漆黒シリーズ特別集   作:ゼクス

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コラボ3

 破壊し尽くされた岩山の跡地。

 その場所に存在する岩山の瓦礫の間を黄金の影と漆黒の影は高速で駆け抜けながら、互いにぶつかり合い続け、次々と辺りに衝撃波を撒き散らしていた。

 

「オォォォォーーーー!!!」

 

「ハアァァァァァァァァッ!!」

 

 黄金の影-ユウが突き出して来たドラモンキラーに対して、漆黒の影-ブラックも自身のドラモンキラーを突き出し、二つのドラモンキラーが激突しあった瞬間に、凄まじい衝撃波が爆裂した。

 その衝撃波の威力に耐え切れなかったユウは僅かに体のバランスを崩してしまい、耐え切ったブラックはその隙を逃さずにユウの胴体に向かって渾身の蹴りを撃ち込む。

 

「フンッ!!」

 

「グゥッ!!」

 

 強靭な防御力を誇っている筈のバリアジャケットさえも貫いて来たブラックの蹴りの威力に、ユウは苦痛の声を上げて体が宙に浮かび上がってしまう。

 ブラックは当然その隙も逃さずに身動きが取れないユウの頭部に向かって、両手を合わせながら全力の打撃を打ち下ろす。

 

「ガハッ!!」

 

 頭上からの凄まじく強烈な一撃を食らったユウは、苦痛の声を上げて地面に倒れ伏す。

 ブラックは地面に倒れ伏したユウを見下ろしながら声を出す。

 

「如何した? 俺をぶっ飛ばすとほざいていたくせに、その程度なのか?」

 

「チィッ!!」

 

 ブラックの嘲りに満ちた言葉にユウは苛立ちを覚えながらも即座に立ち上がり、ブラックの傍からすぐさま離れるが、ブラックは逃がさないと言うようにユウの後を追い、二人は再び高速戦闘を再開する。

 

 

 

 

 

 一方ブラックのブラックストームトルネードを食らって気絶していた桜達の下に、ユウの使い魔であるリニスが駆けつけ、気絶していなかったはやてとのユニゾンを解いて自由になったリインフォースと共に全員を一箇所に集め、フィールドタイプの治療魔法を使用して全員の治療を行っていた。

 その中で更にリニスが桜に治療魔法を重ねがけしていると、フッと桜の目が動き始める。

 

「……ウ〜〜ン」

 

「気がつきましたか、桜?」

 

「……リニス?」

 

「えぇ、ユウと一緒に駆けつけました。今、なのは達の方もリイン フォースが治療していますから大丈夫ですよ」

 

「そう、ユウが……ッ!!!」

 

 リニスの言葉の意味に桜は完全に気がつき、慌てて体を起こして激突音が鳴り響き続けている場所を見てみると、黄金と黒の閃光が互いに離れては引き合うようにぶつかり続けていた。

 

「ユウ……」

 

「……凄まじいですね。事前にリンディ提督から情報は聞いていましたが、まさか、ユウと互角に戦える力を持っているとは」

 

「私らが全員で束になっても敵わなかった相手やったのに、流石はユウ君や」

 

 リニスの言葉に同意するように桜の横でリインフォースの治療を受けていたはやてが、ブラックと互角の戦いを行っているユウを見ながら声を出し、リインフォースも流石だと言うように頷きながらブラックとユウの戦いを見つめる。

 しかし、桜には分かっていた。今、目の前で繰り広げられている戦いは決して互角の戦いではないという事を。今のブラックの戦い方は少し前までの自分達と戦っていた時と同じ、“様子見の戦い” であるという事に桜は気がついていた。

 

(あのブラックウォーグレイモンは私とユウが知っているブラックウォーグレイモンじゃないわ。確かに戦闘狂と言う事は変わりないみたいだけど、【七大魔王】とブラックウォーグレイモンが戦う事なんて絶対に無いわ! って言うか、七大魔王なんてチートの中のチートのデジモンと戦ってあのブラックウォーグレイモンは生き残ったんでしょう! 絶対にユウでも一人じゃ勝てないわよ!!)

