漆黒シリーズ特別集   作:ゼクス

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お待たせしました。
次回のエピローグでこの話は終わりです。


竜人とマッド、そして電子の弟子は赤龍帝7

 駒王町の上空に突如として出現した【次元トンネル】。

 まるで深淵に繋がっているとさえ思えるような深い穴から、異世界の異形達は【次元トンネル】を造り上げた異形龍に導かれてやって来た。

 本来ならばまだ〝その時゛では無かった。異形達が【次元トンネル】を通って、この世界にやって来るのは【異界】の知識に記される各勢力が一斉に集う時だった。だが、殺したと思っていた【赤龍帝】兵藤一誠が信じられないほどに実力を上げ、異世界の先兵は追い込まれてしまった。

 才能や力を与えた【異界】の存在は、精神が未熟過ぎる故に戦闘では役に立たず、精神的にも成熟を迎えつつある一誠には及ばない。その上、先兵とは言え幾つもの世界を支配下に置いてきた故に実力はこの世界の上位陣に匹敵する。なのに今の一誠には及ばなかった。

 最大の切り札である異形龍化ならば、一誠を倒せる。だが、異形龍化には欠点が存在していた。本来異形龍化は、異世界侵攻を完遂させる為の【次元トンネル】に莫大な力を異世界から受け取る最大の切り札。

 何よりも優先するのは【次元トンネル】の完成。それ故に完成するまでは異世界の神の意思も、【異界】の存在の意思も失われてしまう。本来ならば莫大な力に寄り、【次元トンネル】はすぐにでも完成する。

 しかし。

 

『グルルルッ!!』

 

 忌々し気に異形龍は【次元トンネル】に突き刺さっている二本の鎖を睨みつけた。

 二本の鎖は【次元トンネル】を破壊しようとしている事を異形龍は、本能から理解していた。

 この鎖が【次元トンネル】を破壊出来る代物だと言う事を。もしも異世界の神の意志が表に出て居れば、鎖がこの世界の産物で無いと悟れただろう。

 其処までは異形龍には分からないが、自身の役割を阻む二本の鎖を忌々し気に見つめると、すぐさま二本の首の口から閃光を撃ち出し、鎖に攻撃を加え出す。

 やって来た異形達も、異形龍と共に【次元トンネル】を破壊する為に地上から伸びて来る鎖を破壊しようとする。

 地上からやって来た一誠とグレイフィアは、先ずは鎖を破壊しようとする異形達に攻撃を開始していた。

 

《BoostBoostBoostBoostBoostBoostッ!!!》

 

「オラアアァァァァァァーーーーーー!!!!」

 

 フリートが【次元トンネル】を破壊する為に放った鎖に群がる複数の異形を、一誠は【ウェルシュ・フラガラッハ】を蛇腹剣形態に変えて切り裂いた。更に一誠は【ウェルシュ・フラガラッハ】を振り回し、鎖の周囲に集まって来ていた異形を全て一撃の下に消滅させて行く。

 しかし、鎖で不安定に追い込まれながらも異形は次々と【次元トンネル】から吐き出され、鎖に対して更なる攻撃を加え出す。

 

「何て数だよ!」

 

『前代未聞の異世界侵攻だ。そう簡単には阻めないと言う事か』

 

 状況が好転しない現状に一誠とドライグは苦々しげな声を漏らす。

 その一誠の背後から細長い蛇のような異形が襲い掛かる。

 

『シャアッ!!』

 

「ハァッ!!」

 

 一誠に異形の牙が届く直前、横合いあいからグレイフィアが魔力弾を放ち異形を消滅させた。

 そのまま二人は背中に合わせになり、自分達を包囲するように動き出した無数の異形を睨みつける。

 

「お気を付けを一誠様。敵の中には気配を消失させて来る、隠密のタイプの異形まで出て来ました」

 

『かなり不味いぞ。奴ら鎖が【次元トンネル】を破壊する前に、自分達の戦力を送り込むつもりだ! もしもあの異形龍クラスがもう一体やって来たら、流石にフリートも攻撃を防ぎ切れん。このままでは鎖が破壊されかねんぞ!』

 

「しかし、異形龍を倒そうにも鎖に群がる異形達を相手にしながらでは、手が足りません。こんな事態になるなら、一人でも援軍を送って貰うべきでした」

 

『いない奴らの話をしても無意味だ。あいつらも今頃はイギリスで、あの異形龍の分体と戦っているだろうからな』

 

「その上、流石に今回はフリートさんも余裕が無いだろうしな」

 

 一誠の言葉にグレイフィアは同意するに頷く。

 【次元トンネル】と言う世界と世界を繋ぐと言う空間異常が起きている現状で、駒王町に影響が出ないように空間作用を引き起こす封鎖領域を展開している。一歩間違えば、【次元トンネル】が引き起こしている空間異常で封鎖領域は消滅し、駒王町にまで被害が及んでしまう。その上、【次元トンネル】を破壊する為に更に空間作用を引き起こす魔法を使っているのだ。

 幾ら恐ろしい災厄級の実力を持つフリートでも、今回は限界ギリギリだった。

 一誠とグレイフィアは苦々しい思いを抱きながら、鎖を破壊しようとする異形達を消滅させて行く。

 そんな中、異形龍は更に邪魔がやって来た事に気が付き、唸り声を上げて一誠に目を向ける。

 【次元トンネル】完成の役割を担うだけの自身が、何故か一誠には怒りが込み上げて来る。元になった【異界】の存在の意思が影響しているのだ。壊れかけの状態で異形龍になった影響で、僅かに異形龍の意識は一誠に向けられ。

 

『グアガァァァァァァァァッ!!!』

 

《BoostBoostBoostBoostBoostBoostッ!!!》

 

『チィッ!! 相棒! 奴はあの姿になっても模倣した俺の力を使えるようだ!』

 

「だけど、俺の方に来るなら好都合だ! グレイフィアは鎖を護ってくれ!」

 

「……分かりました。どうかお気をつけて」

 

「ああっ!」

 

 一誠は返事を返すと、すぐさま背の翼を広げて自身に向かって来る異形龍と戦いを開始した。

 

 

 

 

 

 そして地上でも戦況が思わしくない現状に、リアス達は悔しい思いを抱いていた。

 空に次々と赤い閃光や魔力の爆発が起きているが、ソレを上回るほどに異形は次々と鎖が突き刺さっている【次元トンネル】から溢れて来る。

 このままでは不味いと【次元トンネル】を破壊する為の鎖や封鎖領域、序に自分達を護る防御陣の維持に集中していたフリートは悟った。

 

「本気で不味いぃぃぃぃっ!! あぁ、こんな事になるならルインさんだけでも来て貰うんでした!」

 

 もう一人の事を選択肢の中から外し、フリートは白衣の中から次々と取り出して周囲に投げて行く。

 手術器具から始まり、何からの小型の探査機器や検査機器。或いは何らかの資料本、禍々しい魔力を発する悪魔像、駒王学園の生徒会長とリアスの写真のアルバムまで白衣の中から出て来る。

 遂には神々しい気配を発している刀まで出て来るが、探し求めている物が見つからずフリートは慌てる。

 

「本当に何処に仕舞いましたかね! 此処でもない! 此処でもない! リンディさんに知られたら不味いと思って、白衣の中に無造作に放り込んだのは失敗でした!!」

 

「一体何を探しているの!?」

 

 先ほどから慌てたように白衣の中を探し回っているフリートに、思わずリアスは叫んだ。

 その叫びに答える前に白衣の中をゴソゴソと動いていたフリートの手が止まり、口元に笑みを浮かべてソレを取り出す。

 

「これです! 『悪魔のチラシ』!!」

 

『ハァッ!?』

 

