漆黒シリーズ特別集   作:ゼクス

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コラボ2

 海鳴市に存在するとある墓地の丘。

 その場所からこの世界の二人目の転生者-【利村ユウ】こと【ユウ・リムルート】は、猫の使い魔のリニスと坂を降りていた。

 ブラックが平行世界に現れた今日は、ユウにとってこの世界の実の両親の命日で在った為に、ゆっくりと静かに墓参りを行いたかったので、リニスに頼み通信傍受さえも行っていたのだ。

 その為にエイミィの通信はユウには届かず、ブラックが現れた事もユウとリニスは知らなかった。

 そして墓の掃除や墓参りを終えたユウとリニスはバケツを手に提げながら坂を降りて、自分達が住んでいる高町家へと戻ろうとするが、その直前に坂の下の方から慌てながらアリサ、すずか、アリシア、ファリンが駆け上がって来る。

 

「ユウッ!!」

 

「アリシア? アリサにすずかにファリンさんまで……一体如何したんだ?」

 

 突如として駆け上がってくると共に慌てた顔をして叫んで来たアリシアの姿に、ユウは軽く驚きながら質問した。 すると、アリサが僅かに怒ったような顔をしてユウに駆け寄る。

 

「『一体如何したんだ?』じゃ、なーい!! アンタがほっつき歩いてる間に、なのは達が大ピンチになってるんだから!!」

 

『ッ!?』

 

 アリサの突然の大声にユウとリニスだけではなく、アリシア達も思わず耳を押さえてアリサを見つめてしまう。

 

「ほ、ほっつき歩いてたわけじゃないんだが……って、なのは達がピンチってどういう事だよ!?」

 

 アリサの言葉の意味に気がついたユウは慌てた声を上げてアリサ達に質問し、アリサ達はなのは達に起きている現状の説明を行いだすのだった。だが、彼女達は知らなかった。

 ユウがこれから向かう先にいる敵の目的は“ユウと桜”であると言う事。そしてその敵には想像を絶する力が宿っている事を彼女達は全く知らなかった。

 

 

 

 

 

 破壊し尽くされた岩山が多数存在する場所の上空。

 その場所でなのは達と合流したはやて達はブラックと戦い続けていた。はやて達の目的は、自分達の中でも最強の者-ユウが来るまでのブラックの足止めだった。またはSランクに匹敵する実力を持った全員で掛かり、ブラックを倒すと言う作戦だったが、その考えは間違っていたと心の底から思い知らされた。

 何故ならばはやて達の放つ攻撃は、“ブラックに何のダメージも与える事が出来なかったのだ”。

 

「紫電一閃!!」

 

「ラケーテン!! ハンマーーー!!!」

 

「……フン」

 

 シグナムとヴィータが同時に放って来た必殺技の一撃を、ブラックは無造作に両手のドラモンキラーで微動だにする事さえもなく受け止めた。

 その事実にシグナムとヴィータは目を見開きながら傷一つ付いていないブラックのドラモンキラーを見つめるが、ブラックからすれ 当然の事であり、シグナムとヴィータの様子になど構わずに二人を弾き飛ばす。

 

「邪魔だ」

 

『ガハッ!!』

 

 ブラックに弾き飛ばされた二人は、そのまま地上の方へと吹き飛ばされていったが、地上に激突する直前に体勢を整え直し地上に着地する。

 ヴィータはそれと共にブラックを確認しようと上空に目を向けるが、その直前にブラックがヴィータの目の前に姿を現す。

 

「なっ!?」

 

「ヴィータッ!!」

 

 ヴィータの危機にはやては慌てた声を上げ、すぐさま助けに向かおうとするが、その前にブラックが体勢が悪いヴィータに向かって ドラモンキラーを突き出す。

 

「ドラモンキラーー!!!!」

 

「ヴィータッ!!」

 

「ムッ!」

 