 

 そう桜は内心で悲鳴のような叫びを上げながらブラックとユウと の戦いを見つめていると、ブラックとユウは同時に右腕を振り被り、やはり同時に相手に向かってドラモンキラーを突き出す。

 

『ドラモンキラーーー!!!!』

 

 ブラックとユウのドラモンキラーが互いに激突し合った瞬間に、 辺りに凄まじい衝撃波が吹き荒れた。

 そのまま二人は拮抗し合う、或いはユウがブラックを弾き飛ばすと戦いを見ていたはやて、リニス、リインフォースは思う。だが、その予測は完全に外れ、ブラックはユウの力などまるで関係無いというように右腕のドラモンキラーを振り抜き、ユウを弾き飛ばす。

 

「ムン!!」

 

「グアッ!!」

 

「そ、そんな馬鹿な!?」

 

「ユ、ユウが力で負けた!?」

 

 ブラックによって弾き飛ばされたユウを目にしたリインフォ ースとリニスは、信じられないと言う声を上げた。

 その様子には、はやても驚きが隠せずに瓦礫の方に弾き飛ばされたユウと、その後を追撃しようとしているブラックを凝視しながら呆然と言葉を呟く。

 

「……ユウ君、まさか、手加減しとるんか?」

 

「そんなわけないわよ。ユウは、ブラックウォーグレイモンの強さをよく分かっている筈だから」

 

「じゃ、じゃあ、何でユウ君が力負けするんや!?」

 

 桜の言葉に慌ててはやては質問し、リニスとリインフォースも桜 の方に慌てて顔を向ける。

 少なくともはやて達にとっては、ユウは無敵に近い存在だった。SSSランクの魔導師と言うだけでなく炎と氷の魔力資質変換と言う希少技能を持っている。その上、【聖王】と言う最強の名を連ねた者の血まで受け継いでいる人間。更に【聖王武具の“オメガ”】まで所有しているのだから、限りなくユウはこの世界では最強に近いだろう。

 だが、それはあくまでこの世界での事でしかない。他の世界にはユウと同等もしくはそれ以上の実力を持っている者も確かにいるのだ。

 そして今ユウが戦っているのは紛れも無くその中に名を連ねている存在だった。

 その事が分かっている桜は歴然たる事実を、はやて達に出来るだけ自身の感じている不安を隠しながら告げる。

 

「そんなの簡単よ。単純に、基本的なポテンシャルが、ユウよりブラックウォーグレイモンの方が上回ってるからよ。最もそれだけじゃなくて、戦いの経験もユウよりも遥かにブラックウォーグレイモンは積んでいるみたいね」

 

『ッ!!!』

 

 眼前に突きつけられた事実にはやて、リニス、リインフォース 愕然としながら再び戦いの方へと目を向けてみると、確かにユウの鎧にはかなりに傷が入っているのにも関わらず、ブラックの方は全くの無傷と言って言いほどに傷が存在していなかった。

 そのユウの姿にはやて達は桜の言葉が真実だと気がつき、不安になりながらユウとブラックの戦いを見つめていると、桜が険しい顔をしながらリニスとリインフォースに声を掛ける。

 

「リニス、リインフォース。今すぐにユウの援護に向かって」

 

「桜!?」

 

「このままじゃ、ユウが死んじゃうわ。私は絶対にそんなの嫌よ。気絶している皆だって同じ気持ちだし、はやてもそうでしょう?」

 

「もちろんや! ユウ君が死ぬなんて考えたくもあらへん……リインフォースお願いや。私はもう戦えへんけど、リインフォースは戦える。だから、ユウ君を援護して!」

 

「主……分かりました」

 

「一応、この場にフィールドタイプの防御魔法と治療魔法を設置させて起きますから……それじゃ、行って来ます!」

 

 そうリインフォースとリニスは桜とはやてに言葉を言い終えると、遠くでブラックと戦い続けているユウの援護を行う為に、ユウを追撃しようとしているブラックに向かって背後から飛び掛かる。

