漆黒シリーズ特別集   作:ゼクス

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後編 下

 クラナガンの人々の救援を終えたスレイプモンは、廃棄都市のビルの上に立ちながら上空に浮かぶゆりかごを眺めていた。

 

「そろそろ始まった頃だろう。デュークモンとこの世界のなのはの戦いが」

 

(そうね。と成れば、私達も動くべきでしょう?)

 

「そうだな。【プランΩ】。出来れば行いたくは無かったが、それももはや無理のようだ」

 

 スレイプモンとその身に融合しているティアナは、既にリンディから管理局の行う行動を聞き、【プランΩ】を実行するしかないと判断していた。

 【プランΩ】。それは管理局が在る行動を行った時のみに実行する事を決めていたスレイプモン達に寄る全ての真実の暴露と管理局の崩壊の実行。

 既に管理局はその行動を実行する事を通信を傍受していたリンディの証言から聞き、スレイプモンは本当に残念だと言うに目を細める。

 

「……出来る事ならば、プランΩだけは本当に行いたくなかった。私達はこの世界の者ではない。全てが終われば去るつもりだ ったのに……管理局は本当に愚か者達の集まりだ」

 

(……そうね。だけど、もう実行するしかないわ。全てを変える為にもね?)

 

「そうだな」

 

 スレイプモンは答えると共に【ブレイクミラージュ】を両手に顕現させ、ブレイクミラージュの演算能力を全力で起動させ出す。

 同時にハッキング能力を駆使して管理局の内部に在るシステムを完全に掌握し、今ミッドで起きている全ての事実を全管理世界に秘密裏に放送し始める。

 

 

 

 

 

 ゆりかごの周りに居る局員達は未だにゆりかご内部に入る事は出来ず、グラニの発生させている衝撃波に寄って翻弄され続けていた。

 

ーーーピイィィィィィィーーーー!!!

 

『ウワァァァァァァーーー!!!』

 

「如何したら!如何したら通れるんや!?このままじゃ、なのはちゃんまで!!」

 

 吹き飛ばされる局員達の姿を見ながらはやては悔しそうに叫ぶが、 グラニは嘲笑うかのように衝撃波を撒き散らしながら飛び続ける。

 既にガジェットは存在しないと言うのに、管理局員はなのはを除いた全員が一歩たりともゆりかごに入る事が出来なかった。進入しようとすればゆりかごの周りを飛び回るグラニに全員が吹き飛ばされ、多くの怪我人が既に続出している。

 局員達もグラニを撃ち落そうと砲撃やはやての広域攻撃を放ち続けているのだが、音速を超えるスピードで動き続けているグラニに当たる筈も無く、運が良く当たったとしてもグラニの装甲の前では豆鉄砲が当たった程度のダメージしか与える事が出来ないのが現状だった。

 

「クソッ!あいつも化けもんだぜ!!」

 

「落ち着くんやヴィータ!!もうすぐ本局から艦艇も来る!!そうなれば対策も取れるわ!!」

 

 はやてはそうヴィータに言うが内心ではかなりの不安に襲われていた。

 

(何やこれ?私は何か重要な事を忘れておる気がする?一体何や?)

 

 漠然とした不安。それは自身が忘れている事に関係してるとはやては内心で思うのだが、その忘れている事が分からずに言い知れない不安に包まれていると背後からヘリが近付いて来る。

 

『八神部隊長!!』

 

「はやてちゃん!!」

 

「主ッ!!」

 

「ッ!! スバル、ティアナ、エリオ、キャロ、それにシャマルにザフィーラまで!?」

 

 ヘリの中に乗っているFWメンバーと機動六課隊舎が襲撃された時に負傷を負ってしまい、前線から離れていた筈のシャマルとザフィーラの姿にはやては驚愕しながら質問した。

 シャマルとザフィーラは病院に居る筈の上に、FWメンバーは廃棄都市から地上本部へと向かっていた戦闘機人の確保に向かっていた筈だ。

 それなのにそのメンバーが全員が、ゆりかごの近くへとやって来ている。

 

「何か在ったんか!? 地上本部に向かっていた筈の戦闘機人達はどないしたんや!?」

 

「……戦闘機人達は全員確保出来ました。ギンガさんも助かりました。だけど、戦闘機人を倒したのは蒼い機械の狼で……ギンガさんを助けたのは……その……死んだはずの……ギンガさんとスバルの母親で在るクイント・ナカジマさんらしいんです」

 

『ッ!!』

 

 ティアナが告げた事実に、はやてとヴィータは顔を見合わせた。

 ギンガとスバルの母親であるクイントは、既に故人に成っている人物。その人物がギンガを救出したと、ティアナは告げた。一体どう言う事なのかとはやてが質問しようとすると、シャマルが更なる事実を告げる。

 

「それだけじゃないのよ!!廃棄都市にいた戦闘機人の反応が消失する瞬間に、なのはちゃんの魔力反応が出現したの!!」

 

「何やて!?」

 

「何だって!?」

 

 シャマルが更に告げた事実に、はやてとヴィータは叫びを上げた。

 何故ならば自分達の知るなのはは確かにゆりかご内部へと入って行くのをはやてとヴィータは目撃している。なのに、そのなのはの魔力反応が廃棄都市に出現したと言う。

 はやてとヴィータが次々と報告される不可思議な事態に混乱していると、突然にゆりかごの上部に離れたクラナガンからさえも 一望出来るほどの巨大なモニターが出現する。

 

『ッ!!』

 

 突如としてゆりかごの上部に出現したモニターにはやて達は驚愕しながら慌ててモニターを見つめて見ると、其処には。

 

『セーバーショット!!!』

 

『ディバインバスターー!!!』

 

 互いに砲撃を撃ちあうデュークモンとなのはの姿が映し出されていた。

 その映像にゆりかごの周りに居る局員達と、そして安全な場所に 避難されたクラナガンの人々は呆然としながら見つめるのだった。

 

 

 

 

 

「クッ!!」

 

 砲撃を互いに撃ちあったデュークモンとなのはの砲撃を、中間でぶつかり合い激しい爆発が起きるが、その衝撃は全てなのはの方に向かって来た。

 それが意味する事に気が付いたなのはは悔しげに顔を歪めながら、 デュークモンから離れるように距離を取ってレイジングハートを構える。

 

(私の方に全て衝撃が襲い掛かった。全力じゃないけど、エクシードモードの私の砲撃に撃ち勝つ何て!?)

 

 自身の全力では無いとは言え最大の武器である砲撃に簡単に撃ち勝って見せたデュークモンに、プライドが傷付けられたなのはは悔しげな顔をしたままデュークモンを睨む。

 だが、デュークモンはなのはの気持ちなど全く気にせずに、床に向かってグラムを突き立てる。

 

「ゆりかごシステム完全掌握。浮上停止。AMF及び警備システム解除」

 

「なっ!?」

 

 デュークモンの呟いた言葉の意味に気が付いたなのはは、困惑と疑問に満ちた声を出しながらデュークモンを見つめる。

 それと共にグラムの突き刺している床から光の線が発生し、玉座全体に光の線が走った瞬間に、ゆりかご内部全域を覆っていたAMFが解除され、ゆりかごの浮上も停止した。

 それと共になのはは自身の体が軽くなるのを感じ、呆然と自身を右手を見つめる。

 

「……如何してAMFを解除したの?AMFが在れば魔導師相手に有利に成るのに?」

 

 床からグラムを抜いてるデュークモンに向かってなのはは呆然としながら質問した。

 【AMF】。通称【アンチマギリンクフィールド】。効果範囲内の魔力結合を解いて魔法を無効化する能力が在り、その効果範囲内では攻撃 魔法どころか移動系魔法も妨害される。しかもゆりかごを覆っていたのは高濃度のAMF。Sランクオーバーで在るなのはも弱体化を免れる事が出来ないほどの高濃度で存在していた。にも関わらず、デュークモンはそれを解いてしまったのだから、なのはの力は万全な状態に戻ってしまう。敵で在る筈の者に塩を送る様な行動がなのはには理解出来なかった。

 しかし、デュークモンからすれば当然の事だった。

 

「言った筈だぞ。貴様は叩きのめすと。負けた時の言い訳をされたくないだけだ」

 

 デュークモンがAMFを解いた理由は唯一つ。なのはを全力で叩きのめし、完膚なきまでに敗北させる為だった。

 もはやデュークモンは、目の前に立っている“時空管理局員の高町なのは”を赦す気は無かった。

 

(赦さん。この女だけは絶対に赦さんぞ。この女の行動のせいで、この世界のヴィヴィオはあのような言葉を叫んだ!!私は絶対に赦さん!!)

 

 デュークモンがなのはの事を赦す事が出来ない理由は一つ、この世界のヴィヴィオが告げたあの言葉。

 

『ヴィヴィオは兵器だもの』

 

(ふざけるな!!ヴィヴィオでは兵器ではない!!この女がヴィヴ ィオと確り向き合っていれば、スカリエッティの戦力を甘く見なければ!この様な事態には成らなかった上に、ヴィヴィオが傷付く事は無かったのだ!!)