 フリートが取り出したアーシアを除くリアス達にとって見慣れ過ぎた物に、思わず叫んでしまった。

 『悪魔のチラシ』。現代の悪魔が使う物で、契約者となる人物にチラシ配りを行ない、召喚された時に訪れる為の悪魔の一般的な道具。此処にリアス達悪魔が居るのに、何故そんな物を取り出したのかリアスは質問しようとする。

 しかし、フリートはリアスに質問される前に悪魔のチラシに自分の名前を書き込み、すぐさま祈りを捧げるようにチラシを掲げる。

 

「困った時は、悪魔頼みです!! 来て下さい!! サタンレッド!!!!」

 

『なっ!?』

 

 叫ばれた名前にリアス達は驚愕するが、チラシは効果を発揮したのか輝き、赤い魔法陣が発生する。

 発生した魔法陣は光り輝き、其処から何処かの特捜戦隊のような衣装を着た赤い姿の男が飛び出した。

 

「トォッ!! サタンレッド推参!!」

 

「お、お兄様!? 一体何をしているんですか!?」

 

 地面に着地すると共にポージングを決めたサタンレッドに、リアスは思わず叫んだ。

 特撮ヒーローのような衣装を着ているが、紛れもなく其処に居るのは自分の実の兄、サーゼクス・ルシファー。

 しかし、サタンレッドはリアスに向かって首を横に振るって否定する。

 

「フッ、違うさ、お嬢さん。私は魔王戦隊サタンレンジャーのリーダー、サタンレッドだ! リーアたんが愛してくれているお兄様ではないのだよ!」

 

「そうですよ!! 此処に魔王が来る訳ないじゃないですか!! 彼は私が契約したサタンレッドです!!」

 

 サタンレッドとフリートは、息が合った動きでリアスの言葉を否定した。

 緊急事態なのにふざけて居るとしか思えない二人に、リアスの米神がピクピクと動き魔力が迸り出す。

 不味いとサタンレッドとフリートは思うが、リアスが何かする前にサーゼクスとフリートの頭にハリセンが叩き込まれる。

 

『いたっ!?』

 

「おふざけしてないで、ちゃんと説明すれば良いんです」

 

「フィレア!?」

 

 二人にハリセンを叩き込んだメイド服を着た銀色の髪をポニーテールにしたグレイフィアと瓜二つの美女-フィレア・ルキフグスの姿に、リアスは叫んだ。

 フィレアは手に持っていたハリセンを何処かに仕舞うと、リアスに向き直り説明する。

 

「お嬢様。サーゼクス様が此処に居られるは大変不味いのです。幾ら理由が在ろうと、コレほどの異常事態が悪魔の領内で起きたとなれば、邪推する者は必ず出て来ます。其処に更に魔王であるサーゼクス様が居れば悪魔の陰謀だと思う者も居るでしょう」

 

「そういう事だ、リアス。故に私は偶然にも異常事態に巻き込まれた者が、異常事態解決の為に召喚したサタンレッドなのだよ」

 

「……その格好をする意味があるとは思えませんが?」

 

「ハハハハハハハハッ!」

 

 フィレアのジト目混じりの言葉に、サタンレッドは笑い声を上げて誤魔化した。

 しかし、すぐさま笑いを治めて上空で無数の異形と戦っている一誠とグレイフィアに視線を向ける。

 

「……どうやら状況は最悪な方に進んでしまったか。打開策は?」

 

「鎖の力が浸透して【次元トンネル】を破壊するか! 異形龍を完全に消滅させる事です! とにかく、鎖に攻撃を加える異形の殲滅を優先して下さい! 今から鎖の力を強めて【次元トンネル】を更に不安定にして、異形の援軍が来れないようにします! 但しコレをやると十五分間しか鎖が保てなくて、その間に安定化を急いでいる異形龍を倒せなければアウトです!」

 

「分かった。フィレア!」

 

「お任せを。久々に妹との共演を御見せ致しましょう」

 

 丁寧にフィレアはお辞儀をすると共に、すぐさま防御陣を抜けて戦場に飛び出した。

 続いてサタンレッドも戦場に向かおうとするが、その前にリアスが声を掛ける。

 

「待って下さい、お兄様……いえ、サーゼクス・ルシファー様」

 

「何かね、リアス?」

 

「私達も戦場に出る許可を下さい」

 

 リアスは真剣な眼差しでサタンレッドを見つめ、朱乃、祐斗、子猫、ギャスパーもサタンレッドに視線を向ける。

 

「例え騙されていたとしても、この件を引き起こしたのは私が眷属として迎え入れた者です。ならば、私は主として責任を取らなければなりません」

 

「……リアス。最早君が介入出来るレベルの事態を超えている。コレはこの世界と別世界と言う歴史上初めての異世界戦争の序曲だ。君達の実力が若手悪魔の中では高いレベルに位置しているとしても、相手は無数の同レベルかそれ以上の実力を持つ敵だ……命を落とすかも知れないのだよ?」

 

「分かって居ます……それでもどうかお願いします。私が王として進む為にも、このまま傍観している訳には行かないのです」

 

「……困ったものだね。こんな形で妹の成長を見る事になるとは……フリート君」

 

「はいはい! もう急いでいる時に!」

 

 呼ばれたフリートは、今度は素早く白衣の中から五つの赤い光が内部で揺らめいている小瓶を取り出した。

 ソレをリアス達に向かって放り投げ、リアス達が慌てて小瓶を受け取ると小瓶の効果を説明する。

 

「その瓶の中に入って居るは、一誠君の倍加の力です。【赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)】には自分だけではなく、他者も強化する力があります。その瓶を開ければ封じられている力が解放され、一時的にパワーアップ出来ます!」

 

「そんなのが在るんだったら最初から渡してくれれば!?」

 

「いえ、無理です。一応サーゼクスの使いとして来ていますけど、若手悪魔を戦場に出す権限なんて私に在りませんから」

 

「そういう事だよ。さて、これ以上は時間を掛けて居られない! 行くぞ、リアスとその眷属達!」

 

『はい!!』

 

 サタンレッドの呼びかけに、リアス達はすぐさま小瓶を開けて中の赤い光を飲み込む。

 

『ッ!? アァァァァァァァァァーーーーー!!!』

 

「こ、コレは!?」

 

「……す、凄いです!」

 

「ち、力が沸き上がって来ます!」

 

 急激に引き上がった力にリアスと朱乃は歓喜の声を上げ、祐斗、子猫、ギャスパーは体の内から沸き上がって来る力に戸惑う。

 その様子を一瞬の内に白衣から取り出したビデオカメラでリアスを重点的に撮っていたフリートは、サタンレッドにサムズアップし、サタンレッドもサムズアップで返した。

 

(後で送ってくれたまえ)

 

(対価の一部ですよ)

 

(分かった)

 

 アイコンタクトで会話をサタンレッドとフリートは行ない、そのままサタンレッドと共にリアス達も背に悪魔の翼を広げて戦場へと飛び出して行った。

 残されたフリートは護る者が少なくなった事で余裕が出来たので防御陣を縮め、言った通り鎖に魔力を込めようとする。

 しかし、その前にアーシアがフリートに話しかけて来る。

 

「あ、あの私にも出来る事は在りませんか!? このまま見ているだけなんて嫌です!!」

 

「……そう言われましても、持って来ていた一誠君の力を込めた小瓶はもうありませんし……せめて回復効果が一誠君達に及ぶように成れば……」

 

「なら、コイツを使え」

 

 突然男性の声が聞こえて来たと同時に、アーシアの前に腕輪のような物が落ちる。

 フリートとアーシアは声の聞こえた方に目を向け、何時の間にか金髪と黒髪が混じった短髪のスーツ服を着た二十代ぐらいの男性と、戦場を好戦的な眼差しで見つめている銀髪に青い瞳の少年が立っていた。

