「蘭子ちゃん、やみのまー」
「うむ、闇に飲まれよっ!!」
二週間も経つと神崎蘭子という少女が一体どういう人間なのかクラスの人間も分かってくる。
最初は通訳なしではほぼしゃべれなかったが、「誰でも分かる神崎蘭子の翻訳集」を彼女にバレないようにみんなに渡し、今では頻度が高いセリフは皆ほとんど理解している。
が…それでも
「わ、我が盟友よっ!!」
「はいはい今日はなんですか」
こうして呼ばれる事もある。
「魂を封じ込める器?」
「うん、どゆ意味?」
クラスの女子と会話が、成り立たなそうになるとこうして呼ばれ、分からない意味を教えている。
「カメラのこと、意外と神崎って写真を取られるのが好きでね、確かモデルもやってたらしいよ」
「本当にっ!?」
「真である」
「蘭子ちゃん可愛いから納得だわー」
「かわっ!?………こほん、所詮、我の魔力の衣に惹かれた者…」
「高梨くんもそう思わない?」
「神崎は可愛いからな、納得納得」
「ふひゃあっ!?」
「(あーもう、蘭子ちゃん可愛いなー)」
「(あんまりいじめてやんなよ、あとで膨れるから)」
「(なにそれ超見たいんですけどっ!)」
「(ほら、ジト目でこっちを見ているんだけど、ついでに男子の殺気めいた視線もセットで)」
「(しょうがないよ神崎さんに唯一「我が盟友」って呼ばれてるんだもん)」
「我が盟友よ、なにか秘め事か」
「魔力の衣に惹かれたの意味を教えてだけだよ、というか私服のことであってるよね?」
「如何にも、この姿は所詮仮初め、漆黒の衣こそ我が身にふさわしい」
「えーと?」
またまた訳が必要なセリフがチラホラと………
というか漆黒の衣ってなんだよ……
「漆黒の衣……私服?いやそれは魔力の衣か………直訳だと黒い服?それだと比喩を使ってないし………あー、ゴスロリか?」
コクコクと首を縦に振る神崎。
「ゴスロリっ!?確かに蘭子ちゃんならすっごく似合いそうだね………そうだ今度一緒に洋服見に行かない?」
「わ、私の魔力の波動が貴殿と同調するか、いささか疑問だが……」
藤井さんはこちらをチラッと見る。
「私の服のセンスと藤井さんのセンスが合うか分からないよだって」
「大丈夫、私はただ単純に蘭子ちゃんの可愛い姿がみたいだけだからっ!!」
「いや堂々と言えば良いって訳じゃないから」
「まぁ、だから今度の土曜日一緒に蘭子ちゃんの洋服見に行こうよ」
「う、うむ、我も天界にはない魔界の衣を拝見しようと思っていた所だ」
「へー、じゃあ熊本に住んでた時はどこで買ったりしてた?」
「天界にもあるにはあるのだが、魔界と比べるとどうしても少ない。なので電脳グリモワールを使い、我が身の波動と同調する物を探していた」
「あぁ、ネットなら確かに種類はあるけど出来れば実物はみたいもんな、サイズとか見えない部分とか合わないと困るしな」
と単純な疑問を訪ねていたが藤井さんが困ったような顔で
「あのごめん、私途中から全く付いて行けてないけど」
「あー悪い、えーと、今度私も服を見る予定もあったし大丈夫。だな」
「よかったー………あのさ、今度の土曜日高梨くん一緒に来てくれない?」
「逆にそっちはいいの?」
「蘭子ちゃんとの最低限のコミュニケーションは取れるけど流石に高梨くん無しで行くのは厳しいかも」
「………神崎、俺も付いて行ってもいいか?」
「別に構わない………我が盟友が迷惑で無ければ」
顔を赤くしながらフイと首を振る仕草にクラスの大半は胸を押さえ悶絶している。
藤井さんは口を押さえているが「あー、もうマジで可愛すぎてヤバイ」と心の声が抑えきれてないが………
[高梨が羨ましすぎるんだがどうする?]
[とりあえず空き教室に連れ込むか]
[いや、それより池袋にある服屋を片っ端に調べて偶然を装って蘭子ちゃんに会いそのまま買い物に行くのはどうだ?]
[なんだお前天才か!?]
[クラス全員で調べればギリギリ間に合うぞ]
[ちょっと男子っ!!………私も一口噛ませなさい]
[あれ?これ止める流れなのにむしろ乗っかっていくスタイル?]
「………あー、うんじゃ色々と予定を詰めるために一応連絡交換しておくか」
「そういえば私、高梨くんの連絡先知らないや、アドレス交換しておくね」
「おうバーコードでいいか?」
「えっ?フルフルじゃないの?」
「女子力高いなー」
スマホ取り出し、少し振って連絡先が交換したか確認する。
「うん、来たよ」
「こっちも」
「わ、私も我が盟友を呼び出す術式を持っていないっ」
「そういやそうだったな」
「え、意外だね二人共仲良いからとっくに交換したのかと」
「なんだかんだ学校だけの付き合いだからな」
「あらら、蘭子ちゃんの盟友なのに随分冷たいねー」
「まぁ、これから仲良くなればいいさ」
と、言いながら神崎との連絡先も交換した。
そしてそのまま高速で文字を打ち、藤井さんに送る。
『流石にクラス全員のストーカーを回避するのは無理だから日曜日にするか』
『そだねー、私も蘭子ちゃんとの買い物は邪魔されたくないしなー』
藤井さんと目が合いお互いため息を吐く。
「むぅ、また秘め事か?」
「違うよ、ほらスマホ見て」
神崎にスマホを確認するように促す。
『これからもよろしく頼むな、我が盟友ブリュンヒルデ』
彼女はスマホを見てチラッとこっちをみてゆっくりと文字を打つ。
『これからも我が言霊を伝える者として精進するがいい』
『仰せのままにー』
お互い顔を上げて軽く笑ってしまった。
「ラブコメの波動を感じるわ」
「いきなりどうしたの藤井さん?」
「なんか言わなくちゃいけない空気を感じたわ………くしゅん」
なにはともあれ土曜日……ではなく日曜日に神崎の通訳として出かけることが決まった。
2話め