 ブラックのドラモンキラーがヴィータに直撃する直前に、突如としてドラモンキラーの前に展開された緑色の三重魔力障壁にドラモンキラーは阻まれた。

 その隙にヴィータはブラックのすぐ傍から離れるが、ブラックはあえて追撃を行わず、障壁を展開したユーノの傍に近寄って行くヴィータを見つめる。

 

(……つまらん……少しは楽しめるかと思って手加減していたが……やはり苛立ちが増すだけだ……そろそろ 終わりにするか。目的の敵も来る気配は無いからな)

 

 ブラックは完全に手加減する気を失い、本気を出そうと力を全身に込め始めるが、その前に上空から三つの砲撃がブラックに降り注ぐ。

 

「ダブルポジトロンレーザーーッ!!」

 

「エクストリームジハードッ!!」

 

「猿真似も……いい加減にしろッ!! ハァッ!!!」

 

『なっ!?』

 

 ブラックは叫ぶと同時に両手のドラモンキラーを鋭く振り抜き、桜色と白銀、そして金色の砲撃を真っ二つに切り裂き、砲撃はブラックに直撃する事無く四散した。

 今までと違うブラックの姿に全員が目を見開くが、ブラックの左右の真横に移動していたアルフとザフィーラはすぐさま驚愕を抑え込み、同時にブラックに向けて拳を突き出す。

 

「獣王拳ッ!!」

 

「覇王拳ッ!!」

 

「また猿真似か。猿真似ならこれぐらいはして見せろ!! ブレイズキャノン!!」

 

『なっ!?』

 

 ブラックは右側から迫って来るアルフの狼の顔している衝撃波-獣王拳と、左側から迫って来ているザフォーラの拳型の衝撃波-覇王拳に向かって左右の両手を突き出すと同時にクロノとクライドが得意としている砲撃を撃ち出した。

 その砲撃に全員が目を見開いている内にブラックの放った砲撃は 獣王拳と覇王拳と衝突するが、一瞬の停滞を見せる事も無く撃ち抜き、勢いも全く衰える事無く、砲撃はアルフとザフィーラに向かって迫る。

 

『クッ!!』

 

 アルフとザフィーラは迫り来る砲撃を横に飛ぶ事で避けたが、その顔は困惑に染まりきり、ゆっくりと両手を下ろし始めているブラックを見つめる。

 それだけではなく周りのメンバーもブラックに困惑を隠せないと言うように見つめ、ブラックの事を最も知っている筈の桜も今のブ ラックの技には困惑を隠せなかった。ブラックが使った砲撃は紛れも無くクロノとクライドが得意としている【ブレイズキャノン】。

 その魔法をブラックはまるで最初から使えたと言うように平然と使った。その事に誰もが驚愕と困惑せざるを得なかったが、ブラックは構わずに周りの者達を睨みつける。

 

「猿真似ばかり行うとは……俺を苛立ったせるのもいい加減にしろ」

 

「猿真似だって? ふざけんじゃないよ!! 私らの魔法は頑張って訓練して覚えた魔法だ!! それを猿真似なんて呼ぶんじゃないよ!!」

 

「フン、貴様らが使っている技は殆どが猿真似だ……いや、そう呼ぶのも苛立つ。本物の威力に比べれば遥かに劣る技だからな……そうだろう! 桜と言う娘!!!」

 

「ッ!! ……」

 

 突然、声を掛けられた桜は目を見開きながらブラックを見つめるが、桜はブラックの言葉に言い返す事が出来なかった。

 桜にもブラックの言葉は正しいと分かっていた。確かになのは達の魔法は努力した果てに覚えた魔法。だが、その技は殆どがデジモンの技を基にしたものであり、本物に比べれば遥かに威力は下回っているのだ。

 

「貴様とその妹が使った砲撃は【インペリアルドラモン】の技。そっちの金髪は【マグナモン】。赤いガキは【ズドモン】。桃色の髪の女は【ガルダモン】。そして犬どもは【レオモン】に【オーガモン】。どれもこれも猿真似としか言えない技ばかりだ」

 

(如何言う事!? 何でブラックウォーグレイモンが【インペリアルドラモン】の事を知っているの!? それに【マグナモン】も!? 他のデジモンはともかく、その二体とブラックウォーグレイモンが会える筈は無いわよ!! 一体このブラックウォーグレイモンは、何時のブラックウォーグレイモンなのよ!?)