 

「よう、フリート」

 

「アザゼル」

 

「えっ!? アザゼルって確か!?」

 

 アザゼルの名前を聞いたアーシアは目を見開き、呼ばれた金髪と黒髪が混じった短髪のスーツ服を着た二十代ぐらいの男性は頷く。

 

「堕天使どもの頭をやっているアザゼルだ。内の部下を迎えに来たんだが」

 

 ゆっくりとアザゼルは防御陣内で拘束されているミッテルト、ドーナシーク、カラワーナに目を向ける。

 

「……チッ! レイナーレと同じ状態か。俺の部下に舐めた事をしてくれやがって」

 

 忌々し気にアザゼルは呟きながら、空を飛び回っている異形龍を睨みつける。

 同時に空に強烈な赤い閃光が走り、異形龍に直撃して大爆発が起こった。【次元トンネル】が一瞬揺らめくが、異形龍が爆炎の中から姿を現すと共に、【次元トンネル】は元に戻った。

 

「おいおい、あの一撃でも倒し切れないのかよ」

 

「……アザゼル」

 

「あぁ、分かってるさ。好きにしろ……ヴァーリ」

 

 アザゼルが許可を出すと同時に、ヴァーリと呼ばれた少年は好戦的な笑みを浮かべると同時に背に光り輝く白き翼-【赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)】と対を成す神器【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)】が展開された。

 

「……禁手化」

 

Vanishing(バニシング) Dragon(ドラゴン) Balance(バランス) Breaker(ブレイカー)ッ!!!!》

 

 音声と同時にヴァーリに真っ白なオーラが覆って行く。

 白き全身鎧が体を覆い、最後に龍を模したマスクがヴァーリの顔を覆う。

 【白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)】の禁手化である【白龍皇(ディバイン・ディバイディング)(・スケイルメイル)】を発現させ、背の八枚の光翼を広げて戦場へと飛び立って行った。

 

「やる気満々だな、ヴァーリの奴。ライバルの奴に触発されたか? 確かにヴァーリに匹敵する強さだからな」

 

「ムハハハハハッ!! 一誠君を舐めては行けませんよ!! 確かに凄そうですけど、一誠君には勝てません!!」

 

「そりゃどうかな。アイツは過去現在未来に於いて最強の白龍皇なんだぜ」

 

「一誠君は歴代最高の赤龍帝ですよ」

 

「いやいや、ヴァーリには」

 

「一誠君には」

 

「ヴァーリ」

 

「一誠君」

 

『グヌヌヌヌヌヌッ!!』

 

 何時の間にか互いに近づき、アザゼルとフリートは睨み合いを行なっていた。

 どちらも意見を変えないと言うように睨み合いを続けるが、恐る恐るアーシアが声を掛けて来る。

 

「あの~、それでこの腕輪はどう使えば良いのでしょうか?」

 

『ハッ!?』

 

 下らない事をやっていたと気が付いたフリートとアザゼルは離れ、空気を変えるためにアザゼルが説明する。

 

「ソイツは神器制御する為の腕輪でな。見たところお前の神器は未成熟な状態にある。ソイツを使えば制御力が上がるだけじゃなくて、一時的に禁手を発動させる事も可能だ」

 

「つまり、無理やり禁手を発現させて彼女の回復力をアップですか?」

 

「序にあの異世界の神が使っていた離れた相手への回復も行なえる筈だ。無理やりやらされた事でも、体は覚えて居るもんだからな」

 

「……コレを使えばイッセーさん達の助けになるんですね」

 

「お前さん次第だがな。神器は所持者の想いに答える。その腕輪は切っ掛けを作るだけだ」

 

 アーシアは手に持つ腕輪を強く握り、祈るように両手を組む。

 同時にアーシアの両手の中指に指輪型の神器である【聖母の微笑】が出現し、淡い緑色の光が溢れ出す。

 

(イッセーさん!! 皆さん!! 如何か無事に帰って来て下さい!!)

 

 次の瞬間、アザゼルが渡した腕輪と【聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)】が強く緑色に輝き、戦場に広がって行った。

 

 

 

 

 

 異形龍に自分だけで撃てる最大レベルでのオーラ砲撃を両手を合わせて放った一誠は、余りダメージを受けていない異形龍に焦りを覚えて居た。

 

「今のでも駄目かよ!?」

 

『厄介だな。フリートが言っていた通り、アーシア・アルジェントの力は弱まっているが、ソレを奴は自分の力で強化しているようだ』

 

「何処までもアーシアの力を利用しやがって!!」

 

 一誠は苛立ちながら、自分を無視して【次元トンネル】の完成を優先する異形龍を睨みつける。

 異形龍になる前の出来事を考えれば、一誠に対して報復を行なって来ると思っていたが、異形龍は一誠に対しては何もして来ない。自分の役目は【次元トンネル】の完成こそにあると考えているのである。

 そしてソレこそが一誠に対する最大の復讐になる事も。【次元トンネル】が完成してしまえば、もう一誠には如何する事も出来ない。異世界戦争が起きてしまえば、一誠にはどうする事も出来ないのだから。

 

『グルアッ!!』

 

『避けろ!!』

 

「クゥッ!!」

 

 ドライグの指示に従い、異形龍が口から放った閃光を一誠は避けた。

 しかし、避けた閃光は真っ直ぐに鎖へと向かい、出現した防御陣と鬩ぎ合う。

 

「しまった!?」

 

 まんまと罠に嵌まってしまったと一誠が叫んだ次の瞬間、模倣された倍加の力で威力が増していた閃光は、遂に防御陣を貫き、鎖の一本に直撃した。

 激しい衝撃と閃光が周囲に散り、【次元トンネル】に突き刺さっていた鎖の一本が光を撒き散らしながら消滅した。

 同時にもう一本の鎖に異形達は襲い掛かり、【次元トンネル】を完成させようと動き出す。

 

「不味い!! このままだと!」

 

(一誠君!!)

 

「フ、フリートさん!?」

 

 脳裏に響いたフリートの声に、一誠は思わず地上に目を向けようとするが、構わずにフリートは要件を念話で告げる。

 

(今から残りの鎖の力を強めて【次元トンネル】から異形の援軍が来れないようにします! 但し、コレをやったら十五分以内に安定化を図る異形龍を倒せなかった場合、もう終わりです! だから、〝使いなさい゛!!)

 

「ッ!? ……良いんですか?」

 

(もうこうなったら形振り構って居られません! 今から少ないですけど援軍も行きますし、時間は稼げる筈です! だから、やりなさい!!)

 

「……やるしかないか」

 

『……あぁ」

 

 一誠とドライグは覚悟を決めた。

 【デジタルワールド】で体得した自分達の最大の切り札。本来ならば世界への影響を考えて、フリートから検証が済むまで使う事を禁じられている切り札。

 【デジタルワールド】で使用するには問題が無かった。例え影響が起きても、その世界の守護者達が影響を抑えてくれたからだ。だが、この世界ではどうなるか分からない。最悪の事態を考えて使用厳禁を言い渡されていたが、使うしかないと一誠とドライグは悟った。

 

「グレイフィア!! 使うぞ!!」

 

「ッ!? ……了解しました。その為の時間稼ぎはお任せを。ハァッ!!」

 

 指示を聞いたグレイフィアは一瞬目を見開くが、すぐさま冷静に立ち返り、動きが止まった一誠の周囲に集まって来る異形集団を魔術で殲滅して行く。

 煩わしそうに異形龍はグレイフィアを睨むが、何故か動きが止まった一誠に向けて二つの口を開け、倍加された閃光を撃ち出す。

 

『グルアァァッ!!』

 

 真っ直ぐに閃光は一誠へと向かうが、構わずに一誠は呪文を唱える。

 

