漆黒シリーズ特別集   作:ゼクス

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遅れて申し訳ありませんでした。


エピローグ

 ミッドチルダを襲った事件。後の歴史に置いて『時空管理局本局暴走事件』、通称『Z.H事件』が解決してから十日が経った。

 事件が解決してからすぐに本局の幹部達、並びにそれに付き従っていた局員達は全員が逮捕された。しかし、その数は信じられない事に200人近くの要員が逮捕され、その他にもミッド行政府、並びに各世界の調査者達が本局内部を調査した所、使途不明金や横領などが本局内部で多発していた事が判明した上に、高ランクの魔導師だからと言う理由で罪が無かった事にされたり、罪が軽くなっていたりしていた事が判明し、全ての者達を捕まえた所、合計で1000人以上の局員が一斉に逮捕された。

 この事には調査に当たっていた者達だけではなく、各管理世界の代表達も全員が顔を青褪めさせた。

 法を司っていた組織内部で1000人以上もの犯罪者が存在していた。しかも継続調査は続いているので、今後も逮捕者は増える可能性も在る。自分達がどれだけ平和ボケしていたのかハッキリと分かったのだ。

 しかも、それに加担していた管理局では無い者達もやはり存在し、もはや次元世界中が上から下への大騒ぎの事態に成ってしまったのだ。

 

「私達の世界よりも十年遅いせいもあるけれど、かなり腐敗は進行しているわね」

 

「ええ、腐敗の進行は私達の予想以上ね」

 

 元々泊まっていたホテルの一室でテレビで報道されている内容を見ていたクイントとリンディは、管理局の腐敗に頭を痛め、ブラックとヴィヴィオ、ギルモンを除いた他のメンバー達も同様に頭を手で押さえながら眩暈がしていた。

 彼らの予想以上に、管理局の腐敗は進行していた。元々プランΩの真の目的は、今の管理局を崩壊させ、新たに再編させる事が目的だったのだが、正直言って再編ではなく完全に滅ぼした方が良かったと思うぐらいに管理局は腐敗していた。

 

「……一応、現在は政府主導で組織を再編させている見たいですね。それに管理局に最終的に残る権限は逮捕権だけであって、他の権限は各世界の政府が新たに作り上げる予定の機関が持つ事に成るみたいです。それと定期的に管理局の内情を調べる調査団が出る事が決まったそうですよ」

 

「それが良いわね。少なくともそれで管理局の暴走は少しは無くなるでしょうし、今までの様に罪を無かった事にする事は出来なくなるわね」

 

 ティアナの報告にリンディは頷きながら答え、他の者達も同様に頷く。

 管理局が暴走しても止まらなかった理由の一つには、管理局に権力が集中し過ぎていた事も在る。

 幾ら次元世界を護る為とは言え、それでも管理局には権力が集中し過ぎていた。その為に管理局内部の人間の中にはまるで自分達こそが世界の主だと思う様な者達が出ていた。だが、逮捕権だけしか残らないとなれば、今後は今までの様に好き勝手に罪を消したり法を作ったりする事は出来ない。そうなれば違法を行え無くなるだろう。最も全部が消えるかと言われれば不可能だろう。今まで散々違法を裏で行っていたのだから、今更管理局が止めるとは思えない。

 そうならない為にも権力の分散は必要であり、また管理局を監視する者達も必要なのだ。

 

「それにしても、地上はともかく本局は良く潰れなかったわね。正直此処までやっていたのなら、潰されてもおかしくないのにね?」

 

 報道されているテレビを見ながらクイントが疑問の声を上げると、ティアナの首に巻き付いていたクダモンがクイントの方に顔を向ける。

 

「なに、本局に潰れて貰うと新たな組織を作らねば成らん。そうなれば予算も掛かるし、作っている間に次元犯罪者達が暴れるやも知れん。そう成ると困るからこそ、管理局を再編する事に各世界は決めたのだろう。それに私達の事も在る」

 

「事件が終わってすぐに私達は消えましたからね。民衆と違って世界の代表達は私達をハッキリと味方と認識していないんです」

 

「それに、レジアス中将が連絡でデュークモン君達の世界との通信が途絶えた事とクイントさんが姿を消した事を報告しましたから、各世界の代表達はデュークモン君達が現れた本当の目的は管理世界を混乱させる為ではないかと疑っていますからね。此処で管理局を滅ぼすと色々と無防備に成りますから、管理局を潰さなかったんです」

 

 クダモン、ティアナ、なのははそれぞれクイントの質問に対して答え、クイントは納得したと言う様に頷く。

 各世界の代表達が管理局を滅ぼさなかった理由の中には、万が一でもデュークモン達との戦争が起きた時の戦力確保がある。管理世界の多くで流されたデュークモン達の戦闘の様子を見た者達ならば、出来る事ならデュークモン達との戦闘を避けたいと思うだろう。

 だが、世の中は何が起こるか分からない。もしかしたら今回の事件でデュークモン達に家族を殺された者達が報復に出るやも知れない。そうなれば、デュークモン達は人間を敵と見なし、滅ぼす動きをしだすかも知れない。そうなった時に戦う事が出来る戦力が無いと不味いので、各世界は管理局を潰さずに置く事を決めたのだ。

 最も以前の様に多大な権限を管理局には持たせる気は無い。流石に護るべき世界にアルカンシェルを撃ち込もうとした人間が居た組織など信用出来る筈は無い。少なくとも管理局-正確に言えば本局が信用を取り戻すのは当分先の事に成るだろう。

 

「本局に比べると地上はまるで逆の状態よ。予算が削減される事に成った本局とは違って、地上の方は予算が上がる事が決まったみたいね。レジアス中将はここぞとばかりに地上の戦力確保に乗り出したわ」

 

 最も在る程度現状が安定したら今の役職を放棄し、一局員に戻って一からやり直すと決めている様だ。親友で在るゼストに再び顔を向け出来るように、地上の平和を願いながら最初からやり直すと決めたのだ。

 そうクイントに話した時の彼の眼は、生き生きとした目だったクイントは全員に語り、リンディ達はそれぞれ笑みを浮かべて頷く。

 

「レジアス中将は流石ね。彼は確かに道を踏み外したけど、本局の幹部達に比べれば百倍マシね……この世界のクロノも出来ればそう言う人物に成って欲しかったわ」

 

「落ち込まないで下さい、リンディさん! この世界のクロノ君だって悪気が在ってデュークモン君達に攻撃した訳じゃないんですから!」

 

「そうよ、アレは本局上層部が情報を操作して、正確な情報を伝えずに誤った情報ばかり送られていたせいだから、彼だけの責任じゃない」

 

 後で判明した事だが、クロノが提督を務める【XV級大型次元航行船クラウディア】がデュークモンに対して攻撃を行った原因は、本局から送られて来た偽情報が原因だった。

 悪し様にデュークモン達がミッドチルダを混乱させているかのように情報が操作されていた。そのせいでクロノは攻撃命令を発してしまったのである。

 

「慰めないでなのはさん、クイントさん!! ……私は本気でクロノへの教育を間違ったと思っているの」

 

 デュークモン達に攻撃を行った艦隊の者達は全員が処罰を受ける事に成った。

 上層部からの命令が在ったとは言え、ミッドを護ってくれたデュークモン達に攻撃を加えた上に、失敗すればデュークモン達の世界との戦争に発展していた可能性も在ったのだ。

 あのデュークモン達と同等の力を持っている者達が大挙として押し寄せてくれば、世界が幾つも滅ぶ可能性が高い。その事を分かっている各世界の代表達は、艦隊にいた者達を全員処罰する事に決めたのだ。

 当然ながら、艦隊の中に在ったクラウディアの艦長であるクロノも裁かれ、正式な処分が下されるまでは謹慎処分を受けているらしい。

 

「私の世界のクロノは、管理局に疑念を持てたから良かったけど。 この世界のクロノは管理局を正義だと信じすぎていたわ。それがどれだけ危険な事かも分からずに……もっと空気を読める子に育って欲しかった……そう言えば、十年前もなのはさんとフェイトさんが戦いそうに成った時に転移して現れていたし……それにこの世界のフェイトさんに色恋で近づいた人物の邪魔をしているらしい……空気を読めない上にシスコンなんて……せめて地上本部に確認するぐらいはしておけば……本気で育て方を間違ったわ」

