漆黒シリーズ特別集   作:ゼクス

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【おまけ】を先に投稿する予定でしたが、思っていたよりも設定を直す箇所が多いので、先に投稿しようか悩んでいたコラボ編を投稿する事にしました。

コラボする作品は、【Arcadia】に投稿されている『友』様作の【リリカルなのは~生きる意味~】で起きたブラックウォーグレイモンとの出会いの話を、【漆黒の竜人と魔法世界】でのブラックになった場合の話です。


第二章 コラボへ(コラボ先Arcadiaに投稿されている『友』様作 リリカルなのは~生きる意味~)
コラボ1


 とある管理外世界。岩や荒野が広がる無人世界。

 その場所をブラックは静かに歩き続けていた。しかし、何時もとは違い、首に掛かっているネックレスは存在せず、パートナーである筈のルインもブラックの傍にはいなかった。

 本来ならばブラックが一人で勝手に動くのは日常茶飯事なのだが、今回は完全に何時もとは違っていた。何故ならば、今ブラックが歩いている世界は本来のブラックの世界ではなく、平行世界の管理外世界だったのだ。

 マッドであるフリートの実験に付きあわされてしまい、ブラックは通信機の役割も担っているネックレスも持たずに平行世界に飛ばされてしまった。

 当初はその事でブラックは非情に不機嫌ではあったが、リンディの小言を聞かずに済む事。ヴィヴィオに付き纏われない事。その様な事から完全に開放されたブラックは伸び伸びと自身の目的通りに動ける現状に歓喜し、世界を好き勝手に動き回る事を決意して歩き続けていた。

 最もブラックが現れたのが無人の管理外世界だったのは幸運としか言えないだろう。もしも管理世界にでもネックレスを着けていないブラックが現れていたら、今頃は大惨事と言う言葉が生温い状況が生まれていただろうから。

 

「………チィッ……数時間歩いてみたが、何の気配も感じられん。どうやら無人の管理外世界か………完全に外れのようだ………まぁ、良い。居ないとなれば、別世界に行けば良いだけだ。とにかく強い奴だ。俺の心を満たせるだけの敵と出会えればいいのだが………ムッ!」

 

 ブラックは突然複数の気配が出現した事に気がついた。

 そしてそのまま黙って気配が感じられる方向を見ていると、管理局の者と思われる局員達がブラックの方に向かって飛んで来た。

 その姿にブラックは僅かに残念そうに溜息を溢して、前に向かって歩き出す。

 一般的な管理局員など七大魔王とさえ戦った事があるブラックからすれば、雑魚どころか路傍の石同然の存在。当然ながら強敵を求めているブラックからすれば、興味さえも湧かない存在でしかない。

 だからこそ、本当に珍しく黙ってその場から去るつもりだったのだが、その前に局員達はブラックの周りを囲み、その中のリーダーと思われる人物-この世界のクロノ・ハラウオンがブラックの姿に疑問を覚えて思わず呟く。

 

「………ユウ?」

 

「邪魔だ。とっと失せろ」

 

「なっ!? 言葉を喋れるのか!?」

 

「フン、言葉を話せては不味いのか? そんな事よりもさっさと失せろ。俺の邪魔をするな」

 

「待ってくれたまえ! 私達は時空管理局の者だ!!」

 

(………誰だ? コイツは?)

 

 歩き出そうとした瞬間にクロノの横に立っていた男性-クロノに良く似た顔立ちをした男性にブラックは疑問を覚えた。

 少なくともブラックの記憶の中にそのような人物は存在していない。ブラックはその事に疑問を覚え、男性の顔を静かに見つめ続けるが、その間に男性はブラックに向かって再び質問を行い出す。

 

「今、この世界で局所的だが空間の位相が不安定になっている。我々は、その調査に来た。そして、その空間の異常の中心部分に来た結果、君に遭遇したんだ」

 

「ほう、ならば簡単だ。その空間の異常の原因は、俺自身だ」

 

『ッ!!』

 

 ブラックの告げた答えに局員達と男性、そしてクロノは驚愕し、思わずブラックの姿を見つめるが、ブラックはもはや関係ないと言うように足を進めようとする。

 しかし、その前にクロノがブラックの前に立ち塞がり質問の叫びを放つ。

 

「何故そんな事をする!?」

 

「………理由など無い」

 

「何だと!?」

 