 

 もし、ヴィヴィオが連れ去られずなのは達の下に居続ければ、ゆりかごは浮かび上がる事も無く、ヴィヴィオも自身の出生の秘密を最悪な状況で知る事は無かっただろう。

 ほんの僅かな油断。その油断こそが、ヴィヴィオの心に傷を負わせた。

 そしてその油断を呼んだのは、先ず間違いなくなのはの自身の力に寄る過信だとデュークモンは先ほどの一撃とその前の言葉で確信していた。

 

(デュークちゃんの力は映像で見ている筈なのに、全力の攻撃じゃ無かったよね?)

 

(先ず間違いない。この女はリミッターを外した自分に勝てる者はいないと、心の奥底で思っている。愚か者でしかない!)

 

 自身と融合しているヴィヴィオの言葉に答えると共に、デュークモンは床から引き抜いたグラムをなのはに向けて構え出す。

 

「次は全力で来るのだな。もはや負けた時に言い訳など、不可能だぞ?」

 

「ッ!!馬鹿にしないで! ディバインバスターー!!!」

 

 デュークモンの言葉に、プライドを完全に傷付けれたなのはは、今度こそ全力で砲撃を放ち、デュークモンに凄まじい勢いで迫る。

 だが、デュークモンは迫り来る砲撃を見ても、慌てずに構えていたグラムを迫る砲撃に向かって全力で振り抜く。

 

「無駄だ!!」

 

「なっ!?」

 

 グラムが振り抜かれると共に、デュークモンに迫っていたディバインバスターは一瞬の内に霧散した。

 今度は正真正銘に全力の砲撃だったと言うのに、簡単に霧散された事実になのはの動きが止まった瞬間、デュークモンの姿がなのはの視界から消失する。

 

「ッ!!何処に!?」

 

 視界から消えたデュークモンの姿になのはは慌てて辺りを警戒しながら見回し始める。

 しかし、なのはの警戒など無意味だと言うようになのはの背後にデュークモンは移動し、グラムをなのはに向かって振り抜く。

 

「ムン!!」

 

《Round《ラウンド》 Shield《シールド》》

 

 デュークモンが背後に居る事に気が付いたレイジングハートは、 慌てて防御魔法を発動させ、攻撃を受け止めようとする。

 

「ウッ!キャアァァァァァァァァーーーー!!!」

 

 一瞬の停滞も見せる事無くシールドはグラムの一撃に寄って崩壊し、なのはは悲鳴を上げながら壁に激突してめり込んだ。

 その様子を眺めていたデュークモンは、ゆっくりと壁にめり込んでいるなのはに歩み始める。

 

「鉄壁だと貴様の防御は言われているようだが、今の一撃は力を全く込めずに放ったのだぞ? それで鉄壁と呼ばれるとは、随分と脆い鉄壁だな」

 

「……ブラスターシステム、リミット1、リリース!!」

 

《Blaster.set》

 

「ムッ!」

 

 壁に埋め込んでいるなのはが叫んだ瞬間に、膨大な魔力が発生し、 デュークモンが足を止めて警戒するように注意深くなのはを観察し始める。

 目の前になのはが使ったシステムは、恐らくは自己強化の類のシステム。どれほど強化されるかのは不明だが、警戒するには十分な物だと判断し、デュークモンは油断なくなのはの動きを注視する。

 その僅か時間の間になのはは壁から飛び出し、再びレイジングハ ートをデュークモンに向かって構えると、先ほどのディバインバスターよりも遥かに大威力の砲撃を魔法をブラスターシステムで強化した状態で放つ。

 

「エクセリオンバスターー!!!」

 

 放たれたエクセリオンバスターは、デュークモンへと凄まじい勢いで迫るが、デュークモンは構えも取らずに歩みを再開し、その体に砲撃は直撃した。

 

「ッ!?そ、そんな!?」

 

 自身の砲撃が直撃したにも関わらず、砲撃を体に受けながらも歩みを続ける虹色の魔力光を体の周りに発生させているデュークモンになのはは悲鳴を上げた。

 自身の中でも最強の魔法で在るスターライトブレイカーに匹敵する砲撃の筈なのに、エクセリオンバスターを体に受けながら歩むを止めないデュークモンになのはは一瞬恐れを覚えるが、すぐさま表情を険しくして更なる力を解放する。

 

「【ブラスターシステム】!リミット2!!」

 

 なのはが叫ぶと共にエクセリオンバスターの威力は更に倍増するが、それでもデュークモンは歩みを止めない所か、砲撃の中を全速力で駆け抜ける。

 

「オォォォォォォォォーーーーー!!!!」

 

「ウッ!ウワァァァァァァァァーーーー!!!!」

 

 砲撃の中を進んで来るデュークモンの姿になのはは恐怖の声を上げながら、更に砲撃の威力を上げるが、デュークモンの走りを止める事は出来なかった。

 そして遂になのはの目の前にデュークモンは辿り着き、グラムをなのはに向かって振り抜く。

 

「このデュークモンにその程度の砲撃は通じんぞ!!」

 

「ガハッ!!」

 

 叫ぶと共に振り抜かれたグラムの一撃を避ける事が出来ず、なのはは苦痛の声を上げながら、再び壁に激突した。  その様子を眺めながらデュークモンはグラムをなのはに向かって構え出し、自身が予測したブラスターシステムの正体を苦痛に苦しんでいるなのはに語り出す。

 

「【ブラスターシステム】。大仰な名前の割にはつまらんシステムだ。自己ブーストの極限と言った所だろうな?」

 

「グッ!!」

 

 全身を襲う苦痛に苦しみながらも、【ブラスターシステム】の正体を指摘されたなのはは悔しげな声を上げた。

 【ブラスターシステム】。それはこの世界のなのはの切り札であり、自身とデバイスに過剰としか言えないほどの自己強化を行うシステム。強力な力を手に入れる事が出来るシステムだが、その反面に使用者と使用デバイス、双方の命を削るほどの負担を掛けてしまう。正に諸刃の剣を表したシステム。

 しかも、使用後は必ず心身ともに凄まじいほどの消耗が発生する上に、過剰な強化に寄って深刻な後遺症が残るのは間違い。

 一時的ならば強力無比のシステムだとデュークモンも思うが、使用後の事を何も考えていない欠陥品としか言えないシステムだと断言出来ると判断した。

 

「その様な自虐のシステムを使うとは、余程貴様は命がいらんようだ……いや、これも上層部のシナリオの内なのだろうな。貴様がこの件に関われば、必ず使うと踏んでいたのだろう。自身を顧みず人々を護った本局のエース。事件後の良い内容に成るだろうな」

 

「……如何言う事なの?上層部のシナリオって?」

 

 聞き覚えの無い事実に、なのはは苦痛に苦しみながらもデュークモンに質問した。

 それを聞いたデュークモンは無表情に絶望の-なのは達管理局に取っての絶望の真実をなのはに語り出す。

 

「全ては本局上層部の一部が描いていたシナリオだ。地上本部を完全に掌握する為に。貴様の部隊、機動六課は生み出された」

 

「ッ!!!」

 

 デュークモンが告げた真実になのはは目を見開くが、デュークモンはリンディがフェイトへと語ったこの事件の裏に隠されていた本局上層部の真の思惑を全て告げる。

 

「……嘘だよ……そんなの嘘だよ」

 

 全てを聞き終えたなのはは、教えられた絶望の真実に体を恐怖に震わせ、顔を青褪めさせた。

 機動六課設立の裏の裏に隠されていた絶望の真実。地上本部との仲を更に悪化させ、地上を意固地にさせる状況を生み出し、AMFに対する対抗策を生み出せていない地上の無能さを民衆に見せ付け、 その事件を引き起こした者を本局直轄の部隊で在る機動六課に解決させ、地上の実権を完全に掌握する。

 その為に生まれるであろうミッドチルダの人々の犠牲を完全に考えてない。自分達の欲望の満たす為の悪夢の思惑を実行した本局上層部。そしてそれの一端を担っていた自分自身になのはは凄まじい恐怖と絶望に襲われながら体を震わせる。

 

「だが、この計画には弱点が在った。公開意見陳述会の前に事件が終わっていれば、或いはゆりかごが浮かばない状況が出来ていれば全ては無駄に成り、地上の人々に犠牲が出る事は無かった。そしてその為の鍵を貴様らは偶然にも手に入れていた」

 

「……事件を解決出来る鍵……ッ!! まさか!?」

 

 デュークモンが告げた言葉になのはは首を傾げながら少し考えて何かに気が付いたように、なのはが玉座の間に入って来てから一言 も喋らずに、デュークモンが張った結界の中で顔を俯かせるヴィヴィオに顔を向けた。

 そう、ヴィヴィオこそが事件を解決、或いは抑止出来る鍵だったのだ。ヴィヴィオがスカリエッティの下にさえ居なければ、ゆりかごは浮かばず、スカリエッティは最強の切り札を手に入れる事も無く、事件が起きなかった可能性が高い。