 

「特に【インペリアルドラモン】と【マグナモン】の技を猿真似されたのは気に入らん!! 奴らは俺が認めている連中。そいつらを侮辱された気分だ……苛立ちも限界だ。もはや手加減はしない」

 

「なっ!? 今まで手加減していたと言うのか!?」

 

 ブラックが告げた事実にクロノは信じられないと言うように叫び、桜を除いた他のメンバー達も信じられないと言うようにブラックを見つめるが、残念ながら事実だった。

 

「五分は持たせろ。【七大魔王】どもと戦った時と同じぐらいの覚悟で貴様らと戦ってやるのだからな!!」

 

「し、【七大魔王】ですって!!」

 

 桜がブラックの言葉に驚愕すると同時にブラックが全員の視界から消失した。

 その突然の事態に誰もが慌ててブラックを探そうと警戒しながら辺りを見回し始めた瞬間に、ザフィーラの目の前に本気になったブラックが姿を現す。

 

「クッ!! オォォォォォォーーーー!!!」

 

「ハアッ!!」

 

 目の前に現れたブラックの姿にザフィーラは一瞬驚くが、すぐさま冷静に立ち返り、ブラックに向かって右拳を突き出し、ブラックもザフィーラの拳に応じるように右拳を放った。

 

「グッ!! グアァァァァァァァァァァァァァッ!!」

 

『ザフィーラッ!!』

 

 互いの拳が激突した瞬間に、ザフィーラの右腕は在り得ない方向へと曲がり、ザフィーラの右腕は折れた。

 それによってザフィーラは苦痛の叫びを上げ、折れた右腕を左腕で押さえながらブラックの傍から離れようとするが、その前にブラックはザフィーラの左肩に向かって凄まじい力を込めた踵落としを放つ。

 

「終わりだ」

 

「ガアァァァァァァァァァァァァァッ!!」

 

「消えろ」

 

 踵落としによって左肩を砕かれ、苦しんでいたザフィーラに対して、ブラックは一切の容赦なくドラモンキラーの爪先に作り出していた赤いエネルギー球を胴体に撃ち込み、ザフィーラは遠くへと吹き飛んで行った。

 

「十秒経過」

 

 ブラックは呟き終えると共に再び普通の人間では視認する事が不可能なレベルでのスピードで移動し、今度は一番奥で全員のブーストを行っていたシャマルの前に姿を現す。

 

「ヒィッ!!」

 

「煩わしい!!!」

 

「アッ!!!」

 

 ブラックはシャマルの腹に向かって左腕のドラモンキラーを迷わず突き出し、シャマルはザフィーラと同様に吹き飛んで行った。

 傷ついて行く仲間達の姿にヴィータは怒りを覚えて、ギガントフォルムに変形し電撃を纏っているグラーフアイゼンをブラックに向かって全力で振り下ろす。

 

「こ、この野郎ッ!! ハンマーースパーークッ!!」

 

「フン!!」

 

 ヴィータが振り下ろして来たハンマースパークに対してブラックは右腕のドラモンキラーをハンマーの中心部分に撃ち込み、辺りに衝撃波は撒き散らされた。

 しかし、ブラックに対してハンマースパークを振り下ろした筈のヴィータの顔は恐怖に歪み、アイゼンの柄を握っている両手を震わせながらハンマースパークを“右腕”だけで受け止めたブラックを凝視する。

 

「今何かしたのか?」

 

「う、嘘だ……嘘だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーー!!!」

 

 自身の必殺技が簡単に受け止められた事実が信じられず、ヴィータは恐怖に駆られながらブラックに連続でハンマーを振り下ろす。

 だが、ブラックは全ての攻撃を見切り、先ほどと同じように“右腕 ”だけを使って受け止めて行く。

 その余りにも当然だと言うようなブラックの姿にヴィータは悔し涙を流しながらもアイゼンを振り下ろし続けるが、ブラックはやはり平然とした顔をしながら“右腕”だけで受け止めて続け、遂に攻撃を放っている筈のヴィータのアイゼンの方に罅が入り始める。