「簡単な事だ。俺はそう言う存在だ。存在するだけで、空間に異常をきたし、世界を不安定にする存在。それが俺だ」

 

『………』

 

 ブラックの答えにクロノだけではなく、他の局員達までも言葉を出す事が出来なかった。

 “存在しているだけで世界に異常を引き起こす”。しかもそれは 自身の意思と関係なしで。

 それが事実だとすればどれほどまでに辛い事なのか想像する事さえも出来ない。

 それを味わう事が出来るのはブラックだけだろう。或いはブラックのパートナーであるルインぐらいだ。

 

「貴様の質問には答えた。さっさと其処を退け。これ以上俺を苛つかせるな」

 

「待ってくれ! 僕達は無闇に争うつもりはない! 君の身柄は管理局で保護する! 身柄の安全も保証する!」

 

「身柄の安全? ………クックックックックックックハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!」

 

「何が可笑しいんだ!?」

 

 突如として笑い声を上げ始めたブラックに対して、クロノに似た男性が質問の叫びを放った。

 その事に対してもブラックは笑いをおさめる事が出来なかった。ブラックからすれば当然だろう。よりにもよって平行世界とは言えクロノに、管理局に、自身の身柄の安全を保障するだと告げられたのだから、もはや笑うしかブラックにはできない。

 

「クックックックックックッ、よりにもよって管理局の人間に安全の保障などと言われるとは思っても見なかった………笑わせてくれた礼だ。消えろ。今すぐ消えれば見逃してやる」

 

『ウッ!!』

 

 深く静かなブラックの殺気を浴びたクロノ達は怯み、思わず背後に足が後退する。

 それを確認したブラックは殺気を振り撒きながら前へと進んで行く。敵にならない存在などにブラックは全く興味は無い。だからこそ、珍しく暴れる事もせずに管理局員の前から姿を消そうとする。

 しかし、此処で一つの不運が起きた。余りに強力すぎるブラックの殺意に一般的な局員が耐えられる筈も無く、恐怖心に駆られてブラックに向かって射撃魔法を撃ち出してしまう。

 

「ウッ、ウワァァァァァァァッ!!」

 

「なっ!? 何て事を!?」

 

 ブラックに射撃魔法が直撃するのを目撃したクロノに似た男性は声を上げ、クロノも慌て始める。

 しかし、クロノ達が対処を行う前に射撃魔法が直撃した事によって発生した煙の中からブラックが飛び出し、射撃魔法を放った局員の前に瞬時に移動する。

 

「ヒィッ!!」

 

「………つまらん。恐怖に駆られて攻撃とは」

 

「クッ!! ブレイズキャノン!!」

 

「本気でつまらん!」

 

『なっ!?』

 

 クロノが放った砲撃はブラックが振るった右腕の風圧によって一瞬の内に四散した。

 その現象にクロノだけではなく他の局員達も驚くが、ブラックは構わずに目の前に立っていた局員を殴り飛ばす。

 

「邪魔だ」

 

「ガハッ!!」

 

 ブラックの拳を受けた局員は一撃の下に吹き飛んでいき、その勢いのまま岩壁にぶつかり意識を完全に失った。

 それを確認するまでも無くブラックは静かに殺意を振り撒きながら、周りで震えている局員達とクロノ達を睨みつける。

 

「気が変わった。貴様らは一人残らず叩きのめしてやる。少しは頑張るんだな。俺の疼きを抑える為に!!」

 

「クッ!! 攻撃開始だ!!」

 

 クロノは叫ぶと同時に周りに居た局員達とクロノに似た男性はブラックに向かって魔法を放つが、彼らは身を持って知る事になった。この世には触れてはいけない史上最悪にして最凶の存在が居る事を。

 

 

 

 

 

 平行世界の地球。その地に存在する海鳴市の高町家の中で同じ顔の二人の少女-高町なのはと高町桜はゲームで遊んでいた。

 本来ならば存在しないはずのなのはの姉の桜。彼女もまたブラックと同じように異界の人間の生まれ変わりだった。彼女も【リリカルなのは】の世界に転生し、ジェルシードに関わる事件や闇の書事件を解決に導き、原作では死んでしまった筈の存在さえも、もう一人の転生者と仲間達と共に救い出した。