 

「あの〜、リンディさん?」

 

 異世界とは言え自身の一人息子で在るクロノの事を好き勝手言っているリンディの姿に、なのはは汗を流しながら声を掛けるが、リンディは答えずに膝を抱えて落ち込み続ける。

 その様子になのは、ガブモン、ティアナ、クダモン、クイントが冷や汗を流しながら顔を見合わせると、テレビからニュースキャスターの声が響く。

 

『ただいま新たな情報が入って来ました。先ほど本局内部施設の『無限書庫』で爆発事件が発生したとの事です。幸い『無限書庫』への立ち入りは禁止されていたので、怪我人は無いとの事ですが、『無限書庫』内の資料の幾つかが消失したとの事です。二日ほど前に別の場所に居た『無限書庫』の司書長及び司書の何名が暴行を受けると言う事件も発生し、調査官達は関連している可能性も在るとの見方を示しています」

 

「……この世界のユーノ君達が襲われた?」

 

「更に『無限書庫』で爆発事件ですって?」

 

「もしや『無限書庫』に不正に関する情報でも隠されていたのだろうか? 聞いた話ではあそこは無秩序に情報が散乱している場所らしいからな。不正情報を隠すには持って来いなのでは?」

 

「でも、確かユーノ君が司書長になってからは調べ易くなっている筈だよ。クロノ君も良く使っているって話だから、そんな場所に隠すかな?」

 

「灯台下暗しって諺は在りますけれど……整理している途中で見つかったりする可能性は高いですよね」

 

 一見すれば今回の事件と関連しているような『無限書庫』での事件だが、なのは達は違和感を感じる。

 『無限書庫』だけならば不正の証拠を隠す為だけだと納得出来るが、司書長のユーノを含めた司書達まで襲う理由は低い。今の状況で襲えば更に本局の立場が悪くなるのだから。

 違和感を感じたティアナは、【ブレイクミラージュ】を使って本局内部の情報を調べる。

 

「……確かに襲われてますね。頭を叩かれたのか、数日の間の記憶が無くなっているらしいです」

 

「数日の間? それってミッドで起きた事件の事も?」

 

「えぇ、覚えてないそうです」

 

『……』

 

 嫌な沈黙が部屋の中に出来た。

 なのは達の脳裏に、こんな完全犯罪紛いの事を普通に出来る人物が浮かぶ。

 

「……いや、在り得んだろう。此処は平行世界だ。奴が来れる筈が無い」

 

「だよね。もし来れたら僕らに教えたりしないで、好きに遊んでいると思うよ、あの人は」

 

「でも、平行世界なら……居るんじゃないの? この世界にも」

 

「ティアナ。お願いだから、そんな不吉な事を言わないで」

 

「えぇ、もしこっちにも居るとしたら、ストッパーのリンディが居ないのよ。あっちよりも不味いわ」

 

 落ち込んでいるリンディと、我関せずと何かをやっているブラック達を除いた面々の顔が一気に青ざめた。

 冗談抜きで笑えない。研究狂では在るが、次元世界からアルハザードの存在を消す、或いは御伽噺にする事だけは必ず成し遂げる気なのだ。自分達の世界では協力者がいる上に、早い段階で次元世界に影響を与える場所から情報を取り除く事が出来たので問題には成らなかった。

 だが、この世界は違う。万が一にもアルハザードの存在が知れ渡れば、確実に向かおうとする者が居るだろう。嘗てのフェイトの母親であるプレシア・テスタロッサのように。その先に居る災厄の存在を知らずに。

 

「……そう言えば、リンディが最高評議会が居た部屋から情報を消そうとしたようなんだけど……既に消されていたみたいなの。てっきり、スカリエッティの配下が消したと思ったんだけど」

 

「……我々の動きに乗じて動いたのかもしれんな。この世界の奴が」

 

『……関わらないようにしよう』

 

 満場一致でなのは達はこの件から手を引く事を決意した。

 関わっても碌な事にならないのは目に見えている。もしも想像通りの展開になったら、精神的に死ぬ自信が在る。一人だけでもキツイのだ。もう一人増えるなど、悪夢を通り越して絶望しかない。

 頭の中から悪夢を消し去ったなのは達に、ヴィヴィオとギルモンとトランプゲームで相手をしていたブラックが声を掛ける。

 

「話し合うのは良いが、貴様ら時間を忘れていないか?」

 

「えっ? 時間?」

 

 ティアナはブラックの言葉の意味が分からずに質問を返すと、ブラックは無言で部屋の中に備えられている時計を指差す。

 ティアナ達が時計を見て見ると、今日、レジアス中将の計らいで漸く会う事が出来る様に成った機動六課と会う時間が迫っている事に気が付き、慌てて顔を見合わせる。

 

「不味いですよ!! 約束の時間が!」

 

「本当だ! もうこんな時間に成っていたなんて! ブラックさんも早く教えて下さいよ!」

 

「すぐに準備しましょう! ほら! リンディも落ち込んでないで準備して!」

 

「ウゥゥゥ、何であんな空気を読めない子に育ってしまったの」

 

 時間が迫っている事に気が付いたティアナ達は慌ててそれぞれ準備をし始めるが、既に準備を終えているブラック、ルイン、ヴィヴィオ、ギルモンは慌てずにトランプゲームを再開するのだった。

 

 

 

 

 

 聖王病院の一室。その部屋には紫色の髪の女性-今回の事件でスカリエッティの研究所から保護されたメガーヌ・アルピーノがベットに横に成りながら眠り続け、その横には壮年の男性-ゼスト・グランガイツとその肩に座っている赤い小人の様な者-ユニゾンデバイス-『烈火の剣精』アギト、そしてメガーヌの娘であるルーテシア・アルピーノが心配そうにメガーヌを見つめていた。

 だが、アギトだけはメガーヌの事だけではなく、ゼストとルーテシアの間に在る不穏な空気を変えるように呟く。

 

「……そのさ……クイントの姉御の話だと、ルールーのお袋さんは二ヶ月半ぐらいで目覚めるそうだぜ」

 

「……うん、クイントさんから聞いた」

 

「……俺もだ」

 

 ルーテシアとゼストは言葉短くアギトの言葉に頷くが、アギトは頭を抱えたくなった。

 事件が終わった後、ゼスト、ルーテシア、アギト、そしてメガーヌはレジアスが権限を使って保護してくれた。元々ルーテシアをスカリエッティの下に運んだのは最高評議会であり、彼女が今回の事件に加担したのも母親であるメガーヌの為だった事と、スカリエッティに寄るマインドコントロールが施されていた事が判明した為、管理局はルーテシア達を逮捕する事が出来ず、レジアスが保護責任者に成り、ルーテシア達は保護されたのだ。

 だが、アギトは再会した時からゼストとルーテシアの間には壁が出来てしまった感じを受けていた。

 

(ハア〜、やっぱりクイントの姉御の言うとおり、旦那がルールーの父親だったって事が原因だよな。全くよぉ。旦那も体の事が在ったからって、そんなルールーに取って重要過ぎる事を隠しておくなよ。もし、話していれば結構ルールーも安心したかも知れねえのに)

 

 ゼストとルーテシアの間に在る壁の原因はひとえに、ゼストがルーテシアの実の父親であった事を隠していた事が原因だ。

 ゼストはスカリエッティの実験に寄ってレリックウェポンに成ってしまった人物。しかし、その状態はルーテシアと違ってかなり不安定であり、長くは生きられないと宣告されていた。その事が在ったからこそ、ゼストはルーテシアに少しでも悲しみを与えない為に実の父親である事を隠していたのだが、クイントがルーテシアに父親はゼストで在る事を明かしてしまったので、再会した二人の間には不穏な空気が満ちる様に成っていた。

 その事を分かっているアギトは、何とか二人の間に空気を変えようとここ数日頑張っていたのだが、結局成果は出なかった。

 

(う〜、クイントの姉御はこの場所に来れるか分かんねえし、アタシが頑張んなくちゃいけねえんだけど、本当にどうしたら良いんだよ!?)