 

「なっ!? 何でだ!?」

 

「……やはりつまらん。失せろ!!!」

 

「クッ!! ヴィータ!!」

 

 ブラックがヴィータに向かって攻撃を放とうとしている事に気がついたユーノは、すぐさま先ほどと同じようにヴィータの前に三重魔力障壁を作り上げ、ヴィータが逃げる時間を稼ごうとする。

 しかし、今度は先ほどとは全く違い、ユーノが張った障壁は何の効果も発揮する事無く砕け散り、ブラックのドラモンキラーの刃がヴィータの体に突き刺さる。

 

「ガフッ!!」

 

『ヴィータッ!!!!』

 

「ヴィータちゃん!!!」

 

 ドラモンキラーの刃に突き刺さっているヴィータに、残っている全員が悲鳴のような声を上げ、ユーノが我を忘れたようにブラックに向かって突撃する。

 

「ウオォォォォォーーーーーーーー!!!!」

 

「フン、そんなにコイツが大切か? ならば返してやろう!!」

 

 怒りに我を忘れて突撃して来るユーノに向かって、ブラックは迷う事無くドラモンキラーに突き刺していたヴィータを投げつけた。

 ユーノは猛スピードで飛んで来るヴィータに気がつくと、慌ててスピードを落としヴィータを受け止める。

 

「ヴィー…」

 

「仲良く消えろ」

 

「ウワァァァァァァァァァァァァッ!!!!」

 

 ヴィータの体を受け止めて容態を伺おうとしていたユーノの目の前にブラックは瞬時に移動すると共に、ユーノとヴィータを全力で蹴り飛ばし、二人は遠くへと吹き飛んで行く。

 それを確認したブラックは次の敵の下に高速移動を行うとするが、その前にブラックの周りに存在していた二つのビットから緑色の光の紐が出現し、ブラックの体に巻き付けるようにビットは動く。

 

「ムッ!」

 

 ユーノが残した置き土産のバインドにブラックは拘束された。

 しかし、ブラックからすればそのバインドは何の意味もなく、力を込めて簡単に引き千切ろうとする。だが、この瞬間だけはブラックに完全に隙が生まれ、事前にユーノから策を念話で聞いていたなのは、桜、フェイトはブラックの頭上で桜、白銀、金の3色が交じり合った巨大な魔力球を作り上げ、全てを込める勢いで眼下に存在しているブラックに向かってデバイスを振り下ろし、巨大な魔力球をブラックに向かって放つ。

 

『メガ……デェェェス!!!』

 

 三人が放ったメガデスはブラックに直撃し、凄まじい爆発が起きた。

 しかし、それを見てもはやて、クロノ、クライド、シグナム、アルフは安心せずに爆発地点に向かってそれぞれが放てる最大の魔法を“殺傷設定”にして撃ち出す。

 

「響け! 終焉の笛!! ラグナロク!!!」

 

「スティンガーブレイド!! ベルセルクシフト!!!」

 

「スティガーブレイド!! エクスキューションシフト!!!」

 

「羽ばたけ! 火の鳥!! シャドーウイング!!!」

 

「獣王拳ッ!!」

 

 はやてが放った三つの砲撃-ラグナロク。

 クロノが放った巨大な剣-スティンガーブレイド・ベルセルクシフト。

 クライドが放った数百の剣-スティンガーブレイド・エクスキューションシフト。

 シグナムが放った炎の鳥-シャドーウイング。

 アルフが放った獣王拳。それぞれの必殺の魔法はブラックがいるであろう地点に同時に直撃し、前の爆発には及ばないがそれでも巨大な爆発が起きた。

 桜達はその様子に僅かに安堵の息を吐きながらも、爆発によって発生した爆煙を油断なく睨みつける。

 

「……これならば、幾ら奴でも……」

 