 そしてそんな二人に突如として通信が届き、桜は自身のデバイスである【レイジングソウル】を服の中から取り出して通信先にいる切羽詰ったエイミィがモニターを映る。

 

『いきなりゴメン! ユウ君いる!? ユウ君に直接繋ごうと思ったんだけど、捉まらなくて!』

 

「えっと………ユウは朝から出かけてて………行き先は私達にもさっぱり………でも、昼までには戻ってくるって聞いてますけど」

 

『そんな!? それじゃ間に合わない………ゴメン2人とも! 何とかユウ君探してきて! このままじゃクロノ君たちがやられちゃうよぉっ!!』

 

『ッ!!』

 

 半泣きになりながらエイミィが告げた事実になのはと桜は、ただ事ではない判断すると、即座に立ち上がり、同じように家の中にいた兄である恭也と姉である美由希に向かって桜が叫ぶ。

 

「恭也兄さん! 美由希姉さん!! 大至急ユウを探して来て!! 私となのははクロノ達の応援に行くから!」

 

「分かった! 気をつけて行って来い!!」

 

 桜の叫びに恭也は即座に答え、美由希も黙って頷き外へと駆け出して行く。

 桜はそれを確認するとエイミィに転送を頼み、なのはと共にアースラへと転移していった。

 しかし、桜は知らなかった。向かう先に存在している最凶の者が、桜ともう一人の転生者を絶対に認めないという事を。そして自分達がどれほど恵まれて生まれて来た事を知る事になるとは、神ならぬ桜には全く分からなかった。

 

 

 

 

 

 破壊し尽くされた岩壁。

 その場所には多数の局員が傷付きながら倒れ伏し、同じぐらい傷ついているクロノとクロノに似た男性-クロノの実の父親-クライド・ハラオウンが漆黒の竜人-ブラックによってそれぞれ両手のドラモンキラーの爪先に掲げられていた。

 

「グウッ!! ………ば、化け物か」

 

「つまらん。本気でつまらんぞ。少しは俺を楽しませろ!!」

 

『ガハッ!!』

 

 ブラックは叫ぶと同時に二人を勢いよく地面に叩きつけ、クロノとクライドは苦痛の叫びを上げた。

 しかし、その姿を見てもブラックは喜びの感情など抱かずに苛立ちだけが募っていた。ハッキリ言ってブラックは本気で今の戦いをつまらなく感じていた。

 少しは楽しめるかと思い戦ってみたが、結局ブラックの本能を鎮める所か逆に本能の疼きを上げるだけで、ブラックの苛立ちは募るばかりだった。

 局員やクロノ達が放つ魔法は非殺傷設定の為に、ブラックからすれば避ける必要も無くその身に食らってもダメージを受ける事は無い。だが、逆にその事がブラックの苛立ちを募らせ、手加減する事無く殆ど一瞬で武装局員達を倒し、クロノとクライドにしても逃げ続ける事で二十分ぐらい持たせるのが精一杯だった。

 

「つまらん」

 

 ブラックは地面に倒れたままのクロノとクライドに感情が全く篭っていない言葉を掛けると、そのまま二人に背を向け、その場を去ろうとする。

 そしてそのままブラックは崖の間を通り過ぎようとするが、その瞬間にクロノとクライドは同時に立ち上がり、ブラックの頭上に存在している大岩に向かって砲撃を撃ち出す。

 

『ブレイズキャノン!!!』

 

「ムッ!」

 

 二人が放った砲撃によってブラックの頭上に存在していた大岩が崩れ、油断してたブラックは大岩の下に飲み込まれた。

 それと共に周りの崖も崩れ落ち、大岩の隙間を塞ぎブラックは完全に大岩の下に閉じ込められてしまう。

 一時的にもブラックの脅威から解放されたクロノとクライドは安堵の息を吐きながら地面に膝をついていると、空から二人の少女-バリアジャケットを纏い、それぞれデバイスを手に握った桜となのはがクロノの向かって降りて来る。

 

「クロノーー!!!」

 

「クロノ君!!」

 

「ッ!! 桜!! なのは!! 如何して此処に!?」

 

「エイミィさんに頼まれたの。クロノ達がピンチだから助けて欲しいって。本当はユウの方が良かったんだけど、今日は朝から何処行ったか分からないから、私達が先に応援に来たの」

 

「………そうか、正直助かるが………来ない方が良かったかもしれない」

 

『えッ?』

 