 

 アギトは本気で頭を抱えながら、二人の間に在る不穏な空気を消そうと考え続けるが、良い案が浮かばず更に頭を悩ませ始めた瞬間に、病室の扉が開き、果物が沢山入った籠を手に持ったクイントが入って来る。

 

「……やっぱりこうなっていたのね」

 

「クイントの姉御!!」

 

 病室の中に入って来たクイントは、ゼストとルーテシアの間に在る空気に気が付くと、頭が痛いというように手を頭に載せ、クイントの姿を見たアギトは喜びの声を上げてクイントに近付いた。

 クイントはアギトに持って来ていた果物籠を差し出すと、アギトは浮遊魔法を使用し、空中に果物籠を浮かせて病室に置かれている机へと降ろす。

 それを確認したクイントは、不穏の空気を纏っているゼストとルーテシアに近付く。

 

「全く、親子なのに何でそんなに不穏な空気を纏っているんですか? メガーヌが起きたら、怒られますよ、ゼストさん」

 

「……分かっている筈だぞナカジマ。俺はもう長くない」

 

「だから何ですか? ルーテシアちゃんを悲しませない為に、親だった事を隠していたとでも言うんですか? だとしたら、ゼストさん。貴方はルーテシアちゃんを確りと見ていないですね?」

 

「何だと?」

 

 ゼストは険しい声を出しながらクイントに振り返る。

 だが、クイントはゼストの険しい顔を見ても関係ないと言うように、ルーテシアに近付き頭を撫で始める。

 

「この子が頑張れたのは、メガーヌの事だけではないんですよ。貴方やアギトちゃんと言う大切に思っていてくれる人達がいたから悲しくても頑張れた」

 

「だ、だが俺……」

 

 クイントの言葉にゼストは動揺した声を上げるが、クイントは構わずにルーテシアを抱き上げ優しそうに頭を撫でる。

 

「ルーテシアちゃんも自分の心に正直に成りなさい。ゼストさんの事を如何思っているのか。自分の心からの気持ちを伝えるのよ」

 

「……うん」

 

 ルーテシアは笑みを浮かべながら頷き、それを確認したクイント はルーテシアを床に降ろす。

 降ろされたルーテシアはゆっくりとゼストに近付き、気まずげな表情を浮かべているゼストの手を握り締める。

 

「……一緒に居て……少ししか一緒に居られなくても……私は一緒にいたい……お願い……お父さん」

 

「ッ!! ……ルーテシア!!!」

 

 自身を父親と呼んでくれたルーテシアに、ゼストは嬉し涙を流しながら力強く抱き締め、ルーテシアもゼストを力強く抱き返す。

 ゼストはこの時に誓った。例え残り少ない命だろうと、残りの全てをメガーヌとルーテシアの為に使おうと誓ったのだ。

 その様子を涙を流して嬉しげな笑みを浮かべながらアギトが見つめていると、クイントがアギトにそっと近寄り小さな声で声を掛ける。

 

「今、私の知り合いがスカリエッティのデータからゼストさんとルーちゃんの有効な治療法を探しているから安心しなさい。ちょっと問題が在る人物だけど、絶対に治療法を見つけてくれるからね」

 

「ありがとな、クイントの姉御」

 

「気にしないで、それじゃ私はもう行くわね」

 

 数ヵ月後、クイントが送って来た治療法によって、魔導師として戦う事は出来なくなったが、人並みの寿命を取り戻したゼストは新たに入隊した地上の局員達の教育係として働き、アギトは自身のロードに成ったシグナムと共に道を歩み始め、ルーテシアは体の中に在ったレリックを取り出された。

 その後はミッドチルダに在る魔法学院-St(ザンクト).ヒルデ魔法学院に入学し、多くの学友達と楽しそうな笑みを浮かべていた。もちろんその傍らには、正式にゼストの妻に成ったメガーヌが優しげな微笑みを浮かべているのだった。

 因みにクイントが病室から出て行った後、クイントは急ぎ仲間達の向かった場所へと向かおうとするが、その直前で偶然歩いていた入院中のギンガと鉢合わせる。

 

「か、母さん!? ど、どうして此処に!? 行方不明じゃなかったの!?」

 

 再び行方が分からなくなっていた母親で在るクイントとの突然の再会にギンガは慌てた声を上げた。

 しかし、ギンガの姿を見たクイントは質問には答えずに、笑みを浮かべながらギンガの病院着の襟首を掴む。

 

「丁度良かったわ。これから機動六課隊員達が居るアースラに行くけど、ギンガも来なさいね」

 

「えっ? ちょっと母さん!? 私入院中!!」

 

「大丈夫よギンガ。マッドだけど優秀な医者を紹介して上げるから、そんな悪趣味で脆いドリルの腕もすぐに治るわ……ただ心に深い傷が出来て、数日は確実に精神に異常が起きるかも知れないけど」

 

「えっ!? イヤアァァァァァァァァーーーーーーー!!!!!」

 

 クイントの言葉の意味が分かったギンガは悲鳴のような声を上げて、クイントの手から逃れようとするが、戦闘機人で在る筈のギンガの力でもクイントから逃れる事が出来ず、悲痛な叫びを上げ続けるのだった。

 

 

 

 

 

 スカリエッティ達に寄って破壊された機動六課隊舎跡地。

 其処には巨大な管理局の艦艇-アースラが停泊していた。本来ならば事件が解決した今、隊舎の修復が始まっても良いのだが、現在の機動六課メンバー全員には臨時施設として使っていたアースラ内部での謹慎処分が言い渡されていた。

 これに関しては今回の事件で機動六課が最終的に役に立たなかった事、地上本部との軋轢を増やした最悪の部隊とミッドチルダ中でささやかれている為である。故に機動六課メンバーは事件後全員外に出る事が出来ないのだ。

 そしてそのアースラ内部の食堂には機動六課隊長陣とFWメンバー、そして未だに大人姿のままのこの世界のヴィヴィオが集まっていた。

 

「……先ず地上本部から送られて来た私らの処分内容やけど、FWメンバーは全員お咎め無しで地上のそれぞれの部隊に編入が決まりや。だけどエリオとキャロに関しては管理局を辞める事も赦されている見たいや」

 

『エッ!?』

 

 落ち込みながらはやてが告げた事実にエリオとキャロは驚きの声を上げ、他の者達も驚いたように顔を見合わせる。

 エリオは九歳でBランクを取った優秀な魔導師の上に、キャロはレアスキル『竜召喚』を持った少女。それほどの才能を持つ者達を万年人材不足の管理局が手放すとは思っても見なかったのだ。

 しかし、これは実を言えばリンディがレジアスに頼んだ事だった。今のリンディは子供を戦場に出す事を最も嫌っている。自身の所に居るヴィヴィオが戦う決意をした時に聞いた悲しみに満ちた声。戦いに出れば何時命を落とすかもしれない純然たる事実。そして命の大切さをその身で味わったリンディには、如何しても機動六課で戦っているエリオとキャロの存在が赦せなかった。

 だからこそ、レジアスに頼んで二人の未来を縛り付けるような行為だけはしないでくれと頼んでいたのだ。最もあくまで二人に赦されているのは他の者達よりも在る程度の行き先の自由だけであって、最終的な決定は二人に任せるつもりだった。

 

「質問は後で来る地上本部からの派遣者達に聞いてな。次に隊長陣やけど」

 

 困惑の表情を浮かべるエリオとキャロに告げながら、はやては異世界のなのは-以降高町なのは、フェイト、ヴィータ、シグナムに顔を向け、深く頭を下げる。

 

「……堪忍な皆……機動六課隊長陣は全員全ての階級と資格を剥奪し、地上本部勤務の一士からやり直しが決まったわ。他の機動六課隊員も殆ど地上本部勤務や……ゴメン……ほんまにゴメン」

 

「……はやてちゃん」

 

『……はやて』

 

「……主」

 

 頭を深く下げて涙を流しながら謝り続けるはやての姿に、高町なのは、フェイト、ヴィータ、シグナムは慰めの言葉を掛けようとするが、言葉は誰も出なかった。慰めれば逆にはやてが傷付いてしまう事がわかっているからだ。