 

「ムッ!!」

 

 背後から近づいて来る気配にブラックはユウへの追撃の手を止め、背後へとすぐさま振り返ってみると、自身に向かって魔力で強化した拳を振り下ろそうとしているリインフォースを目にする。

 

「ハアァァァァァァッ!! シュヴァルツェ・ヴィルクングッ!!」

 

 リインフォースの完全にブラックの不意をついた一撃は、ブラックの顔に突き刺さった。

 しかし、打撃を顔に食らったにも関わらずブラックは揺るぐ事も無くその場に立ち止まり、自身の顔に拳を突きつけたままのリインフォースに怒りに満ちた視線を向ける。

 

「……貴様」

 

「ッ!!」

 

「戦いの邪魔するなッ!!」

 

 ブラックはリインフォースに向かって怒りの叫びを上げると共に、 右腕をリインフォースに向かって突き出そうとする。

 しかし、リインフォースはそのブラックの怒りを込めた一撃を目にしても慌てずに僅かに後方へと体を傾け、ブラックの拳は事前に打ち合わせてしておいたリニスの設置型バインドによって拘束されてしまう。

 

「何だと!?」

 

「今です!! ユウ!! リニスッ!!」

 

「クッ!!」

 

 リインフォースの叫びの意味に気がついたブラックは動かない右腕をそのままにして慌てて背後を振り返ると、全身を高速回転させて黄金の竜巻と化しているユウと、七つの放電を放っている魔力球を作り上げているリニスを目撃する。

 

「ブレイブトルネーーードッ!!!」

 

「グッ!!」

 

 ユウの渾身の力を込めたブレイブトルネードを胴体に食らったブラックは僅かに声を上げた。

 しかし、ユウはその声を聞いても安心すると事無く、逆に更に回転速度を上げて、ブラックの体を貫こうとする。

 

「オオオオオオオオオォォォォォォォォォォォッッッ!!!」

 

「グゥッ!! 舐めるな!!!」

 

 自身の体を貫こうとしているユウに向かってブラックは怒りの叫びを上げると同時に、右腕を拘束していたバインドを破壊し、そのままユウに向かって攻撃を行うとする。

 それを目撃したリインフォースはすぐさま新たにバインドを構成し始め、ブラックの体を雁字搦めにするようにバインドで拘束し続けていく。

 

「貴様ッ!?」

 

「ユウッ!! 決めますよ!!」

 

「応ッ!!」

 

 リニスの叫びにユウはすぐさま応じると、ブレイブトルネードを解除し、次々と体に巻き付いて来るバインドを破壊しているブラックの傍から離れ、七つの魔力球に更に魔力を送り続けているリニスの傍に近寄る。

 同時にユウは自身の両手を頭上に掲げると、魔力を両手の間に集中し、巨大な黄金の魔力球を作り出し、リニスと同時にブラックに向かって放つ。

 

「ガイアフォーーースッ!!!」

 

「セブンズヘブンズッ!!」

 

 ユウのガイアフォースとリニスのセブンズヘブンズはバインドによって動く事が出来なかったブラックに直撃し、大爆発が起きた。

 爆風が治まるとリインフォースは荒い息を吐いているユウの下へと近寄り、リニスと共に心配げにユウを見つめる。

 

「ユウ……大丈夫ですか?」

 

「ハァッ、ハァッ、あぁ、大丈夫だ、リニス……正直二人の援護は助かった。アイシクルに換装する暇なくて焦っていたんだ。流石はブラックウォーグレイモンだ」

 

「ですが、流石にユウのガイアフォースとリニスのセブンズヘブンを同時に食らったんです。幾ら奴でもダメージは受けたでしょう」

 

「だと良いんだけどな」

 

 リインフォースの言葉にユウは素っ気無く答えながら油断無く、未だに煙が舞い上がっている場所を睨みつける。

 その姿にリニスとリインフォースもまだ戦いは終わってはいない事を確信し、ユウと共に煙が発生している場所を見つめていると、 煙は徐々に治まり、その中に黒い影が立っている姿を目にする。