 

「先ほども言ったが、貴様らがヴィヴィオを連れ去れる状況さえ作り上げねば、状況は確実に変わっていただろう。そしてヴィヴィオが心に傷を負う事もなかった」

「ッ!!……心に傷を?」

 デュークモンが告げた事実に、なのはは未だに自身の事を一度も見ようとしていないヴィヴィオを注意深く見つめた。

 

「私は貴様が来る前に、あの子に言ったのだ。『母親の所に帰りたければ、私が送る』とな。だが、あの子は帰れないと私に告げたのだ!!」

 

「……帰れない?」

 

「そうだ!!あの子は自分が兵器だから帰れないと私に告げた!!何故あの子が兵器などと呼ばれなければいけない!!」

 

「……ヴィヴィオが……自分を兵器って言った?」

 

 もはやなのはは呆然としながら言葉を呟くのが精一杯だった。

 自身の知るヴィヴィオは、甘えん坊で泣き虫の可愛い子供。その子が自分自身を兵器などと呼んだ。

 それを呼ばせる原因を作った者の正体に気が付いたなのはは、自身の手を呆然と顔の前に掲げて恐怖に震え出す。

 

「……私のせい……私がスカリエッティの力を甘く見たから……ヴィヴィオが心に傷を負った……ウゥ、ウワァァァァァァァァァァーーーーーーーーー!!!!!」

 

 全ての事実に行き着いたなのはは、顔を床に伏せて大声で泣き始めた。

 全ては自分の、機動六課のスカリエッティに対する戦力の見通し甘さが生み出した状況だった。

 デュークモンの言うとおり、スカリエッティの戦力の見通しの甘ささえ無ければ、ヴィヴィオは連れ去られず、最悪の事態に発展する事も無かった。しかし、現実には本局上層部の願っていた最悪の状態に起きている。

 全ては管理局の望んだ事。管理局は人々の平和よりも自分達の欲望の為に、今回の事件が起きる様な状態を作り上げたのだ。

 その様になのはが絶望の事実に打ちのめされている間に、デュークモンはリンディから届いた念話に内心で僅かに目を細める。

 

(【プランΩ】の実行? ……ということは、やはり管理局はあの行動を実行すると言う事か?)

 

(ええ、傍受した通信で確定したわ)

 

(そうか。成らば、私達もそれに合わせて動く)

 

(任せてね、リンディお姉ちゃん!!)

 

(クス、ええ、お願いね)

 

 リンディはそう告げると共に念話を切り、デュークモングラムを泣き続けるなのはの眼前に突きつける。

 

「絶望するのは勝手だが、まだ話は終わっていないぞ」

 

「ッ!!」

 

 デュークモンの言葉になのはは泣き腫らした目を驚愕で見開きな がら、デュークモンを見つめた。

 話は終わってはいない。つまり、まだ在るのだ。ミッドを襲ったこの事件の裏に隠された秘密がまだ存在している。

 その事が分かったなのはは顔色を蒼白に変えるが、デュークモンは一切の容赦せずに更なる絶望を語り出す。

 

「貴様は疑問には思わんか? このゆりかごが隠されていた世界に?」

 

「……ゆりかごが……隠されていた世界?……ッ!!!」

 

 言葉の意味に気がついたなのはは体に電流が走った様な衝撃を感じた。

 【聖王のゆりかご】が隠されていた世界の名は【ミッドチルダ】。

 次元世界の中心世界で在り、管理局の発祥の地。その世界にゆりかごは眠っていた。普通ならば絶対に在りえない。

 何故ならば管理局は古代や滅んだ世界の遺物-通称【ロストロギア】の回収を絶対としている組織。その上、ミッドチルダには管理局以外に次元世界にかなりの影響力を持っていて、聖王を崇め称えている宗教組織-【聖王教会】が存在している。しかも【聖王教会】は聖王の遺物に関する物や、古代ベルカに関係しているロストロギアを管理している。

 その両組織が存在している世界に、【聖王のゆりかご】はスカリエッティが動かす時まで誰にも発見されずにいた。絶対に在りえない事だ。どちらかの組織が隠して置かない限りは。

 そして聖王教会は在りえない。幾ら次元世界に多大な影響力を持つ聖王教会でも、ゆりかごほどの巨大な遺物を、管理局の発祥の地であるミッドに隠して置く事など不可能。

 ならば、隠した組織は一つしか在りえない。

 

「……時空……管理局……そんな」

 

「事実だ。そして最強の質量兵器と呼べるゆりかごを破壊せずに置いた理由は一つしか在るまい?」

 

「ア、ア、ア、ア、アァァァァァァァァァーーーーーー!!!!」

 

 なのはは絶望の声を上げながらも気が付いてしまった。管理局がゆりかごを隠した理由など一つしかない。『管理局はゆりかごを使うつもりだった』。自分達で質量兵器の廃絶などと叫んでいながら、管理局は質量兵器を使うつもりだったのだ。

 そしてゆりかごの起動には“聖王の血を引く者”が必要。つまり、ヴィヴィオを生み出したのはスカリエッティではない。ヴィヴィオを真に生み出した全ての元凶と呼べる組織。その名は【時空管理局】。

 

「ワアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーー !!!!」

 

 それは自身の信じていたものが完全に砕けた者だけが上げられる叫びだった。

 管理局は自分達で違法研究を否定し、質量兵器も否定していた。それなのに蓋を開けて見れば、その全てを行っていた。管理局が言っていた事は全て偽りだった。

 一部の上層部だけかも知れない。だが、自分達で否定した行いを裏では平然と行っていた時点で、管理局の言葉は偽りだったとしか言えないだろう。

 

「自分達で否定しながら、裏では平然と行う。それが今の管理局だ。一般は分からんが、少なくとも上層部、しかも司法組織のトップで在った最高評議会が自ら裏で推進していた。人手不足の解消などと言う理由を使い、裏では違法を繰り返す。奴らが使う言い訳はこうだ。『管理局こそが正義』……ふざけるな。子供に自らを兵器などと言わせる組織の何処が正義なのだ!?」

 

「ウゥ、ウゥゥゥ、ウワァァァァァァァーーーー!!!!」

 

 もはやなのはにはデュークモンの言葉に答える事は出来ず、床に顔を付けながら、手を何度も床にぶつけていた。

デュークモンの言葉は最もだと思ったのだ。確かに管理局は多くの人々や世界を救っていた。

 だが、自分達で決めたルールさえも護らずに、平然と違法を繰り返し、挙句に自分達の権力の為に罪の無い人々を巻き込む様な最悪のシナリオを作り出し、それを解決して寄り自分達の権力を上げるなど、もはや管理局は犯罪組織と呼んで良いほどに腐敗していた。

 その事が完全に分かってしまったなのはは更に涙を流し始め、それを見ていたデュークモンはプランΩを実行し始める。

 

「私達はその様子を見ていた。私達の力は強大だ。その力を管理局に渡せば、管理局の腐敗は更に増大し、取り返しのつかない事態に成ると思い、私達は表に出ず見守り続けていた……だが、地上の在る者達は、我らの存在に気が付いてしまった」

 

「……エッ?」

 言葉の意味に気が付いたなのはは顔を床に付けながらも、呆然とした声を上げた。

 その様子にデュークモンは内心で計画通りと融合しているヴィヴィオと共に内心で笑みを浮かべながら、プランΩ通りに話を続ける。

 

「あの者達が我らの存在に気が付いたのは、本当に偶然だった。そしてその者達は私達とコンタクトを取り、地上の人々の為に力を貸してくれと私達に頼んで来た。だが、その者達も管理局員。むやみやたらに信用する事は出来なかった。しかし、今回の事件の時にその者達は私達に土下座までして頼んだのだ。『我々管理局の縄張り争いのせいで、ミッドの罪無き人々が苦しんでいる!!我々はどうなっても構わない!その代わりにミッドの人々を護ってくれ』とな」

 

「……それじゃあ……貴方達が現れたのは……その局員達の頼みの為に?」

 

「違うな。私達は管理局の為になど動くつもりは無い。動いたのは罪の無い人々と、悲しみの声を上げた少女の為だ。事件の元凶である管理局など知った事ではない。奴らの頼みは事の序に過ぎん」

 

 デュークモンはそう告げると共に、右手のグラムを構え出し、なのはの体に狙いを付ける。

 

「さて、話は終わりだ。貴様も十分過ぎるほどに自身の罪の重さを 知っただろう。引導をくれてやる」

 

「……」

 

 デュークモンの言葉に対してなのははもはや生気の失せた目を浮かべて、グラムを見つめるだけだった。

 もはやなのはにデュークモンと戦う気力は無い。全ての元凶は自身の所属している組織の上に、ヴィヴィオの心に傷を負わせたのは自分の責任。

 母と慕ってくれたヴィヴィオと向き合わず、スカリエッティの戦力の高さを甘く見た為にヴィヴィオの心に傷が生まれてしまった。

 