 機動六課が設立する前に友人や家族に将来を絶対に傷付けないと約束したのに、結果は殆どの者達が今までの功績を全て失う様な形に成ってしまった。かと言って今回の事件を解決したデュークモン達を責められる筈も無い。居場所が分からないのもそうだが、彼らは民衆から絶大な人気を持っている上に、Sランクオーバーの魔導師でさえも勝てないほどの力を持っている。

 しかも、彼らには他にも仲間が居る事が分かっているので攻撃したなんて日に成ったら、管理世界が滅ぼされるもかも知れない。あの攻撃した艦隊に対する無慈悲な行動を見れば明らかだろう。

 その事が分かっているはやては如何する事も出来ず悲しみの涙を流し続け、他の者達は何とか慰めようと声を掛けようとした瞬間、食堂の扉が衝撃と共に吹き飛んだ。

 

『ッ!!』

 

 全員が突然の事態に目を見開きながら食堂の入り口の方を見て見ると、其処には。

 

「う〜ん? もうちょっと派手に登場した方がインパクト在ったかな?」

 

「イヤちょっと待ってよ!? 何で登場にインパクトが必要なの!? 普通に入れば良いんじゃないの!?」

 

「駄目だよ、ガブモン君。私はこの世界の自分に圧倒的な実力差を見せたいの。だから、登場は派手にすべきだと思うの?」

 

「……ヴィヴィオが見ているアニメに影響されていない、なのは?」

 

『なっ!?』

 

 吹き飛んだ扉からゆっくりと歩いて来る毛皮を被った生物-ガブモン-と言い争いをしているレイジングハート・エレメンタルを右腕に握り、茶色の髪をサイドポニーにした女性-異世界のなのは-の姿に、機動六課メンバーは全員信じられないと言うな顔をしてなのはと高町なのはを見比べる。二人の姿はまさに瓜二つだった。

 同一人物なのだから仕方が無いのだが、その事を知らない機動六課メンバー達はもしや人造魔導師なのかと思い、誰もが困惑したように二人を見回す。

 だが、なのははそんな様子に一切構わず、この世界の自分自身-高町なのは-の前に立ち、優しげな笑みを浮かべる。

 

「始めましてこの世界の私。私は貴女より強い高町なのはだよ」

 

「此方こそ始めまして。私は何処かの誰かのようにコソコソと動かない高町なのはです」

 

「……随分な言い様だね? 誰のおかげで潰れかけていた時に、立ち上がれたのかな?」

 

「覚えが無いよ。だってあの時の念話の主は正体を教えてくれなかったし、貴女だって証拠は無いよね?」

 

 互いに笑みを浮かべながら言葉を言い合うが、その雰囲気はもはや険悪としか言い表せないものだった。

 だが、それも仕方ないだろう。なのはは大勢よりも自分の大切な人達の為に戦い、自身も幸せを掴むと決めた存在。方や高町なのはは、少しでも多くの人々に笑みを浮かばせようとする為に自分さえも省みず戦う存在。

 二人の生き方はある共通して起きた出来事。『八年前に大怪我を負った』時から大きく変わってしまった。

 そんな二人が出会えば、互いにいがみ合うのは当然の結末だった。

 

「ブラスターシステムだったかな? 何であんな欠陥システム積んでいるの? 使用後の事を何も考えていないなんて命がいらないのかな?」

 

「……貴女には関係ないよ」

 

 なのはの質問に対して高町なのはは素っ気無く答え、顔を背けようとする。

 その様子を見たなのはは、目の前の高町なのはの気持ちを正確に読み取り、怒りが篭った目をしながら首もとの襟を掴む。

 

「……別に貴女が死んでも私には関係無いけど。この世界のヴィヴィオをもう一度でも傷付けて悲しませたりしたら、その時は私が貴女を二度と飛べない体にしてあげるよ。覚えておくんだね」

 

「……」

 

 なのはの言葉に対して、高町なのはは無言を貫き、辺りには一瞬即発の空気が満ち溢れた。

 その様子にガブモンを除いた全員が不安そうな表情を浮かべ始めた瞬間に、入り口の方から手を打つ音が響く。

 

「はい二人とも其処までよ。私達は戦いに来たんじゃないんだから。なのはさんもそのぐらいにしておきなさい」

 

 聞こえて来た声に、その声に聞き覚えが在る者達が全員驚いて入り口の方を見て見ると其処には、黒い髪に金色の瞳を持った男性-人間体のブラック。

 その傍らに寄り添うように立つ、銀色の髪に蒼い瞳を持ち、青と白のロングコートを着たはやて達に取って忘れられない存在と瓜二つの姿をした女性-ルインフォース。同じ様にブラックに寄り添うように立つ翡翠の髪に黒いスーツを着た女性-リンディ。

 赤い恐竜の様な生物-ギルモンの背に乗った子供姿の異世界のヴィヴィオ。首に狐の様な生物-クダモンを巻き付かせている異世界のティアナ。

 そして未だに暴れ続けているギンガを片手で抑えているクイントの姿が在った。

 

「さて、色々と説明して上げましょうね」

 

 そうリンディは笑みを浮かべながら告げ、その場に居た機動六課メンバーは誰もが困惑するのだった。

 

ーーー十数分後

 

「つまり、貴女方が予言に在った人物達で、平行世界から休暇の為にはるばるやって来たと言う事で良いんですやろか?」

 

 互いの事情を説明し在ったリンディとはやては険しい顔をしながら向かい合い、他のメンバーは困惑したようにリンディの 背後に居るなのはとティアナを見つめる。

 平行世界。実在するのかどうかも分からなかった世界からの来訪者だと告げられたのだから、困惑するのも当然だろう。だが、現になのはとティアナ、ヴィヴィオと言う同一人物が三人居る上に、自分達の知るリンディよりも若いリンディが存在しているのだから、平行世界の実在を示す良い証拠だった。

 

「……質問ですけど、あの生物達は何処に居るんですか? フェイトちゃんから聞いた話やと、貴女とあの生物達は仲間やそうですけど?」

 

「あら? もう目の前に居るわよ」

 

『ッ!!』

 

 リンディが告げた事実にその場の全員が驚いた表情を浮かべて、辺りを見回す。

 だが、デュークモン達の姿は発見出来ず、からかわれたのかと思い、はやてが表情を更に険しくすると、リンディがそっと手をなのはとティアナ、そしてこの世界のヴィヴィオと楽しく遊んでいるヴィヴィオとギルモンを示す。

 

「その三人がそうよ。正確に言えば【デュークモン】はヴィヴィオとギルモンが、【スレイプモン】はティアナとクダモン、そして【メタルガルルモンX】はなのはさんとガブモン君が正体よ」

 

『なっ!?』

 

 その場に居る機動六課メンバー全員が信じられないと言う声を上げて、なのはとその横に座っているガブモンを、ティアナとその首に巻き付いているクダモンを、そして最後にこの世界の自分自身と楽しそうに遊んでいるヴィヴィオとギルモンを見つめる。

 その様子になのは達は苦笑を浮かべると、それぞれ説明を始める。

 

「本当だよ。私達の世界では【デジモン】って言う生物が存在していて、そのデジモンと絆を結んでいけばデジモンは人間と融合して究極体と呼ばれる存在に進化する。私はガブモン君と融合して【メタルガルルモンX】に進化出来るの」

 

「私はクダモンと融合して【スレイプモン】に進化します。それに魔導師とデジモンが融合すれば、その人物が使用しているデバイスや魔法も使用出来るように成るんですよ。もちろんレアスキルもです」

 

 ティアナはなのはの説明を補足するように説明すると、両手にブレイクミラージュを顕現させる。

 ブレイクミラージュの姿を見たはやて達はティアナとクダモンがスレイプモンで在る事を確信し、同時に何故デュークモンが虹色の魔力光と【聖王の鎧】を持っていたのと、何故あそこまでこの世界のヴィヴィオを傷付けた事に怒りを顕にしたのか分かった。