「……多分、少しぐらいはダメージを受けた筈よ」

 

「……冗談だよね、桜? これだけの魔法を、しかも殺傷設定で放ったんだよ? 幾らなんでも倒せる筈だよ」

 

「……アイツにまともなダメージを与えるなら、核弾頭ぐらいの威力は必要なのよ」

 

『ッ!!!』

 

 桜が告げた事実に全員が驚愕と恐怖に目を見開き、慌てて煙の方に顔を向けた瞬間に、煙がまるで吹き散らされるように消えていき、 “全くダメージを受けていないブラック”が八人の前に姿を見せる。

 

「……つまらん攻撃だ。捨て身の策を使ってもこの程度とは……無駄な時間を与えてしまったようだな」

 

『ッ!!!』

 

 無傷のブラックの姿と言葉に、桜を除いた全員が信じられないと言うような顔をしてブラックの姿を見つめ、桜は悔しげな顔してブラックの顔を見つめる。

 分かっていた事だが、ブラックの力は異常過ぎる。全力で撃ち込 んだ筈の攻撃で全くダメージを与えられていないのだから。

 正直に言えば桜は全員を連れてこの場から逃げ出したいと思っていた。だが、それは既に不可能な事であると言う事も桜は理解していた。視認さえも出来ないスピードで動けるブラックから逃れる事は不可能な上に、転送しようにも陣が発生した瞬間にブラックは攻撃して来るだろう。そう内心で考えていた桜ではあったが、フッと今考えた中にブラ ックから逃れられる方法がある事に気がつき、全員に念話を送る。

 

(皆、このままアイツと戦っていても勝ち目はないわ! ユウが何時来るか分からないし、此処は逃げるわよ!!)

 

(だが、逃げるとしてもどうやって逃げるんだ、桜? 奴のスピードは異常過ぎる。逃げたとしても絶対に追いつかれて、捕まってしまうぞ?)

 

(えぇ、だから転送魔法で逃げるのよ。他のメンバーは既にアイツの眼中に無いから転送させる事は簡単よ。作戦はこうよ。ブラックウォーグレイモンには魔法の知識なんて無いわ。だから転送用の陣と攻撃用の陣の判断は絶対につかない。それを利用して全員で強力な魔法を放つと思わせて、アースラに転送するの)

 

(なるほど、確かに良い策だが、先ほど彼は私とクロノ魔法をつかった。その事を考慮しての考えだね?)

 

(えぇ、正直アレは私も驚きましたけど、使ったのはクロノとクライドさんの魔法だけです。多分見覚えて使ったと思うんで、まだ、使ってはいない転送魔法なら逃げられる筈ですよ)

 

(……よし、桜の策で行こう。このままでは確かにやられてしまう。ユウが来るまでの間逃げ切れる可能性も低いし、逃げるのが正解だ。皆! 行くぞ!!)

 

(了解!!)

 

 クロノの念話に全員が一斉に頷き、それぞれ桜の策を成功させる為に余裕なのか静観していたブラックに向けてそれぞれデバイスを構え出そうとする。

 しかし、その直前にはやてとユニゾンしているリインフォースが違和感を感じる。

 

(ッ!!)

 

(ん? どないしたん、リインフォース?)

 

(……いえ、気のせいみたいです……(今、一瞬感じた魔力は……いえ、在り得ない。〝闇゛は既に居ないのだから))

 

 はやての質問に答えながらもリインフォースは言い知れない不安を感じるが、今は桜の策を成功させる為に全力ではやてのサポートに専念し始める。

 そして黙っていたブラックも作戦が決まったのを感知したのか、組んでいた腕を解いて構える。

 

「もう別れの挨拶は済んだか? そろそろ終わらせるぞ」

 

「あいにくだけど、私達はまだ死ぬ気は無いわよ!! ポジトロンレーザーーーッ!!!!」

 

「エクストリームジハードッ!!」

 

