漆黒シリーズ特別集   作:ゼクス

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竜人とマッド、そして電子の弟子は赤龍帝6

 【赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)】を纏い、赤い圧倒的なドラゴンのオーラを発している一誠の姿に、異世界の神は我知らずに後退る。

 リアス達が感じている安心感と違い、異世界の神が感じるのは恐怖だった。一誠が発する膨大なオーラ全てが異世界の神に、そして宿している兵藤に殺意を向けていた。

 

『ば、馬鹿な……貴様は確かあの時に、この愚か者の手に寄って死んだはず』

 

「あぁ、死にかけたさ。運よくドライグが目覚めて、師匠に助けられてなけりゃな!」

 

『遊び過ぎたのさ。貴様の宿主は。アレだけボロボロにされれば、相棒の危機に俺が目覚めないと思っていたのか? 神器の覚醒は大概宿主の死の危機によって起きるのだぞ。迂闊だったな』

 

『グゥッ!?』

 

 告げられた事実に異世界の神は呻き声を漏らした。

 まさか、そのような事にあの後なっていたとは神でも夢に思っていなかった。そんな奇跡的な偶然が起きる筈が無いのに起こった。

 

『(や、やはりコイツはこの世界の運命を担う存在!? 我らの最大の障害になる者!!)……貴様は此処で今度こそ死んで貰うぞ!!』

 

《BoostBoostBoostBoostBoostBoostッ!!!》

 

 模倣した【赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)】の力を発動させ、力を一気に何段階も倍増させた異世界の神は一誠に向かって飛び掛かった。

 

『死ねっ!!』

 

 一誠の力が上がる前に決めると言うように、全力で拳を異世界の神は振るった。

 対して一誠は大剣を床に突き刺して無手になって構えを取った。同時に発していた膨大なオーラを全て身の内に納めて流れるような動きで回転を行ない、異世界の神の拳を受け流す。

 

『何ッ!? ガハッ!!』

 

 受け流すと同時に膝蹴りを腹部に異世界の神は叩き込まれた。

 カウンターを決められた異世界の神の【赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)】は腹部の装甲は砕け散り、体勢が崩れてしまう。

 その隙を逃さず、一誠はやはり自然体としか思えない流れでオーラを右手に集約させて異世界の神の顔面を殴り飛ばす。

 

「フン!!」

 

『グバアァァァッ!!』

 

 余りに強烈な一撃に異世界の神は苦痛の叫びを上げて、壁に激突した。

 圧倒的過ぎる一誠の戦いぶりに、リアスと子猫は呆然と一誠を見つめる。兵藤よりも遥かに膨大なオーラを発していながらも、力任せに戦っていた兵藤と違い、一誠の戦い方は美しさを感じさせるような流れを魅せていた。

 

「……凄い格闘技術です」

 

「……アレだけのオーラを全て制御していると言うの?」

 

「いえ、まだ一誠様は本気を出しておりません、リアス様」

 

 ギャスパー、朱乃、祐斗の治療終えたグレイフィアの言葉にリアスと子猫は驚愕し、グレイフィアに目を向ける。

 

「お忘れですか? 【赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)】の能力は宿主の力の倍加。ですが、まだ一誠様はその力を発動させていません」

 

「……何なの彼は?」

 

「十年間。一誠様はずっと自らを鍛え続けました。血反吐を吐き、何百回、いえ何千回と死に掛け、それでも立ち上がって得た力。紛い物風情が届く事は無い力です」

 

 誇らしげにグレイフィアは語りながらも、その言葉の中には苛立ちと嫌悪感に混じっていた。

 その感情の源が向けられているのは、異世界の神が纏う【赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)】。一誠を唯一無二の主としているグレイフィアにとって、紛い物の【赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)】など存在しているだけで許し難い。

 出来ればこの手で滅したいと思いながらも、主の戦いの影響がリアス達に及ばないように防御陣をグレイフィアは発生させて守りを固める。

 その間に全身を淡い光に包まれて回復を終えた異世界の神は立ち上がり、忌々し気に大剣を床から引き抜いている一誠を睨みつける。

 