 異世界の聖王で在るヴィヴィオと融合していればヴィヴィオの力を全て使える上に、異世界とは言え大切なパートナーであるヴィヴィオを傷付けられた事を怒っていたのだ。

 だが、同時に疑問が浮かび上がった。何故異世界とは言え管理局をボコボコにする様な行動を取ったのかと言う疑問だ。

 なのはは管理局に入らなかったとしても、あそこまで徹底的に管理局を攻撃する理由は存在しないし、ティアナにしても実の兄であるティーダが入局していた管理局を攻撃する理由が存在しない。

 そしてリンディ、クイントにしても長年管理局に勤めていた人物達。

 他の者達は分からなくは無いが、彼女達が管理局に敵対する理由が見えず、はやて達は困惑の表情を浮かべる。

 その様子にリンディは、はやて達の内心で正確に読み取り管理局に敵対した理由を語り出す。

 

「私達が管理局に敵対する理由だけど、私達は管理局員ではないわ。敵とも言い切れないけれど決して味方ではないの。なのはさんは一時は管理局の上層部に命を狙われたし、私は今では広域指名手配だからね」

 

『ッ!?』

 

 その場に居る全員が目を見開きながらリンディとなのはを見つめた。

 

「私が広域指名手配な理由は、私達の世界の管理局最高評議会の内、二人をこの手で殺したからよ」

 

「さ、最高評議会を殺したって!? 何でそないな事を!?」

 

「……貴女は赦せるかしら? 〝自分を殺した相手が、平然としながら生きている゛事に?」

 

「……自分を殺したって……まさか!?」

 

「そうよ。〝私゛は殺された。最高評議会の謀略によってね。そのせいで……こんな事が出来るようになったわ」

 

 リンディは右手をはやて達に見える様に掲げながら パチンと指を鳴らす。

 指を鳴らすと同時に、無数の魔力剣のような浮遊物-クロノが得意とする【スティンガーブレイド・エクスキューションシフト】-が前触れも無く発動され、リンディの背後に出現した。

 その様子を見たはやて達は、誰もが信じられないと言う気持ちを持った。何故ならばリンディの手にはデバイスなど握られていない上に、魔法の発動時には必ず浮かび上がる筈の魔法陣も発生していなかった。しかも、魔力反応さえも感じられない。。

 異常過ぎる光景。魔力を使ってもいないのに、魔法と呼べる力をリンディは発動させたのだ。

 

「コレがどれだけ異常な事かは分かるでしょう? こんな事が出来るように私は成った異常。そうなった経緯は詳しくは話せないけれど、私は後悔していない。こんな体に成ってしまった事も、最高評議会を殺したことも何一つね」

 

「そんな!?」

 

 リンディが告げた事実にフェイトは悲痛の叫びを上げた。

 だが、叫ばれたリンディは気にせずに魔力剣を消去し、はやて達に険しく歪めた顔を向ける。

 

「まぁ、私の事情を詳しく話す意味は無いから詳細は省かせて貰うけれど……之だけはハッキリ言わせて貰うわ。はやてさん、貴女は地上の人々を危険に晒す気だったの?」

 

「なっ!?」

 

 その様子にリンディはやはり気が付いていなかったのかと言うように呆れ、リンディの背後に居るなのは達も険しい視線を機動六課の者達に向ける。

 

「今回の事件。この事件に隠されていた本質は知っているわね? 本局上層部の真の狙いは地上本部の掌握だった事はもう分かっているわね?」

 

「……は、はい」

 

 リンディの質問に対してはやては落ち込みながら頷いた。

 

「その事実だけでも危ない事なのよ。何せ本局が地上を掌握すれば必ず地上の戦力は今までよりも奪われて行く。その結果待っているのはミッドチルダの治安の悪化。これは必ず起きるわ。唯でさえ今の地上はギリギリだったのに、これ以上戦力が奪われたらミッドは犯罪者が横行する無法地帯に成るわね」

 

「そ、それは、その時は本局が」

 

「動かないわね。今までの状況を見れば簡単に推測出来る。本局に取って重要なのは“海”。地上の事なんて気にしないでしょうね。多分、更に戦力は減り地上の治安は悪化の一歩を辿る。その時に貴女は如何動く?」

 

「……地上の戦力を確保しようと思います」

 

「無理よ。だってその時には地上は本局の下部組織に成ってしまっている。本局に意見をするなんて事は夢のまた夢。なら最終的に戦力が不足している管理局が行き着く先は何処か? 【人造魔導師研究】や【戦闘機人】などの違法研究の着手しかないわね」

 

『ッ!!!』

 

 リンディが呟いた言葉に、機動六課メンバーは改めて知らされる事実に言葉を失い、人造魔導師で在るフェイトとエリオ、戦闘機人であるスバルとギンガは体を恐怖に震わせる。

 リンディの言葉はあながち間違いではないのだ。

 

「魔導師以外を戦力として認めない本局の者達が戦力確保をするには、人造魔導師研究しかないわ。或いは戦闘機人か。どちらにしてもその結果は十分過ぎるほどに分かる筈よ。沢山の者達が苦しむ最悪の世界が生まれる。表の人々は知らない最悪の世界が。そしてそれを取り締まる筈の管理局が行っているとは誰も思わない。追っている執務官にしても研究者を逮捕すれば解決すると思っていた。そうでしょう、フェイトさん?」

 

「……はい」

 

 リンディの言葉に対してフェイトは顔を俯かせながら頷いた。

 フェイト自身、今回の事件はスカリエッティだけを捕まえれば解決すると思っていた。確かにスカリエッティを捕まえれば、ミッドを襲った脅威は消えるだろう。

 だが、根元は残り必ず同じ悲劇が何時か起きる。その時にも管理局が事件を起こした犯人を捕まえて終わり。

 結果残るのは自作自演の様な事件の連発でしかない。

 

「管理局は捕まる事も無い上に、組織には在って然るべきの浄化機能も存在していなかった。その結果、管理局は腐敗していったわ。自分達の行いこそが正義だと叫ぶ集団に成ってしまった」

 

「そ、それは!?」

 

「正義。良い言葉よね。この言葉さえ在ればどんな事を行っても赦されてしまう。特に民衆から認められている正義ならば尚更ね」

 

 リンディの言葉に誰も言葉を発する事が出来ず、顔を下に俯ける。

 現状の管理局がまさにそれだ。管理局は自らこそが正義だと叫び、裏では様々な違法や犯罪を行っていた。

 そしてその事に誰も気が付かず、進み続け、あわやミッドに大惨事を起こすような事件を引き起こしてしまった。

 その犠牲に対しても管理局は気にせずに、自分達こそが世界を護ったと叫ぶつもりだったのだろう。

 

「私は理想を否定する気は無いわ。だけど、今の管理局は理想に溺れて、其処から生まれる犠牲を見ようとしなくなってしまっている。例え世界を一つ滅ぼしても管理局は気にせずに先に進み続け、最終的には自分達の作り上げる平和の為ならば次元犯罪者と同じ行為を行っても気にしない組織に成ってしまうでしょうね」

 

「……だから、そうなる前にこの事件で管理局を変えようと、全ての事実を民衆に教えたんですか?」

 

「結果的に言えばそうね。私達は最初は動くつもりは無かったし、管理局を滅ぼす様な動きをするつもりは無かったわ」

 

 その事が自分達の世界での出来事で痛いほど分かっているリンディ達は、何が在っても動くつもりは無かった。だが、スカリエッティの行った在る行動だけは、リンディ達には如何しても赦せない事だった。

 本来、リンディ達はこの世界では何もせずにゆっくりと休暇を取るつもりだった。

 元々この世界はリンディ達の世界ではない上に、リンディ達の力は圧倒的としか言えないほどの力だ。その力に対抗する術が無い世界で猛威を振るえば、必ずや世界に混乱を巻き起こす。

 その事が自分達の世界での出来事で痛いほど分かっているリンディ達は何が在っても動くつもりは無かった。だが、スカリエッティの行った在る行動だけは、リンディ達には如何しても赦せない事だった。

 

「私達が動いた理由は一つだけ。この世界のヴィヴィオが泣いたからよ」

 

『ッ!!!』

 