「我解くは、蒼天を漂う白き龍に与えられし加護成り」

 

Dispel(ディスペル)

 

 一誠の詠唱と共に【赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)】の右手の籠手に備わっている宝玉から、音声が響いた。

 次の瞬間、右手の【赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)】の籠手が無機質から、何処か有機質を感じさせる籠手に変貌し、一誠の力が増大すると同時に、空から蒼い稲妻が一誠の周囲に降り注ぐ。

 稲妻はまるで意思を持っているかのように向かって来た閃光を消し去ったばかりか、一誠の周囲に集まって来ていた異形を次々と焼き尽くして行く。

 

『ガアッ!?』

 

 蒼い稲妻に閃光が搔き消されるのを目にした異形龍は目を見開いた。

 稲妻は縦横無尽に一誠の周囲に巡り、最後に東洋の龍のような姿を象ると同時に消え去った。

 同時に異形龍は本能から一誠がしようとしている事を止めなければらないと悟り、今度は背の光り輝く翼を広げ、無数の光の槍を一誠に向かって撃ち出す。

 対して一誠は、更に呪文を唱える。

 

『我解き放つは、異世界の空の王者たる聖なる神龍が与えし加護成り』

 

Dispel(ディスペル)

 

 次にドライグの詠唱が行なうと、今度は左足側の鎧が無機質から有機質に変わり、三本爪だった具足が五本爪の形状に変わった。

 同時に一誠の全身から神々しいまでの光の閃光が発せられ、一誠に向かって来た禍々しい光の槍を全て消し去る。

 

『ガアァァァッ!!』

 

 光の槍を打ち消したばかりか、閃光は異形龍の体を焼き、苦痛に満ちた咆哮を上げた。

 苦痛から逃れようと、異形龍は一誠から離れ、全身に負った傷を癒し出す。

 何かが不味いと増大した一誠の力に危機感を覚えた異形龍は咆哮を轟かせ、残された異形達に鎖の破壊を優先する事を指示する。

 異形達は指示に従い、グレイフィアが護る鎖に攻撃を加え出す。対してグレイフィアは防御魔法陣や攻撃魔法を放って異形達を殲滅して行く。詠唱が終わるまでは、絶対に護り抜くと言う意思を持ってグレイフィアは一人で鎖を護り続ける。

 異形龍は苛立ちを覚えると、すぐさま模倣した倍加の力を使い出す。

 

《BoostBoostBoostBoostBoostBoostッ!!!》

 

Transfer(トランスファー)!》

 

「……『譲渡』までも」

 

 赤い光に覆われた異形達の姿に、グレイフィアは模倣していたのが『倍加』だけでは無かった事を悟り憎々し気に呟いた。

 力が引き上がった異形達は先にグレイフィアを倒すと決めたのか、群がって来る。このままでは守り切れないとグレイフィアの中で僅かに焦りが浮かんだ瞬間、横合いから強烈な魔力砲が放たれ、異形達を消滅させた。

 覚えのある魔力にグレイフィアが目を向けてみると、自身と同じようにメイド服を着たフィレアが空に浮かんでいた。

 

「衰えましたか、グレイフィア? この程度の数、嘗ての戦争で経験している筈ですが?」

 

「……其方こそ、今の不意打ちで全てを殲滅出来ていないようですが、フィレア姉様。幸せな家庭生活で腕が鈍りましたか?」

 

 フィレアとグレイフィアは互いに睨み合いながら会話をし合う。

 火花が飛び散るばかりの睨み合い。そのまま二人は無言のまま同時に右手を相手に向け、魔力弾を放って互いの背後に居た隠密タイプの異形を消滅させた。

 

「久々に舞いましょうか、グレイフィア!」

 

「遅れるのは赦しませんよ、フィレア姉様! 私の主の守護が掛かっているのですから!」

 

 叫び合うと共にフィレアとグレイフィアは息の合ったコンビネーションで、異形を殲滅して行く。

 その速度はグレイフィア一人だった時よりも上がって居るだけではなく、的確に力が上がっているにも関わらず異形の殲滅速度が速度が増していた。

 

「……久々に見たけど、あの二人が揃って戦うのは末恐ろしいね」

 

 目の前で異形が泣き叫びながら消えて行く光景をサタンレッドは目にしながら、内心で冷や汗を流す。

 嘗て冥界で起きた悪魔の未来を決める旧魔王派と改革派との内戦の中で、改革派が恐れたのは事の中にはグレイフィアとフィレアが同時に戦場に出て来る事も含まれていた。

 二人はプライベートでは仲睦まじい姉妹だったが、仕事や戦いに関しては互いにライバル意識が強かった。【超越者】であるサーゼクスを以てしても、一進一退の攻防を余儀なくされた事もある。

 二人が一緒に戦う時は戦果が倍では済まないのだ。

 

「お兄様、私達は?」

 

「サタンレッドだよ、リアス……【赤龍帝】の援護だ。今の彼は何かをやろうとしている」

 

 悪魔として、いや、【超越者】としての直感からサタンレッドは一誠から底知れない何かを感じていた。

 今は空中に止まり、グレイフィアに護りを任せて無防備な状態になっているが、詠唱が進むごとに一誠の力は増大している。今後の(・・・)事を考えれば、一誠の切り札を知っておいた方が良いとサタンレッドは判断した。

 

「行くぞ、リアス! そしてグレモリー眷属よ!!」

 

『はい!』

 

 サタンレッドの指示にリアス達は返事を返し、背の翼を広げて一誠と鎖の守護に回る。

 

「雷よ!!」

 

 フリートから渡された【赤龍帝】の力が籠もった小瓶を呑んだ朱乃が放った雷は、通常時よりも遥かに大きく、鎖に群がっていた異形達を飲み込んで感電させて行く。

 

「えいッ!!」

 

 感電した異形達を子猫が殴ったり蹴ったりして粉砕して行く。

 朱乃と子猫の連携に寄って、防御力に特化した異形達が次々と消えて行く。

 その中で周囲の者を犠牲にしてグレイフィアとフィレアの殲滅圏内から抜け出した速さに特化した異形が、一誠に迫る。

 

「ハァッ!!」

 

 しかし、一誠に攻撃が届く前に閃光が幾重にも走り、異形達は八つ裂きにされた。

 

「悪いけれど、彼には聞きたい事もあるから、触れさせはしないよ!」

 

 両手に魔剣を握った祐斗は、素早い動きで異形達を次々と切り裂いて行く。

 

「ギャスパーー!!」

 

「はい!! 止まれえぇぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

 吸血鬼の能力で無数の蝙蝠に分裂したギャスパーの瞳が、異形を捉えた瞬間、異形達の時は停止した。

 その隙にリアスとサタンレッドは滅びの魔力を練り上げ、同時に時が停止した異形達に放つ。

 

『ハアッ!!』

 

 放たれた滅びの魔力は異形達を飲み込み、完全消滅させた。

 しかし、リアスは悔し気に顔を歪める。自身が放った滅びの魔力よりも、サタンレッドが放った滅びの魔力の方が圧倒的に上だと理解したからだ。

 

「リアス。滅びの魔力を意識してもっと煉るのだ。ただ滅びの魔力を放つだけでは、魔力に頼っている過ぎない。本当に滅びの魔力を扱うという事は、こういう事だよ。滅殺の魔弾(ルイン・ザ・エクステイント)!!」

 

 サタンレッドは手のひらから小さな無数の魔力球を放った。

 小さな無数の魔力球は縦横無尽に動き回り、異形達に触れると削り取るように消滅させて行く。

 自分とは違うサタンレッドの【滅びの魔力】に、リアスは真剣な眼差しで見つめる。

 

「【滅びの魔力】は強力過ぎるが故に、扱いは難しい。しかし、使いこなせれば格段に強くなれる。この戦いを今後の参考にしたまえ」

 