『お、己!? 神を殴るなど何と不敬な!?』

 

「ずっと殴り飛ばしたかったんだよ、テメエの顔を! 迂闊に動けなかったから我慢していた! だけど、もう我慢の限界だ! 俺だけじゃなくて、アーシアまでテメエは傷つけやがった!! 絶対に赦さねぇ!!」

 

『笑わせてくれる! 貴様が動くこと事態があの道具を悲しませる結果に……』

 

「アーシアを道具呼ばわりしてんじゃねぇよ!!」

 

 異世界の神の発言を聞いた一誠が叫ぶと同時に、背中の背部の噴射口からオーラが噴出されて爆発的に加速した。

 その勢いのまま異世界の神に殴りかかる。だが、一誠の拳は今度は異世界の神に届かず、その前に発生した禍々しい光に遮られる。

 

「なっ!?」

 

『紛い物の力で戦おうとしたのが間違いだった! 今度は我の力で相手してやろう!!』

 

 叫ぶと共に異世界の神が纏っていた【赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)】に備わっていた龍翼が消し飛び、新たな禍々しい光の翼が現出した。

 

『気を付けろ、相棒! 曲がりなりにも異世界侵攻の先兵だ! それなりの実力を持っているぞ!』

 

「あぁ、ならこっちも本領発揮だ!!」

 

《BoostBoostBoostBoostBoostBoostッ!!!》

 

 咆哮と共に一誠のオーラ量は何段階も跳ね上がり、激闘が開始される。

 

「オォォォォォォォーーー!!!」

 

『ハアァァァァァァァッ!!』

 

 一誠と異世界の神は咆哮を上げながら激突する。

 オーラを纏った両刃の大剣を一誠は振るえば、異世界の神は禍々しい光の剣を創り上げて振るう。

 拳や蹴りを一誠が放てば、異世界の神は全身に禍々しい光を纏って防御する。異世界の神が光の矢や槍を放てば、一誠はオーラを撃ち出して相殺する。

 甲高い音と激突音が周囲に響き渡り、廃教会は瓦礫へと変貌していく。

 リアス達はグレイフィアに護られ、アーシアは異世界の神が回復役として必要だと思っているのか禍々しい光に寄って護られていた。

 自分達の常識を超えた戦いを繰り広げるリアスと子猫は、見ている事しか出来ずにいると、気絶していた朱乃、祐斗、ギャスパーが目を覚ます。

 

「ウッ、ぶ、部長」

 

「……こ、コレは」

 

「ふえっ! な、何が起きているんですか!?」

 

「朱乃! 祐斗! ギャスパー! 良かった! 本当に!」

 

「……良かったです」

 

 目覚めた眷属達の姿にリアスは喜びの声を上げ、子猫も嬉しそうに笑みを浮かべる。

 その間にも激闘は繰り広げられ、一誠の拳が禍々しい光を破って異世界の神の腹部に決まる。

 

「オラァッ!!」

 

『ガハッ!! こ、コレほどは!?』

 

 本領を発揮しても尚、届かない一誠との実力差に異世界の神は苦痛に呻く。

 予想を遥かに超えるほどに一誠の実力は高い。【異界】の知識で、兵藤一誠は一年と言う短い期間の間に凄まじい成長を行なった。

 その一誠を超える十年もの修業期間があった目の前の一誠の実力が高いのは当然の結果だった。

 

(知識に在る異常な神器変化は起きていないようだが、その分自力とドラゴンのオーラの制御力が上がり過ぎている!! このままでは不味い! だが、アレを使う為には愚か者が唱えなければならん! どうすれば!?)