 リンディが告げた動いた理由に、高町なのはを除いた機動六課メンバー全員が信じられないと言うように、リンディ達を見つめた。

 管理局を滅ぼせるかも知れないほどの力を持った者達が動いた理由。

 たった一人の少女-ヴィヴィオが泣いたからだと言う小さな理由。その為だけにリンディ達は動いたのだ。

 

「私達全員には誓いがあるわ。何があろうと、世界が敵だろうと、ヴィヴィオを泣かせた者達は何をもってしても滅ぼす。それだけは絶対に違える事の無い誓いよ」

 

 リンディの言葉に答える様に、背後に居たなのは達も同意する様に頷き、機動六課の者達は信じられないと言うように顔を見合わせる。

 多くの世界よりもたった一人の為に動いた。その生き方は十年前のシグナム達-守護騎士達と同じ生き方だが、何処か迷っていた十年前のシグナム達と違って、リンディ達には迷いなど無い。

 本気でヴィヴィオが泣かなければ動くつもりは無かったのだろう。

 その事に気が付いたはやては、リンディに食って掛かるように叫ぶ。

 

「本当に動くつもりは無かったんですか!? 大勢の人々が犠牲に成ると分かっていても!?」

 

「犠牲が生まれる事を知っていた管理局員の貴女には言われたく無いけど。本気で動くつもりは無かったわ。だって、全部管理局が確りしていれば防げた事態なのよ。他人の過ちを態々尻拭いするほど私達は甘くはない」

 

「そうだよ。今回の事件の犠牲は全部もっと確りと地上と連携が取れていれば防げた事件。予言の事なんか関係せずに地上と共同で事に当たっていたら、今回の事件でクラナガンの人々に出る犠牲は少なかったかも知れない」

 

「地上本部襲撃からスカリエッティが【聖王の揺り籠】を起動させるまで、数日の時間が在ったんです。その時間を人々の避難の方に優先していれば、今回のスカリエッティの襲撃には犠牲が出る事は無かった筈です」

 

 はやての言葉に対してクイント、なのは、ティアナはそれぞれ冷静に答え、はやては言葉も出す事が出来なかった。

 今回の事件は、全て管理局が最初から真剣に当たっていたら、犠牲は限り無く少なく済んでいただろう。

 最終的に今回の事件での死亡者の数は数百人。怪我人を入れれば数は増えるが、それでも大規模な事件にして被害者の数は少ないだろう。

 だが、それはデュークモン達が動いたからに過ぎない。彼らが動かなければ犠牲者の数は数千人以上に成っていただろう。

 しかし、それも事前にクラナガンから人々が避難していれば減らす事が出来た犠牲だ。

 

「予言で少しは先の事を分かっていたのならば、それに対する人々の護りこそが重要。だけど、この部隊にクラナガンの人々を一人残らず避難させられるだけの力が在るかしら?」

 

「そ、それは……」

 

「出来ないですよね? この部隊に所属する全員が動いても、スレイプモンの様に大勢の人々を安全な場所に運びながら、大量のガジェットを破壊する事など不可能です。せいぜいこの部隊に出来るのは、事件を起こした犯人達を捕まえるのが精一杯ですよ」

 

 確かに機動六課は他の部隊よりも優秀な人材が存在している。だが、その多くの者達が直接的に戦う者達しか居ない。その様な者達が人々の避難誘導を出来る筈も無い。

 

「理想を夢見るのは良いわ。だけど、現実も見なさい? 物事には必ず隠された本質が存在している。その本質を解決してこそ本当の意味で事件は解決する。唯起きた現象だけを解決しても、同じ事を繰り返すだけよ。嘗ての闇の書事件の様にね」

 

 リンディの言葉にはやては体を震わせた。

 今回の事件は在る意味では幾度も現れ続けた闇の書に似ている。

 管理局と言う組織が自らの間違いに気が付き、内部が変わらない限り。

 

「今回の私達の行動で管理局は変わらざるをえない。変わらなければ何時かは自滅する。その事が分かっているレジアス中将は全力で管理局を変える行動を取っているわ」

 

「……私が行った行動は間違いやったんですか?」

 

「間違いとは言えないわ。貴女も本気で人々の平和の為に動いていた。だけど、理想ばかりに目が行ってしまっていた為に、見るべき物事を見ていなかった結果が今回の顛末よ。本気で世界を変えたいのならば多くをその目で見て、その体で味わって学びなさい。その為にも一局員に戻って最初からやり直す事ね」

 

「……分かりました」

 

 リンディの言葉にはやては顔を俯かせながら頷いた。

 全てはこれからの彼女達の行動次第なのだ。出来る事ならばレジアスと同じ様に自身の罪を知って、先に進んでくれる事を内心で願いながら、リンディは視線をはやてから、フェイトの傍に居るエリオとキャロに顔を向ける。

 

「さて、次にエリオ・モンディアル君とキャロ・ル・ルシエちゃんの事だけど、フェイトさんは二人をこれからも戦わせる気なのかしら?」

 

『えッ?』

 

「二人に関しては私がレジアス中将に頼んで、他の者達よりも自由が赦されているわ。普通の子供の様に学校に通うのも赦されている。管理局を一時辞めて普通の子供として生きるのも良いのよ」

 

「あ、あの、如何してそんな事を?」

 

「……罪滅ぼしかしらね。私は十年前に自分達の都合を優先して、一人の幼い少女の人生を利用した事があるのよ?」

 

 キャロの質問に対してリンディは憂いを覚えたような表情を浮かべて答えた。

 リンディは十年前になのはを勧誘したのを、P・T事件の時に利用した事を心の底から悔いていた。あの時になのはを利用したのは間違いだったと今のリンディには良く分かっている。

 管理局の為。世界の為。そんな免罪符を掲げて一人の少女の人生を歪めて、失敗すれば死んでしまうような状態にまで追い込んでしまった。

 

「だからこそ、私は子供が戦う事を否定するわ。取り返しの付かない傷を負わせてしまった時に、私は何も出来無かった。その時の悲しみは本当に辛いものなのよ」

 

 リンディは深い悲しみに満ちた視線を、食堂の端でこの世界のヴィヴィオ、ギルモンと楽しく遊んでいる自分達の世界のヴィヴィオに向ける。

 あの悲しみに満ちた声で泣き続けたヴィヴィオの姿をリンディ達は忘れる事は無いだろう。

 

「だからフェイトさん。三人で良く相談してこれからを決めて。戦う道を選ぶのか、それとも普通の子供と同じ様に歩むのか。お願いね」

 

「……わ、分かりました。三人で良く相談して決めます」

 

 リンディの言葉に思う所があったのか。フェイトは困惑しながらもリンディの言葉に頷き、エリオとキャロの顔を良く見つめて悩む様な表情を浮かべる。

 その様子にリンディは笑みを浮かべると、最後に高町なのはに顔を向ける。

 

「なのはさんはもう十分過ぎる程に分かっているわね?」

 

「……はい……私は結局逃げていただけでした……本当なら、ヴィヴィオの母親を名乗る資格は無いです……だけど、私はヴィヴィオの母親に成ります! 絶対にヴィヴィオを悲しませたりしません!」

 

「うん! 良い答えだね。それなら体も万全にすべきだよね!」

 

『えっ?』

 

 高町なのはの宣言に対してなのはが笑みを浮かべながら答え、機動六課の者達が困惑した声を上げた。

 体を万全にする。なのははそう告げたのだ。高町なのはの体は八年前の怪我の後遺症が残っている上に、今回のデュークモンとの戦いで使用したブラスターシステムの後遺症も残っている。今の高町なのはの体は管理局の技術でも全快は不可能と言う程にボロボロだった。

 そのボロボロの体を万全にすると告げられたのだから、誰もが困惑するのも当然だろう。

 しかし、なのははそんな様子には一切構わず、高町なのはの肩を凄まじい力で握り締めて床を足で叩く。

 同時になのはと高町なのはの足元に桜色に輝く転送用魔法陣が出現した。

 

「私の世界の最高峰の医者の下に連れて行ってあげるよ。絶対に治してくれるよ……体だけは」

 

「序にギンガも行きましょうね。大丈夫、数時間で治療は済むと思うわ……体だけは」

 

「イヤアァァァァァァーーーー!!! スバル助けて!!」

 