(ハハハハハハッ……何だ……ヴィヴィオの事を大切に思っていながら……仕事だとか理由を付けて……しっかりとヴィヴィオと向き合わなかった……そのせいで……こんな事に……ゴメンね、ヴィヴィオ……私は最低な人間だね)

 

 自身の行ったヴィヴィオへの行動が全て裏目だった。

 その事が完全に分かってしまったなのはは、もはや戦う気も起きず、デュークモンの一撃を受けるつもりで目を閉じる。

 

「最後は潔いな。案ずるな、ヴィヴィオは私達が護ろう。貴様はあの世に行くんだな!!」

 

 デュークモンは叫ぶと共にグラムをなのはに向かって突き出し、 なのはは深く目を閉じながら最後の瞬間を覚悟するが。

 

「……めて」

 

 聞こえて来た小さな呟きが耳に届いたデュークモンは、グラムをなのはの体に当たる寸前で止め、声の主である結界に包まれたヴィヴィオに目を向ける。

 

「……その人を傷つけないで……その人は……その人は!!ヴィヴィオのママだ!!」

 

「まさか!? 目覚めるのか!?」

 

 ヴィヴィオが叫ぶと共に一瞬の内にデュークモンが張った結界は、ヴィヴィオの体から溢れ出る様に発生した虹色の魔力風に破壊された。

 それが意味する事に気が付いたデュークモンは、目を見開きながら虹色の魔力風の中心に目を向けると、その人物は現れた。

 その人物は黒い黒衣を着て、金髪の髪に、緑と赤の瞳を持った女性。デュークモンと共にゆりかごのもう一人の主。【聖王ヴィヴィオ】がその姿をデュークモンの俄然に現した。

 

「もう……なのはママを傷つけさせない!!」

 

「ムッ!!」

 

 自身の目の前に一瞬の内で移動したヴィヴィオの姿に、デュークモンは僅かに狼狽える。

 ヴィヴィオはその様子に構わず、虹色の魔力光を纏った右手をデ ュークモンに突き出す。

 

「ハアッ!!」

 

「クッ!!」

 

 イージスを使ってヴィヴィオの拳を防御するが、攻撃は放たず、次々とヴィヴィオが繰り出して来る拳や魔法を防御する事に専念する。

 デュークモンには異世界とは言え、ヴィヴィオを自身の手で傷付ける事など出来ない。その事が本能的に分かっているヴィヴィオは、自分がデュークモンを倒すと言う様に次々と拳や魔法を繰り出し、デュークモンの動きを抑えて行く。

 

「……如何して……ヴィヴィオが私を?」

 

 目の前で起きているデュークモンとヴィヴィオの戦いに、なのはは信じられないと言うように戦いを見つめる。

 ヴィヴィオを傷つけたのは自身の甘さのせいだと、なのははもう十分過ぎるほどに分かっているし、話を聞いていたヴィヴィオを分かっている筈だ。

 それなのにヴィヴィオは自分を護る為に戦っている。なのはには何故ヴィヴィオが戦うのか全く分からなかった。

 

「……全部私のせいなのに……ヴィヴィオの心に傷が出来たのは……私のせいなんだよ……それに……ヴィヴィオを兵器にしようとしたのは管理局……それなのに如何して?」

 

(あの子に取っては、それでも貴女が母親なんだよ)

 

「ッ!!」

 聞き覚えのあり過ぎる声の念話に、なのはは辺りを見回す。

 しかし、念話の主の姿は全く発見出来ず、疑問を覚えていると、再び念話が届く。

 

(如何するの?そのまま其処で悲しむのかな?娘が貴女を護る為に戦っているのに?)

 

「……私に、ヴィヴィオを娘なんて呼ぶ資格なんて無いよ……だってヴィヴィオを不幸にしたのは、時空管理局なんだよ……それにあの子の心に傷を負わせたのは私自身……今更母親なんて言えないよ!!」

 

(……ねえ、さっきあの子は貴女の事を何て呼んだの?)

 

「ッ!!」

 

 念話の言葉になのははデュークモンと戦っているヴィヴィオを見つめた。

 ヴィヴィオはなのはの事を確かにママと呼んだ。それが意味する事に気が付き、なのはは大粒の涙を流しながら、近くに落ちていたレイジングハート・エクセリオンを拾い上げる。

 

「ゴメンね、ヴィヴィオ。私は馬鹿だよ。こんなにもヴィヴィオの事を大切に思っていながら、ヴィヴィオの気持ちに気がついて上げられなかった」

 

 なのはは言葉と共に立ち上がり、ヴィヴィオを戦っているデュークモンに向けてレイジングハートを構え出す。

 

「貴方の言うとおり、私は、私達は管理局は正義なんかじゃない。 最低な組織だと私も思う。ブラスターシステム。リミット3」

 

 なのはが最終段階のブラスターシステムを起動させると共に、なのはの周りに四つのレイジングハートの先端を模ったビット-【ブラスタービット】が出現し、デュークモンの周りに移動を始める。

 

「そして私も最低な人間。ヴィヴィオの思いを踏み躙っていた。資格なんて多分無い。それでもそれでも!!!」

 

 なのはが叫ぶと共に、なのはの前に膨大な量の魔力が集中して行き巨大な魔力の球体が作られていく。

 更にデュークモンの周りに存在していたブラスタービットにも魔力が集中して行き、なのはの目の前の魔力球と同様に魔力球が生まれて行く。

 

「ッ!! これは!?」

 

 自身の周りに生み出されて四つの魔力球に、デュークモンは驚いた声を上げて、四つの魔力球となのはの姿を視界に映すと、なのはは自身の体を襲う激痛に苦しみながらも叫ぶ。

 

「私はヴィヴィオのママに成りたい!!全力全開!!スターライトブレイカーーーー!!!!」

 

 叫ぶと共に放たれた五つの強力無比のスターライトブレイカーはデュークモンへと直撃し、巨大な爆発が起きた。

 だが、デュークモンは四方のブラスタービットから放たれた四つのスターライトブレイカーとなのはの放ったスターライトブレイカーを受けても顕在だった。

 

「グウッ!! その程度では私の【聖王の鎧】は貫けんぞ!!」

 

「そ、そんな!?」

 

 五つのスターライトブレイカーを受けても、尚もデュークモンの体の周りに発生している虹色の魔力光を貫く事は出来ず、なのはは悲痛の叫びを上げて、スターライトブレイカーの中を歩き始めたデュークモンを見つめる。

 自身の最強の砲撃を、しかも五つも同時に受けて尚も立ち続けるデュークモンに、なのはが諦め掛けた瞬間。

 

「全力全開!!!」

 

「なっ!?」

 

「えっ!?」

 

 突如として聞こえて来た声とそれと共に発生した膨大な魔力に気が付いたデュークモンとなのはは、驚いた声を上げて声の聞こえて来た方に目を向ける。

 其処には自身の前に、虹色の魔力光を放つ巨大な魔力球を生み出しているヴィヴィオの姿が存在していた。

 

「スターライトブレイカーーーー!!!!」

 

 ヴィヴィオは叫ぶと共に虹色の魔力球に拳をぶつけ、なのはの最強魔法-虹色に輝くスターライトブレイカーをなのはの桜色のスターライトブレイカーを受けているデュークモンに向かって放った。

 迫り来る六つ目の虹色に輝くスターライトブレイカーを見つめながら、デュークモンは呟く。

 

「……合格だ」

 

 デュークモンが呟くと共に、虹色のスターライトブレイカーもデュークモンへと直撃し、巨大な爆発が玉座の中に起きた。

 それと共に砲撃は消えてなのはは床に膝をつき、荒い息を吐き始める。

 

「ハア、ハア、ハア、ハア、これなら終わったよね?」

 

 爆発が起きて爆煙に包まれる場所を見つめながら、なのはが呟いていると、ヴィヴィオがなのはに近寄って来る。

 

「……なのは……ママ」

 

「……ゴメンね、ヴィヴィオ。私にはママって呼ばれる資格は無いよ」

 

「……」

 

 なのはの言葉にヴィヴィオは顔を俯かせ、目の端に涙を浮かべるが、涙が流れる前になのははヴィヴィオを抱き締める。

 

「それでも私はヴィヴィオのママに成りたい……良いかな ヴィヴィオ?」

 

「ッ!!うん!ママッ!ママッ!」

 

「ありがとう、ヴィヴィオ」

 

 なのはとヴィヴィオは互いに抱き締め合いながら嬉し涙を流し続け、自分達の心が漸く繋がったのを互いに実感する。

 そして少し経ってから脱出しようと立ち上がり、最後にデューク モンが居た場所に目を向けようとした瞬間に、煙の中から声が聞こえて来る。

 

「……流石に、今のは【聖王の鎧】を撃ち破ったぞ」

 

『ッ!!』

 

 煙の中から響いた声に、なのはとヴィヴィオが顔を向けて見ると、煙を吹き飛ばす様にグラムが振るわれ、煙が一瞬の内に消滅する。

 

「そっ!そんな!?アレを受けて無傷だなんて!?」

 