 

 このままでは回復しているとは言え、敗北に追い込まれると確信した異世界の神は、何か手は無いかと周囲を見回す。

 リアス達を使っての攻撃は無理。どういう訳か、【異界】の知識では、サーゼクス・ルシファーの妻である筈のグレイフィア・ルキフグスが一誠を主を仰いで護っている。

 昨夜言ったアーシアの故郷を使っての脅しも念話で実行しようとしたが、どういう訳か教会に潜ませていた分体と扇動しようとした者達の連絡が取れないので実行は不可能。

 どうすれば良いのかと悩み続けていたが、フッと項垂れているアーシアが目に入り、異世界の神は禍々しい光の波動を放つ。

 

『食らえ!!』

 

「ッ!? させるか!!」

 

 異世界の神の狙いを悟った一誠は、両手を交差させて十字架に磔にされているアーシアを光の波動から立ち塞がって防ぐ。

 しかし、次から次へとアーシアを狙うように異世界の神は攻撃を放ち続け、一誠はソレを体を張って護り続ける。

 

「グゥッ!!」

 

『ハハハハハッ!! やはり、貴様の弱点はソレだな!! 知識の中でもそうだ!! 貴様は親しくなった者を護らずには居られない!! 失う恐怖を知っているが故に!!』

 

「この野郎!!」

 

『壊れかけの道具にしては役に立ってくれる!!』

 

「壊れかけ!? テメエ!! アーシアに何をしやがった!?」

 

 異世界の神の言葉と、激しい攻撃が近くで降り注いでいても顔を上げずに項垂れ続けるアーシアに、一誠は叫んだ。

 

『知らせてやったのだ! この世界の真実をな!?』

 

「世界の真実!? ……まさか!?」

 

『アレを教会の信者に知らせたのか!?』

 

 世界の真実と言う言葉に、一誠とドライグはアーシアが何を知ってしまったのか悟る。

 教会信者にとって絶望しか与えない真実。敬虔な信者なほどダメージは深く、心に傷を負ってしまう事実。

 一誠は悟る。何故アーシアが項垂れ続けているのかを。

 

『ほう、どう言う訳か貴様らも知っているようだな! そうだ! あの事実を我は道具に知らせた!! しかし、知っても尚、回復力は変わらん。今の状況と言い、全く役に立つ道具だ!!』

 

「テメエ!! またアーシアを道具呼ばわりしやがったな!! ぜってぇ赦さねぇ!!」

 

《BoostBoostBoostBoostBoostBoostッ!!!》

 

 怒りに鼓音するように一誠のオーラは更に高まり、異世界の神の攻撃はオーラに弾かれ出す。

 上限知らずに高まり続ける一誠の力に、異世界の神は恐怖を覚える。このままでは不味いと感じ、更なる精神の揺さぶりを掛けるために叫び出す。

 

『わ、笑わせるな!! 貴様は昨夜我の下にくればどうなるか分かって居たのにも関わらず、貴様はその道具を手放した!! その時点で貴様に最早その娘を護る資格など……』

 

「あぁ、お前の言う通りだ!! 資格なんてもう無いかもしれない! だけど、俺は決めて来たんだよ!!」

 

《BoostBoostBoostBoostBoostBoostッ!!!》

 

「もう手放さない!! 俺の全身全霊を賭けて、アーシアを護り抜くってな!! 何が来ようとこの子の願いを叶えてやる!! この子の願いを踏み躙るような奴は全員俺がぶっ飛ばしてやる!!」

 

《BoostBoostBoostBoostBoostBoostッ!!!》

 

『……こ、こんな……馬鹿な!?』

 

 絶大な赤いオーラを纏い、一切の攻撃が届かなくなった一誠の姿に、異世界の神は狼狽える。

 オーラの形状は徐々に変化し、赤いドラゴンを模したオーラに変化し、両刃の大剣に集約して行く。

 

「俺はこの子の信じている神の代わりになんてなれない!! だけど、支えになる事は出来る!! 俺はアーシアの友達だぁぁぁぁぁ!!」

 

「……イッセーさん……」

 