 ユウは険しく眉を顰め、影をジッと見つめながら内心で対策を練り出す。

 

(少しはダメージがあれば良いんだけど、やっぱりブレイズじゃ、ブラックウォーグレイモンは倒せないか。あいつを倒せる可能性があるとしたら、“オメガ”の、【初期化(イニシャライズ)】か【消滅(デリート)】だけだろうな。 難しいけど、皆を護る為にブラックウォーグレイモンを倒すか、止めるかしないとな)

 

 ユウが内心でブラックに対する対策を練っている間に、煙は完全に晴れて、その中から無傷のブラックが姿を現す。

 その姿にユウ、リニス、リインフォースは再びブラックに向かって構えを取ろうとするが、その顔は突如として困惑と驚愕に満ち溢れた。

 無傷のブラックの姿に困惑したのではない。ユウ達が目を見開いた理由は一つ。ブラックの左肩に乗っている長い銀髪に、青と白のロングコートを着ているリインフォースと瓜二つの顔した女性の姿に目を見開いたのだ。

 その様子を目にした女性-ルインは面白そうな笑みを口元に浮かべながら、不機嫌だと言うオーラを放っているブラックに諭すように声を掛ける。

 

「ブラック様。心を落ち着けて下さい。何をそんなに苛立っているのかは分かりませんけど、今のブラック様は冷静さを欠き過ぎています。先ほどの生真面目の行動も、何時ものブラック様なら簡単に対処が出来た筈ですよ」

 

「……」

 

「怒りに支配されながらも冷静でいる事が、ブラック様には出来る筈です。どうか心を落ち着かせて下さい、ブラック様」

 

「……フン、お前の言うとおりだ。如何やら奴の姿や行動に、思っていたよりも冷静さを失っていたようだ……もう大丈夫だ、ルイン」

 

 ブラックはルインに対して素っ気無い声でありながらも感謝を伝え、ルインは嬉しげな笑みを浮かべながらブラックに寄り添い、 困惑と驚愕に満ちた顔しているユウとリニス、そしてまるで幽霊でも見たような顔をして体を恐怖に震わせているリインフォースに顔を向ける。

 

「クスクス、如何しました? まるで幽霊でも見たような顔じゃないですか、管制人格、いえ、今は八神はやてに新たな名前を貰ってリインフォースと名乗っているんでしたっけね、生真面目」

 

「……ば、馬鹿な……如何して……如何して〝お前”が其処にいる!?」

 

「リインフォース?」

 

 何時もの冷静さを失い、感情のままに叫んだリインフォースにリニスは困惑に満ちた声を上げた。

 リインフォースはその様子に気がつきながらもリニスの言葉に答える事無く、ただ恐怖に満ちた顔してルインの姿を見つめ、ユウはその様子に二人の間には何かあると確信する。

 

(如何見てもブラックウォーグレイモンの奴の傍にいるのはリインフォースだよな? だけど、原作でそんな奴はいなかったよな? ……誰なんだよ? ……あの女性は?)

 

 ユウは始めて見るルインの姿に疑問の声を内心で上げた。

 少なくともユウと桜の知る限り、リインフォースにソックリな存在は原作ではリインフォースⅡぐらいである。だが、その存在はまだ生まれてはいない上に姿は幼い少女の姿をしていた。しかし、目の前でブラックに寄り添っているルインは如何見ても大人の女性であり、リインフォースに青い瞳以外は全てソックリときている。

 ルインの存在を完全に知らないユウはリインフォースに詳しい事情を聞こうと声を掛けようとするが、その前にリインフォースはルインの正体を叫ぶ。

 

「お前はユウの力で初期化されて、“改変される前の防御プログラム”に戻った筈だ!!!」

 

「防御プログラム!? まさか!?」

 

「そんな彼女はまさか!? あの!?」

 