 クロノの苦渋に満ちた声に桜となのはは同時に疑問の声を上げ、クロノと同様にボロボロになりながら膝をついているクライドがブラックが生き埋めになっている大岩の方に顔を向けながら呟く。

 

「ハッキリ言って、この敵は強すぎる。私達の魔法が全く効かないんだ」

 

「エェェェッ!! 魔法が!?」

 

「それでソイツは何処に居るのよ!?」

 

「今はあの大岩の下だが、先ず間違いなく生きている。だが、これも何時まで持つか………せめて1時間………いや、30分持てばいい所…」

 

『ッ!?』

 

 クロノの声を遮るように大岩は粉々に砕け散り、細かい瓦礫も跡形も無く吹き飛んだ。

 その現象に全員が目を見開き、大岩が在った場所に顔を向けてみると、砂煙の中に影が映り出す。

 

「三十秒しか持たなかったか」

 

「………いい加減に限界だ。貴様らは殺す」

 

『なっ!?』

 

 苛立ちに満ちた声と共に砂煙の中から出て来たブラックの姿に、なのはと桜は驚きの声を上げた。

 その見覚えのあるブラックの鎧と両手の鉄鋼に二人は思わずブラックの姿を凝視してしまうが、逆にブラックはなのはと桜の姿に疑問を覚えた。

 

(誰だ? 高町なのはの横に立っている小娘は? この世界では奴には姉妹が居るのか?)

 

「………嘘………ユウ君のバリアジャケットそっくり………」

 

(ユウ? 誰だ? 聞き覚えが無い名前だ? あの小僧に似た男に、高町なのはに似た娘。一体この世界はどうなっている?)

 

 ブラックは自身のいる世界の現状が良く分からずに疑問の覚え、苛立ちも忘れて考えようとするが、その考えは恐れを含んだ桜の呟きに中断する。

 

「な、何で………」

 

(ムッ?)

 

「さ、桜お姉ちゃん?」

 

 恐怖に震えている桜にブラックだけではなくなのはも疑問を覚えるが、桜は答えずにブラックを見つめながら、本来ならば知るはずの無い事を呟いてしまう。

 

「ブ、ブラック………ブラック………ウォー………グレイモン………」

 

(何!?)

 

 自身の名を名乗る前に呟かれた事にブラックは内心で驚愕し、目を細くしながら桜の姿を注意深く見つめ始める。

 

「貴様、何故俺の名を知っている?」

 

「そ、その前に、ちょっと聞かせて………【デジモン】、【ダークタワー】、【ホーリーストーン】、【チンロンモン】………この単語に聞き覚えは?」

 

「………何故貴様がその単語を知っている。それは貴様が知る事は出来ないは………(いや待て………俺はこのような出来事を知っている………まさか、まさか!? あの娘は!?)」

 

 ブラックは桜の呟いた言葉に疑問を覚えるが、すぐにある仮説に思い至り、信じられないと言う瞳で桜の顔を見つめた。

 しかし、今度は桜がブラックの言葉に諦めたように目を伏せながらレイジングソウルの柄を強く握り始める。

 

「………そう………レイジングソウルッ!!」

 

 桜が叫ぶと同時にレイングソウルはブラストモードへと変形し、 突然の桜の行動になのは、クロノ、クライドは驚愕する。

 しかし、桜はその様子に構わずにブラックにレイジングソウルの照準を合わせて躊躇い無くなのは達が更に驚く命令をレイジングソウルに向かって叫ぶ。

 

「非殺傷設定解除!!」

 

「やはり貴様は!?」

 

 ブラックは桜の叫びに桜の正体を確信した。

 初めて見る敵に対する迷いの無い非殺傷設定解除の命令。その事だけでもブラックが桜の正体を確信するには充分だった。

 知っているからこそ出せる命令。ブラックにとってはその様な出来事は充分過ぎるほどに理解している。

 “何故ならば今の桜の行動は、ブラック自身も行った事がある行動なのだから”。

 しかし、桜はブラックの叫びや様子には一切構わずに特大の砲撃をブラックに向かって放つ。

 

「フルパワー! ポジトロンレーザー! バージョンF!!」

 

 桜が放った手加減無用の砲撃は、ブラックの体を飲み込んだだけではなくそのまま背後の崖に激突し、それよって崖にも巨大な亀裂が走り、崖は一瞬の内に崩壊した。

 その様子を目撃したクロノは慌てながら、焦りと恐怖に震えている桜に向かって叫ぶ。

 