 一誠の咆哮に項垂れていたアーシアはゆっくりと、泣き腫らした顔をしながらも顔を上げた。

 ゆっくりと一誠は振り向き、アーシアの頬に流れている涙を拭って告げる。

 

「昨日言えなかったけど、今なら言える……アーシア。俺の友達になってくれるか?」

 

「…は……はい!!」

 

《BoostBoostBoostBoostBoostBoostッ!!!》

 

 嬉し気なアーシアの言葉と共に最早過剰と言えるほどにオーラが増大し、両刃の大剣が震えだし、次の瞬間、柄から刀身に至るまで罅が広がって行く。

 異世界の神は一誠の持つ剣の様子に気が付き、笑い声を上げ出す。

 

『ク、クハハハハハハハハハッ!!! どうやら貴様のオーラに武器が堪えられなかったようだな!! そのまま砕け散るが良い!!』

 

『……違うな、異世界の神よ。漸く馴染んだのだ』

 

『……何? 今何を言った?』

 

 嬉し気な笑い声を抑えるかのようなドライグの言葉に、異世界の神は一誠の持つ罅だらけの大剣に目を向ける。

 そして気が付く。罅割れた箇所の内側から、何かが脈動するかのようにオーラが輝いているのを。

 

『長かったぞ。何百もの剣を失い、その度に新たに改良され造られ続けて来た相棒の剣。相棒と俺の力に馴染む剣は世界中探しても見つからないだろう。だが、今、ソレが完成するのだ!! さぁ、相棒! 俺達の剣の名を叫べ!!』

 

 一誠はドライグの声に応じるように大剣を掲げた。

 同時に大剣の内側からオーラが強く光り輝き、赤い閃光と共に周囲に大剣の破片が撒き散らされる。

 目の前の光景を見逃す前と目に力を込めていたグレイフィアを除き、他の面々は赤い閃光に思わず目を瞑ってしまう。

 そして光が消えた後に、一誠の剣には両刃の大剣とはまるで違う独特の形状をした剣が握られていた。

 柄の下部分には龍の爪のような物が備わり、刃は赤く染まり、刀身は片刃が竜の顎を思わせるように鋭い刃が幾重にも並び、更に蛇腹剣を思わせるように刀身には幾つかの隙間が空きそうな箇所が存在していた。

 その剣こそフリートが【支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)】を材料に作製した剣を下地に、【赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)】に取り込ませ、一誠のオーラが完全に馴染んだ事に寄って進化した一誠の為の剣。その名も。

 

「ウェルシュ・フラガラッハ!!」

 

『な、何だソレは!? そんなモノの知識の中には存在しない!? き、貴様は一体、この十年の間、何をしていた!?』

 

 【異界】の知識にも存在しない【ウェルシュ・フラガラッハ】の存在に、異世界の神は叫んだ。

 一誠は答えずに【ウェルシュ・フラガラッハ】を下段に構え、膨大過ぎるオーラを研ぎ澄ませて行く。

 

「【竜斬剣】弐の型ッ!!」

 

『や、止めろおぉぉぉぉぉぉーーーー!!!』

 

 異世界の神はコレから放たれる攻撃は不味いと判断したのか、コレまでで最大の禍々しい光を放った。

 

(しょう)(りゅう)(ざん)()ッ!!!」

 

 迫る禍々しい光に対して、一誠は下段から上方に向かって振り抜き、練りに練り上げたドラゴンのオーラが一瞬にして禍々しい光を切り裂いた。

 【昇竜斬波(しょうりゅうざんぱ)】は禍々しい光を切り裂いても尚、威力が衰えず、その先に居た異世界の神の体を右脇腹から左肩に走るように切り裂き、異世界の神の体は二つに別れた。

 

『ガアァァァァァァァァァァァーーーーーーーーー!!!!』

 

 二つに分断された体を分断された異世界の神は悲鳴を上げる。

 更に追撃で【昇竜斬波(しょうりゅうざんぱ)】が走り抜けた後に襲い掛かった衝撃波によって、教会の天井は吹き飛んだ。

 まるで巨大な竜が天に昇るかのような衝撃に、異世界の神は偽りの【赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)】の破片を撒き散らしながら上空に吹き飛ばされ、一定の距離まで飛んだ瞬間に落下を初め、そのまま凄まじい勢いで地面に激突した。