 煙の中から膝を着きながら姿を現したデュークモンの体は、傷一つ存在していなかった。

 自身の最強の砲撃魔法-スターライトブレイカーを、しかもヴィヴィオが放ったのと合わせれば、合計六つもその身に喰らいながらも、傷一つ付かなかったデュークモンの姿に、なのはとヴィヴィオは恐怖に震える。

 しかし、デュークモンはなのはの言葉を否定するように首を横に振るう。

 

「いや、違うぞ。確かにお前達の一撃は私の【聖王の鎧】を撃ち破り、私にダメージを与えた。この身に【聖王の鎧】が無ければ、かなりのダメージは受けていたに違いない。その証拠に、良く私の鎧を見てみろ?」

 

 言われてなのはとヴィヴィオが良くデュークモンの鎧を見てみると、所々に欠けたり傷ついている箇所が存在し、背中のマントも傷がついていた。

 

「【聖王の鎧】は私と主君の絆の力。それを撃ち破ったお前達二人の絆は……見事だ」

 

 そうデュークモンは告げるとグラムを構え出し、なのははヴィヴィオを護る様に立つが、デュークモンは一切構わずにグラムを突き出す。

 

「ロイヤルセーバーーー!!!」

 

『えっ!?』

 

 デュークモンはなのはとヴィヴィオにではなく、自身の横に在った壁に向かってロイヤルセイバーを放ち、ゆりかごに巨大な穴を開け、外への出口を作り出した。

 その様子になのはとヴィヴィオを疑問の表情を浮かべていると、 デュークモンはなのはとヴィヴィオに顔を向けながら、グラムを穴の先に見える蒼い空を向けて突き出す。

 

「もはやお前達と戦う理由は存在しない。私にお前達は絆を見せた。その絆が在れば如何なる事が在ろうと超えて行けるだろう」

 

 デュークモンは言葉と共にグラムを顔の前に立て、宣誓を行い始める。

 

「高町なのは! 此処に誓え! 例え世界の全てを、仲間や親友と戦う事に成ろうとも、ヴィヴィオを守り抜くと!」

 

「……誓う! 例え世界や皆が敵に成っても絶対にヴィヴィオを護ります!!」

 

 なのはは叫ぶと共にレイジングハートを掲げ、デュークモンとの誓いを宣言した。

 例えこの世の全てを敵にしても、ヴィヴィオは必ず護る。それが自分やヴィヴィオの為に戦ってくれたデュークモンへの礼だと思ったのだ。なのはは既にデュークモンが何故自分と戦ったのか分かっていた。

 これから先、必ず欲望に塗れた者達がヴィヴィオを狙って来る。それがもしかしたら、自分の親友達や所属する管理局かもしれない。だからこそ、デュークモンは確かめたのだ。

 なのはが本当に迷わずヴィヴィオを護れるのかどうかを。

 

「此処に聖王の騎士たるデュークモンが認める!!聖王の血を持つヴィヴィオを高町なのはに預けると!!もしこの誓いを破る時、或いは破ろうとする者達が現れた時は、私は再び現れ、全てを終わらせるであろう!!その事を決して忘れるな!!」

 

「はいっ!!」

 

 デュークモンの宣言に答えるようになのはは叫ぶと、ヴィヴィオに支えられながらデュークモンが開けた穴へと向かい出し、外へと脱出して行った。

 なのはとヴィヴィオの姿が見えなくなるまでその様子を見守っていたデュークモンは、完全になのはとヴィヴィオの姿が見えなくなると、背後を振り返り、何時の間に立っていたガブモンと異世界のなのはに顔を向ける。

 

「流石は異世界とは言えお前自身だな?」

 

「そうでもないよ。多分、私が少し手を貸さなかったら、砕けたままだっただろうからね。全然駄目だよ」

 

「ちょっと厳しくないかなあ?」

 

 そろそろ認めて上げたらと言う気持ちでガブモンがなのはにそう質問すると、なのはは見るだけで恐怖を感じる様な笑みを浮かべて 答え出す。

 

「別に構わないと思うよ。だって、自業自得だったんだしね。自分の甘さのせいでこんな事態を引き起こしたんだもの。もっと反省すべきだよ。プランΩが終わって会いに行ったら、少しお仕置きにしないとね」

 

「むう〜」

 

「あ〜」

 

(……なのはお姉ちゃん怖い)

 

 全身から黒いオーラを放ちながら、容赦なく異世界とは言え自分自身をこけ落とす様な宣言を放つなのはに、デュークモンとガブモン、そしてデュークモンと融合しているヴィヴィオはそれぞれ恐ろしいと言う思いを抱いた。

 余程この世界の自分自身の行動に腹が立っているらしい。異世界とは言え、ヴィヴィオを自身の不注意で危険な目に遭わせた行動に、なのはは腹が立ってしょうがないのだ。他人を護る事に命を掛けるのは確かに尊いものだが、この世界の自分自身はリンディ達と歩む事を決意した少し前の自分だとなのはには分かっていた。

 

(今回の事で変われれば良いけど。変わらなければ、何時か取り返しの付かない事を行っていただろうから。それがどんな結果でも、犠牲なんて見ようとせずに、ただ闇雲に自分の行動こそが正しいと思って……そんな訳は無い。人にはそれぞれの思いが在る。自分だけが絶対に正しいなんて事は在りえない。その事が分かってくれている事を願うよ)

 

 なのははこの世界の自分とヴィヴィオが出て行った穴を見つめながらディーアークを取り出し、デュークモンとガブモンに顔を向ける。

 

「……ゆりかごの中に居た戦闘機人二人の運びも終わったし、始めようか。プランΩを」

 

「ああ」

 

「うん!」

 

(頑張ろう!!)

 

 なのはの言葉に答える様に、デュークモン、ガブモン、ヴィヴィオはそれぞれ頷くと、プランΩの本格的な実行をし始める。

惨劇が始まる。真の愚か者どもが引き金を引く、後の各管理世界の歴史に刻まれる残酷で無慈悲な惨劇が。

 

“王をその身に宿す聖騎士、赤き鎧船にその身を乗せ、天に浮かぶ翼の内より、死せる王を救わん”

 

 

 

 

 

 ゆりかごから脱出したなのはとヴィヴィオは互いに支え合うように飛び続け、ゆりかごから急ぎ離れようとしていた。

 二人とも分かっているのだ。デュークモンがゆりかごの中に残ったのは、ゆりかごを完全に破壊する為なのだと。それを示す様にゆりかごの周りを音速で飛び続けていたグラニも、その動きを落とし、自身の主であるデュークモンが現れるのを待つかのように、ただゆりかごの周りをゆっくりと飛び続けている。

 そして二人が在る程度ゆりかごから離れると、二人の前に顔を絶望に染めたはやてとヴィータに、ヘリに乗ったスバル、ティアナ、エリオ、キャロがその姿をなのはとヴィヴィオの前に現した。

 その様子を見たなのはは、自分とデュークモンの会話が聞かれていた事に気が付き、ヘリの中に乗り込みながらゆりかごに顔を向ける。

 

「……なのはちゃん……ゆりかごでのあの生物との会話は?」

 

「多分事実だよ。全部本局上層部の思惑だった……私達は取り返しの付かない事をしていたんだよ、はやてちゃん」

 

『……』

 

 なのはの答えに対してその場にいる誰もが絶望に染まりながら言葉を失った。

 スカリエッティがこの事件の犯人ではなかった。確かにスカリエッティは実行者では在るが、事件そのものを引き起こす原因を作り上げたのは間違いなく時空管理局と言う組織そのものであり、自分達機動六課でもあると誰もが分かってしまった。

 人々の為。平和の為と言いながら、自分達は最終的に多くの人々の幸せを奪ってしまった。

 理想ばかり見て、現実を見ていなかった。その結果がこれだ。

 罪無きクラナガン人々を危険な目にあわせ、多大な犠牲が生まれてしまった。彼らが現れなければ、もっとより多くの犠牲が出ていた事は間違いないとなのはは確信していた。

 

「……私達は理想にばかり目を向けて、現実が分かっていなかったんだよ。あの人達は現実を確りと見て、それでもクラナガン の人達を護った。あの人達は正義なんて免罪符は絶対に使わない。自分達の信念の為に動くんだよ。例え世界が敵に成っても、あの人達は信念に合わなければ、世界とさえも戦うだろうね」

 

「ッ!!」

 

 なのはの呟いた言葉に漸くはやては自身が忘れていた事を思い出し、ハッとしたようにゆりかごを見つめる。

 

“されど、彼の者達は法の味方に在らず、彼の者達は自身の真の思いのままに、動く者達なり”

 

(そうや!漸く思い出した!予言の最後の文章には、確かにあの人らが法の味方や無いって予言には書かれておった!だけど如何してそれが予言に……!!まさか!?)