「はい、お兄様!」

 

 無力感と悔しい気持ちはある。だが、今はソレを無視する。

 この戦場に出て来たのは、主としての責務を果たす為。迷惑を掛けてしまった眷属達の為にも、異世界侵攻だけは防いでみせるとリアスは誓いながら、ギャスパーのフォローも加えてサタンレッドと共に異形を消滅させて行く。

 

「我解放するは、金色なりし神聖なる神龍の加護成り」

 

Dispel(ディスペル)

 

 左側と同様に右足側の鎧も無機質から有機質に変わり、三本爪だった具足が五本爪の形状に変化した。

 同時に一誠の全身から莫大な赤いオーラが立ち昇り始め、まるで内に納めていたモノが出て来ようとしているかの様にオーラは揺らめく。

 

「後一つだ!」

 

『最後のは厄介だぞ、相棒。油断して吞まれるなよ!』

 

「分かってるさ!」

 

 ドライグの言葉に頷きながら、最後の封印の解除を行ない出す。

 だが、その封印は他よりも強力に封印されている加護。今までの三つよりも時間が掛かってしまう。

 何時の間にかリアス達だけではなく、グレイフィアとソックリなメイド服を着た美女と、何故か戦隊モノの衣装を着た謎の人物が居るが、一誠は意識の底に追いやり、深い内の底に落ちて行く。

 

『ガアァァァァァッ!!!』

 

 更に高まろうとしているドラゴンのオーラに、傷が癒えた異形龍は咆哮を上げ、一誠に向かって両方の口を開く。

 【次元トンネル】の作製に使っていた力も、倍加で引き上がった全ての力も使って、最大の一撃を放つ、つもりだった。だが、ブレスを撃ち出す直前、下方から白い閃光が走り、ブレスを撃ち出そうとして異形龍の顎に激突する。

 

『グボアァァァァァッ!!』

 

 口内でブレスが爆発した異形龍は苦痛の咆哮を上げ、もう一つの首もブレスを撃つのを止め、襲撃者に目を向けて驚愕する。

 

「悪いが、俺のライバルの切り札を見ておきたいんだ。邪魔はさせないぞ」

 

 【白龍皇】ヴァーリは光り輝く翼を夜空に広げながら異形龍を見ながら告げると共に、右手を向ける。

 

Divide(ディバイド)!!》

 

『グルゥッ!!』

 

 【白龍皇(ディバイン・ディバイディング)(・スケイルメイル)】から音声が響くと共に、異形龍の体を覆っていた淡い緑色の光が【半減】した。

 異形龍は別世界と言え、神であるが故に【白龍皇】の力は効き難い。だが、後付けで得たアーシアの力は別。

 ソレを瞬時に見抜いたヴァーリは、異形龍から回復の力を奪って行く。

 

《DivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivide!!》

 

「コレだけ弱まれば、最早回復には意味が無いな」

 

『ガアァァァァァァーーーー!!!』

 

 自らの護りの要の一つを奪われた異形龍は怒りの咆哮を上げ、ヴァーリを睨みつける。

 凄まじい殺気をヴァーリは浴びせられるが、本人は兜の中で好戦的な笑みを深め、両手を異形龍に向けると、強烈な魔力弾が幾重にも放たれる。

 

「神クラスと戦える機会は滅多に無いからな。楽しませて貰うぞ!!」

 

『グルルルルツ!!』

 

 向かって来る無数の魔力弾を、禍々しい光の障壁を展開して防ぎながら、異形龍はヴァーリに攻撃を開始する。 復活したもう一本の首から禍々しい光のブレスを異形龍は撃ち出し、ヴァーリは光速で回避しながら魔力砲や魔力弾を撃ち込んで行く。

 異形龍が無数の光の槍を出現させ、ヴァーリに放てば、ヴァーリは持ち前の強大な魔力を使って防御陣を張って防ぐか、或いは【|白龍皇の鎧《ディバイン・ディバイディング・スケイルメイル》】の力を使って威力を弱める。

 互角に戦うヴァーリの存在に、異形龍は焦りを覚えだす。【次元トンネル】から自身の仲間である異形は次々と現れているが、一誠とグレイフィアの二人の時よりも掃討のスピードは増している。しかも作製を中断した影響で、【次元トンネル】の安定が崩れて何時鎖に破壊されても可笑しくない状況に追い込まれる。

 このままでは目的を遂げられないと直感した異形龍は、ヴァーリへの攻撃を中断して全身に力を込め始める。

 

『ッ!? 離れろ! ヴァーリ!!』

 

 異形龍がやろうとしている事を悟った【白龍皇】アルビオンの声が、【|白龍皇の鎧《ディバイン・ディバイディング・スケイルメイル》】の宝玉から響いた瞬間、周囲に仲間の筈の異形の存在にも構わずに禍々しい光の閃光が全方位に異形龍から放たれた。

 

『グオォォォォォッ!!!』

 

 仲間の異形達を犠牲にしてまで放った攻撃に、コレで【次元トンネル】の完成に集中出来ると異形龍は歓喜の咆哮を上げる。

 だが、歓喜の咆哮を上げる異形龍に周囲から次々と攻撃が放たれる。

 

「ハアッ!!」

 

「雷よ!!」

 

滅殺の魔弾(ルイン・ザ・エクステイント)ッ!!」

 

『ッ!? ガアァァァァァッ!!』

 

 右前脚にリアス、朱乃、サタンレッドの攻撃が直撃し、右前脚から走った激痛に異形龍は苦痛の叫びを上げた。

 一体何故と異形龍が疑問に思いながら一本の首を周囲に巡らせようとした瞬間、その頭部に上空から落下して来た子猫の踵落としが決まる。

 

「えぃッ!!」

 

『ガハッ!!』

 

「目を貰うよ!!」

 

 子猫に続くように祐斗が落下して来て、異形龍の首の一つの両目に、魔剣を深々と突き刺した。

 

『ヒガアァァァァァッ!!!』

 

 四つある内の二つの視界を奪われた異形龍は首を回し、子猫と祐斗を弾き飛ばす。

 これで二人は戦線を離脱したと思いながら、異形龍はもう片方の首の目を向け、驚愕に目を見開く。

 ダメージを負った筈の祐斗と子猫は平然とした顔をしながら、宙に浮かび、異形龍を睨んでいた。

 同時に異形龍は悟った。何故先ほどの全方位を攻撃を、敵が堪え切れたのかを。祐斗、子猫を含めた全員が、淡い光ながらも力強さを感じさせる緑色に光に包まれていた。

 その力の正体を異形龍は知っている。先ほどまで己が利用していた力が、今度は自分に牙を剝いたのだと悟り、異形龍は慌てる。

 その異形龍の耳に、力強く強い意志が籠った声が届く。

 

『『我らは最後に解く。黙示録を呼ぶ邪悪竜の加護を!!』』

 

Dispel(ディスペル)

 

『ガアッ!?』

 

 耳に届いた一誠とドライグの声に、異形龍は慌てて顔を向ける。

 其処にはグレイフィアとフィレアに護られた一誠の姿が在った。

 最後の加護の封印を解くと同時に、【赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)】の左籠手が無機質から有機質に変化し、一誠の全身から立ち昇っていた膨大なオーラが、背中に二体四対の翼を広げた赤いドラゴンの形状を象った。

 

「……アルビオン? アレは?」

 

『分からん。あのような変化は見た事が無い。ドライグの奴。一体宿主と何をした? ……しかも、あのオーラは……何故〝奴゛のオーラを感じる? いや、奴以外にも私の知らないドラゴンの気配がする。しかも』

 

「……あぁ、どのドラゴンの気配も途轍もない強者の気配だ」

 