 リインフォースの叫びを耳にしたユウとリニスは目を見開きながらルインを見つめ、ルインは肯定するように笑みを深める。

 その笑みにルインの正体を確信したユウとリニスは信じられないと言うようにリインフォースに顔を向けると、リインフォースは険し気に顔を歪めながらも二人の考えを肯定するように頷き、ルインの正体を告げる。

 

「信じられませんが……この魔力は間違いなく、私の半身であり、本来ならばユウの手によって初期化された筈の存在……夜天の魔導書を呪われた闇の書と呼ばせたプログラム……闇の書の闇……【防御プログラム】に間違いありません!!!!」

 

『ッ!!!!』

 

 リインフォースが告げたルインの正体にユウとリニスは嘲りの笑 みを浮かべているルインの姿を凝視した。

 あの夜天の魔導書を闇の書と呼ぶ事になった元凶たる防御プログラムの正体が、目の前に存在しているルインだとは信じられないのだろう。何せこの世界の防御プログラムは完全にユウが初期化して、リインフォースと再び一つに戻したのだ。にも関わらずにその防御プログラムであるルインが目の前に存在している。

 その理由が分からないユウ達は困惑に満ちた視線をルインとそのルインが自身の隣に居るのは当然だと言う顔しているブラックを見つめるが、二人はもはや困惑しているユウ達など構わずにそれぞれ構えを取り出す。

 

「ルイン。他の二人はお前にくれてやるが、あの【ウォーグレイモン】の姿にソックリなバリアジャケットを纏っている奴は俺だけの獲物だ。俺の許可が出るまで、他の二人を相手にしていろ」

 

「了解です、ブラック様……(やはり何時ものブラック様じゃないです。何があっても冷静さを失わない筈なのに失っていましたし、それに全く戦いを楽しんでいません。あの人間ならブラック様も楽しんで戦う筈なのに)」

 

 ルインにはブラックの様子が可笑しい事を、戦いを離れていた所から窺っていた時から分かっていた。

 当初は戦いの邪魔をされて怒っているのかと考えていたが、それは違うとすぐに気がついた。ブラックは確かに戦いの邪魔をされれば怒りが溢れてしまうが、それでも決して冷静さは失ったりはしない。だが、その冷静ささえ

もブラックは失いながらユウと戦い続けていた。しかも、ユウクラスの実力者ならば何時もは楽しみながら戦う筈なのに、今回は全く楽しんでいる様子も無く、ただ自身の中に宿っている苛立ちを晴らすような戦いだった。

 そしてその隙を衝かれ、危うく本来ならばダメージを負う事無く勝てた戦いでダメージを負い掛けた。ブラックのその様な姿をルインは見たくないと思い、怒られるのを覚悟してブラックの戦いに介入したのだ。

 

(例えブラック様とあの少年の間に何かがあるとしても、ブラック様が負ける事は絶対に無いでしょうが……【初期化】ですか……〝見慣れぬデバイス゛を扱っている事と言い、デジモンの技を模倣している事と言い、まさか、あの少年は……警戒だけはしておいたがいいですね)

 

「行くぞッ!!」

 

『クッ!!』

 

 再び視認する事が不可能なレベルでのスピードで移動したブラックに、ユウ達は自身の抱いた疑問を胸の内に即座に押し込め、ブラックの攻撃に対して身構える。

 その間に高速移動魔法を発動させていたルインは、瞬時にリニスとリインフォースの目の前に移動し、二人の首下を両手で掴む。

 

『ッ!!』

 

「貴女達二人の相手は私がして上げますよッ!!!」

 

「リニスッ!! リインフォースッ!!」

 

 ルインに掴まれながら遠くへと移動して行くリニスとリインフォースを目にしたユウは声を上げ、二人の救出に向かおうとする。

 しかし、その直前に姿を消していたブラックがユウの目の前に姿を現し、右手のドラモンキラーとユウに向かって突き出す。

 

「ドラモンキラーーー!!!!」

 

「ッ!? ブレイブシールドッッッ!!!」

 