 

 はやては最悪な可能性に気が付いてしまった。もしあの新たに現れた予言が、続きではなく中心に埋め込まれる文だったとしたら、全ての謎が一瞬で解ける。

 

“旧い結晶と無限の欲望が交わる地。

 死せる王の下、聖地より彼の翼が蘇る。

  死者達は踊り、中つ大地の法の塔は虚しく焼け落ち。

   天に死せる王の嘆きが響き渡る時、交わる事無き、異界の者達は 怒り狂い、無限の欲望の野望は砕け散る。

    不屈の心を胸に宿す蒼き鉄の狼、星を打ち砕く光を解き放ち、死者達を沈黙に伏させる。

 絆の果てに現し、赤き鎧にその身を包み込んだ聖なる騎士、全て を撃ち抜き、人々を脅威から護らん。

  王をその身に宿す聖騎士、赤き鎧船にその身を乗せ、天に浮かぶ 翼の内より、死せる王を救わん。

   世界に否定されし深き闇を従えた黒き竜人、その身の因子を宿しし異形、古の地より与えられし力を宿す者と共に、世に出す事さえ憚れる深き闇を打ち砕く。

     されど、彼の者達は法の味方に在らず、彼の者達は自身の胸に宿 る真の思いのままに、動く者達なり。

 それを先駆けに数多の海を守る法の船は砕け落ちる”

 

「ア、ア、ア、ア、アアァァァァァァァーーーーー!!!!」

 

「如何したはやて!?」

 

『はやてちゃん!?』

 

「主!?」

 

『部隊長!?』

 

「はやてお姉ちゃん!?」

 

 突如として恐怖の声を上げ始めたはやてに、ヴィータ、なのは、シャマル、ザフィーラ、スバル、ティアナ、エリオ、キャロ、そしてヴィヴィオが心配げにはやてに向かって叫ぶ。

 しかし、はやてはもはや皆の心配に満ちた叫びなど気が付かずに、上空に浮かぶゆりかごを見つめ体を恐怖に震わせながら呟く。

 

「……予言が……予言が……成就される」

 

『ッ!!!』

 

 はやてがポツリと言葉を呟いた瞬間に、上空に浮かんでいたゆりかごの横から突如として爆音が響き、なのは達が慌てて爆音が響いた場所を見て見ると、煙の中から再びその身を巨大化させたデュークモンがグラニの背に乗りながら現れる。

 デュークモンは自身に攻撃を加えた管理局の最新鋭艦-【XV級大型次元航行船クラウディア】を主力とした次元航行艦隊を睨み付ける。

 

「……如何言うつもりだ?私達は不甲斐ない貴様らの変わりに動いたと言うのに、行き成り攻撃して来るとは?何か私がしたか?」

 

『貴君らの行動はミッドチルダに著しく混乱を招いた』

 

『クロノ君!?』

 

 クラウディアから聞こえて来た声に、はやてとなのはは信じられ ないと言う声を上げた。

 デュークモン達の行動がミッドチルダに混乱を招いたなどありえない。彼らの行動があったからこそ、大勢の人々を救う結果に成ったと言うのに、クロノはデュークモン達の行動こそが混乱を招いたと告げたのだ。

 ミッドに映されたモニターの事を言ってるとしたら分かるが、それをデュークモン達が映したと言う証拠は無い。それなのにクロノは一方的にデュークモン達のせいだと言う様に宣言し続ける。

 

『その巨大な力で人々を惑わし! 管理局がこの事件の元凶だと言う証拠も無い理由を作り上げ、人々を混乱の渦に巻き込んだ貴君らの行動は、次元犯罪者に登録されるほどの罪だと本局は判断した! 速やかに武装を放棄し投降するのならば、情状酌量の余地は在るぞ』

 

 その宣言を聞いていたなのは達や、クラナガンの大勢の人々は本局や上空に浮かぶ艦隊に怒りを覚えた。

 クラナガンの人々は、自分達を救ってくれた恩人で在るデューク モン達を犯罪者にされた事に、なのは達-この事件の裏に隠されていた真実を知った者達は、デュークモン達を犯罪者にして全てを闇に葬ろうとしている本局の者達の行動に怒りを覚えた。

 この瞬間に、ゆりかご内部でのデュークモンが告げた事実が全て本当だったと多くの者達が気が付き、全員が憎しみを抱き始める。

 

「ゆりかごでの会話は聞いていたようだな? 成らば、私達に地上の局員が頭を下げた時の言葉は嘘だったのか?」

 

『その様な事実は…』

 

『いやッ!! 全て事実だ!!!』

 

『ッ!!!!』

 

 クロノの言葉に覆い被さるように叫ばれた大きな声に、誰もが慌てて辺りを見回すと、上空に再び巨大なモニターが映り、映像に映し出された厳つい顔をした壮年の局員-地上本部のトップ-レジアス・ゲイズが怒りの表情を浮かべながら叫ぶ。

 

『彼の言っている事は全て真実だ!! ワシは確かに彼らに頭を下げて救援を頼んだ!! そしてゆりかごの内部の映像を映したのは彼らではない!! スカリエッティのセットしていた演出用のシステムの誤作動だと、スカリエッティのアジトを占拠した私が送った地上局員達から報告が届いている!!!』

 

『なっ!? その様な報告は…』

 

『貴様ら本局は再三に渡って私が送った通信を無視した上に!本局に常勤していた空戦魔導師を援軍として送らなかったではないか!! 地上の人々が危機に合っていると言うのに!! だから私は彼らに援軍を頼んだのだ!!! 以前から私は彼らの協力を得られないかと一人の地上局員を秘密裏に彼らの世界に送っていたのだ!!』

 

 クロノの言葉に被さる様にレジアスは大声で叫ぶと、レジアスの横に地上本部の局員を服を着た女性が姿を現し、スバルは驚愕しながら叫ぶ。

 

「お、お母さん!!!」

 

『地上局員-ゼスト隊に所属していたクイント・ナカジマです。レジアス中将の命令の下、急ぎ彼らを連れて私はミッドに帰って来ました。彼らの世界は技術力が高く、あのように巨大な力を持つ者達が多数存在しています。その世界から別世界を調べていた調査者と私達地上本部は偶然コンタクトを取り、彼らの協力を得られないかと長年交渉を続けていたのです。地上の戦力不足は深刻なレベルでした。日夜多発する犯罪、その犯罪に対して本局は何もしてくれない所か“自分達の方が大きな事件を扱っているのだから当然だと言う様に地上に戦力を吸い上げて行く現状”。その現状に心の底から憂いていたレジアス中将は彼らに頼み続けていたのです!!』

 

 顔を伏せると共に目を押さえながら涙を流して叫んだクイントの言葉に、多くのミッドチルダの人々は地上本部は自分達を護ろうとしていた事に気が付き、全ての元凶が本局に在ったと思い始める。

 本局が地上の戦力を吸い上げていたから、地上は犯罪に追われていた。しかも、今回の事件でも本局、正確に言えば本局上層部の権力欲こそが全ての原因。それをデュークモンへの攻撃でハッキリと認識していた人々は、本局と上層部が事件の原因だと考え始める。

 

『そしてその思いが彼らを動かしました!! 彼らは! デュークモン! スレイプモン! メタルガルルモンXは一部の欲望の為に人々が危険に晒される現状に怒りを覚え、ミッドの人々を護る為に動いてくれたのです!!』

 

『ワアァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーー!!!!!!』

 

 クイントの叫びに答える様にクラナガンの人々は歓喜の声を上げ、 ゆりかごの前に浮かぶデュークモンを、廃棄都市のビルの上に立つスレイプモンを、そして何時の間にかゆりかごの上に立っていたメタルガルルモンXを見つめる。

 デュークモン達が完全に味方だと認識したのだ。彼らは自分達を護る為に動いてくれた。

 

『デュークモン!! デュークモン!!! デュークモン!!!』

『スレイプモン!! スレイプモン!!! スレイプモン!!!』

『メタルガルルモンX!! メタルガルルモンX!!! メタルガルル モンX!!!』

 

 ミッドに在る各都市に住む人々は喜びの声を上げて、映像に映るデュークモン達を見つめると、クイントは内心で計画通りだと笑みを浮かべ、本局を徹底的に追い落とす為に更に言葉を叫ぶ。

 

『そして彼らが今まで動けなかったのは本局のせいなのです!! 本局には自分達管理局こそが絶対だと叫び! 魔法主義者の人間が大勢居ます!! 彼らの力は魔法では無い!その為に彼らの存在が明るみに出れば、本局は彼らの世界を無理やり管理しようとするか、滅ぼす可能性が在りました!! その可能性が在った上に、最高評議会の正体を知ってしまった彼らは管理局を信じる事が出来ませんでした!!』

 

「最高評議会の正体やて!?」

 

 クイントの叫びにはやてが疑問の叫びを上げ、ゆりかごの周りにいる局員達やなのは達も疑問の表情を浮かべた瞬間に、再びレジアスが前に出て叫ぶ。

 

『民衆の皆さん。管理局が創設されて150年以上経っています。その様な期間を生きられる人間など存在していません。ですが、私は最高評議会が代替わりしたと言う話など全く聞いた事が在りません。皆さんは如何ですか?』