 桜とフェイトは同時にブラックに向かって砲撃を撃ち出し、他のメンバーもそれぞれブラックを撹乱するように動き始める。

 しかし、ブラックは惑わされる事無く、目の前に迫って来ている砲撃に向かってドラモンキラーを振り抜き、砲撃を四散させると共に砲撃を放った桜とフェイトに向かって突撃する。

 

「オォォォォォーーーーー!!!!」

 

『クッ!!』

 

Flash(フラッシュ) move(ムーブ)

 

Blitz(ブリッツ) Rush(ラッシュ)

 

 砲撃を四散させると共に飛び出して来たブラックに、桜とフ ェイトは悔しげな声を出しながらも高速移動魔法を使用してブラックの突撃を避けた。

 しかし、今度は今までとは違い、ブラックは自身の異常なスピードを完全に制御しきり、逃げ出した桜をすぐさま追い始める。

 

「フッ!!」

 

「クッ!! ……(冗談でしょう!? 何でアレだけのスピードを出していて、こうも簡単に追いつかれるのよ!! 違う!! コイツは私が知っているブラックウォーグレイモンじゃない!! だけど、世界に異常を起こすブラックウォーグレイモンなんて、あのブラックウォーグレイモンだけだし……あぁッ!! もう如何なっているのよ!?)」

 

 自身を追って来るブラックウォーグレイモンを見つめながら桜は内心で疑問の叫びを上げるが、それに答える者は誰も存在せず、ブ ラックは更にスピードを上げ、桜の前に回り込む。

 

「終わりだ!!」

 

「ッ!!」

 

 前方に回り込まれた事によって、桜の逃げ道は完全に閉ざされてしまい、慌てて急ブレーキを行うが、ブラックと違い自身の発揮していたスピードを完全に止める事が出来なかった。

 それに対してブラックは嘲りの笑みを口元に浮かべながら両手を徐々に迫って来ている桜に向けて、連続でエネルギー弾を撃ち出そうとする。だが、その前になのは、はやて、フェイトがブラックに対して射撃魔法を撃ち出す。

 

「アクセルシューターー!!!」

 

「ブラッディダガーーー!!!!」

 

「プラズマシューートッ!!!」

 

「チィッ!! 邪魔だ!! ウォーブラスターーー!!!!」

 

 なのは、はやて、フェイトが放って来たそれぞれの射撃魔法に対してブラックは、桜に放つつもりだったウォーブラスターを撃ち出す事で相殺した。

 それによって辺りに煙が満ちるが、ブラックは気配を感じ取る事で居場所をつき止め、すぐさま移動を行おうとする。

 しかし、煙の中から次々と光が満ち溢れ、その光の正体にブラックが気がつく。両手を振るって風を巻き起こし、周りの煙を吹き飛ばすと、ブラックにデバイスを向けながら巨大な魔法陣を足元に発生させている桜達の姿が存在していた。

 ブラックは僅かに感心したように頷きながら、デバイスを向けている桜達を見回す。

 

「ほう、なるほど。中々に面白い策だ。だが、それで一体どうするつもりだ?」

 

「クスッ、決まっているでしょう……逃げるのよ!!!」

 

 桜がブラックの質問に答えると同時に桜達の足元に存在していた魔法陣が光り輝き、桜達はアースラへと転移しようとする。

 だが、次の瞬間、桜達とブラック、そしてブラックによって戦闘不能にされたヴィータ、シャマル、ザフィーラ、ユーノさえも入り込んでしまうほどの巨大な結界が辺りに展開される。

 

『ッ!!!』

 

「て、転送妨害の結界!? 一体誰が!?」

 

 結界が張られると共に消失した魔法陣にクロノは疑問に満ちた驚愕の声を上げた。

 しかし、ブラックは桜やクロノ達の様子には構わずに、桜に嘲りに満ちた視線を向けながら声を掛ける。

 

「クックックックッ、言っただろう? 面白い策だと?」

 

「ッ!! 嘘!? ばれていたの!?」

 

「フン、貴様の考える策など俺は何度も見た事がある。それの対処法など簡単だ……さて、貴様の策は見せて貰った。次は俺の技を見て貰おうか?」

 