 ブラックの突き出して来たドラモンキラーに対して、ユウは瞬時に背中に装着している二つの盾-ブレイブシールドを両手に装着し、ドラモンキラーを防御した。

 凄まじい火花がドラモンキラーとブレイブシールドが激突している箇所から散るが、ブラックは構わずに今度は左腕のドラモンキラーを同じ箇所に向かって突き出す。

 

「ムン!!」

 

「クソッ!!」

 

 二度目のブラックのドラモンキラーの一撃によってユウのブレイブシールドに深い罅が走り、ユウは悔しげな声を上げてブラックから離れようとする。

 ブラックは逃がさないと言うように体をユウの動きに合わせて即座に動かし、ユウの腹部に向かって強烈な蹴りを叩き込む。

 

「はぁあああッ!!」

 

「ガハッ!!」

 

 ブラックの一撃にユウは苦痛の叫びを上げて地上の方へと叩きつけられるように落下して行き、地面を100m以上削りながら吹き飛んだ。

 しかし、ブラックはその姿を目撃しても止まる事は無く、更なる追撃を行う為に砂煙の中から感じられるユウの気配に突撃しようとする。だが、突如として砂煙を切り裂くように無数のミサイルがブラックの下に飛来して来た。

 

「グレイクロスフリーザーーッ!!!」

 

「ムッ!!」

 

 砂煙を切り裂いて現れた無数のミサイルにブラックは僅かに目を見開くが、すぐさま避ける為に回避行動を行う。

 だが、ミサイルには追尾性能があるのか全てのミサイルはブラックの後を追尾して来る。

 

「チィッ!! 邪魔だッ!! ウォーブラスターー!!」

 

 ブラックは追って来る無数のミサイルに対して連続でエネルギー弾を撃ち出し、ミサイルを破壊して行く。

 次々と起こる爆発に、後続のミサイルは爆発に巻き込まれた。

 それによって辺りに凄まじい冷気と煙が満ちてブラックの視界は完全に塞がれてしまうが、ブラックは迷う事無く右腕のドラモンキラーを自身の背後に向かって突き出す。

 

「ムン!!」

 

「チィッ!!!」

 

 ブラックの突き出したドラモンキラーは、機械的な青い鎧で身を包み、両肩にミサイルランチャーを装備し、背中に機械的なウイングを備えた【メタルガルルモン】を思わせるようなバリアジャケットに変わったユウが、右手に持っていた機械的な何かによって防がれた。

 先ほどまでの【ウォーグレイモン】を思わせるバリアジャケットと変わったユウの姿に、ブラックは更に苛立ちを募らせるが、ルインの忠告を忘れずに出来るだけ冷静になるように心掛けながらユウに声を掛ける。

 

「今度は【メタルガルルモン】か……さっきの【ウォーグレイモン】の姿といい。余程俺を怒らせたいらしいな?」

 

「……お前、何時のブラックウォーグレイモンだよ?」

 

「フン、少なくとも貴様らが知っているブラックウォーグレイモン と俺は……違うッ!!」

 

「クッ!!」

 

 ブラックは叫ぶと同時にユウが握っていた機械的な何かを上空に弾き飛ばし、そのままユウにドラモンキラーの刃を突き刺そうとするが、その直前に上空に弾かれていた機械的な何か-特大のミサイルランチャーがブラックの頭上で爆発する。

 

「何ッ!?」

 

 突然の爆発にブラックは驚き、思わずユウへの攻撃の手を止めてしまった。

 その隙をユウは逃さずに両手を獣の口のように合わせながらブラックに向かって突き出し、両手から凄まじい冷気を放つ。

 

「コキュートスブレスッ!!」

 

「チィィッ!! おのれッ!!」

 

 ユウが放ったコキュートスブレスを食らったブラックの体は凍りついていく。

 ブラックは苛立ちながらも全身が凍りつく前にユウへと攻撃を行おうとするが、凍りついた体では思うように動く事が出来ずに鈍い動きしか取れなかった。

 隙をユウは逃さずに、両手に先ほどのミサイルランチャーと同じ物を二つ具現化し、動きが鈍っているブラックからすぐさま距離を取り、ミサイルランチャーを発射する。

 