 

 レジアスの質問に対して誰もが答える事は出来なかった。

 確かに最高評議会が代替わりしたなどと言う話は全く聞いた事が無い。

 その事を思い出した人々や局員達が疑問を思い浮かべ始めるのを確認したレジアスは叫ぶ。

 

『これこそが最高評議会の正体だ!!』

 

『ッ!!!』

 

 モニターに映し出された映像に人々や一般局員は目を見開く。

 何故ならば、モニターには人の姿など存在せず、カプセルのようなものに浮かんだ三つの人間の“脳髄”しか存在していなかった。

 

『これこそが管理局最高評議会の正体です!! 彼らは自分達こそが 世界の指導者だと叫び! 多くの違法を繰り返していたのです!! そしてそれは本局の幹部達も同様です!!』

 

『ッ!!!』

 

 次に映し出されたのは何処かの管理局の研究所であり、其処で生み出されていたと思われる子供が苦痛の叫びを上げ続けていた。その様子を管理局の制服を着た幹部が無表情に見つめ、研究員と思われる者から渡された資料を読み上げて告げる。

 

『失敗作だ。魔力も持たずに生まれるとは、焼却処分にしろ』

 

『ハッ!!』

 

『ッ!?』

 

 信じられないと言うように多くの人々や一般の局員は、命じた幹部とそれを平然と実行しようとしている研究員の姿を見つめる。

 目の前で起こっているのは先ず間違いなく違法の研究だろう。その研究を管理局は否定しながら平然と行っていた。デュークモンがゆりかご内部で告げたのは、全てが真実だったと此処に完全に証明されたのだ。

 最後まで映像を映し出す事無く、レジアスは映像を消すと、本局の艦隊に宣告する。

 

『これで彼らの証言が本当だと示されたな。貴君らは速やかに本局内部の違法を行った幹部と言う名の犯罪者を捕まえたまえ! それこそが管理局の真の在るべき姿だ!!』

 

 そう叫びレジアスは艦隊の反応を待つ。

 艦隊内部に居る局員達は大慌てだった。自分達の組織が裏で行っていた上に、その推進者が最高評議会であり、自分達の上司である本局上層部達だった。

 しかも、今の状況は正に最悪だろう。何故ならば、自分達はミッドを救った恩人であるデュークモンに攻撃を行ってしまった。もはや本局上層部を捕まえても何らかの処分が確実に下ると考えて間違いない。本局上層部達が描いていた思惑が一瞬の内で崩壊し、地上が完全に有利な状況に成ってしまったのだ。

 確かに本局上層部の描いた思惑は完璧と呼ぶに相応しい物だった。しかし、デュークモン達の登場で完全にシナリオは崩壊し、本局は最悪の状態に成ってしまった。

 そしてその様な状態に成れば、上層部と共に裏で甘い蜜を吸っていた局員も状況が悪くなる。全ての悪事が明らかに成ったのだから、徹底的な調査を各管理世界は命じるだろう。

 もはや自分達には未来が無い事を分かりながら、管理局の艦隊はクロノが乗るクラウディアを先頭に幾つかの艦艇は本局に戻る為に船首を本局の方に向かわせ始めるが、上層部の甘い蜜を味わっていた局員達が乗る八隻の艦艇は、そのままその場に佇み続け、デュークモン達に憎しみに視線を向ける。

 彼らは既にこの後に起きる調査で自分達が処断されるであろう事を分かっていた。高ランクの魔導師だからと言う理由で罪が免除されるなどと言う事は絶対に在りえない。

 そんな事をすれば、民衆は大暴動を起こし、全次元世界の規模の戦争に発展する。戦争を起こさない為に、少数を犠牲にするのは当然の行いだ。つまり、彼らの未来は先ほどの放送で完全に潰えたのだ。

 

『……撃てエェェェェェェェーーーーーーー!!!!』

 

「ムッ!!」

 

 八隻の艦艇の中で、唯一【アルカンシェル】を装備した艦の提督が叫んだ瞬間に、それぞれの艦艇から艦砲がデュークモンに向かって放たれ、デュークモンはイージスを掲げながら防御した。

 

「血迷ったのか貴様ら? 今ならば多少は罪が軽くなると思うが?」

 

 艦砲が収まると共に、デュークモンは自身の周りに在った煙を振り払いながら八隻の艦隊に質問するが、構わず艦隊は再び艦砲をデュークモンに向かって放ち続け、迫り来るエネルギー砲をデュークモンは防御しながら呟く。

 

「やれやれ、何処までも愚かな奴らだ!! もはや一切の手加減はせんぞ!! ファイナル・エリシオン!!!」

 

 デュークモンのイージスから放たれたファイナル・エリシオンは、向かって来ていた艦砲を全て一瞬の内で消滅させ、八隻の艦隊の隊列を乱した。

 それと共にデュークモンはグラニに乗って、メタルガルルモンXは自身の飛行能力を使って、スレイプモンも同様に空中を駆けて艦隊に向かい出し、本格的な惨劇が始まった。

 

「ロイヤルセイバーーー!!!」

 

 デュークモンが放った強力な突き-ロイヤルセイバーに寄って、一隻の艦艇は大穴をその船体に開けながら爆発した。

 それを見ていた無事な他の艦艇内部に居る局員達は慌て始める。一撃。しかもただの突きとしか思えない一撃で、管理局の誇る艦艇が爆散した。

 彼らはデュークモン達の力を甘く見ていたのだろう。如何に強力な力を持っていたとしても、八隻もの管理局の艦艇には勝てないと。そして人間を殺すことは無いと彼らは何処かで思っていた。

 それこそが大きな間違いだ。彼らは自分達の信念を妨げるものには容赦などしない。その事を彼らは身を持って知る事に成った。

 

「オーディンズブレスッ!!!」

 

 スレイプモンの発生させた局地的なブリザード-オーディンズブレスに寄って、三隻の艦艇は一瞬の内に凍り付つき砕け散った。

 

「レイジングハート、リミッター一時解除」

 

「嘘ッ!? 何でレイジングハートが!?」

 

 メタルガルルモンXの握っているレイジングハート・エレメンタルの姿に、離れていた所で戦いを見ていたなのはは驚愕の声を上げ、他の六課の者達も信じられないと言うようにメタルガルルモンXの姿を見つめる。

 レイジングハートはなのはのデバイスである上に、今もなのはの手に握られている。それなのにメタルガルルモンXは使用している。

 長年の相棒だったなのはには分かる。メタルガルルモンXの握るレイジングハートは間違いなく本物だと。

 その事実になのはが疑問と困惑に包まれていると、再びゆりかご内部で聞こえた念話がなのはに届く。

 

(スターライトブレイカーを五発同時に撃ったのは凄いけれど、その五発分を超える威力のスターライトブレイカーを見せて上げるね)

 

「ッ!? まさか!?」

 

 聞こえて来た念話の意味に気が付いたなのはが、メタルガルルモンXに目を向けると同時に、ソレは起きた。

 まるで世界が震えるかのように膨大な魔力がレイジングハート・エレメンタルの先端の前に集束して行く。いや、もはや集束とは呼ぶ事が出来ない。空気中に漂う魔力が全て意思を持ったかのように集まり、魔力球を形成する。

 そしてミッド式ともベルカ式とも違う魔法陣が一瞬だけ浮かび上がった瞬間。

 

「(全力全開!! スターライトブレイカーーー!!!!!!)」

 

 放たれた巨大としか言えない砲撃は、一瞬の内にスレイプモンと同様に三隻の艦隊を飲み込み、跡形も無く消滅させた。

 艦隊が張っていたディストーションシールドも意味は無かった。その上、三隻の艦を飲み込んだ砲撃は止まらずに上空を突き進み、遂には大気圏を突破して宇宙空間にまで届いても霧散することなく突き進み、二つの月の一つに直撃し、その表面に巨大なクレーターを造り上げた。

 【スターライトブレイカー】と言う名称の通り、星を穿つ威力の大砲撃に、目撃した人々は茫然としてしまう。

 時間にして凡そ十分にも満たなかった。経ったの十分にも満たない時間で、管理局の誇る艦艇が七隻も消滅してしまった。これを見ていた管理局員、そして人々は何故彼らが自分達の世界から出ようとしなかったのかハッキリと理解した。

 彼らの力は強大過ぎる。彼ら三体でこれなのだ。クイントの話では他にも同等の力を持つ者達が居ると言う。その者達まで一斉に動けば管理局を滅ぼす事が可能だろう。味方ならば心強いが、敵にだけは絶対にしたくないと、戦いを見ていた人々全員が心の底から思った。

 

「さて、残るは一隻だけだ!」

 

『ヒィッ!!!』

 

 デュークモンの言葉に、残っているアルカンシェルを装備した艦の乗員全員が恐怖の声を上げた。

 彼らは漸く分かったのだ。自分達が触れては成らない禁忌と呼べない存在達に手を出してしまった事を。

 

『ア、アルカンシェルだ! アルカンシェルを使うぞ!!』

 

『ッ!!!』

 

 聞こえて来た恐怖に震える提督の叫びに、戦いを見ていた局員達とクラナガンの人々はギョッと目を見開いた。

 【アルカンシェル】。放てば発動地点を中心に百数十キロ範囲の空間を反応消滅させる魔導砲。そんな物をこの様な場所で放てば、クラナガンの人々は一人残らず死んでしまう上に、ミッドは滅びるだろう。

 戦いを見ていた他の艦艇達も慌てて船首を向けて、アルカンシェルを放とうとしている艦に攻撃を行おうとするが、間に合わずエネルギーがチャージされ始める。

 最初の艦を破壊したデュークモンは、グラニを艦に向けて急ぎ向かい出す。

 

「貴様らは本気で滅ぼしてくれる!!」

 

(行くよッ!!)