 異常と呼べる現象に長い歴史の中で神器となっても幾度と無くぶつかって来た【赤龍帝】と【白龍皇】の歴史の中でも、今目の前で起きている現象は一度も無かった。

 それ故にアルビオンも戸惑いながら、膨大なオーラを纏う今代の【赤龍帝】を見つめる。

 一誠はグレイフィアとフィレアに下がるように頼むと、すぐさま異形龍に目を向ける。

 

「待たせて悪かった」

 

『ハハハッ! 白いのも何時の間にか来ていたか! 良いぞ、相棒!! 奴らにも魅せてやるぞ!! 最高の【赤龍帝】を!!』

 

「あぁっ!!」

 

 一誠とドライグの声に応じるようにドラゴンの形状を象っていたオーラが、咆哮を上げるように仕草を行ない呪文が空に響く。

 

【我ら、覇を超え、新たな歩みを踏み出す、赤き天龍なり!!】

 

《時が来たのか》 《行くのね》

 

『何ッ!?』

 

「……歴代の所有者の思念が」

 

 一誠とドライグが唱える呪文のに応じるように宝玉から響いた男女の声に、アルビオンとヴァーリは驚愕と疑念を覚えた。

 本来ならば【赤龍帝の籠手】と【白龍皇の光翼】が【覇龍】を使用する時のみに神器の深淵から表面化して来て、怨念に満ち溢れた言葉を発する歴代の所有者達の残留思念。だが、今【赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)】から響く声には全く怨念を感じられない。

 怨念とは真逆の希望に満ち溢れた声。行く末を見守ろうとする師や親のような声音だった。

 

【四大の竜の加護を宿し、無限に広がる道を進み、夢幻を踏破する!!】

 

《ならば》 《その道を》

 

【我、赤き夢幻を抱きし龍の帝王成りて!】

 

《我らも共に歩もう! 兵藤一誠!!》

 

【汝らに魅せよう! 赤き龍帝が歩む新たな行く末の先を!!】

 

Digital(デジタル) Apocalypse(アポカリプス) Dragon(ドラゴン) Drive(ドライブ)!!!!》

 

 【赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)】から音声が響くと同時に、ドラゴンを象っていたオーラは一誠に集約し、膨大なオーラが宿ると同時に鎧は遂に最後の変化を行なった。

 背部の龍の翼は二対四枚に数を増やし、後ろ腰辺りから鎧に覆われた尻尾が生え、両肩のショルダーアーマーからはそれぞれ赤いマントが背中側に棚引き、無機質な鎧では無く有機的な鎧へと完全に変貌を遂げた。何より変化したのは、最早神を超えたとさえ思われるほどに一誠の全身から立ち昇るドラゴンのオーラ。

 異形龍はそのオーラに見覚えが在った。忘れもしない。自分達が最初に異世界侵攻を行なった時に、世界の外側で僅か一体だけで異世界侵攻を阻んだ巨大な赤き龍。

 【真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)】グレートレッドのオーラが、一誠から【赤龍帝】ドライグのオーラと共に放たれていた。

 今の姿こそ、一誠とドライグが【デジタルワールド】で体得した【覇龍】とは違う新たな【赤龍帝】の形態。

 【夢幻天龍化】。グレートレッドから与えられた加護を強く発現させ、【デジタルワールド】で得た四大竜の加護に寄ってドラゴン化している身を護り、二天龍の一角ドライグの本来の力を全て発揮出来ると言う極限の形態。

 この状態の一誠とドライグの意思は混じり合った状態になっている。

 

【怖いか】

 

『ッ!?』

 

 一誠とドライグの混じった声に、異形龍は全身をビクッと震わせた。

 

【そうだろうな。この力は、お前達を阻んだ力だ。それが目の前に再び立ち塞がったんだ。怖いよな!!】

 

Dragonic(ドラゴニック) Boost(ブースト) start(スタート)!!》

 

《DDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDD!!!!》

 

 凄まじいまでの音声が宝玉から鳴り響き、一誠は一瞬にして消え去った。

 全員の視界から消え去った一誠に周囲を異形龍を含めた全員が周囲を見回そうとした瞬間、異形龍の腹部から打撃音が響き渡った。

 

『ガッ!?』

 

 余りにも一瞬の出来事に異形龍は苦痛が全身に行き渡る前に、息を吐き出した。

 だが、それでは終わらないと言うように次々と異形龍の全身から打撃音が鳴り響き、周囲に鱗の破片が舞い散って行く。

 泣き叫ぶ事も出来ずに異形龍は、神速の領域で回転体術を叩き込んで行く一誠に一方的に打ちのめされて行く。

 このままでは不味いと全身に走る衝撃と苦痛を無視して、全身に走る激痛に構わずに倍加の力を使って異形龍は禍々しい光の防壁を全身に張り巡らせて状況を少しでも好転させようとする。

 しかし、その異形龍の耳に、現在では在り得る筈が無い音声が響く。

 

Penetrate(ベネトレイト)!!》

 

『グハッ!?』

 

 障壁を無視して一誠の拳は異形龍の胴体に突き刺さった。

 【赤龍帝】ドライグが生前使っていた力の一つ【透過】。神器に封印された事に寄って、【聖書の神】が失わせた筈の力を一誠は使ったのである。異形龍の内に居る異世界の神ならば【異界】の知識から、未来において兵藤一誠が復活させる事は知っている。

 だが、それはまだ先の話の筈。しかも、【白龍皇】と【赤龍帝】の和解と言う行為が必要なのだ。それを成し遂げずに一誠は使用している。

 異世界の神は知らない事だが、既に【赤龍帝の籠手】は神器システムの枠組みから外れてしまった規格外の存在に変貌している。それ故に【聖書の神】が施していた封印も意味を無くしてしまったのである。主に調子に乗ったどこぞのマッドのせいで。

 

【そろそろ終わりにするぞ】

 

『ッ!?』

 

 連続攻撃が止むと共に聞こえて来た一誠の声に、異形龍は全身に走る痛みも構わずに声の聞こえて来た方に目を向けた瞬間に気が付く。

 何時の間にか蛇腹剣状態の【ウェルシュ・フラガラッハ】の刃が全身に巻き付いている事に。

 慌てて逃れようとした瞬間、【ウェルシュ・フラガラッハ】の柄を一誠は全力で引っ張る。

 

【【竜斬剣】参の型:咬竜斬刃(こうりゅうざんば)ッ!!!】

 

『ギャガァァァァァァァァァァーーーーー!!!!』

 

 武器の形のせいで使用出来なかった師であるスレイヤードラモンが正確に伝える事が出来なかった唯一の技【咬竜斬刃(こうりゅうざんば)】。

 しかし、【ウェルシュ・フラガラッハ】を得た事に寄って一誠はその技が使用可能となり、ドラゴンのオーラを纏わせた刃が勢い良く引く事で、異形龍の全身はズタズタに削り取られた。

 同時に最早異形龍形態を維持出来なくなったのか、異形龍の体は光り輝き、偽りの【赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)】を纏った兵藤に戻った。

 同時に【次元トンネル】に突き刺さっていた鎖が光り輝き、地上から膨大な魔力が送り込まれた瞬間、【次元トンネル】は一気に縮まり、完全に消滅した。

 ソレを確認した一誠は、蛇腹剣状態だった【ウェルシュ・フラガラッハ】を大剣状態に戻して構える。

 

【貴様は跡形も残さんぞ! 俺だけじゃなく、アーシアまで傷つけたお前達は完全に消滅させる!!】

 

《DDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDragonic(ドラゴニック)!!!!》

 

 再び音声が響くと同時に、膨大なオーラが【ウェルシュ・フラガラッハ】に宿って行く。

 そのまま体を回転させ始めた一誠に、兵藤の内に居る異世界の神は恐怖に満ちた声を思わず漏らす。

 