「ギ、ギン姉?」

 

 クイントの腕から逃れようとしているギンガの姿に、スバルは困惑したように声を出すが、クイントは構わずにギンガと共に魔法陣に乗り込み、その場からなのは達と共に転移する。

 

「……体の傷は必ず治るわね。心に深い傷は出来るでしょうけど」

 

「だろうな。奴が平行世界の人間の体や、戦闘機人の体を調べない筈が無い」

 

「どっちも興味深い対象ですから、ご冥福を祈るしかないですね」

 

 なのは達が消えた場所を見つめながらリンディ、ブラック、ルインはそれぞれ言葉を言い、なのは達が向かった先に居る者の正体を知っているティアナ、クダモン、ガブモンは同意する様に頷く。

 その様子を見た機動六課メンバーは全員が不安そうな表情を浮かべて、消えた高町なのはとギンガの事を心配するのだった。

 

 数時間後。高町なのはとギンガ・ナカジマは体を完全に治療されて戻って来たが、二人とも何かに怯える様に体を震わせ続け、仕切りに『マッド怖い。マッド怖い』と顔を蒼くしながら呟き続けていた。

 その様子に機動六課メンバー全員とヴィヴィオは心配そうに声を掛け続けたが、二人が元の精神状態に回復するには数日も時間が必要だった事を記しておく。因みにその様子を見ていたなのはは見るものを魅了する様な笑みを浮かべていたらしい。

 そしてこの件が原因だろうが、この先、高町なのはは地上本部の仕事をしながらも定期的に休みを取る様に成り、ワーカーホリックから脱したらしい。

 

 数ヶ月後。機動六課隊長陣は決まっていた通り、地上本部に一士として全員所属し、地上本部で一からやり直し始める。今度は今までのように物事の本質を見えるように成ってから、もう一度自分達の夢をそれぞれ追う事を決めて。

 FWメンバーは今回の事件から自分達も勉強不足だった事が良く分かり、スバルとティアナは自分達の古巣に戻って、もう一度勉強してからそれぞれの夢を目指す事を決めた。特にティアナは異世界の自分自身と別れるまでの間に何度も模擬戦を繰り返していたので、自分はまだ伸びると確信して必ず超えると心に決めている。

 エリオとキャロは、最終的に彼らはフェイトとの相談の結果、ルーテシアと同様にSt(ザンクト).ヒルデ魔法学院に通う事に決まった。リンディの言葉があったのも理由の一つだが、フェイト自身、自分の行動が本当に正しいのか迷い続けていたのもあり、フェイトは二人を説得して学校に通わせる事を決めたのだ。その後、二人はルーテシアと再会し、仲の良い学友として生活している。

 そして最後にレリックを外され、元の幼子に戻ったこの世界のヴィヴィオは、正式に高町なのはの養子に成り、高町ヴィヴィオとなった。

 この件に関しては聖王教会の一部が猛反発を起こしかけたそうだが、デュークモンの【聖王の騎士】としての宣言を聞いている教皇が、【デュークモンの言葉を無かった事にして、勝手に自分達の思い通りにヴィヴィオの人生を操れば、再びデュークモンが現れて教会を潰すかも知れない】と宣言して反発を抑えた。

 聖王教会は【聖王】を崇める者達が集まる場所。其処が【聖王の騎士】たるデュークモンの言葉を無かった事にすれば、教会は自らの掲げるものを否定する事になる。そうなれば、教会は存在意義を失う事になり、瓦解してしまう可能性もあることに気が付いた教皇は、ヴィヴィオへの一切の干渉を禁じたのだ。そのお陰でヴィヴィオは何の障害も無く、高町なのはの娘になる事が出来た。

 

 最後に今回の事件でブラック達にボコボコにされた戦闘機人達やスカリエッティに付いてだが、彼女達は事件が終わった後、全員聖王病院で入院する事に成った。

 ノーヴェ、ウェンディ、ディード、オットーは精神的なものによって。

 ウーノ、トーレ、クアットロ、セイン、セッテ、ディエチは肉体的なものに寄って。

 ナンバーズの殆どの者達は重症患者として入院する事に成ってしまった

 特に酷いのはノーヴェ達であって、桜色をした物を見るだけで恐怖に体を震わせ、彼女達の居る病室には桜色の物を持ち込む事を禁止されるほどである。

 ウーノ達にしても壁に埋め込まれていたせいか、閉所恐怖症に成ってしまっていた。

 クアットロとディエチは精神的外傷(トラウマ)は免れたが、何故か二人ともデュークモンの存在を神聖視し、聖王教会に傷が治り次第入信したいと言っているらしい

 無事で済んでいるのは、ナンバーズの内の二人、クイントに殴り飛ばされたドゥーエと地上本部襲撃時にスバルに寄って大怪我を負わされたチンクぐらいだろう。他の者達は何かしらの精神的外傷(トラウマ)を負ってしまっている。

 そしてスカリエッティだが、体自体は一番重症で在りながら、その目は凄まじい程に生き生きとした光を浮かべており、ベットの上で全身を包帯でぐるぐる巻きにされながらも何かを考え続けるようにぶつぶつと小声で呟き続け、病院の関係者達を恐怖に陥れている。そのスカリエッティを甲斐甲斐しく世話しているのがドゥーエであり、他のナンバーズの世話をしているのが逸早く治療を終えたチンクである。因みに彼らの入院費用は、全てスカリエッティが隠していた個人資産から出されている。

 本来ならば今回の事件のような事を起こしたスカリエッティ達も裁かれる筈なのだが、スカリエッティが管理局最高評議会に命令されて違法研究を行っていた事と、スカリエッティ自身がその為に生み出された人造生命体である事が分かり、ミッドチルダ行政府に保護されている状況になってしまったのだ。無論罪が無くなる訳ではないので、管理局の再編が終了した後に改めて裁判が行なわれる予定である。

 そして最終的に彼らは、ある程度社会復帰出来るほどに回復すると、地上の戦力を上げると言うレジアスの思惑もあって、ノーヴェ、チンク、ウェンディはスバルとギンガの父親であるゲンヤ・ナカジマに引き取られ、ナカジマ家の養子に成った。

 残るクアットロ、セイン、ディエチ、ディード、オットーは聖王教会に入信し、見習いシスターとして働いている。

 他のナンバーズ、ウーノ、ドゥーエ、トーレ、セッテはスカリエッティの体の治療費を稼ぐ為に、ノーヴェ達と同様に地上本部で働く道を選んだ。

 スカリエッティは最終的に、禁固二十年の刑を管理世界から言い渡された。体の怪我が完全に治らない事もあったが、彼は既に人造魔導師の研究には興味が無く、ブラックの存在だけを求めていた。

 各管理世界としてもスカリエッティの目的は、再びデュークモン達とコンタクトを取ると言う目的と一致するので、スカリエッテの頭脳が必要になった場合に必要な研究を手伝う事を条件に、禁固二十年の刑にしたのだ。

 

 事件解決から一ヵ月後。今回の事件でミッドを危険に晒させた幹部達は、全員がミッドチルダに作られた仮設の裁判所内部で自分達が作って来た法によって裁かれ、死刑が宣告された。

 一番の元凶であった最高評議会が何者かによって暗殺されていた事もあり、彼らは発覚した全ての罪を背負って死刑にされた。

 ミッドチルダの人々はもはや彼らを正義などと呼ばない。ミッドの人々が彼らを呼ぶ時の言葉は一つ。

 

“ミッドチルダ最悪の大罪人”

 

 後の歴史に彼らの名は汚名として刻まれ続けるだろう。

 付き従っていた局員達にしても、全員が無期懲役を言い渡されている。

 

「これで少なくとも、管理局の闇の一部は消えたわね」

 

「だろうな。だが、この先は分からん」

 

「全ての闇が消えた訳ではないですからね。この世界がこれから良い世界に変わるかどうかは、この世界に住む人々次第でしょう」

 

 ブラックはある程度そのまま裁判所を眺め終えると、裁判所に背を向ける。

 

「行くぞ。休暇は終わりだ。この世界には俺の敵になる存在はいなかった」

 