「ガルルトマホーークッ!!!」

 

 ユウが叫ぶと同時に両手に握っていたミサイルランチャーは凍り ついて動きが鈍ってしまっているブラックへと、一直線に発射された。

 それを目撃したブラックは全身が凍りつきながらもミサイルを避けようと体を動かそうとするが、凍りついている体では思うように動く事が出来なかった。ユウはミサイルの直撃を確信するが、その確信はブラックの叫びと同時に発生した空間の歪みによって驚きと困惑と共に砕け散る。

 

「ディストーションシールドッ!!」

 

「なっ!?」

 

 突如としてブラックの周りに発生した空間歪曲にユウが驚きの声を上げた瞬間に、二つのミサイルはブラックの周りに発生していた 空間歪曲に巻き込まれ、あらぬ方向に地面に激突して爆発を起こした。

 煙と冷気が周囲に発生するのを目にしたユウは慌ててその場から飛び去ると、直前までユウが浮かんでいた場所を二つのエネルギー球が通り過ぎた。

 

「クッ!! 今のは!? まさか!?」

 

「そうだ。貴様らが知っている魔法だ。最も俺が使ったのだから、魔法ではなく技だがな」

 

 ユウの疑問の叫びに全身を覆っていた氷を砕きながら、ブラックは答えた。

 その事実にユウは目を見開きながらブラックを見つめると、ブラックは不機嫌そうな顔しながらユウに向かってドラモンキラーを構え出し、慌ててユウも再び『ウォーグレイモン』の姿を模したバリアジャケットに変わる。

 ブラックはその姿に更に不機嫌になりながらも、両手の間に大気中の負の力を集中させ、巨大な赤いエネルギー球を作り出し、ユウも同様に自身の魔力を両手の間に集め、巨大な黄金色の魔力球を再び作り出す。

 その余りにも形は違えど、自身を助けてくれた【ウォーグレイモン】を思い出させるような姿に、ブラックは自身の中にある大切な記憶を汚された思いを感じながら、更に負の力を両手の間に集中させる。

 

「……よく見ておけ。貴様の猿真似などではない、本物の【ガイアフォース】をッ!!!」

 

「くぅッ!!」

 

 叫ぶと同時に赤いエネルギー球を振り被るブラックに、ユウも慌てて自身の黄金の魔力球を振り被り、二人は同時に相手に向かって放つ。

 

『ガイアフォーーースッ!!!』

 

 赤と黄金のガイアフォースはブラックとユウの中心地点で激突し、凄まじい衝撃波を撒き散らしながら互いを撃ち破ろうと鬩ぎ合う。

 その衝撃波は凄まじく、二つのガイアフォースがぶつかり合っている地点の岩や瓦礫は一瞬の内に次々と消滅して行き、かなり離れた所で戦いを見ていた桜達も必死で耐えなければ吹き飛ばされてしまうほどの威力だが、ガイアフォースを放った張本人達の内、ブラ ックだけは平然しながらジッとユウの行動を窺い続ける。

 それを表すように徐々にユウのガイアフォースは、ブラックのガイアフォースによって徐々にユウの方へと押し込まれ始めた。

 完璧にブラックのガイアフォースの威力の方が、ユウのガイアフォースの威力を上回っているのだ。確かにユウのガイアフォースも究極体の必殺技に迫る威力を持っている。だが、本家本元のブラックのガイアフォースの前にでは、模倣の技でしかない。良く出来た模倣が本物に勝てる筈も無く、ユウのガイアフォースがブラックのガイアフォースに敗れるのはある意味では当然の事だった。しかし、当然ながらその事はユウも分かっていて、ブラックのガイアフォースを撃ち破る為に再び両手の間に魔力を集中させ、二発目のガイアフォースを前のガイアフォースの後ろに向かって投げつける。

 

「もう一発だ!!! くらえッ!! ガイアフォーーースッ!!!」

 