『き、貴様は!? ……い、一体……一体何者だあぁぁぁぁぁぁっ!?』

 

【俺は……俺は……俺は!? 兵藤一誠だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!】

 

 心の底から言いたくても名乗れなかった名前。

 アーシアに名乗る時に躊躇いを覚えてしまった自身の名前。

 しかし、今、全ての枷から外れた一誠は、高らかに自身の名前を叫んだ。

 

【【赤龍帝】の逆鱗に触れた恐怖をその身に刻みながら消えされぇぇぇぇぇぇ!!!】

 

 一誠の咆哮に応じるように、【ウェルシュ・フラガラッハ】全体が炎に寄って燃え上がった。

 その炎こそ、【赤龍帝】ドライグが唯一名を付けた必殺技。あらゆるものを燃やし尽くす究極の炎。

 一度でも食らえば、神さえも消す事が出来ない炎。【燚焱(いつえき)炎火(えんか)】。

 全てを焼き尽くす炎を纏いながらも【ウェルシュ・フラガラッハ】は、燃え尽きる事は無い。【赤龍帝】兵藤一誠の為だけに生まれた剣。【支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)】としての能力だった【支配】の力。

 本来ならば他に使える筈だった能力は、全て一誠の力を【支配】する為だけに【ウェルシュ・フラガラッハ】は使っている。

 そして今、学んだスレイヤードラモンの必殺技と【赤龍帝】の力が一つになる。

 

【炎天・【竜斬剣】壱の型ッ!!】

 

 燃え盛る旋風となった一誠は、瞬時に異世界の神の目の前に移動し、回転に寄って巻き起こるオーラが混じった豪風に異世界の神は身の動きを封じる。

 そのまま一誠は回転に寄って加速した【ウェルシュ・フラガラッハ】を、垂直に異世界の神の脳天から打ち下ろす。

 

天竜斬破(てんりゅうざんは)ッ!!】

 

 一誠が振り下ろした天竜斬破は、異世界の神を脳天から一刀両断した。

 更に追撃を加えるように【ウェルシュ・フラガラッハ】から【燚焱(いつえき)炎火(えんか)】が燃え上がり、異世界の神の体を焼き尽くして行く。

 

『ガアァァァァァァァァァーーーーーーーーー!!! お、おのれえぇぇぇぇぇぇーーーー!!! わ、忘れるな! わ、我の分体は数多く今だこの世界に残っている!? 例え本体である我が消えても、あの分体(・・・・)が、か、必ずやこの世界は……わ、我らのものに……』

 

 異世界の神は苦痛に満ちた叫びと断末魔の言葉を残して、跡形もなく消し炭さえも残す事なく焼き尽くされた。

 同時に【次元トンネル】も消え去り、一誠は【ウェルシュ・フラガラッハ】が纏っていた【燚焱(いつえき)炎火(えんか)】を振り払う事で消し去り、左手の籠手に収納しながら呟く。

 

【なら、お前達の言う悪意や企みも全部を叩き潰してやるよ。それが俺のお前達への復讐だ】

 

 そう呟きながら一誠は地上に降りようと下を向くが、その直前に白い閃光が一誠に襲い掛かる。

 だが、閃光が届く前にグレイフィアが割り込み、一瞬にして構築した防御陣で一誠を護った。

 

「チッ!!」

 

「主にそう簡単には触れさせませんよ、【白龍皇】」

 

 冷徹な視線を向けるグレイフィアを目にしながら、襲撃を掛けたヴァーリは悔し気に距離を取る。

 自らの主に攻撃を仕掛けたヴァーリに、グレイフィアは濃密な殺気に満ち溢れたオーラを全身から立ち昇らせる。だが、グレイフィアが攻撃を仕掛ける前に、一誠がその肩に手を置く。

 

「一誠様!?」

 

【構わない、グレイフィア……久しぶりだな、アルビオン】

 

『あぁ、久しぶりだ。ドライグと呼ぶべきなのか?』

 

 一誠の声に応じるように【白龍皇(ディバイン・ディバイディング)(・スケイルメイル)】からアルビオンの声が響いた。

 

【あぁ、そうだ。この状態の俺は兵藤一誠と【赤龍帝】ドライグが混じり合った状態だからな……それで今代の【白龍皇】。俺達とやり合うか?】

 

「無論だ。俺は今、心の底から嬉しいよ! 今代の【赤龍帝】は俺の予想を超えるほどの強者だった!! こんなに嬉しい事は無い!!」

 

【戦闘狂か……悪いが、今日のところはお前とアルビオンとやり合う気は無い。いや、正確に言えば、今のアルビオンとやり合う気はもう俺には無い】

 

『……どういう意味だ、ドライグ?』

 

【アルビオン。俺達は確かに神器になっても争い続けて来た。互いに宿主を変えながら憎しみ合い、宿主同士で殺し合いを続けて来た。だがな、最初はそうだったか?】

 

『………』

 

【俺……いや、俺達は忘れていた。最初は憎しみ合ってなど居なかった。ただ純粋に戦って勝ちたいと言う想いだけだった筈だ。その事を思い出した俺には、今のお前とは戦う気にはなれない。お前と、いや、お前達と戦う時には互いに嘗ての時のように本当の意味でライバルとして戦いたい。それが俺の願いだ】

 

『……ヴァーリ』

 

「……分かった。今日のところは退くとしよう。だが、必ず君とは戦う。何せ君に勝てば、俺の夢を叶える為に一歩進む事が出来るんだから」

 

【そうか。その時を楽しみにしているぞ、今代の【白龍皇】。俺の名は兵藤一誠だ】

 

「俺の名はヴァーリ。君を倒す者の名前だ」

 

 ドライグの言いたい事を悟ったアルビオンとヴァーリは、一誠に背を向けて光の翼を広げる。

 そのまま、【白龍皇】は振り返る事無く光速で飛び去って行った。

 もうやるべき事は終わった一誠はグレイフィアを伴い、地上へと降り立つ。

 その先には不完全ながらも禁手化を発動させた事に寄って疲労しているアーシアを支えたフリートの姿が在った。

 ゆっくりと一誠が一歩踏み出すと同時に禁手化が解除された。その下から現れたのは人間としての一誠の姿は出なく、全身が赤い鱗で覆われ、両手足は鋭い爪が伸びているドラゴンの手足に変化していた。

 顔もドラゴンのような顔立ちで、背中には龍の翼が生えている。

 今の一誠の姿こそ、十年前の不完全な禁手の代償の結果。本来の一誠の姿だった。

 その姿を晒しながら一誠は、アーシアの傍に近寄る。

 

「……行こうか、アーシア」

 

「……はい、イッセーさん」

 

 ドラゴン化した一誠を見てもアーシアは怯える事無く、一誠が差し出した手を握った。

 その事に一誠は嬉しさを感じながら、まともに歩けないアーシアを背に乗せてグレイフィアを伴って歩き出した。

 去って行く三人の背にフリートは手を振り終えると、背後に降り立ったサタンレッド達に向き直る。

 

「さて、色々とやらないと行けませんね」

 

「そうだね……しかし、良かったのかい?」

 

「……ハァ~、私らしく無いですけど、まぁ、こんな気まぐれが在ってもたまには良いでしょうからね」

 

「……分かった。では、リアス達への説明もある。一緒に来て貰うよ」

 

「分かってますよ」

 

 そう告げると、フリートはサタンレッド達と共にリアス達への事情説明も含めて駒王学園に向かうのだった。

 

 

 

 

 