 最早【聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)】の力を以てしても癒えない確実な致命傷を負わせたと確信した一誠は、【ウェルシュ・フラガラッハ】を左腕に籠手に納め、アーシアに向き直る。

 

「すぐに解放する。それにアーシアの故郷の方も安心してくれ。俺の師匠が護ってくれたそうだから」

 

「……は、はい! あ、ありがとうございます!」

 

「友達から当然だろう」

 

 一誠はそう言いながら、アーシアを拘束している鎖に手を伸ばす。

 グレイフィアは何処か不満そうにしながらも安堵の息を吐いて、異世界の神を宿していた兵藤に目を向ける。

 

「一誠様!!」

 

「……いってぇよ……何だよコレェェェ!?」

 

「チィッ!! まだ、動け……」

 

 聞こえて来た兵藤の声に一誠は振り返り、一瞬言葉を失った。

 ソレはリアス達も、アーシアも同じだった。二つに体が分断され、立ち上がる事など出来る筈が無いに、兵藤は立ち上がった。

 立ち上がった兵藤の姿は、異様としか言えなかった。二つに別れた体を無理やり繋げるかのようにドロドロした黒い泥のような液体が傷口から毀れ、一誠と同じ顔もひび割れたように傷が広がり、隙間から見える肉体は皮膚がどす黒く染まって、この世界の生物とは違う生物の姿に変貌していた。

 

『やはり、フリートの奴が言っていた通りだったか。赤ん坊として生まれたならばともかく、不自然に現れた存在ゆえに、あの【異界】の者の肉体は何処か可笑しいと言っていた。奴に与えられた肉体こそ、何かを模倣する人形そのものだったようだ』

 

「……チクショオ!? チクショォォ!! 話が違うぞ神様よぉ!! コレは俺の主人公の物語の筈だぞ!! 何でソイツが、ソイツが生きてんだよぉぉ!!」

 

『愚かな。貴様は所詮知識としてしかこの世界を知らない愚か者。【異界】の知識は、確かに得た者に恩恵を与える。だが、それ故に発生するリスクを貴様は考えていなかったようだな。例え相棒が現れず、【異界】の知識のままに動いたところで、貴様は【兵藤一誠】ではない。だから、旨く行く筈が在るまい』

 

「何だってえぇぇぇぇっ!? ……ちくしょう……だったら、良いや……俺が主人公になれない世界なんて……消えちまえぇぇぇぇぇ!! 【我、目覚めるはーー】」

 

『まさか!? 相棒! 奴を止めろ!!』

 

「あぁっ!!」

 

 ドライグの警告に一誠は瞬時に兜を纏い直し、兵藤に向かって飛び掛かる。

 しかし、一誠が兵藤に近づいた瞬間、コレまで異常に強力な禍々しい光の障壁が張り巡らされて一誠の突撃を妨げる。

 

「なんだコレ!? 何であんな状態でこんなさっきよりも強力な障壁が!?」

 

【覇の理を神より奪いし二天龍なり】

 

『まさか、【|覇龍《ジャガーノート・ドライブ】までも模倣して……いや、違う!?』

 

 幾ら一誠が強化した拳を振るっても砕けない障壁に、ドライグは異変の意味を悟る。

 

【無限を笑い、夢幻を憂う】

 

『相棒! コレは、コレだけは【赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)】の模倣ではない!! 本来の【|覇龍《ジャガーノート・ドライブ】を超えるもっと禍々しい何かだ!?』

 

「グレイフィア! 防御陣の強化を!!」

 

「はい!!」

 

 一誠の指示にグレイフィアは再び防御陣を張り巡らせて、リアス達を護る。

 リアス達もグレイフィアを手伝うと言うように防御陣を強化していく。一誠は今だ磔にされたままのアーシアを護るように抱き締める。

 