 ユウの二発目のガイアフォースは、前のガイアフォースの後押しするように直撃し、二つの黄金のガイアフォースはブラックの赤いガイアフォースを撃ち破ろうと再び鬩ぎ合う。

 ブラックはその光景にユウの実力がどの程度のなのかをハッキリと確信するが、次の瞬間に、ブラックのガイアフォースはユウの二 つのガイアフォースによって撃ち破られ、そのままブラックの方へとユウのガイアフォースは一直線に向かい出す。

 ブラックは迫るガイアフォースを目撃すると瞬時に背中に両手を移動させ、背中に翼のように備えていた【ブラックシールド】を両手に装着し、前方で盾のように構えながら二つのガイアフォースを防御する。

 

「ブラックシールドッ!!!」

 

 ブラックのブラックシールドとユウのガイアフォースが接触しあった瞬間に、ユウのガイアフォースは威力を減衰させながらブラックシールドを撃ち破ろうと鬩ぎ合いを始めた。

 

「行けぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーー!!!!!」

 

「お願いや!!!」

 

「これで決まって!!!」

 

「頼むッ!!」

 

「あいつを倒してッ!!」

 

 桜、はやて、そして意識を取り戻したなのは、シグナム、フェイトはブラックとガイアフォースの鬩ぎ合いを見ながらそれぞれ祈るように叫んだ。

 しかし、それは無情にも打ち砕かれ、ブラックは両手に装着して盾のように構えていたブラックシールドを突如として勢いよく離し、それによって発生した激しい衝撃波でユウのガイアフォースを相殺する。

 

「フン!!」

 

『ッ!!』

 

「そんな……」

 

 ガイアフォースが消滅する姿を目にした桜達は絶望したと言うような表情をし、なのはは悲痛な声を上げながらユウの最大の技を持ってしても傷一つ付ける事が出来なかったブラックを見つめた。

 ユウも僅かに悔しそうな顔をするが、ブラックは構わずに両手に装着していたブラックシールドを背に戻し、ユウへと顔を向ける。

 

「……そろそろ本気を出せ」

 

「なっ!?」

 

「貴様が本気を出していない事は分かっている。このまま本気を出させないまま殺す事は簡単だが、それでは俺の気がすまん。それとも……先ずはあっちの小娘から先に殺すか?」

 

「ッ!! ……そんな事は……絶対にさせない!!! ブレイブ!! アイシクル!! オメガだっ!!!」

 

《Yes.Mastet.!!!》

 

 ユウの叫びに応じるようにユウのデバイスであるブレイブとアイシクルは同時に叫び、その瞬間に虹色の魔力光の柱がユウの体を包むように立ち上る。

 ブラックは憶えの在り過ぎる魔力光の色にユウの血族の正体を確信するが、その事実はますますブラックを苛立ちを上げる逆効果にしかならなかった。

 そしてブラックがジッと虹色の柱を見つめていると、その中から中央の頭から足にかけては、白を基調とした兜と鎧が装備され、左腕にはオレンジを基調としたアーマーが肩に装着され、手には竜の頭のような手甲が装備され、逆の右腕には青を基調としたアーマーが肩に装着され、狼の頭を模した手甲が装備されていた。

 そして背中には外側が白、内側が赤のマントをはためかせた騎士。【ロイヤルナイツ】の一人にして最後の名を冠する【オメガモン】を模したバリアジャケットを装着したユウが姿を現す。

 

「フッ!!」

 

 ユウが左腕を振るうと同時に竜の頭を模していた手甲から大剣ー【グレイソード】が飛び出し、ブラックにグレイソードの剣先を向ける。

 ブラックも応じるように両手のドラモンキラーをユウに向かって構え出し、二人は互いに離れていた所で見ていた桜達が息がつまるほどの睨み合いを行い始めた瞬間に。

 

「うぉおおおおおおっ!!!!」

 

「ハアァァァァァァァァッ!!!!!」

 

 互いに視認する事が出来ないスピードで相手に向かって突進し、ユウはグレイソードを、ブラックはドラモンキラーの刃をぶつけ合い、凄まじい火花を散らしながらグレイソードとドラモンキラーは応酬を繰り返すのだった。


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