 ヨーロッパの小さな田舎町。

 その田舎町にはアーシアが育った孤児院が在った。其処に異世界の神の分体に先導されて、孤児院を破壊しようとした教会関係者達が居た。

 アーシアを【聖女】として利用して利益を貪っていたその者達は、【魔女】となって異端となったアーシアの排除しようとした。だが、ソレは別の教会関係者に阻まれ、彼らは【魔女】を【聖女】と偽っていた咎に寄って閑職に追いやられていた。

 その不満を異世界の神は利用し、アーシアを脅す材料とした。そして本体とのリンクが途切れた分体は、何かが在ったと悟り、狂信者達を先導してアーシアの育った孤児院の襲撃を実行した。だが、ソレは阻まれた。

 黒き鎧を身に纏った【漆黒の竜人】の手に寄って。

 

『がぁ……あぁ』

 

「分体と聞いていたから少しは楽しめると思っていたが、つまらな過ぎる。やはり『クロウ』並みの奴は少ないか。残念だ」

 

 分体が宿っている神父服の男性を漆黒の竜人-ブラックは右手で首を掴み上げて掲げていた。

 周囲には血塗れで四肢が全て破壊された分体に先導された教会関係者が、傷から走る激痛に呻いている。絶妙なほどに加減で、気絶させないようにブラックは叩きのめしたのだ。

 そしてブラックは左手に赤いエネルギー球を作り上げる。

 

「貴様が他の分体に連絡を取れるなら、今すぐ全員に伝えろ。貴様らは必ず消し去るとな!!」

 

『ッ!?』

 

「死ね」

 

 冷徹な言葉と共に分体の腹部にエネルギー球をブラックは叩き付け、分体は跡形も無く消滅した。

 それを確認したブラックは、最早この場には用は無いと言うように背を向けるが、フッと何かに気が付いたのか地に伏している教会関係者に顔だけ振り返る。

 

「最後に良い事を教えてやる。『聖書の神は死んでいる』」

 

『なっ!?』

 

「これから来る教会上層部に確かめて見るんだな。最も待っているのは、貴様らが利用した小娘と同じように【異端】の烙印だけだろうがな」

 

 全身に走る痛みも忘れて驚愕している教会関係者達にブラックは言い捨てると、そのまま飛び去って行った。

 十数分後。熾天使を含めた教会の戦士達が訪れ、全員が捕縛され、ブラックが言った通り、彼らは全員【異端】の烙印を押されて教会から治療も満足を受ける事が出来ずに放逐されたのだった。

 

 空を真っ直ぐブラックは飛び続けていたが、急に空中で停止する。

 同時に幻術魔法で姿を隠していたルインとリンディが姿を見せる。

 

「あちらの方も終わったそうよ」

 

「……そうか。一誠の奴は果たしたか」

 

「しかし、ブラック様。珍しいですね。アレだけこの世界を狙っている異世界の敵と戦えるのを楽しみにしていたのに、こんな遠く離れた場所で分体と戦うなんて」

 

 ルインやリンディにとってソレがブラックの行動の中で最大の疑問だった。

 アレだけ異世界侵攻を行なおうとしている敵側とブラックは戦いたがっていたのに、その本体を一誠にブラックは譲った。珍しいとしか言えないブラックの行動にリンディとルインは疑問の視線を送る。

 

「アレは一誠の因縁だ。ならば、奴に片づけさせてやっただけだ……ソレに、コレで一誠とドライグと戦えるからな!」

 

 ブラックにとって異世界の神達は戦い相手だが、それ以上に強者に成長した一誠もまた本気で戦いと思っている。

 だが、その為には十年前の因縁に一誠がケリをつけなければならない。だからこそ、今回ブラックは一誠が因縁にケリをつける為に動ける準備を行なった。全ては一誠とドライグと本気で戦う為に。

 ルインとリンディは、考えたくなかった可能性が当たっていた事に、一誠とドライグに深く内心で同情する。十年前の因縁が終わったと思ったら、今度は戦闘狂のブラックに狙われるのだ。何の罰ゲームだとブラックを知る者達全員が思うだろう。

 

「……そう言えば、フリートさんが暫く悪魔勢力に協力するらしいわ」

 

「緊急事態で魔王を呼んだから対価の為だって言っていましたけれど……絶対に此処最近アレの後始末を押し付け過ぎた嫌がらせも少しは混じっているでしょうね」

 

 フリートを良く知るリンディとルインには、どう考えても何らかの思惑が在るとしか思えなかった。

 例え【魔王】だろうと、老獪な悪魔だろうとアッサリと謀って自分に有利な条件を突き付けて契約を交わせるのがフリートなのだ。或いは契約の穴を衝いて、契約を不履行に追い込むぐらいフリートならやりかねない。

 なのに素直に契約を果たそうとしているのだから、必ずフリートにとって利益が在る契約だったのだろう。

 

「例えば私が怒る行動だとしても、契約を盾に逃げそうね」

 

「流石にやり過ぎないと思いますけど、フリートはウッカリ屋ですからね。どんなウッカリをやらかすか」

 

「……頭が痛くなって来たわ。ルインさん」

 

「はい」

 

 流れる動作で水筒と頭痛薬をリンディにルインは手渡し、リンディは薬を飲む。

 とは言え、このままにはしておけない。幾ら一誠とグレイフィアがすぐ傍にいるとは言え、二人ではフリートを止めきれるとは思えない。最悪の可能性を考えるならば、グレイフィアに出来たりしたら一誠一人になるので尚更無理だろう。

 どうしたものかとルインとリンディが頭を悩ませていると、楽し気な笑い声が聞こえて来る。

 

「クククククッ、たまには悪くないかも知れんな。奴とも一度本気で戦ってみたかったからな」

 

「……あの~、ブラック様? まさか、フリートと敵対する気なんじゃ?」

 

「それは流石に不味いわよ。私達がこうして多くの勢力に対して動けるのはフリートさんの支援があってこそよ」

 

 性格はアレだが、支援を受ける相手としてフリート以上の存在は居ない。

 そのフリートと戦う気になっているブラックに、リンディとルインは冷や汗を流すが、とうのブラックは平然と告げる。

 

「問題無いな。そうだろう?」

 

「そう……我が居る」

 

『ッ!?』

 

 誰かに問いかけるように呟いたブラックの言葉に応じるように、ブラックの左肩に乗るように現れた存在にリンディとルインは目を見開くのだった。

 

 

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設定紹介

 

名称:【夢幻天龍化】

詳細:一誠とドライグが【デジタルワールド】で修練を重ね、歴代の所持者の思念を浄化し、【四大竜の試練】を超えた結果会得した【赤龍帝の籠手】の禁手の先の形態。形状は通常の無機質の鎧から有機質の鎧に変化し、背には二体四対の龍の翼と龍尾を備え、両足部分は五本爪になっている。この形態は一誠が【真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)】グレートレッドから与えられた加護を最大限に発揮している状態で、【赤龍帝】ドライグの生前の力を完全に発揮できる上に、【夢幻】の属性を得ている。この状態の一誠とドライグの精神は一体化状態になっている。【四大竜】の加護は一誠の体をグレートレッドの加護の影響から護る為に存在している。しかし、加護の内、三つの加護は一誠を認めているが、最後の一つだけは一誠の秘めた在る感情に惹かれている為に発動させるのは常に覚悟を決めなければ暴走の危険性を秘めている。一誠が護るべき者を失った時に、【夢幻天龍化】は全く違う恐ろしい【黙示録】に変貌する。

現状では原作で発現していた無限の力を宿した【龍神化】には及ばない。




因みに本体よりも厄介な分体が世界には残っています。
後、この作品の一誠がオーフィスと友達になるのは原作よりも遥かに難易度が高く、ルナティック通り越してヘルです。

グレートレッドの気配と匂いを撒き散らしているに一誠は近いので、出会ったら問答無用で殴り掛かって来ます。
【夢幻天龍化】と言う切り札を体得してしまった代償です。

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