「なっ!? 桜!? いきなり何を!? しかも非殺傷を解除するなんて !?」

 

 クロノがそう叫ぶのも当然だろう。

 桜の一撃は非殺傷設定でも充分過ぎるほどの威力が在る上に、それを殺傷設定で放ったのならば並みの者では死んでしまうだろう。だが、桜の行動はブラックに対しては正しい行為だった。最もブラックにはダメージが全く無いのだが。

その事を知らないなのは、クロノ、クライドは桜の行動に質問を繰り返そうとするが、その前に焦りと恐怖に染まった桜が叫ぶ。

 

「逃げるわよ!!」

 

「さ、桜お姉ちゃん!?」

 

「ブラックウォーグレイモンを相手に、まともに戦って勝てるわけないわよ!!」

 

「えっ!?」

 

 桜の叫びになのはは驚いた声を上げるが、桜は構わずになのはの手を掴み取りその場から本当に逃げ出した。

 

「ちょっ! 桜お姉ちゃん!!」

 

 なのはは全速力で逃げようとしている桜を引き止めようとするが、その前にブラックが居る筈の崖の瓦礫の山が吹き飛び、飛び出したブラックが桜の前に立ち塞がる。

 

「………逃げられると思っているのか? この俺の事を知りながら」

 

「クッ!!」

 

 無傷のブラックの姿に桜は悔しそうに声を上げ、なのははブラックの姿に目を見開いた。

 しかし、ブラックは桜となのはの様子には一切構わず、苛立ちが募った視線を桜に向ける。

 

「今の攻撃で確信したぞ。貴様は………いや、そんな事はもう如何でもいい………どうやら貴様は少しは骨がある奴のようだ」

 

「………だったら、如何なのよ? 出来れば、私としてこのまま見逃して貰いたいんだけどね?」

 

「フッ、無理だな。貴様は………殺すッ!!!」

 

『ッ!!』

 

 ブラックが叫ぶと共に凄まじい殺気に桜となのはに叩きつけ、その殺気に桜となのはは本能的な恐怖を心の底から味わった。

 最初からブラックの正体を知っている桜は当然として、なのはにも如何してクロノがこの場に来ない方が良かったと告げたのかハッキリと理解出来た。目の前に存在しているブラックは恐怖の根源そのもの。

 例え自分と桜が一緒に戦ってもブラックの足元にも及ばないと理解出来たが、既になのははブラックが放ち続けている凄まじい殺気から抜け出す事が出来ず、体を恐怖で震わせる事しか出来なかった。

 しかし、ブラックはその様子に一切構わずに恐怖に体を震わせているなのはに向かって、右手のドラモンキラーを突き出す。

 

「先ずは貴様だ!!!」

 

「クッ!!」

 

Flash(フラッシュ) move(ムーブ)

 

 ブラックのドラモンキラーがなのはの体に直撃する直前に、何とかブラックの殺気の影響から抜け出す事が出来た桜は、恐怖に震え続けているなのはの手を高速移動魔法を使用しながら引っ張り、ブラックの攻撃をかわした。

 そしてそのまま高速移動魔法の影響が治まる前になのはの方を振り向き、未だに恐怖から抜け出せていないなのはに活を入れる。

 

「なのは!! 此処で死んだらユウとはもう会えないわよ!!!」

 

「ユウ君ッ!!」

 

 桜の告げた人物の名前になのははハッと我に帰り、自身の手を握りながら引っ張り続けている桜の顔を見ると、桜は真剣な顔をしながら頷く。

 

「そうよ!! だから絶対に生き残るの!! フォーメーション対ブレイズ戦!!」

 

「う、うん!!」

 

 桜の叫びになのはは即座に頷き、レイジングハートを構え直しながら背後を振り向いてみると、先ほどの殺気を撒き散らしながら追って来るブラックを目にする。

 

「逃がさんぞッ!!」

 

「行くわよ!!」

 

「うん!!」

 

Flash(フラッシュ) move(ムーブ)

 