【我、赤き龍の覇王に成りて】

 

 詠唱が進むに連れて、夜空が真っ暗に染まって行く。

 兵藤を中心にするかのように雲は回り始め、偽りの【赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)】が変貌して行く。徐々に体の体積が増していき、砕けた箇所の鎧部分が禍々しい光と共に修復され、両手両足は図太くなって行くだけではなく鋭く触れるだけで切り裂くような刃のような爪が生えて来た。

 更に首の部分から新たな首が生え、二つの龍のような頭部が天に向かって咆哮し、全長二十五メートル以上の大きさに至った瞬間、背に禍々しい光の龍翼が生えた。

 

【汝を常闇の煉獄に沈めよう】

 

Juggernaut(ジャガーノート) Drive(ドライブ)!!!!》

 

「な、何だありゃ!? アレがアイツの【|覇龍《ジャガーノート・ドライブ】なのか!?」

 

 最早怪獣としか表現出来ない化け物になり果てた兵藤の姿に、一誠はアーシアの拘束を破壊しながら叫んだ。

 

『アレは【|覇龍《ジャガーノート・ドライブ】なのではない! 本来【|覇龍《ジャガーノート・ドライブ】とは、詠唱を行なう事で無理やり俺の力を解放させる禁じ手だ! だが、奴は内からだけではない、外部からも大量の力を送り込まれて来ている!!』

 

「外部からって……まさか!?」

 

 一誠は慌てて兵藤から空へと視線を向けてみると、真っ黒な雲海の中心にどす黒い穴が雷撃を迸らせていた。

 グレイフィアと共に防御陣を張っていたリアスは、見ているだけで異質さを感じさせるような穴に思わず叫ぶ。

 

「何なのアレは!?」

 

「ムウ、コレは不味いですね!」

 

『ッ!?』

 

 突然聞こえて来た聞き覚えのない声にリアス達は慌てて背後を振り向いてみると、何らかの計器を持ったフリートがちゃっかり防御陣の中に入り込んでいた。

 

「あ、貴女は!?」

 

「あっ、どうも失礼してます。私魔王サーゼクスの頼みでやって来ました、外部協力者のフリート・アルードです。序に一誠君の師匠やってます」

 

 リアスの質問に【さーぜくすのつかい】とひらがなで書かれたプラカードを取り出しながら、フリートは答えた。

 

「お、お兄様の使い!?」

 

「はい。今回の案件、緊急事態になると判断してまして、私がもしもの時にはと頼まれていたんです。そしてもしもが起きてしまったようです」

 

「具体的に何が起きているんですか、フリート様?」

 

 動かないと言っていたフリートが動かねばならないほどの緊急事態。

 その内容を早急に知りたいグレイフィアは、フリートに質問した。

 

「まぁ、手っ取り早く言いますが、アレ……【次元トンネル】です」

 

「【次元トンネル】? それは一体?」

 

「そのままの意味です。【次元の狭間】と言う空間に、道を創り上げているんです。強固な別世界への道をね」

 

「まさか、あの穴の先は異世界に通じていると言うの!?」

 

「正解です。しかも厄介な事に直接繋がっているので、【次元の狭間】内から【次元トンネル】を破壊出来ません。破壊しようものなら、【次元の狭間】と【次元トンネル】の空間作用で……最悪、【次元断層】が発生する恐れがあります」

 

「そ、それは!?」

 

 フリートの言葉の意味を察したグレイフィアは目を見開いて振り返る。

 【次元の狭間】側から【次元トンネル】を破壊出来ない。つまり、次元の守護龍である【真なる赤龍神帝(アポカリュプス・ドラゴン)】グレートレッドでさえ破壊する事が出来ない事を意味する。

 

「やってくれますね。最初からあの偽物の役割は、【次元トンネル】を創り上げる事だったんですよ。思惑通りに世界の混迷を深められなくても、自分達が通れる道さえ出来れば何とかなると思っていたんでしょうね」