「ッ!! 皆! 防御魔法を全開にしつつ、ブラックウォーグレイモンから出来るだけ離れて!!」

 

 ブラックのやろうとしている事に気がついた桜は慌てて仲間達に 向かって叫び、全員が桜の警告に従い防御魔法を使用しながらブラックから離れ始める。

 ブラックはその様子を見ても慌てずに既に溜め終えていた力を一気に解放し、 防御魔法を使用しながら離れようとしている桜達を飲み込んでしまうほどの炎の竜巻を広範囲に発動させる。

 

「吹き飛べッ!!! ブラックストームトルネーード!!!!」

 

『キャアァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!』

 

『ウワアァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!』

 

 ブラックが叫ぶと共に発動させたブラックストームトルネードは、防御魔法を発動させていた桜達だけではなく、辺りの岩山さえも吹き飛ばした。

 防御魔法を発動させていた桜達は何とか助かるが、全員が満身創痍と言うようにボロボロになりながら地面や瓦礫に激突して行く。

 

「あうっ! ……つ〜〜〜〜……」

 

 地面へと叩きつけられたはやてはボロボロになったバリアジャケットを纏いながら頭を押さえて立ち上がろうとするが、立ち上がる事は出来ず、地面に伏したままだった。

 しかし、その状態になりながらもはやては諦めずに周りを見回す。周囲には瓦礫となった岩が散乱し、その上にはやて以外の全員が気絶して倒れ伏してた。

 その事実にはやては慌てた顔をして何とか立ち上がろうとするが、 その前にはやてとユニゾンしているリインフォースが慌てながらはやてに向かって叫ぶ。

 

(主ッ!!)

 

「ハッ!?」

 

 リインフォースの叫びを耳にしたはやてが慌てて目の前に見てみると、右腕のドラモンキラーを振り上げているブラックが存在していた。

 

(アカン、私死んだわ)

 

 ドラモンキラーを振り下ろそうとしているブラックにはやては自身の死を確信し、思わず目を瞑ってしまう。  ブラックは何の感慨も浮かばずに、はやての体に向かってドラモンキラーの刃を振り下ろそうとする。だが、 その直前に、辺りに張られていた結界が一部罅割れたように崩壊し、黄金の閃光がブラックとはやての間に入り込むように突撃し、辺りに甲高い金属音が鳴り響く。

 

「えっ!?」

 

 耳に届いて来た金属音にはやては慌てて目を開けてみると、ブラックの黒いドラモンキラーを同じような形をした黄金色のドラモンキラーで受け止めている黄金色の鎧を身に纏い、銀色のフェイスガードを被った【ウォーグレイモン】を思わせるバリアジャケットを装着したユウが存在していた。

 その姿にはやては心の底から嬉しそうな顔をするが、逆にブラックはユウの姿に一気に怒りのメーターが振り切れる。

 

「き、貴様ぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

 

「俺の、俺の大切な奴らに何しているんだ!? ドラモンキラーーー!!!!」

 

 ブラックの怒りの叫びに負けないほどの怒りの声でユウは叫び返すと共に、ブラックの胴体に向かって“殺傷設定の上に手加減無用 の一撃”を叩きこんだ。

 その威力に、怒りに支配されていたブラックは吹き飛ばされ、背後の瓦礫に激突して瓦礫の中に埋まった。

 ユウはそれを確認すると、背後でボロボロになっているはやてに急いで振り返る。

 

「はやて! リインフォース! 大丈夫か!?」

 

「ユ、ユウ君……」

 

「……すまん……俺が遅れたせいで」

 

 ユウはボロボロなはやての姿に申し訳なさそうな様子を見せながら謝り、周りを見回してみると、はやてと同様にボロボロな姿になっているなのは達と、明らかに致命傷に近い傷を負ってしまっているヴィータ達を目撃する。