 凄まじいスピードで接近して来たブラックを桜となのははギリギリまで引きつけ、高速移動魔法を使用する事で左右に避けた。

 ブラックはその様子に二人の次に行うであろう行動を経験から完全に予測するが、あえてこの場は二人の思惑通りに動き、そのまま前へと僅かに進む。

 そしてその間にブラックの背後へと回った桜となのはは、バスターモードとブラストモードへと変えたレイジングソウルとレイジン グハートをブラックの背に向けて照準を合わせて同時に砲撃を撃ち出す。

 

「ダブルッ!!」

 

「ポジトロンッ!!」

 

『レーザーーッ!!』

 

「フン……(インペリアルドラモンの技の猿真似か。威力は本物には遠く及ばんな。だが、もう少しだけ付き合ってやろう。もう一人の“敵”が来るまではな)」

 

 桜となのはが同時に放った二つのポジトロンレーザーはブラックの背に装着されている【ブラックシールド】へと直撃し、ブラックはそのまま地上へと叩きつけられた。

 そして魔力爆発によって辺りに煙が渦巻くと、何時の間にか復活して上空に浮かんでいたクロノとクライドがブラックが落下した場所に向かって追い討ちをかけるように数百本の魔力剣を撃ち込む。

 

『スティンガーブレイド! エクスキューションシフトッ!!』

 

 クロノとクライドが同時に放ったスティンガ-ブレイド・エクスキューションシフトはブラックがいるであろう場所に次々と向かい、 再び魔力爆発が地上に起きた。

 

「これぐらいなら少しは……」

 

「淡い期待なんか持たない方が良いわよ。よくて軽く殴られた程度のダメージじゃないかしら?」

 

「……桜?君はアイツを知っているのか?」

 

「……知識としては……だけどね」

 

 クロノの質問に対して桜は油断無くブラックのいるであろう場所を睨みながら答えた。

 その桜の答えになのは、クロノ、クライドは僅かに訝しげな視線を桜に向けるが、その前に煙の中から先ほどのクロノとクライドに勝るとも劣らない数の赤黒いエネルギー剣が煙を吹き散らしながら桜達に向かって突き進んで来る。

 

「ッ!! 皆! 避けて!!……(何!? この攻撃は!?)」

 

 凄まじいスピードで向かって来た無数のエネルギー剣を避けながら、桜は自身の知らない攻撃に疑問を覚えた。

 桜の知識の中には今の攻撃などブラックウォーグレイモンには存在していない。しかし、現実にブラックのいたであろう場所から攻撃が放たれて来た。

 その事実に桜が動揺を覚えていると、次の瞬間に煙の中から無傷のブラックが姿を現し、凄まじいスピードで桜に急接近して来る。

 

「クッ!!」

 

 ブラックの姿を目撃した桜はブラックから距離を取ろうとするが、 ブラックのスピードは凄まじく徐々に距離は縮まって行く。

 桜はその事に悔しそうにしながらも辺りに存在している岩場に近寄り、崖に成っている場所を背にし始める。

 その様子を目撃したブラックは瞬時に桜の狙いに気がつくが、先ほどと同じように桜の策に気がついてないと言うようにスピードを更に上げ、桜に向かって突進する。

 

(今ッ!)

 

Flash(フラッシュ) move(ムーブ)

 

 先ほどと同じように桜はギリギリまでブラックを引きつけながら 高速移動魔法を使用して躱し、ブラックはその勢いのまま崖に激突した。同時に崖全体に一瞬の内に罅が広がり、崩落した。

 その現象に上空で様子を見ていたなのは、クロノ、クライドは、先ほどの桜のポジトロンレーザー以上の崖の崩落に目を見開きながら、呆然と崩落した崖の瓦礫を見つめた。桜の砲撃以上の現象と言う事は、ブラックの攻撃力は魔法を超えていると言う事になる。

 その事実になのは達が驚愕しながら呆然となった瞬間に、桜が慌てた顔をしてなのはに向かって叫ぶ。

 

「バカ! なのは! 危ない!」

 

「はぁあああああっ!!」

 

「ッ!!」

 

 桜が叫ぶと同時に崩落した瓦礫の中からブラックが飛び出し、なのはの目の前に普通の人間ならば視認するのが不可能なレベルで移動した。

 

(なっ!? 何よ今のスピード!? 全然見えなかった! さっきまのスピードを軽く超えているわよ!!)