 

「防ぐ手段は?」

 

「あの偽物を完全消滅させる事です。アレこそが世界と世界を繋げている【次元トンネル】の発生源。ただ世界同士が繋がっている影響か、奴には向こう側から膨大なエネルギーが送り込まれています。さっきよりも遥かに手強いですよ」

 

「なら、俺が行きます!!」

 

 アーシアを抱きかかえた一誠が返事を返した。

 グレイフィアは防御陣を操作して一誠を招き入れ、フリートは手早くアーシアを診察し出す。

 朱乃、ギャスパー、祐斗、子猫、そしてリアスは複雑そうに一誠を見つめる。事情は聞いたが、少し前で兵藤の事を本物の兵藤一誠だと思っていただけに、一誠に対しては複雑な感情を抱く。

 一誠も自身に向けられている視線に気が付くが、今は詳しく話している暇は無く、フリートにアーシアの容体を訪ねる。

 

「フリートさん。アーシアは大丈夫ですか?」

 

「大丈夫なのは大丈夫なのですが……不味いですね。まだちょっとアイツとリンクが繋がったままです。先ほどまでの回復は在りませんが、それでもまだ回復される可能性は高いです」

 

「そんな!?」

 

「あ、あの!? 何とかリンクは切れませんか!?」

 

 このままでは一誠の足手纏いになりかねないと判断したアーシアは、何とかしてほしいと願う。

 だが、フリートは首を横に振るってアーシアと一誠に告げる。

 

「この術式は私にも完全に理解し切れません。無理やり解除したらどうなるかは分かりませんから、お勧め出来ないですね。と言う訳で、一誠君! さっさとアイツを倒して来るんです!!」

 

『グオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーー!!!!!』

 

 完全に変貌を遂げた異形の龍をフリートは指差した。

 咆哮を轟かせながら異形龍は空へと飛び立ち、【次元トンネル】を守護するように飛び回る。

 それだけではなく、【次元トンネル】から異形の影が次々と現れだし、瞬時にフリートは白衣の中から双眼鏡を取り出して確認する。

 

「不味い!! あの龍が【次元トンネル】の周りを回ると、安定化が進んでしまうようです! あぁ、もう隠している場合じゃないですね!!」

 

 ドンッと音が響くほどの勢いでフリートは地面を踏みつけた。

 次の瞬間、フリートの足元を中心に直径二十メートルほどの魔法陣が発生した。

 

「何? この魔法陣は?」

 

「見た事も在りませんわ」

 

 自分達が知る形式と全く違う魔法陣にリアスと朱乃は戸惑いながら、魔法陣を発生させたフリートを見つめる。

 そのフリートは素早く白衣の中から青白い宝石のようなものを取り出し、呪文の詠唱を行ない出す。

 

「我は望むは次元の乱れと安定。安定を乱し、新たな安定を世界に広げよ!!」

 

 詠唱と同時に魔法陣が光り輝き、巨大な魔力で出来た鎖が二本飛び出し、【次元トンネル】に向かって直進する。

 地上から伸びて来る鎖に気が付いた異形龍は、鎖を破壊しようと禍々しい光の閃光を放つが、鎖の周りに幾重にも防御陣が出現し、閃光を防いだ。そのまま鎖は【次元トンネル】に突き刺さるように伸び切り、【次元トンネル】が歪む。

 

『グオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーー!!!!!』

 

 鎖の正体が【次元トンネル】を破壊するものだと悟った異形龍は、怒りの咆哮を上げた。

 そのまま【次元トンネル】の周りを回り出して安定化をはかりながら、異形達と共に鎖を破壊する為に攻撃を開始した。

 

「急いで行きなさい!! この鎖が【次元トンネル】を完全に破壊する為には時間が掛かります! 私はそれの維持と防御魔法の継続! 後、町に張っている封鎖領域の維持で手一杯です! 何としても異形龍を倒すんです! アイツが居る限り、【次元トンネル】の完全破壊は無理ですからね!」