 その事実にユウは無性に腹が立ち、ブラックが埋まっている瓦礫を怒りに満ちた視線で睨みつける。

 本来のユウならばブラックと戦うとなれば全力で拒否するだろう。彼も桜同様にブラックの力を知っている。だからこそブラックと戦いたいとは全く思わない筈だが、大切な人達を傷つけられたユウはブラックと戦う事を完全に決意し、ブラックがいる瓦礫に向かって足を力強く踏み出す。

 同時にブラックが埋まっている瓦礫が吹き飛び、ユウに負けないほどの怒りのオーラを全身に身に纏ったブラックがユウに向かって瓦礫を砕きながら足を踏み出す。

 

「……貴様、その姿を今すぐ解け」

 

「……ブラックウォーグレイモン」

 

「……やはり貴様も……いや、もうそんな事は本気で如何でもいい。俺の正体を知っているなら分かる筈だ。俺が如何言う存在なのかを?」

 

「あぁ、知っているさ」

 

 ブラックの質問に対してユウは迷い無く答えた。

 その自身の正体を知りながら迷いの無い瞳をしているユウの姿は、本来のブラックなら喜び、思う存分にユウとの戦いを楽しんでいただろう。だが、今のブラックにはもはやユウとの戦いを楽しむ気は全く無かった。桜達の認めているデジモン達の技を模した魔法。そしてブラックが心の底から認め、最高の戦友であり恩人だと思っている【ウォーグレイモン】の姿を模したユウのバリアジャケット。

 それらの事がブラックを心の底から苛立たせていた。しかし、ユウはそのようなブラックの内心には気がつかずにブラックを怒りの視線で睨みつけ、ブラックは何の感情も篭っていない声で質問を再開する。

 

「質問だ。俺の正体を知っている貴様は、俺を如何する?」

 

「知らん」

 

「ほう」

 

 ユウの答えにブラックは怒りを胸に押し込めながら感心した声を上げ、ユウを注意深く見つめる。

 

「お前が世界の安定を崩す存在だろうが、幾つ世界を滅ぼそうが俺は知らん。俺の周りに火の粉が降りかからなけりゃ、誰が何処で何しようが如何でもいい。俺の知らないところの出来事なんて、俺には関係ない。第一、俺にはアンタの存在や行動を否定する権利も無ければする気もない。いや、誰かの存在を否定する権利なんて、何処の誰にも有りはしないか」

 

「……」

 

「けどな! お前はこいつ等を……俺の大切な奴らを傷つけた! 今、俺はその事が無性に腹が立って仕方がない! だから、俺はお前をぶっ飛ばす!!」

 

「なるほど、良い答えだ。何処ぞの“独善者”どもよりも遥かに貴様の方がマシだ。世界などと言う不確定なものを護るなどとほざいている連中よりも、遥かに貴様の考え方の方が俺には面白い」

 

 ドラモンキラーを突き出しながら放ったユウの宣言に、ブラックは感心したような声を出しながら呟いた。

 そのブラックのアッサリとした答えにユウは僅かに自身の知っているブラックウォーグレイモンとの違いに内心で驚くが、それを振り払い、ブラックに自身の考えを突きつける。

 

「俺は自己中心的な人間なんだ。簡単に言えば、どこぞの知らない世界の100や200の命運より、俺は、こいつ等の方が大切なんだよ。まあ、こいつ等はそんな事は望んで無いだろうけど……こいつらが傷つくのは俺が嫌だからな。一言でいえば、俺は自分の為に戦っているんだ!!」

 

「ますますその考え方には共感出来る。世界などと言う不確定なものよりも、自分の信念のままに戦う方が正しい。護るものが明確なほどに力が上がるからな……だからこそ、俺は貴様らが気に入らんのだ。自分達がどれだけ護られているのかを知らない貴様らがな」

 

「何だって? 俺達が護られている?」

 

「……やはり分かっていないか……その身に教えてやろう。貴様らがどれだけ恵まれて生まれて来たのかを!!!」

 

「クッ!!」

 

 瓦礫を吹き飛ばしながら突撃して来たブラックに、ユウも慌てて構えを取り出し、ブラックに対して真正面から挑むのだった。


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