」
ただ何気無い一言。
ただそんな一言で頑張れる気になってしまう自分もそこら辺にいる単純な男子と何一つ変わらないことが分かった。
とりあえず嫁に欲しい←限定SSR蘭子を見ながら
はい、ということで本編は相変わらずな感じです。
身も蓋もない、蘭子可愛い回でした。
さて、作者のリアルも忙しい時期も終えたので、できれば一ヶ月に1話くらいは書きたいなーとか思ってます。
そして一ヶ月前にあったイベントは全勢力をあげて挑みましたが、5千位の壁は高かったです。
そして賛否両論のコミュは………まぁ、これはこれでネタにします。
作者的には「こういう世界もある」的な感じです。
基本的には自由度高い作品ですから、色んな話が思いつくし、色んな設定もしやすいです。
だから2次創作も豊富ですし、色んな人の作品に触れられるとても刺激になります。
そんな中ゆったりとゆるゆるしたこの作品楽しみにしてる人もいると作者はとっても励みになります。
お気に入りの数も4000人も超えましたっ!!
まだまだ拙く、粗の多い作品ですけど、長い目と暖かい目で見てください。
ここまで読んでくださりありがとうございますっ!!
感想、評価等お待ちしておりますっ!!