 

 桜はブラックの在り得ないレベルでのスピードに内心で驚愕の声を上げるが、ブラックは構わずに咄嗟の事態で動きが完全に止まってしまっているなのはに向かって右腕のドラモンキラーを振り上げる。

 

「ムン!!」

 

「なのは!!」

 

Blitz(ブリッツ) Rush(ラッシュ)

 

 桜の悲痛な悲鳴が響いた瞬間に、金色の閃光がなのはの横を通り過ぎ、なのははブラックの攻撃から逃れた。

 突然の事態になのはが慌てて自身の服を掴んでいる相手の顔を見てみると、険しい顔をしたフェイトが存在していた。

 

「なのはッ!! 大丈夫!?」

 

「フェイトちゃん!! 何で此処に!?」

 

「私達も、エイミィに頼まれたんだ。クロノ達を助けて欲しいって。ユウは、姉さんやアリサたちが探してくれてるよ」

 

「そうなんだ……えっ? 私“達”?」

 

「ムッ!」

 

 なのはがフェイトの声に疑問を覚えて聞き返した瞬間に、ブラックは突如として自身の背後を振り返った。

 その事になのはも疑問を覚えた瞬間に、ブラックの頭上から巨大な炎の鳥が舞い降り直撃する。

 

「シャドーウイングッ!!」

 

「ハンマースパーークッ!!」

 

 シャドーウイングの炎に包まれていたブラックに対して、赤い髪の少女-ヴィータが電撃を纏っていた巨大なハンマーを叩きつけ、ブラックは地上へと吹き飛んでいた。

 その様子になのはは嬉しげな笑みを浮かべ、シャドーウイングを放ったシグナムとハンマースパークをブラックに叩きつけたヴィータの姿を見つめていると、更に追い討ちを掛けるようにブラックが落下した地点に向かって上空から三つの白い砲撃が降り注ぐ、

 

「響け! 終焉の笛! ラグナロク!!」

 

「はやてちゃん!!」

 

 ブラックにラグナロクを撃ち込んだ主-リインフォースとユニゾンしているはやての姿に、なのはが更に喜びの声を上げた。

 それと共になのはとフェイトの周りに転送用の魔法陣が出現し、その中からアルフ、シャマル、ザフィーラ、ユーノが姿を現す。

 

「あたし等もいるよ!!」

 

「みんな……」

 

 駆けつけてくれた仲間の姿になのはは感動したように瞳を潤ませ、自身の周りの仲間達の姿を見つめていると、桜が険しい顔をしながらなのはに向かって叫ぶ。

 

「なのは! 感動してる最中悪いけど、ブラックウォーグレイモンがあの位でやられる訳ないから、気を引き締めなさい!」

 

 桜が叫び終えると同時に煙の中から全くダメージを受けた様子を見せていないブラックが姿を現した。

 その姿に全員が気を引き締めなおし、不気味なほどの静かにしているブラックに向かって構えを取りながら向き合うのだった。

 

 

 

 

 

 戦闘場所から数キロ離れた岩山。

 その場所の頂点に突如として光が溢れ、光が収まった後には青と白のロングコードを纏った長い銀髪に青い瞳を持った女性-リイン フォースにソックリな容姿をしたブラックのパートナー事、ルインフォース-愛称ルインが岩山の上に立っていた。

 

「さてと、ブラック様は何処でしょうかね? 出来るだけ早く見つけないと、ブラック様の事ですから無茶をしますし、早く合流しまし ょう」

 

 そうルインは呟きながらブラックの反応を探す為に、探索魔法を発動させようとした瞬間、遠くの方から爆発音が響いて来る。

 

「……はぁ〜、さっそく暴れているんですね。もう!! 目を離すとすぐにこれなんですから!!」

 

 遠くから聞こえて来た爆発音の正体にルインは僅かに不機嫌そうな声を出しながら空へと浮かび上がる。

 ルインには今の爆発の主の正体が分かっていた。自身の主であるブラックがリンディやヴィヴィオと言う抑止力を失えば如何言う行動を取るかなどルインには簡単に分かる。だからこそ、誰よりも早くブラックの後をルインは追って来たのだが、どうやら完全に一足遅かったようだ。

 

「此処は平行世界だから暴れたら不味いのに……ブラック様に言っても仕方ないでしょうね……とにかく様子だけでも見に行きますか」

 

 そうルインは呟き終えると、高速移動魔法を使用しながらブラックが戦っているであろう場所へと向かい出すのだった。


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