「そうね。十分に体は休めたし、私達は戻りましょう」

 

「了解です、ブラック様」

 

 ブラックの言葉に対して、リンディとルインはそれぞれ答えると、足元に魔法陣を発生させ、その場から転移して自分達の世界に戻って行くのだった。

 

 

 

 

 

「おかえりなさーーい!!!」

 

「……えぇ、ただいま」

 

 上機嫌なフリートに訝しみながらもリンディは返事を返した。

 フリートが上機嫌なのもある程度はリンディには分かって居る。自分達の世界では手に入れる事が出来なかったロストロギア【レリック】を、ゼストの治療の為に大量にスカリエッティの研究所から回収したのに加え、平行世界の移動実験の成功。序に平行世界の人間である高町なのはと戦闘機人であるギンガ・ナカジマの体を、治療のついでに合法的に検査する機会にまで恵まれた。

 これだけの出来事が在ったのだから、フリートが上機嫌なのも当然。だが、リンディは違和感を僅かに感じた。

 本人はもう嘆くを通り越して諦観の域にまで達してしまったが、フリートの行動に関する事で違和感を覚えた時には、必ず何かが起きている時だとリンディには分かる。

 だが、今回は幾ら考えても違和感の出所が掴めなかった。

 

(……いくら考えても今回のフリートさんの行動に不信な点は無いわよね。でも、何か違和感を感じるわ。小骨がどうにも引っかかっているような違和感を)

 

「それじゃ、私は【レリック】の研究に向かいますね! 失礼します!」

 

 平行世界に行った感想を全員から聞き終えたフリートは、即座に部屋を退出した。

 見送ったリンディは、未だに取れない小骨のような違和感について考え込む。ティアナの首から机に降りたクダモンは、悩むリンディに気が付いて声を掛ける。

 

「どうしたのだ、リンディ?」

 

「……ちょっと、フリートさんに違和感を感じてね。小骨が引っかかっているような感じだけど」

 

「流石に今回は考えすぎじゃないでしょうか?」

 

「ティアナの言う通りだ、リンディ。確かに何時もならばお前の違和感を信じられるが、流石に今回の行先は平行世界だ。事前にフリート本人から自身が行けない理由も聞かされ、納得しただろう?」

 

「そうなのよね……やっぱり考え過ぎかしら」

 

「ですよ。もしも動いていたとしたら、平行世界のフリートさん(・・・・・・・・・・・)ですよ」

 

「……待って、ティアナさん? 今とっても聞きたくないような言葉を言わなかったかしら?」

 

「ムッ? ……そう言えば、お前はあの時落ち込んでいたのだったな。実は……」

 

 クダモンとティアナは、リンディが落ち込んでいる時に放送されたニュースの内容を説明した。

 聞き終えたリンディは体を震わせ、何かに気が付いたかのようにフリートが出て行った扉に向かって歩き出した。

 その様子にティアナ達は顔を見合わせるのだった。

 

 

 

 

 

「……ムフ、ムフフフフッ! ニョホホホホホホッ!! や、やりました! リンディさんを出し抜きましたよ!!」

 

 自身の研究室に戻ったフリートは、目の前のテーブルに並ぶ【レリック】以外の平行世界から自身が持ち帰ったロストロギアの数々を見つめながら叫んだ。

 

「ふふ、流石に今回はリンディさんも気が付けませんでしたね。まさか、渡した通信機に細工が施されていたとは、夢にも思わなかったでしょう」

 

 今回の平行世界に探求に関して、フリートは何とか自身も行ける手段は無いかと考えた。

 だが、その為には平行世界への移動に関する情報が不足していた。故にフリートはリンディ達を休暇と言う形で平行世界に渡らせることで情報を収集したのである。収集方法はブラックが何時も付けているネックレスに加え、『パラレルモンのデータを組み込んだ通信機』である。

 リンディ達は気が付いていなかったが、平行世界に行ったのに通信が普通に使えている時点で可笑しいのだ。何せ受信先であるアルハザードは次元どころか、通常ならば辿り着く事など出来ない平行世界なのだから。だが、フリートはパラレルモンのデータを組み込む事で、それを可能にした。

 後は、送られて来る情報とパラレルモンのデータを組み合わせる事で、見事フリートは平行世界に渡る手段を獲得したのである。

 

「いや~、一時は危なかったですけど、あっちでは色々と楽しめました。ミッドチルダにある発見されていないベルカの海底遺跡に潜って調査したり、観光したりと本当に楽しめましたよ。あっちのあの子(・・・・・・・)の体の調整も序にやっておきましたから、目覚めれば普通に日常を過ごせるでしょうね……さて、それではさっそく研究をしましょう! どれからやるか悩みますね!!」

 

「これなんて、良いんじゃないかしら、フリートさん」

 

 横合いから伸びて来た手が握ったロストロギアを差し出されたフリートは、一瞬前までの高揚が消え去り、全身から冷や汗を流し出した。

 油の切れた人形のようにギシギシと音が聞こえそうなぐらいの動きで、横を振り向いて見ると、笑顔を浮かべたリンディが立っていた。

 

「楽しそうね、フリートさん?」

 

「……質問ですけど……何でバレたんですか? 今回は、凄い自信が在ったんですけど?」

 

 最新の注意を払ってフリートは行動したと自信を持って言える。

 痕跡も平行世界の自身が動いたように見えるように考え抜いて動いた。しかし、こうしてリンディがやって来たと言う事は、完璧だと思った偽装に穴が在った事を示している。

 

「そうね。今回は流石に私も貴女の行動に疑問が浮かばなかったわ。だけど、上機嫌過ぎたのよ。何時もの貴女なら、色々得られても肝心の平行世界に行けなかった事に悔しがる筈。けど、悔しがる様子も無くて、【レリック】の研究に向かったのが違和感の正体だったわ」

 

 一度始めた研究をフリートは途中で投げる事など絶対に無い。

 長期間を目安にする研究の移行は在ったとしても、今回は移動まで成功しているのだ。ならば、止められるのも構わずに研究を続けるのがフリートの何時もの行動。

 しかし、その様子も見せず、【レリック】の研究の方に集中するなど、リンディの知るフリートならば絶対に在り得ない。

 

「そうなれば、答えは一つしかないわよね、フリートさん。既に貴女自身も平行世界に移動する為の研究を終えていると言う事でしょう?」

 

「で、でもですね! 例え完成していたとしても、私が行ったとは限らないじゃないですか! それなのに何で私が平行世界に行ったと思うんですか!?」

 

「ミスが在ったのよ。貴女じゃなくて、なのはさんが起こしてくれたミスがね」

 

「なのはさんのミス!? ……アッ! アァァァァァァァァァーーーーーー!!!!」

 

 フリートは平行世界のミッドチルダで起きた戦いの時を思い出した。

 そう、メタルガルルモンXが三隻の艦艇を消滅させる時に、なのはは使ってしまったのだ。

 〝アルハザードの魔法式゛を。もしも平行世界のフリートが見れば、何が何でもメタルガルルモンX達に接触していただろう。それこそ事件を引き起こしてでも。だが、事件後も滞在していたのに事件らしい事件は起きなかった。

 それが意味する事は、無限書庫の爆破事件とユーノ達を襲った犯人はメタルガルルモンX達がアルハザードの魔法式を使っても構わないと思っているリンディ達の世界のフリートしか考えられないのだ。

 

「さて、フリートさん? 今回は私達も平行世界で暴れたからお仕置きはしないわ。だけど、色々と聞かせて貰うわよ。貴女が平行世界でやった事の全部を」

 

「……は、はい」

 

 この後、フリートは洗い浚いリンディに全てを白状した。

 その結果、やはりウッカリを幾つかやらかしていた事が判明し、その後始末にリンディがフリートを引き連れて平行世界に戻る羽目になるが、それは別の話。

 因みに『平行世界に行ってらっしゃいガン』は、リンディが没収したのは言うまでもない。




次回の【おまけ】で第一章は終了です。

データを提供してくれた【kumori】様の感謝しております。

本来ならば第二章はコラボ作品でしたが、投稿するかは未定です。
ただForce編については修正後に投稿する予定です。
今しばらくお待ち下さい。

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