 

「は、はい!!」

 

「私も参ります。この場の護りは……」

 

「そっちもやっておきますから! 早くして下さい! ちょっと今回は冗談抜きで、私もキツイですから!」

 

「分かりました! 行くぞ、グレイフィア!」

 

「了解しました!」

 

 飛び立つ一誠に続くようにグレイフィアも防御陣の継続をフリートに任せ、一誠の援護に向かった。

 残されたリアス達は無力そうに悔し気な顔をし、アーシアは祈るように両手を組みながら一誠の背を見つめ、フリートは汗を流しながらも白衣の中に手を入れて何かをゴソゴソと探し始めるのだった。

 

 

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設定紹介

 

名称:【ウェルシュ・フラガラッハ】

詳細:フリートが【竜斬剣】を扱う一誠の為に造り上げた剣が、完全に一誠のドラゴンのオーラに馴染んだ事によって進化を果たした剣。レッドデジゾイドと【赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)】の一部に、更に【支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)】を粉々に砕いて混ぜ合わせた。コレによってデジゾイドの特性と神器の特性、更に聖剣の属性まで得た。形状は柄の下部分には龍の爪のような物が備わり、刃は赤く染まり、刀身は片刃が竜の顎を思わせるように鋭い刃が幾重にも並び、更に蛇腹剣を思わせるように刀身には幾つかの隙間が空きそうな箇所が存在している。刀身同士を繋いでいるのは通常の紐で繋がっている蛇腹剣と違い、オーラによって繋がっているので刀身と刀身が離れている隙を狙っての破壊は不可能。

一誠とドライグの力を十全に扱う為だけの剣なので、【支配の聖剣(エクスカリバー・ルーラー)】の【支配】能力は失われているが、ドライグが本来持つ()全てを扱っても壊れる事は無い。

 

名称:兵藤の体

詳細:何かを模倣する肉体で在り、本来は黒い人型のような姿。兵藤本人は知らなかったが、ハイスクールDxDの世界に最初にやって来た時に目にした一誠の肉体を模倣していただけ。形状が保てなくなるまでは普通の人間と変わらないが、形状が保てないほどのダメージを受けた場合、血は黒い泥のようなものに変化し、全身が罅割れて本来の黒い人形の姿が現れる。因みに生殖能力は模倣した者に応じるが、子孫を残す力は全く無い。

 

名称:異形龍化

詳細:偽りの【赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)】の【|覇龍《ジャガーノート・ドライブ】を発動する事で変化する形態。全長二十五メートルの背に禍々しい光の翼を生やした二本首の龍に変化する。本来の役割は【異世界】へと繋がる【次元トンネル】を造り上げ、異世界侵攻を引き起こす。宿っている異世界の神が本当の意味で全力を発揮出来るだけではなく、【次元トンネル】から送られる力も加わっているの発動する前の十数倍力が引き上がる。正し【次元トンネル】を造ると言う役割を重要視するので、異世界の神自身の意識は失われてしまう。詠唱は、本来の【|覇龍《ジャガーノート・ドライブ】と同じ詠唱だが、最後の一節だけは【汝を常闇の煉獄に沈めよう】に変化している。

本来ならば原作第六巻の時期に発動させる予定だった。




【ウェルシュ・フラガラッハ】の蛇腹剣形態を繋いでいるのは、ブリーチの【狒々王蛇尾丸】を思い浮かべてくれれば分かりやすいと思います。因みに完全に進化を果たしてしまったので、【支配の聖剣】は完全に失われました。コレでこの作品のエクスカリバーは六本だけです。まぁ、レプリカのエクスカリバーに頑張って貰うしか無いですね。

【次元トンネル】が原作第六巻で発動していた場合、各陣営のトップは大打撃確定してました。グレートレッドが現れでもしたら、その後に【次元の狭間】からやりたいほどになるので異世界侵攻は成功していた可能性があります。

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