 

ーーーピィィィィィィーーー!!!!

 

 デュークモン、ヴィヴィオ、そしてグラニは叫びながら艦へと向かい出し、その身から虹色のデジコードを発生させ体を覆って行く。

 その幻想的な様子に人々が魅了されていると、虹色のデジコードは弾け飛び、内部から背中に五対の白き翼を生やし、真紅の鎧を身に纏った騎士が現れる。

 デュークモンとヴィヴィオ、グラニの心が一つに成った時に現れるデュークモンの隠された全ての力を解放した姿。 その名も。

 

「デュークモン・クリムゾンモードッ!!!」

 

デュークモン・クリムゾンモード、世代/究極体、属性/ウィルス種、種族/聖騎士型、必殺技/無敵剣《インビンシブルソード》、クォ・ヴァディス

紅蓮色に輝く鎧に身を包んだデュークモンの隠された姿。秘められたパワーを全開放しているため、鎧部分が熱を持ち赤色に染まっている。本来ならばクリムゾンモードを長時間維持する事は出来ないが、【ZERO-ARMS:グラニ】との融合に寄って長時間維持する事が可能になった。胸部には『デジタルハザード』を封印した『電脳核《デジコア》』があり、体内のパワーを全放出すると背部から、羽状のエネルギー照射を確認できる。実体を持たないエネルギー状の武器、光の神槍『グングニル』と光の神剣『ブルトガング』を揮う。必殺技は、神剣『ブルトガング』で敵を切り裂く『無敵剣《インビンシブルソード》』と、神槍『グングニル』で敵を電子分解し異次元の彼方に葬り去る『クォ・ヴァディス』だ。

 

 現れたデュークモン・クリムゾンモードの姿に再び人々は魅了された。

 虹色の魔力粒子を体から発生させ、背中に天使の翼を思わせる様な五対の翼。そして紅蓮に輝いている真紅の鎧。正しく現代に蘇った神話に出て来るような騎士の姿に人々は生涯忘れないと言える程に魅了されてしまったのだ。

 だが、徐々に最後の艦にアルカンシェルのエネルギーが集まり始めている事に気が付いた人々は、誰もが絶望の表情を浮かべ始める。

 しかし、デュークモン・クリムゾンモードは慌てずに右手に神槍-【グングニル】を出現させ、全力で振り被り、艦に向かって投擲する。

 

「(クォ・ヴァディス!!!!)」

 

 投げられたグングニルは光速で艦に向かい、グングニルはまるで立ち塞がる物などないかのように、艦を貫いて空の彼方に消え去った。

 しかし、アルカンシェルへのエネルギーチャージは止まらず、誰もが今度こそ終わりだと諦めた瞬間に、艦は一瞬の内に、内部にいる人間と共に電子分解され、粒子へと変わりながら消滅した。

 

『ワアァァァァァァァーーーーーーーー!!!!!』

 

 ミッドに襲い掛かった危機が完全に消滅した事に人々は喜びの声を上げながら抱き合い、ある者はデュークモン・クリムゾンモードを崇める様に祈り始める。

 その様子にスレイプモンとメタルガルルモンXは苦笑を浮かべながら、デュークモン・クリムゾンモードに顔を向けて見ると、デュークモン・クリムゾンモードは再びグングニルを出現させ、自身の背後に存在しているゆりかごに顔を向ける。

 

「安らかに眠れ」

 

(さようなら、ゆりかご)

 

「(クォ・ヴァディス!!!!)」

 

 管理局の艦艇と同様に、グングニルはゆりかごの外壁を突き破り、内部をグングニルが突き抜けると、その身を電子分解されながら虹色の粒子に変えて行き、ミッドチルダの空に幻想的な光景を作りながら、長き時を存在していたゆりかごはその身を消滅させて行くのだった。

 

 

 

 

 

 時空管理局本局、其処でも惨劇は起きていた。

 全ての真相が暴露された本局上層部の幹部達は、逸早く逃げようと残っている艦艇に乗り込み、付き従う局員達共に管理外世界にでも逃げようと思っていた。

 そしてそれは半ば叶う状況だった。何故ならば、現在の本局は各管理世界から寄せられる抗議や事情説明の通信に追われていた為に、元凶である幹部達を気にしていられる状況ではなかったのだ。

 幹部達はその隙に裏で横領していた資金を持って逃げるつもりだった。だが、それは阻まれた。二つの異形によって。

 

「ゲブッ!!」

 

 艦の中に一人の幹部が乗り込もうとした瞬間に、艦の扉は弾け飛び、乗り込もうとした幹部は扉と共に吹き飛んで行った。

 その様子に他の幹部達や局員達の動きが止まると、艦の中から二つの異形が現れ、幹部達と局員達を睨みつける。

 

「残念だけど。此処から先は通行止めよ」

 

「全く。逃げるかも知れないと思って急いで来てみたら、本当に逃げようとしているなんて……覚悟しなさい」

 

 背中に天使を思わせる翼でありながら黒く染まり、仮面を付けた女性型のデジモン-ブラック・エンジェウーモンへとその身を進化させたリンディと、蒼銀に輝くナックルとローラーブーツを装備してナックルを打ち合わせるクイントは恐怖に震えている幹部達と局員達に宣告した。

 そしてもう一つの異形-漆黒の体に機械的な鎧を身に纏った漆黒の竜人-ブラックウォーグレイモンXは足を一歩前に出しながら、恐怖に震える者達を睨みつける。

 

「つまらん連中だろうが、少しは俺を楽しませろ」

 

 ブラックウォーグレイモンXが言葉を言い終わると共に、その姿はリンディ、クイントと共に消失し、そして。

 

『ギャアアァァァァァァァァァーーーーーーーーーー!!!!!』

 

 断末魔の叫びがドック中に満ち溢れ、血吹雪が其処かしこで上がる惨劇が起きた。

 十数分後-漸く幹部達が居なくなっている事に気が付いた局員達が、慌てて幹部達を捕まえようと動き出し、幹部が入ったと思われる艦が在るドッグの中に踏み込んで見ると、手足が完全に折れ曲がり、全身が血だらけでありながら、辛うじて生きている幹部達や局員達を発見し、その惨状に誰もが恐怖を覚えるのだった。

 

“世界に否定されし深き闇を従えた黒き竜人、その身の因子を宿しし異形、古の地より与えられし力を宿す者と共に、世に出す事さえ憚れる深き闇を打ち砕く”

 

 

 

 

 

 管理局本局内部の奥深く、最高評議会が潜んでいた一室。

 其処には破壊された三つのカプセルが存在し、内部に在ったと思われる脳髄が濡れた床に転がっていた。

 既に最高評議会の三人は、スカリエッティの配下であるナンバーズのドゥーエによって暗殺されていた。スカリエッティにとっても最高評議会は邪魔者だった。故に混乱に乗じて暗殺したのである。

 最早主も居なく、何れ本局内部の捜査官が来るまでは訪れない筈の場所で、動く影が一つ在った。

 

「……情報改ざん完了。後は無限書庫から発見された資料の抹消と、発見した無限書庫司書長及び関係者の記憶消去ですかね。全く、余計な情報まで発見してくれて困りますよ。リンディさん達に内緒で来ているのに、通信がいきなり来て慌てました」

 

 何らかの操作を終え、愚痴を影は溢しながら、つまらなそうに床に転がっている三つの脳髄を見下ろす。

 

「……【アルハザード】の存在を示す物は必要ないんですよ。ゆりかごにしても、スカリエッティにしても、【アルハザード】は御伽噺の世界に消えた方が良い。それが現在の次元世界にとって一番良い事なんですから……さて、序に最高評議会が秘匿していたロストロギアを奪って行きましょう♪ もうちょっとこっちで楽しみたかったんですけど、リンディさん達から連絡が届きそうですし。グフフフッ、【アルハザード】が消えてから開発された物とかの研究は楽しみです!!!」

 

 上機嫌な声を漏らしながら、影は部屋から出て行った。

 残されたのは管理局の最高評議会だった者の脳髄が無残に床に転がる部屋だけだった。




最後に出て来たのは奴です。
何故奴が平行世界に居るのかは、エピローグで明らかになります。

エピローグの更新は少し遅れます。

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